えっ! 静岡で怪しいマグロが?!

    作者:八雲秋

    「皆さん、今日は集まってもらい、ありがとうございます。早速、事件についてお話したいと思います」
     教室に集まった灼滅者たちに立花・誘(神薙の魔女・d37519)は教壇に立ち挨拶した。
    「先日、九州に用事があって、そこから武蔵坂学園に帰る途中、静岡でとある噂を聞いたんです。それがマグロなのですが……」
    「マグロ?!」
     何人かがその単語に腰を浮かす。誘が言葉を続ける。
    「静岡の漁港の近くにある廃業した回転寿司店で夜中の3時に空中を回転寿司のレーンに沿って回遊している5,6匹ほどのマグロの群れが現れると言う都市伝説の様なのです」
    「都市伝説か……」
     何故だか落胆したように席に着く灼滅者もいるが、続けて質問を重ねる者もいる。
    「もうすこし詳しい噂はない?」
     誘は頷き、
    「そのマグロたちは時々、体から蒸気のように霧を吹きだすとマグロは一層元気になる。人を見つけると、ものすごい勢いで突進してくる。この二つの行動が見られるらしいです。前者はヴァンパイアミスト後者はロケットスマッシュと同等のものと考えられますね」
    「成程」
    「マグロのあいつに比べたら、こちらはただの都市伝説かもしれません、だからといって、マグロと名のつく事件をこのままにしておきたくないです。私と同じように思ってくれる方がいましたら是非とも参加していただきたいです」
     そういって彼女は一礼をしかけたが、あ、と、呟き、顔を上げる。
     何か他に注意する事が? 全員が彼女の顔を見つめると、
    「この案件を片付けたら、近所の漁港散策するのも良いかもしれませんね。回転寿司でないにしても定食屋さんもあるし、朝市も開かれているようですから」
     そう言って小さく微笑んだ。


    参加者
    刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)
    ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    立花・環(グリーンティアーズ・d34526)
    百武・大(あの日のオレ達・d35306)
    新堂・アンジェラ(業火の魔法つかい・d35803)
    立花・誘(神薙の魔女・d37519)
     

    ■リプレイ


     閉店した回転寿司屋に一行は向かう。
     新堂・アンジェラ(業火の魔法つかい・d35803)がくんくんと鼻をうごめかし。
    「潮の香りって、なんかいいわね。陸で食べるより海の幸が美味しい気がするしこの辺って、いろんな種類の魚介類があるのかな?できれば、食べられるとことかあればいいんだけど……考えるだけでお腹が減るわ」
     隣で百武・大(あの日のオレ達・d35306)も、元気よく、
    「夜中に回るマグロかあ。俺は大トロ希望だぜ! うーん、でもマグロと言えばツナマヨも良いよな! メシにちょー合うんだぜ」
    「うん、おいしいよね!」
     現場に到着し店を見上げると立花・環(グリーンティアーズ・d34526)は、
    「久々のお仕事ですし、無理せずいきますぜ」
     そう呟き、ぐっと背伸びをした。それから皆の方を向くと、
    「あ、この度は妹のわがままにお付き合いいただき感謝します」
     姉らしく頭を下げる。その背後から、くだんの妹、立花・誘(神薙の魔女・d37519)が囁く。
    「……姉さんのせいで、一月に帰れなくて、ぼっしゅーされたお年玉」
     環が恐る恐る振り返るとどこか凄みのある笑顔を浮かべ立っている誘。環はひきつった笑顔で返す。
    「え、えーと、片付けたら一緒においしいご飯食べようね」
    「漁港の朝飯となると、季節のうまい魚が食えそうだしな!」
     傍らで会話を聞いていた大も、にっと笑った。
    「過去の報告書を拝見したが、皆の狙いのマグロとは少々違ったのだな」
     ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)の言葉にシャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)は頷き、
    「ええ、首魁クラスがソウルボードと同化しようとする今……『あれ』も同じ運命をたどっている可能性は低くないので」
    「残念だったな」
    「いずれも確証がない以上は、わずかな可能性も逃すことはできない。まぁ……それ以前に、放置するのも寝覚めが悪いわ」
    「そうだな。此れは此れで確りと片付けよう」
    「確か、お寿司がやってくるとか、食べられるマグロが回ってくるとか……」
     新堂・アンジェラ(業火の魔法つかい・d35803)が嬉しそうに言うのを、刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)は首を傾げ、
    「オレは都市伝説のマグロが泳いでいると聞いたんだが」
    「え? 食べられないの? 残念……」
     彼女はがっくりとうなだれるが、すぐに顔を上げると拳を握りしめ、宣言する。
    「怒りはそいつにぶつけるわね!」
     誘が扉を開け、入店しつつ、サウンドシャッターをかける。
    「三時という噂通りなら、そろそろですね」
    「人はいなそうだけど、一応な」
     大が小さな声で怪談を語り、人払いをした。


     やがて回転寿司のレーンの辺りがぼんやり明るくなると空の皿が載ったレーンの上、マグロたちは浮かぶように出現し、回遊を始める。
    「本当にレーンに沿って泳いでるのだな」
    (「……『料理されるの待っています』な感じがするのは、なぜだろう。水族館の回遊水槽とはまた違うせいか」)
     マグロたちが蒸気に包まれ鈍く光り出す。
    「いけない。パワーアップし始めましたね、早く片付けないと」
     誘がオールレンジパニッシャーを仕掛ける。マグロたちがあたかも電撃を受けたようにシビビと震える。
    「こっちも防御を」
     環が灼滅者側に夜霧を広めていく。
    「マグロは泳ぎ続けていないと死ぬというのは嘘なのか?」
     ニコがこちらを向いてふわふわと浮いているマグロたちを見て驚く。
    「水中じゃないからな」
    「都市伝説だからですかね」
     渡里と環の言葉に大きく頷く。
    「成程そうか……まあいい。その動き、永遠に止めさせてもらおう」
     ニコが袖を翻しクルセイドソードを構えると光る刀身から斬撃を繰り出す。
    「俺も行くぜ」
     大がソーサルガーダーを自らにかけ皆を守らんと率先して前方に突っ込んでいき、声を上げる。
    「ほら、かかって来いよ! マグロの生解体ショーみたいに捌いてやるぜ!」
     荒ぶって、うねる一匹が灼滅者に向けて突進してくる。
    「来るか……くっ!」
     大が真正面で相手する。
    「いってー、けど。マグロの突進は全部、俺が受け流してやるぜ、任せろ」
     木梨・凛平(中学生神薙使い・dn0081)が清めの風を送る。
    「頼もしいな、でも、無茶しすぎないでくださいね」
    「サンキュー!」
     マグロは魚雷のごとく突っ込んでくる。
     傷は渡里の霊犬、サフィアと凛平が癒してくれるので問題は無いが、渡里は結界糸を繰り出し、確実にダメージを与え、相手の動きを鈍らせつつも、突撃するマグロに鋼糸をうっかり絡ませてしまうのではと内心ひやひやものだ。
    「けっこう怖いな。本物は、衝撃とかストレスに弱いって……マグロのくせに丈夫すぎるぞ」
    「奴らは都市伝説だからな」
     ニコが先程言われた言葉を自信ありげに、今度は渡里に言った。
     環が放ったラビリンスアーマーを身に着けたアンジェラがマグロたちの前に立つ。
    「環、ありがとう! よし、総てを焼き尽くす紅蓮よ!」
     ゲシュタルトバスターでダメージを与える。2匹のマグロに炎が纏う。
    「炙りだな」
     真顔でニコが呟いた。その言葉に気を悪くしたのか炎を纏わせたままで一匹が突進してくる。
    「チッ……炎には炎を」
     グラインドファイア、炎の蹴りがマグロを一層焦がし、わずかにもがいていたが、時期に動きを止め、消滅した。
    「炙りどころか焦がし、いや、燃やしてしまったな」
     シャルロッテが突進を狙うマグロにスターゲイザーを放ち、その動きをけん制しながら呟く。
    「『あれ』の目撃から産まれたなら……もっと高度から急降下するかしら。都市伝説自体からわかるのはそれくらいかしらね」
     その呟きに環も頷き、都市伝説らに照準を合わせる。
    「いくらマグロを真似ようと、マグロの皮を被ったお前等には……マグロが足りない」
     環の身からDCPキャノンが放たれる。直撃し全身が紫色になったマグロは地に落ちる前に消滅する。環が片手でガッツポーズをとる。
    「マグロランチャー完全復活! マグロの魚群だって、解体して回転寿司としてレーンに乗せ替えてやる勢いでやっつけますよ!」
    「その調子、その調子」
     パチパチ、拍手が聞こえる。
     振り返ると、イイエガオの誘が。
    「損害分は体で払っていただきますから」
    「まだ、根に持ってるのね」
     恐らく小学生にとっては貴重な臨時収入であろう、お年玉である、無理もない。
    「さあ、キリキリ撃ち落としてください」
     イイエガオを崩さぬまま、魚群を指さし、姉に指示する。そして自分もまたクロスグレイブを構え、黙示録砲を撃つ。
    「炙られなかったマグロは急速冷凍いたしましょう」
     そこへ畳み掛けるようなシャルロッテの断罪転輪斬、マグロが切り刻まれていく。
    「流石grosse Schnitt、冷凍マグロでもその切れ味は変わらない」
     その様子を見、渡里が呟く。
    「奴らは三枚おろしにしても、泳いでいるだろうか……試してみるか?」
     鋼糸を構え、高速で切り刻む。刻まれた身が順に落下していく。中骨つきの頭部も。
    「流石に無理のようだな」
     二人の攻撃でマグロは見事刻まれて、落ちていくが、切り身は残念ながらレーンに触れるたびに溶けるように消えていく。
     その様子に霊犬が残念ともとれる哀しげな声を上げる。
    「こらこら、どっちにしたって食べられないよ」
     渡里がたしなめた。
     そして最後の一匹。ヒレも傷つき、勢いはない。それでも最後の抵抗かアンジェラに向かい、泳いでくる。
    「これで切り裂いてやるわ!」
     真っ向勝負、龍骨斬りの一撃で正に兜割、マグロは真っ二つにそのままレーンに落ちていく所を、
    「マグロ、いただくぜ!」
     七不思議使いである大が大きく口を開けると吸い込まれるように頭から最後のマグロが飛び込んでいった。
    「ごちそうさま!」


     回転寿司店からでると、一同は漁港に向かう。
     シャルロッテが海を臨む位置に立ち、海を眺めながら呟く。
    「寝惚け眼の灼滅者たちは早朝、水揚げ新鮮な海鮮を狙う。魚、貝、海老、蟹、魚、魚、魚。どの港も遠洋漁業で獲るマグロは美味しい」
     彼女は一旦、間を置くと不意に振り返り、続ける。
    「次回、『増殖』。来週も、マグロと地獄に付き合ってもらう」
     ちなみに特にカメラが配置されているとかではない。更に彼女の口から歌が紡ぎだされる。
    「逃げられた、マグロ探し続けて、我らさまよう、港の街をー♪」
    「その歌は一体なんなんだ」
     純粋な渡里の問いにシャルロッテは首を傾げる。
    「自然と出たわ、何故かしら、サウンドソルジャーでもないのに」
     別にサウンドソルジャーでも歌い出すとは限らないと思う。
     彼らは連れだって皆で入れるお店を探しがてら散策する。
    「流石に漁港です。朝早くから凄い活気ですね」
     環が見回してみると、お土産用のお茶を置いてあるお店もちらほら見受けられる。
    「……八女茶のライバルですね。相手にとって不足はない」
     環はご当地アイドル(自称)モードになりお店の人に話しかける。
    「魚屋さん、景気はいかがですか? 九州のお魚とは品揃えが違いますね」
    「おう、おかげさまで。お譲ちゃん、九州から来たの」
     環は営業スマイルで受けて立つ。
    「ええ。地元は八女茶の地より参りました、その名も……」
    「姉さん、こんな所にいた。はぐれないで」
    「そうじゃなくて、今は広報活動を」
     誘は環の腕を取り引っ張っていく。
    「また、いなくなったら困りますから」
    「こないだのは事情があったでしょ」
     環はそう言いつつも逆らえず、今日の所はおとなしく従った。
    「わー朝市はやっぱり活気が違うね、おいしそうだし」
     アンジェラがきょろきょろと珍しげに通りに並ぶ店を眺める。
    「俺も朝は弱いから機会が無くてな。朝市というものには憧れていたんだ。新鮮なマグロの赤身の刺身なども食べられるのだろ」
     ニコが誘に言う。
    「お魚、お好きなんですね」
    「ああ、俺はこう見えてマグロが大好物でな、新鮮なものを食べられるとは僥倖。こうして来られて嬉しい、良い機会を有難う」
    「それならいいお店を探さなきゃですね……地元ならではの珍しい魚ってあります?」
     誘は色々な魚が並んでるお店の人に話しかけてみる。
    「そうだねー。静岡は駿河湾があるからね、地の金目鯛は一味も二味も違うよ」
    「オレは牡蠣が好きなんだけど……」
     渡里が仲間たちと話しながら、歩いていると店のおばちゃんが手招きする。
    「この土地でって訳じゃないけど、漁港だからね全国の旬の牡蠣が集まってるよ。今なら真ガキがお勧めだよ、焼きと生を店頭で売ってるわよ」
    「生の一つ下さい。それとお薦めの定食屋さんってないかな。特に、マグロが美味しい店」
     渡里は先程まで対戦していた生きのいいマグロたちを思い返しながら尋ねていた。
     大が魚店の主人に子供らしく物おじせずに声を掛ける。
    「おっちゃん、面白い奴いないの? ホウボウとか」
    「そうだな……こいつならいるぜ、ほら、ダイオウグソクムシ」
     主人は少し考えた後、たらいから何か取り出して大に見せる。
    「ええっ! ってウチワエビじゃん。俺、これでも生き物には詳しいんだぜ?」
     にやりと笑う大に、笑い返しながら何か差し出す。
    「はは、凄いな。正解したから商品をあげよう、炭火焼の鯖みりんだ。うまいぞ」
    「ありがとう! これ、うまい! 旬だから特にかな。あとさ、朝飯喰うのに美味い店ない?」
    「そうだな。それだったら……」
     渡里が皆に提案する。
    「今、聞いてきたんだが、あっちでマグロを解体してるそうだ、料理もうまいと言う話だし行ってみないか」
     大が賛成と手をあげる。
    「行こうぜ。さっきは見られなかったしな……あ、この店の名前、魚屋のおっちゃんがいいぞって言ってた店だ!」
     店先での解体ショーが終わると身が店へ運ばれ、灼滅者たちも店の暖簾をくぐる。と、誘が瓶ジュースの自販機を見つけた。どんな物かわからない訳ではないが珍しさに目が離せない。お金を入れて引き抜くようだ。あれ、これって? 誘が尋ねる。
    「これって、本体に栓抜きが付いてるんですか?」
    「家のは旧式だからそこの右下のとこにある穴に引っ掛けてね。けど……さびが気になるようなら、ここに栓抜きあるからね」
    「ありがとうございます……後で買ってみよう」
     お店の人が注文を取りに来ると、
    「マグロ丼をお願いしたいな」
    「こういうお店ではアラ煮は外せませんね」
    「やっぱりおすすめがいいのかな、ご飯もいっぱいで!」
    「あの、持ち込みも調理してもらえると聞いたんですけど」
     品が届くと大きなテーブルが料理でいっぱいになる。
    「じゃあ皆で頂きます!」
     環はここで再び営業スマイル、そしてベストな感想でお店のご主人に加点をと思いつつ、口に運ぶが。
    「おいしい!」
     計算でなく自然と出た感想と笑顔は今日一番の物だった。
    「本当においしいな……こうなると、他の一品物も気になるが」
     壁に貼られたお品書きを見回す。見慣れない魚の名前や多種多様なマグロ料理。
    「皆でシェアすればと思ったけど、多すぎますかね」
    「アンジェラがいるから食べきれないぐらい頼んでも大丈夫だよ!」
     自分の胸をドンと叩いてアンジェラが請け負う。
     お店の人が彼らに言う。
    「若い奴は沢山食べな。サービスしてやるからさ」
     皆の歓声が店内に響く。
     賑やかな朝食はまだしばらく続きそうだ。

    作者:八雲秋 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月27日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
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