贖罪の結末

    作者:緋月シン

    ●異変
    「……っ!」
     眼前で起こったことを前に、オルフェウスは反射的に唇を噛んでいた。
     自分の力が、ソウルボードに吸収されていっている。そのことを、即座に理解したからだ。
     それが起こったのは、本当に唐突であった。
     ソウルボードに戻り、ここ――自分の拠点だった場所へと帰還した後のことだ。四大シャドウとしての力を解放し、散り散りになったシャドウ達を呼び集めようとした所で、ソウルボードそのものに、この異変が発生したのである。
     こんなことは、初めてであった。当然その理由など、分かるわけが――。
    「……いや。シャドウをソウルボードに導いたのは、赤の王だった。その赤の王が消失した今、私の力はソウルボードにとって異物と言う事か……!」
     だがそれが分かったところで、どうしようもない。この場から脱出しようにも、動くことすら出来ないのだ。
     ただ力を吸われていくだけであり……これがこのまま続けば、果たして自分はどうなるのか。
    「……くっ!」
     その末路を想像し、オルフェウスはその唇を噛み締めた。

    ●未確定の未来
    「先日の戦争はお疲れ様。あなた達の頑張りのおかげで、何とか今回は無事勝利で終える事が出来たわ。……けれどどうやら、最後に一つ、残ってしまった問題があったみたいね」
     勢力としてのシャドウは、既に先日の戦争で壊滅済みだ。今後シャドウとしての、大きな事件は起こらないはずである……本来ならば。
     ただ、そう……四大シャドウの生き残りがいるということが、どうにも厄介事に繋がりそうなのだ。
    「まあ、改めて言うまでもないだろうけれど、コルネリウスとオルフェウスのことよ。もっとも私に捉えられたのはオルフェウスのことだけなのだけれど……どうにも、コルネリウスも同じようなことになっているようなのよね」
     とはいえ、今はそっちは気にする必要はない。あっちはあっちで声を掛けたようだし、コルネリウスはあっちがどうにかするだろう。
    「ともあれオルフェウスのことだけど、オルフェウスは第三次新宿防衛戦の後、ソウルボードに帰還していったわ。シャドウ大戦に敗北し、勢力が壊滅している為、当面は組織の立て直しを行うだろうと……そう思っていたのだけれどね」
     そこまで口にすると、四条・鏡華(中学生エクスブレイン・dn0110)は溜息を吐き出した。
     まあつまり、そうはならなかったということだが、これにはオルフェウスに責任はない。何せソウルボードに戻ったオルフェウスは、ソウルボードに飲み込まれようとしているからだ。
     そしてそれこそが、今回対処しなければならない問題であった。
    「この現象は『赤の王タロットが灼滅された事で、融合していたソウルボードに大きな欠損ができてしまい、ソウルボードがその欠損を埋める為に、力を吸収しようとして発生した』ものと推測されるわ」
     ちなみにこれを予知出来たのは、サイキック・リベレイターの効果が残っていたためである。
     ついでに言うならば、このまま放っておけば、オルフェウスは力をソウルボードに奪い取られ、消滅してしまうだろう。
    「とはいえ、歓喜のデスギガスとの戦いでは共闘したけれど、オルフェウスは本来敵対するダークネスである事は間違いないわ」
     このまま消滅するに任せるのが、得策だと言えば得策だ。が……彼女が完全にソウルボードに融合してしまえば、何か悪いことが起こる可能性もある。
    「そこで、あなた達にはソウルボードに潜入し、ソウルボードに飲み込まれようとしているオルフェウスのところへと向かって、しかるべき対処をして欲しいの」
     尚、ソウルボードに吸収されかけているオルフェウスは、その場から動くことは出来ないようだ。
    「四大シャドウの強大な力によってその場に結び付けられているため、力ずくで、無理矢理撤退させる事は、不可能みたいね」
     しかしかなり弱った状態である為、戦闘をしかけて灼滅する事は難しくないだろう。彼女を灼滅する事ができれば、ソウルボードが四大シャドウの力を吸収し融合する事が不可能となるので、対処としては最も適切かもしれない。
    「或いは、融合した後に何が起こるかを見届けて、何か悪いことが起こるようならば、それを阻止。阻止が不可能な場合は、可能な限り情報をもって撤退する、という対応も適切でしょうね」
     まあとはいえ、結局のところは、何がどうするのが最善なのかなどは分かるわけがないのだ。色々と考えてみるしかないだろう。
    「オルフェウスの居場所には、優貴先生のソウルボードを介して移動する事が可能よ」
     プレスター・ジョンが灼滅された為、優貴先生とソウルボードとの特殊な繋がりも切れつつあるが、コルネリウスとオルフェウスが長期的に滞在していた繋がりもあり、なんとか移動は可能となっているようである。
    「ソウルボードに入った後は、強大な力が動く方向に移動していけば、彼女の居場所にたどり着くことができるでしょうね。ソウルボード内のシャドウ残存勢力は、この力に巻き込まれるのを避ける為に逆方向に移動しているため、遭遇する事は無い筈よ」
     そこまでを告げると、鏡華は手元の資料を畳んだ。それから一度目を閉じると、息を吐き出し、開く。
     そして。
    「今回の予知は、おそらく、シャドウに関する最後の予知になるでしょうね。けれど……いえ、だからこそ、何が起こるかわからない以上は、現場の判断が最も優先されるわ。あなた達に全て任せたから、最も良いと思う対処を行ってちょうだい」
     そう言って、灼滅者達を見送るのであった。


    参加者
    苑城寺・蛍(チェンジリング・d01663)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)
    痣峰・詩歌(自宅公務員・d06476)
    本田・優太朗(歩む者・d11395)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)

    ■リプレイ

     エクスブレインの言った通り、ソウルボードの中を移動するのは容易であった。強大な力が動いているということが、一目で分かったからだ。
     その方向へと移動を続けながら、それとなく周囲を眺め、ふと痣峰・詩歌(自宅公務員・d06476)は今回のことを思い返していた。
    (「異物、ですか。ソウルボードを根城にしていたシャドウ。でも、それは赤の王の力があってこそだったんですね」)
     そしてこれから向かう先に居るのは、そんなシャドウの頂点、その一つ。
    (「ソウルボードに飲まれかけているとはいえ、四大シャドウに会うのは緊張しますが。やれることをやるだけです」)
     頑張りますと、小さくひっそりと気合を入れた。
     そんな詩歌の隣では、ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)もまた、今回の件について考えていた。ミルフィが考えているのは、どちらかと言えばオルフェウスそのもののことだが――。
    (「よもや……オルフェウス様が、そのような事態に陥るとは……こちらも戦争にて助けられた故、何とか助けたいですけども」)
     とはいえどうなるかは、これから会って、それ次第だろう。
     それにやはり、コレに関しても気にかかる。
    (「しかし、ソウルボードとは一体……」)
     と、だがそこで、必然的に思考は中断された。視界の中に、一つの人影を発見したからである。
     ここまでの間にシャドウの姿は見かけておらず、当然のようにそれが何者なのかは考えるまでもない。
    「……オルフェウス」
     誰からともなくその名が呟かれ、それ――オルフェウスもまたこちらに気付いたようだ。顔を向けてくると、その口元をほんの少し歪める。
    「なんだ、無様な姿を嗤いにでもきたか?」
     その言葉はおそらく、本心でもあったのだろう。苦しげなその様子は、無理をしたところで取り繕いきれていない。
     だが当然のように、そんなことのためにここに来たわけではないのだ。
    「いや、そーいうんじゃなくてさ。ちょっと聞きたいことと言いたいことがあったから来たんだケド」
     なるべく刺激しないように気をつけながら、苑城寺・蛍(チェンジリング・d01663)がそう語りかけると、それに牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)が続いた。
    「そっちにも色々事情はあると思うんスけど、これは互いの利害が一致しているからの提案です。此方は情報が欲しい。其方は窮地を脱したい」
     そのためにこちらとしては、救出狙いの灼滅を考えていると、学園が確認した前例と当時の状況を説明しつつ、その情報を提示していく。
     灼滅者化した羅刹、一般人化した淫魔。ダークネス人格のまま、戻った事を強調しながら。
     その上で、聞きたいことを問うべく口を開く。
     赤の王がコルベインから簒奪したものについて。何を簒奪し、蒐集したのか。何故奪ったのか。何故奪えたのか。
     現状のオルフェウスの見解。歓喜の門と現状の関連。贖罪他四大シャドウの力はソウルボードに来てから得たのか。ベヘリタスの秘宝のように分け与えられるのか。
     質問したいことは、それこそ幾らでもある。
     それは勿論、他の皆も同様だ。
     聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)が聞きたいことは、闇堕ちに関することである。オルフェウスは、闇堕ちを誘発させた事があると聞く。ならば闇堕ちを抑える方法も、何かしら知っている可能性はあるのではないか、と。
     詩歌が問いたいのは、オルフェウスがサイキックハーツを目指した理由や、四大シャドウの実験についてだ。
     さらには杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)が、国外逃亡をしようとしたシャドウに関して問いかける。
     そうしている間に、本田・優太朗(歩む者・d11395)や備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)らはいつ戦闘が起こっても構わないよう、その準備を進めていた。
     この後で説得をするつもりだが、それにはどっちにしろ戦闘が不可避なのである。ならばその準備をしておくのは、当然のことだろう。
     オルフェウスの様子を確認しながら、準備を続け……そしてそのオルフェウスは、皆の言葉を、ただ黙って聞いていた。
     と、一段落付いたと判断したのか、苦しげな様子のまま、その口から一つ息が吐き出される。
    「まず前提だが、赤の王タロットの消失によって、ソウルボードは元の姿に戻ろうとしている。当然そこでは、シャドウも生存できない。だがこの力とは別に、現在の姿を保とうとする反動力が、私と、おそらくコルネリウスの力も吸収し、融合しようとしているのだろう。私とコルネリウスの力を融合すれば、現在の姿を残し、シャドウ達もソウルボードで生き延びることができるはずだ」
     そこまで語ったオルフェウスは、しかし、とさらに続ける。
     自分とコルネリウスが共に灼滅され、その力がソウルボードに吸収されなければ、代わりに他のシャドウ達のサイキックエナジーが吸収されてしまうだろう、と。
    「私とコルネリウスのサイキックエナジーは、残存する他のシャドウ全てのサイキックエナジーを凌駕している。つまり、そうなれば、生き残りのシャドウは最後の一体まで吸収しつくされ、シャドウという種族は全滅するだろう」
     それをオルフェウスは、絶対に許すことが出来ないと告げた。
     それはオルフェウスの罪を、生き残りのシャドウに背負わせるという事だからだ。
     故に。
    「私の望みは、このままソウルボードに吸収され、融合することだ。それを邪魔すると言うのならば――」
     苦しげなその様子は、何も変わっていない。
     だが構えるその目には、確かな戦意が宿っていた。
     それを見た八人の口が開きかけ、しかし閉ざされる。これ以上は言っても無駄だということを、悟ったのだ。
     オルフェウスは救出を望んでいない。それは確かであり、だがその望みを果たさせるわけにもいかなかった。オルフェウスの語ったことが事実ならば、オルフェウスをここで灼滅しなければ、生き残りのシャドウが再びソウルボードで悪事を働くであろう事が確実だからである。
     ならばこそ、ダークネスを滅ぼす役割を持つ灼滅者としては、やることは一つだ。
     否、最初からそれは、決めていたことではあったが――。
    「五行相剋生、四神相応!」
     構えたスレイヤーカードが解放された直後、それを合図としたかのように、激突した。

     説得は無意味。
     例えその可能性が高い事が分かっていようとも、そこで簡単には諦めれきれないのが人情というものだろう。
    「貴女自身が人間――貴女のいう『罪深き者』になるのは貴女自身最も望まぬ事でしょうが……此処でソウルボードに取り込まれてしまっては、貴女の掲げるその価値観も……『贖罪』もへったくれも無くなってしまうのではございませんか?」
     だからこそ、戦闘を続けながらも、言葉を重ねていく。ミルフィが言葉と共に、純白の光帯――ナイトオブホワイトを叩き込み――。
    「……わたくし達と共に、生きる術を探しましょう……!」
     だがその言葉は、届かない。拒絶するかのように黒い鞭が薙ぎ払われ、吹き飛ばされた。
    「く……見棄てるしかないとでもいうのですの……?」
     唇を噛み締め……しかしそこで諦めてしまうほど、ミルフィは諦めがよくはなかった。地面を滑りながらも止まり、顔を上げ――瞬間、その視界の端に、人影を捉える。
     それは弓を引き絞る、少女の姿。
     詩歌であった。
    「背負った罪と一緒に、このまま消えてしまう気ですか? 貴女には、罪を償う義務があります。簡単に、楽になんてさせません」
     詩歌は人見知りで、喋るのが苦手だ。けれどそれでも、言葉を紡ぐ。
     そんな結末は、間違っていると思うから。
     ビハインドの妄想の霊撃と共に放たれた矢が、彗星の如き勢いで以ってオルフェウスの身を貫き、それに合わせるかのように、蛍が飛び込む。
    「人になるなんて超嫌だろーケド、あんたに託して死んだ猿さんもいるわけだし? この世の全ての罪を手にするなら、罪だらけなあたし達をちゃんと見てて」
     味方へと癒しの力を込めた矢を放ち、斬撃を振り下ろしながら、灼滅者は罪という、彼女の思想を否定せず受け入れる覚悟を示し……だがその言葉は、当然のように届かない。オルフェウスの振るった鞭に、一撃ごと弾かれ……しかしそれは、分かっていたことだ。
     そもそも交渉が決裂した時点で、説得に意味がないのは今更である。
     だがそれでも、伝えたかったのだ。もしかしたら、過去に接触され、自分の罪悪感が奪われたのではないかと思っていたから。
     人に感謝されても嬉しくないだろうけれど……自分はきっと、赦されたかったから。
     だけどきっと、そっちの言葉を伝える機会は訪れない。今伝えても意味はなく、結末はきっと変わらない。
     だけど……それでも。
     言葉の代わりとばかりに、高速で死角に回り込んでの一撃が、その身を斬り裂いた。
    「シャドウを代表して、人類の行く末を見守るという選択肢もある」
     さらには宥氣の放った光の砲弾が叩き込まれ、続いたのは、凛凛虎。
    「好きで助けるわけじゃない。共闘の先、これからの話し合いもあるからな」
     チェーンソー剣の刃で斬り裂き、その傷口を広げ――。
    「そもそも全ての命は他の命を奪う罪を背負う、等しい悪なのだ。俺らとお前、ただ立ってる場所が少し違うだけだ」
     だがそれもやはり、黒い鞭で吹き飛ばされる。
     代わるように、鎗輔が前に出……ふと、彼女との縁もここで終わりかと、そんなことを思った。
     そしてその口をついて出たのは、疑問だ。
    「君が引かれてるソウルボードって一体何なのさ? ダークネスもここからきて、猿から人間に進化させた物だってのは解ったけど、この巨大なボードの中心には何があるのさ。それこそ、『サイキックハーツ』に至った誰かがいるの? だったら、それは何なのさ」
     感情を感じさせない口調で、淡々と問いかけながら、霊犬のわんこすけが斬魔刀で斬り裂く間に踏み込み、オーラを集束させた拳を叩き込む。
     鎗輔はオルフェウスとは過去に何度か面識があり、命を助けた事もあれば、シャドウ大戦では命を助けられもした。
     しかし今回は……終わらせに来たのだ。情けを掛けるのは失礼だし、弱っていても四大シャドウの一角である。手は抜かず、手心を加える事はない。
     ……だが、その心の中は――。
    「それに、君が、ソウルボードに取り込まれるって事は生まれた所に帰るって事だよね? なら、なんで――」
     問いかけはいつしか別の意味を持ち、だから鎗輔は口を閉ざすと、代わりに拳を突き出した。その目を見るまでもなく、その先の言葉に意味がないことなど、分かっていたからだ。
     何を言ったところで戦いを止めることはないし、別の道を提示したとしてもそれに乗ることはない。
     ああ、そうだ。彼女は全てを分かっているからこそ、その道を選んだのである。
     そしてそれを変えさせるには、その心の中の無念では足りていなかった。
     或いは――。
    「ああもう、意地っ張り! この世の罪を全部背負うとか! 寝言ですか! ソウルボードですからあるいみそうですね、ええ!!」
     そこに飛び込んだのは、優太朗。その手に構えたバベルブレイカーの杭をドリルの如く高速回転させながら、さらに一歩。
    「貴方とは分かりあえなかった……ある一点の為に。その一点が、今あなたを助けるためにここにいる理由です。これが僕らの組織の行動原理……ガイオウガだって倒せたんです。貴方だって、助けて見せますよ」
     それは心の底からの言葉だった。オルフェウスを助けるためなら、何でもする覚悟があった。
     その感性には親近感すら湧き、同時に少しだけムカッとしたけれど……でもそれは何処までも、本気だったのである。
     だけどそれでも、届かない事が分かって……拳を握り締めながら、そのドリルを叩き込んだ。
    (「灼滅者の『罪』とは何だろう」)
     その光景を眺めながら、麻耶はふとそんなことを思っていた。
     ウイングキャットのヨタロウが放った猫魔法に合わせ、踏み込み――。
    (「弱さか、無知か。生きる為と称して殺す、獣の如き所業のことか」)
     分からない。分からないが……多分、何かを根本的に間違えているのだろう。
     だからこそ、オルフェウスにはこちらの言葉が届かないのだ。
     しかしそれがわかったところで、どうしようもなかった。
     分かるのは、一つだけ。
     クロスグレイブで吹き飛ばし、それでもこちらを真っ直ぐに見るその目から、その意思に変わりはないということだけであった。
     そして事ここに至れば、さすがに全員が理解する。これ以上、何の言葉を放ったところで、意味がないということに。
     誰からともなく、小さな息が吐き出され……それが、最後の合図となった。
     期せずしてほぼ同時に飛び出したのは、凛凛虎と優太朗。オルフェウスから放たれた鞭を捌きながら、一歩。
     凛凛虎の構えた、暴君の名を持つ深紅の大剣が思い切り振り抜かれ、直後に優太朗が殴り飛ばす。
     瞬間、流し込んだ魔力が内側から爆ぜ――。
    「五十二ノ段『小七星』!」
     棍を構えた宥氣が大きく薙ぎ払う。オルフェウスも鞭を振るい、抵抗するが――そこに、一条の矢が放たれた。
     蛍である。さらには麻耶から撃ち出された氷の塊が叩き込まれ、その後をミルフィが追う。
     放たれた白の砲風が薙ぎ払い、詩歌の想念によって形成された漆黒の弾丸が、続けてその身を貫く。
     その衝撃によって、オルフェウスの身体が僅かにぐらつき――耐えたその時には、その影が眼前にまで迫っていた。
     鎗輔だ。
     断裁靴を履いたその足が、最後の一歩を、蹴る。空中で、半身を捻り……叩き込んだ古書キックに、鎗輔は確信を得た。
     完全にその身を捉えたということを、だ。
     そしてそれが事実であったことを示すべく、吹き飛ばされたオルフェウスの身体が地面に叩きつけられ、転がり……止まった。
     立ち上がる気配は、ない。
     当然だ。今のは間違いなく、致命傷であったはずだから。
     即ち、これが彼女の、終焉であった。
     本人が望んでいない以上、そして望ませることが出来なかった以上、奇跡は起こりえない。ダークネスが倒されれば、当然のこととして消え行くだけだ。
     だがそれはつまり、オルフェウスの立場からすれば、生き残りのシャドウが全滅するかもしれないということである。
     故に。
    「……コルネリウス、あとは頼む」
     その言葉だけを残し、オルフェウスは完全に消え去った。
     そして結論を言ってしまえば、そのことによってソウルボードには何の変化もなかった。
     或いは灼滅者には感じ取れなかっただけなのかもしれないが……少なくとも、何の変化もないように見えたのは確かだ。
     コルネリウスの方で何か起こったのか、それとも別のことが理由なのか。
     それは分からないまま……ほんの少しの後味の悪さと共に。八人はそのまま、帰還するのであった。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月21日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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