ドールハウスのままごと遊び

    作者:長野聖夜

    ●それは、過去の残滓
     何処にでもありそうな、普通のアパート。
     ――それが起きたのは、その時だった。
     何の前触れもなく、不意に、アパートが不可思議な迷路のようになってしまった。
     そのアパートの中を跋扈するは、かつて、人や、動物と言った『生命ある者』達。
     人々も、ペットも、まるでそんなことが無かったかの様に、普通に生活を続けているように見える。
     その迷宮の最奥部にいるのは、女の子。
    (「あれ? 何だろう、この感じ」)
     自分に与えられたあまりの強さにほんの少しだけ怪訝そうになりながら。
    (「まあ、いっか。今なら、お人形さんたちと一緒に遊べるものね」)
     思い直し、少女は、お人形さん達とおままごとをまた始める。

     ――子供の様に無邪気で残酷な……あどけない笑みを浮かべながら。
     
    ●ドールハウスのノーライフキング
    「投票の結果、ノーライフキングにサイキック・リベレイターを使用したところ、闇堕ちした後、慎重に自室の迷宮化を進めていたノーライフキングの迷宮が一気に広がって、住人を含めた建物全体が迷宮化する事件が予知されるようになったよ」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が小さく息をつく。
    「俺が予知したのは、その内の一つだ」
     3階建てのアパートであり、ペットを飼うことも可能。
     その為、それなりの物件として人気だったようだ。
    「最も、今は迷宮化してしまっているけれどね。……現状ならばアパートだけで済むだろう。けれども、このまま放置すれば周囲の建物も含めて地域全体が迷宮化する恐れがある。……すまないが、それを防ぐ為に迷宮を探索して、その奥にいるノーライフキング……亜里沙ちゃんを灼滅して欲しい。そうすれば、これ以上の迷宮化を止められるから」
     優希斗の呟きに、灼滅者達が其々の表情で返事を返した。

    ●亜里沙の作ったドールハウス
    「まず、迷宮になったアパートだが、正面玄関からなら侵入は出来る。けれども壁や窓を壊したり裏口から侵入する事はできないらしい」
     当然ながら、建物の内部はアンデッド化した元・住人達が守護している。
     また、元の建物内をつなぎ合わせて、一つの迷宮としているようだ。
    「取り敢えず、今回使えるルートは全部で3つある」
     一つは、12人の人間のアンデッドと3匹の猫のアンデッドを灼滅し、そのまま突き進んでいくルート。
     この12人と言うのは、このアパートに住んでいた4人家族3組より構成され、3匹の猫や犬、と言うのはそれぞれの家族が飼っていたペット達の様だ。
    「まあ、子供とかも混じっているから普通のアンデッドよりも脆いとは思うが、亜里沙ちゃんが操っている以上、連携した戦いを好むだろう。それも可能な限り温かい『家族』を演じさせて」
     そう、子供を両親が守る、ペットが壁になるといったように……。
    「次は、10人のアンデッドを灼滅するルートだ」
     此方は、所謂独身、精々が恋人・夫婦位の者達が集められている。
     数は少ないが、その分個々の能力に関しては、最初のルートのアンデッド達より上だろう。
    「最後のルートなんだが……これは、恐らく亜里沙ちゃんの性格を活用すれば行くことが出来るルートだろう……彼女はいつも仕事が忙しい両親に会えなくて、寂しい思いをしていたらしい」
     故に、アンデッド化した人々にも、『家族』としての生活を与えて遊んでいた。
     ……所謂、ままごと遊びと言うものだろう。
    「つまり、この迷宮に突入した皆が、其々のアンデッドに対して、ままごと遊びをして自分達を『家族』の様に認識させられれば……亜里沙ちゃんは、皆を自分の『家族』として闇堕ちさせる為に自分の所に通してくれる可能性が高い」
     最も、その為にはアンデッド達と『仮面家族』を演じ、ままごと遊びに興じなければならないのだが。
    「……どの方法を選ぶか、それは皆に任せる。けれど、亜里沙ちゃんはノーライフキング。並のダークネスよりも遥かに強いから、万が一の覚悟は必要だろうね」
     尚、彼女はエクソシストのサイキックの他に、糸を操る能力を使うらしい。
    「糸を使って、自分の意のままに動かす能力だ。これは厄介だから対策しておいたほうがいいだろう」
     優希斗の呟きに、灼滅者達が其々の表情で返事を返した。
    「……サイキック・リベレイター照射の結果、こういう形で一般人に被害が出てしまったことを、何処かで悔やんでいる俺がいる。何故なら……」
     既にアンデッド化した住人達を救うことはできないから。
     ――それでも。
    「これ以上の被害者を出さないようにすることは出来るだろうとは思う。……危険な探索行になるけれど、どうか皆気を付けて行ってきて欲しい。そして、出来ることならば……」
     ――孤独に餓えた亜里沙ちゃんと住人達の魂を救ってほしい。
    「どうか……死なないで」
     優希斗の言葉に見送られ、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)
    芥川・真琴(日向の微睡・d03339)
    長月・紗綾(紫菫月光・d14517)
    御影・ユキト(幻想語り・d15528)
    野乃・御伽(アクロファイア・d15646)
    斎・一刀(人形回し・d27033)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)
    城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)

    ■リプレイ


     ――某アパート。
    「こんばんはー!」
     正面玄関で元気よく声を張り上げる、白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)。
     歌音の声に応じてキィ、という音と共に一人の女性が現れる。
     驚いた様に手を当てる彼女へと城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)が一礼。
    「こんにちは。遊びに来ちゃいました」
    「久しぶりに、此方の方に来る用事が出来まして。折角なので、皆さんの所によって行こうと」
     長月・紗綾(紫菫月光・d14517)が補足すると現れた女性型アンデッドが穏やかに微笑んで入れてくれた。
    (「……悲しい現実ですね、これは」)
     御影・ユキト(幻想語り・d15528)が、ふと思う。
     リビングでは幼い子供2人が父親と一緒に机を囲んで幸せそうに微笑み、無機質なTVの音を聞いている。
     その傍で腹を出して猫のアンデッドが寝ていた。
    「あーそびーましょー……」
     芥川・真琴(日向の微睡・d03339)がぼんやりとした表情で猫じゃらしを取り出し、お腹をくすぐると、猫が起きてちょっかいを掛け始める。
    「あっちだー……こっちだー……そっちだー……」
     ぼー、とした表情のまま真琴が猫じゃらしを他所へ放り投げ猫がそれにじゃれる姿を見て、子供達が笑っている。
    (「アンデッドと家族ごっこだなんて笑えるな」)
     突然来た闖入者達の数を見て人手が足りないと感じたのだろうか。
     奥からハッハッハッと息遣いが聞こえそうな勢いで犬型のアンデッドがやって来たのを見ながら、野乃・御伽(アクロファイア・d15646)が懐から取り出したボールを取り出して、ポイ、と天井に向かって投げた。
     犬は飛び跳ねそのボールを空中で咥えて華麗に着地。
     嬉しそうに御伽に寄って来て尻尾を振るので頭を撫でてやる。
     更に、2人の子供が奥から顔を出して、御伽を見て驚いた様にしていたが……やがて久しぶりの人に出会った喜びを表す笑みを浮かべて其々に抱き着いてくるのを抱え上げた。
    「久しぶり。元気……そうで何よりだ」
     肩に飛び乗ったアンデッドの一人が、莉々を見て誰、と言う様に首を傾げる。
    「――えっと、私、莉々と申します。これとかそれじゃなくて、名前がありますから。呼んでくれると嬉しいです」
     莉々の自己紹介に莉々、莉々と口遊む子供たち。
     場が賑わいだところで心配している様子の別の母親型アンデッドがやって来る。
     ――両手で2人の子供と手を繋いでいる最後の母親型アンデッドと一緒に。
    「みんな遊ぶっすー」
     アンデッド達が次々に集まってきたところで、アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)が持ち込んできたボードゲームを取り出して見せる。
    「カカッ。ちょっとした芸を見せてやるんだな」
     斎・一刀(人形回し・d27033)が【雨姫】と【砂侍】の2体の人形を取り出し、カラカラと器用に操り、即興の人形劇を始めた。
     一刀が家族をテーマとした人形劇を演じる傍ら、ビハインドが命じられていた通りに、幼子の姿をした人形を動かすのに合わせて、ユキトが幸せな家族の物語を語り、アプリコーゼがボードゲームで和気藹藹と子供達を楽しませる。
     子供達がユキトの語りに合わせて動く一刀の人形達に目を輝かせ、大人たちも笑みを作ってそれを見ている。
    「よし、オレ子供役でいいか? ……えっ? お嫁さん役?!」
     とある男の子に袖を引っ張られ、一緒に遊ぼうと誘われた歌音が身振りで手ぶりでそれを表現され、驚いた表情になる。
    「それでは……私は、お姉さん役、でしょうか……?」
     一刀に人形劇を任せてやって来たユキトが呟くと、子供が頷く。
    「皆さん、苺のケーキをお持ちしました。折角ですし、皆で切り分けて食べませんか?」
     紗綾が苺のケーキを取り出すと、アンデッドの、特に子供たちが嬉しそうに両手を上げた。
    「ふふ。楽しくて尚且つ、存在を認めてもらえるのは嬉しいです」
     最初に此処に来たときはとても緊張していた自分が、何時の間にかこの仮初の家族の光景に馴染んでいたことに気が付きつつ莉々が食べたくて仕方なかった紗綾のケーキを一切れ食す。
     大学でお菓子学部を専攻しているだけあって、苺は勿論、クリームがふわふわで、とても美味しかった。
    「オレが……ってそんな言い方じゃダメダメだって? うぅ……わ、わたしが食べさせてあげるぜ……ね?」
     歌音が使い慣れない女性言葉で口をあーんとして開けて待っている子供に食べさせる。
    「あの、このケーキ、亜里沙ちゃんにもお裾分けしたいんですけど……」
     其々にケーキを楽しんでいる真琴達を見てから、紗綾が隣で微笑んでいる母親型アンデッドに問いかけると、彼女は奥へ真琴達を手招きした。
     どうやら、家族ごっこは成功したようだ。

     ――本当の戦いは、これから始まる。


    「いらっしゃい、お姉ちゃんたち」
     体の右半分を結晶化させた10歳くらいの女の子。
     その両手から白い糸を操る様子が見えている。
     彼女こそが、亜里沙。
     ――この迷宮の主。
    「今日は。ここまでお招き下さってありがとうございます」
     莉々が一礼すると、亜里沙は無邪気な笑顔を浮かべて首を横に振った。
    「お姉ちゃんたち、亜里沙の家族になりに来てくれたんでしょ? とっても嬉しいよ」
    「遊びの時間はここまでっすよ」
     呟きながらスレイヤーカードを解放し、ヒラリと一回転するアプリコーゼ。
     ヒラヒラしたミニスカ衣装にロングジャケット、その手に魔法の杖という魔法少女へと姿を変える。
     それを見て拍手する亜里沙。
    「随分贅沢なお人形遊びしているな」
     御伽がその全身に炎のオーラを浮かべながら目を細めた。
    「だって、寂しかったんだもん。パパも、ママもいなくなっちゃって……亜里沙ずっと独りぼっちで、他のお友達とかが皆のパパやママと一緒にいるのが、とっても羨ましくて。……亜里沙は、そんな皆の幸せを、お人形さん達を通して知りたかっただけ」
    「こうなる前に出会えたら、友達になれたかも知れないのにな。こんな事しなくても良いように出来たかも知れないのにな」
     歌音の声音は悲しげだ。
     自分と同じくらいの少女が孤独に餓えて闇堕ちし、そしてこんな人形劇に興じるほどに狂ってしまった。
     でも……誰か支えてくれる人がいれば、話は違ったかも知れないから。
    「大丈夫だよ。だって、皆もお人形さんとして一緒にいてくれる。その為にわざわざこのケーキを届けてくれたんでしょう?」
     水晶化した瞳を向けて小首を傾げる亜里沙に、真琴が溜息を一つ。
    「遊び疲れたら、お眠の時間だよねー……大丈夫、目が覚めたらお父さんもお母さんも近くにいてくれるから」
     ――それは、真琴の祈り。
    「……ねぇ、何言っているの? 皆は……亜里沙をどうするつもりなの……?」
    「……御免なさい。寂しいのが嫌いなのは分かる。僕も寂しいのは嫌い」
     莉々の呟き。
    「住人だけでも多すぎるほどの命が奪われた。最早、寂しかったは言い訳にならないんだ」
     御伽の言葉が彼らの目的の全てを語っていた。
     キョトン、としていた亜里沙の表情が、程なくして泣きそうになる。
    「それなら……亜里沙が皆を幸せな『家族』にしてあげる!」
     嗚咽と共に、歌を唄う亜里沙。
     ――それは彼女にとっての思い出の歌。
     かつて、人であった頃、幼い頃……『母』が歌ってくれた子守歌。
     手毬遊びを思わせるその歌が、アプリコーゼ達の精神を灰色へと塗り潰す。
    「ふふ。負けて悔しいーなんて」
     精神を蝕まれながら莉々もまた歌う。
     灰色を白へと帰す歌を。
     亜里沙の傍に居たいという想いを白く塗り潰されながら、鳳薙万里の羽環を歌音が射出。
     放たれたその刃が亜里沙を襲うが、傷が浅い。
    (「……神秘耐性っすか。厄介っすね」)
     予言者の瞳で見据えながら、アプリコーゼは内心舌打ちを一つ。
     紗綾もまたリングスラッシャーを射出するが浅い。
    「カカッ。人形とビハインドの舞。特とご覧あれ」
     【雨姫】と【砂侍】。2体の人形が四方八方からオーラキャノンを放ち、ビハインドが己が手で殴り掛かった。
     タルトが竜巻を起こして亜里沙にぶつけ、御伽が紅の長槍『阿修羅』を軽々と振り回し、その先端に雷を浴びせて強かな一撃を与える。
    (「亜里沙の気持ちは理解できんでもないが」)
     これだけの人間をオモチャにしているのだから、もう十分だろう、と思う。
    (「同情する必要はありませんね」)
     御伽の感情を表情で読み取ったか、ユキトが小さく首を横に振りつつ、レイザースラストで亜里沙の身を締め上げ、思う。
     ――結局、今回の事は偶然が重なっただけ。
    「貴方は別に何も悪くないです」
    「じゃあ、どうして亜里沙を攻撃するの!?」
     泣き喚く亜里沙に、軽く首を横に振るユキト。
    「他に被害が出てはダメなので、ここでお休みしてください。それだけです」
    「まあ、そういうことだよー……」
     自らにソーサルガーダーを使用しながらポリポリと頭を掻く真琴。
     アルがリングを光らせ、莉々達の傷を癒す。
    「どうして……どうして……?!」
     絶叫しながら、その手から無数の糸をアルに向けて放つ、亜里沙。
     全身を締め上げられてアルが消滅する。
    「主よ、彼女の罪を赦し孤独の無い御許へと引き寄せてください」
     アルが一撃で倒されたことに動揺しつつも祈りと共に歌う莉々。
     傷を癒されながらアプリコーゼが杖の先端から神薙刃を放ち亜里沙を斬り裂く。
     真空の刃が確かに亜里沙を捕えていた。
     真琴がWOKシールドを翳し、ユキト達を護る為の暖かな結界を張り。
     その間に、紗綾がジャッジメントレイ。
     だが、亜里沙にその攻撃が効く様子はあまりない。
     タルトがシャボン玉を撃ちだし亜里沙にぶつけ。
     御伽が紅の槍を捻じりこむ様に亜里沙に突き刺し、一刀が人形使いの名に恥じぬ手捌きで鋼糸を操り亜里沙の体を締め上げ、そこに、見切りを恐れたビハインドが衝撃波を放つ。
     僅かに蹈鞴を踏んだ亜里沙にユキトが接近、七不思議奇憚が一つ、言霊祈りを朗々と語り上げ、手応えのある一撃を加えている。
    「勝手だけど亜里沙の友達、白峰歌音。お前を救うために……この悲しいだけの家族ごっこから解放して、その悲しみを終わらせてやるぜ!」
     歌音が追随して紫紅八極の流法から無数のオーラを放ち、彼女に叩きつけた。
     放たれた攻撃に亜里沙が僅かに傾ぐ。
    「勝手に亜里沙が悲しいなんて決めつけないで! 亜里沙は楽しいお人形の皆と遊べれば楽しいんだから!」
     叫びながら亜里沙が裁きの光条を指先から歌音に向けて放つ。
     その攻撃に咄嗟に前に出たのは、真琴。
     胸を貫かれ、夥しい量の血が地面を叩く音が響く。
    「……これは、まずいかもしれないねー」
     真琴の背を冷や汗が伝った。


     戦いは一進一退……否、二進一退位で続く。
     但し二進しているのは、亜里沙の方だ。
     ノーライフキングの攻撃力は伊達ではなく、一撃が重い。
    「亜里沙と一緒に、遊ぼうよ! これからも、ずっと……!」
     叫びと共に亜里沙が傀儡を操る様に、その手の糸で莉々を締め上げようとしている。
    「カカッ……厳しいねぇ……!」
     一刀が糸の前に立ち塞がり、その攻撃を防ぎながら人形たちに命じてオーラキャノン。
     気塊に弱いのか、この攻撃が一番効果的。
     だが……敵の足止めを重ねられず決定打にならない。
    「行きます……!」
     タルトを失った紗綾がジャッジメントレイを撃つが、既にその軌道を完全に見切っている亜里沙に当たらない。
    「……流石に簡単にはやらせてくれませんか……」
     ユキトが呟きながらフォースブレイク。
     見切り対策にはやむをえないし、これなら十分強烈な一撃になる。
    「はっ!」
     御伽が『阿修羅』を捻じ込んだ。
     だが、亜里沙が倒れる様子は無い。
    「厳しいっす……!」
     アプリコーゼが焦りながらマジックミサイル。
     亜里沙を射抜くがやはり決定打にならず反撃とばかりに再び『歌』を歌う亜里沙。
    「……僕は……」
     歌に込められた思いに引き摺られて莉々が眠るように倒れ、アプリコーゼの前には、真琴が立つが、体から急激に熱を奪われてしまい、強い眠気と恐怖に晒される。
     苛烈な熱を伴う焔の拳を叩きつけながら真琴は震えていた。
    「寒いのは、嫌いなんだよねー……」
     全身を焼かれる亜里沙に、傷だらけのビハインドがその手で攻撃を仕掛ける。
    「皆は、亜里沙の家族になるの!」
     童の様な笑い声をあげながら、輝ける十字架を天空へと掲げる亜里沙。
     放たれた無数の光線が、真琴達を薙ぎ払った。
    「カカッ……!」
     魂を凌駕させなんとか立ち上がりながらオーラキャノンを放つ一刀。
    「……眠るなら、暖かい方が良かったかなー……」
     耐えきれずビハインドが消滅し、ユキト達を守り続けていた真琴も眠り込むようにその場に頽れる。
    「まだだ……まだだ!」
     御伽が光に貫かれながらも抗雷撃。
     容赦のない殴打が亜里沙を襲い、ユキトの語った縁切り鋏が実体化し、亜里沙を斬り裂く。
    (「とはいえ……厳しいですね」)
     亜里沙の戦力を過小評価し、戦術の練りと連携が疎かになったことを悔やむユキト。
    「まだだ! お前に安らかに眠ってもらうまで、倒れるわけにはいかないんだ、亜里沙!」
     倒れかけている歌音がリングスラッシャー。
     その一撃は確かに亜里沙を斬り裂くが、致命傷には程遠い。
    「歌音ちゃん、またあとでね」
     亜里沙が微笑み指を動かす。
     それが歌音の首を締め上げ、顔を青くしながら歌音が倒れた。
    「……御免なさい……」
     呟きながら紗綾がジャッジメントレイ。
     だが、あっさりとそれを躱す亜里沙。
    「このっ……!」
     アプリコーゼのマジックミサイル。
    「もう少しだよ、皆。あと少しで、皆も家族になれる……」
     七色の光線に射貫かれながらも弾んだ声で裁きの光線を放つ亜里沙。
    「カカッ……!」
     一刀の心臓を貫くそれ。

     それは魂を凌駕し、辛うじて立ち続けていた一刀の止めを刺すに足る一撃。

     ――その時。


    「カカッ……!」
     一刀の全身から突如として無数の鋼糸が放たれる。
     放たれたそれが、亜里沙の全身を締め上げた。
    「あ……あうっ……?!」
    「今か……!」
     苦しげな亜里沙を御伽が螺穿槍で穿ち。
    「今ですか……」
     ユキトがフォースブレイクを叩きつけ。
    「すみません……」
     よろけた亜里沙の身を紗綾のジャッジメントレイが射抜き。
    「これ以上はやらせないっす……!」
     アプリコーゼも接近してフォースブレイク。
     体内で起きた大爆発が、亜里沙の腹部に穴を開けた。
    「あ……ああっ……」
     彼女の目が『死』を認識して恐怖に彩られたその時。
    「カカッ……。安心するんだな」
     闇堕ちした一刀が頽れる彼女の体を抱えてその場を去った。

     ――それが……彼女の孤独を癒すせめてもの慰めになると信じて。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:斎・一刀(人形回し・d27033) 
    種類:
    公開:2017年2月23日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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