「第三次新宿防衛戦を勝利する事ができたのはみんなのおかげよ! お疲れさま!」
皆を急ぎ教室へと集めたエクスブレインの鈴懸・珠希(高校生エクスブレイン・dn0064)が開口一番そう言い、しかしすぐに表情を引き締め。
「みんなにはゆっくり休んで欲しい所だけど、実はそうも言ってられないの……」
珠希が言うには不穏な動きをする六六六人衆の動きを掴んだという。
「サイキックアブソーバーの予知は行えないから詳しいことはわからないんだけど、どうやら暗殺武闘大会の予選を通過したダークネス達が集結を始めているみたいなの」
ダークネス達が集結している場所は15ヶ所まで判明しているが、彼らがその場で殺し合いを始めるのか、ルールを設けて試合を始めるのか、或いは全く別の作戦を遂行しようとするのか……とにかく、現時点では判明していない。
「ま、相手はダークネスなんだし絶対良くない事をしようとしているはずよ! だから、疲れてるところ悪いんだけど皆には現場の1つに向かって欲しいの!」
そして、そこに集結したダークネス達が何を行おうとしているのかを見極め、その場で適宜対応して欲しいのだと珠希は言う。
「みんなに向かってもらいたい場所はとある山奥よ。森の中を突き進むとやがてそそり立つ崖にぶつかるんだけど、そこに一本の古い大太刀が突き刺さっているわ」
そそり立つ崖を背に、鞘に収まったままの古い太刀が何かの封印の目印のように大地に突き刺さっているという。
「ダークネス達はその大太刀の周りに集まっているみたいなの」
集まっている数は? と聞いてみるが珠希は首を横に振り。
「たぶん5~8体程度だと思うけど……正直わからないわ。ごめんなさい」
ダークネス達は全員が暗殺武闘大会の予選を勝ち抜いている強者達だ。まとめて相手取るのは危険だと釘を指す。だが暗殺武闘大会が続いていると仮定するならダークネス達は必ず戦いを始めるだろう。その時、状況を見て戦闘に介入するか、あるいは勝敗が決定した後に勝ち残ったダークネスを灼滅するといった対応も考えられる。
「でも最優先にして欲しいのは現場での判断よ。今回の件は予知情報が無い依頼だから、皆の目で状況を確認して、その場で臨機応変に対応して欲しいの……」
そして最後に珠希は皆の顔を1人ずつ見つめてから。
「場合によっては、戦闘せずに撤退する勇気も必要だと肝に命じておいて……絶対、みんなで無事に帰って来て! お願いね!」
山奥の森を地図と迅・正流 (斬影輝神・d02428) のスーパーGPSを頼りに進み、灼滅者達8名は目的の崖が見える場所までやって来ていた。途中で日は暮れ辺りは夜となったが、今日は月も星も明るくこれだけの光量があれば戦闘するには十分だった。少なくとも今回集まったメンツ的には問題無い。
そそり立つ崖の前、突き刺さる古い太刀。
その周りにはすでに8人のダークネス達が立っている。姿は様々だが誰もが異様な殺気に満ち……つまり、8人全員が六六六人衆のようだった。
灼滅者達は2チームに別れ森の中に潜伏していた。服装から光の反射、風向きにまで注意したおかげか、こちらがダークネスに気が付かれた様子は無い。
「(向こう側が積極的にこっちを探すかもしれないと思ったのですが……)」
月姫・舞 (炊事場の主・d20689)はもう一度周囲を確認する。しかし、やはり見張り役のようなダークネスはいないようだ。今回は自分達が来る事を見越して動いているわけでは無いのだろうか。ならお互い殺し合いを始めるのだろうか?
だが、私服姿のダークネスが腕時計を確認する姿こそ見られるが、殺し合うような雰囲気では無い。
やがて時計を見ていたダークネスが何かを呟くと、1人――大鎌を持ったラバースーツの男がひょいと崖を駆け昇り下から見えない出っ張りに立つと殺気を消し動かなくなる。
時浦・零冶 (紫刻黎明・d02210)はそれを見て崖上に集まらずに良かったと胸をなで下ろす。上から覗いていた場合、今ので見つかっていた可能性もある。
そして空を流れる雲が月を隠した、その瞬間――。
轟ッ……!
地面に突き刺さった太刀が黒い風を纏い、再び月が顔を出した時にはそこに古太刀は無く代りに1人の着物姿の少女が実体化していた。
『やっと……動けるようになった、のかな』
ゾワワッ!?
灼滅者達の肌が粟立つ。
神門・白金 (禁忌のぷらちな缶・d01620)が何か言いたそうに隣の風真・和弥(風牙・d03497)と目が合い、お互い言うたい事が同じだと理解する。つまり――ハンドレッドナンバー、六六六人衆上位100位以内。
同時、着物の少女へ7人の六六六人衆が一斉に襲いかかる。
集まったダークネス達は、復活したこの強力な六六六人衆を暗殺する為に集まっていたようだ。少女はどこからか大太刀を出現させ7人の攻撃を捌き、受け、避け続けるが……。
「(全力では無い……のか?)」
叢雲・宗嗣 (黒い狼・d01779)は少女の戦い方を見てそう思う。だが、その理由はダークネス同士の会話からすぐに推測できた。
『エナジーが枯渇してるこの世界で戦えば、私はまた動けなくなってしまう……できれば、戦いたくはない』
「安心せい。そうすぐにエナジー切れにはならん。その為に儀式を行ったのじゃからのぅ」
日本刀を操る筋肉質な爺さんがそう言いつつ斬り結ぶ、だが、どうやら少女はその言葉を信じられないようだ。ダークネス同士のやり取りとしては当たり前だろう。戦いの最中にエナジー切れを起こすリスクより、少女は冷静に隙を見てこの場から離脱する事を優先しているようだった。だが、集まったダークネスも予選突破者だけあり猛者ばかりだ。少女が全力で戦っても勝敗は五分五分だろう。
「(そういう事か……)」
俯瞰するよう観察していた佐津・仁貴 (厨二病殺刃鬼・d06044)は理解する。戦闘前に崖の中腹に身を隠した鎌使い、奴はたぶん……奇襲要員。
灼滅者達が隠れて観察する中、六六六人衆達の戦いは続き、最初に死者が出たのは予選突破組の方だ。鋼糸使いを斬り殺した着物の少女が言う。
『どうして六六六人衆同士が徒党を組むの?』
「もう昔とは違うのさ! この世界は変わった!」
「だから、貴方はここで死んでもらう必要がある。私達の未来の為に!」
十文字槍を使う着物の若い男と、西洋弓を使う若い女の六六六人衆がそう答える。
『言ってる意味がわからない……だけど』
次の瞬間、大太刀が振るわれ回避できなかった十字架銃を武器にしていた六六六人衆が真っ二つにされ事切れる。
『私は復讐の代行者。復讐したいと願う者の声を聞き、復讐される罪在りし者を殺す者。……あなた達は、誰かに復讐される謂われはある?』
殺した十字架銃使いの死体を踏み越えゆっくり歩いてくる少女。サングラスにスーツ姿のナイフ使いと、無口な全身鎧の斧使いが僅かに後ずさる。8人居たダークネスも残りは6人……。
四月一日・いろは (剣豪将軍・d03805)は目の前で繰り広げられる死闘を冷静に分析する。来る途中に調べた中に先ほどの少女が言ったキーワードに近い伝承は無かった。つまりアレはダークネス自体の信念か存在を表わす単語なのだろう。バベルの鎖で伝搬しなかったのが証拠だ。
しかし灼滅者達はお互い無言で目を交わす。
これからどうする……と。
このまま隠れ続けて勝ち残った方を奇襲し撃破する事はできるだろう。
もしくは、どちらかに肩入れする事もできるかもしれない――もちろん、その場合は六六六人衆達が一致団結してこちらを襲ってくる可能性もある、加勢する場合はそうならない方法も考える必要がある。
ハンドレッドナンバーの少女は崖の中腹に隠密する鎌使いに気が付いておらず、しかし少女は未だ全力で戦っていない。どちらにも勝機がある……その天秤は、灼滅者達の動き次第で大きく傾かせる事が可能だった。
崖を背に、月を頭上に、鋼のぶつかる音だけが響き続けていた……。
参加者 | |
---|---|
神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620) |
叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779) |
時浦・零冶(紫刻黎明・d02210) |
迅・正流(斬影輝神・d02428) |
風真・和弥(風牙・d03497) |
四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805) |
佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044) |
月姫・舞(炊事場の主・d20689) |
●
風真・和弥(風牙・d03497)が予選突破組を視た所こちらが命中優先に変える必要はギリギリなさそうであり、同じく観察していた月姫・舞(炊事場の主・d20689)も敵の戦闘スタイルを把握、戦闘に参加していない鎌使いはともかく、十文字槍と洋弓が攻撃役、サングラスと全身鎧が壁役、日本刀の老人は命中重視のスタイルのようだ。和弥と情報を共有しハンドサインで別の付近に潜む仲間達へ伝えておく。ふと、崖上を眺める舞……いや、今は目の前の戦いに集中すべきだろう。
目の前で繰り広げられる六六六人衆同士の戦いの流れを読み、時浦・零冶(紫刻黎明・d02210)は自らの懐中時計をポケットに捻じ込み、そしてその時は来る。
着物少女が洋弓使いを斬り殺した、瞬後。
「キェェェェッ!」
上空からの大鎌使いの奇襲、だが――。
ギンッ!
金属同士が擦れる耳障りな音を響かせ鎌の刃がピクリとも動かなくなる。大鎌使いの背後に立つマフラーをつけた少女――神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)の手に握られた鋼糸が、鎌の刃に巻き付き動きを止めたのだ。さらに大鎌使いが状況を把握するより早く、その懐まで突貫した零冶が全力で日本刀を振り降ろし会心の一撃を叩き込む。
大鎌使いは傷口を押さえつつ仲間の元へと跳んで合流、その間に叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)や和弥がハンドレッドナンバーの少女を予選突破組から守るよう立ち塞がる。
『あなた達は……?』
「依頼をしても、いいかな?」
少女に近づき四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)が言う。
「2か月程前に彼等8人に惨殺された56人余りの復讐を、惨劇を防げなかった無様な立場として依頼するよ」
乱入者達が武蔵坂だと悟ったのだろう、苦々しい表情となる突破組。
『………………』
黙る少女。大鎌使いの奇襲から助けた事実は、ハンドレッドナンバーの少女が灼滅者の話を「聞いてみよう」と思わせる程度には役に立ったようだ。
「此度の黒の思惑を潰すには貴女に協力するが必定ゆえ攻撃するつもりは無い。この場を切り抜ける為にも協力をお願いしたい」
「……利害は一致していると思うが?」
少女の殺気に飲まれず言い放つは迅・正流(斬影輝神・d02428)と佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)。
『そうね……利害は一致している……その復讐、私が請け負います』
憎々しげな表情を浮かべる予選突破組達。
「……とんだ大物退治だったな……差し詰め宍戸の指示だろう」
仁貴の言葉に筋肉爺が言い掛けた言葉を飲み、冷静になって仲間達に言い放つ。
「これは……皆殺しにするしかあるまいのぅ」
ザッと他の六六六人衆が灼滅者達も標的に加えた上で武器を構える。
「逃げようとする輩はいろは達で討っても良いかな?」
いろはの言葉に着物の少女は『どうぞ』と短く。
「斬影騎士・鎧鴉! 義に依って助太刀致す!」
「一凶、披露仕る」
正流が破断の刃を、宗嗣が大神殺しを、それぞれ大振りの刃を構え……そして最後に。
「話はまとまりましたね」
舞が予選突破組に向き直り、仲間達を俯瞰できる最交列に位置取りつつ殲術カードを解放。
「……貴方は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら?」
手に持つトランク――殺略の箱から影が漏れ始め……そして、戦いが再開されたのだった。
●
白金を狙い放たれた十文字槍を零冶が割り込み日本刀で受け止め、同時に足下の影を刀状に変化し十文字槍の男に巻き――ついてくる影を槍の回転で霧散させる男。だが槍を引いたその一瞬、その僅かにできた隙を逃さず白金が死角に飛び込み背後下段から斬りつける。さらに十文字槍が動きを止めたその間に今度は零冶が影を放ち宗嗣と舞が戦っていたサングラスのナイフ使いを牽制、舞が回復を飛ばす時間を作り、それを確認する間も無くすぐに十文字槍へと再び攻撃を開始する。
「キェェェイッ!」
一進一退の戦況に痺れを切らしたか、大鎌使いが奇声と共に殺気を全解放、それは明確な殺意。
だが。
「この程度じゃ……殺れないよ」
心に宿した殺意で相殺したいろは。次の瞬間、残像を残して大鎌使いの男に接敵、純白の鞘を抉り込むように男の鳩尾へ突き立てる。
「ぐっ」
「まだまだ行くぜ!」
背後から男の声、いつの間にか回り込んでいた和弥が螺旋の力を加えた槍で大鎌使いを責め立てる。大鎌使いは攻撃役のようで一撃はでかいが防御には付け入る隙があった。今だ、と連携して攻めるいろはと和弥。そんな大鎌使いの劣勢を感じたかサングラスの男がそちらへと走り込もうと――。
「………………」
無言で目の前に立ち塞がる宗嗣。まるで男が救援に向かう事を読んでいたかのような動きだ。事実、お互い仲間を守る壁役、それに――。
「邪魔だ」
サングラスの男が高速に切りつけてくる。片手のナイフは視認できず、たが銀の軌跡が星明かりに輝くのみ。純粋な技量はダークネスの方が上だ。舞がフォローしてくれていなかったら倒れていただろう。だが、それだけではない。
「貴様、本領はもう一方に持つ短刀か」
サングラスの言葉。
「今回は故あってこちらを持ち出したが、な」
「ふっ、俺の動きを読める程に短刀の技量が高いと見る……いいだろう、全力で貴様の相手をしよう」
意識が完全に目の前の宗嗣へ注がれサングラスのナイフ裁きに鋭さが増す。宗嗣もぎりぎり耐えているが……。
事前に正流とナイフ使いを先に倒すべきとの意見を一致させていた舞は、宗嗣を回復でフォローしつつ冷静に戦場を見回し誰か支援に来られる者はと探し始め――全身鎧の六六六人衆とハンドレッドナンバーの少女が1対1になっているのが目に入る。少女と1対1だったからか全身鎧はすでにボロボロだ。
『そろそろあなたは終わり……死角からの斬撃であなたの足を斬る』
少女の宣言に、全身鎧は防御専念の構えを取る……死角は無い。
――ッ!
いつの間にか少女の大太刀が振り抜かれ全身鎧が上下に別かたれる。
『全身隙だらけだったから……足じゃなかったのは……ごめんなさい』
全身鎧を倒し、何事も無かったかのように呟く少女。
「これが……序列二桁の力」
舞は思わず呟き、首を振るとすぐに他の仲間へアイコンタクトで援軍を要請するのだった。
一方、日本刀の筋肉爺と戦うは正流と仁貴。
「一つ確認したい……お前等、何の為にハンドレットナンバーを狙う……」
鍔迫り合いしつつ仁貴が聞くと。
「儂らの組織としての弱点は何じゃ?」
「仲間同士で殺し合う点でしょう」
背後から正流が切りつけながら答えるも、刃は爺の日本刀で弾かれ。
「まぁ、根本を言えばそうじゃな……」
正流は最初こそナイフ使いと戦っていたのだが、予選突破組全員に指示を出しているのがこの筋肉爺だと見極め、指示が飛ばないよう仁貴と共にこちらを迎え撃つ事にしたのだが……その判断は正しかったようだ。
「儂らの組織は脆弱なのだ。いや組織ですら無い。分割統治していた時代はそれでも良かったが……世界は変わった」
話しながら仁貴に襲いかかる爺。仁貴は刃を回転させ攻撃を散らしつつ殺意を高め、爺の攻撃が止んだ瞬後、その喉元へ回転させていた蛇剣の剣先を伸ばす。
「変わった……だと?」
ぎりぎりで仰け反り回避する爺だが、首筋からは噛まれたように血が吹き出す。仁貴の剣――王者を死へと導く毒蛇――とは良く言ったものだ。
2人と距離を置き首筋を撫で筋肉爺が言う。
「儂らも一枚岩の組織になる必要があるという事じゃ」
●
指示役を抑えた効果か、好き勝手に戦い出す予選突破組に対し攻撃を集中させる灼滅者達。
突如乱入して来た和弥と白金にサングラスのナイフが追いつかなくなっていく。次々と解き放たれる和弥の金属帯をバク転を繰り返し回避するサングラスの男だが、着地した背後に感じる気配。
「はっ!!!」
背後から叩き込まれる閃光の拳、それは白金。
和弥の攻撃は元より白金が拳に光を纏わせ溜めを作っている場所に追い込むもの。
もう一歩先まで逃げていれば……そうサングラスの男が思った時には、背中から大量の拳を叩き込まれ斜め上空へと吹き飛ばされる。
「……お、おのれっ」
空中で強引に身をひねり体勢を立て直そうとし、しかし目の前に現れたるは宗嗣だった。
「短刀で相手をしてられず……悪かったな」
七尺を越える超長尺刀を膂力ギリギリまで振りかぶった宗嗣が呟き、ナイフ使いを真っ二つに分断する。
だがトドメを刺した宗嗣は心の中でと今の一撃を先ほどの少女のものと比べて嘆息するのだった。
白金が移動した事で十文字槍を1人で相手する零冶は防戦一方となっていた。
「俺相手に1人っつーのは無理だったんじゃないか?」
連続で突きを放ってくる十文字槍の男。対して零冶は集中力を切らさず己が刀と影の刀を器用に操り何とか致命傷を避け。
「可能な事は無理と言わない……それに、誰が俺1人だと言った?」
「ぬおっ!?」
十文字槍の男が仰け反り横合いから飛んできた蛇剣を回避。それは筋肉爺と戦いつつ、その攻撃を回避専念し十文字槍へも蛇咬斬を打ち込んでくる仁貴だった。否応なしに仁貴にも意識を割かざるを得なくなる十文字槍。
そしてもう1人、和弥が移動し大鎌使いを1人で相手するいろはの元にはハンドレッドナンバーの少女が合流していた。
相変わらず奇声を発して襲い来る大鎌使いを少女は大太刀を手に牛若丸のように回避、そうやって引きつけている間に鎌使いの死角からいろはが切り込み刃を振るう。即席の連携だったが戦闘に途中参加で余力の残っていた鎌使いの体力をがつがつ削っていく。
スチャといろはの横に降り立った少女をチラと見て、その手にする刀が戦国時代のとある兄弟の兄が使っていたとされる大太刀に似ていると思ういろはだったが。
『私が薙ぎ払うから……』
唐突に少女が言うと大鎌使いへとゆっくり歩いて行く。
『復讐の業は永久の怨恨なり……怨羅万象』
大太刀に黒い風がまとわりつき、真一文字に振るわれた刃は大鎌使いの鎌を破壊し胴を薙ぎ――。
「時浦さん!」
舞の呼びかけに零冶が咄嗟にジャンプ、その足下をハンドレッドナンバーの黒い軌跡が通り過ぎ十文字槍の男の胴までも切り裂き、崖、周囲の樹木と断ち切っていく。
あまりに大きな一撃に戦場に流れる時間自体が止まったかのように――瞬後。
「はあああっ!」
零冶が上空から落下速度を乗せた大上段からの一撃を十文字槍の男に振り下ろし。
大鎌使いの懐に縮地法にて飛び込んだいろはが鍔鳴りの音を響かせ居合い一閃。
ド、ドサリ……。
十文字槍の男と大鎌使いの男は、そして同時に倒れ伏したのだった。
「儂1人か……やっと1人殺ったと思ったのにのぅ」
仲間達が全滅した事を見て筋肉爺が呟く。その目の前では首から大量の血を吹き上がらせて正流が倒れる所だった。慌てて仁貴が爺に接敵し、その間に倒れ動けなくなった正流に駆け寄るは舞、癒しの矢を放ち強引に回復を促す。
「倒れるにはまだ早いですよ。頑張ってください」
舞の言葉と回復術に再び意識が覚醒し立ち上がろうとする正流。
「無、無双迅流の真髄は……と、闘志に、あり!――い、今こそ、大灼甲!」
流れ出る血流を炎に変えて立ち上がった正流の足元、影から己が闇堕ち時の姿が出現。
「影よ光と共に在れ! 光臨!」
影の姿が正流に重なり増加装甲として装備され斬影輝神ギル・ガイアとなる!
「おのれ、こわっぱどもが!」
仁貴を押しのけ正流に迫る筋肉爺。対して正流は大上段に構えた刃渡り2mの巨大な漆黒の剣を。
「無双迅流神技! 輝神断罪剣!」
日本刀ごと筋肉爺を破断する正流。
「そん……な……」
致命の一撃を受け、よたよたと後ろに下がるも倒れない筋肉爺。
他の灼滅者達も集まってくる。逃げ場は無い。
「最後に教えろ。お前達はどうして徒党を組む」
零冶の質問に、ごふりと血を吐きつつ。
「せ、世界は変わったのじゃ。徒党を組まねば食われてしまう――危険で強大な組織、に」
そう言うと零冶達を指差し皮肉気に口の端を歪ませ――ドサリ、そこで息絶えたのだった。
これで敵は全員灼滅した。
だが、戦いの緊張の糸を維持したまま呟くは和弥。
「そういえばお前は言っていたな……復讐される謂われはあるか、と」
ぴくり、着物の少女が反応する。
「今までに殺したダークネス、又は事件に巻き込んで見殺しにした方の関係者等、謂われなら……幾らでもある」
●
「何をしようって言うんだい」
剣呑な空気で和弥へ問うは、ハンドレッドナンバーの少女を庇うよう前に立ったいろはだった。
「解らないのか? こいつが復讐の代行者なら、ここで自由にさせたらどれだけ殺すかわからない。恨まれていない人間なんていない、もし組織への復讐でも願われればどうなるか……」
「このまま連戦するリスクが解らないキミじゃないだろう」
「見逃すリスクの方が大きいと言っているんだ」
言い争ういろはと和弥に他のメンバーは顔を見合わせる。
宗嗣はどちらの言い分も理解できるだけに沈黙し、正流と舞はハンドレッドナンバーが和弥に襲いかかりそうなら戦闘を、逃走してくれるのなら見逃すつもりでいた。
だが白金はいろはの横に並ぶ。
「話ぐらいはしてみるのもありかなと、私は思ってる」
「本気か?」
「もちろん、復讐代行のお代を請求されるのなら……別だけど」
ちらりと着物の少女を見るも、別にそういうつもりはなさそうで、冷静に事の成り行きを見守り少しでも多くの情報を得ようとしているようだった。
「話を聞きたいのは同意見だ……が、立ち位置で言うなら俺はこちら側だな」
今度は零冶が和弥に並ぶ。
「……個人的には俺もこちらだ」
「仁貴」
いろはに睨まれるも、気にせず和弥の横に並ぶ仁貴。だが、仁貴はそのまま言葉を続ける。
「……だが、あちらもやる気はなさそうだ。無理にこちらから仕掛けて下手に闇堕ちを出すのは本末転倒だろう」
皆の視線が集まり、着物の少女は不思議そうに言う。
『あなた達は強いけど……出来損ないでしょう? それなら、いつでも殺せる……出来損ないは、見つけ次第殺す事になってるし』
「だったら、ここで俺たちを見逃して良いのか」
和弥の言葉に少女は首を振り。
『私には理解できない事が起こってる。突然目覚めた事も、同胞が徒党を組んでいた事も、あなた達が私を助けた事も……今はこの時代に何が起きてるか知る事が優先』
淡々と告げる少女にさすがの和弥も剣を鞘に納め、他の皆も武器だけは納める。
そして、そのまま去ろうとする少女に名前を聞けば。
『仇討刀……復讐の代行者……好きに呼んでくれて構わない』
「いや、字じゃなくて、きみの名を」
その時には黒い着物を翻し崖を跳び跳ねながら登っていく少女だったが。
『……天童……あざみ』
風に乗り、僅かにそう少女の声が聞こえたのだった。
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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