「何だか落ち着きますもちぃね」
ほぅと吐息を漏らしたそれは、ぽっちゃり体型の少年の胸を鷲掴みにしたまま、ですがと続けた。
「至福の時間とは言え、いつまでもこうして居る訳にはいきませんもちぃ。わたくし、過岩・りんごにはやらなくてはいけない使命がありますもちぃ」
そう、それはもぎたてのフルーツを使ってフルーツ餅を量産することと続けるかなり大きな胸を持つ少女の形をした人ならざるものは、周囲に植わる柑橘系の果樹へと視線を移す。
「この時期旬の果物と言えば、苺とキウイ――」
そして、密かに様子を窺う比婆・麻菜(中華とお餅が巡り合う奇跡・d33097)の身体を隠してくれている果樹のつけた実と言うことなのだろう。
「『もぎたて』と『もみたて』はよく似てるもちぃ」
字面的にはあながち間違いではないが、ツッコミどころだらけである。
「ワタシ、何だか頭痛くなってきたアル」
だが、額を抑えてうずくまっていてもどうにもならないことを理解していた麻菜は、推定ご当地怪人に感づかれる前に踵を返し、果樹園を後にしたのだった。
「……と言うことヨ。何とか気づかれずに抜け出してきたけど、放っては置けないアル」
呼び集められた君達を前に麻菜がかいつまんで事情を説明すれば、顔を引きつらせた鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は顔を引きつらせて、うわぁと洩らした。
「あそこで気づかれてたら、ワタシも果樹の様子を見に来た農家の息子さんと同じ目に遭ってたかもしれないアル」
「あー、可能性は否定しないけど……その、揉まれてた人は大丈夫なの?」
自分の身体を抱くようにして身震いした麻菜に視線をそらしつつ和馬が問い。
「見てる限りはそれ以上の危害は加えられてなかったヨ。もっとも、それもあるから急いで引き返す必要があるネ」
相手はダークネスなのだ。もし、件の怪人が害す気になれば一般人などひとたまりもない。
「接触して、あの人の安全を確保。その後、説得してから戦う流れネ」
エクスブレイン不在の現状では、件の怪人が闇堕ちしかけの一般人なのかはた迷惑なダークネスなのかを判別する方法はない。ただ、仮に闇堕ち仕掛けの一般人でも戦ってKOしなくてはならない為、やることは決まってしまうのだ。
「今ならまだあの果樹園に居る、補足もしやすいヨ」
接触してしまえば、量産すると言っていたフルーツ餅や他に怪人の気を引けそうなモノを餌にして一般人から引っぺがし、可能なら場所まで移動させてから説得し、戦闘に入ればいい。
「その果樹園、時期によっては果物狩りもできるらしくて果樹園の入り口を抜けると広めの駐車場があるヨ」
そこまで誘引出来れば果樹を巻き込まず戦闘が出来ると思うネと麻菜の談。また、件の少年以外に人影はなかったが、心配なら一般人を遠ざけるESPを用意して行くのも良いかもしれない。
「戦闘になったら、あのご当地怪人はきっとご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃で応戦して来るヨ」
他にも妖しげなオーラを纏っていたので、バトルオーラのサイキックに似た攻撃手段を持つかも知れないとのこと。
「それから……もう一つ」
セクハラにも気をつけておいた方が良いかもしれないヨと麻菜は言った。
「揉まれてたのは男の人だけど、女の子だったら大丈夫とは言い切れないネ」
麻菜は見つかっていないのだから、女性への反応は未知数なのだ。
「や、未知数って……というか、既に男の人が犠牲になってるんだよね?」
嫌な予感でもしたのか、和馬が顔を引きつらせるも、麻菜はスルーし。
「ご協力、よろしくお願いするネ」
君達に頭を下げるのだった。
参加者 | |
---|---|
凪・美咲(蒼の奏剣士・d00366) |
辻堂・璃耶(六翼の使者・d01096) |
墨沢・由希奈(墨染直路・d01252) |
黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643) |
白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160) |
醤野・ともえ(高校生ご当地ヒーロー・d35162) |
仁王岩・りんご(儚く想う恋空乙女・d37603) |
明王岩・りんご(ガールズビーアンビシャス・d37646) |
●でおち
「わたくし、黒岩・パイナッ――」
最後まで言わせず、黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)はその幻覚を見なかったことにした。そぉいとかかけ声をかけ放り投げた様な気もするが、きっと気のせいだろう。
「ほんとに、りんごは何人いるんでしょうねぇ」
仲間達に向き直ると、妹と同じ顔がこんなに揃って、兄としては本当に複雑ですと続けながら向けた視線の先には、仁王岩・りんご(儚く想う恋空乙女・d37603)と明王岩・りんご(ガールズビーアンビシャス・d37646)。
「……『世界には同じ顔をした人が3人はいる』って言うけど、りんごちゃん、これで何人目だっけ……?」
首を傾げた墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)の視界にも応援に駆けつけた灼滅者を含めて三人りんごが居るからこそ、間違いなく三人以上はいるししかも全員同じ名前なんだよねと口にする。
「『全世界りんごさん化計画』……みたいな話が、裏で進んでたりとかは、……しないよね?」
恐る恐る尋ねたのは、白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)だ。たぶん、由希奈の様に世の中ってすごいよねで済ませなかったのだろう。
「りんごさん顔の人は一体何人いるのやら……あとで聞いてみましょうか」
視界に入るりんご達を順に視線で追ってからポツリと漏らした凪・美咲(蒼の奏剣士・d00366)もまた気になってしまった灼滅者の一人。
「と言うか、何というか……」
「もう、止め……あっ」
何とも言えない表情をした鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)が目を向けた先で、ご当地怪人に胸を揉まれるぽっちゃりした少年が切れ切れの声をあげる。つまり、果樹園の入り口に立つ幾人かにはこのやりとり事態、現実逃避でもあったのだろう。
「闇堕ちもっちあは、私も他人ごとではないと思って、参加したのですが……」
目の前に広がる衝撃映像は、動機を語る醤野・ともえ(高校生ご当地ヒーロー・d35162)とて想定外だったに違いない。
「また出たと聞いて見に来ましたが、ほんとそっくり……でも胸揉み魔は似てませんよね?」
「「えっ」」
応援の灼滅者の一言にないわー的な顔をした面々の声が重なったのは、きっと日頃の行い故か。
「はてさて、似た顔の私が言うのも何ですけれど……ここまで同じ顔がそろうと、これだけで都市伝説が生まれてしまいそうですわね?」
「うーん……フルーツもぎたてはいいですが、もみたてというのは……」
うなじ好きのりんごこと仁王岩さんが不穏なことを口にする中、ご当地怪人の所業に辻堂・璃耶(六翼の使者・d01096)も複雑そうな表情を見せ。
「と、ともかく、そんなはしたないモッチアさんはどうにかしませんと……」
「そうですね、これ以上の被害が出る前に正気に戻さないと……」
「ともあれ、先ずは止めに入りませんと。お願いしますわね、お二方?」
璃耶と言葉に同意した美咲との後を継いだうなじ好きさんは、場にいる男の娘二名の肩を軽く叩いた。
「えっ」
「そうですね。男性目当てなら…………私と和馬さんで囮をしましょう」
「そういえばいちごくんの持ち物の中にあったね……用意はお願いしてもいいかな?」
「はい、わかりました。女装用のパッド入りブラ、和馬さんも使います?」
一人が固まる内にもう一方は由希奈と言葉を交わし、荷物の方に歩み寄りながら振り返って尋ねてくる程に反応は分かれ。
「ぱ、パッド? って、言うか何で持っ」
「あらあら。何ならわたくしもお手伝いしますわよ?」
「ちょっ、待」
状況が理解出来なかったのか、驚き立ちつくす和馬は隙だらけだった。濡れ透け好きのりんごこと明王岩さんにあっさり捕獲され、声を上げるもそのまま連行され。
●接触
「ええと、こんにちは……もぎたて、ですか?」
女装を終えご当地怪人へ接触を図った男性の内、いちごが先に口を開いたのは、もう一人にパッドまで付けての女装に慣れが無かったことを鑑みれば、ある意味必然だった。
「どなたですもちぃ?」
そして、声までかければ至福の時間に浸りきっては居られなかったか、ご当地怪人もいちごへ向き直り尋ね。
「あのー、ずっと同じ人を相手にしていると飽きてきませんか?」
そっと近寄った美咲は囮である男性陣二人が名乗るより早く問う。ただし、答えを待つ必要はなかった。
「こちらに生贄もといおかわりがですね」
狙いは囮の灼滅者達にご当地怪人の意識を向けることだったのだから。
「あ、えっと」
「ちょっとお話を」
「……っ」
美咲に示された先で、俯きがちに目を逸らした誰かとは違い、いちごが話を切り出そうとすれば、その姿を見たご当地怪人は息を呑み。
「女の子は胸が全てではありませんもちぃ、強く生きて下さいもちぃ」
どことなく痛ましいモノを見やる様に顔を曇らせると男の娘二人の肩を軽く叩いてそのままスルーしようとする。
「ちょ」
「あ」
一人は性別を間違えられた事への抗議もあって、もう一人は揉まれるどころかスルーされるという事態に拙いと思い声をあげたが、胸に執着するからこそパッドで有ることを瞬時に見抜いたのだろう。
「それは『もりたて』ってことなんだよ」
「なっ」
作戦失敗の危機を救ったのは、由希奈の発した言葉だった。
「もり……たて?」
「そう、盛りたて! つまりパッドで胸を盛って間もないということ!」
「も、もみたてよりは、盛り立ての方がいいと思うよ……!」
「もちぃ……なんてこともちぃ」
果物のりんご片手に早苗も援護射撃するも、それが耳に入らぬ程にご当地怪人は動揺した。
「少なくとも、『もぎたて』と『もみたて』と同じぐらいには近い。つまり、近いだけで本質からズレてるってことなんだよ!」
「そんな、わたくしは……わたくしは」
由希奈は続けて指摘するも聞こえている様には見えず。
「わざわざ『もりたて』にしてまで胸を揉んで欲しいとやって来た方を胸が無いからと相手にしないなんて……人として最低のことをするところでしたもちぃ」
「や、揉んで欲」
「誠意には誠意で応えるのが人の道、わたくしの乳道もちぃ」
おそらく、男性どちらかの発しかけた言葉も意味には届かなかったと思う。
「少しの間、離れて隠れていてくださいまし」
「っ、あ、あ、ああ、あり……がとう」
ご当地怪人が自分の世界に突入した隙をつき、すかさずうなじ好きの方のりんごがこれまで延々と胸を揉まれていた犠牲者を救出する。ついでに囮二人のうなじに熱い視線を送っても居たが、軌道修正はなったと見て良いだろう。
「アイヤー……姉ちゃもこんな時にほんとご無体アル。すっかり出遅れてしまったネー。闇もちぃした彼女の様子はどうアルか?」
ここでかかってきた電話に血相を変えて引き返していった筈の麻菜が顔を見せるが、その状況を何と説明すればいいモノか。
「や、っ……なんか、変な気持ちにっ……んっっ」
端的に説明するなら、いちごがご当地怪人に胸パッドを揉まれ、色っぽく悶えていた。
「きゃあ……!」
早苗は見ていられないと目を手で覆っているが、目のやり場に困る光景が広がっているのは一箇所ではなく。
「これが至福の時間というのは賛同ですわね♪」
「ちょっ……あの、りんごさん? 今ここでは……ひゃぁっ……!」
黒いのに後ろから襲われた璃耶も胸を揉まれていたが、こっちは平常運転。
(「……正直妹と同じ顔に揉まれるのってかなり複雑……っていうか、手つきが妹並みにテクニシャンっ?!」)
悶えつつも男の方の犠牲者が考察する中、約一名心中穏やかでない人がいた。
「……いちごくん?」
色々な意味でノーサンキュー、そう言ったのに目の前で起こっている光景は何なのか。
「駄目だよ、私以外とそんなことしちゃ?」
闇落ちとは別方向のダークサイドに陥りかけた様な表情ですちゃりとウロボロスブレイドを鳴らす。すわ修羅場かといった空気が生じる中。
「それにフルーツでしたら……むきたてとか、他にも色々ある様な」
ご当地怪人へ抗弁したのは明王岩の方のりんごだったと思う。
「むき……たて、もちぃ?」
由希奈の迫力にも動じなかったご当地怪人は、たった一つの言葉に固まり、愕然と立ちつくす。
「何か『むきたて』と言うもの凄いワードが飛び出したような……この場合むかれる物って……まさか……」
何を連想したのか、顔を若干青ざめさせた美咲は二歩程後退りをし。
「そうそう。とれたてとか、むきたてとか、そういう方向にしておきましょうよ……」
ご当地怪人が動きを止めたことで解放されたいちごは、効果有りと見たのか濡れ透け好きさんの言葉に乗っかった。
「あっちゃあ……」
美咲同様の結末を予想したらしい和馬が掌で顔を覆って空を仰ぐもいちごはまだ気づかない。
「ん、フラグ立てた気がしますが、むきたてはやばい予感が……」
なんて発言を漸く口にした頃には全てが遅すぎた。
「目から鱗が落ちるおもいですもちぃ。むきたてとなるとパッドの方達とは相性がよろしくありませんもちぃわね」
「えっ」
衝撃から立ち直り、男性陣を条件的に除外して獲物を探すご当地怪人が周囲を見回せば、当然真っ先に目につくのはいちごへの胸揉みを止めさせようとしていた由希奈になる。
●なるべくして
「いやっ、そんなっ、流石に『むきたて』はいやぁぁぁっ!?」
アイデアを提示され、即座に試そうと動くのだから行動力は有るのだろう。
「た、大変なことに……摘みたての苺はいかがですか? とっても美味しいですよ」
状況が少しでも好転すればとともえは果物の方の苺でご当地怪人の気を惹こうとし。
「ありがとうございますもちぃ、これが終わった後で頂きますもちぃね?」
「お、終わった後じゃダメです。し、しぼりたてのミカンジュース、すりたてのおろし林檎などもありますよ」
効果がないと見るや、ともえは品を変え、物がよく見える様に少し近寄ってみるも、それは悪手だった。
「まあ、そちらの方もなかなかの大きさですもちぃね」
「え? いえ、私、胸が大きいのはもともとでっ!? もみたてもむきたてもダっ、あ、揉んじゃだめです、いやあああっ」
かくして、ミイラ取りはミイラとなる。いや、それだけならまだ女性同士でマシだったかもしれない。
「何とかしないとっ、止っうわぁ?!」
「「きゃあ」」
ご当地怪人に襲われる様を見過ごせなかったいちごが止めに入ろうとしていつもの様に何もないところで躓き、ともえ達の方へと倒れ込んだのだ。
「こう、約束された展開言うか、予想通りアルな」
情報提供者が惨状を惨状に口元を引きつらせたのも無理はない。
「……離れている間に何があったのやら。ねぇ、和馬さん?」
「や、なんか『むきたて』をやってみようとし始めて」
最初に胸を揉まれていた少年を避難させて戻ってきた仁王岩は周囲を見回し、取り込み中有ではない方の元囮に問えば、それを止めようとしてああなったのかのかなぁと和馬は遠い目をする。
「やっぱり採れたてでしたら……男の娘でありませんと♪」
「ちょ、採れたてじゃ、なくてっ」
「ご馳走様ですわ。さ、次に」
もっとも、うなじ好きのりんごにとって経緯はどうでも良かったらしい。和馬の後ろに回り込むとうなじを堪能してとらぶる真っ最中のもう一人の元へ。
「あ、そっちは」
第一級危険痴帯へ自分から歩いて行く背に早苗が声をかけたが、仁王岩足は止まらず。
「決意は固いみたいネ。かと言って、あっち行って揉まれるのは遠慮したいヨ。だから、あっちはお姉さんたちに任せるアルよ」
早苗の肩を軽く叩き麻菜は頭を振り、こうして二人は窮地を脱す。
「あら、でしたらお二人はわたくしが」
かに思われたが、脅威は前方に限らなかった。
「え? ま、任せるって言ったアルのにー?! ふにゃ、あいや、ああああっっ」
「りんごさん? 何時の間に?! ちょ、ちょっと待――」
犠牲者は更に二人増え。
「すみませんー?! って、りんご何をやっ、え? こっちにもりん、ああ、離れ」
あくしでんとの固まりはそのご家族に二人が襲われている間に向こうの方からいらっしゃった。
「わぁっ」
「お兄様、妹にまで手を出す気ですかー?!」
「いやーっ、私の服ぅぅぅっ!」
「もっちゃぁぁぁっ」
響き渡る悲鳴、もっちあ(動詞)される胸。誰かの服が引きちぎられて持って行かれ。
「あらあら……いちごさん? 妹様と似ているのに、私にもこんなことされちゃうので……?」
「ご、ごめんなさい、何でこんなことに……と言うか、抱きついてこないで?!」
頭部を激おこのビハインドにポコポコ殴られつつも謝る苺は、胸を押しつける様にして抱きついてくるりんごに叫ぶ。叫ばざるを得なかった。
「いちごくん……」
何故なら右肘に覚える柔らかな感触の方から聞こえる声の温度が急低下しつつあったから。
「酷い目に遭いましたもちぃよ」
事態を収拾し、なんやかんやあって場所を駐車場に移し、ご当地怪人の漏らした呟きは幾人かにとっても同意見だったことだろう。
「ですがこの身体は渡せませんもちぃ」
「な」
「むきたての素晴らしさに危うく初心を忘れるところでしたもちぃけど」
驚く灼滅者達の前で邪魔はさせないもちぃとご当地怪人は構えた。
「勝負と言うことですか……もぎたてともみたてが似ているというのなら、そぎたても似ていることになります」
張り詰める空気の中、璃耶は逆巻く風の刃を生み出し。
「もぢっ」
ご当地怪人が怯んだ瞬間に戦いは始まった。始まる激しい攻防。
「わたくしは同じくらい、過岩さんのモッチアにも興味が♪ 戦闘中なら不幸な事故で片づきますわね?」
「ちょ」
「構いませんもちぃよ。揉ませてくださるなら等価交換もちぃ」
その最中、欲望だだ漏れのあるりんごに和馬が思わず声を上げるもご当地怪人はむしろバッチコイのご様子で。
「もぢゃっ」
同じ名を持つ灼滅者の言葉に気をとられたからか、射出された光刃を避け損ねた怪人の胸からぶちっと音がし、神薙刃で傷つけられた衣服に服破りがトドメを刺したのだろう。零れ出たのは他のりんご達より二割程大きなもっちあ(名詞)だった。
「っ、わたくしのサラシが」
思わず胸に注意が逸れ、それが隙になった。
「しまっ」
弱体化していた所への集中攻撃が降り注ぎ、悲鳴をあげて倒れた怪人は人の姿へと戻り始めるのだった。
●すごいわさん
「と、とりあえずこれでもう大丈夫なんだよね……?」
少なくとも少女は人に戻ったというのに早苗は何処か不安を隠しきれない表情で周囲を見回す。
「な、なんとかなってよかったですが……こ、これ以上ここではもまないでくださいー!?」
約一名、璃耶が応援の灼滅者に胸を揉まれている以外の異常は今のところ見あたらず。
「しかし、ホントに『りんごがいっぱい』ですわね」
「えーと、ひぃ、ふぅ、みぃ……ここにいないりんごさんもいるんですよね?」
「ええ。えっと……黒岩さん、仁王岩さん、わたくし、過岩さん。そして今日来られてない方も込みで……えーと?」
思わず感嘆の声を漏らした明王岩の方のりんごは、指折り数える美咲に頷きつつも美咲同様に人間のりんごをカウントし。
「本当に何人いるの……?」
由希奈の目につくだけでこの場に既に四人。
「現状で六人でしょうか」
とは一人目の弁。
「けれど、やっぱりこうしていると落ち着きますわねぇ。幼い頃、母がいない寂しさを父の豊かな胸に顔を埋めて紛らわしたものですけれど」
「んー。男の子のモノを揉みたいようでしたけれど、そういうことでしたか」
濡れ透け好きのりんごが納得した様子を見せるも少女の言葉は終わらない。
「……パッドまで付けて揉ませてくださるなんて、いちごさんはわたくしの母になってくださるかも知れない男性ですわね」
その一方で、どことなくうっとりとした助けた少女の言を聞けば、由希奈も人数のことだけを気にして入られず。
「いちごくん……ダメだよ勝手に人のお母さんになっちゃ」
「由希奈さん?! なりませんよ! いや、それ以前に色々と日本語おかしいですから!」
不思議なやりとりをかわす一組の男女を幾人かが見つめる中。
「え」
突如プツンと音がして、早苗のスパッツがはじけ飛んだ。
「な、嫌ぁぁぁっ」
肌に残った残骸を押しつける様にしてしゃがみ込む早苗。
「そんな、あれでは濡れ透けにしようが……」
「気にするところ、そこ?!」
絶望に崩れ落ちる某りんごに和馬がツッコミを入れ。
「いちごさんがお母さんでは駄目と、ではあなたなら問題有りませんわね?」
「えっ」
助け出された少女はノーサンキューとダメ出しした由希奈にくるっと向き直り。
「光くんにもされた事無かったのに……」
由希奈を母親認定しとある少女が押し倒す中、涙目でへたり込んでいたともえはぎっと地面に爪を立てる。
「上等だぁ、この辱め、倍にし」
感情を高ぶらせ、立ち上がろうとした瞬間、後ろから誰かにのしかかられる。
「な」
「ご、ごめんなさい。アリカさん、わぁっ」
それはアリカのお仕置きで吹っ飛ばされてきた誰か。その後、どういう展開が待っていたかは言うまでもない。
「ところでフルーツさん、貴方の苗字……『すごいわ』は何と書けばいいのかしら?」
「通過の『過』に『岩』です」
ぐったりとした由希奈の上で嬉しそうに少女は答え、こうしてまた一人灼滅者が誕生したのだった。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2017年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|