ひよこピョコピョコ

    作者:夕狩こあら

    「ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたッス!」
     教室の扉を勢いよく開けて飛び込んできた日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)と、彼が切り出した内容に、灼滅者達の視線が集まる。
    「このままだと、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまうッスよ……!」
     息を弾ませながらも、最後まで一気に言い切ったノビルは、暫し肩を上下させた後に、放送内容を語り出した――。

    「てかヨォ、この神社の縁日で見かけるヒヨコあんじゃん? あれって売れ残ったら此処で捨てられてるって話だゼェ?」
    「まじかヨ! 命捨てるとか俺らよりワルな奴いんだネ!」
     いやだネ~、とマスクをした不良達が声を揃えて溜息する。
     この神社を溜り場としている彼等は、月光も降り注がぬ側溝へと視線を投げると、再び嘆息し、
    「ヒヨコとか放置したら増えるじゃんよォ」
    「まじ手に負えねーし!」
    「せめて分けて捨てるとか、オスメスの分別だけはしとけっつーの!」
    「あいつら超増えっからァ!」
     まるで野良猫やネズミ扱いだが、二人は「怖いネ~」とまるで他人事の様に話していた……その時。

     ――ピヨピヨ……ピヨピヨ……ピヨピヨピヨピヨ……。

    「ちょ、何かピヨってねェ?」
    「つか超デカくね?」
     真っ暗な側溝から泡の様に綿の様に、ふわふわと黄色いものが忽ち増殖し、嵩を増して山と成りて、遂に巨大なヒヨコとなる――!
    「うわあああああっっ」
    「ぎゃあああああ!!」
     その圧倒的質量に押し潰された不良達は、悲鳴だけを紫黒の天蓋に震わせ、姿を消したという――。
     
    「……つまり、この内容が実際にこの神社で起きる、と」
    「巨大なヒヨコがヤンキー二人組を圧し潰すんス」
     こくり、と頷いたノビルは更に説明を加え、
    「赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の兄貴の調査によって、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止める事が出来たんすけど……」
     その結果、ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に、その情報を得られるようになったのだ。
    「灼滅者の兄貴と姉御には、この都市伝説が放送内容の様な事件を起こす前に、件の神社へ行って灼滅してきて欲しいんス!」
     ノビルの翠瞳に映る雄渾は、力強い首肯を返す。
     一同の是を受け取ったノビルは、次に都市伝説の能力について語った。
    「ヤンキーらが話している『捨てられヒヨコ』は、雄と雌を全て別々の箱に仕分ければ消失する一方、間違えて雌雄を一緒にしてしまうと、新しくヒヨコが増えるんス」
    「キリがないわね」
    「この新しく生まれたヒヨコを1ピヨコとすると」
    「えっ何その単位」
    「2ピヨコ、3ピヨコ……合計で6ピヨコになるともうダメで、増殖融合したピヨコは巨大化し、戦闘が必要になるッス」
    「ミスは5回まで、6回を超えると戦闘か……」
     雌雄選別だけで終われば、ヒヨコの消失を見守るだけで事件は防げるが、戦闘も念頭に置いておいた方が良い。
     更にノビルは声色を落とし、
    「この情報は、ラジオ放送の情報から類推される能力ッス。可能性は低いとはいえ、自分の予測を上回る能力を持つ可能性があるんで……その点は気をつけて欲しいッス」
     油断なきよう――と凛然を見せるエクスブレインに、灼滅者らは聢と頷いた。
    「……という事で、今からヒヨコの雌雄判別トレーニングっす!」
     少しでも早く精確に仕分けられるように、とノビルは山のように積んだ図鑑を次々に広げ始めた――。


    参加者
    ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)
    白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)
    椿本・呼石(御伽の欠片探し・d33743)
    七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)
    紫乃・美夜古(突っ込みなぞやってられません・d34887)
    栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)

    ■リプレイ


    「これから自主制作映画の撮影をするのだけれど、場所を貸して貰えないか?」
     歌劇男優を想わせる衣装を纏った刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)に、そう声を掛けられた不良達は、背後で次々に道具類を運び込む仲間を見て、成程と頷いた。
    「やっぱ映画ともなるとスゲー光源!」
    「あの段ボールが美術セットって奴か」
     実に良い勘違いをしてくれる。
     LEDランタン【明るいにゃん♪】を調光する羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)、段ボールを運び込むポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)はともかく、箱状にしたそれに古紙を敷き詰める椿本・呼石(御伽の欠片探し・d33743)や、脱走防止用の金網を置く七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)の行動は弁明に苦しいものの、
    「あぁ、あれがケータリングってやつ」
    「俳優って青菜を食べるのか」
     小皿に水を浸す紫乃・美夜古(突っ込みなぞやってられません・d34887)や、小松菜を刻む栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)の準備に関しては……いや言うまい。
     何より彼等は蠱惑の馨香に従順で、
    「終わったら……と言いたい処だけど、もう遅いし、お家に帰ってね」
    「うィーす」
     原付に跨る二人を槇南・マキノ(仏像・dn0245)が見送れば、雑霊が騒めき出した神社にこれ以上踏み入る者はなかろう。
     白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)は、昏き側溝に微かな気配を捉えると、
    「いつ、戦闘になっても、いいように。鳴き声も、漏れないように」
     サウンドシャッターを施し、漸う膨らむ可愛らしい声を域内に包んだ。

     ……ピヨピヨ……ピヨピヨ……ピヨピヨピヨピヨ……。

     一斉に集められた光源が闇を裂き、蠢く塊の色を暴く。
    「……懐かしい」
     雌雄判別も二回目となる興守・理利(竟の暁薙・d23317)は、溢れる黄色に郷愁を得た様だが、その柔らかな色と姿に胸を締められ、瞳を輝かせる者も多い。
    「うわぁ……いっぱい!」
    「ヒヨコさんかわいい!」
     綿飴の様に溢れる都市伝説『捨てられヒヨコ』――何とも愛らしい相手だが、その攻略の難易度を知る灼滅者は、『未選別』と記した段ボールに囲い込み、早速作業に取り掛かった。


     ヒヨコは、それぞれ『オス』『メス』と書かれた箱に繋がるレーンを渡り、選別と確認を繰り返しながら、確実に、着実に仕分けられる。
     先ず、彼(女)等は『肛門鑑別法』に挑む班に取り上げられ、
    「一朝一夕で習得できないのは承知です。でも、難しいからこそ頑張りがいがあります!」
     ノビルより押し付けられた膨大な資料を読み込んだ陽桜は、数多ある識別パターンの中で、最も多く解りやすい形を頭に叩き込み、花顔はきりりと、手はそおおっと雛を包む。
    「私も脳内はヒヨコのお尻の事でいっぱいよ」
     マキノは彼女に教わった通り、雛の首を小指と薬指に挟みながら、右手で肛門を少し開き、突起の有無をよおぉく確認。
     卸売業者にコツを教わってきたという夜奈は、白磁の細指を恐る恐るふわふわに潜らせ、
    「……できれば、戦いたくないし。つぶさないよーに、気をつけなきゃ」
     素手で取り組む孫娘の緊張が伝わるか、ジェードゥシカもハラハラしながら見守った。
     三人が仕分けた雛は、次に『翼羽鑑別法』班に迎えられ、
    「オスは遅羽性により端が揃っているのが多く……メスは速羽性により端が揃わず……下の羽が長い……」
     直前まで学に励むポンパドールは、写真付きの資料を手元に置いて再確認。
    「しゅ、主翼ってトコを見ればイイんだネ!?」
     大きな瞳を皿の如く円くして見る――その真剣は期末テスト以上。
    「羽の色の異なる雌雄が交配して出た色で見分けるらしいが……こいつらの両親の羽の色って……何色?」
     義兄に用意して貰った本で知識を得た美夜古は、よちよち歩く爛漫に真顔で迫り、
    「茶鶏の多くは雛の時点で色が付いてて……で、こいつらの両親の色って何色?」
     大事な事なので二回聞く。
     己が闇を生むものとは知らぬ雛は、手の上でも奔放に動き回り、
    「うーん、意外と難しい……。ちょ、あんまり動かないでぴよちゃん」
     繊麗なる指を擽られた紅音は、飛べぬとはいえ懸命に羽撃く姿に、慈愛の咲みを零した。
     斯くして第二関門を通過した雛を、最後に待つは『カラー鑑別法』班。
    「……か、かわいいですの!」
     事前にペットショップで実物を学んだ呼石は、気合十分に臨むものの、ふわふわを手に乗せた瞬間にメロメロになり、
    「きゃう! わ、わかってますの!」
     つい懐に入れかけた処を、愛機プリンチェにドスンと突っ込まれる。
     片や【LEDヘッドライト】を備えた茉莉は、夜にあっても精確な色彩を得る現況に安堵し、
    「視覚での判定が多いぶん、光源の多さが功を奏しましたね」
     と、作業速度と精度に自信を得た。
     この光量には、雛も昼間の如く闊達に動き、
    「ふわふわして、そのくせ、この足の強さがたまらない」
     簡単には手に収まらぬ小さな命の躍動に、そっと口角を持ち上げた晶が、傾斜の緩いスロープへと導けば、選別は完了。
     最後は、嘗て鶏舎のマダムに技を仕込まれた理利が箱の中を確認し、
    「今回はたった6回のミスでアウトとは、数をこなして学べないぶん不利ですね……」
     前線に立つ戦士にコツを伝授しつつ、皆のひよこ道をサポートした。

     ……ピヨピヨ……ピヨピヨ……。
     ……ピヨピヨ……ピヨピヨ……。

     長く遠い、然し確実にあるゴールを目指す作業は、宛らマラソンの如く苛酷だが、灼滅者の好奇心と愛は限りなく深く大きい。
    「頑張ってヒヨコさん達を判別しないと。灼滅するのは悲しすぎますから」
     戦いたくない――と桜脣を引き結ぶ茉莉に多くの首肯が重なるのは、皆々が雛達の境遇を知るからで、
    「フリョーのクセにまともなコト言ってた……おれも、捨てるなんてひどいって思うし」
    「親鳥も居なくて、寂しかっただろうに……都市伝説とはいえ、責任もってやらないとね」
     ポンパドールと紅音は、掌に収まる無辜の命を、優しく丁寧に仕分けていく。
     因みに二人の相棒であるチャルダッシュと蒼生は、主の母鶏の如き眼差しを見ながら待機中だ。
    「ヒオとマキノはどう? できた?」
     時に夜奈がチラと視線を持ち上げれば、二人は逃げる雛を追いかけており、
    「ジタバタしないで……直ぐ終わるから……!」
     活きが良い子は二人掛かりでお尻をチェック。
     様子を見ようとあまおとが首を伸ばせば、陽桜は絶妙のタイミングで裏拳をかまし、
    「ヒヨコさん怯えちゃうから、ジュルリとするのはダメですっ」
    「!」
     ひよこ持った手で!? と言ってそうなあまおとの表情が至妙。
     チームメイトに声を掛けた自身はというと、未だ素肌は緊張気味で――嘗て祖父を殺めた罪が、血が拭えぬ気がする手で、雛を穢さないかと気にしている。
    (「最近は、触れられるものも、増えたけど。まだ、誰にも……」)
     打ち明けないのは、「そんなことないよ」と言って欲しくないからだ。
    「ぴよぴよ」
    「ぴぃぴぃ」
     純真なる命は、灼滅者の様々な表情を見せてくれるが、雛をじーっと見詰める呼石もまた『らしさ』がよく出ている。
    「……この愛らしさ、きっとリボンが似合いますの! 女の子ですわ!」
     迷った時は、女子の勘が決め手!
     蓋し鑑別師でない以上、正しく見たつもりでも、結局は各々の『勘』が判断するもので、
    「……箱の中に、二周り程大きな雛が居ます」
     ピヨコの発生を確認した理利の声に、「誰が?」「いつ?」と咎める者も居まい。
    「……よし、頑張ろう」
     一同をフォローした美夜古は、視覚的にも聴覚的にも鈍磨がくる頃だと理解を示しつつ、自らレーンに置いた雛が、箱へと滑る前にくっついてピヨコを生む瞬間さえ見てしまう。
    「……おっと。ぁー、つまりあれだ。すまん」
     淡然がそう言ちた瞬間、次の選別に移ろうとした晶の手に、明らかに大きな雛が乗る。
     ハッと気付けば、我が身と瓜二つのビハインド・仮面の手にもピヨコが抱えられ――、
    「、それは……まさか6匹目のピヨコ……」
     ゴールが見えた時だっただけに悔しい、と思ったのも一瞬。
    「ピーピー!」
    「ピヨー!」
     とてとてと集まったピヨコ達は円陣を組んで声を合わせると、カッと燦光を迸らせた。


    「うわああ、ゴメンよおお!」
    「……なんとなく、こうなる気は、してた」
     ポンパドールは良心の呵責にウルウルと瞳を潤ませ、夜奈は灼光の波濤に青瞳を細めながら殲術道具を解放する。
    「ラジオウェーブさんも酷い事をしますね……」
    「巨大化したなら仕方ない、倒そう」
     茉莉と晶が溜息がちに陣を展開し、幽月を呑み込まんばかり膨れ上がる敵影を、敵影を見据えれば……敵影は……、
    「? 居ませんこと……?」
    「もしかして……あれ、かしら……?」
     紫黒の天蓋に瞳を泳がせる呼石に対し、ふと紅音が指差した方向は――神社の石畳。
    「ピーピーピー!」
     元気良く暴れてはいるが、大きさはせいぜい電話ボックスほどで、成人男性二人を踏みつけて殺せる程の力はなかろう。
    「食欲が湧くギリギリのサイズか」
     巨大化というと「シン・ピヨコ」的なサイズも覚悟していた美夜古ではあるが、聊か、いや、かなり肩透かしを喰らった気分だ。
    「日下部の予測を上回……いえ、これは下回ったのか……」
    「或いは、私達の仕分け量に応じたサイズなのかもしれないわね」
     厚みのある盾を堅牢に支える理利とマキノが、時を盗んで『未選別』の箱を見る。
     当初に聞いたラジオ放送では、手付かずの状態で不良を圧殺していたが、数匹を残しただけの今は、闇のエネルギーが足りないのかもしれない。
     そこへ佳声が差し入り、
    「あの、ふわっふわなのですっ!」
     何も攻撃をしてこない敵に小首を傾げていた陽桜が、なんと、触れている。
     触れているのに、ピヨコは反撃もせず、逃げもせず、瞼を閉じているのだから……、

     灼滅者の愛が暴走した。

    「一回だけ、そのふわっとした羽毛に埋もれてみたいと、思わないでもなかった」
     ふんわり、もふもふ。
     晶がそっと撫でれば、深みある羽毛は手首まで隠す、極上の温もり。
    「わあああっ、ホントにふっかふかだー!」
     初撃、螺穿槍の代わりに我が身をダイブさせたポンパドールは、全身を包む弾力に満面の笑みを浮かべ、
    「ピー……ヨー……」
     ピヨコもまた彼の抱擁に安心してか、うっとりと瞳を閉じてその場を動かず、敵意の欠片もない。
    「ぴよちゃん……捨てられて悲しかったのね……」
     捨てられた故に愛情に飢えていたのかと、その渇きに応える様に撫でる紅音は、先のヒヨコと変わらぬ目線で愛でてやり、
    「ふかもこ勝負ですの!」
    「ケーキもいってらっしゃい」
     古書を開いて奇譚を――青いハムスター(大)とキタキツネ(大)を召喚した呼石は、愛猫の鋭爪を隠させた茉莉と共に敵懐に潜り、ふかふか・もこもこの谷に挟まれる。
     マキノはまだ少し不安な様だが、陽桜はぎゅぎゅーっと笑顔を埋め、
    「まだ人間を恨んでないかしら? 大丈夫?」
    「だって敵さんですけど愛らしいんですもの!」
     その間、敵の死角に回り込んだ理利は黒死……いや、「オスですね」と翼を触っている。
    「美味そうだと思って悪かった。ソファに最適だ」
     そう断りを入れた美夜古は、彼を七不思議として吸収(採用)することを決め、
    「ごめん、ね」
     レイザースラストで串刺しに、殺刃鋏で羽を毟ろうとしていた夜奈は、雪肌に染む体温を感じながら約束する。
    「残りも、ちゃんと、仕分けるから」
    「うんっ! おれも最後までハンベツする!」
    「必ずやり遂げてみせますの」
    「仕分けられた雛たちは、ゆっくり消えていくから」
     だから、あなたも――。
     全員の体温に包まれたピヨコは、深い愛情と強い決意を受け取ると、
    「ピーヨー! ピーヨー!」
     空を知らぬ翼をパタパタと動かして……融けた。


     兇暴に神社を蹂躙する筈だった巨大ピヨコが、それが不可能なサイズで出現し、また敵意を持ち合わせていなかったのは、偏に灼滅者の熱意に溢れた事前学習と道具類の準備、そして、丁寧な仕分け作業の賜物であった。
     一人につき一回もミスが許されぬ過酷にあって、限りなく精確に雌雄を判別した集中と慈しみが、引いては戦略上の優位を得ていたのだ。
     畢竟、彼等はより良い制勝を得たのであるが、
    「ピヨコを出現させてしまいましたが、戦闘にはなりませんでしたね」
    「エクスブレインさんの予知とは少し違うみたいですの」
     七不思議使いとして、ラジオウェーブが関わる都市伝説の発生は気懸りか――ピヨコの消失を見届けた茉莉と呼石の佳顔は、勝利とは裏腹にやや険しい。
    「これまでは、『発生する未来』を予知して、私達が対応していたけれど」
    「ラジオ放送によって事件が発生しているとなると、順序が逆なのね……」
     晶と紅音の会話を傍らに、己が媒体であるスマートフォンを眺めた美夜古は、
    「……連中の真意もいずれ判明る」
     と、宿敵の暗躍を見逃さぬ構え。
     幾許の懸念を抱えつつ、残りの仕分けを行った彼等は、開始当初より倍近いスピードで作業を終え、
    「……終わったぁ!」
    「ちょっと目がチカチカしますね……」
    「あっ、ホントだ」
     ポンパドールが両手を突き上げた隣では、大きな瞳をパチパチとさせた陽桜が、アンバランスな視覚に驚いており、経験者の理利は補色を見せて色覚を整えてやる。
    「……ゲシュタルト崩壊したのも、今は良い思い出です」
     マスター・ひよこの言にマキノと夜奈は声を揃え、
    「前の依頼では作戦上、変装して、それから裸になったって聞いたわ」
    「サトリ、けっこー、カラダはってるのね」
     彼には意外にも『脱ぎ芸』の才がある、と頷きを合わせた。

     ……ピヨピヨ……ピヨピヨ……。
     ……ピヨピヨ……ピヨピヨ……。

     きっかり『オス』『メス』の箱に収まった雛達は、全員が居場所を見つけた処で新天地――捨てられぬ世界へと旅立つ。
     彼(女)等と三時間超も触れ合ったのだ、灼滅者も愛着が湧こう。
    「お別れするのは寂しいけど……」
    「元気でね」
     或る者はぐっと涙を堪えながら、また或る者は名残惜しく翠眉を寄せて昇天を見守る。
     軈て雛達が星の如き煌めきと化し、漸う夜空に浮かび上がれば、
    「ヒヨコさん、またね!」
    「温もりをありがとう」
     冬空に融ける最後の瞬間まで、彼等は手を振り続けた。
     少々の寂寞を胸に沈黙が流れた後は、美夜古がぽつりと言ち、
    「鶏飼うかな」
    「、まさか――」
    「食わねえよ、ペットにするんだよ。うちの娘、動物好きだから多分」
     その答えにホッとして、「それもいいな」と微笑が零れる。
    「チャルが何ていうかなー?」
    「蒼生は……大丈夫?」
     此度はサーヴァントの多さも賑々しかろう。
     各々が相棒とヒヨコとの相性を語り合う光景は微笑ましく、近しい距離に置いてくれる――その優しさは、雛達にも既に十分に伝わっている。
    「きっとまた会えますの!」
    「その時は、また……」
     ヒヨコの可愛らしさを身を以て実感した一同に、彼(女)等を受け入れた冬の夜空が、鏤められた星々が、まるで頬笑むように美しく輝いていた――。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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