「やっぱりエアシューズとは勝手が違うんでしょうか」
タブレットで何か検索しながら考えている坂月・ルオ(中学生魔法使い・dn0247)。誕生日をもうすぐ迎えるということで、何か初めてのことに挑戦してみたいなあと思った彼が選んだのは『アイススケート』である。
「屋外だと、日が暮れたらライトアップやイルミネーションも見ることができるんですね。うん、これなら皆さんにも楽しんでいただけそうです」
この季節、数多く開催されている『屋外スケートリンク』の1つに場所を決めると、次はさっそく『アイススケート コツ』で検索してみるルオだった。
というわけで、屋外スケートリンクに行きませんか? のお誘いです。
アイススケートはもちろん、夜景も楽しめる機会です。
疲れたら周囲のベンチでゆっくり温かいものでも飲みながら休憩、お友達や恋人さんと語らうのもいいかもしれません。
防寒はしっかりしてきて下さいね。
「はじめは立つところから、ですか……プロテクターいるかな……」
●
「スケートって初めてするよ」
椿森・郁(カメリア・d00466)が言った。夕方から夜にかけての屋外リンクの寒さに備え、インナーは重ね着、持っている中で一番厚手のタイツをはいているが、今は電車の中。イヤーマフは首にかけ、手袋はポケットに。マフラーとコートも腕にかけているため、星をモチーフにした腕時計が見えている。
その時計と指にはめられたピンクゴールドの指輪を見て、大條・修太郎(一切合切は・d06271)は思わず微笑む。どちらも自分が贈ったものだ。時計の名前はOpera di stele。裏には誕生日と名前の刻印がある。指輪、はCandylightsの名前の通り、きらきら甘く光っている。
「修太郎くんは?」
小首を傾げて、のぞきこむようにたずねた郁に、修太郎ははっと顔を上げた。フライトジャケットにスキニーとローファーを合わせたキレイめのカジュアルが、かけている眼鏡とも嫌味なくはまっている。帽子とマフラーはしたままだが、やはり少し暑いのかジャケットの前は開け、手袋はポケットに。彼の指には郁が贈ったハンドメイドのシルバーリング。星をモチーフにデザインされたstellar lightの内側には、購入日の刻印がある。
「ふ……何を隠そう僕も滑れないんですよ……」
「そうなんだ?」
「最後に滑ったのいつだっけ? ってレベル。今日はだからまあ、少しでも滑れる様になる事が目標かな……」
「やったことあるなら、私より滑れそう」
(「だったらいいんだけど」)
期待に満ちた目でみる郁に、修太郎は内心溜息をつく。
(「これ前もって計画してたら、絶対事前に猛練習してたパターンだぜ!」)
そりゃあカッコつけたいわけです。男の子だもん。
「スケート、ちょっとだけやったことありますけれど、結構楽しいんですよね」
月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)が言った。
「樹さんは得意なんでしたっけ。拓馬さんとの切欠も一緒にスケートに行ってからだー、って、聞いたことありますし。実にロマンチック」
「あの時は、悠一くんも含めたクラスのみんなで行ったのよ」
各務・樹(カンパニュラ・d02313)が4年程前のクリスマスを思い出しながら言う。あの時樹は、初心者の壁際組と順番に手をつないで滑っていたのだが、拓馬の番には悪戯心から速く滑ってみたりして、彼を焦らせたりもしたのだった。
「合縁奇縁っていうけど本当に不思議」
今は拓馬は樹の夫で、悠一の従妹である彩歌とは、金石之交――どれだけ時間がたっても変わることがないであろう、固い友情で結ばれている。
「各務さんは以前、ご夫婦で依頼にきてくださったんですよね。あの時は梨のケーキをごちそうさまでした」
ルオが言えば、いえいえと樹が笑った。
「で、要するに各務さんも月雲さんもスケートはばっちりなんですね……」
「おふたりが華麗に滑っていたら、きっと注目の的なのですよー」
羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)とルオは樹と彩歌のスケーティングを勝手に想像して、ほおおおおおおおとなっている。
「ちなみに私は全く滑れる気がしません……だって……氷ですよ……」
ルオの顔が曇る。
「昨日ジュースを飲むついでに、冷凍庫の氷出して触ってみたんですけど……指にくっつくし……そのあとはつるつるですし……」
自分でスケートに決めたくせに不安のあまりわけのわからないことをブツブツ言い出した。その上ダウンジャケットにネックウォーマー、デニムの格好がいまひとつというかかなり似合っていないのが哀愁を誘う。
「えと、ルオさんも初めてなのです? あたしもなのですよー!」
うつろな目のルオを何とか励まそうと陽桜が言う。
「一緒に練習しましょうー? どっちが早く上手に滑れるようになるか勝負です♪」
「はいっ! がんばりましょうっ!」
優しい陽桜に、ルオも笑顔になった。
●
「わ。思ったより高さがあるんだね」
靴をはいて、まずはリンクの外で立ってみた郁が言う。今はイヤーマフを着けてコートを着た郁の長い黒髪の束が巻き直したマフラーにはさまれて、所々ふくらみを作っていた。それを見て修太郎は直してあげるべきなのかと思いつつ、そんな姿も冬らしく可愛いのが正直な所。本人が気にならないならいいかと自分も手袋をはめる。
そして氷の上へ。
「……立てるかな……」
手すりにつかまって恐る恐る足を下ろす郁。修太郎も隣で手すりにしっかりつかまっている。しばらくは2人で手すりとお友達だ。まずは足踏み。それから、
「ペンギン歩きでゆっくり前に進む練習だね」
「ふふ。ペンギン歩きってなんかかわいい」
手すりは片手に持ち替えて、今度は2人前後でペンギン歩きの練習。
「椿森さん上手いね……って、えっ。もう手放しで滑るの?」
前を進んでいた郁が手すりから手を離したので、修太郎はびっくりしてしまった。
「うん、慣れてきたし……」
郁が滑り? 始める。手すりなしでも前に進めてはいるが、漫画だったらひょろひょろ〜という効果音がついていそうな感じだ。
「何か危なっかしいなあ」
修太郎が不安げに見守る中、
(「あれ、でもこれ止まり方どうするの……?」)
疑問に思った郁は、修太郎にたずねようと、
「ねえ、修太郎くん、」
「?! おいおい、待って! そんなことしたら」
前についーと滑りながら、修太郎の方へ身体を捻った郁に、
(「間に合うか!」)
修太郎が手を伸ばした。
「わっ!」
「きゃーーーー」
なんとか修太郎の手は郁の腕を掴んだが、何しろ修太郎は今初めて手すりを離したわけで。それでも修太郎は郁を守ろうと思いきり引き寄せ、郁は目を瞑る。
どしーん!
(「あれ?」)
絵に描いたような尻餅をついたはずなのに、全く痛くない。不思議に思いながら郁が目をあけると、すぐ隣に、
「きゃあああっ!」
「せっかくクッションになったのにそんな?!」
「だ、だって……」
郁を受け止め、氷の上で椅子になっている修太郎の顔があまりに近かったので。
「あ、ごめん、重いよね?!」
「ちょ、急に立つと、」
どしーん! アゲイン。
「ご、ごめんね……」
「平気平気」
もう1度修太郎が手を差し伸べる。郁はまだ座ったままの修太郎の手を頼りに、3度目のどしーんにならないようそろそろと立ち上がった。そして手すりを後ろに、えいっと修太郎を引っ張って彼が立つお手伝い。
「今度はゆっくりね」
眼鏡の位置を直して修太郎が言うと、
「そうする」
郁が頷く。修太郎は片手だけ手すりにつかまった。もう片方の手は郁がしっかり握り、再び2人で滑り始めた。
●
「彩歌ちゃんと一緒にスケートをするのは初めてね」
ゆったりとしたスピードながらも、慣れたスケーティングでリンクを周りながら、樹が言った。
「実はクリスマスの時、スケート場でお二人見つけたんですけど」
彩歌も樹と並んで、ゆっくりと滑っている。
「やっぱりこうね、夫婦の邪魔はできないなーって」
彩歌はみなとみらいでのクリスマスを思い出して微笑み、
「私も隣にお兄様いたので、わあ世間以外と狭いっ、とか思いながら幸せな気分になってました」
「わたしもクリスマスの時、見たわよ。悠一くんもデートにずいぶんと慣れてきた感じよね。最近、何か進展はあった?」
「えーと……」
他愛のないおしゃべり。時々からかうように挟まる軽口。本当の友人同士にだけ許された楽しい時間が氷の上に繰り広げられる。
「あの、羽柴さん」
「はい、ルオさん」
「私たちはいつまでこうしているのでしょうか」
「う。どどどどうなのでしょう」
やはりインラインスケートとは勝手が違ったか。陽桜のふわふわしたピンク色の頭と、はりきって髪を縛ったルオの水色の頭は、随分長いこと手すり沿いにしか動いていない。
「よしっ!」
ぐっ、と片手を握って、陽桜が何かを決意したような表情に。
「ここは勇気を出して、一緒に手すりから手を放しましょう!」
「えっ」
わりと本気で怯むルオ。しかし先輩とはいえ女の子にそう言われて断るのも灼滅者がすたる。というわけで、
「わ、わかりました」
「じゃあ、いきますよう。せーの、」
えいっ! と手を離すと、
「あ、立てました!」
「やったー! 手すりとお友達してたかいがあったのです!」
そろりそろりとそのまま進んでみるルオと陽桜。明らかに危なかっかしいので、他のお客さん達が避けてくれているが、本人達はそこまで気が回らない模様。
「よーし、これならもっとスピードが出せそうなのです! いきますよー!」
何やら力をためるポーズをすると、ルオより少し後ろにいた陽桜がえーい! とスピードをつけて滑ってきた。しかし足はハの字のまま全く動いていない。となれば当然、
「うわああああ」
どーん! どこぞのカップルとは逆向きバージョンでどすーん! が、
(「あれ?」)
陽桜を受け止めてもルオは転んでいない。もしかして自分はものすごいアイススケートの才能があるのでは! と一瞬浮かんだ考えはすぐ打ち消したが、
「なんかもふもふ……? わっ!」
「えへへ、失敗しちゃいましたっ……と、どうしたのですか? わ!」
ルオの脇から顔を出してのぞいた陽桜も藍色の瞳をまんまるにする。ルオの後ろ、謎の着ぐるみが2人をまとめて受け止めてくれていた。
「あ、ありがとうございました!」
「ありがとうなのですー!」
手すりに戻ってぺこりとお辞儀をする2人に、いいってことよ的ジェスチャーをして着ぐるみはすいーと滑っていった。ルオはほっと息をついて、
「どこの誰かは存じませんが、助かりました」
「何かのイベントでしょうか?」
陽桜は首を傾げ、
「あのくまさん」
「あのうさぎさん」
ん? と顔を見合わせる2人だが、もう真実はリンクの彼方。ま、いっか! とまた練習を再開した。
●
「ふう」
郁が一息つく。だいぶ手すりなしでも滑ることができるようになった郁と修太郎は、ベンチで温かいものを飲みながら休憩中。
「あとでもう1回滑ってみる?」
「そーね、もうちょっと滑ってみたいね」
修太郎はタンブラーから飲み物を一口、
「もう少しで何かが掴める気が!」
真剣な顔。しかし、
「修太郎くん、湯気で眼鏡くもってるよー」
「あ」
慌てて眼鏡を外し、ゴシゴシする修太郎の横顔を、郁は寒さを忘れるくらい温かい気持ちで見つめていた。
樹と彩歌は、変わらずのんびりと、話を楽しみながら滑っている。
(「学業に灼滅者業にと忙しいけれど、」)
親友と過ごす時間は頑張って作りたいと樹は思う。
それは彩歌も同じ。親友と楽しく会話をし、身体を動かす時間はかけがえのないもの。そしてそのたびに、色々な場所に思い出ができていく。その感触は素敵だな、と改めて思うのだった。
すっかり手すりから離れ、手をつないで滑る郁と修太郎。まだ片手は不安すぎて、両手をつないで輪っかになってみたものの、そのまま動けなくなっている陽桜とルオ。そんな横を通り過ぎ、声をかけては、顔を見合わせて微笑む、樹と彩歌だった。
作者:森下映 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年3月1日
難度:簡単
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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