●エクスブレインからの緊急連絡
「――ごきげんよう、灼滅者の皆様。まずは、第三次新宿防衛戦の勝利をお祝いさせてもらいますわ。
戦いに参加された皆様には、ゆっくりと休養を取ってもらいたいところなのですが……。現在、六六六人衆に不穏な動きがあるという情報が得られましたの。
サイキックアブソーバーの予知が使えませんので、詳しいことまではわかりませんが、暗殺武闘大会の予選を通過したダークネスたちが、特定の地域に集結しはじめているようですわ。
判明しているのは、全国各地に15ヶ所。その場で殺し合いを始めるのか、ルールを設けた試合を行うのか、あるいは全く別の作戦を遂行するのかは、現時点では不明ですの。
……どのみち、何かよからぬことになるのは間違いないですわね。
シャドウとの戦争の直後ではありますが、終結したダークネスの動きを偵察し、状況を確認して適切な対応を行えるように、現場に向かってくださいませ」
この班が担当する場所は、京都府綾部市にある古い紡績工場跡だ。何十年も前に閉鎖され、周辺一帯は人の寄り付かないゴーストタウンのようになっている。一般人が紛れ込む心配はないだろう。
集結しているダークネスは、おそらく5~8人程度だろうが、詳細はわからない。能力や種族も未知数となるが、それぞれが全て予選を突破したダークネスであるため、複数のダークネスと一度に相手取るのは危険である。
もし暗殺武闘大会が続いているのならば、彼らは必ず戦い始めるはずだ。状況を見て戦闘に介入するか、あるいは勝ち抜いたダークネスをその場で襲撃し灼滅するかといった対応が考えられる。
大事なのは現場での判断だ。
サイキックアブソーバーでの予知が無いので、作戦参加者が実地で得る情報が全てとなる。ダークネスたちの顛末を自分たちの目で確認し、どう行動を起こすかを決めてほしい。
場合によっては、戦闘を仕掛けずに撤退する勇気も必要になるだろう。
「さて、どのようなダークネスが現れ、どのような事態になるかは未知数ですの。こういう事態においては、初動が最も重要なファクターとなりますわ。
ですが、皆様はあの第三次新宿防衛戦を見事に勝ち抜いた強者です。真実を見極め、正しい行動を起こす力が、皆様に備わっていると……この戦果は、それを証明するものと信じております。
皆様のご武運を、武蔵坂学園でお祈り申し上げますわ」
●潜入、そして
役所でコピーしてもらった『大まかな見取り図』を手に、灼滅者たちは廃紡績工場に到着した。
そこには、間違いなくダークネスの仕業であろうが、一部分が切り取られたフェンスがある。その地点から注意深く中をうかがい、見張りなどがいないことを確認してから潜入。
この地点を脱出ポイントとし、灼滅者達は二手に分かれた。脱出ポイントを確保するチームと、実際にダークネスの後を追うチーム。後者には、サーヴァントを連れた者が優先的に選ばれた。
「で、蛇変身と。通信はできなくなっちゃったけど、潜入って用途なら一番かもしれないね」
明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)は呟く。管理する者もなく、育つままに放置された雑草は、蛇程度の動物が隠れるポイントを豊富に生み出していた。
事実、潜入班を見送った瑞穂にすら、仲間たちの姿はもう見えない。念の為に無線の電源はいれたままにして、いつでも取れるよう待機する。
潜入班は4名で、さらにそこから二手に別れた。サフィ・パール(星のたまご・d10067)とクロシェット・サクラ(自分自身を隠し続けて・d26672)、そして崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)とノルディア・ヴィヨン(人間不信なダンピール・d37562)だ。
先にダークネスたちを見つけたのは來鯉班だった。もう一つのサフィ班もほどなくして、別の側に追いつく。
そして、彼らはダークネスの監視を始めた。
事態がある程度進行するのを見届けた彼らは、急いで脱出ポイントに戻り、それぞれの目撃情報を突き合わせて情報をまとめ上げた。
即ち――。
――7人のダークネスたちは、その全てが六六六人衆のようであった。向かう先は、見取り図にもあった蚕の慰霊塔のある広場だ。灼滅者たちは藪や物陰を利用し、六六六人衆に気づかれず最接近する。
慰霊塔に集まった六六六人衆たちは、手に手にそれぞれの殺人道具を持っているようであった。戦闘準備は終えているものの、しかし、お互いに殺し合いを始めようとする動きはない。
と、何やら揉め事らしい動きがあり、そして六六六人衆の一人が(以下Aとする)渋々といった表情で慰霊塔の前に立つ。他の六六六人衆はその後ろに控え、慰霊塔からは距離を取っていた。
Aがイライラした様子で左腕(腕時計だろうか?)を見る。蛇状態であったので、それが何分の事だったのかは正確にはわからないが、おそらくはなんらかの正時に、事態は急激な展開を見せた。
Aの左腕がいきなり『布のような何か』で包まれたのだ。直後、Aは悲鳴を上げ、破壊された左腕をどうにか引き抜く。他の六六六人衆が反応して戦闘態勢をとる中、いつの間にか、慰霊塔の前に新手の六六六人衆『X』が現れていた。
「――何をしている? いや、なぜ何もしていないのかを問うべきであろうな」
それが、Xの第一声であった。
來鯉が話を続ける。
「現れたXは、……うん、強力な六六六人衆だったことは間違いないよ。僕たちはそのあと、Aともう1人がXに殺された所まで見たけど、1対1の力の差ははっきりしてた」
「私も同様の所見ですが、付け加えますと、1対5でも十分戦えるのではないかと思いますね。さすがにどっちが勝つかまでは、予想がつきませんが」
笑顔で言うノルディアに、他の偵察班3人も異を唱えない。印象は共通しているようだ。
と、クロシェットが小さく挙手して語り出す。
「これはもう、あたしは間違いないって確信してるんだけどね。あの7人は、現れたXを『暗殺するため』に集まったんじゃないのかな」
そして、サフィ。
「あの、証拠は、ないのですけど。えと、Xは『ハンドレッドナンバー』だったって、思うのですが……。どうでしょか、みなさん」
こちらもやはり、偵察班からは否定する材料が出てこない。単一のダークネスとしては強すぎるのだ。灼滅者たちは、現れたXをハンドレッドナンバーとして扱うこととした。
「六六六人衆が集団で1人の六六六人衆を暗殺する……か」
レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)はひとりごちる。他の14か所でも、同じような事態になっているのだろうか。
「とにかく、これからの対応を決めないといけないね。
んー……、ぱっと思いつくのは漁夫の利作戦かな。ハンドレッドナンバーと残りの六六六人衆を戦わせて、勝ち残った方をわたしたちで叩くの」
矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)が言うと、立花・誘(神薙の魔女・d37519)もそれに続く。
「この戦いが暗殺武闘大会の一環であることは、ほぼ間違いないでしょう。その運営を妨害するのなら、Xに協力し、5人の六六六人衆を灼滅するという選択肢もありますね」
「いや、Xってのが強力な六六六人衆なのは間違いなさそうだし、灼滅するならそちらが優先よ」
「『灼滅者が目的』という一番最悪のパターンはこれで消えたわけだけど、そういう事態にならないとは限らないよなあ。5人の六六六人衆に加勢するとしても、無策でとはいかないか」
他の仲間たちも交え、議論は続く。
参加者 | |
---|---|
明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578) |
サフィ・パール(星のたまご・d10067) |
崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213) |
レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267) |
クロシェット・サクラ(自分自身を隠し続けて・d26672) |
矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160) |
立花・誘(神薙の魔女・d37519) |
ノルディア・ヴィヨン(人間不信なダンピール・d37562) |
●ハンドレッドナンバー『X』
脱出ポイントを出て、全員で慰霊碑のある広場へと向かう灼滅者たち。
「あー、ホントメンドくさいわねぇ、まったく……」
その中でぶつくさ言いながら、荒れたアスファルトを行くのは明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)だ。お決まりの白衣に両手を突っ込んで、不機嫌そうに眉をひそめる。
「……もうミスター宍戸の耳朶思くそ引っ張る程度じゃ済まないわ。左右の耳朶で蝶々結びにしてやるわぁ」
その様子を想像したのか、矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)はすこし微笑みを見せる。
「ふふ――あ、あれが慰霊碑広場ですね!?」
指差す先。その通りだと潜入班が答えると、愛梨は一気に駆けだした。
「わかりました! クラッシャーとして、ここはわたしが切り込み役を!」
「待ちなさ……いえ、あたしも行くわ! 皆も急いで!」
と、皆に号令をかけるのはクロシェット・サクラ(自分自身を隠し続けて・d26672)だ。どうしようもなくハヤる気持ちに、ここは乗るべきなのだと、駆け足に力を籠める。
(「ダークネス……っ!」)
衝動と抑制と。ぐるぐると彼女の中で思考が回る。結論を出せないまま、彼女らは広場に踏み込んだ。
「何っ! くそ、武蔵坂の新手か!」
先に反応したのは六六六人衆だ。リーダー格だろうか、頭に鉢巻を付けた男が叫ぶ。
「退くぞ! ハンドレッドナンバーと武蔵坂、同時に相手なんかしてられん!」
「逃がさぬ」
ハンドレッドナンバー『X』が鉢巻男に腕を伸ばす。と、そこから布のようなものが伸びた。
「我が布は包まれし物体を破壊する魔の一幅。怯えよ、弱き者」
「見飽きてんだよそいつぁ!」
小刀で斬り返して凌ぐ鉢巻男。他の六六六人衆も、それぞれXから距離を取ろうと――。
「待って」
立花・誘(神薙の魔女・d37519)が呼び止めの言葉を発する。視線はXから外さず、カードから取り出したクロスグレイブを同じ方向に構えた。
「わたくしたちもハンドレッドナンバーの討伐に加勢します。目的が一致するなら、共闘も」
自説を証明するように、誘は魔力弾を射出する。Xは避けるそぶりもなく、それらを体で受け止めた。
「武蔵坂と言ったか。今の世は、『あの』ような出来損ない共をそう呼ぶのか」
しかし、Xは無表情に言う。
「オレに聞くな、殺し合いの最中だ。だってのに――共闘だぁ?」
鉢巻男は、確かにそこで撤退の足を止めた。この機を逃すまいと、サフィ・パール(星のたまご・d10067)は意を決して返答する。
「あ、はい。まず、私たちは、序列の奪取が狙いではありません。可能であれば……その、とどめはそちらでも、良いです。
こちらも、ハンドレッドナンバーを倒すチャンス、なんです。利害、一致するなら、共闘はできるのでは、ないでしょか……」
ノルディア・ヴィヨン(人間不信なダンピール・d37562)が続いた。
「援護に来た私たちのことが信じられませんか? でも、私たちは貴方がたを信じて此処へ来たのですよ♪
「信じるって、何をだ」
「それ、は――もちろん、貴方がたがこの申し出を快諾してくれると、ですよ♪ でなければ、わざわざこんな危険地帯にまで出向きませんからね。そうでしょう?」
「はっ、どうだか……」
そして最後に、レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が交渉を決めた。
「前にも云った通り、序列なんぞはどうでもいい。此処であれを止められりゃあな。
だからまあ、好きなように利用しろ。可能な限りアイツの足は引っ張ってやる」
「へえ。利用しろ、と来たか……いいだろう! 精々無様に殺されろ、武蔵坂!」
怪気炎を上げる鉢巻男に、Xが重く告げる。
「何を血迷うか。依然、我の殺人対象は貴様等だ。
あのような出来損ない、取るに足らぬ置物である――」
――すると、赤の閃光が地を駆けた。
「なめるなっ、ハンドレッドナンバー!」
赤い甲冑に身を包んだ、崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)である。グラインドファイアの炎が、ひび割れた舗装から一気に上空へ燃え上がった。
「あんたを放っておいたら多くの人が命を奪われ笑顔が奪われる!」
空中での回し蹴りを2発、Xの頭に向けて振り回す。Xはスウェイと受け止めで防御し、捕えた來鯉の足を興味なさげに投げ捨てた。
「そんなのご当地ヒーローとして見過ごせないからね、絶対止めてやるよ!」
着地から横方向にスライドする來鯉。と、その近くからレオンが言葉を投げた。
「これで晴れてオレはアンタと敵対するってことだが――さて、オレの名はレオン・ヴァーミリオンだ。
どうした? 名前くらい名乗れよハンドレッドナンバー。殺しあいのお約束だろ」
「思い上がるな。……が、肩書きで呼ばれるのは善くはない。いいだろう。
布院坊・糸姫(ふいんぼう・いとひめ)である。恐れと共にその名を呼ぶがいい」
ハンドレッドナンバー『X』――糸姫は、薄情に笑った。その間も刻一刻と織り変えられる錦の振袖の柄に、時折死と死体の意匠が混じる。その陰から、愛梨が抗雷撃を突きあげた。
●呉越同舟
「切り込み、行くよ!」
「ふむ」
糸姫の下顎を打つはずの拳が、わずか薄皮一枚を掠めるにとどまる。アッパーカットで伸びあがってみれば、愛梨が見下ろせられるくらいの背丈の女だ。
「――糸姫。多分近距離も遠距離も強いんだろうね」
内気な愛梨のことだから、先鋒を努めるのは、内心ドキドキものであった。
でも!
「誰かがやらなきゃ、話は始まらないよ!」
今は仲間がいる。それを裏付けるように、糸姫の視線が外を向く。
「伝承とはちょっと違うんだけどね。百鬼夜行『網切』、行けっ!」
青く燈るノルディアの怪談蝋燭から、小妖怪の幻影が飛び出した。
宙を伝って行くそれらは、糸姫の脚に袖にと取り付いていく。
「攻撃できるうちは攻撃しておかないとね。ほら、続いて続いて♪」
「はいっ! エル、おねがい!」
間髪入れず、サフィと誘が糸姫を挟んで対の位置に立った。ノルディアと合わせ、まずスナイパー3人で糸姫を削る算段だ。
サフィは霊犬『エル』に頼んで先攻してもらい、向かいの誘と呼吸を合わせる。
「糸姫――ここで見逃したら、きっと脅威になる、です」
「ええ。今は、糸姫を倒すことが……!」
エルの六文銭射撃がかわされた直後、2人の放った黙示録砲が糸姫へ同時に着弾した。もうもうと立ち込める氷煙の奥に、重心を落とした糸姫の姿が見える。
「中てました。ヴァーミリオンさん、手筈通りに――あ!」
「露払いご苦労、武蔵坂! 死ね糸姫エエエェェェ!」
好機と見たか、鉢巻男が他の六六六人衆たちを連れ、糸姫に襲い掛かった。
にぃ、と糸姫の表情がゆがむ。両袖の布をはためかせ、糸姫は灼滅者たちには行わずにいた迎撃に出た。
「善い殺気である。そこだけは中々の物ではないか」
「ぬかせ、時代遅れッ!」
ズブシュウッ!
赤い血飛沫が両者の間に踊る。
鉢巻男は利き腕を、糸姫は袈裟懸けに、それぞれ相手の殺人道具で傷つけられていた。
「無視するのなら、それでもいいけどねぇ」
今度こそと、レオンが駆け上がった。鉢巻男への注視を絶やさない糸姫が、こちらへは全く警戒を払っていないのも、明らかな隙と見る。
「ダイダロスベルトはこっちも使えるんだよね、糸姫ちゃん?」
レオンの『自律斬線“鏖殺悪鬼”』が奔った。糸姫はしかし、驚いた様子も見せず、無視と防御とを両立させる。
実力差……それを悟ったレオンの表情にも、笑みが浮かび始めた。
その間も脂汗を流し続ける鉢巻男に、瑞穂が遠くから手をかざす。
「ほーら、そこの色男。がんばんなさいなー!」
と、癒しの風が鉢巻男を包み込んだ。傷が治っていく感覚に、男は怪訝な表情を見せる
「は……? 何のつもりだ、武蔵坂の女!」
「何って、そりゃ治療よ。アンタたちの方が強いんだから、そっち優先」
……まあ、手心ということで、治療サイキックはあまり強くないものを選んではいるのだが。
「だいじょぶだいじょぶ、アンタ達ならやれる! アタシらがしっかりバックアップしてあげるからさ」
「そうですっ! あたしも糸姫は、殺意を抑えようとしないダークネスは許せません! かと言って六六六人衆はどうなのかと言われればその点は全く同じな訳で……ああもうっ!」
思考をそのまま出すかのように、早口で告げるクロシェット。彼女は彼女なりに葛藤があるようで。
「――迷ったら味方の行動準拠!」
意を決して、クロシェットが攻勢に出る。自身を律しようとする彼女の意思とは裏腹な黒い殺気が、糸姫を包み込んだ。
「はあああぁぁぁっ!」
そこを、來鯉が『ミミングスの剣』で断ちに行く。真横からの太刀筋に、気まぐれのように糸姫が目を向けた。
「! 見られた――でもっ!」
構わず振り下ろす。脳天を打つ手ごたえは、しかしよく見てみれば、糸姫がかざす布の防御からのものであった。
「……ふむ。出来損ないと思っていたが、煩わしい蠅の類であったか。
しばし待て、弱き者よ。蠅は直に落とす故」
糸姫の余裕を含んだ言葉に、鉢巻男は苛立ちと、色濃い侮蔑を含んだ口調で返す。
「だから、そいつらと共闘してるんだよ、オレたちは。
古臭いやり方にこだわってるから、ここで殺されるんだ、糸姫サマよ!」
と、鉢巻男と糸姫は、再度の打ち合いをし始める。他の六六六人衆たちも、こちら以上に苛烈な攻撃をもって、糸姫打倒に動いていた。
(「……そうか、なら、もしかして」)
それを見ながら、クロシェットは一つの仮説にたどり着いた。
あの台詞の応酬から予想できる、糸姫と六六六人衆の違い――。
(「少なくともこいつらは、六六六人衆のくせに、集団行動を是としている!」)
●感化と看過
殺戮や殺し合いを繰り返し、序列を奪い合う。それが六六六人衆の原則、原理である。
これがもし鉢巻男たちの中でも生きているのなら、こうやって徒党を組んで糸姫に立ち向かうことはあり得ないはずだ。
(「なら、この六六六人衆も危険すぎます! ……ああ、でも、でも!」)
「わああああああ!?」
さらなる葛藤の種を抱え、頭が熱暴走しそうになるクロシェット。彼女はつい本能のままに、『この場で最も脅威度の高い敵』にコールドファイアを浴びせ掛けた。
それは当然、糸姫ではあるのだが――。
「続くよ、サクラちゃん! わたしだって!」
愛梨が言葉の通りに連撃を仕掛ける。影業が地面を走り、糸姫の足元に渦を巻いた。
「抗雷撃は浅い当りだったけど、こっちならどう? 行くよっ、影喰らい!」
号令と同時に、影業が糸姫の体表を這い上がっていく。逆に包まれた格好になるが。
「小癪!」
内側からあの布を振り払い、姿を現した糸姫。そこに以前にはない守りがあるように見えて、サフィは武器を天星弓に持ち替えた。
「私達に、勝利を……!」
十分な引き絞りから放たれた矢が、思惑通り糸姫の守りを貫き崩す。糸姫の表情は相変わらずだが、確実にダメージは蓄積されているはずだ。
ノルディアは言葉にせず、思う。
(「できれば、とどめは私たちの方で貰いたいのですけどね……ですが、まだまだ」)
傍らのビハインド『シオン』に小声で命じ、その霊障波とタイミングを合わせて影喰らいを放った。
両方とも命中し、すると糸姫の表情に、ようやく疲労の影が浮かんできたように見えた。
「…………?」
「うん、それでいいよシオン。ありがとね」
ノルディアがシオンに優しい言葉を返している間にも、戦況は次々と変わっていく。潜水艦を模した甲冑を纏った霊犬『ミッキー』と共に、來鯉はWOKシールドを構えて糸姫に肉薄する。
「ミッキー、行くよ!」
「グルルルル……バウッ!」
低い唸り声をあげて、ミッキーが糸姫の喉笛を狙う。來鯉はその下をくぐるようにして、糸姫の腹部に痛打を叩き込んだ。
――気づくと背後に、六六六人衆たちが数人立っている。
うすら寒いものを感じて、來鯉は即座にその場を離れた。が、その心配は杞憂に終わる。
「言ったろ? 精々無様に殺されろ、ってな……」
六六六人衆たちが糸姫に攻撃を加えることで、バッドステータスが積み重なっていく。それらをさらに悪化させようと、レオンはチェーンソー剣『解体者エドガー』を誇らしげに掲げた。
「これがオレたちのやり方だ、糸姫。注意すべき相手を見誤ったな?」
レオンは躊躇なく解体者エドガーを突き込む。広げる傷は、武蔵坂が与えた物だけではない。もちろんそこに、六六六人衆が与えた物も含まれているのだ。
糸姫がついに、膝をつく。
「……は。出来損ないに、感化されたか、弱き者どもよ。愚か、な」
鉢巻男は、その言葉に失笑した。
「く、くひ、くひはははは! 出来損ないはてめぇだ糸姫! 世の中結果が全てだろうが!
――中途半端に強いせいで、このザマなんだろうが! ええ!?」
「確かに」
しゅるん、と、あの布が鉢巻男の頭を巻く。耳障りな、嫌な音が響くと、鉢巻男の死体がそこに倒れ込んだ。
「結果が全てだな。中途半端に群れたせいで、このザマだ」
ぱんぱんと膝のほこりを払い、ふらふらと立ち上がる糸姫。ハンドレッドナンバーの肩書は、伊達ではないということだ。
(「……それでも、この位ならダメージコントロールの想定内なのよね」)
瑞穂は、治療における己の加減が上手くいったことを悟った。医学生としては喜ぶべきかどうか微妙なのだが、後顧の憂いを断つという意義があってのことだ。
「ほら、生き残りはボサッとしない! リーダーに成り代わるチャンスでしょ!」
瑞穂が促すと、残った六六六人衆の目に新鮮な殺意が灯るのが見えた。よしよし。
(「あとは、糸姫をこちらが灼滅できれば……」)
糸姫の容態からこの事態を先読みして、誘は事前に予言者の瞳を行使していた。指をすうっと上げ、できるだけ無造作に、しかし確実に仕留められるよう、狙いを定め……撃つ。
糸姫は、愉快そうに微笑んだ。
●戦後処理
――急所には当たらなかったようだ。糸姫のとどめは、結局六六六人衆が取って行った。
もちろん、躍起になって灼滅を狙うことはできた。が、それだと、一番重要かもしれない『戦後処理』に手間取ることとなりかねない――。
が、戦後処理は意外にもあっさりとしたものだった。
「ここでキミたちを殺すことはしないわ。それで、この件については貸し借り無し。
まあ、あの鉢巻を『追い詰めて』くれたのには、個人的に感謝してあげてもいいけど?」
新しくリーダー役となった女ダークネスが告げた。携帯電話でどこかへと連絡すると、六六六人衆たちは灼滅者を置いてどこかへと去っていく。
武蔵坂が大会運営を阻害しているのは確かなのにもかかわらず、この奇妙な無頓着さ。
何かまだ隠されている事態があるように思いながら、灼滅者たちは凱旋するのであった。
作者:君島世界 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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