武人の申し出

    作者:陵かなめ

    ●強さを求める男
     ケヤキ並木を一人の男が歩いている。
     吉祥寺駅から三駅ほど電車に乗ったこの場所では、親子連れ、学生、子供、様々な人間とすれ違った。だが、男には興味の無いことだ。
     ――それよりも、大きな戦いは無いだろうか?
     ひたすらに強さを求める男なれば、大きな戦いに参入したいと考えることも頷ける。
     男は自分の手を見つめた。
     ――まだ、早かったのかもしれない。
     鳳仙・刀真(一振りの刀・d19247)が育ちきった状態で自分と入れ替わることが、強くなるための早道だと考えていたのに、と。
     一般人に紛れるように一般的な服装で歩く男は、だがしかしアンブレイカブルだった。
    「学園から刀真の救助隊が来たならば」
     今は一時的に学園には極力手を出さない、しばらく刀真に戻れる可能性を残しておくと約束してやっても良い。そのかわり、学園が起こす戦争に、今の状態のまま協力したいと申し出るつもりである。
     多くの猛者が戦う場所で戦ってみたいという思いからの提案だ。
    「ただし、全てのダークネスとの戦いが終われば、念願を叶えさせて貰うがな」
     それは、『最大の強敵・学園』と最終対決を挑むこと。
     この申し出が拒否されれば、無論、全力で戦うだけである。
     男は遠く武蔵坂の方角を見た。学園からの救助は必ず来る。そう、願って。
     
    ●伸るか反るか
     一人のアンブレイカブルが見つかった。
     教室に入ってきた千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)は、そう切り出した。
    「ガイオウガ決死戦で闇堕ちした鳳仙・刀真さんだよ」
     はっと、灼滅者たちは顔を上げる。
    「アンブレイカブルとなった刀真さんは、吉祥寺駅から三駅ほど電車に乗った場所に居たんだよ。みんなには刀真さんの救出に向かって欲しいんだ、けど……」
     太郎は戸惑いながら、言葉を切り目を伏せた。
    「けど、アンブレイカブルは提案してくるよ」
     『一時的な友好』と『しばらく刀真に戻れる可能性を残しておく』と言う約束を結ぶことで、ダークネスのまま、今後学園が起こす戦争への協力を申し出ると言うのだ。
    「このアンブレイカブルはね、非常に義理堅いらしいんだ。そして、何より命を賭した戦いを好んで、強さを求めてる」
     だからこそ、大きな戦いへの参加を模索しているのだと太郎は言う。
    「でも、この提案を受け入れちゃうと、きっと刀真さんは刀真さんの考えで動くことはできなくなるよね。今後、もう二度と助けることができなくなるかもしれない。それに、いくら義理堅いとは言っても、ダークネスとなってしまえば、僕たちの常識ではその考えを量れないと思うんだ。だから、約束がどこまで有効かは分からないよ。むしろ、口約束だけでダークネスを逃がしてしまえば、今後どのような事件を起こすのか予想もできないんだ」
     話を聞いていた灼滅者たちが顔を見合わせた。
    「何より、このアンブレイカブルは、全てのダークネスとの戦いが終われば念願である『最大の強敵・学園』と最終対決を挑むつもりであるようなんだ。それを踏まえて、みんなには判断して欲しい」
     その提案を拒否すれば、アンブレイカブルは全力で戦いを仕掛けてくるだろう。彼は、日本刀や影業、バトルオーラを使い、様々な技で戦うと言う。だが、戦いに勝てば、おとなしく刀真を返してくれるはずだとも太郎は言った。
    「戦いの最中に刀真さんへ声をかけ続ければ、それもきっと救出の力になるよね」
     ダークネスの提案へどう返答するのか。今後、刀真と二度と会うことができなくなるとしてもダークネスの提案を受けるのか。それとも、戦い、刀真を取り戻すのか。
    「気をつけて。彼は、ダークネスだよ。迷ったまま向かえば、致命的な隙になっちゃう。そして、もし救出できないのなら、灼滅を視野に入れなくちゃだめだと思う」
     何をしても、彼はダークネスなのだから。覚悟を決めて、向かわなければならないだろう。
     今回助けられなければ、おそらくもう刀真を助けることはできなくなる。
     そう言って、太郎は説明を終えた。


    参加者
    凌神・明(魂魄狩・d00247)
    香祭・悠花(ファルセット・d01386)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    日向・和志(チェイン・d01496)
    神凪・陽和(天照・d02848)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    型破・命(金剛不壊の華・d28675)

    ■リプレイ


     灼滅者たちがケヤキ並木に到着したとき、彼もそこに居た。
    「来たか、灼滅者」
     黒いロングコートを身体に纏った男は、言う。
    「こちらの条件は、今の状態のまま今後学園が起こす戦争への協力だ。それを了承してもらえれば、そちらと一時的に友好関係を結ぼう。しばらく刀真に戻れる可能性も残しておこう」
     武人の申し出は、聞いていた通りそれだけだった。
    「まー、貴方の言いたいこともわかりますよー?」
     香祭・悠花(ファルセット・d01386)が最初に口を開く。
    「刀真さんが戻ってくる可能性が残るのなら、悪い話ではないのかもしれません」
    「では」
     そして、首を横に振った。
    「でもわたしは、もっとシンプルなんですよ? 『今』刀真さんが闇堕ちしてるのが嫌。わたしが落ち着かないんですよ」
     刀真のことは、ずっと気にかかっていた。だから、今日、引きずり戻しに来た。単純な話だ。
     単に友人が闇堕ちして戻ってこないのがイヤ。
     それだけ。
     闇堕ちした刀真は頷き、他の灼滅者たちを見た。
    「アンタの気持ち、結構わかるぜ。己れがそっちの立場なら似たようなことを考えたかもしれねぇしな」
     喧嘩が好き。命を賭した戦いも、実は好き。そんな型破・命(金剛不壊の華・d28675)だからこそ、その言葉には真実がこもっているように感じられる。
    「だがこうして『今この瞬間』、取り戻す機会があるんだ」
     しかし、命も同様に首を横に振った。
    「だから悪ぃな、アンタの提案は呑めねえや! 何より、己れはアンタと喧嘩してぇ!」
    「そうか」
     武人の目に鋭い光が宿る。
    「申し出は拒否します。今の状況は闇堕ち救出が難しい状況になってます。チャンスは確実に掴んでおきたいですので」
     改めて、はっきりと、神凪・陽和(天照・d02848)が申し出の拒否を伝えた。
     クラスメイトの救出に全力を傾けると誓ってここに来たのだ。
     そんな双子の姉の様子を隣で見るのは神凪・朔夜(月読・d02935)だ。
     すぐ近くに居るからこそ、陽和の心痛を良く知っている。だからこそ、姉の助けになりたいと誓った。
    「僕は武人の家の生まれとして、ダークネスになっても武人であろうとする刀真さんの強い技に興味がある」
     朔夜は陽和に並ぶように前に出て、真っ直ぐ闇堕ちした刀真を見据えた。
    「刀真さん、ダークネスとしての貴方の武に打ち勝てば、元の刀真さんを返してくれるんだね? なら、全力で相手するだけだ」
     神凪の二人を後押しするように、壱越・双調(倭建命・d14063)も前に出た。
    「お気に沿えるか分かりませんが、刀真さんを取り戻す為なら、我らが武と絆の力、お見せしましょう」
     双調には、陽和、朔夜と共に激戦を潜り抜けてきた自信がある。
    「たかだか8対1に苦戦するようならお前の提案には飲む価値がない」
     凌神・明(魂魄狩・d00247)もきっぱりとダークネスの提案を切り捨てた。
     それに、友人を賭けの代償にするような趣味も無いと。
    「っツーわけで、戻れる可能性を後に残すってのは論外だ」
    「こちらの条件は、のめないと?」
     念を押すように、武人が最後の質問をしてきた。
    「刀真はこの場で返してもらおう」
    「俺たちが勝ったら潔く刀真を返せ。負けたらどこへでも行きな」
     日向・和志(チェイン・d01496)も同じように返す。
     相手の申し出には、拒否一択だ。
    「武人として、全力の勝負を断るのは粋じゃないだろ?」
     和志の言葉を聞いて、闇落ちした刀真の口元が固く結ばれる。
    「明日にはコロッと死んでるかもしれねぇ己れ達だ! なら一期一会に喧嘩した方が悔いがねぇじゃねぇか、そうだろ!?」
     じりじりと、緊張感が増して来た。
     命がそう言うと、ダークネスと灼滅者たちは互いに距離を取り厳しい視線を交し合った。
    「貴方は既に全てご承知のようですね。最低限私達を撃退する必要があるということも」
     確認するように、ゆっくりと、そう言って華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が武器を取る。
    「できますか?」
     灼滅者からの問いかけに、武人が口元で笑った。
    「それが返答ならば、もう問うまい」
     腰の日本刀に手をかける。
    「では、貴方との死合いを始めさせていただきます」
     紅緋が仲間たちに視線を送った。
     風が一陣吹き抜けた頃に、ケヤキ並木を抜けた公園が戦場になった。


    「さあこい灼滅者。いざ」
     闇落ちした刀真がすっと、片足を前に進める。
     瞬間、灼滅者たちも走り出し、それぞれの間合いを保ちながら武器を構えた。
    「It'sショータイム♪」
     悠花が解除コードを叫ぶ。霊犬のコセイをメディックに送り、自分はWOKシールドを手にダークネスへと走った。
    「真正面から挑みましょう。返してもらいますよ?」
     言って、真正面からシールドで殴りつける。
     アンブレイカブルは片手でこれを防ぎ、悠花の身体を凪ぐようにして払った。
     明はその様子を横目で見ながら、近くの仲間の周辺に魔力を宿した霧を展開させる。
     相手を殺す気こそないが、戦うことにもちろん異論は無い。
    「単純な話だろ? 武人なら意見は勝ってから押し通せ、と」
     そう呟いて、ざっと仲間の様子を確かめた。まだ、回復が必要な仲間はいない。なぎ払われた悠花も、それが攻撃によるものではなかったので、ダメージを受けていない。
     悠花が着地する。
     その横から紅緋が跳んだ。
     きちんとした申し出を退けるのは心が痛むが、仕方の無いことだ。
     ただ、礼には礼をもって返させてもらうと。
     激しく渦巻く風の刃を生み出しながら、さらに走る。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     紅緋の言葉が引き金になったかのように、赤い刃が敵の身体を切り裂かんと一斉に襲い掛かった。それを追いかけるように、紅緋はまだ進む。
     刃が敵を切り裂く音を聞きながら、次の攻撃の準備を整えた。
     だが闇落ちした刀真は、切り裂かれた自身の皮膚を一瞥もすることなく、静かに足を進めてその場を離れる。紅緋の振り上げた腕が、大きく空振った。バランスを崩しかけた身体を立て直し、再び紅緋が地面を蹴る。
     その間に、アンブレイカブルはするすると灼滅者たちの間合いをすり抜け、立つ位置を調整していた。
    「流石に、間合いの取り方を心得ているようですね」
     敵の動きを見ながら双調が護符を取り出す。
     距離の取り方がうまいのか、こちらから畳み掛けるような攻撃を作り出せていないように感じた。
     だが、と、双調は陽和と朔夜が動いているのを見た。息の合った神凪の二人ならば、きっと攻撃のリズムを作ることができるはずだと。
     まずは前衛の仲間を守るように護符を飛ばした。
     陽和と朔夜も動き始める。
     朔夜がちらりと陽和を見た。
     陽和は視線を感じ、かすかに頷き走る。
     最初に敵との距離を詰めたのは朔夜だった。
     狙い済まし、異形化した片腕を振り上げ正面から叩き付ける。刀真は日本刀の柄でそれを受け止めたが、勢いはおさまらず手元が揺れた。
    「このまま、抜けるよ」
     後一押しだと、朔夜が腕に力を込める。
     敵のロングコートの裾が揺れた。
     目の端に影が映る。
     朔夜は敵の身体を蹴って状態を反らした。だが、アンブレイカブルはそれを許さず、フリーになった朔夜の片腕を掴み離さない。
     影がコートの中から飛び出し、朔夜を喰らった。
    「ですが、そちらの動きも止まっています」
     陽和は、その攻防の間に準備した雷を、一瞬無防備になった敵の懐に向けて放つ。
    「そら、見えたぜ。ここは外せねえな」
     続けて命が断罪転輪斬を叩き込んだ。
     断罪輪を手に一気に懐に飛び込み、大きく身体を回転させて何度も斬撃を放つ。
     一つ、手傷を負わせた感触が伝わってきた。
     あと一息、この場にとどまって斬りつけることができれば。
     だが命は少しばかりの変化を感じ取って敵から離れた。次の攻撃アクションが見える。敵が命の襟首に手を伸ばしかけていた。
    「おお、危ねえ、危ねえ」
     実際、判断が少しでも遅れていたならば、命は投げられ痛手を負っていただろう。
     代わって和志の霊犬、加是が飛び掛り斬魔刀で斬りつけた。
     それも日本刀で跳ね返されるが、その隙に和志が影から朔夜を引きずり出す。
    「お前、つい先日めっちゃ近くで戦争あったろ!? デスギガス暴れてたじゃねーか!?」
    「それは、こちらの感知しないところだ。協力が欲しければ、条件をのむようにと伝えたはずだが?」
    「そう言う事じゃねえつの。馬鹿だろ? 馬鹿だろ!? つーか、馬鹿」
     和志は呆れたように言いながら、ラビリンスアーマーで朔夜を回復させた。
     アンブレイカブルは、心動かされた様子も無く地面を蹴る。
     戦闘続行だ。
    「……もういいや。さっさと刀真連れ戻しましょ」
     和志は一つため息をつき、間合いを取って走り続けた。


     一進一退の攻防は続いていた。
     何度も打ち合い、双方、体力を減らしている。
    「私は同じ教室で机を並べたクラスメイトが闇堕ちしたまま卒業式を迎えるのは嫌ですからね。武を鍛えるなら、学園で皆と鍛錬すればいいでしょう」
     陽和が前に出て、炎をぶつけた。
     間髪入れずに、後ろから朔夜が神薙刃で追い討ちをかける。
     流れるような二人の連携には、闇落ちした刀真でも避けきる事が難しいようだ。
     一つの攻撃を寸でのところで避け、一つの攻撃を身体で受け止めている。
    「確かに刀真さん、貴方は強い。戦ってみて感じるよ。でも個人ではどうしても限界が出る。僕らが連携すれば、ほら、対抗出来る」
     朔夜は感じたことを、そのまま伝えた。
     個の強い武には連携の力で対抗するまで。
    「一人だけで戦っても、必ず限界が来ますよ? 実際、個が強くても集団の力で潰される例なんて幾らでもあります」
     双調も仲間を癒しながら刀真に語りかけた。
     やはり、アンブレイカブルの攻撃は強力だ。双調が回復に専念することで、これまで仲間の命を支えている。
     浄化をもたらすやさしい風が仲間の間を吹きぬけた。
    「刀真さんの武は、私達学園の中で活かされるべきもの。さあ、戻ってきてください!!」
     仲間たちが走り始めるのを確認し、双調も敵との距離を取った。
     刀真が再び攻撃の態勢を取ったのだ。
    「聞く耳もたねぇってか。いや」
     命は敵の真正面からエアシューズを走らせ突っ込んでいった。
     炎を纏った蹴りと、日本刀による重い斬撃がぶつかり合う。
    「おぅい、起きてんだろ鳳仙の兄さん! 強いなアンタの身体!」
     言いながら、命は更に足に力を込めた。
     それでも、相手が引かないことを知っても、歯を食いしばってもう一度だけ押し込む。
     ついに相手の日本刀を蹴りで弾いた。
    「でもここで終わっちまうなんて勿体ねぇじゃねぇか!」
     今はそれで十分と、命が飛びのく。
     アンブレイカブルがたたらを踏んだ。
     その隙に、紅緋がシールドを掴み飛び込む。
    「本命は、それではないな」
     敵は口元で笑い、オーラを纏った腕を構えた。
     何度も打ち合い、互いに手の内が見えてきたと紅緋も感じている。
     かまわず、紅緋はシールドを振り上げた。
     敵のコートの裾が揺れたのを見る。
     オーラを纏った拳ではなく、アンブレイカブルが繰り出したのは影だった。
     影が紅緋を飲み込もうと迫る。
    「貴方は、きっと闇でさえこれほど毅然とならざるを得ない程の高潔な方だったのでしょう」
     目の前にいるのは、堂々とした武人だ。
     だからこそ、真っ向正面からの、心を満たす闘争をはなむけに差し出すのだ。
     紅緋はシールドで影を弾き、今度こそ異形化した腕で敵の身体を殴りつけた。
     これには、たまらずアンブレイカブルが後方に数歩押し戻される。
     それを見て、和志が矢を番えた。
     今から放つのは、彗星の如き強烈な威力を秘めた矢だ。
    「彗星撃ち……」
     和志が技の名を口にした。
     それは。
    「刀真、てめぇならよく覚えがある技だろう。お前が守ろうとした、守りたかった者の得意技だ」
     アンブレイカブルは、その場に留まり前を見据えている。
    「んなところにすっこんでないでとっとと出てこい、馬鹿兄弟!!」
     和志が叫んでも、敵は和志に目を向けなかった。
    「醜かろうが惨めだろうがどこまでも足掻いて目的を果たすのが俺らだろうが!!」
     お構い無しに、和志が矢を撃ち放つ。
    「まだてめぇとの決着はついてねぇんだ! 守りたいもん守らずに勝手に消えんじゃねぇぞ!」
     その時、アンブレイカブルは日本刀を振りぬき矢を弾こうとした。
     だが、腕が一瞬止まり、矢が身体を貫いた。
    「刀真さん、普段からふがいない部長で本当にすみません」
     エンジェリックボイスで仲間を回復していた悠花が立ち上がる。
     少しだけ、ほんの少しだけの敵の変化に気づいたのだ。
    「強い敵と戦う、それはうちのクラブでは難しいのかもしれません。でも、うちのクラブを選んでくれたこと、本当に嬉しかったんです」
     悠花は笑い。
    「あなたは大切なうちの部員であり、友人です。そのままそっちにいるなんて、絶対許しませんからね!」
     そして、びしりと刀真に人差し指を向けた。
    「わふっ」
     背後からコセイの鳴き声が聞こえる。悠花もコセイも、じっと刀真を見つめた。
    「ならば、俺を打ち倒すことだ」
     刀真が再び日本刀を手にする。
     その背後から、いきなり明が刀真の頭部を殴りつけた。ほんの一瞬の、だが、最高のタイミングの攻撃だった。
    「そ……」
     全力の一撃だ。鍛えぬかれた超硬度の拳が、守りごと何もかも粉砕する。
    「分かってるよな? 全力でぶん殴るぜ?」
     明はにやりと笑い、拳を振りぬいた。
     アンブレイカブルはよろめき、前のめりにその場から遠ざかる。
     知り合いだからこそ、気軽に気楽にぶん殴る。明はそういうタイプの人間だった。
     頭を押さえ刀真が振り向いた。
     明が肩をすくめる。敵の動きが止まった。


    「『我身常在戦場也、ここは戦場にして死に場所よ』だなんてあいつが言ってたな」
    「ほお?」
    「その様子じゃあんたも刀真も大して変わらねぇな。まだ上を目指すんだろ? とっとと体返して修行に励むこったな!」
     和志が慎重に武器を構える。
    「結局は、同じことだ」
    「何度でも、出てくるたびに叩きのめしてやるさ」
     真っ直ぐに日本刀を構え、和志が斬りかかっていった。
     事実、アンブレイカブルは体力が削られずいぶん弱ってきている。
     一方灼滅者たちは、双調とコセイ、それに加是も加わって回復を続け、まだしばらくは戦える状態だ。仲間同士かばいあい、ダメージを分散していることも大きい。もちろん、癒せない傷は蓄積しているけれど、戦い方を間違えなければ、大丈夫だと感じている。
    「さっさと戻って来なさい!! 学友!!」
    「さあ、戻って来て!!」
     陽和と朔夜も重ねて攻撃を仕掛けた。
    「だから早くこっちに来ようぜ!」
     呼びかけながら、命も閃光百裂拳を放つ。
    「覚悟しろ! 思いっきりぶん殴ってやるぜ」
     別に殺すつもりは無い。ただ、純粋に、力の限り戦うだけだ。
     明も攻撃に加わり、アンブレイカブルに向かっていった。
    「さあ、全力でいきましょう!」
     再び片腕を異形化し、紅緋は仲間に声をかける。
     灼滅者たちは、一斉に攻撃を集中させた。
     刀真は、静かに佇んでいる。
     動きたくとも、もはや逃げ場も無ければ、身体を繰ることもかなわないのだ。
     激しい攻撃のラッシュが続く。
    「ごめん、あ・そ・ば・せ♪」
     最後に悠花の声が聞こえ、シールドの攻撃が命中すると、アンブレイカブルの身体は地面に崩れ落ちた。
    「こちらの負けだ。刀真は返そう」
     最後に聞こえた声は凛としていて、確かに裏表の無い彼の意思だったのだろう。

     しばらくして、刀真が目覚めた。
    「気がつかれましたか? お疲れさまでした」
     紅緋が声をかける。
     仲間たちは手を伸ばし、立ち上がった刀真をしっかりと支えてやった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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