中二病をこじらせた女子高生の都市伝説

    作者:芦原クロ

     旭日・色才(虚飾・d29929)は、仲間を連れて廃ビルを訪れた。
     すると突如、出現した女子高生が1人。
    『見つけたぞ。この場所こそが、封印の地。前世に封印された我の力を今こそ解き放つ……!』
     暗闇の廃ビル内で、高笑いをしている。
    『バカな……封印が解けないだと? ……そうか、この場に居る連中が邪魔をしているのだな』
     女子は独り言を、ぶつぶつ呟く。
    「厨二病の都市伝説が一緒に厨二なことをしたがっている……そう聞いたが。あいつで間違い無いだろう」
     色才は仲間たちに告げ、中二病の女子高生に接近。
     近づいて来る色才に気づいた女子は、一瞬身構えるが、色才をまじまじと見る。
    『貴方は気づいているだろうか。この場に隠れ、隙をうかがっている連中の存在に……!』
    「ふっ……俺を誰だと思っている?」
     なにもない場所を、いきなり蹴る色才。
     特になにが起きたわけでも無いのに、女子は大きく目を見開いた。
    『一撃で葬り去るとは……素晴らしい! 貴女は我と同じく、漆黒の闇を練り歩いて来た者なのだな』
     歓喜している女子を見て、灼滅者たちは、さとる。
     ああ、この子、友達居ないんだ、と。

    『貴方たちも彼の仲間だろうか? それなら心強い。連中をすべて倒すのに協力してはくれないだろうか。倒せば封印が解け、力を得たらあとはこの肉体を捨て、前世で天の先へ逃げた最終兵器黒き影を現世で打ち破る……!』
     なにを言っているのか分からないが、とりあえずそこら辺を色才のように攻撃するフリをしていれば、良いのかも知れない。
    「さあ……宴の始まりだ……!」
     少し戸惑う灼滅者たちに、色才はポーズをびしっとキメて見せた。


    参加者
    望月・心桜(桜舞・d02434)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)
    フェイ・ユン(侠華・d29900)
    切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)
    サン・クロース(戦うミニスカサンタ・d32149)
    煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)
    アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)

    ■リプレイ


    (「痛々しい……どんな噂からこんな都市伝説が発生したのか想像が付きません」)
     都市伝説で良かったとしみじみ思い、女子に哀れみの目を向ける、黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)。
    「……彼みたいな人っているんだね。あの子は都市伝説だけど」
    「あいつ、言うだけ言って帰って行きやがったな……」
     ここまで案内した相手を良く知っている、フェイ・ユン(侠華・d29900)と切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)が、呟く。
    「都市伝説さんだってね、現れた以上は、厨ニをね、充実したいと思うの。一瞬たりとも正気に戻らずに、一緒に厨ニを楽しむなの」
     久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)は中二らしさを自分なりにイメージし、服装は美しく鮮やかな水色の着物ワンピースで、フリル状のミニスカートだ。
    「私は、紅き衣の使徒がひとり……人呼んで、太陽(ザ・サン)」
     明るい性格のサン・クロース(戦うミニスカサンタ・d32149)は、ノリノリだ。
    「なるほど、貴女が伝承に謳われし、黒き影を唯一打ち破る事が出来る、決戦存在なのですね」
     都市伝説だとしても、孤独な少女の心を温めてあげたいという想いを抱き、全力で中二設定を演じている、サン。
    (「……うーむ、とりあえず、都市伝説さんを、姫と呼んでおこうかのう」)
     名乗られたからには、きちんと応えなければ失礼だと思案している、望月・心桜(桜舞・d02434)。
    (「設定を考えるのがこんなに難しいとは思いませんでした」)
     中二設定を一生懸命考えた、アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)は、もう既に疲れている様子で、微かな溜め息を零す。
    「我は紅蓮の火。闇に故郷を滅ぼされし者。今宵、我が復讐の焔は貴様らの魂の影をも消し炭にしてくれよう」
     煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)が、まさに中二全開な発言をし、女子の瞳が輝く。
    (「登場の名乗りは大事だよな。おれん家焼けちまったのは事実だし……」)
     上手く掴めたことに安堵する燈だが、悲しい事実が含まれていた。


    「わらわは内に鬼を秘め、姫のために現れし巫女。姫の封印を解くのをお手伝いするのじゃよ」
    『なんと、それは頼もしい』
     心桜の言葉に、女子は瞳を輝かせる。
    (「嘘言っとらんな、うん」)
     巫女服姿で神薙使いの心桜は、言い回しが違うだけで、嘘をついているわけでは無いと納得する。
    「いつもはピンヒールに鞭持って、クラブの男の子先輩のおみ足を狙ってるけど、今日のねこさんは、舞い降りた天使なの」
     ウイングキャットの、ねこさんが女子の前へ、天使を思わせる動きでふわりと降りた。
     杏子はねこさんについて、すごいことをさらりと言っている。
    「こんにちは、あたし達は、前世の平行世界から、あなたを救けにきたのよ!」
    「なんじゃかのってきたのじゃ。キョン嬢、行くのじゃよー!」
     親友の心桜と共にテーマソングをずれること無く歌い、杏子は華麗に登場。
     心桜と杏子は動きを合わせ、なにも無い空間を攻撃する。
    「姫、ここはわらわたちにお任せを! キョン嬢、後ろはわらわにお任せてたもれ!」
     ノリノリで熱血的になっている、心桜。
    「よし、ボクも名乗りをあげよう! 名乗りは大事だって、友人のヒーローちゃんも言ってた気がする!」
     フェイは登場のタイミングを見計らっている。
    『有り難い、そちら側は任せよう。私はこちら側を……』
     反対の方向を振り向く、女子。
     その瞬間、フェイが女子の妄想敵から、女子をかばうふりをする。
    「えーっと……闇を裂く鳳翼の炎・フェイとその従者・无名、参上!!」
     わずかに迷いは有ったものの、フェイは見事にビシリとポーズをキメて見せた。
    『すまない、助かった。危うく致命傷を負うところだった……封印を解く前に死しては、現世で宿敵を打ち破ることも叶わぬ』
     女子は、かばってくれたフェイに礼を言う。
     きちんと礼を言えるあたり、暴走タイプの中二病では無いのだろう。
    「流石は闇の使徒、影に姿を隠すなどお手の物という事か。だが、姿は見えずとも気配を感じる」
     燈は感覚をとぎ澄ませるようなフリをし、やがて一点にまなこを向ける。
    「悍ましき殺気は――そこだっ!」
     仲間の邪魔にならない範囲を選び、ファイアブラッドの燈は炎を放ち、激しい炎の中心に立つ。
    『なんとすさまじい力だ……どのような対価を支払ってそのような力を得たのか是非に訊きたいが、今は続々とわきいず使徒どもを倒すのが先決か』
     妄想敵をことごとく、壁や床と共に炎で焼き尽くす燈の強さに、女子はゴクリと喉を鳴らす。
    「何をもたついている。こちらを見ろ……やっと会えたな、罪深き者よ。我を覚えているか」
     黒歴史だと分かっていながらも璃羽は、仕事は全力で挑むという精神から、中二設定を演じる。
    「異世界にて我、魔剣クロノの所有者たる魔王を滅ぼした大罪、この世界で償わせてくれようぞ」
    『なん……だと……魔王の所有していたあの剣が意思を!? くっ……私はどうすれば良いのだ』
     璃羽の渾身の演技に、ノリノリの女子。
     片手で頭を抱える女子の前へ飛び出し、虚空をいびつな剣の形状に変えた影業で攻撃する、璃羽。
    『な、なぜ……?』
     戸惑い、驚きを隠せない女子。
    「弱き貴様を倒しても恨みは晴れぬ。邪魔者は片付けてやるから早う力を取り戻すが良い」
     無表情のまま、璃羽は影業の形状を様々なものに変え、なにも無い空間を攻撃し続ける。
    「主の意思を継ぐ我以外に負けることは許さん」
     盾の形に変えた影業で、女子を守る、璃羽。
    『ふふっ……一時休戦というやつか』
     女子は冷や汗を流し、安堵の笑みを浮かべる。
     普段から無表情な璃羽だが、中二設定を重視し、無感情な態度を見せる。
    「なんでしょう……この、みなさんのなりきりよう。ついていく自信がなくなりそうです」
     アリスは仲間たちの言動を観察し、各々のノリの良さに不安がつのってゆく。
    「頑張ろう、アリスちゃん!」
    「とりあえず周りを攻撃してればいいんじゃねぇか」
     アリスを応援するフェイと、アドバイスをする村正。
     学問書やラノベなどを読み漁って得た知識を、さり気なく伝えてみる、璃羽。
     アリスは頷き、女子へ眼差しを向ける。
     女子を恥ずかしそうに見つめては逸らしていた瞳が、次第に濡れてゆく。
    「やめて姉様を攻撃しないで。やっと会えたのに……」
     はかなげな妹設定を編み出したアリスは、女子をかばうようにして戦い始める。
    『まさか貴方は、深淵の闇へ堕とされ離れ離れになった……いや、それにしては幼い』
    「そうです、姉様。悠久の時を巡り、やっと会えた感動で、今まで話すに話せず……姉様と引き離され封印された故に、このような幼い姿に」
    『そうだったのか……生きていたのだな。我が半身と呼ぶべき妹よ』
     アリスの設定と演技力に、女子もノリノリで返すのだった。


    「1匹の強さはそれほどではないとはいえ、こうも数が多いと厄介ですね。人の世を守る為、ここに集った皆の力を合わせましょう!」
     サンは仲間たちに声を掛け、女子に仲間の尊さを味わわせる。
     ミニスカサンタ姿から、サンは、紅き衣の使徒という設定を思いついたのだろう。
     サンタクロースを意識するのだけは、ゆずれないようだ。
    「傷を負った方は私のもとへ。我が力でその傷を癒します。我がしもべたるルドルフには、私の傍らで援護してもらいましょう」
     サンが指示を出し、ライドキャリバーのモータールドルフが乱戦模様を思わせるかのように、猛スピードで駆け、機銃掃射。
    「おっと、私の攻撃は足技だけではありませんよ?」
     トナカイをイメージさせる愛らしいSonic Dasherで虚空を蹴っていたサンが、印を結びつつ九字の呪法を唱える。
    「姉様に手出しはさせません。やっと会えたわたしたちを、また引き離さないで! ゆきなさい我が眷属!」
     叫びながら光の輪を虚空に放つ、アリス。
    「逃がさないよ!」
     あたかも妄想敵が光の輪を避けたかのように振る舞い、フェイが拳や蹴りを繰り出す。
     周囲の安全を密かに確認してから、フェイは炎の翼を現わした。
     あまりの迫力に感動している女子の前へ村正が立ち、巨大な腕型の武器を軽々と動かし、女子をかばうフリをする。
    「これを持ってろ、これには……えー……六世の孫の力が封じられてる。きっとお前を守ってくれるはずだ……!」
     おふだのようなものを女子に渡す、村正。
    (「縁結びの神様だかだったっけか、まぁいいか」)
     重々しく告げたわりには、適当な村正であった。
    「お前を倒したらこの時空の果てにいるお前の恋人もすぐに跡を追わせてやろうぞ」
    『それはどうかな。あの御方は我よりも遥かに強いのだからな!』
     璃羽は女子の中二設定を追加してみるが、女子は違和感も無くノリノリだ。
    「心を澄ませて、闇に響く華厳なる聖の調べを感じてっ!」
     杏子は女子に語り掛けながら、スカートをひらめかせ、雰囲気を重視する。
    「駄目じゃ、キョン嬢! それ以上戦かったらお主が倒れてしまう!」
     熱血で仲間想いな雰囲気が大好きな心桜は、必死に言葉を投げる。
     直後、心桜が膝をついた。
    「くぅ……わらわの右腕がうずく……離れてたもれ……キョン嬢は姫の封印を早く……! 鬼の力、目覚めし!」
     心桜の片腕が、異形で巨大なものに変わる。
    「必殺! ……なんだっけ?」
    「暗黒を祓う詩、神の御心! じゃよー!」
     杏子が息を合わせて心桜と同時に必殺技を放とうとするが、肝心の名称を忘れていた。
     心桜は技名を伝え、仕切り直しとばかりに2人で同時攻撃。
    「かっこいいね! ボクらも……村正くん、あの技行くよ!」
    「あの技って、どの技だ……」
    「合体攻撃だよ! ほら行くよ!」
     フェイが嬉々として、ノープランの攻撃を仕掛けようとする。
     怪訝そうにしていた村正だったが、フェイの掛け声にとりあえず合わせ、空間を攻撃。
    「焼けろ、燃えろ、灰となれ!」
     燈も声高々に吠え、女子の妄想敵を焼き払うように炎を飛ばす。
     女子が、敵がすべて消えたことを告げる。
    「さあ、敵は片付きました。これで封印を解く事が――」
    『あとはこの肉体を捨てるのみだ。頼む、我を送ってくれ』
    「何ですって? 我々に貴女を手に掛けろと言うのですか?」
     サンの問いに重々しく頷く、女子。
    「姫を攻撃せねば、この暗黒は祓えぬというのか……! 運命というのはあんまりじゃ、せっかく仲間になれたのに……!」
     心桜は共闘している内に友情を感じてしまったのか、必死だ。
    「肉体を失くしても。……また、会えるよな?」
     楽しく演技をしていた燈も、気づけば情が湧いていた。
     女子が肉体を捨てるということに、本気で寂しさを感じる、燈。
    「最終兵器黒き影のことは姫に託すのじゃ……せめて……せめて、来世では親友として生まれようぞ……!」
    「あ、あたし……、あなたを攻撃するなんてっ!」
     決心した心桜の攻撃に続き、泣きながら十字架で女子を殴る、杏子。ナノナノのここあは癒しを担当し、愛らしい攻撃をする、ねこさん。
    「姉様……」
     悲しげな声を作りつつ、アリスは見切りに注意しながら攻撃。
    「……わかりました。それしか方法がないというのなら、やるしかありませんね。後は頼みましたよ、決戦存在。必ずや黒き影を討ち果たし、世界を救ってください!」
    「できるだけ苦しめないように……」
     サンと上手く連携し、燈は慎重に狙いを定め、炎を操る。
    「都市伝説ちゃん、ごめんね」
     瞳に涙を溜めつつ、フェイはビハインドの无名と共に、ダメージを与える。
     村正はなにか有った場合、回復はするつもりだが、攻撃には参加せず、女子に背を向けて待つ。
    「我が殺してやるから早う黒き影を倒してくるが良い」
     影業を炎の形に変え、腕にまとうように影の炎をゆらめかせ、トドメを刺す璃羽。
     満足そうに消え掛ける女子に、アリスが左目を開く。
    「やっと会えた姉様、わたしの半身。もう2度と深淵の闇に住む愚か者どもには渡さない……さぁ、ひとつになりましょう」
    『そう、だな。封印を解いても半身だけでは勝てぬ……そなたと共にどこまでもゆこうぞ』
     アリスの説得に応じ、都市伝説の女子は無抵抗で吸収された。


    「中二病とは疲れるものですね。次に現れたら怒りのあまり殴り飛ばすかもしれません」
     演技を止めて通常に戻ったアリスは、口をへの字にし、表情から愛想を消してジト目になる。
    「……やっぱりちょっと恥ずかしいかも」
     中二ごっこを思い出して、頬を赤く染めてしまう、フェイ。
    「一緒に遊んだあとだと、なんだかちょっと寂しいな。でもこれで都市伝説の言う通り、肉体を捨て、影を打ち破る存在になったという訳か、ねえ……」
     燈は都市伝説について、色々と思案している。
    「これで終わりか……まぁ満足して蒐集されてったなら、何も言うことはねぇな」
     都市伝説が吸収される場面を、きちんと見守っていた村正が呟く。
    (「確実に将来苦悶するレベルの黒歴史です」)
     ようやく中二ごっこから解放され、璃羽は力を抜く。
    「運命に導かれここに集いし者達の手で彼女は救済された……という感じかしら」
    「うーむ。なんじゃか色々と照れるのう!」
     サンが上手くまとめ、心桜は恥ずかしそうに笑う。
    「あー、お腹すいたあ! こっこ先輩、それにみんなっ! あったかいご飯、食べて帰ろう?」
     今までの中二など無かったかのように、即座に素に戻った杏子が、仲間たちを誘った。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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