もふもふ化け猫

    作者:篁みゆ

    ●化けた猫が出る
    「来てくれて有難う。ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたよ」
     灼滅者達を暖かい教室に招き入れて、神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)はいつもの和綴じのノートを開いた。
    「このままでは、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまう。放送内容はこんな感じだ」
     そう告げ、瀞真は放送内容の説明を始めた。

     町はずれにある朽ちかけた和風の平屋。危ないから近寄ってはいけないと言われていても、昼間は子どもたちが秘密基地として利用しているような場所。
    「なぁ、本当にみーこはここにいるのか?」
    「だってー、塀の隙間から入り込むのみたんだもんー。でもここって夜は化け猫がでるっていうじゃない? ひとりじゃ怖くってー」
     小学校高学年くらいの男女が平屋の庭で何やら会話をしている。
    「化け猫って……そんな噂信じてるのか。つーか、化け猫ってどんなんよ?」
    「えー、んー……こんなかんじかなぁ?」
     落ちていた枝で少女が書いた絵が、庭に面した通りにある街灯にぼんやり照らされる。
    「これって猫のきぐるみじゃん。つーか二足歩行のきぐるみ化け猫って一周回って怖いわ」
    「でしょ! だからいっしょにみーこ探してよ~」
    「しかたねぇなぁ」
     少年と少女は怯えながらも懐中電灯を片手に屋敷の中へと入り込む。勝手知ったる何とやらと思ったが、夜見る室内は昼間のうちとはだいぶ様子が変わっていて、怖い。
    「みーこー、みーこー、でておいでー。帰ろー」
    「みゃあっ」
    「みーこ!」
     少女が聞き覚えのある鳴き声に喜んで懐中電灯を向けると――たしかにそこにいたのは探していた子猫だったが。
    「ん?」
     その隣に何かもふもふした柱のようなものが……少年が懐中電灯をその柱に向けると。
    「ぶにゃー!!」
     二足歩行のもふもふきぐるみ猫が、虚ろな瞳で鳴いて、ふたりに襲い掛かってきた!
     
    「赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)君の調査のおかげで、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止めることができたよ。ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に、その情報を得る事ができるようになったんだ」
     瀞真はそう告げると、ノートのページをめくる。
    「今回の都市伝説は、夜に室内で猫の鳴き声がすると出現するみたいだね。室内に入るのは簡単だよ、鍵も壊れていて、扉も完全に閉まらなくなっているからね」
     平屋は車の入れないくらい細い通りに面しているが、その通りは帰宅ルートとして使われることが多いという。夜に空き家で物音がすれば、一般人がよってこないとも限らないので注意が必要だ。
    「この都市伝説はすごくもふもふした猫のきぐるみのような……こう、二足歩行の猫の姿をしているよ。身長は二メートルくらいかな。抱きつき甲斐はあると思う……ついでに抱きつき心地もいいと思うよ」
     攻撃としてはストリートファイターのようなサイキックと、自分の毛を護符代わりにした護符揃えのようなサイキックを使ってくるという。
    「以上の情報はラジオ放送の情報から類推される能力だからね、可能性は低いと思うけど予測を上回る能力を持つ可能性もあるので、その点は一応気をつけてほしいな」
     そう告げて瀞真は和綴じのノートを閉じた。
    「油断しなければ大丈夫だと思うけど……あまりもふもふにかまけすぎなければ、多少はもふもふしても大丈夫だと思うけれど……気をつけてね」
     瀞真は心配そうに笑んだ。


    参加者
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    峰・清香(高校生ファイアブラッド・d01705)
    狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    桜田・紋次郎(懶・d04712)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911)
    煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)

    ■リプレイ

    ●暗闇の中で生まれて
     朽ちかけた塀の隙間や壊れかけた門の隙間から庭へと入り込んだ灼滅者たち。夜の廃屋は街灯の淡い光を受けて、より不気味に見えた。それぞれに灯りを持ち廃屋の様子をうかがう灼滅者たちの中でひとり、煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)は百物語を語り始める。いかにもと言った場所で語られるそれは、ゾクリとさせられるものであった。
     語りながら燈が思うのは、猫という生物のこと。自分も猫を飼っているから、余計に考えてしまうのかも知れない。
    (「猫。一番生活に身近な夜行性の動物は、時に人を驚かせ多くの怪談を作り出してる」)
     本人(?)たちにはその気はなくとも、真っ暗闇に光る瞳に人が勝手に驚いたりもする。
    (「多くは受けた仕打ちを返す怨恨の物語。それと同時に恩返しの物語も数多くある。猫は強い執念を持つという事は間違い無いであろう」)
     今回の着ぐるみ猫がどこに類するものなのかは分からないが、猫には他の動物にはないほどの逸話がある。それは人間の身近にいる故であろう。
    (「なんて、家の猫の顔思い出すとなにも考えてないようなきもしちゃうけどな」)
     燈は飼い猫の姿を思い浮かべる。あの、飼い猫特有の愛らしさからは、前述のようなものは感じなかったりもした。
    「化け猫の……着ぐるみ……それは是非に着ぐるみの森へと連れ帰らねば……あわよくば着ぐるみーズの仲間に……!」
     ごくり、生唾を飲み込む周防・雛(少女グランギニョル・d00356)はペルシャ猫の着ぐるみ姿だ。彼女の執念のこもった言葉に向けられた視線に対して。
    「え、ノン? セテュヌブラグ、冗談ですわ」
     ぺろっと舌を出す仕草が可愛らしい。
    「良さそうな猫さんの着ぐるみだったら、欲しいです」
    「都市伝説なので、残念ながら灼滅したら消えてしまうのではないでしょうか?」
     魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911)の言葉を拾った狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)が答える。そういえばそうね、と狭霧は少し落胆したようだったが。
    (「とても毛並みがよく、もふもふしていて抱きつき心地が良い猫の着ぐるみ姿の都市伝説さんですか。イリオモテヤマネコの着ぐるみを着た私に対する挑戦ですね」)
     今度はライバル心を燃やして勘違いをし始めた。
    (「猫着ぐるみ? 何だこの親近感!? しかし愛すべき着ぐるみだからこそ、被害を出させる訳にはいかないぜ」)
     その胸には収まらないほどの着ぐるみ愛を持って訪れた文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)はもちろん着ぐるみ姿だ。
    「ここは心を鬼にして、俺達がもふ……確り倒さないとだな。待ってろよ都市伝説!」
    「そうですね。モフモフしてるだけなら怖くもないでしょうけど、人を襲うようになってしまうとダメですよね。早めに退治しませんと! モフモフは残念ですけど!」
     翡翠もまた、もふもふを退治しなれけばならないことを残念に思う者のひとりだ。
    「ラジオウェーブが直接生み出したと取れなくもない都市伝説、今までと同じと考えないほうが良いだろう」
     これまでとはどこか違うかもしれない。峰・清香(高校生ファイアブラッド・d01705)はあくまでも強い警戒を解かない。他の者がもふもふを楽しみにしているのならば、その分警戒は引き受けよう、そんな心持ちだ。
    「もふもふ化け猫……中身は、一体……」
     暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は猫変身した桜田・紋次郎(懶・d04712)を抱き上げながら呟く。着ぐるみの中身、それはある意味禁断の……!
     禁断の領域については誰もが考えてしまうものなのだろうか。猫紋次郎を抱いたサズヤを先頭に、一同は廃屋の中へと足を踏み入れる。灯りを所持していても、いや、所持しているからこそ夜の廃屋の不気味さが浮かび上がる。時折、子どもたちが置いていったと思しきマンガやお菓子の外袋などが落ちているのが、意外に心落ち着かせる要素だった。
     一同の間に沈黙が走る。自然と視線が紋次郎に集まるが、中には化け猫がどこから現れるのかと視線を彷徨わせている者もいた。
    「準備は万端……さぁ、鳴こう、桜田」
     サズヤにもふられながら、白毛並みに虎模様のサイベリアンに変身している紋次郎が、ふっさふさの尻尾をぶるんと震わせた。そして息を吸い込む。普段はほぼ鳴かぬから、鳴き声にはあまり自信はない。でも。
    「……な」
    「……、……」
     ほぼ、一瞬。ひと声に足りるかどうか。誰も口には出さないが、本当に鳴いたのか、空耳ではないかと思ったものもいるかもしれない。これでも精一杯の鳴き声なのだ。
     だが、さすがに猫の鳴き声であることに違いはないので、化け猫は聞き漏らさなかったのだろう。ずーん……突如大きめの気配が出現して。紋次郎の前あたりでその姿を見たのは、二足歩行の猫。もふもふ着ぐるみの虚ろな瞳。返事をするように化け猫も鳴いた。
    「ぶにゃー」
     こちらもあまり鳴き声はうまくない。

    ●もふもふ
    「狩ったり狩られたりしようか」
     清香がカードを開放する。猫は嫌いではないのだが、都市伝説であるという認識のほうが先に来るため、もふもふしようという気分には至らなかった。むしろ、ラジオウェーブのことが気になっているため、警戒心のほうが強く出ている清香は、『バベルブレイカー・憤怒の穿ち』を手に化け猫との距離を詰めてそれを打ち込んだ。
     もちろん、直哉とてラジオウェーブやタタリガミのことを警戒していた。でも目の前に現れた着ぐるみを見ると、どうしても着ぐるみ愛が溢れてしまう。
    「心癒すもふもふに、ほど良くゆるいそのフォルム。そうさ、着ぐるみの可能性は無限大だ」
     化け猫は見るからにもふもふしていて、そして大きさも抱きつき甲斐がありそうで。
    「着ぐるみ同志よ共に目指そう。着ぐるみで世界せい……世界平和!」
     ぐっと仲間たちにサムズアップした直哉は、化け猫に向き直って。
    「二足歩行のもふもふきぐるみ猫、クロネコ・レッド、見参!」
     着ぐるみビームが化け猫を襲う。続いて狭霧が『光と闇を切り裂く銀色の剣』を構えた。
    「イリオモテヤマネコ・ブラウン、行きます!」
     白光の斬撃を与えた。そして雛が。
    「ペルシャ猫・ホワイトでいいですの? 痛くしてパルドン、猫ちゃん?」
     慣れた手つきで『操糸「ドールズウォー」』を操った。霊犬のボンボンがそれを援護する。
    「ぶにゃぁぁぁっ!?」
     着ぐるみトリオの攻撃に、化け猫が驚いたような声を上げる。もしかして、あちらからも一瞬仲間のように見えたのだろうか。
    「あまり暴れないで下さいね!」
     3人と入れ替わるように翡翠が腕を異形巨大化させて化け猫へと迫る。
    (「皆さん着ぐるみでちょっと楽しそうです。自分も興味は有りますけど……今度着てみたいですねー」)
     なんて思いつつ腕を振り下ろした後――ギュッと抱きつくようにしてもふ、もふもふ、もふもふもふもふもふ。
    「あ……ものすごく気持ちいいです」
     翡翠がもふもふを堪能している内に、燈は黒煙を中衛に向かわせて能力の向上を図った。
    「化け猫というと、牙や爪が鋭く、見た目も恐ろしい者を想像するが、きぐるみは、きぐるみで……こわい。んー……2m」
     大きいなぁなんて思いつつ、サズヤは『『集真藍』』を手に化け猫との距離を詰め、そして切る――流れでもふ、もふもふもふっ。
    「ん……これはよいもふもふ」
     もふもふを堪能しながらも、警戒は怠らない。
    「……」
     化け猫の出現を確認した後、すぐに人間姿に戻っていた紋次郎は、普段から口数が少ない。けれどもふわもこ動物は大好きだ。纏った『無聊』に炎を重ねて殴る――と同時にもふ、もふもふもふもふ!
    「キグルミにしては良き毛並みだ」
    「ぶ~にゃ~!!」
     攻撃された恐らく怒ったのだろう。表情が変わらないのでわかりにくいが、化け猫は紋次郎めがけてパンチを繰り出そうとしている。だが、サズヤが素早くふたり(?)の間に入り込んで。
     ぼふうっ!
     あまり痛そうに思えない音のするパンチを受けた。
    「んん……これは、なかなか強敵」
     ダメージがもふもふで軽減されているようにも思えたが、それでもそのパンチは重く、痛いものであった。ただ、音や見かけがそう見えないだけで。
    「見かけに騙されてはいけないということだな」
     更に気を引き締めた清香は、普段の都市伝説と違うところがないかと注意深く化け猫を観察しながら、歌姫の如き歌声を響かせる。帰ったら今後のために、化け猫都市伝説のことをエクスブレインに報告するつもりだ。
    「にゃにゃにゃにゃにゃ!」
     直哉が突撃するのに合わせるように狭霧と雛も動く。攻撃するたびにぶにゃーとかぶむーとか声を上げる化け猫だが、何故か鳴き声は一向に可愛くならなかった。

    ●中の人? ノンノン!
    「ぶぎゃー!」
     何度目かの化け猫の攻撃。とうとう化け猫は自分の毛をむしって前衛へと放った。結界のように転がった毛が、前衛を傷つけるとともに悪影響を与える。
    「ああ、せっかくの毛並みが!」
    「測を上回る能力というのは、ダメージを受けすぎると中の人が出てくるとか? 身長が着ぐるみ以上とか?」
    「確かめてみますの。そのモフモフ、シルヴプレ!」
     直哉の着ぐるみ愛ゆえの叫びと狭霧の呟きに、雛が答えて素早く背後へと回る。斬撃を与えて背後からもふ、もふもふ。
    「嗚呼、この毛並み……トレビアン……」
     頬を寄せてもふる。だが何か硬いものが当たって、毛並みをかき分けてみると……。
    「ウィ……この中には何が……未知の扉が、今此処に!」
     チャックがあったー!? 手を伸ばす雛。だが背伸びしてなんとかチャックには届いたもののまるで接着剤で留められているかのように下ろすことはできなかった。
    「ぶーにゃーーーーーー!!」
     化け猫がぶんっと振り向いたので、雛は慌てて後ずさる。ボンボンが心配そうに見つめながらも、彼女の傷を癒やす。
    「あくまで中の人はいない、というスタンスなのかもな。前衛回復するぜ」
    「『気ぐるみの化け猫の都市伝説』ということですから、中の人などいないのでしょう……けれどもチャックがついていると気になりますね」
     燈が黒煙で前衛を癒やし清めながら告げる。翡翠がそれに答えて巨大な刀を手にして素早く彼我の距離を詰める。
    「もふもふするのが目的じゃないですからね! あくまで攻撃ですから!」
     それでも近づいたついでにもふっとしてしまう。けれどもさすがに序盤よりはぼろぼろになってきた化け猫。ぶしゃーと威嚇するように鳴くが、それも限界が近いからかもしれない。
    「……ん」
     サズヤが『『丑の刻』』を化け猫に打ち込んだ。気ぐるみがぼろぼろになっていくのは見ていて少々悲しいものもあったが、割り切らなくては仕方がない。続く紋次郎は、無言で攻撃をして。
    「ぶぅにゃぁぁぁ!!」
     まるでこれが最後の攻撃とばかりに化け猫が直哉を狙った。そのアッパーカットはもふもふしているからだけでなく、最初よりも威力が落ちているように感じて。着ぐるみを愛する者としては着ぐるみがぼろぼろになっていくのは悲しい。でも。
     清香が瀕死からの起死回生の何かがあるのではと注意しながら化け猫に迫る。燈が直哉を癒やし、それを横目で見つつ翡翠が重い蹴撃を放った。
    「貴方の魂に優しき眠りの旅を……」
     解除コードであるそれをあえて今口にしたのは、それがトドメとなるとわかったから。そうなるであろう手応えがあったのだ。
    「お前の気ぐるみ、忘れないぜ! な?」
     倒れ伏して消え行く化け猫に告げた直哉の言葉に着ぐるみ好きの狭霧や雛も頷いて。
    「……ん、いい、もふもふだった」
    「ああ」
    「……にゃ」
     サズヤと紋次郎がもふもふを褒め称えると、化け猫は最後だけ可愛く鳴いて、そして消えていった。
     消え行く化け猫を見送った後、サズヤは人差し指を立てて。
    「……桜田、もう一度、猫変身」
     請われて紋次郎はまた猫に変身し、サズヤに抱き上げられた。
    「……な」
     化け猫に返すように紡がれた紋次郎の鳴き声は、最初と同じで変わらなかった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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