神様の御使い白狐

    作者:四季乃

    ●Accident
    「ラジオウェーブのラジオ放送が確認されました」
     集まった灼滅者たちを前にした五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は、頬に掛かる後れ毛を耳に掛けると、微かな暗色を宿す瞳を隠すように睫毛を伏せた。
     このままでは電波によって発生した都市伝説が、ラジオ放送と同様の事件を起こしてしまう。姫子はそう続けて、ラジオ放送の内容を語り始めた。

     その昔、招福の神様に仕える白狐が居たと云う。
     神様は人の子が大層お好きだったのか、子どもの姿に身を変じては子ども達に交じって遊ぶことが多々あったらしい。白狐はそんな変わり者の主を呆れた風に、けれどどこか嬉しそうに見守っていたのだとか。
     そんなとき、都から来たと云う商人が訪れた。
     村に招福の神様が居ることを何処ぞから聞きつけて来たらしい。気の良い村人たちは商人を歓迎し、あたたかい飯を食わせ寝床を貸しだしてやった。
     ある晩、商人はするりと寝床から抜け出すと、村総出で手入れをしている社に忍び込み招福の神様を攫ってしまった。商人は高僧から得たという妖しき札や道具を用いて神様を縛り上げると、さっさと村を出て行ってしまう。真っ先に気が付いた白狐が喰らい付こうとするも、これまた不思議な力でねじ伏せられてしまった。
     そうしてかどわかされた神様は商人の家の地下に閉じ込められ、招福の力を利用され続けた結果、人を恨む悪神と堕ち商人たちを巻き込んで滅んだという。
     だが、社から出ることの出来ぬ白狐はそれを知らずに商人を呪い、人を呪い、無力な己を呪って、今もなお神の居なくなった社で牙を剥いていると云う。
    『卑しき人の子たちの喉笛を全て噛み千切らねば、この憎しみ止まらぬと思え』
     何も知らずに訪れた観光客に、凍てる光を受けた爪牙が襲い掛かる――。

    ●Caution
     その村は深い山あいにあると云う。
     この時期は雪が降り注ぎ、常ならば絶景が臨めるらしいのだが、放置していれば都市伝説によって人々の命が危険にさらされてしまう。姫子はその白狐を灼滅してほしいのだと言った。
    「社は……小さな神社なのですが、清掃はされているものの参拝客は殆ど居らず、衰退しているようです。ただ毎晩、せめてもと思い灯籠に灯がともされているのだとか」
     放送によれば、夜半になると白狐は神様がかどわかされた晩を思い出して酷く荒ぶり、社に近付く者を容赦なく排除するという。つまり出現するタイミング、という訳だ。
     その村に実際、招福の神様が居たのか、御使いの白狐が居たのかは分からない。しかし村が閉鎖的で「それらしい」雰囲気であるのは否めないものの、飛び交う憶測や噂によって白狐が実現してしまったのは紛れもない事実だ。
     白狐は、恐らく獣の爪牙などで攻撃を仕掛けてくると思われる。敵は一体のみだが、その恩讐は凄まじいものとなろう。
    「ただ、これらは放送内で得た情報のため、予知ではないのです。可能性は低いと思われますが、万が一にも予測を上回る能力を持つ場合があるやもしれません」
     その点は気をつけてほしい、と姫子は真剣な眼差しで注意を促した。
     今回、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査によって、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止めることが出来た。その情報を得る事ができるようになった事は大きい。
    「どうか皆さん、くれぐれもお気を付け下さいね。……それから、もし無事に灼滅できたら、雪景色を楽しんで来られてください」
     きっと、美しいはずですから。姫子はそっと微笑んで、低頭した。


    参加者
    勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    峰・清香(高校生ファイアブラッド・d01705)
    片倉・光影(風刃義侠・d11798)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    哭神・百舌鳥(百声の演者・d33397)
    七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)
    月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)

    ■リプレイ

    ●祈火
     朱色の木灯籠に最後の火を灯すと、村人たちは社に繋がる階段を仰ぐように手を合わせた。白くけぶる呼気を祈りに揺らし熱心に拝んでいる。
     手にした提灯の火が鎮守の森に消えていき、その姿が見えなくなったのを竹林の影から盗み見ていた灼滅者たちは、忍び足で表に踏み出した。
    「……非道い話もあったものね」
     七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)は霊犬の蒼生が、はふはふと尻尾を揺らして階段を登っていくのを眺めながら、どこか嘆息するように口を開いた。ともすれば雪に吸い込まれてしまいそうなその言葉は、しかし隣を歩んでいた月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)に届く。
    「人を憎む気持ちもわかりますが……せめて、少しでも怒りを鎮めたいです……」
     その優しげな言葉に、哭神・百舌鳥(百声の演者・d33397)は口元をゆるりと和らげた。そのまま降り積もる雪に溶けて消えてしまうのではないかと思えるほどに白い膚に、凍てた柔らかな髪がくすぐっていく。
     次第に眼下に臨む形になっていく村に暖かな灯がともるのを、峰・清香(高校生ファイアブラッド・d01705)が横目に見ている。
     そうして死んだ風の中、どこか小気味良い音を立てて踏み固められていく雪の音の奥で、霊犬のティンと共に駆け登っていく桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)の腰に提げられたランタンが左右に揺れていたのが、ぴたりと止まる。次いで歩みを止めた片倉・光影(風刃義侠・d11798)の広い背中を見つけ、その意味を解した百舌鳥は、か細く呼気を洩らした。
    「それじゃあ、語ろうか――」
     雪を降らせ人々を凍らせる、女の話を。

    ●供心
     風宮・壱(ブザービーター・d00909)は両耳に人差し指を突っ込んで、知らん顔をしていた。
     それはウィングキャットのきなこが、目測を誤って一番深い雪上に四肢を広げたモモンガのような形でボスリと落下しても、気が付かないくらいだ。
     百舌鳥は、そんなことはお構いなしとばかりに声音に色を含ませ、するすると淀みなく百物語を語っていく。片方だけ指を引き抜いた壱は、彼が息継ぎするのを見計らって、
    「なあ、その話怖い? オチ怖い?」
     と問うたが、百舌鳥は灰の眸を悪戯っぽく細めただけですぐに続きを再開する。
     そんな彼らの姿に微笑を浮かべた勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)は「ふぉぉぉぉ」と総身を震わせてガチガチに固まったきなこを雪から抱き上げると、腕でくるむようにあたためてやった。ピンとヒゲを伸ばしていたきなこではあったものの、みをきが腕に引っ掛けていた袋を上から覗きこむようにスンスン鼻を鳴らしてみせる。
    「これはお供え物ですよ」
     ふわり、と宙に浮いたきなことビハインドを連れて、小さな社へと歩み寄っていく。
     みをきが賽銭箱の奥へ袋から取り出した稲荷寿司をお供えすると、壱が駆けつけてきた。どうやら百物語は結末を迎えたらしいことが窺える。にこりと笑いあうと、みをきと壱は並んで手を合わせた。背後では清香や光影たちが、細く息を零しながら見守っている。
     黒糖で煮られた揚げは常のものより僅かに色濃く、香ばしい甘さに包まれた寿司飯は胡麻が効いた自信作。一目見て上等なものだと判断したのか、きなこが前足を伸ばしてちょっかいを掛けようとしている。
    「きなこ、お供え物だからダメだよ」
     片目を開けて壱が注意すると、きなこはフンスと鼻を鳴らしてふよふよ飛び立った。
     そうして暫し。
    (「此処は寂しくて哀しい場ですね。そう云った想いを抱いて噂は成長したのでしょう……遣り切れない恨み辛みを負わせてしまった事、謝ります」)
     瞼の裏に、先ほど目にした村人たちの祈る姿が思い起こされた。小さく背を丸めた老体の、なんと悲しいことか。
    『その祈り――主様に届くと、そう思いあがるのか』
     鼓膜を揺らしたのは、喉元からせり上がってくる怒りを砕き殺すような、怨嗟の唸り。

    ●怨鎖
     ズン、と腹の底から揺さぶられるような激しい咆哮は、まるで慟哭のようにも思えるほどに、心の深いところを刺していく。
     それまで静かに仲間たちの様子を見守っていた光影は、社の奥から躍り出たその巨体の獣を前にして僅かに目を瞠らせた。大地に降り注ぐ雪片を身に纏ったかのように白く美しい毛並をしたその獣。身の丈が社ほどもあったのだ。
     シャン、と場に似つかわしい神々しいまでの音が転がった。
     見やれば笠を被り僧服姿の木乃葉が、手にした錫杖の石突部を地面に突き立てている。それはサウンドシャッターを展開した仕草であった。
    「真風招来!」
     獣――白狐が牙を剥いてすぐさま喰らい付こうと、前足を持ち上げ地を蹴った。
    「噂か真実かどうかは知らないが、荒ぶる神霊を鎮めるも巫者の務め、厄災は断ち切ってみせるぜ!」
     瞬間、光影は開放を叫ぶとライドキャリバーの神風を呼び出し、轟音を立てて境内にエンジン音を響かせる神風の傍ら、自身のエネルギー障壁を展開し始める。
    「狩ったり狩られたりしようか」
     その障壁を、スレイヤーカードを解放しブラッディクルセイドソードを構える清香に与えると、守りを固めたところへ牙が襲い掛かった。
    「ラジオウェーブとやらが直接生み出した都市伝説、どれほどか見せてもらうとしよう」
     だが、清香はその苛烈な牙を掻い潜るように身を小さくして回避すると、右足を軸にしてくるりと身を反転させ、切っ先を一気に振り払う。放たれた破邪の白光を放つ斬撃は、獣の胴を斬り付け恩讐にまみれた朱い血を雪上に咲かせる。
    『ぐぬぅ……』
     流れ出る己の血を忌々しそうに白狐は目を細める。その隙に木乃葉が前衛へ――まずは己の片腕を半獣化させ始めた紅音へとシールドリングを放つと、先に百舌鳥が動いた。
     彼はダイダロスベルトを翻すと獣の前足を狙って射出した。貫かれた痛みに咆哮が上がれば、頭上の耳をピンと立てて真っ赤な眸を敵へと注ぐ紅音が、幻狼銀爪撃の一撃を叩き込む。
     身を傾けさせた白狐の背後から、追い打ちをかけるように蒼生が斬り捨てると、ようやく半身が雪に崩れ落ちた。そこへ眼前へと躍り出た夕月が、体いっぱいに鬼神変を叩き込む。息つく暇もない連撃だった。
    「神様が好きだったっていう人間を、神様を好きだった白狐さんが傷付けるのは駄目」
     振り下ろした腕を持ち上げ、頬に掛かる黒髪を耳にかけながら夕月が零す。それは彼女なりのわがままであって、今回の原動力でもあった。
     ここに来るまで、調べてみたのだ。今回の都市伝説に似た民話が無いか。
     ハッピーエンドは、ないのか。
     それは紅音も同じであった。時間が許すだけ図書館で調べてみた。「多少なりとも、信頼を築ければいいけど」というのは彼女の言だ。総てのいのちには等しく『尊厳』があると考えている。だから『ヒト』の理不尽に振り回された神様と白狐に共感していた。
     此処にいる灼滅者たちがどのような思いで居るか、白狐はきっと知らないだろう。
     突如、四本に分かれた尾のそれぞれに朱い焔を宿した獣は恐ろしく素早い動きで身を起こし前進すると、その迫力に身構える前衛たちの躯体を大気に打ちつけるように薙ぎ払った。
     曇天を貫くような燃える炎を巻き上げ、肉体を打つ強烈さに小さな呻き声があちらこちらから漏れ出てくる。
    「兄さん!」
     ビハインドの名を呼ばい駆け出したみをきに呼応するかのように、淡い色をした羽織の裾をなびかせた彼がするりと脇を抜けていく。白銀の世界で眩く煌めくその流星は、白狐の後ろ足で炸裂すると、もう片方を霊撃が撃ち抜いた。
    「負の連鎖は紡がせはしません、ここで終わらせます」
     飛び蹴りから地面に着地したみをきは、こちらを見返る獣の頭部に露草色の瞳を向けてそう、断言する。白狐は鼻の皺を深くさせた。
    「ここの神様を人間が奪ってゴメンな」
     ぺたん、と下半身を地面に伏した獣に別方向から声が掛かる。
     金色の眸を滑らせ捉えたのは、眉を下げた表情を浮かべる壱だった。右手には、供えた稲荷寿司を前足で抱き締めているきなこがぶら下がっている。
    「でもこの灯篭の明かりは、ここの神様の居場所を守りたいって人たちの思いだよ」
     ちらと後方を見返るその視線に、白狐の双眸もつられてあとを追う。
     大きな朱色の鳥居の奥で、ちらちらとか細い灯りが揺れている。
    「それはきっと狐が神様を慕う気持ちと一緒じゃないかな」
     壱が白狐と向き合って説得を試みる中、ディンと神風が回復を試みていた。
     なるべく刺激せぬように、ゆっくりと噛んで含めるように言葉を選ぶ。だが、それでも獣の眸から怨みの炎がやわらぐことはない。
    『人の子が憎い。主様を利用し傷付けるだけの人の子の醜さを、我は地獄の底から憎み続けよう』
     そうでなければ、我はもう己を保てぬ――。
     それは、もしかしたら願望が作りだした幻聴だったのかもしれない。そうであれば良いと、悲しい結末で終わらせたくないと強く願う、自分たちのエゴにも似た幻想。
     しかし壱の心は決まっていた。
     彼は唇を引き結ぶときなこを宙に放り、駆け出した。何て扱いだとフンフン鳴くきなこは、壱が巨体に向かって手加減を含む攻撃で牽制するように立ち回る姿を見て、小さく肩を落とした。やれ仕方ないとばかりに、傷付いた味方への回復に回れば、武器を持ちかえた清香の蛇咬斬と、光影のワイドガードを受けた百舌鳥の影喰らいが白狐を喰らい尽くしていく。
     淀む影に呑みこまれる獣はグルグルと咽を慣らし、引き裂くように前足の爪で眼前を引き裂く。大気を揺らす巨大な爪に小さく息を呑んだのは、制約の弾丸を撃ち出そうとしていた紅音だった。
     だが、その鋭く怨嗟に研ぎ澄まされた爪が彼女の躯体を引き裂く直前、間に割って入った神風が攻撃を庇い受けてくれた。神風はそのまま突撃し獣の巨体を突き上げると、敵の範囲内から退避する。その姿を見やり、指輪の四葉の石の部分を撫でて紅緋の光条を撃ち出した紅音の一撃が白狐の顔面を直撃。
    『ギャッ』
     短く呻き、前足で目を覆い隠すように立ち上がった白狐は、ギロリと灼滅者たちを睨め付けると、再び焔の尾でこちらを叩きつけてくる。全ての雪をも溶かす苛烈な炎が、身をくるみ、熱さ越しにその恩讐の念が伝わってくるようだった。
    「貴方の仕えた神様の好きだった子供達の子孫……その子達が、今尚灯りを毎晩灯しています。商人を許せとは言いません……しかし、いなくなってさえ村の人達が神様を思ってるように、昔のように罪のない人を愛すことは出来ないですか!?」
     錫杖を突き立て、前衛たちに清めの風を放つ木乃葉の悲痛な叫びに、獣の咆哮が折り重なる。慌ただしく回復に走る蒼生とディンを横目に、夕月は敵の脚を狙ってレイザースラストを射出し、的確に四肢を絡め取っていく。
    (「それがただの噂話だったとしても、この結末は悲しいよね」)
     夕月は尖烈のドグマスパイクで立ち向かうみをきと、それに追従するビハインドたちを見送り、眼前で散る攻撃の火花に目を細めると眦を下げて目を眇める。
     放送では、神様も人を恨む悪神に堕ちたと言っていた。それを知れば白狐の怒りは二度と収まらないだろう。
     みをきたちと入れ替わるように飛来したきなこは、天高く稲荷寿司を放り投げるとフーッと短く息を吐き、
    「ニャンッ!」
     バチーーンッと狐の横っ面を張り倒した。そして天から落ちてくる稲荷寿司を前足でキャッチ。
     自分よりうんと小さな猫にビンタされたのがよほど据えかねたのか、白狐はグワッと大口を開けるときなこを喰らい尽くそうと身を乗り出した。
     刹那――。
    「ねえ、聞いて」
     夕月の静止に獣は止まらない。血濡れた牙が小さな肉を狙っている。加速する獰猛さが眼前に迫り、きなこの双眸が見開かれる。退避しようと身を翻し、咄嗟に壱が地面を蹴った、その時だ。
    「神様は今、眠ってるんだよ」
     瞬間、世界が静止する。
     金色の眸が、夕月を捉えた。
    「招福の神様は、大好きな人間のお願いを聞いてあげてたでしょう? そのせいで、ちょっと疲れてしまったの。だから、ここじゃないどこかで、眠ってるんだよ」
     怨むのも、きっと体力の要る行為だっただろう。そうでなければ、眼前の白狐は立っていられないのではないか。決して真実は口に出来ない。
     ラジオ放送が真実でないのならば、ハッピーエンドを作ったって良いではないか。
    「ここに帰ってくるためにね、今お休みしてるんだよ。きっとこんなこと神様も望んでないよ」
    『それは、まことか?』
     迷子になった、こどものような声だった。
     それを耳にした刹那、壱は踏み出した。引き延ばしては白狐の為にならぬと思った。だから――。
    「もう、終わりにしようね」
     その優しい一撃は、主を求む白狐の一縷の望みを結ぶ一手となった。

    ●春来
     ややあって白狐は大地に伏せた。
     あれほど大きな巨体が今はどこか小さくも見える。百舌鳥は一歩前に踏み出すと、掌ほどもある黒い鼻頭にそっと、掌を宛がった。長い睫毛を持ち上げた白狐がこちらを真っ直ぐに射抜く。
    「商人が神様を手計ってしたことは許されることじゃないけど……」
     一度言葉を区切り、その眸を見据えて百舌鳥は言う。
    「狐さんが残った社をずっと綺麗にして大切に守ってきた村人たちの善意を……人間を信じてオレに付いてきてほしい……」
     その視線は彼の心を見透かすようだった。偽りも、建前も全て白日の下にさらされるような。しかし白狐は微かな呼気を零すと、そっと睫毛を伏せる。刹那、白狐の躯体が白い雪に解けるように霧散し始めた。まさか、と短く息を呑んだ灼滅者たちであったが、それは一つ残らず百舌鳥へと吸収されていく。
     そうして彼らは深い安堵の吐息を洩らし、ようやく一段落したのだと実感しその口元に笑みを綻ばせることとなったのだった。

     入口、鳥居の下。
     壱の隣で降り積もる雪を眺めていたみをきは、腕の中でもそもそときなこ用に作った稲荷寿司を頬張るきなこの暖かさを感じながら「俺は暖かい方が好きです」と、小さく呟いた。
    (「雪――…も嫌いではないです」)
     だけど、それでも。
     そんなみをきの姿を横目に見やった壱は、後方で狐の雪だるまを作る百舌鳥や、今回の事件と、これまでの都市伝説との違いを改めて反芻している清香、それに少し離れた場所で雪景色を眺めている紅音の横顔から視線を逸らすと、白い息を吐き出した。
    「……早く、帰りましょう。あたたかい家へ」
     そっと手を引くみをきに、柔らかな笑みを見せる。
    (「雪の夜って音が消えるから余計に寂しく思えるよな。でもそれだけじゃないってことも俺は知ってるし、伝えれたらいいな」)
     あの白狐も、これからもっと知っていけば良い。

     境内の隅。古い社の脇で雪を被っていた木から欠片が落ちた。そこから覗いているのは、寒さに負けず花を咲かせる椿であった。

    作者:四季乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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