星空と月灯の下、彼女は歌う

    作者:雪神あゆた

     深夜の屋上。
     星と月が照らすそこを、ビュウと音を立て風が吹いた。
     廃ビルの屋上に立つ彼女の、漆黒の髪、片側をロングサイドテールにしたその髪が揺れる。
     彼女は、星野・えりな(ダークスターエンジェル・d02158)が闇堕ちした存在。
     灼滅者だった時と、ほとんど変わらない姿をしている。が、彼女の体や姿勢から、淫魔としての色気がただよっている。ふぅ……溜息をつく仕草も、どこか艶めかしい。
     えりなは胸元のペンダントを指先で弄る。そのペンダントはえりながずっとつけていた星形のもの。ただし以前と異なり黒い色をしている。えりなは呟く。
    「自然と闇堕ちして新生ラブリンプロに入れない淫魔の方々、その方々を保護する。そのためには、力が必要です。ラブリンスターさんが以前持っていたような力が……」
     えりなは屋上の端へと歩む。行きあたったフェンスを掴む。
    「その力を手に入れるのは難しいかもしれません。けれど闇堕ちした彼女にも協力してもらえば……」
     息を吸い込み、歌いだした。透き通るような声で。
     それはダークネスに堕ちた『親友』に呼び掛ける歌。星空と月灯の下、逢いたいと、えりなは歌い続ける。
     一方、廃ビルの下の歩道。
     そこを、一般人の男女が歩いていた。彼らの耳にえりなの歌声が届く。
     途端、二人の瞳から光が消えた。
     えりなの歌には、彼女の意図とは異なってか、一般人を催眠状態にし招き寄せる力があった。男女はふらふら廃ビルの入り口へ歩く。
     
     学園の教室で。
     姫子は灼滅者に話を開始する。
    「ガイオウガ決死戦で闇堕ちした星野・えりな(ダークスターエンジェル・d02158)さんの居場所が判明しました。
     えりなさんは自分と同じく闇堕ちした、灼滅者時代の親友と連絡を取りたがっており、彼女に気づいてもらうため廃ビルの屋上で歌おうとしています」
     だが、えりなの歌声は、意図してか意図せずか、声を聴いた一般人たちを催眠状態にしてしまう力がある。催眠状態に陥った一般人は、えりなのいる屋上へ移動しようとする。
     そのうえ放置すれば、いずれえりなに協力する強化一般人になってしまうのだ。
    「えりなさんを放置しておくことはできません。現場に行き、えりなさんと戦い、救出してあげてください。万一、救出が不可能なら……灼滅を」
     姫子は地図を取り出し、廃ビルの位置を説明する。
    「午前二時に廃ビルの屋上に移動してください。そうすれば、えりなさんが歌う前に、彼女に接触できます」
     そこでえりなと戦わなくてはいけない。
     えりなは、闇堕ちする以前とほぼ変わらない姿をしている。だが、仕草や表情が、今までよりも艶めかしい。
     また、戦闘時には悪魔めいた羽や尻尾が生える。
     そのえりなは、ジャマーの位置に立ち次のような技で戦う。
     羽や尻尾で相手に触れて、相手の体力を吸収する術式の技。
     素早くかつ艶めかしい動きで敵を翻弄する、パッショネイトダンス相当の技。
     優れた歌唱力と透明感ある声でのディーヴァズメロディ相当の技。
     体勢が崩れればシャウトで己を回復させることもある。
    「えりなさんは特に神秘の力が強い強敵です。
     でも、戦うだけではなく、えりなさんに、人の心を刺激する言葉をかけてほしいのです」
     えりなの人の心を刺激できれば、ダークネスとしてのえりなの力は弱まり、また救出できる可能性が高まるのだ。
    「ガイオウガ決死戦では『目の前で誰も死なせません!』と皆を懸命に支援し、皆が危険に陥った際には、皆を生かすため闇堕ちしたえりなさん。
     彼女の心に、皆さんの言葉は届く、と私は信じています」
     もっとも、言葉だけでは彼女を救えない。戦闘不能にする必要がある。
     なお、灼滅者と戦闘をしている間は、えりなは一般人を呼ぶ歌を歌うことができない。
     そこで灼滅者の一人、地央坂・もんめ(大学生ストリートファイター・dn0030が、
    「万が一にも一般人が戦場に来ないよう、俺は屋上の入り口の閉鎖と見張りをしておく。お前たちが戦いや説得に魂を燃やせるよう、俺も全力を尽くすぜ」
     と、仲間に告げた。
     
     姫子は、皆の目をじっと見つめる。
    「今回の機会を逃すと、えりなさんは完全に闇落ちしてしまい、助けることはできなくなってしまうでしょう」
     でも、と姫子は続けた。目に灼滅者らへの信頼を込めて、
    「でも。皆さんならきっと助けられるはず。えりなさんのこと、よろしくお願いしますね」


    参加者
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    氷上・鈴音(欠けた月は戻らない・d04638)
    西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)
    天渡・凜(その手をつないで未来まで・d05491)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)
    真風・佳奈美(愛に踊る風・d26601)

    ■リプレイ


     空気が冷たい。灼滅者44人は、廃ビル前にいた。
     氷上・鈴音(欠けた月は戻らない・d04638)はブレスレッドに触れた。天渡・凜(その手をつないで未来まで・d05491)はシュシュを握る。そして鈴音と凜は、真摯な顔でしばらく祈る。
     凜は祈りを終えると、髪を手早く結ぶ。鈴音もブレスレッドから手を放し、周囲を見た。
     ミカエラ、宥氣、真夜、和奏、明、ワルゼー、輝乃、地央坂・もんめ(大学生ストリートファイター・dn0030)達が、動き出していた。他の者と協力しつつ、見張りや人払いに適切な場所へ移動。
     またラブフェロモン、殺界形成、改心の光、プラチナチケット、魂鎮めの風、王者の風等ESPや、警備員の服を準備。脇差は中継用機材の運搬も行う。
     鈴音と凜は視線を交わすと、ここを彼らに任せ、他の仲間と廃ビルへ。廊下、階段をひた走る。

     屋上の扉を開けると、女がいた。風に揺れる黒髪。星野・えりな(ダークスターエンジェル・d02158)だ。
     えりなは艶めいた、淫魔の笑みを浮かべる。
    「お帰り下さい。私はこれから彼女を呼――」
     西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)が足を踏み出し、えりなへ近づいていく。
    「残念ですが……歌は……紗里亜さんには……届かせません……。お久しぶり……ですね……見えますか? えりなさんの為に……これだけの……方々が……」
     そこで玉緒は、手で仲間を示す。
     その一人、ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)はギターを、ジャン、一掻き。
    「お迎えに来たぜ、お姫さま。守るために闇に呑まれた、ならば今度は、俺達が守る番だ」
     えりなは笑みを浮かべたまま首を傾げ、
    「お迎えも守りも要りません、と言っても無駄ですね? では――」
     背に羽を、臀部に尻尾を生やす。ダークネスとしての闘気が溢れた。

     えりなは息を吸う。歌うつもりだ。
     が、ファルケの方が早い。
     ファルケは踊る。鍛えた足で蹴り、拳で牽制。
     その隙に、鈴音はえりなの背後をとる。鈴音はえりなの膝の裏を刀で刺す。
     えりなは、鈴音とファルケを振り払おうと手を動かした。
     そのタイミングで、玉緒が跳ぶ。宙で縦回転し、踵をえりなの脳天へ。
     着地する玉緒。たゆんと弾む胸。
     が。えりなの顔には変わらぬ笑み。唇が動き、魔性の歌声が放たれる。
     玉緒は音をまともに聞いてしまう。虚ろになる目。
     凜が素早く玉緒に駆け寄る。ベルトを握り、玉緒にラビリンスアーマーを施術。凛の力が玉緒の傷を塞ぐ。
     動き回り戦線を支える凜。
     一方、えりなも動き続ける。一分後には踊りだす。しなやかに動き灼滅者を翻弄、細い手で強烈な打撃を放つ。
     打撃をマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)が体で止めた。
    「っ……強い、さすがえりなっち部長。でも、やっと見つけたんだ……星空代表として、ここは逃さず、助けさせてもらう!」
     マサムネは腕を振りかえす。バベルブレイカーの杭でえりなを穿つ!
     えりなの体から赤が散った。
     ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)と船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)は上空にいた。
     ヴィントミューレは機を逃すまいと、手を上げる。縛霊手より結界を生成。えりなの体を覆う。
     その直後、えりなの足へ、霊犬・団長代行猫烈光さんが走る。咥えた刃を、一閃。
     亜綾自身は息を吸い込み、えりなの足元へ意識を集中。氷を発生させ、えりなを凍てつかせる。
     が、
    「冷たいですね。なら私の声で、場を温めないと」
     一分後にはまたえりなの魔性の歌が発動。標的は、真風・佳奈美(愛に踊る風・d26601)。佳奈美は音の苦痛に顔を歪めた。
     佳奈美は痛みを堪えつつ、友愛を歌う左手のレイピアに菫色の炎を宿す。えりなを刺し、焼く!
     皆の必死の攻撃。えりなの動きが俄かにとまった。
     ヴィントミューレが青の瞳で周囲を観察。
    「援軍の気配はないわ。サーヴァントが出てくる様子もないわね」
     亜綾は、穏やか且つ意志のこもった声を、えりなと仲間へ、
    「でしたらぁ、今のうちに全力で救わせてもらいますよぉ。ですよねぇ、皆さん?」
     佳奈美は亜綾に頷く。
    「ええ。今度は私や皆さんが、星野さんを守る番です。――星野さん! ガイオウガ戦で貴方が守った皆さんがお迎えに来てますよ!」
     佳奈美の橙の瞳から、断固とした決意が感じられた。


     鎗輔が設置した光源が照らす中、戦闘は続く。えりなの攻撃は強力。特に彼女の歌は、灼滅者の体力を大幅に削り、心を惑わす。踊りや体力吸収も侮れない。
     が、八人は倒れなかった。のぞみ、渚緒、明莉、カーリーらを中心とした、サポートメンバーの懸命な治療があったからだ。清めの風や癒しの矢が幾度も放たれた。
     また、ビルや屋上の入口にいる者達は、見張りや人払いを続けている。故に、後顧の憂いなくえりなへ反撃できた。
     結果、えりなは傷つき動きを鈍らせる。えりなへマサムネは呼びかける。
    「部長は一人じゃ無い……みんながいるから、こうして闇の中から手を差し伸べられているんだっ! オレら、おかえりって言いに来たんだかんな!
     あとは簡単だろ? 『がんばれがんばる武蔵坂』だろ?」
     えりなはマサムネを見つめてくる。
    「がんばれ……」
     曲名を繰り返すえりなに、ヴィントミューレは鋭い声と口調で、
    「まずは歌を聞きなさい、それが闇に堕ちたあなたに足りないものよ。そして思い出すの、あなたが歌にかける思いが何なのかを。でないと親友さえ救えないわよ?」
    「歌を聞く……」
     再びえりなは言葉を繰り返す。凜は優しく微笑みかけ、一歩前へ。
    「学園祭も体育祭も、えりなさんの歌声と笑顔で楽しくなれた……みんな、ずっとあの声を、あなたを探してたんだよ……だから、私も精いっぱい歌うよ!」
     そして――歌が始まる。
     口火を切ったのは寛子。「あなたの為のNew Groove♪ でもボーカルは抜いてるの♪ あなたのために抜いてるの♪」と軽快にヒップホップ。
     ヒップホップの次は、結月と囃子がギターの弦を弾く。さやかがトランペットを吹き、いちごと流希がエレキギターとウクレレをかき鳴らす。紡がれる一つの曲に合わせ、
    「頑張れ頑張るえりなさん♪ みんなが待ってるえりなさん!」
     凜が体の底から歌う。凜にマサムネが力強く「頑張れ」と唱和。
    『星空芸能館』伝統の応援歌『がんばれがんばる武蔵坂』を、心桜が、くるみが、徒が、みかんが、ジヴェアが、そして多くの者たちが歌う。
     スマホや機材からも声。織姫や音色、杏子らも、機材ごしに、えりなのために歌っている。
    「「頑張れ!」」18人分の歌と演奏、そして熱気が、空気を震わせる。
     歌の合間にファルケはシャウト。
    「まだまだ続くぜ。少しでも闇に呑まれてない心が残っているのならばっ、さぁ存分に聞けっ、みんなの思いをっ」
     そしてファルケは歌い続ける。脳を破壊するような声と呪わしきリズムで。圧倒的――音痴。
     えりなの顔から笑みが消えていた。それは、ファルケが音痴だからではない。ファルケと皆の歌がえりなの心を打っているのだ。
     やがて曲は変わる。今回書き下ろされた新曲『君の帰る場所』へ。
     歌うもの一人一人がえりなへメッセージを伝え、歌う。そして一斉に、
    「「見えているか、伸ばされた手♪ 聞こえるか、呼んでいる声♪ どこまでだって迎えに行くよ♪ ここが君の帰る場所♪」」
     立ちつくすえりな。その目は、確かに潤んでいた。

     歌は一旦は終り、が、アンコールとばかり再開される。
     鈴音は歌の切れ目で、声を振り絞る。
    「大切な友達に会いたい気持ち、分かるよ。私も、集まった皆も、貴女と同じ想いを経験したから。えりなちゃんと貴女の大切な友達にもう一度会いたいって想い!」
     鈴音は目を閉じる。息を深く吸い目を開く。えりなに、息がかかる距離まで歩み寄り、
    「星野えりな! あんたは一人じゃない! 共に歩む仲間がたくさんいるんだ! 心の輝きをもう一度解き放って、帰ってこい!」
     彼女の声に触発されたように、サポートの皆が口を開く。
     真名と勇介が、
    「決死戦の時のこと、ありがとうございます!」
    「そのとき、貴方が護ろうとしたものは、目の前にもあるでしょう?」
     空凛、柚澄が、さくらえが、
    「あなたの生き生きとした姿をまた見たいです」
    「憧れのお姉ちゃんがいてくれないとダメなの!」
    「寂しいよ、戻ってきて。またキミの歌を聞かせて」
     陽和、ポンパドール、結衣菜が、
    「さあ、戻ってきて。元の輝く笑顔を見せて!」
    「おねがいだよ、帰ってきて!」
    「戻ってきたら今までのように一緒に遊びましょ?」
     彼らだけではない。歌う者も、戦闘支援する者も、各々が想いを口にする。人払い担当の者も機材越しに声を。
     涙を堪えつつ。或いは微笑みつつ。手を差し伸べつつ。諭すように。励ますように。懇願するように。えりなの心に、それぞれの言葉を投げる。或いは声を出さず眼差しで。
     サポート35人の思いが、えりなへ。
     亜綾は皆の声に頷き、そして、鈴音に代わりえりなの前へ。
    「皆を守りたいのは解りますけどぉ、これだけの方々が心配しているのを忘れてはダメなのですぅ。救うために闇に堕ちる、ではなく闇から戻ることに救いはあります」
     佳奈美が亜綾に並ぶ。
    「貴方の居場所はこんな、誰もいない、暗い所じゃない筈です! 強く、帰りたいと思ってください! 闇なんかに負けないで!」
     えりなへ、手を伸ばす佳奈美。
    「……っ」
     えりなは数秒、硬直。唇が震えていた。目の潤みが濃くなる。が、慌てたように後退。
    「っ。でも、私には淫魔としてすべきことがあるのです。戻るわけにはいきませんっ」
     玉緒はゆっくり首を振った。
    「えりなさんの願い……は……えりなさんの手で……叶えるべき……紗里亜さんも……それ……を……お望みのはず……」
     玉緒は拳を握る。言葉は尽くした、後は体で伝えるのだと。


     未だ続く灼滅者の歌の中、戦いは再開された。
     灼滅者の歌を妨害しようというように、えりなは音波を放ってくる。
     玉緒は音を受けた。が、傷は浅い。
     玉緒は姿勢を低く駆ける。
    「これなら……直接……心に……響きますでしょう……?」
     懐に潜り込み、鳩尾へ鉄鋼拳。
    「まだまだ……ぶっこんで……いきますよ……」
     さらに呼吸を止め、不思議な魅力を滾らせる。腕を振る。左拳で顎を、右拳で腹を――流れるように連打!
     玉緒の雄姿に奮い立ったか、他の者も攻撃を当てていく。
     けれどえりなの反撃も必死。パッショネイトダンスに、鈴音が殴られ、凜は蹴られた。が、
    「さっきの歌も今の踊りも、弱くなってるわね。えりなちゃんもダークネスの中で頑張ってるのね。皆の歌と心が届いたのね」
    「頑張ってるえりなさんの為にも、ここに来た人達の為にも、来られなかった人達の為にも、きっと救い出してみせるよ!」
     鈴音は凛と言葉を交わしてから、刀を上段に構えた。次の瞬間、刃が消える。否。見えぬほどの高速で振り下ろした。
     えりなの肩に傷ができる。傷口を押さえるえりな。
     その脇腹を、凜が標識で殴りつける。全力を腕に標識にのせて、レッドストライク!
     鈴音の斬撃の鋭さと、凛の渾身の打撃に、えりなは床に転がる。
    「……こ、これが……皆さんの……」
     えりなは両手を床につき立ち上る。シャウトで己の体勢を立て直そうとする。
     大きな隙ができた。
     亜綾は烈光を掴み、思い切り投げる。自身は箒で相手の真上へ。そしてえりなへ突撃。
    「必殺ぅ、システマ教団マル秘奥儀、友情のトリプルインパクトっ……ダークブレイク、エンド、ですぅ!」
     トリガーをひき、杭を突き立てる!
     ヴィントミューレは掌をえりなにむける。亜綾の杭が刺さった直後に、
    「今こそ裁きの時ね……受けなさい、これがあなたに対する洗礼の光よっ! さぁ闇から戻ってきなさいっ」
     腕から光を放つ。よけようとするえりな。だが、ヴィントミューレの技の速さは、えりなの回避を許さない。裁きの光が、左胸を直撃。
     えりなの膝が震える。
     ファルケは調子はずれの歌を続けていたが、ギターを杖に持ち替えた。
    「多くの人が救いに来てくれた思いが、歌で、言葉で伝わりきらないなら、直接叩き込んで伝えるまでっ」
     片足を前に出し、両手で柄を握りしめ、
    「皆の思いが光って輝く、心に刻めと盛大に叫ぶっ! 受け取れっ、限定版必殺! サウンドフォースブレイク、スマイルフォーユーだっ!」
     杖をフルスイング! えりなの体をジャストミート!
     えりなは片膝をつく。
    「ですが――!」
     えりなの尻尾が蠢き、近くにいたマサムネへ伸びた。が、マサムネは半歩右に。音波をよける。
     そして、マサムネは神薙刃を放つ。態勢を崩したえりなを、斬り裂いた。
     たまらず首を逸らすえりな。
     だが――。再び灼滅者に顔を向けなおす。瞳には、未だに残る闇の念。
     マサムネは隣の佳奈美に目を向けた。金と橙の瞳の視線が交差する。
    「頼む、佳奈美っち! えりなっち部長を早く起こしてやろうぜ!」
    「はい――星野さん、お迎えに来た皆さんの所に、私たちの所に、帰る時間です」
     佳奈美は博愛をつむぐ右腕の竪琴を掲げる。えりなの肩へ、オルタナティブクラッシュ!
     えりなは仰向けに倒れる。彼女の瞳から邪気が消え、羽や尻尾が消えた。
     そこにいるのは、ダークネスではなく、皆のよく知る、星野えりな。皆は彼女を救えたのだ。


     戦闘が終わった。
     亜綾は意識を失ったえりなを介抱していたが、彼女の瞼がひくっと動いたのに気付き、
    「目を覚ましますよぉ」
     嬉しそうに告げる。
     やがて、えりなが目を開いた。上半身を起こす。
     マサムネと佳奈美が、えりなに手を差し伸べた。
    「よっす! おかえり! 男だったらデコピンしてたぞ?」
    「さあ、皆さんが待っていますよ、手を振ってあげてください。アイドルはどんな時も笑顔で答えなきゃ。お帰りなさい、星野さん♪」
     ヴィントミューレは身をかがめ、えりなの瞳をじっと見る。
    「いい? これだけの人達に心配されているのよ? 少しは大事にされていることを自覚なさい」
     えりなは頷き、マサムネと佳奈美の手を取った。
     えりなは、立ち上がり、
    「ただいま戻りました……ありがとうございます、皆さん」
     集った44人への感謝を口にしたのだった。満天の星のように輝く笑顔で。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 5
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