まだ見ぬ貴方を待ちかねて

    作者:六堂ぱるな

    ●定められた目覚め
     唐突に、麗華は気づいた。
     運命が動きだしている。みすぼらしい住まいで隠されるように生かされてきた、はかない我が身。今までが脅威から守られるための雌伏だったのなら――。
     今、運命の人が現れようとしているに違いない。
     白馬に乗った王子様が。
    「でもこんなところにいる私に気づいて下さるかしら……」
     不安でいっぱいの彼女は、思いついたように手を打った。
    「そうだ、お迎えするにふさわしいエントランスを作って、エントランスへ続くちょっとした小道があるといいわ。外は薔薇を植えて……兵隊さん達、手伝って下さらない?」
     従順な下僕を呼び寄せ、彼女は周辺環境の改造案を練り始めた。

     『みすぼらしい』住まいの外にはまだ、何も知らぬ人々の生活がある。
     放っておけば間違いなく、付近一帯は彼女のちょっと勢い余った夢想のままに歪め、生命を奪い、意のままにすることだろう。

    ●起きてるけど目が覚めてない
    「ノーライフキングは楽山・麗華(らくやま・れいか)、52歳。主婦だった」
     沈痛な面持ちで告げたのは埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)だった。沈痛以外になりようがない。
     サイキック・リベレイターによって対象ダークネスの力が増大するのはいつものことだが、今回は慎重派のノーライフキング。ひっそりと迷宮化を進めていたものの、力を増したことで住まう建物全体を迷宮化したらしい。
    「結構な古さのアパートなのだが、迷宮化したため窓やら壁やら構造物を破壊しての侵入はできない。しかも建物内は空間がでたらめに繋ぎ合わされ原形を留めていないので、一階中央の扉から侵入してくれ」
     アパートの住人たちが防衛を担っている。消耗を避けて奥へ進み、ノーライフキングを打倒するのだ。

     玄関から入るとホールで、扉が三つ並んでいる。どこでもいいから一部屋、中にいる敵を撃破すると奥にある扉から最奥部へ進めるシステムらしい。
     扉にはそれぞれ号室がついている。
     103号室、三体の等身大の嫁フィギュアを従えた騎士団長ゾンビ。202号室、飼っていた二匹のハムスターゾンビを世話するお庭番ゾンビ。205号室、同居していた三人の若いホステスさん……もとい召使さんゾンビ。
     ノーライフキングさえ倒せば迷宮化は解け、迷宮内のアンデッドも同時に滅びる。よって全てのアンデッドを灼滅する必要は無い。
    「ちなみにどこかの扉に入る前に、『ホールで麗華姫に熱烈な求婚の宣言』をすると、どの部屋で戦闘しようと二人の兵隊がやってきて加勢してくれるのでとてもラクだ」
     さながらベランダにいる姫君に庭から訴えかける騎士のように。
    「うわあ」
     ノーライフキングの下僕である彼らが消耗すれば、当然麗華戦でもラクなわけで。
    「その二人ってまさか」
    「夫の猛夫と息子の猛士だ」
    「うわあ」
     再びあがる灼滅者の呻き声に目を伏せ、玄乃は説明を続けた。
     真紅のドレスをまとって自室で刺繍をしながら求婚者を待つ麗華は、エクソシストと同じサイキックの他に刺繍枠を使った断罪輪と似たサイキックも使ってくる。ポジションは狙った獲物は逃がさないスナイパー。
     夫の猛夫と息子の猛士は揃って単純な攻撃のみのゾンビで、ディフェンダーだ。
    「ちなみにホールで『熱烈な求婚の宣言』をしていれば、引き裂かれる二人、みたいな演出をすると攻撃力を削ぐことができる」
     個体戦闘能力の高い相手だけに力を減殺したいが、それなりの覚悟が要りそうだ。
    「もう目が腐っているのか、『求婚宣言』は女性がバレバレの男装をしていようと問題ない。とにかくなるべく多く、熱烈に」
     熱心な求婚者に群がられるシチュエーション、になればいいわけで。
    「諸兄らならば乗り越えてくれると信じている。それはもう心の底から」

     『我が名は○○、麗華姫をお迎えに参った! 是非、我が妻に!』『さぞ心細い想いをしてこられたでしょう。これからはこの△△が姫をお守りします』などの文言を書いたプリントを、そそくさと配る玄乃だった。


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    茂多・静穂(千荊万棘・d17863)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    水野・真火(水あるいは炎・d19915)
    宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    冬城・雪歩(高校生ストリートファイター・d27623)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)

    ■リプレイ

    ●永久の眠りを届けに
     迷宮と化したアパートは外観に少々異変をきたしただけだった。二階建の北壁に三つずつあった扉は、今は一階の真ん中に一つあるだけだ。
    「私たちの選択でこんな事になったとはいえ、ご自分の旦那さんとお子さんをゾンビにしただけでなく、関係のないアパートの住民までゾンビにするなんて……」
     表情を翳らせる四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)に、冬城・雪歩(高校生ストリートファイター・d27623)もどう慰めたらよいかわからない。
    「酷いノーライフキングだよね。まぁ色々言いたいことはあるけど、とりあえず灼滅することだけ考えようか」
    「ええ。このままにしておくわけにはいきません」
     きっぱりと頷く悠花の横で、宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)としては素朴に敵の一点に感心していた。
    「いくつになっても王子様は憧れなんですね」
     元の麗華がどんな人物だったか知る術はないし、戻す術もない。だから水野・真火(水あるいは炎・d19915)は唇を結んだ。
    「何と言いますか、世の中にはいろんな人がいるのですね……でも、誰かの犠牲在りきの物語の主人公なんて、ただの悪人、ですよね」
    「王子様を待つ屍王とかシュールすぎるぜ。しかし俺がスーツ着るとホストっぽくなるな」
     首を捻る北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)はオーダーメイドのスーツで、手には真紅のバラの花束持っていた。中性的で端正な顔立ちが華やかだ。
    「状況が状況なのであれですが、油断せず、気を引き締めていきましょう」
    「わかってるさ。ま、せいぜい口説き落としにかかりますか」
     頷き合う真火と葉月の背後では、ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)がストレスを募らせて悶絶していた。
    「いくら作戦とは言え、意中の者でもないやつにラブコールなんて俺のプライドが……!」
    「でもこれ以上の被害は何とか止めないといけませんね。いつもとは違う感じですが、しっかりやりますよ!」
     女王様っぽいタチでなさそうなのが残念だが、茂多・静穂(千荊万棘・d17863)も気を引き締める。屍王は侮ってかかれる敵ではない。そのための芝居だ。
    「この男装、今ひとつ着心地が悪いです。ま、仕方ないですか」
     不本意なのは同じ華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が吐息をついたが、端正なつくりの彼女が着飾ればゴージャスさは格別だった。
    「どうでしょう、王子様らしく見えますか?」
    「ええ、とても凛々しいです」
     紫那乃がにこりと笑って応える。
     いざ、屍王の迷宮へ。

    ●いずれ菖蒲か杜若
     ホールに入り、トップバッターの葉月が朗々たる声をあげた。
    「ああ、麗華! 愛しの姫よ。俺のこの声が聞こえているだろうか? 貴女を想うと夜も眠れない。この想いを受け取ってはくれないだろうか!」
    『ええ、絶対に返品しませんわ!』
     どこからか麗華らしき声がする。心なしか真火の視線が冷たい気がして真火に囁いた。
    「……あくまで演技だからな?」
    「お仕事ですもの、しょうがないですよね」
     ふふっと微笑む。愛を育む二人にとって穏やかならぬ事態なのだ。
     細身の身体に豪華な刺繍の施されたダブレットをまとい、シンプルなズボンに膝で折り返しのあるロングブーツを履いて三銃士風の真火がマントを翻した。
    「水野真火、と申します。麗華姫様、もうご安心ください。この僕が貴方を攫って見せましょう!」
    『準備はできていますわ!』
    「少し大仰だったかな……終わったらすぐに着替えよ……」
     あまりの食いつきに引いた真火である。続いて進み出たのは貴族でも通りそうな華やかな男装の静穂だ。元が財閥令嬢だけに様になっている。
    「嗚呼麗華様! 貴方は何故麗華様なのだ! 貴方の事を想うだけで我が胸は痛み張り裂けそうで堪らない! 貴方に至るまでの我が道程、どうぞお見守り下さい!」
    『と、ときめきすぎて胸がっ……』
     屍王の心臓が風前の灯らしい。
    「ついに巡り逢えしこの幸運を神に感謝いたします。我が名は紫那乃、麗華姫をお迎えに参った! 是非、我が妻に!」
     男性司祭服をまとった宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)は、別件で女の子を口説く役を経験済みだ。葉月を参考にした結果、より歌劇じみた感じだった。
    『草食系と見せかけてぐいぐいくるとか……好き……』
    「オォ、ナントウルワシキヒトナノダロウカ……あなたの騎士として使えるために馳せ参じました……っ」
    『あんなに頬を染めて……奥手な方ね、素敵』
     血圧臨界値のヘイズが口上を述べきると、麗華の独り言がトドメを刺しにきた。
    「耐えろ、耐えろ俺……」
     殺気を必死に堪えるヘイズを隠すように紅緋が口上で注意を引く。
    「麗華様。ああ、私の運命の人。ようやく探し当てました! これからは私がお側につかせていただきます。もう離しません」
    『銀の鎖帷子の凛々しい王子様とか尊すぎ!!』
     お気に召したと見えて興奮気味のコメントが聞こえてきた。もうひと押し、ロングドレスをまとった雪歩が胸を張る。
    「麗華姫、お兄様の妻にして私の義姉様になるに相応しいのは貴女しかいません!」
    『あのご様子なら、兄君は長身のイケメンでは?!』
     妄想だけでかなり捗っているようだ。
     そうして最後、口上を述べる勇気が出ない様子の悠花が、求めるものを探すように一歩後ろから必死の顔をあげている。それが麗華のツボにストライクで入ったらしい。
    『子犬系……! 私が守って差し上げなくては!』
     屍王ならそのぐらいの甲斐性はあるだろう。耳をすませていると、幾分声量を抑えた指示が聞こえてきた。
    『着替えなくては! 兵隊さん達、皆さまのお迎えに行って下さる?』
    「……この程度でいいでしょうか?」
     真顔の紅緋がカンペを仕舞いながら囁くと、一同重々しく頷いた。

    ●試練の迷宮
     騎士団長は扉の向こうで待ち受けていた。従えるは鎧はなしでドレスを纏った女騎士、ケモ耳と尻尾のついた和装の女子、エプロンドレスの清楚系、の三体の嫁フィギュア。
    「濃い……」
     呻く葉月をよそに、紫那乃が男役スターばりに見栄を切った。
    「騎士団長殿、貴公に恨みはないが、我が愛の成就の為ここは通らせていただく! 勇名を馳せしかの騎士団長殿なれば相手にとって不足なし! 紫那乃、推して参る!」
     途端、部屋の奥の扉から二体のゾンビが現れる。麗華の夫と息子の成れの果てにヘイズはやりきれなさを覚えていた。
    (「家族にゾンビにされる、何とも救われないな……今、楽にしてやる」)
    「姫がお迎えを出してくださった。これで百人力です!」
     紅緋が念の為のヨイショを入れると、葉月へ掴みかかるゾンビを猛夫ゾンビが阻んだ。葉月に続いて悠花が遠慮なく騎士団長に攻撃を叩きこみ、雪歩も縛霊手を起動すると、前列まとめて叩きのめす。
    「私達を庇って……! 回復も要らないだなんて、なんて健気なんだ!」
     仲間に加護を重ねがけしながら、静穂が感に堪えぬって顔で叫んだ。傷ついていく二人のゾンビを見やってひととき目を閉じ、紅緋は宣言する。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     細い腕が異形化、巨大化してフィギュアを打ちのめした。ヘイズが上段からの斬撃でドレスを翻すフィギュアを深々と切り裂けば、紫那乃の魔杖が背中から打ち据える。わずかに負った傷は真火とミシェルが癒した。
     騎士団長ゾンビとフィギュアは四分ほどで殲滅できた。ここでついでに猛夫と猛士のゾンビを沈めておかなくてはならない。
    「もういい……楽になるんだ」
     囁く静穂のダイダロスベルトが翼のように広がって二人のゾンビを捕える。
    「ごめんね、でも麗華姫に会うのにキミ達邪魔なんだ」
     詫びながらも炎まとう蹴撃を捻じこむ雪歩と、黙然と斬撃を叩き込むヘイズ。紫那乃も片腕を鬼のものと化して熾烈な爪の一撃を加えた。
     オーラの砲撃で猛夫の胸に穴を開けながら、悠花は彼と最も共通点のない仲間を葉月だろうと見定める。その葉月は炎をまとったハイキックで猛士の体を蹴り飛ばした。
    「悪い、この先はお前らに居てもらっちゃ困るんだ」
    「申し訳ありませんが退場してください」
     猛夫に止めを刺したのは、骨まで砕く紅緋の拳の連撃だった。崩れ落ちた二人の遺体が霞んで消えていく。
     住人たちの最期が気になっていた紫那乃は、部屋の壁に手をあてた。
     ESPがここで起きた悲劇を見せる。出勤しようと扉を開けた途端、麗華の夫の猛夫と息子の猛士が襲いかかってきた。噛みつかれ、食い散らされ、恐怖のうちに死を迎える。他の住人たちも同じだろう。話を聞いた雪歩はやりきれない気持ちになった。
    「今の、ダークネスのノーライフキングに言っても仕方ないんだろうけど……でも、夫と息子を殺したどころか家族とも思わず使役するなんて、やっぱり許せないよ」
    「元人格とダークネス人格は違うので、仕方がないのでしょう。なんとも俗な性格とみました、今回の愚物、いえ、屍王」
     目を伏せて首を振った紅緋が、冷ややかな決意をまとって続ける。
    「元人格のためにもここで終わらせます」
     幸い心霊手術が必要なほどは誰も怪我をしていないようだ。

    ●偽りの愛ゆえに
     白いドレスの麗華は次の部屋で待っていた。彼女が何か言うより早く、悲嘆にくれた声をあげて躍りかかる紅緋の腕が異形化する。
    「艱難辛苦を越えてようやく辿り着きました、我が姫。ああ、しかし姫は幽明境を異にする者。何故こんな運命が!」
     爪の渾身の一撃を受けてよろけた麗華に迫り、広がったドレスの袖で拳を這う雷光を隠した雪歩も踏み込んで顎を打ちあげる。
    「ああ、なんてこと。お義姉様、今お救い致します!」
    「ど、どういうことですの?!」
     自身を癒す麗華に、標識を掲げて前衛に加護をかけながら静穂が叫んだ。
    「貴方はもう覚えていませんが、貴方は私達との愛の逢瀬の途中でもう亡くなっているのです……! 悲しい、ですが私達は貴方をこの現世から解き放つ。愛するが故に!」
    「麗華姫、かくなる上は貴女を神の御名において不死の鎖から解き放ち、必ずや我が妻に迎えてみせる!」
     叫ぶ紫那乃は波打つ腹に杖を突きいれて流し込んだ魔力で内側から破壊を仕掛け、紅い飾り紐を揺らして葉月が繰り出したBeliefの穂先が麗華の脇腹を貫いて穴を開ける。
    「本当はこのような事はしたくないのです。ですが、我々は相容れない存在……ならば、せめて我が手で貴女を楽にして差し上げます」
     槍を抜きながら我に返って呟いた。
    「……端から聞くとDV男のセリフに聞こえるな」
     真火の標識が警戒色を灯して前衛に加護をかける。ミシェルの尻尾の金の輪が輝いて、仲間に敵の加護を打ち破る力を与えた。
    「あなたを彼になんか渡さない!」
     葉月を睨みつける悠花の掲げる魔杖が雷を生みだした。夫と最も共通点がない葉月を当て馬にしようというわけだ。雷球に焼かれながらも、二者に争われている勘違いで麗華がしなを作る。
    「ああっ、私のために貴方がたが苦悩を……」
    「あーもう、お芝居はここまでだ!」
     巨体をくねらせる麗華にとうとうヘイズの堪忍袋の緒が切れた。上段に構えた雷華禍月でドレスごと引き裂きながら咆哮する。
    「はっきり言って、趣味じゃねぇんだよっ!」
    「えっ」
    「ああ可哀想な麗華姫……もう少しお待ちください、貴方の楔を解くにはこの方法しかないんです……叩く僕の心も痛いのです。もう少し、ご辛抱ください」
     目を瞬く麗華に、真火が赤い攻撃色を宿した標識で打ちかかった。まともに食らってたたらを踏んだ麗華が、輝く薔薇色の十字架を召喚する。
    「でも、なんだか痛いですわ!」
     プリズムからの光をぎりぎりかわし、ヴォーヌ・ロマネの深紅のオーラを纏った紅緋が骨すらすり潰すような拳の連撃を見舞う。

    ●夢のおわりに
     腐っても個体戦闘能力ではダークネス随一、未だ夢の中にいるような麗華だったが激戦となった。もはやヘイズは怒りも敵意も隠さず、鬼神の如き気迫で攻めている。
    「禍月、コイツの無駄な贅肉ごと、全てを斬り裂け!」
     防具のような肉を引き裂かれて麗華が狼狽えた。
    「これはどういうこと? 兵隊さん、兵隊さん!!」
     人間だった麗華も家族を愛していたはずだ。だから。
    「此処で灼滅しますよ!」
     雪歩がスカートで脚さばきを隠しながら炎の尾を引く回し蹴りを叩きこむ。ふらついた麗華を追って壁を蹴った紫那乃が宙を舞うや、星が落ちる如き蹴りを食らわせた。
    「もう少し現実を見ましょう、おばさん」
     ため息まじりで告げる紅緋の紅い影が疾る。モンラッシェ――血の池のように鮮やかなそれはよろける麗華を絡めとって絞め上げた。入れ替わりに悠花が放った光輪が、緩んだ体をざっくりと切り裂く。
    「私の王子様はどなたなの?」
     麗華の震える手が印を切り、前衛たちを身の内側から破壊する呪が放たれた。紅緋を庇って飛び込んだミシェルが耐えきれずに消し飛ぶ。ヘイズの傷を癒すべくダイダロスベルトを滑らせながら、静穂は麗華に現実を突き付けた。
    「残念ですが、私はもう彼氏がいますし女です。貴方が愛するべきだった人達は、貴方自身がもう……」
    「夢はいつか覚めるもの。そろそろ現実に帰る時間だぜ」
     真火の盾の加護こみの癒しを受けた葉月が、五連星の刻まれたCassiopeiaを鳩尾に叩きこむ。身の内で弾ける魔力に灼かれて麗華が悲鳴をあげた。
    「これで終いだ……」
     雷華禍月の柄に手を添えたヘイズが踏み込む。
    「紅刃禍津一閃!」
     避けようのない間合い。紅い刀身が麗華の胴を薙いだ。
     よろめく彼女の体は胴で上下に切り離されている。
    「あ……あ?」
     呻いた麗華の体は次の瞬間色を失った。水晶の像のように透き通ると、びしりとひびが入って砕け散る。目もくれずヘイズは立ち上がった。
    「あの世で家族に詫び続けろ……」
     言い捨てて血を払うと納刀する。
    「北条さん、傷を塞ぎます」
     深手を負った葉月を蒼ざめた真火が、紫那乃を静穂が癒しはじめた。馬鹿馬鹿しいとはいえ、攻撃力を削いでおなかければどれほどの被害だったのか。
     荒れた部屋の床に落ちた写真立てを拾って、悠花がそっと呟く。
    「せめて、あの世では旦那さんとお子さんと仲良くしてください」
     割れたガラスの奥に、仲のよさそうな父と母、息子の笑顔の写真が収められていた。

     屍王としての目覚めが日常を奪い、破壊する。
     生命を奪われゾンビにされた人々の生命とて還らない。
     被害の拡大を防いだことを慰めに、灼滅者たちは学園への帰途についたのだった。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月4日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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