バレンタインデー2017~みんなで楽しくチョコ作り

    作者:朝比奈万理

     街中が甘い香りとお洒落なラッピングにあふれる冬の日。
     図書館帰りの浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)の表情は、自信満々とは程遠い。左腕に抱えられたお菓子のレシピ本を、よいしょ。と抱え直しても、その表情は暗い。
    「……どうしたの、千星ちゃん」
     ラッピングの本を数冊小脇に抱えて、彼女の浮かない顔を覗き込んだのは千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)。
    「……時に千曲・花近よ。菓子作りは得意か?」
    「得意かどうかって聞かれると難しいけど、お菓子は本見て分量通りにしてれば失敗することないから、得意なのかな?」
     尋ねられてさらりと言ってのける男子の隣で、千星の気持ちは低空飛行だ。
     世の中には、材料を分量通りに測っても、材料を一生懸命混ぜても、焼き時間やオーブンの温度をしっかり設定しても……。
    「世の中には、失敗しちゃう系の人間がいるんだ……」
     型抜きチョコレートでさえも、テンパリング時にお湯が入り、型に流す間にチョコが固まり、出来上がりのチョコレートに触って指紋が付いたり。
    「バレンタインが近いというのに、わたしは、圧倒的にお菓子作りの才能が、ないんだ……」
     女子として、どうなのか? 大丈夫なのか? アウトなのか……! アウトなんだな。と、沈む千星の隣であごに指をあてた花近が、ピンとひらめいた。
    「じゃぁ、お菓子つくるの得意な人に教えてもらえばいいんじゃないかな?」
     お菓子作りが下手な子がいれば、必ず得意な子もいる。
     大切な人に贈り物をしたい気持ちは、みんな一緒。
     だったら、女の子はもちろん、逆チョコを贈りたい男の子も、初心者さんも上級者さんも。みんなで楽しく教えあって、チョコレートのお菓子を完成させよう。
    「楽しそうじゃない?」
     花近の提案に、ほうほうと相槌を打つ千星。
    「それに、たとえ失敗したって想いがこもってれば……」
     ね。と笑んだ花近を見て、千星の顔がだんだんと晴れていく。
    「たしかに、皆に教わればおいしいチョコレートができそうだし、ラッピングまでできたら、達成感。だな!」
     やっと笑んだ千星はご機嫌とばかりに、こうさぎのパペットを操り。
    「チョコレートを完成できたという自信と共に、皆が想う人に贈り物ができるといいな」
     いつものように笑んだ彼女の隣で、花近も優しく笑んだ。

     想いを込めた甘い香りをそれぞれの装飾に乗せて。
     あなたは誰を想って、チョコレートを作りますか?


    ■リプレイ


    「それに、たとえ失敗したって想いがこもってれば……か。そう、手作りのチョコがなぜ嬉しいか? それは貰う側としてはチョコそのもの以上に相手からの好意が嬉しいのである。花近君が珍しく良い事を言った!」
     皆拍手! とアンカー・バールフリット(彼女募集中・d01153)は手を打ち鳴らすと、
    「ちょっと、アンカーさんやめてっ! 恥ずかしいっ」
     リフレインされた自分の言葉に、割烹着姿の千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)は赤くなった顔を手で覆う。
    「……『珍しく』のところはスルーなんだな」
     腰のポシェットから顔を覗かせている相棒の位置を直しながらエプロン姿でツッコむ浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)のとなりでは、
    「ここへ来れば花近がチョコを御馳走してくれるって聞いたヨ!」
     バレンタインライブは手作りチョコで集客するアイドル魔法少女、ローラ・トニック(魔法少女ローライズ・d21365)は元気いっぱいだったが、調理台に目を落とした瞬間、さーっと表情が素に戻っていく。
     調理台に目を落とした瞬間、さーっと表情が巣に戻っていく。
    「エッ、自分で作るノ?」
     目の前に広がるには材料と道具。
    「今ご馳走できるのは……」
     顔から手を離し、それかなぁと花近が指差したのは板のままのチョコレート。そっけないそれを見て頭を抱えて首を振ってみせたローラの肩を、アンカーはポンと叩く。
    「せっかくの機会だし、花近先生の教えを請おう」
    「しょうがナイ、千星、一緒に頑張ろうネ」
    「お、おう、がんばるぞ! いいチョコを、つくるっ!」
     気合十分、いや十二分空回りの千星。今度はローラが彼女の肩をポンと叩く。
    「女の子からのバレンタインチョコなら男はみんな嬉しがるシ、味は5割増し。手作りなら見た目なんて採点してないから、気楽に作ればダイジョウブ」
    「そんなもんなのか。男性って意外と……」
     単純なんだな。と口に出さないのは、目の前に男性が二人いるから。ローラはうんうんと頷いて。
    「ここはお姉さんが千星を立派なレディにするしかないネ。で、とりあえず花近、まず何をすればいいのカナ?」
    「え、丸投げ……?」
     まぁいいけどとレシピ本をめくり、花近が示したのは――。
    「ロリポップ。ガナッシュを丸めたものにスティックを差して、チョコレートで固めてチョコペンで飾る。ナッツとかで動物の形もできるって」
    「か、簡単か?! 大丈夫か?!」
     レシピを要約したアンカーに、食い気味に尋ねる千星。
    「分量通りに落ち着いて作れば簡単だよ」
     とアンカーは、ミルクチョコレートと生クリームを手繰り寄せて千星の前に。
    「チョコレートは細かく切ると溶けやすいヨ」
    「テンパリングはお湯を入れた鍋よりボウルが小さいとお湯が入っちゃうから……」
     バレンタインチョコ作りはアイドル営業の一部。ローラは的確なアドバイスをあたえると、花近も使いやすい道具を選んでいく。
     ぎこちないながらも千星の手が動くと、アンカーも溶かしたチョコレートを型に流し込んでいく。
     出来上がったガナッシュを手で丸めて冷蔵庫で冷やし、スティックで刺したらナッツを耳にして溶かしたホワイトチョコレートでコーティング。
    「あとは顔を書いたら完成だヨ」
     マグカップに入れたお湯で温めたチョコペンの硬さを確認し、ロリポップに顔を描いていくローラ。慣れた手つきのそれを見て千星も難しい顔をしながらもそれと対峙する。
     透明なビニールをかぶせてローラの手ほどきの元、可愛いリボンでラッピングすれば、しろうさぎのロリポップの完成である。
    「Oh! 可愛いネ!」
     調理台には10匹のうさぎがコロンと鎮座している。ローラと千星は目を輝かせる。
    「すごい! みんな、ありがとう!」
    「千星君が一生懸命作ったチョコを貰える相手は果報者だね」
     アンカーがいつものようにさらりというものだから。千星はひとつ手に取った。
    「ちょっと早いが、アンカー・バールフリットも果報者になってくれないか?」
     
     メレンゲを泡立てる朝間・春翔(プルガトリオ・d02994)の隣で、咲宮・律花(花焔の旋律・d07319)は次の工程に必要な材料を用意していく。
    「春翔って家事全般できるのに、お菓子作りってしないわよね」
    「家事は必要に迫られていたからな。菓子作りはキミが作ってくれるから必要も無い」
    「もう、褒めても今日はお菓子しか出せないわよ?」
     幸せそうな二人を見つけて千星は笑んだ。それに先に気が付いたのは春翔。律花もにっこり笑んで手招きし。
    「千星ちゃんもよかったら一緒に作る?」
    「えっ、邪魔にならないか?」
    「そんなことありませんよ。律花はお菓子作りが好きですし、得意なので先生役には丁度良いかと」
    「……じゃぁ、お言葉に甘えさせてもらうな。わたしは何をしたらいい?」
    「じゃぁ、材料を順番にボールに入れていってね」
     二人が作っていたのは、ガトーショコラ。出来上がったメレンゲを脇に置いて、律花の指示通りに千星がボールに材料を入れていけば、春翔が手際よく混ぜていく。
    「そうそう、上手。春翔ってば筋がいいのね、これなら綺麗にできそう」
     褒められて春翔は小さく笑んだ。先ほどのメレンゲの時も感じたが、混ぜ合わせる作業は重労働。混ぜ合わせたチョコレート生地にメレンゲが入れば手ごたえも混ぜ方も変わってくる。
    「お菓子作りをする女性は大変なのだな。体力と根気が必要な作業だ」
     春翔の丁寧な仕事と律花の的確な指示のもと、出来上がった生地はゆっくりと型に流し込まれ、オーブンへ。
     しばらくすると漂ってくる香りに律花は目を細める。
    「ケーキの焼きあがる匂いって凄く好き。幸せな気持ちになるわよね」
     うんうんと頷く千星。
    「幸せな気持ちに、か」
     春翔は目を閉じて深呼吸。すると鼻腔をくすぐるのは暖かく甘い香り。
    「……そうだな。律花の匂いに似ている」
     その言葉に一瞬、小さく声を上げた律花だったが、ふふっと笑んだ。
    「春翔はまた、そう言う事サラっと言うんだから。じゃあ、匂いで胸やけしないように、ね」
     堕ちてから助け出されるまでの数か月間、お互いに届かない『幸せ』に手を伸ばし続けた春翔と律花。そしてとやっともう一度繋ぐことができた『幸せ』だから――。
     それを知っている千星は、幸せな二人に思わず笑顔。
     焼けたガトーショコラは粗熱を取った後、型から外されて冷蔵庫で冷やし。
     程よく冷えたガトーショコラを切り分けながら、律花はくすくすと笑う。
    「あんまり可愛くラッピングしたら、皆にビックリされちゃうかしら」
    「驚いてもらえるのは悪くないがな。それにラッピングは律花に任せたからと言えば、皆も納得するだろう」
     そう言いながら春翔は、切り分けられたガトーショコラをギフトボックスに丁寧に入れていくと、
    「わっ、おいしそう」
     甘い香りに釣られた花近が調理台を覗き込んだ。
    「そうそう、千星ちゃんと花近くんも味見してって?」
    「先日ご迷惑をお掛けしたお詫びです」
     小さくカットしたガトーショコラをピックに刺して、春翔が差し出せば、花近は受け取りながら小さく首を振る。
    「迷惑だなんて思ってないよっ。本当に、良かった」
     千星も律花からガトーショコラを受け取ると、ぱくっと口に運んで幸せな笑顔。
     律花も花のように笑えば、春翔は静かに笑んで一つ頷いた。

    「そのですね。ミント味のトリュフを作りたいんです」
     生クリームを火にかけて温めながら、神乃夜・柚羽(睡氷煉・d13017)が頬を染めてつぶやいた。
    「料理は……あまり得意では……裁縫の方は出来るんですけど……」
     手に握られたペパーミントエッセンスの小瓶が、握られた圧力でキュッと鳴く。
     そんな先輩を目の前に水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)の脳裏には、チョコミント好きの、あの先輩の顔。
    「……リア充ビッグバンすればいいのに」
     聞こえないようにそっぽを向いて呟いた紗夜は、とってもいい笑顔を浮かべる。
    「まー、僕は手を出さずに教えるだけかな。まずいって思ったらそこでストップをかけるけど……って、カノさん先輩、何してんの?」
     柚羽に向き直った紗夜が見たもの。それは、一生懸命温まった生クリームにペパーミントエッセンスを振りかける先輩の姿。
    「……これ、少ししか出てこないのですが……」
     瓶を振ったり、瓶のお尻を叩いてみたり。
    「あ、ペパーミントエッセンスはそれ以上入れたら……あー」
     次第に二人の周りはさわやかすぎる香りが漂う。鍋に近づかなくとも香るということは、明らかに入れすぎなのだろう。
    「え、そんな何振りもしなくてよかったんですかコレ」
     早速失敗してしまったと、さぁっと血の気の引いていく柚羽。
    「……とりあえずチョコや生クリームの量を増し増しして、無かったことにしようか」
     と紗夜は、ペパーミントの香りを消すことが出来そうな分量の生クリームを別の小鍋に開けて、火にかけた。
     ペパーミントエッセンスが増し増しの分、チョコレートも風味付けのブランデーも増し増しで。柚羽は冷蔵庫で程よく冷やされた大量のガナッシュを丁寧に丸め、優しくココアパウダーをまぶしていく。
    「紆余曲折を経て、トリュフが出来たね」
    「とりあえず、何とか完成させることができました……」
     ふぅと額を指で拭う柚羽の隣で
    「尋常じゃない量だけどね」
     壮観。と、紗夜が呟いた。
     ラッピングはさわやかなミントグリーンのボックス。柚羽はココアパウダーが飛んでしまわないように慎重に箱詰めし、空いたスペースにはミントの枝葉を添えた。ボックスに駆けるリボンはチョコレートブラウンで、彼の好きなチョコミントカラー。
    「彼のは出来上がりです」
    「チョコミントカラーなラッピングだし、某先輩も喜ぶんじゃないかな」
     そして紗夜は心の中でつぶやく。リア充ビックバンだ。
    「箱に入りきらなかった分は……」
     柚羽はミントトリュフを3枚の小皿に分けていき、目が合った千星と花近を呼んだ。
    「こちらは紗夜さん、千星さん、花近さんに」
    「……僕にくれるって?」
     紗夜が尋ねると、頷く柚羽。
    「え、いいの? ありがとう!」
     花近の言葉にも柚羽は頷く。
    「えと、救出関係でお世話になった……お礼です。その節はありがとうございました」
     小さく頭を下げた柚羽に千星はからっと笑う。
    「ありがとうはこっちのセリフだ。ちゃんと帰ってきてくれて、安心したぞ」
    「……ああ。あの時の事か。別にいいのに。でも、有難く頂くよ」
     つまんでかじったミントトリュフは、甘く爽やかで。
     きっと彼への贈り物には、お礼以上の気持ちもこもっているのだろう。
     このチョコレートをもらえるあの人は幸せ者だ。
     紗夜はその時の二人を想うと小さく笑んだ。
     やっぱり、リア充は末永くビックバンだな。

     松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170)も、チョコレートを作っていた。
    「えっと、沸騰しない程度に生クリームを温めて」
     火にかけた生クリームからほわほわと湯気が立ち、火を止める。
    「この中に刻んだチョコを入れて、溶かす」
     ゴムベラで丁寧にチョコレートを溶かしていけば、甘い香りを漂わせながら、チョコレートの焦げ茶と生クリームの白が溶け合い混ざり合う。
     愛莉は、あらかじめラップを敷いておいたパットをてもとまでもってくると、コンロから鍋を下ろす。
     鍋からとろけるのは優しい甘さのガナッシュ。パッドを優しく台に落として、ガナッシュの空気を抜けば。
    「あとは冷やしてっと」
     ぱたんと冷蔵庫の扉を閉めた愛莉が次に取り掛かったのは、プレゼントボックスの用意。
     しばらくすると、程よく固まったガナッシュが冷蔵庫から取り出される。
    「切り分けて、ココアパウダーをふりかけて」
     綺麗な正方形に、茶こしでトントンとココアを振りかけ。それをそっとボックスの中に収めていき、最後に可愛くリボンや造花で飾れば。
    「できた」
    「すごく良い手際!」
     出来上がりのタイミングで千星は愛莉に声を掛けた。
    「千星さん。チョコレートはもう作った?」
    「何種類か手伝ってもらったり、作り方を見ていたり手伝ったりしたが……生チョコは簡単に作れるか?」
    「簡単よ。良ければ一緒に作りましょう?」
     こうして愛莉は、千星ともう一度同じものを作る。
    「焦らずゆっくりやればいいからね」
     愛莉のアドバイス通りに作っていく。だが、不器用最大の難関、切り分けの工程を終えたところで千星の手が止まる。
    「この段階で真っ平らになってなかったり、指紋を付けてしまったらどうしたらいい?」
    「上からココアパウダーを振ってしまうから大丈夫よ。ほら、平らになったでしょ?」
     愛莉の手によって降るココアパウダーの粉雪が、チョコレートの表面を包み隠すと、千星は思わず感嘆の息を漏らす。
     出来上がったものをボックスに入れていけば、もう一つギフトの完成。
    「教えてくれてありがとう! 簡単でもおいしい生チョコ貰える人は幸せだな」
     ふと目を落とすと大切な幼馴染へ送るチョコレート。千星の笑顔に愛莉も照れたように笑った。

    「花近さんはどんなチョコがお好きでしょう……?」
     かわいらしい白いエプロンを掛けながら桜が問うと、
    「普通のチョコレートも好きだけど、抹茶が好きかな」
     小さく考え、花近が応えた。
    「和風ですねっ。では、普通のチョコレートも使ったものを作りますね」
     二人でレシピ本の中を探し作ると決めたのは、チョコチップの入った抹茶のシフォンケーキ。
     二人で協力して材料を混ぜ合わせていく。
    「一緒に作るのって楽しいね」
    「えへへ、そうですね。楽しいです」
     冷蔵庫に入れて冷やしておいたメレンゲを取り出しながらオーブンを温める花近に、卵黄と砂糖を混ぜ合わせながら笑んだ桜は、実は……と続ける。
    「贈りたい相手といっしょに作るのは迷ったのですが、ひとりだと自信がないのです……」
     最近少しずつ料理ができるようになったとはいえ、失敗したら、美味しくなかったら、喜んでもらえなかったら……。
    「そっか。俺も、たぶんおんなじ気持ちになるよ」
     静かに相槌を打った花近。桜も一つ頷いて。
    「だから一緒に作るからには、とびっきりおいしくしたいです……気持ちがこもってますから……」
     言いながらうつむく頬がピンクに染まる。その横顔を見た花近も頬が熱くなるのを感じた。
    「桜ちゃんがそう思ってくれるだけで俺、すっごくうれしい。ありがとうっ。美味しくしようね」
     いつものように明るく笑む彼に、桜もつられて笑う。
    「完成したら、一番に食べてくださいねっ」
     その後も他愛ない話をして時々笑って、時々レシピを確認して。焼き上げの間はふんわり香る甘い香りにふたりで和みながら。
     焼きあがったのは小さくかわいい抹茶チョコチップのシフォンケーキ。
     花近に背を向け桜が用意したのはラッピング。
     ペーパーレースを強いたトレイの上にシフォンケーキを乗せて、透明のビニールで丁寧に包んでいく。バレンタインの色の赤いリボンに桜が描かれたタグを添えて。
     女の子らしく可愛く飾った贈り物は、きっと彼を笑顔にするだろう。

    「チセ~♪ 一緒でバレンタインチョコを作りましょ? もちろん、うさパぺちゃんも一緒にね」
     材料を片手にオリガ・オルフェイス(夢奪う告知の花・d10151)が声を掛けると、千星はにっこり笑んだ。
    「もちろんだよ、オリガ・オルフェイス」
    「そうそう、お揃いのエプロンも用意してみたワア」
     調理台に材料と共に広げられたのは、かわいらしい二枚のエプロン。千星はかなり小さい方を手にすると、オリガはふふっと微笑んで。
    「それはパぺちゃんの分」
    「お揃いなのか? すごくうれしいな!」
     早速、と千星は腰にいるパペットを取り出すと、丁寧に着せ付けた。自分もエプロンを身に着けると。
    「似合う似合う!」
     拍手をして嬉しそうなオリガに、千星もうれしくなった。
     作るのは、グラノーラ入りチョコレート。
    「簡単なのか?」
    「とっても簡単なのよ、ほら……」
     オリガが差し出したスマートフォンに映し出されたのは、作る工程を映した動画。
    「これ、チョコをレンチンで溶かしたら、そこにグラノーラを混ぜて固めるだけなの。どうかしら?」
    「溶かして固めるだけは、美味しいな!」
    「じゃぁ、決まりね。早速作りましょう!」
     手早く材料を用意していくオリガの手際の良さに感心しながら、千星も制作に参加していく。
     レンジで温めたチョコレートをボウルに流してグラノーラを混ぜていくと、徐々に纏まっていく。
     難しい顔で混ぜる千星に、オリガの表情はまるでお姉さん。
    「大丈夫、少しくらい失敗しても意外となんとかなっちゃうものよ」
     纏まったチョコレートをシートを敷いたパッドに二人で流し入れ。
    「アレンジして誤魔化したり、とかね」
     ウインクをしたオリガがチョコレートの上に散らしたのは、ナッツやどらフルーツの欠片たち。
    「わぁ、お菓子作りって魔法みたいだな!」
     あっという間に鮮やかに彩られたチョコレートに、千星は感嘆の声を上げた。
     冷蔵庫で固めれば、美味しいグラノーラチョコレートの出来上がり。
     それを丁寧に切り分けていくオリガは、その一片をさらに半分に割って。
    「ラッピング前に……ちょっとお味見」
     小さな小皿に乗った欠片を二人で頬張れば、口の中に広がるのはサクサクの歯ごたえと、甘い味。
    「ん、美味しい!」
    「うまいな!」
     後は可愛くラッピングして、大切な人に……。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月13日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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