お昼ご飯を買いに、購買へとやってきた狗噛・吠太(中学生人狼・dn0241)は、店の一角にとあるコーナーを見つけた。
華やかだったり大人な雰囲気だったりと様々なパッケージに包まれたチョコ、そして製菓用のアイテムの数々だ。
「もうすぐバレンタインっすからね、楽しみにしてる人もたくさんいるっす」
すると、袋を抱えた初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)が店内から出てくる。
「先輩、もしかしてそれ、チョコの材料っすか?」
「ああ。今年もチョコづくりのお誘いを受けたのでな」
そう。毎年開催される『みんなでバレンタインチョコを作ろう』というイベントの告知が、このたびもなされたらしい。
大切な人に贈るため、ガトーショコラにチョコムース、クッキー、ロールケーキ……チョコレートを用いた様々なスイーツを作るのだ。
味はもちろん、見た目を工夫してみてもいい。デコペンなどでメッセージを書き記したり、スイーツのラッピング方法にこだわるというのもありだろう。相手への気持ちのこめ方は、人それぞれだ。
場所は、学園にある調理室の1つ。材料や調理器具は一通り用意されているが、何かこだわりのものがあれば、自分で用意してきても構わない。
料理が得意な人もそうでない人も誰でも大歓迎、というのがコンセプトである。
というわけで、と、袋を吠太に見せる杏。
「万全の準備をして臨もうと、買い出しにきたというわけだ」
「それにしては量が多くないっすか? もしかして、自分で食べる用じゃないっすよね……」
「なぜわかった! 吠太、恐ろしい奴……!」
「いや、食いしん坊の先輩の事だからそんな事じゃないかと……」
実際、チョコを作った後は、試食も兼ねてちょっとしたお茶会も開かれる。杏は皆に自分の作品を振舞うつもりのようだ。
「私はクッキーを作ろうと思っている。ココアパウダーを混ぜたクッキーで、チョコクリームをサンドして、な」
「今年は、自分も何か作ってみるっすかねー」
前は試食する側だった吠太だが、みんなのチョコづくりの様子を見ているうちに、刺激を受けたらしい。
「料理なんてした事ないんすけど、大丈夫っすかね?」
「安心しろ。こういうのは味や形の良し悪しよりも、気持ちの方が大事だ」
「確かに先輩だってお世辞にも料理上手とは……ゲフンゲフン、何でもないっす」
「…………」
ともあれ、皆も、腕によりをかけて、チョコに思いを。
●チョコにこめられし想いは
戒道・蔵乃祐は、思っていた。
鼻歌混じりでチョコ作りに勤しむ猪坂・仁恵を横目で見ながら、こう思っていた。
(「こいつ他に遊びに誘う様な友達居ないのかな……?」)
ダルい事になったなー厄介な奴に捕まったなーという思いが、蔵乃祐の心に居座っていた。
そんな悪友の心情を知ってか知らずか、ケーキの生地をかきまぜながら、仁恵は問いかける。
「君は何も作んねーんですか?」
「僕は試食専門だぜ?」
「ははあ、なるほど。じゃあお茶の用意は任せましたよ」
「じゃ、テキトーに」
蔵乃祐はスマホを弄り……時たま仁恵の製菓風景を眺めつつ……煎れたコーヒーを飲んで、完成までの暇を、ぐしゃり、と潰すことにする。
一方、皇・銀静は、完成したハート型チョコに、文字を入れていた。可愛らしく、『想いを込めて~Happy Valentine~』と。
「どうですか試食は自由ですよ」
「なんだか凄く黒いっすね。じゃあ、いただきますっす!」
銀静に勧められるまま、吠太がチョコを口に運んだ。
「んんっ……!?」
なんなのだろう、このにじみ出る苦味は。ナイスミドル以上の苦み走った魅力が、吠太の味覚を支配する。
「い、一体何が入ってるんすか……!」
「カカオです」
「いやそれだけじゃないっすよね!?」
銀静は語った。どのような準備をしてきたか。
専門店から入手したカカオ豆をローストした後、余計な殻と胚芽をピンセットで徹底的に取り除く。そして銀静自身の力で、これでもかと微細に粉砕してカカオマスの状態を作り出す。
ココアバターを少しずつ混ぜた後、ザルで濾し、更に磨り潰す。
最後に、45度をキープした湯せんで数日かけて濃縮し、練り上げる。全ての工程において忘れないのは、『丁寧』という二文字。
以上を経て、糖分など甘さの一切が排除されたチョコの濃度は……カカオ300%(銀静調べ)。もう原材料を凌駕している。怨讐とも言える凄まじい念が、こめられていた。
「チョコにかける想いが常に愛や美しい物だけと思わない事です。どうですか皆さんも」
銀静が、周りの皆にチョコを振舞い始めた。
……待った。ちょっと待った。
●もはやチョコという名の凶器
「カイドーさん、ちょっとこれ美味しそうじゃねーです? 食べて見て下さいよ」
仁恵が披露したのは、チョコケーキだった。
ケーキ生地と、中に入ったダイスチョコという2つの異なる食感に、蔵乃祐もKO間違い無しだと、仁恵は自負している。ただし、
「……なんか見た目が雑って言うか、稚拙って言うか」
「いやだって、完璧っぽい奴より、この方がこう……恋する乙女ぽくねーですか」
「ねーです」
ぽっ、と頬を染めてみせる仁恵を一蹴する蔵乃祐。本気なのか冗談なのか。このリアクションが相手の不安を増大させる事まで計算されているような別にそうでもないような。魔性の女である。
「食べねーんですか? はい、あーん」
「くれるなら貰うわ……」
ぐいぐい。仁恵からケーキを押し付けられ、よそ見しつつもフォークで食べる蔵乃祐。
「??」
おや、蔵乃祐の様子が……?
「ぐ、ぐええ……ん!? んんんなんじゃこりゃあ!?」
のたうつ蔵乃祐。
「ダブルの食感に気づきやがりましたか?」
「いいいや、おま、おま、なんちゅうもんを食わせてくれたんじゃい!」
「そりゃー、生焼けですからね」
「ひどくない?」
ひどい。
「ちょっと待っとけやお前……本物のチョコケーキを食わせてやりますよ」
フォークを仁恵のケーキに突き立て、蔵乃祐は宣言する。
「だから誰か僕に作り方を教えて下さいオナシャス!」
「任せろ。『チョコ殺しの杏』とは私のことだ」
「おー。杏に聞けば大丈夫じゃねーですか?」
挙手する杏へと、ぱちぱち、と拍手を送る仁恵。
「いや待って、この人確か……」
蔵乃祐の心配は的中した。
凄いものが出来上がった。
銀静が言った。
「大事なのは想いですよ」
「いやそれもどうだろう……」
チョコは器。想いを受け止める器。
しかし時として、そこに注がれる想いは……すごい。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:簡単
参加:3人
結果:成功!
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