ねね子の誕生日~それどころじゃなかったずら!

    作者:J九郎

    「……ねね子。……これは、何?」
     いつになく厳しい声で、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)が差し出したのは、テストの答案用紙。それを見て、叢雲・ねね子(中学生人狼・dn0200)は頭の狼耳を竦めて、あちゃーという表情を浮かべた。
    「うう、見つかっちまったべ」
     そう、それはねね子の後期中間テストの答案用紙だった。その結果は惨憺たるもので、具体的に言うとクラス最下位だ。
    「べ、勉強なんかできなくても、灼滅者としては問題ないずら」
     視線を逸らしながらそう抗弁したねね子だったが、
    「……言い訳はよくない」
     妖に一蹴されてしまった。
    「……これは、今度の後期期末テストに向けて、特訓が必要」
    「うぇっ!? 特訓は戦闘訓練だけで充分だべ!」
     なんとか逃げ場を探そうとするねね子だったが、いつの間にか周囲は、面白半分に事態を見守っていた灼滅者達に囲まれてしまっている。
    「……ここじゃ集中できないし、図書館にでも行きましょう」
     観念したねね子の襟首をつかみ、引きずるようにして連行していく妖。
    「うう……おら、今日は誕生日なのに散々なんだべ」
     ねね子のそんなつぶやきを聞き流しつつ、妖は周囲の灼滅者達に目を向けた。
    「……そうだ、みんなもねね子の特訓に協力して。私だけじゃ、教えきれない」

     ねね子に勉強を教えるのも良し、ねね子と一緒に勉強を教わるのも良し。
     突発的に始まった勉強会に、あなたも参加しませんか?


    ■リプレイ

    ●さあ、勉強を始めよう!
     数刻後。叢雲・ねね子(中学生人狼・dn0200)は、図書館内の机の前に座らされていた。
    「さて、ここにもまた、成績が若干、可哀そうな人がおりましたか……。なに、私にお任せを……。どこかのツンバカ委員長相手に長年、勉強を教えて来たという実績がありますからねぇ……」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)が爽やかな笑顔を浮かべながら、ねね子に近づいていく。しかし、ねね子の鋭い感覚は、その目が笑っていないことを敏感に感じ取っていた。
    「こ、怖いずら……」
     思わず椅子から腰を浮かそうとするねね子の肩を、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)が押さえつける。
    「……ねね子、逃げちゃダメ」
    「だけんども、やっぱり勉強は苦手なんだべ」
     なおも渋るねね子に、今度は九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)が説得を始めた。
    「ねね子、勉強は自分の為じゃなくて未来の子供の為と思うといい。子供に勉強を教えてとお願いされて、教えられるお母さんは憧れないか?」
    「そ、それはかっこいいずら」
     ねね子が、ここに来て初めて、ほんの少しだけやる気を見せる。
    「大丈夫っす。ねね子だけにつらい思いはさせないっす!」
     いつの間にかねね子の隣に座っていたのは、押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)だ。
    (「五教科は苦手でも四教科が得意ならまあいいんじゃないの」)
     ハリマはそんなことをチラッと思いつつも、妖や流希から感じるプレッシャーに押され、気付けばねね子と机を並べていたのだった。
    「自分も理科が苦手っすから、ねね子と一緒に教わるっす。どこが分からないのか分かるきっかけになるかも?」
     力強く拳を握り締めるハリマの様子に、ねね子も道連れができたならと覚悟を決める。
    「準備はできましたか? では、ツンバカ委員長にも効果のあったあれやこれやを纒てかましてあげますよ……。遠慮はいりませんねえ……。ふふふふふ……」
     理科の教科書を広げた流希が、ねね子とハリマに怪しい笑みを浮かべて近づいていった。
    「さぁ、挑戦者式勉強法をご堪能あれ……」
    「やっぱり怖いずらー!!」
     それからしばらく、静かな図書館に場違いなねね子の悲鳴が響き続けていたという。

    ●みんなでお勉強
    「ハ、ハードだったずら……」
     『挑戦者式勉強法』をなんとかこなし、死んだようにぐったりと机に突っ伏すねね子。だが、勉強会はまだ始まったばかりだ。
    「では、次は英語の勉強をしよう」
     ヴァーリ・マニャーキン(本人は崇田愛莉と自称・d27995)はそう言うと、ねね子の前に1冊の漫画本を置いた。
    「漫画? 英語の勉強じゃなかったずらか?」
    「英語の勉強だぞ。先ず勉強の合間の休憩も兼ねて、その漫画を読んで内容を理解するんだ」
    「??? よく分からないけんど、分かったべ」
     ヴァーリに促されるままに、ねね子は渡された漫画を読んでいく。
    「読み終わったか? そうしたら、今度はこっちを読んでみるんだ」
     ヴァーリが取り出したのは、ねね子がたった今読んだ漫画の、英訳版だった。ヴァーリは英訳版を参考資料として、此の言い方だとこういう単語、こういった表現だとこういう文法を使うということを、根気よく教えていく。
    「急いで改善しようと詰め込んでも逆に混乱して苦手意識が生じかねないしな。先ずは基礎をしっかり整えていこう?」
    「お、おうずら!」
     頭から煙を噴きそうになりながらも、懸命に2冊の漫画を見比べるねね子。
    「どう、ねね子ねーちゃん? 漫画で見れば、英語もそんなに難しくないんじゃない?」
     ヴァーリの従兄弟である崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)が、いつしか漫画に夢中になっているねね子にそう尋ねる。
    「うん、なんとなくだけど分かってきたずら! 意味が分かってくると意外と楽しいんだべ」
    「勉強を楽しむ余裕があれば後は努力だけだよ。何、私みたいな小学生でも英語をすらすら読めるようになるんだ。努力を重ねれば大丈夫さ」
     英語そのものよりも、まずは勉強のやり方を教える。ヴァーリの作戦は、どうやら功を奏したようだった。
    「じゃあこの調子で、次は社会を勉強しようか」
     來鯉がそう言って、机の上に数枚の写真を並べ始めた。
    「これが呉肉じゃが怪人、これが名古屋小倉トースト怪人、これが広島のもみじ饅頭怪人、そしてこれが銚子秋刀魚怪人だよ」
    「ご、ご当地怪人がいっぱいずら!?」
    「で、これが日本地図だよ。何処にどういう名産品が有って、何の生産量が高いか、ご当地怪人を見ながらなら分かりやすいでしょ?」
     ねね子に誕生果であるバナナハートのタルトを差し出しつつ、無理しないペースで説明していく來鯉。
    「中々に斬新な勉強方法だな。私も参考にしよう」
     いつしかヴァーリも一緒に講義に耳を傾けていて。
    「結構社会って重要だよ? 間違ってる事発言して怪人怒らせて面倒になる事もあるし」
    「それは灼滅者には切実な問題だべ……」
    「でしょ? 其れに、ねね子ねーちゃんって旦那さん探ししてるけど、相手が海外の人の場合、きちんと日本の歴史や文化を理解しておかないと相手の家族に自国の歴史や文化も知らないのか、って悪印象持たれちゃうよ? 其れを防ぐ為にも、ね?」
    「花嫁修業でもあったべか! 社会、奥が深いんだべ……」
    「いくら奥が深いと言っても、はっきり言って社会は暗記だ。答えを見ながらでいい、重要なのは反復練習――2日に1回、10分でいいからやってみるといい」
     紅が、社会の勉強の仕方をねね子にアドバイスするが、
    「その継続するっていうんが、難しいんだべ」
     ねね子は狼耳を伏せて頭を抱えてしまう。
    (「ねね子にこんな弱点があったとはな」)
     紅は彼女の意外な弱点に新鮮な驚きを感じつつも、暗記のコツを教えていった。
    「歴史とかは丸暗記するよりも、物語として覚えた方が覚えやすいっすよ」
     ハリマは得意な歴史を、その時期にあった他の出来事も併せて物語仕立てにして教えていき、來鯉は歴史漫画を見せながらハリマの説明を捕捉していったのだった。

    ●頑張れ、もう一息
    「お疲れ様。まあなんだ、がんばれよ」
     暗記のし過ぎで、知恵熱を出して頭から湯気を吹いているねね子に、三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)がプリンと温かい紅茶の缶を差し入れる。
    「ありがとうずら。うう、優しさが身に染みるんだべ」
     顔を上げ、気力を取り戻すようにプリンを掻き込むねね子。だが、ねね子の試練はまだ終わっていなかった。
    「今年もお祝いをと思ってやってきたが、この成績はちょっと見過ごせないな。やはり私達は学生なのだから――」
     一息ついて紅茶を飲み始めたねね子に、くどくどと説教を始めたのは、遅れてやってきた志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)だった。同じ人狼研究部の紅に呼ばれてやってきた友衛は、数学の問題集をバサッとねね子の前に置いた。
    「私は数学を教えよう。とはいえ、公式や計算のやり方を覚えるには、やはり反復練習だ。頑張ろう」
    「す、数学は百まで数を数えられれば充分だべ」
     数学どころか算数未満なねね子の認識に、友衛は眉をひそめる。
    「数学は灼滅者としても大事だぞ。私達は戦闘の時に大体の命中率が分かるが、より効率の良い攻撃ができるかという事を考える為には数学ができなくてはな」
    「おおう……灼滅者って、もしかして結構勉強ができないといけないんずらか」
     今頃になって、そんな当たり前のことに気付いたねね子だった。

    (「同じ学年ですし、あたし勉強得意ですからお勉強を教えることはできますけど……。でも、みなさんお手伝いしてくださるならもう大丈夫、ですよね?」)
     本棚の影からそっと勉強会の様子を窺っていた羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は、ねね子に気付かれないように静かに図書館内の会議室へと移動した。
    「だったらあたしは勉強会の後の準備をしておきましょう」
     陽桜はさっそく、会議室の飾り付けを開始する。テーブルの上には、準備してきたケーキやお菓子、紅茶やジュースを並べておくのも忘れない。その中には、ハリマが用意してきたクッキーや、紅葉が持参してきたプリンも含まれている。
    「勉強会が終わったら、みんなで楽しい誕生パーティーをするのです。だからねね子さん、お勉強頑張って!」
     陽桜は勉強中のねね子に心の中で声援を送りつつ、パーティーの準備を進めていった。

    ●勉強明けの誕生会
    「終わったずらーっ!!」
     最後に妖による国語の講義を終えたねね子は、大きく伸びをしながら思わず叫んでいた。
    「……ねね子。図書館の中では静かに」
     妖に注意され、慌てて口を塞ぐねね子。そこへ、
    「よーっす! 頑張ってっか? 誕生日用のケーキを差し入れに応援に来たぜ!」
     大きなケーキの箱を持った真月・誠(道産子くせっ毛ガキ大将・d04004)が、タイミング良くやってきた。
    「ケーキ! 食べるずら! 勉強のし過ぎで腹減ったんだべ!」
     その箱を目にしたねね子が目を輝かせる。
    「だったら、こっちの部屋に来てください。食べ物も飲み物も、準備してありますよ!」
     陽桜に導かれ、一同は綺麗に飾り付けのなされた会議室に移動した。
    「おおう、ここは天国ずらか!?」
     恐らくこれまでの一生でもっとも勉強をした後のねね子にとって、そこはまさに楽園だった。
    「新しく重ねるねね子さんの1年が、素敵なものになりますように!」
     陽桜の音頭で、手に手に紅茶やジュースを持った一同が乾杯する。
    「ケーキ! ケーキを食べるんだべ!」
     早速ケーキに飛びつこうとするねね子に、誠はケーキを切り分けながら、話しかけた。
    「なぁねね子、オレ思うんだけどよ、勉強って大事だぜ」
     それから語り始めたのは、誠と彼女の話。誠の彼女は実家とトラブルを起こしていて、高校を卒業したら連れ戻されること。誠はそれまでに彼女を守れるようになるという決意を固めていること。
    「腕力も勿論なんだけどさ、それだけじゃねぇんだ。実家と縁が切れても生きていけるように、頭も何もかも強くならなきゃいけねぇ」
     だから苦手だけど自分も頑張っているのだと、誠はねね子にそう告げた。
    「ねね子も、折角嫁の貰い手が出来ても勉強が出来ない嫁じゃだめだなんて言われちゃ参っちまうだろ?」
     お互い頑張ろうなとニカッと笑いかける誠に、
    「今日の勉強に比べたら、大体のことは怖くない気がするずら!」
     ねね子も笑顔でそう返す。
    「叢雲、勉強お疲れ様」
     誠からケーキを受け取り、さっそく頬張り始めたねね子に声を掛けたのは、友衛と紅だった。
    「そして、誕生日おめでとう。勉強の後は楽しいお祝いにしよう。このプレゼントは私から。シャープペンシルだ」
     友衛は綺麗に包装されたシャープペンシルを、ねね子に手渡す。
    「こいつも……まあ、誕生日プレゼントだ」
     続いて紅が、小さな小箱をねね子に渡した。
    「開けてみていいずらか?」
     ねね子の問いに、紅は頷く。
    「どうだ? シンプルなブレスレットだが、喜んで貰えれば幸いだ」
     それは、小さいクリスタルが装飾された、ブレスレット。ねね子用に、やや小さめのものだ。
    「キラキラしてるんだべ! 早速付けてみるずら」
     顔を輝かせたねね子は、さっきまでの勉強のつらさをすっかり忘れているようで。
     でもきっと、今日勉強したこと、そして教えて貰った勉強のやり方は、ねね子の血肉になっているはず。その結果は、きっと今後のテストの成績に表れてくるのだろう。
    (「……そうだと、いいな」)
     妖は、祈りにも似た気持ちでそう思うのだった。



    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月19日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
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