「ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたぞ」
教室へとやってきた宮本・軍(大学生エクスブレイン・dn0176)は、そう言って灼滅者たちへの説明を切り出した。
「このラジオ電波によって、放送内容と同様の事件が発生してしまうのだ。今回、諸君らにはその事件の対処にあたってもらいたい」
そして軍は、ラジオの内容を語り始めた。
――とある地方都市。夕闇に包まれていくビルの合間の一角。そこを早足で進む一人の青年がいた。
バイトの時間に遅れそうだった彼は、普段は通らぬ近道を利用することにしたのだ。
喧騒は遠く、辺りには自分しかいない。こんな日には、何かよくないものが現れそう――そんな言い知れぬ不安感を覚えていた。
すると、ふと背後に何者かの気配を感じた。振り返ると、マスクで顔の下半分を覆った女が、いつの間にか立っていたのだ。
「……ねえ。私、綺麗?」
それは、どこかで聞いたことがある昔の噂話のようだった。悪戯のつもりなのかもしれない。急いでいた彼は、当たり障りのない返事をすることにした。
「う、うん。綺麗じゃないかな」
「……へえ、これでも?」
そう言って、おもむろにマスクを下げる女。そこには、かつて聞いた噂の通り、耳元まで裂けた口があった。女は懐から包丁を抜き放つと、呆然とする青年へと斬り掛かった。
忘れ去られた怪奇譚の対処法など知らぬ青年は、新たなる犠牲者に名を連ねるしかなかったのだった――。
「口裂け女とはまた古めかしい話だ……。まぁ、自分が生まれる前に流行った怪談話の攻略法など、そうそう知ってるものではないからな」
ラジオ放送の概要を説明し終えた軍は、そうしみじみと呟くのだった。
「とにかく、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止めることができた。都市伝説発生の前に、その情報を得られたのは僥倖だな。犠牲者が出てしまう前に、諸君らの手で討伐してきてくれ」
そう言うと軍は、都市伝説が出現するとされる地点を告げた。
「夕暮れ時にこの路地裏を通れば、都市伝説と遭遇することができるはずだ。
そこで先程の説明と同じように、都市伝説の質問に『綺麗だ』といった返答をすると襲い掛かってくる。これを撃退してくれ」
また軍が言うには、この都市伝説にはいわゆる『口裂け女への対処法』が通用するらしい。
「ただ放送によると、具体的に何をどうすれば効くのかは判然としない。まあ色々と試してみるしかないだろう」
その対処法は、あくまでも襲われた人が逃げ延びるためのものなので、都市伝説を消滅させるほどの効果はない。だが上手くいけば、都市伝説の隙を作り出すくらいはできるだろう、と軍は言う。
また軍によると、この都市伝説は主に包丁を武器としており、その能力は殺人鬼に類似しているという。
「加えて忠告しておくが、これらの情報は我々エクスブレインによる予知ではなく、あくまでもラジオの放送から予測されるものだ。可能性は低いが、予測を上回る能力を秘めているかもしれない。注意してくれ」
そうして、来る事件を解決すべく、灼滅者たちは教室をあとにする。そんな彼らへと、軍は言葉をかける。
「忘れ去られた怪談話に今更闊歩されるのも迷惑な話だ。諸君らの手で、きっちり灼滅してきてくれ」
参加者 | |
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月村・アヅマ(風刃・d13869) |
渡来・桃夜(いつでも通常運行・d17562) |
大神・狼煙(役目を終えた捨て駒・d30469) |
九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536) |
蔵座・国臣(病院育ち・d31009) |
辻凪・示天(彼方ノ深淵・d31404) |
富士川・見桜(響き渡る声・d31550) |
三影・紅葉(あやしい中学生・d37366) |
●
日の光が失せ、薄暗さが増していく路地裏。灼滅者たちは、ラジオ放送の舞台となった場所へとやってきていた。
「さて、まずは被害者が出ないように人払いをしておきましょうか」
そう言うと大神・狼煙(役目を終えた捨て駒・d30469)は、一般人を遠ざけるべく怪談話を語り始めた。この場で語る物語は、無論のこと『口裂け女』である。
「……夕暮れ時か、逢魔が時とも言われるな。なにやら幽霊や魔物に会いやすいとか。こんな時間に都市伝説退治ってのも、らしいと言えばらしいな」
三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)は、暮れゆく空を見上げながら呟く。
「にしても口裂け女なんて懐かしいねー。まさかこんな形で遭遇することになるとは思いもしなかったけど」
そう気安い調子で言うのは、渡来・桃夜(いつでも通常運行・d17562)である。
「長崎で大量に出現した時は、ただ退治するだけだったからな。あの時狩り尽したと思ったんだが、まだ湧くのは知名度のせいか、はたまたラジオウェーブか……」
蔵座・国臣(病院育ち・d31009)は、二年前の事件を思い返しながら染々と言う。
「あぁ、佐世保でしたっけ、蔵座先輩。古いとはいえ、確かに知名度自体は高い都市伝説ですよね」
国臣の言葉に応じるのは、月村・アヅマ(風刃・d13869)である。
「今回は対処法も含めて色々調べてみましたけど、調べれば調べる程、今まであんまり出てこないのが不思議な感じですねぇ」
「とりあえず私は、特に有名なべっこう飴をたくさん持ってきたわ。あと対処法としてはマイナーだけど、一応豆腐もね」
そう言うのは、富士川・見桜(響き渡る声・d31550)である。怖い話は苦手な彼女だが、灼滅者として戦っているせいか、最近は怖いものにも慣れてきてしまった。
「そもそも口裂け女みたいな話って、怖い以上に悲しい感じがするんだよね……。出来れば悲しいことは少ない方がいいって思うな」
「他に考えられる対処法としては、『ポマード』と聞かせるのも有名か。しかし、数人で取り囲んでポマード、ポマードと言葉を浴びせる集団を想像すると、都市伝説に劣らずシュールな光景ではあるな」
辻凪・示天(彼方ノ深淵・d31404)は、仮面の位置を直しながら静かに言う。
そうして待っていると、灼滅者たちは突如気配を感じた。そこには、マスクを被った女が俯きながら立っている。口裂け女が現れたのだ。
「出たな。被害が出る前に、とっとと終わらせときましょう」
そう言うとアヅマは、路地裏全域にサウンドシャッターを展開する。
「――ねえ。私、綺麗?」
口裂け女は、顔を伏せたままそう問うてきた。
「普通、だな」
まず紅葉が、試しにそう応じてみる。これも口裂け女への対処法の一つだった。こう答えれば、襲われずに済むと言われている。
しかし口裂け女は、まるで紅葉の言葉など聞こえなかったように、また同じ問いを繰り返すのみ。この対処法は効果がないらしい。灼滅者たちは、結局戦うしかなさそうだと判断した。
「綺麗だ」
最前列の九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536)がそう応じる。
「へえ、これでも?」
口裂け女はそう言ってマスクを剥ぎ、その名に違わぬ大きく裂けた口を露にする。さらに懐から包丁を抜き放つと、灼滅者たちへと襲い掛かってきた。
「――ああ、俺に比べればな」
応じる九十九は、肉体を自身のルーツへと変貌させる。彼の全身は瞬く間に、異形の怪物と化した。
九十九の変身を皮切りに、灼滅者たちは迎撃を開始した。
●
「とりあえず一番効きそうなところから行こうか。『ポマード、ポマード』!」
桃夜は口裂け女に肉薄すると、そう言葉を浴びせる。すると敵は、怯んだように後方へと飛び退いた。
「お、これは効くんだ! でも逃げるまでやっちゃうと厄介だから、みんな気を付けてね!」
言いつつ桃夜は槍を構えると、螺旋の突きを繰り出した。
「なら逃がさないよう、俺が足を止めますね」
敵の退路を絶つように、背後に回り込んだアヅマ。彼の縛霊手から放たれる霊力の網が、口裂け女の動きを封じる。
そこへさらに攻撃を仕掛ける九十九。バベルブレイカーの高速回転する杭が、口裂け女へと見舞われる。
九十九の刺突によって生じた隙を見逃さず、狼煙がクロスグレイブを構えた。展開した銃口から放たえる光弾が、口裂け女を凍て付かせる。
さらにライドキャリバー『鉄征』に騎乗した国臣が、路地の壁面を駆けながら機銃の弾雨を敵に降らせる。そして駆り手である国臣自身は、展開したシールドですれ違い様の敵を殴り付けた。
「ポマードは効くのね、じゃあこれはどう? 『犬が来た、犬が来たぞ』!」
敵の背後から飛び掛かりながら、叫びかける見桜。しかし口裂け女は怯むことなく、手にした包丁を見桜へと振う。
「犬は駄目なのね……」
敵の包丁をひらりと躱しながら、デモノイド化させた腕で斬り付ける見桜。
「一説によれば、100メートルを6秒で走れる俊敏さらしいな、時速60km程度か。ただ灼滅者基準なら、別に異常と言うほどでもないな」
言いつつ示天は、素早い身のこなしで敵を翻弄しつつ、上段からの斬撃を食らわせる。
(「所詮は都市伝説だな、このまま押し切れるか?」)
口裂け女との距離を詰めた紅葉は、刃と化した影業を纏い、回転蹴りで斬り付けた。
だが敵は紅葉に斬り付けられながら、そのまま眼前の紅葉へと包丁を繰り出してくる。紅葉は咄嗟に身を躱すが、包丁は僅かに腕を掠める。
「――ッ。俺としたことが、油断大敵だな」
傷付くのが他の仲間じゃなくてよかったと思い、気を引き締める紅葉。
「『ポマード』って言葉が効くのなら、じゃあこいつはどうだ?」
用意しておいたポマードの現物を、デモノイド化した巨大な掌に塗りたくる九十九。それを、口裂け女の顔面目掛けて突き出す。
その九十九の手を、口裂け女は憤怒の形相で見据えると、手にした包丁で牽制してくる。ポマードを恐れているのか、単に攻撃行動と認識しているのかは判然としない。
「――おっと。その、なんだ、そんな怒るな。べっこう飴ならあるが、食べるか?」
これならどう反応をするのかと、今度はべっこう飴を差し出してみる。すると相手は、餓えたように九十九の腕ごと食らい付こうとしてきた。
「こいつは好物なのか、ならついでにこれもやるよ」
言うなり九十九は、大口を開けた敵の顔面へとバベルブレイカーの杭を撃ち込んだ。
その衝撃に吹き飛ばされながらも、口裂け女はどす黒い瘴気で前衛の灼滅者たちを包み込んだ。
「く――ッ! これはさすがにキツいな……」
真正面から浴びてしまった九十九は、ひとまず敵から距離を取ることにする。だがそこへ、体勢を立て直した敵が飛び掛かった。
「――ほら、こっちだ」
九十九の退避を援護すべく、示天が背後から日本刀で斬り付ける。
「ふむ……。よく見れば、髪、肌……少し荒れてるんじゃないか?」
少しでも敵の注意を引き付けられればと、そう呟きながらキャリバーで突撃する国臣。騎乗している国臣はシールドを展開し、瘴気によるダメージを癒やしている。
比較的軽傷の紅葉は、ひとまず敵へのダメージを優先した。クロスグレイブを掲げて、敵に打撃を叩き込む。
●
そうして灼滅者たちは、前衛を中心に包囲を固めながら、大きな負傷は連携して回復に努めるよう立ち回る。一方の口裂け女は回復手段を持っておらず、着実にダメージが蓄積していった。
「九条、一旦俺の後ろへ。回復する」
言うと狼煙は、鎖状のダイダロスベルト『グレイプニル』を展開した。それを九十九へと纏わせ、彼を守護する鎧とする。
「いい調子だな、上手く数の利を生かせているぞ」
キャリバーの機銃を浴びせながら、炎を纏ったシューズで蹴り付ける国臣。
「べっこう飴には食い付くみたいだけど、これはどうかな!?」
敵との距離を詰めながら、懐から取り出したキャラメルを放る桃夜。敵はべっこう飴と同じく、攻撃を止めて地面に落ちたキャラメルに手を伸ばす。
その隙を見逃さず、桃夜は手にした槍から氷柱を射出する。
「こんなに単純でいいのかな……。いや、いいんだよね。いいに決まってる……」
口裂け女は、凍り付いた手を強引に地面から引き剥がすと、苦悶の表情で飛び退いた。あまりに目論見通りに進んだその様に、当の桃夜自身が当惑している。
「だったら、これはどう?」
口裂け女へと、持参しておいた豆腐を見せ付ける見桜。しかし敵は意に介さず、見桜へと襲い掛かる。
「うーん、これも駄目なの?」
それならばと、ポマードの語を織り交ぜた歌声で攻撃する見桜。彼女の歌に惑わされた口裂け女は逃げることもできず、悲鳴をあげながら長い髪を掻き毟っている。
「色々試したけど、結局有名所が一番なんだなぁ……」
青い炎の闘気を纏いながら、縛霊手による殴打を繰り出すアヅマ。それを口裂け女は、狂乱しながらも寸前のところで躱してのけた。
そしてアヅマへと反撃しようとするが、死角から見舞われる示天の刃がそれを阻止する。
――だが次の瞬間、口裂け女は絶叫と共に渾身の殺気を周囲へと振り撒いた。目に見えるほどの濃密な殺気が、灼滅者たちを蝕もうとする。
その威力を少しでも減じさせようと、紅葉が敵の眼前へと躍り出た。掲げた斬艦刀のサイキックで自らを奮い立たせながら、極度の殺界を耐え凌ぐ。
「――くっ。だがこのくらい問題ない、俺は丈夫だからな。敵は明らかに弱ってる、このまま畳み掛けようぜ」
紅葉の言葉通り、敵のダメージは限界に近かった。灼滅者たちは、一気に勝負を決すべく攻勢に出た。
●
負傷をものともせず、紅葉は斬艦刀を手に斬り掛かる。緋色のオーラを纏った斬撃で、敵の生命力を奪い去った。
キャリバーを駆り突撃する国臣。聖剣の如く輝くクルセイドソードで、漆黒の殺気を払いながら敵を斬り付ける。
仲間たちの攻撃の間隙を埋めるように、示天もサイキックソードによる斬撃を見舞う。
「ここが正念場ですね。今日一番でかい一発をいきますよ」
輝く先端を備える棍状のロッドを構えるアヅマ。その殴打により、全霊の魔力が叩き込まれた。極大の魔力爆発を受けた口裂け女は、弱り切ったようによろめく。
「やるねアヅマ! じゃあオレも派手にいこうかな!」
そう言うと桃夜は、純白の翼の如き流麗なオーラを纏う。そのオーラを両手に込めると、目映く光る連打を見舞った。
「……ごめんね、私に出来るのはこれくらいなんだよね」
瀕死の口裂け女へと距離を詰めながら、静かに語り掛ける見桜。剣と半ば融合した異形の腕を振り被る。その刃は一見無骨な、ただの剣であったが、彼女が振うごとに鮮かな青の燐光を迸らせていた。見桜の斬撃が、深々と敵を斬り裂く。
灼滅者たちの猛攻を受け、口裂け女はもはや絶命寸前の様相である。
「行けるかい、九条」
「ああ、こちらも準備は万端だ」
示し合わせながら、得物を構える狼煙と九十九。彼らが手にするのは、共に巨大な杭打ち機。
バベルブレイカーのジェットを噴かせながら、一息に敵へと肉薄する狼煙と九十九。そして二人は、全くの同時に強烈なパイルを打ち込んだ。
そして遂に、口裂け女は息絶えた。消えゆくその体を抱き留めるように、手を伸ばす狼煙。
「もう疲れただろう? 君はもう怪談なんかじゃなく、一人の女の子として生きてもいいんじゃないかな?」
狼煙はそう語り掛けつつ、口裂け女をその身に吸収していった。どこか悲劇的なこの都市伝説は、狼煙の力の源となったのである。
腕のデモノイド化を解いた見桜は、口裂け女が吸収されていく様子を、微かに安堵したような表情で見詰めていた。
「……とにかく、これで解決だな。大したことなかった」
仲間を庇ったことによる負傷など、素知らぬ顔で呟く紅葉。その胸中では、今後のラジオウェーブの動向に対する疑念が渦巻いていた。
「戦闘中は色々と助けられたな、辻凪。感謝するよ」
そう言って国臣は、丁度傍らにいた示天を労う。示天による、目立たないが細やかなフォローは、仲間たちの活躍を影ながら支えていた。
「礼には及ばん。俺は俺の役目を果たしただけだからな」
誇るでも照れるでもなく、至極当然といった調子で応じる示天。
「それにしても、折角掌に『犬』って書いといたんだけど、結局役に立たなかったなぁ……」
元々半信半疑の対処法ではあったが、それでも残念そうな様子のアヅマだった。
「キャラメルは何故か食い付いてきたねぇ、一体どういう基準なんだか。結構余っちゃったんだけど、みんな食べるかな?」
そう言いつつ桃夜は、余ったキャラメルの一つを頬張っている。そして見桜も、はにかんだ様子で飴を手にしている。
「あ、私もべっこう飴残ってるんだよね。さすがに持ってき過ぎたかな」
そんな仲間たちの様子を見て、人間の姿に戻った九十九はようやく緊張の糸を解いた。万が一の時には完全なデモノイドになってでも敵を倒そうと考えていたが、そんな事態にならなかったのは幸いであった。
こうして口裂け女事件を解決した灼滅者たちは、学園への帰路につくのだった。
作者:AtuyaN |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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