「やっべェ、今月もう生きていけねェ……」
「自転車操業もここまでか……」
詰んだ。
冷たい舗装路に膝を付いた二人の男は、厚みを忘れた財布と、終ぞ膨れた事のない腹に打ち拉がれつつ、眼前に居並ぶ消費者金融の無人店舗を眺める。
「もう俺達に貸してくれる所なんて」
「ある訳ねェよな……いや……一つだけ、ある……!」
がばちょ、と立ち上がった男が瞳に光を取り戻し、足元の男に言う。
「無担保、即日融資をお約束~♪ って歌、聞いた事あるだろ?」
「あそこか……アヤしいって噂の闇金だろ、勿論知ってるさ」
多重債務者の間ではピンチの時によく囁かれる歌。
実際に借りたという者の証言がない為に噂の域を出ないが、多重債務者達が実しやかに話すには、その店舗は善良な消費者金融を名乗るもの、その実態は裏にコワ~イお兄さん達が居るらしく――、
「金利はトイチどころかトゴトナナって聞くぞ」
「それでも貸してくれるんだろ?」
万人に、必ず、貸してくれる。
「……っ」
近場の電話ボックスに駆け込んだ二人は、目を皿の様にして件の広告を探し始め、
「こ、これだ!」
震える手で紙片を剥がし取った――その時。
「その話、詳しく聞かせてくれやしませんかなぁ」
ガラスを隔て、茨木・一正(無貌なる憤怒の形・d33875)が、そのチラシを指に差しながら立っていた――。
「超暴利で債務者を追い詰め、彼等を玩具の様に、奴隷の様に使役する連中がいるとか」
実際に借りたという者が居ないのは、皆『始末』されているからでは――。
噂の聞き込みをした一正が不穏を言ちると、集まった仲間達の瞳は一層輝く。
「なんて闇金だ!」
「弱者に付け入る悪は、確実に始末せねばなるまい」
悪者は悉く滅ぶべし。
皆々がそう意見を合わせるが、一正の糸目が慎重に仲間を見るには訳がある。
「電話ボックスに貼られていたチラシには電話番号しか記載がなく、店舗の場所は不明……」
現地を襲撃する手立てがないのだ。
仲間は暫し黙した後に顔を持ち上げ、
「じゃあ、ワザと借金して債務者になってさ」
「お越し頂くといいんじゃない?」
取り立てに来た連中をやっつけてはどうか――と言う。
成程、と首肯を合わせた一正は殺意の波動を解き放ち、
「ならば沢山借りましょうや」
と、ピンクの電話のダイヤルを回した。
参加者 | |
---|---|
周防・雛(少女グランギニョル・d00356) |
神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042) |
戒道・蔵乃祐(聖者の呪い・d06549) |
野良・わんこ(握った拳は対話ツール・d09625) |
カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729) |
ファム・フィーノ(キュートな手榴弾・d26999) |
荒吹・千鳥(風立ちぬ・d29636) |
茨木・一正(無貌なる憤怒の形・d33875) |
●
窓とカーテンは全て閉め切ったものの、砂利を踏んで我が家に近付く跫音や、複数の男が隙間から内部を伺う気配などは、恐怖と緊張に五感を研ぎ澄ませた姉妹に鋭く迫る。
「泣かないで、皆……きっと誰かが助けに来てくれますわ……」
幼い妹らの肩を抱き寄せるは、この家の長女。
か細い腕に守られた妹達は、鳴り止まぬチャイムに息を潜め、
「怖いよお姉ちゃん……」
「大丈夫や、うちが守ったる」
ぎゅっと抱き合って時の過ぎるを待つも、次いで玄関扉がドンッと蹴られれば、その乱暴さに末妹が思わず声を漏らしてしまう。
「ふええ、戸、コワれちゃうー!」
「駄目?! ばれちゃうよ?!」
むぐ、と口を塞ぐも間に合わぬか――、
「兄貴、ガキの声じゃ!」
「おうおう、やっぱ居んのかい」
ガチャガチャとノブを回した男達――『カンカンファイナンス』のメンバーは、チェーンソーを持つ部下を呼び寄せると、
「どうせ差し押さえる家じゃ、やれ」
「うす」
言うや否や、扉を破壊して乗り込んだ。
裂帛の悲鳴を鋸刃の旋回に掻き消した連中は、身を寄せ合う姉妹を邪眼に睨めつつ、後より侵入した男二人に顎で示すと、
「男を捜せ」
「はっ!」
間もなく内部が荒らされ始めた。
「や……やめて!」
見るに堪えぬ横暴を余所に、彼等は少女の腕を引っ張り、
「カネ出せねェってんなら、身ィ売って貰おうか!」
「たすけてパパー!」
妹の危機に、二人の姉が身を挺して庇い出る。
「お望みは何? 体が必要なら、ヒナが行きますわ!」
「うちが何でもしますから、必ずお金は返しますから!」
厳寒にあって薄手のワンピースという貧乏娘ながら、白磁の肌は滑らかで美しく、同じボロを纏う隣の華奢も、出る所は出る、危ういトランジスタ・グラマー。
「この子達はまだ小学生ですのよ……!」
「妹達だけは堪忍したって下さい!」
清貧なる豊満に舌を嘗めずった男は、娘らを強引に攫み、
「ぐふふ、先ずはじっくり品定めだァ!」
欲望の手が迫った――その時!
「ふんギャ!」
「痛ェ!」
上からタライがぼこん、ぼこんと降ってくる。
「何ンだぁこりゃア!」
痛撃に天井を見る間もない。
債務者を探すべく室内を破壊していた男達も災禍に見舞われ、
「んおっ! こりゃ表面塗装して偽装したバナナの皮か?」
「ぐええ……このノブ、ヌメッて気持ち悪ウ!」
毎度の取り立てが思うように進まない。
「ここか!?」
最奥の襖を開ければ、劇画調に相貌を凄ませる男が、ニギニギ……ニギニギ……と殺伐を背負って立っており、
「手前ェが茨木か!」
「おっ、出前のピッザが届いたかな?」
「この修羅場でアホかァ!」(ピシャッ)
衝動で閉めてしまったが……くそっ、頭から離れない!
漸く押入れで震える本人を見つけた時は、連中の苛立ちも一入であったが、
「あの、……借金で首が回らなくて……一先ず金がいるんです……」
「手ン前ェ、夢のテーマパークの設立だとか抜かして限度額いっぱい借りやがって!」
「ああ、す、すいません今用意しますので……」
「ァくしろ! どんだけ膨らんでると思ってンだ!」
その会話を、利率を耳にした一人が小首を傾げた所で、事態は新たな展開を迎える。
「トゴって……こちらは撫桐組の方じゃないの?」
撫桐組。
最早その名に反応せぬ者はない。
「ちょお待てや嬢チャン、お前ェん家は撫桐組からも借りてンのか?」
多重債務者にはよくある話だが、聞き捨てならぬ――徐に近付いたスキンヘッドは、逃げ出そうとする男を引っ攫み。
「撫桐組に世話ンなってるとは聞いてねェぞゴルァ」
「ゆ、許してくれ……そ、そうだ、撫桐組とは縁を切って、金はまた作ってくる!」
連中は必死で媚び諂う債務者をじわじわ囲い込む。
「だから、ぼ、僕だけは見逃してくれ……助けてくれ……!」
「クズだな。コイツはマグロ漁船にブッ込む」
「内臓は半分だけ持っていけ」
室内に侵入した五人の男が一箇所に集中した所で、縋り付く男の手がブラリと垂れた。
諦めたのか――否、その唇は漸う口角を持ち上げ、
「――ああ、処で」
と、飄然を挿した。
●
「辞世の句はもう少し凝らなくていいので?」
「何ンだと……?」
当初。
件の連中は、三千万円の借金を負うクズ男――茨木・一正(無貌なる憤怒の形・d33875)が灼滅者とは知らず、糸目に囁く科白の意も量りかねる裡、殲術道具の解放を許していた。
「どういう事だ……なっ、――!」
「ッッ!」
敵の囲繞を逆手に取り、放射線状に撃ち出された灼罪の光条が戦闘の幕開を示せば、痛痒を絞る間もなく連撃が飛び込む。
茨木家の姉役を演じた周防・雛(少女グランギニョル・d00356)と、荒吹・千鳥(風立ちぬ・d29636)だ。
「オイデマセ、我ガ愛シキ眷属達! サァ、アソビマショ!」
「覚悟は出来とるやろね」
黒き仮面で玲瓏を覆い、ドレスを纏った殺戮の道化は操糸『ドールズウォー』を、馥郁と香るグラマラスを清き装束に包んだ巫女は、【八百万重奏符】を発動させて挙措を楔打つ。
妹達とて守られるばかりではない。
「ケイサツ、よばなきゃ……!」
「あっ手前ェ! 動くんじゃねェ!」
窓際の黒電話に駆け寄った末娘ことファム・フィーノ(キュートな手榴弾・d26999)は、対向から走る三下に先んじて受話器を取ると、
「切れてる!」
光の掌打に敵を退けつつ、通信の遮断を――つまり外にも仲間が居る事を確認し、戒心を走らせた。
「クッ、何だコイツ等!?」
娘ッコにしては、ガキにしては慣れ過ぎている――。
忽ち顔色を変える男達の前に、カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)は侠客を相手取るに相応しい口上を紡ぎ、
「草原の狼たる太祖に仕えし者の末、風虎の一族が生き残りにして今は撫桐組の世話に与る者――白き月(プティブラン)の名を冠せし我が名はカンナ!」
「撫桐組……だと……!」
「貴様らァ! 撫桐の!」
全てが宿敵のカラクリと気付いた時は既に遅く、彼女が護符に耐性を敷いた後。
正体を見破った褒美には、タライ――ならぬ身ごと墜下した野良・わんこ(握った拳は対話ツール・d09625)が、敵群を斬り裂いて現れ、
「ふっふーん、社会のダニに寄生するゴミ共はおかえりください!」
「ぬぐぁ!」
「ッ、こんガキが、サーカスに売り飛ばす!」
派手に床に転がされた男達が、凶相を歪めながら起き上がれば、侠譚『丁半賭場』を引き連れた極道の妻――神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)がメンチを切り返す。
脇の壷振師はドスを畳に突き刺し、
「ウチに貸したもんが先だっちゅうんじゃ、ああん?」
「……茨木の野郎、賭場で借金デカくしやがってッ!」
後退りした躯は襖に凭れ、罵声を放つが精一杯。
そこに更なる一人が投げ飛ばされれば、倒れた襖の向こうには、ごろり寝転びマンガを読む戒道・蔵乃祐(聖者の呪い・d06549)が、寝返りに衝撃を交わし、
「今日のところは客分ということで。よろしくお願いしますわさ」
「お前、この状況でよく寛げるな!」
額に血管を浮き立たせる敵に、挨拶代わりの颶風をプレゼント。
激烈なる旋風に上等のスーツを破られ、血に汚された男達は歯切りし、
「畜生! これだけやってて応援が来ねェだと!?」
玄関と勝手口に一人ずつ、退路を塞いでいる筈の手勢が来ない!
その焦燥は自ずと視線を両方の通用口へ導くが、そこから現れたのは部下ではなく――、
「警急を知らぬはお互い様でさぁ」
「貴方達も、外の悲鳴を聞いてなかったでしょう?」
撫桐組が組頭、此度は裏仕事に預る撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)と、その鞄持ちを務める槇南・マキノ(仏像・dn0245)。
建屋の裏手で取立屋の侵入を見届けた二人は、内部で戦闘が始まるに合わせ、外を固める部下らを蹴散らしていたのだ。
討ち取った証か、漢組の代紋を刻むドスが床に転がれば、
「兄貴、こりゃテツとヤマの……!」
衝撃が、憤怒が凶暴を奮わせ、
「……上等だ。望み通り、派手に戦争(や)ってやるよ!」
チェーンソーが、拳銃が、火炎放射器がロケットランチャーが。
鄙びた一軒家を狂気の波動に突き上げた。
●
既に軍庭は整えられている。
カタギの連中にご迷惑は掛けぬと、雛が惨憺たる殺気に戦場を囲み、娑婆蔵がドンパチシャッターを施せば、まさに暴れ放題といった処。
漢組と撫桐組――龍虎の爪牙が交わる黒檻は、肉の屠り合い、血の啜り合い宜しく、
「社会的弱者に付け込むとは許しがたき! その悪の芽、摘み取って差し上げますわ!」
「お前はキレイなカラダの儘、遊郭に売っ払う!」
傷モノにしては値が下がると惜しんだのが甘い。
この凄艶もまた侠の者なれば、操糸を躍らせて封縛し、骨の軋む音に瑰麗の微笑。
「そっちの娘は女郎部屋にブチ込め!」
「俺達がしこたま味わった後になァ!」
小柄ながら豊満を備え、紅唇に柔らかい西の抑揚を零す巫女は、肌も瑞々しき現役中学生――数え役満な美少女も狙われていたが、
「年頃の娘に手ぇ出すからには、命(タマ)ぁ取られてもしゃあないやろ?」
「!!」
蓋し千鳥に脅しは通じない。
突き付けられた銃口をブン殴った鬼神の怪腕は、そのまま敵懐へ侵略して念入りに、念入りに磨り潰す。
感情の絆を繋いだ鈴音は、間断を許さずここに割り込み、
「うちらに返す前にキズモンにするんじゃねぇ!」
「ぐわっ!」
賭場の若衆に一太刀を任せるわ、【夢想橋】の延伸に鋸刃を砕くわの極妻無双。
傷モノにする処か傷モノにされた取立屋らは瞋恚を極め、
「グッ……この際家は壊してもいい、やれ!」
「へい、兄貴!」
ロケットランチャーが爆音を轟かせた。
「ファイヤー!」
哀れ茨木邸(借家)はハリウッド映画並みの爆散を見せるか――否、刹那シロフクロウの双翼が烈風を翔るや、カンナは真白き帯の鎧をわんこに届け、
「まあ、あれじゃな。この手の輩は好まぬ故の」
「――!」
「ごぼうに兵器を封じられる気分はいかほどに!」
「おおお嗚嗚ッ!」
堅牢を得たマコーレーは【ごぼう】を振り下ろして弾丸を両断する。
かなり危険な距離で爆ぜたロケット弾は、凄まじい焦熱と猛風に視界を覆うも、撫桐組の手榴弾は追撃の機宜を決して逃さない。
「カンカンさん、ふみたおすよ!」
「ンぎゃッ!」
借金は踏み倒す、組織も踏み潰す。
祖霊の碑と共に敵陣にダイブしたファムは、次撃を促す兄貴格を灼業の光弾に射抜き、兵器としての格の違いを見せ付けると、
「トンカラトンと言え!」
少女が着地した先では、娑婆蔵とマキノが白帯に迎え、特攻の代償をチャラにする。
「それにしても、ラビリンスアーマー所持率が高いのは……トンカラトンの為かしら?」
偶然か、若しかこれが結束力と首肯する彼女の傍らでは、蔵乃祐がリアルに動く仏像にジワジワとしたものを得ながら、
(「仏の顔も三度までってやつか……? いや、地獄に仏とも言うよな……」)
「手前ェ等、漢組に喧嘩売って無事で済むと思うなよッ!」
「どっちなの……なるべく怒らせないようにしよう……」
「ウルァ! 怒らせたんは貴様らじゃア!」
海嘯の如く迫る火炎放射を弧月の冴刃に斬り裂く。
炎が花と散る先に拳銃の斉射を見た一正は、即座に楯と踏み出し、
「笑止!」
鬼が嗤うか――次々に射られる正義のビームが銃口を弾けば、あらぬ方向へと撃ち出された弾丸は壁に天井に穴を開けるのみ。
「ッ、アジな真似を……!」
「兄貴、早いとこ回収しないと『運び屋』が来まさァ!」
「分かってるッ!」
舎弟の声を掻き消す様に銃爪を弾く――憤懣と焦慮が手繰った事の顛末は、己が敗北であったろう。
「運び屋……ですって……?」
元気印と共に撫桐新参物連携キックを見舞う傍ら、不穏な言に耳を欹てたマキノは、空中に魔法陣を展開する鈴音の声に導かれ、
「……マグロ漁船だとか女郎部屋だとか言ってたけど、身柄を引き渡すにも漢組が一枚噛んでいるって事?」
「鈴音! その『運び屋』とやらが黒塗りのバンでお出ましだァ!」
窓を見ろ、と言うべきか。
撃て、と言うべきか。
娑婆蔵のレイザースラストに促された光輪が取立屋連中の腱を裂くのと、彼等が逃走を図ったのは同時で――。
「一人だけでも運ばせる! 奴等を手ブラで行かせるな!」
「押忍!」
「うおー放せーわんこが何をしたー」
床に倒れた兄貴の命令に動いた部下二人が、野良犬少女を担ぎ出せば、蔵乃祐と一正が直ぐさま之を遮る。
「予習に金融・借金系のコンビニコミック(ワイド版)読んできたけど、これって」
「人身売買の仲介、臓器の運搬――漢組の、人の噂の絶えぬこと尽きぬこと」
幾許の皮肉を添えるか、床に撃ち込まれた【茨木一本角】が烈しい振動波に挙措を奪うと、揺らぐ敵の脚にはイカロスウイングが絡んで進退を阻み、
「でぇい!」
「ぬあっ!」
隙を得たわんこは、反撃の地獄落としに敵を沈める。
床に男がメリ込む傍ら、三人の部下達は脚を引き摺って逃げ惑い、
「ヒィィ、俺達の無収穫だけが報告されてしまうゥゥ!」
無論、茨木家の姉妹(仮)から逃げられよう筈もない。
「アーレ、ドールズ! ファムも一緒にお願い!」
オベロンとティタニア、二体の殺戮人形がトテトテと敵陣へ向かう傍ら、追従するボンボンの頭を撫でたファムは【Ancestor】に動物を模り、
「行け、レッサーちゃん!」
「おおお嗚嗚ををををっっっ!」
闇黒と赫光が爆ぜる中、疾風の如く滑空するキハールの翼に沿う様に、千鳥のくまパンチが絶叫を搾った。
「姉妹は嘘や言うても、撫桐組……言わずとも息は合うもんやなぁ」
「ぬぐあああああ嗚呼!!」
見た目は可愛らしくとも、威力は凄惨を極める――幻獣大進撃の後には、地を這う兄貴格のみが残される。
「畜生、撫桐組のガキ共がッ!」
彼は漢組の代紋を握りながら灼滅者を痛罵し、
「俺を騙した茨木の野郎は許さねェ、女は売るが、貴様はここで鳥の餌にする!」
「――哀れ也」
冷然が短く言ちたのは、約束の時間を過ぎたか――誰一人降りる者なく去った車の音も聞こえず、見限られた事も知らず気焔を吐く男への惻隠。
「お前は見世物小屋に売り飛ばして、末っ娘は自衛隊に納品する!」
怒りに震える指先に射られたカンナは、馬頭琴に寂寞の音を弾き、
「堅気に手を出し、渡世の仁義を踏み躙る愚者よ、妾の戦慄にて貴様らを黄泉路へと旅立たせて進ぜようぞ!」
「……ッア……がぁああッッ……!」
儚く美しき旋律に終焉を告げた。
●
壁や床には穴が開き、家具は爆発で吹き飛び。
「あー……」
つまり。
やりすぎた。
「皆血気盛んな十代だからね。しかたないね」
蔵乃祐は周囲を見渡して言うと、その隣、借金三千万円の男が頭を掻く。
「…………まあ、今回借りた金で片をつけましょうや」
これを聞いた仲間達は一斉に挙手申告し、
「地味な衣装を特注するのに使わせて頂きましたわ!」
「指が攣るまでガチャ回しました!」
次々に。
「えへへ。ポテトチップ、ゼンブの種類、買っちゃった!」
「僕はオプション全乗せサイズアップ絵を設定別に何件か」
次々に。
「私は事務所の建て直し費用の足しにさせて貰ったわ」
「そう言えば、綺麗になっておったのう」
「……!」
がばちょ、と預金通帳を開いてみれば……残高は……残高は……。
「うちが取り込んだ『カンカンファイナンス』かて、もう貸してくれんしなあ」
「……よし、働きますか」
一正は、借金男から灼滅者、そして左官屋へと忙しく身を変えた。
勿論、散財した仲間達も、仲良くDIYである。
時にカンナは硝子の割れた窓の外を見遣り、
「さて、奴等は『運び屋』などと言っておったが、裏の商売とは草原より広いものよのう」
己が灼眼にも聢と見た――あの車が運ぶ先にある闇市場を想像する。
娑婆蔵は手で顎を擦りつつ、
「埠頭や遊郭に運んだ先も漢組の連中が関わっているなら……いや、これは或いは」
ペンキ塗り作業中と忘れたか、肌を汚して閃いた。
「漢組の本部へも運ぶってんなら、直接の乗り込みも可能か……?」
「末端を潰すも良し、本拠地を潰すも良しといった処ですな」
同じく左官で汚れた頬を手の甲に拭った一正が、選択肢の広がりを認める。
鈴音も之に凛然を添え、
「もう漢組は撫桐組を宿敵と捉えているわ。顔も割れているし、やりにくくなるわね」
「組同士の抗争となったら、公安も黙ってはおらんやろなぁ」
「それって、コッカケンリョク?」
更に千鳥が物騒をつけ加えると、ファムと雛は花顔を輝かせ
「ジンギなき戦いの予感!」
「皆様纏めてカタナの錆にして差し上げますわ!」
嫣然を隠す口元の怖いこと恐いこと。
戦闘を終えて一層輝きを増す撫桐組の面子を、客分として見守った筈の蔵乃祐は、少しでも溶け込める様にと着てきた柄の悪い虎柄ジャンパーをマキノに脱がされ、
「刺繍があるともっと様になるわ。貸してくれる?」
「まさか僕にも次があると……?」
残念、もう針は動いていた。
さて、借家の修復を終えた一同は、愈々激化する漢組との戦いに身を投じていくのだが、
「じゃあ今日は茨木ちゃんの奢りで焼肉!!」
「えっ」
「はい賛成!」
先ずは制勝を味わうべく、わんこの提案に従って焼肉屋へブッ込んだそうだ――。
作者:夕狩こあら |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年2月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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