仲良く一緒にゴール目指して!

    作者:篁みゆ

    ●秋空の元
     マラソン大会は10月31日です。
     マラソン大会は、学園を出発して市街地を走り、井の頭公園を駆け抜け、吉祥寺駅前を通って繁華街を抜け、最後に登り坂を駆け上り学園に戻ってくる全長10キロのコースです。
    「前日は夜更かしをしないようにしてくださいね。楽しみで仕方がなくても、しっかり眠らないと後で辛くなりますから」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)はおっとりと告げて、更に諸注意を続ける。
    「朝食は軽めにしたほうがいいですね。水分補給をこまめに行うのは勿論、風が冷たいですので身体を冷やさないように……走れば暖かくなりますけれども」
     姫子はぱたんとペンギン型ノートを閉じて、皆を見つめる。
    「みなさんを信じていますけれど……周囲の一般の方やお店などには大きな迷惑をかけないように注意しましょう。あと、マラソン大会をエスケープしたり不正を行おうとすると、魔人生徒会の手の者により捕らえられて罰を受けますから、注意してくださいね」
     注意を終えると、姫子は笑顔で集まった一同を見回した。

    ●仲良しマラソン
     マラソンにつきものなのが「ずっと一緒に走ろうね♪」「一緒にゴールしようね♪」という約束。必ずといっていいほど学園のどこかでそんな約束が交わされている。
    「楽しくマラソンできるのなら、それに越したことはありませんよね。勿論、順位を気にするなら別ですけれど」
     姫子は考えるようにして。
     誰しも多かれ少なかれ苦手なことはあるというもの。マラソンが苦手だという者もいるだろう。けれども学校行事とあってはサボるのも簡単ではない。ならば苦手なものが楽しくなるようにしたらどうだろうか。
     誰かと一緒に励まし励まされながら走れば、気分も軽くなる。一緒に走ると約束しながらも、抜け駆けする者がでるのもよく見られる光景だが……それが人間関係に響いても、誰も責任はとってくれないので注意が必要だ。
     友達やクラブの仲間と共にマラソンしながら楽しい話をしたり、親交を深めたりするのもいい。普段と違った状況の中で共に過ごすのも、またい刺激や思い出となる。
     当日は午前10時ごろに学校を出発し、昼過ぎにはゴールという予定が組まれているが、少しくらい遅れても問題無いだろう。ゴールすること自体さえ忘れなければ、ここぞとばかりに親交を深めるのも手だ。
     おあつらえ向きにコースには井の頭公園や商店街なども含まれている。公園で仲良く散歩するのも楽しい。
     緑がいっぱいの散歩道を歩きながら、井の頭池を見ながら。
     紅葉の見頃にはまだ少し早いかもしれないが、少しずつ木々は色を変え始めているだろう。池には水鳥の姿も多く見え、和むことができるに違いない。ただし水質汚染防止のために無闇に餌をやってはいけない。
     友達同士だけではなく、カップルで走るのもよいだろう。お互いをい労り合い、手をつないでゴールなんて素敵。普段は見られない彼氏、彼女の姿が見られたらもっと素敵。
     足をくじいておぶってもらってゴールなんてきっと冷やかされるけれど、女の子は憧れてしまうシチュエーションかもしれない。

    「仲良き事は美しき哉とも言いますからね。競い、お互いを高め合う事も大切ですが、仲良くするのも勿論大切なことだと思います」
     いいとおもいますよ、と姫子は頷いて。
    「健全な魂は、健全な肉体に宿ります。灼滅者の闇堕ちを防ぐ為にも、充実した時間を過ごしましょう」
     ゆっくりと微笑んだ。


    ■リプレイ

    ●一緒に
     秋空のもと、スタートの合図が響く。勢い良く駈け出したのはトップを狙う集団だろうか。だがこれだけの生徒がいれば、順位を気にせずにゆっくり走りたい者もいるわけで。
    (「一緒に走ろうってお願いを受け入れてくれて本当に嬉しい」)
     相手は少し遅れているみたいだけど、楽しみにしているからみとわはドキドキしながら彼を待っている。
     【迷い子】の夢衣は怒涛のスタートダッシュを仲間達と見送りながら、押したらドミノ倒しみたいに倒れてしまいそうだと考える。巻き込まれないよう仲間達と一緒に距離をとって。
    「わーお、人いっぱいだ。はぐれないように気ーつけないとねー」
     それに10キロは長くて走りきれる気がしなかったけれど一人じゃないなら。紫苑が口にすればレイがこくりと頷いて。
    「必ず1番目指す……しなくていい、なら、皆と一緒、ゆっくり行くが良い……思た、よ」
    「ゴールできたらお弁当が待っていますよ」
     年下のメンバーにペースを合わせる九十九がくすくすと笑って告げれば、他のメンバーのやる気が倍増したようだった。
    「やっふぅ~♪」
     見事なスタートダッシュを見せた【井の頭小4薔薇】のベルクティオール。だが3分もしないうちに追いついたクラスメイトが見たものは、青白い顔をしてフラフラの彼女の姿。
    「というかかなりふらふらだけど、ほんと大丈夫?」
     ペースを落として彼女に並走するミルドレット。殿を務める雅弥は他の者より走ることに慣れているから。
    「最初の1キロやそこらはウォーミングアップと思えば良いじゃろう」
     と軽く言うが、ベルクティオールにとってはその1キロすら怪しく。女の子と走るからには良い所を見せたいと思っていた和巳も、そこそこのところで息切れが激しくなってきた。日焼け対策にレインコートを羽織り、カメラを下げた葉蘭はといえば、足元を注意するあまり電柱に激突していた。果たして何人が完走できるのだろうか。
    「俺が一緒に走ってやるからちゃんと完走するんだぞ」
    「ん。そーだねぇ、誰と競うわけでもないから、あの、手、つないでもいい……かな?」
     ドキドキしている芽々とは対照的に、宝児は色気もへったくれもなく快諾して。それでも芽々にとっては十分で、体操服で手をはたいてからそっと手を差し出す。無造作につながれた手が温かい。
    (「……や、やわらけーな」)
     何だろう、ドキドキする。宝児はゴールまでエスコートする気満々だったが、予想外のドキドキにペースがつかめなくなってしまった。このドキドキの正体を、彼は知らない。
    「ゆっくり散歩するつもりで歩いて行くよ、オレは。……走りたかったら置いていってくれ」
     苦笑交じりで告げる玉兎の手を取って、亮(d01847)は早歩きで引いていく。
    「一緒にゴールしないと意味ないでしょー」
    「……う、走るよりマシだけどやっぱり……」
     早歩きでも、玉兎には少し酷らしい。そんな彼に無理はさせられないと思いつつも、亮(d01847)が探すのは萌え。
    「というか、マラソンというもの自体が萌えなのか……!」
     こうやって一緒に走ったりして友情やら恋やら裏切りやらが生まれるわけだ。
    「萌えだね、まさしく! どう思う、玉兎!」
    「亮(d01847)の萌えの範囲は何処まで広いんだ!」
     条件反射で突っ込みを入れるくらいには、まだ体力は残っているらしい。
    「かったるい行事っすね。蒼桜さんは走るの得意っすか? 自分はまあ、ぶどうの手入れで体力つけてきた方っすけど」
    「うん、面倒な行事だよね。ギィくんにできるだけ後れない様に頑張るよ」
     足は挫くと大変だから無理はしないでいくつもりだけどと付け加えた蒼桜に、ギィは無理せずにゆっくりいきやしょうかと優しく告げて。
    「次の電柱についたら一休み、そういうのを繰り返して、先へ進んでいくっす。自分が色々話しかけたら、気が紛れないっすかね?」
    「私は多分話をする余裕はないけど、してもらえると楽だと思う」
     まだまだ最初の方だが、既に蒼桜の息は上がり始めていて。
    「いざとなればおんぶしていくっすよ」
     けれども気を遣ってくれた彼の言葉に、背負われるより抱き抱えられる方がいいんだけどなんて考える余裕はまだあった。
    「今日のために走り込みしたんだもん、将真くんには負けないよ!」
     ライバルの将真と競うようにスタートダッシュを決めた京音。競り合うように飛び出して、置いていかれないように頑張るものだから、並走になって。
    「む? 全力で走っているのに並走してくるだと……!? 面白い、流石は俺の好敵手! それでこそ競い合う楽しみがあるというものだ!」
     互いに負けられないと思って走っているはずなのに、二人共何処か楽しそうである。
    「最後まで頑張りましょうね」
    「頑張ろうね」
     咲夜と桜の姉妹は楽しく喋りながらもペースは早く、そのまま悠々と走っていく。
    「ねえ、お兄ちゃん。なんでここにいるの?」
    「んー、まあ、だらだら走ってるんだよ」
     もっと先に行っていると思っていた兄を見つけて怪訝な顔をする朱美。本当は妹が心配でついてきたのだが、丞は絶対に言わない。照れくさいから。
    「あ、サボったらダメなんだよ?」
     軽く怒られた丞はペースアップをするも。
    「わー、まってお兄ちゃん、置いてかないでー」
     慌てたような朱美の声にどっちなんだよと苦笑しつつも妹とペースを合わせる。
    「らんちゃん、僕が一緒だから、がんばろーね♪」
    「……蘭世、頑張って走ります」
     こちらの【天羽三兄妹】も仲良く……仲良く? それにしては桔平と蘭世の後ろを走る梗鼓から妙な殺気が出ているのだが……。
    「ぜーーーったいに、コースからは逸れさせないんだからっ!!」
     二人とも人生の横道には逸れさせないと意気込む梗鼓。桔平も背後からの殺気じみた気を感じている。
    (「もしかして、僕がらんちゃんつれてサボるとか思ってたりして……ぬーっ、そんなことしないのに……」)
    「蘭世、おねえちゃんとも、並んで走りたいです」
     末っ子にそうお願いされては、断れまい。
    「今日はよろしくねっ。一緒にがんばろーっ」
     学園に来て初めてのイベントにわくわくしている【MOONLIGHT MIRAGE】のレイリア。同じくわくわくしている琴葉とよろしくの握手を交わす。
    「これが終わったら皆で温泉で汗を流しましょうか」
    「走った後の温泉は良いな~」
     鏡花の提案に、琴葉の表情も緩む。
    「鬼城さんはマラソンとか得意な方?」
    「運動するのは好きな方ですが、やっぱり疲れますね」
     レイリアの問いに答え、蒼香は運動後の温泉に思いを馳せつつ汗を拭った。鳴海が女性陣の雑談に時々加わりながら思うのは、この楽しさが続けばいいということ。
    「もう少ししたら冬か。その頃も色々あるだろうけど、こんな風に楽しく過ごせたらいいね」
     その言葉に返ってきたのは、皆の笑顔。
    「せ、『世界』の正位置……終わり……そして始まり。終わりはまだ? まだなの?」
     スタミナがなくペース維持が苦手な【吸血研究会】のララは走りながらマラソンの結果を占ったので余計息切れが激しくなり、豊満な胸が余計に揺れる。仲間に置いていかれないように精一杯なアルベルティーヌは出来れば小粋なトークでもと思っていたが、そんな余裕はなさそうだった。
    「頑張ろう? ペース合わせるからね」
    「時間がかかっても良いから、何とかみんなでゴールしようね」
     十分な準備をして臨んだ殊はまだまだ余裕がある。昴は持参した檸檬飴やスポーツドリンクを辛そうな二人に差し出して、部長らしくフォローを心がける。
    「喉が渇いてきた……誰か血ぃ吸わせてくんないかなぁ」
     ぼそっと言った千尋の前に、慌ててスポーツドリンクが差し出された。それを受け取って。
    「アハ、冗談やって。……あたし達ってさ、いろんな意味で普通じゃないやんか」
     千尋の言葉に他の四人は走りながらもそっと耳を傾ける。
    「だからたまには、こうやって普通の学生っぽいことすんのもいいよね」
     辛いかもしれないけれど、それもまたいい経験、いい思い出になるものだ。
     やる気は果てしなく無い。【路地裏談話室】の螢はサボろうとしたのだが妹の彩歌に起こされて渋々と参加している。真面目に走ると1分持つかどうかな彼女にやる気を投入するものがあればいいのだが。
    「……しょうがねぇ。螢、完走したらスイーツバイキング奢ってやるからしっかり走ろうぜ……勿論、彩歌にもな?」
     こんな餌で釣れるなら話は早いのだが。従姉をよく知る悠一は少しでも螢がやる気になればと。
    「10kmもあるんだし頑張らないと」
     そう呟いた彩歌の目の前はちょっとしばしばしていて。競技後に振る舞う予定のお弁当に凝りすぎて寝不足なのだ。
    (「転んでしまったら、優しくしてもらえるかしら」)
     眠気漂う頭でそんな事を考える。邪? 憧れの人に優しくしてもらいたいと思う心は邪ではないだろう。
    「少しペース落とすか」
     彩歌がキツそうなことに気がついた悠一はチラチラと彼女の様子を見ていて。
    (「……いつも無理するからな、彩歌は。俺がちゃんと守ってやらないと」)
     そんな二人の様子を、役得だと思って見守る螢だった。
    「はやくしないと置いてっちゃうよー!」
     元気よく声を上げるのは【ごらきゅー】の悠(d00224)。しかしながらはしゃいで先行していたため、すぐにバテてしまった。
    「悠ねえさま~? がんばって~♪」
    「だ、大丈夫! お姉さんだからっ」
     年少のエミーリアの励ましに年上としての意地を見せようとした悠(d00224)だったが、走り方がまずかったのかバテバテでサマにならないのが残念だ。
    「ちょっと休めへん?」
     見かねた鏡魅が提案し、持参したスポーツドリンクとチョコレートを差し出す。
    「おいしそうなの~♪ ありがとうっ」
     エミーリアが喜んでチョコレートを頬張って。悠(d00224)もスポーツドリンクを飲んで一息。
    「順位なんて気にせーへんし、サボりにならん程度でええよね」
     無理しないことも大切だ。
    「にゃおーん! 一瞬の、かがやき……をもとめるんだよ?」
     六は【暇部】の皆と走るはずだったが、スタート直後にダッシュ! だが100m進んだところでエネルギー切れ。
    「ほら、六ちゃんマラソンなんだからあんまりいそいだらだめよ~」
     夜好がゆっくりと走って、六に追いついて。
    「皆でペース合わせてのんびり行こう」
     と、六を立たせながらジン。するとビデオカメラ片手に岬が駆け寄ってきて、ひょいと六を抱きかかえた。そのまま走るなり歩くなりするつもりらしい。
    「ほらほら皆、ふぁいとあぁいとー♪」
    「カメラでなにとるの……生徒会に目付けられるよ~」
    「……岬さん、カメラ持って、撮影しながら走るの、疲れませんか?」
     岬のカメラに突っ込んだのはメアリと恋羽。だがなんだか恋羽の突っ込みどころがずれているのは気のせいだろうか。そして夜好が更にツッコミを入れる。
    「うちの学校って……男女ともに短パンだよね? なんで岬ちゃんブルマはいてるの?」
     そう、岬はあざといとわかっていてもブルマ姿だった。そんな仲間達のやり取りを走りながら見守りつつジンは考える。あとでこっそりと、お菓子を買ってゴールしたら皆に配ろうかな、と。
    「まさか全学年で同じ距離を走るとは……この距離って普通は一般的な高校男子が走る距離であって、小学生低学年の子が走る距離ではないですよね」
    「……武蔵坂の生徒は灼滅者しかいないから、厳しめ、なのかな?」
    「エクスブレインもいるな」
     なんて一律10kmの設定について考えているのは【ご当地の友】の三人。ついついペースを上げそうになったドロシーを抑えるように三殊が先行してペースを保つ。
    「ご近所のお惣菜のお店の筑前煮が美味しいんですよ」
    「食べたい、な」
    「あの店もよさそうだ。こんどクラブの皆であの店に寄ってみよう!」
     榛名の教えてくれた惣菜屋に思いを馳せたり、道にあった美味しそうなお店に目をつけたり、楽しみながら三人は走っていく。
     全員完走を目指す【井の頭3-C】。早々にぐったりしてしまった朱梨も、ゆっくりでも足だけは止めずに前へ進んで。
    「ゆっくり行きましょう」
    「ほら、秋風が気持ちいいね」
     朱梨を励ます篠は無言で走るのが苦手だからと積極的にクラスメイトに話しかけて。男子体操服に鉢巻き姿の友梨は意識を少しでも別のことにそらせられればと口を開く。
    「大丈夫か?」
    「水飲む?」
     先導していたヴァイスはペースを落とし、笑顔で励ます。一郎は人数分のペットボトルを持ってきていて、その内のひとつを朱梨に差し出した。
    「……何というか篠原の場合、前に想い人の背中が見えていればそれだけで走りきれそうな気もするけど……」
    「え? 勿論好きな人の背中ならどこまでも追いかけられるけど! えへへ、みんなありがとね。ゴールまで頑張ろ!」
     蒼刃の言葉に途端に元気になったような朱梨は笑顔を見せて。その反応を見て蒼刃が少し遠い目をしたものだから、目ざとく突っ込んでいくのはエミーリエ。
    「ひょっとして、また妹のことでも考えてたんじゃない? 本当、妹思いの良いお兄さんね?」
     くすくすくす、笑顔に包まれながらゆっくりと、ゴールを目指して。
    「マラソンから胸を守らなくてはいけません~!!」
     紬の試作したスポーツブラの感想が気になるのは【FoxTale】の面々。
    「どんな感じぃ? 楽そうに見えるわぁ」
    「……やっぱり、つけてるとだいぶ違うわよね」
     夜宵の問にタシュラフェルが胸を見下ろしながら頷いて。美夜子もつられて自分の胸を見る。
    「あ、ぴったりフィットだけど、結構キツメな感じ。……でも揺れ対策されてるから動きやすいかなぁ」
    「ん~……なかなか良い感じですね~」
    「これならお客様にも自信を持ってお勧めできますね」
     紬は反応に手応えを感じ、少々後れてやっと追いついたさなはお店の商品の把握ができてよかったと頷いて。乙女の悩みを解消する商品が店頭に並ぶのも近いかもしれない。
    (「眠い」)
     欠伸を噛み殺しもしない【ゆっくり走りたい…。】のましろ。自分以外は女子ばかりだから、ペースを合わせて走れば問題なくゴ~ルできるかななんて考えて。
    「まあ……みんなとお喋りしながらならきっと10キロもあっという間……うん。あっという間……あっという間……」
     呪文のように唱えるのは志摩子。本当は何か理由をつけて欠席したかったけれど。
    「みんなと、一緒に……」
     二人に少し遅れるようにして千早は精一杯走る。ちょっと遅れ気味になってしまい申し訳ないけれど。それでも二人は千早をおいて行ったりしない。皆で一緒にゴールしようって約束したから。

    ●二人でも、三人でも、何人でも
     東京の町並みをじっくり見たら、迷子にならないようにと陽向は白兎の手をとって。二人でゆっくりと走る。写真もいっぱい撮ろうねって約束したから、街並みを始めとして色々なところで記念撮影。
    (「こっそり……です」)
     白兎は陽向を隠し撮り。幸い彼は気がついていないようだ。
    「この辺でもう一枚撮ろうか?」
    「はい」
     自分撮りの要領で二人寄り添ってカメラを構えて笑顔でピース。はい、ちーず。
    (「何だかんだ言ってもケイトは中学生の女の子だからなー。折角だからペース合わせてちょっとのんびり走ろ……」)
    「ねえエル、あそこの電柱からあっちの三本先の電柱まで、本気で走って何人抜けるか競争しようよ」
    「えっ、競争!?」
     慧杜の思いもかけぬ提案に、エルメンガルドは目を見開いて。と、驚いている間に慧杜は準備を整えて。
    「よーい、どんっ!」
     ペースは崩れるけど、こんなのもちょっとはいいんじゃないかなと思って。駈け出した彼女をエルメンガルドは追いかける。思ったより早い。置いていかれそうだ。
    「ひー、しんどい」
     息切れしつつも競争を終えた二人は顔を見合わせて、笑った。
     見えてきたのは見知った背中。「はろー?」と声をかければ、やっぱり正解。キティに声を掛けられた水華は落ちていたペースをもう少し落として。見えてきた顔に安心して気が楽になる。
    「真面目にトップ狙いしてるんじゃなかったっけー?」
    「……今は少しペースを調整中だ。悪かったな調整が下手で」
     なんだかんだで水華が一生懸命なのはいつものコトだけど、とキティはちょっと笑って。しばらく軽く雑談になった。
    「それじゃ、そろそろ俺は行く……いい息抜きになった」
    「ほいほい、あとでおやつよろしくね~」
     ペースを上げていく水華の背中を見ながら、キティは自分のペースを取り戻していく。
    「うぉっと!? 朔夜、大丈夫か?」
    「だ、大丈夫で……痛っ」
     一緒に走っていた朔夜が突然視界から消えて、驚いた烈斗は足を止める。どうやら彼女は足を挫いてしまったようだ。
    「……仕方ないな、ほら」
    「うーっ、ありがとうございます」
     差し出された広い背中に朔夜は素直におぶさって。二人共思い出すのは幼かった日々。
    「こうしていると昔のこと思い出すよな。昔は俺が背負われていた方だったなぁ」
    「今では逆っていうのが悔しいです。次は私が背負います!」
    「……どうした? 脈早くなったぞ。微妙に体温も上がっているようだし。痛いか?」
     振り返って顔を見られると、更に体温が上がる気がする。
    「えと、これはその……たぶん風邪です」
    「風邪か、大丈夫か? 早く行かないとな」
     周りの視線など気にせずに、烈斗は朔夜をおぶったまま歩いて行く。
    「……」
     お菓子をくれないからと拗ねて無言で走っていた深紅だったが、疲れてきたので隣を走る鷹之の手に手を伸ばして。
    「ん、どうした。疲れたのか? それじゃ走りにくくねーのか……いや、別に嫌とかじゃなくて、全く」
    (「……ドキドキしてくれるかなー……きっとしないんだろうけれど、でも一緒に走れるのは嬉しい」)
    (「落ち着け俺、これは保護者的感情だ。やましいことなんて何もないぞ」)
     それぞれの思いを抱いて二人は走っていく。来年もこうして走れますように。
    「……ってあれ、陽菜ちゃん!?」
     転んだ音がしてミルミが振り向けば、一緒に走ってた陽菜が倒れていて。うるうるおめめでミルミを見上げている。
    「私に構わず、おねーちゃんは優勝目指してがんばる、の……ふぁいっ!」
    「何を言ってるんですか! 陽菜ちゃんを置いていったら、いくら記録が良くても全然嬉しくありません!」
     泣かないようにと堪えて拳を作った陽菜は、ミルミが駆け寄ってきてくれたことが嬉しくて。お姫様抱っこをされてぎゅっと抱きついた。
    「ほとんど歩きになりますが、のんびりするのも良いのです♪」
     ゾルタンくんは運動得意そうだよね――なんて明るくしゃべっていた都々だったが、しばらくしてぐったりとして。一緒に走っていたゾルタンはほれみたことかと溜息をついた。
    「おんぶしてー! もう走れないー!」
    「都々お前喋り過ぎだろ。絶対。ほれ、乗りな」
     仲良くなんて柄じゃないとため息つきつつもたまにはこういうのもイイかもなと思って。
    「後で何か奢れよ?」
     付け加えるのも忘れない。
    「ほらほら忍尽さん、こっちだよ!」
     普段はこんなことないから一緒に走れるのが嬉しくて、つい手を引きながら彼の顔ばかり見ていた柚里。だからほんの一瞬何かに躓いたことに気づくより先に、何かに包まれて宙に浮いた感覚が。きょとんとして見れば、すごく近くに忍尽の顔があって。
    「はっ! し、しまったでござる。いつもの癖が……」
     忍尽の役目は主人を不測の事態から守ること。だからある意味これは正しいのであるが、今日はマラソン大会である。慌てて柚里を下ろそうとするも、彼は忍尽のスゴ技に感動してぎゅっと抱きついたままで。
    「……いいでござるか? 今主殿は足を捻ったのでござる。だから拙者がゴールまでお連れ申す」
     我ながらおかしな言い訳だと思うけれど、主が幸せそうならそれが一番いいのかもしれない。
     走ることは慣れていないから新鮮で楽しい気がする。きっと隣にいてくれる人が在るからなんだろう。
    「ちょっと苦しい?」
    「露は大丈夫です……けれど、文くんは……」
     露に問うた文乃の方が顔色が良くない気がする。
    「楽しいね」
     苦しいけど、楽しい。笑顔が歪んで見えなかったかだけは心配だけれど。
    「無理しないでね」
     辛いようならのんびり歩こう。この時間が少しでも長く続くのも、嬉しいから。
     運動は嫌いだけど、一緒に走ってくれるって言うから頑張りたい――頑張って走るかえでの半歩後ろを紘疾はかえでのペースに合わせて走る。
    「ひろ君、あと1キロ走れたら、自分にご褒美、パフェ、食べに行こう」
    「ん? パフェ? 良いね、それ、んじゃ、目標目指して頑張ろうぜ」
     1キロごとにご褒美を増やしていく作戦で走り切ろうとかえでは決心する。何としても、一緒に完走したいから。
    「修斗は走るのは好きか?」
    「そうですね、祐也さんが呼ぶのでしたら走って駆けつけますね?」
     純粋な興味で尋ねたのだが一手間挟んだ返事をもらって赤くなる祐也。ごまかすようにもう疲れたと呟いて。
    「抱っこしてもらいたい……」
    「俺はそうしたいのは山々なのですが……」
     せめて手をつないで、これから先も頑張ろう。
     誘ったのは自分だが……誘った相手は妙に早かった。悠二郎はしっぽがぱたぱたしてそうな律の背中を見て声をかける。
    「おいりっく……律、そんなに飛ばして後でバテても知らないぞ?」
    「ゆー兄はペース遅めで行くのかな? なるほど、最後の坂でラストスパートを掛けるつもりなんだね!」
     正直そんなつもりではなかったが待ってくれなんて口には出したくない。メガネを整えて、ちょっと本気を出す準備。
    「最後にさらりと追い抜く方が、カッコいいだろう?」
    (「なんだろこの壁……」)
     一緒に走っているはずの壱伊の鋭い言葉に既に心折れそうなレオノールだったが、隣に並ぼうと少しだけペースを落としてゆるりと笑顔。
    「壱伊ちゃん、俺が引っ張りますので一緒にゴールしましょう!」
    「……触んなバーカ。ふざけんなゆるゆる金髪やろー」
     なんて言いつつも、壱伊はそこまで退屈じゃないなと思っている。決して金髪野郎のおかげなんかじゃないと言い張るけれど。
    「夏奈ちゃん、スポーツドリンク飲む?」
    「わーありがと♪ 丁度のど渇いてたんだよ」
     【武蔵坂HC】の織姫はスポーツドリンクを差し出して。それを受け取った夏奈は持参したクッキーを出した。
    「クッキーたくさん作って来たから、どんどん食べて食べて~」
    「夏奈ちゃんのクッキーでパワー100倍!」
     にっこりと微笑み合って、二人は足を進める。
    「ねぇ……疲れたからおんぶして?」
    「なんで俺だけそんなハードな事しなきゃなんねぇんだよ!」
     軽い冗談を言っただけなのだが、樂はスクイの頭をぺしんと平手打ち。
    「てっ……何すんのさー!」
     後ろから追ってくる声には振り返らずに樂は笑みを零す。スクイも文句言いつついい思い出にはなったかなと心の中で呟いた。
    「だれかーーーーー!!?!?!?!? ロンリーでソロなクルセイダーな魔砲少女と一緒に走ってくれる方いませんかー?」
    「ゴールまで一緒に走らぬか!?」
     叫んでいる璃理に思い切って声を掛けたのは朱里。それを偶然見ていたナイトがさささっと近寄ってくる。
    「御嬢さん達、俺と一緒に走らない?」
     おひとりさま同士、偶然出会えたのも何かの縁。共に走るのもいいだろう。

    ●青空の下
     井の頭公園付近一般の利用客に混ざり、学園の生徒達が多数憩いの場として利用していた。
    「つむぎ、つむぎ。少し寄り道をしていこうよ」
     いばらが指した先にはおあつらえ向きの井の頭公園。つむぎは繋いだ手をきゅっと握りしめて頷いて。
    「少しくらいデートをしたって良いでしょう?」
    「デート、ね」
     言葉にするとちょっとくすぐったい。けれどもゆったり進むのは心地よくて。
    「紅葉したらまた来ようか」
    「今度はお弁当を持って、また来ようね」
     大切な約束をひとつ交わして。
     早く早くと手を振る藍に追いつくと、そっと手が差し出されて。驚きながらも華凛はその手を取って。
    「あ、これ綺麗じゃないですか?」
     綺麗な落ち葉を見つけて差し出そうとすれば、目の前には落ち葉が。
    「これ、華凛にあげます。最後まで走れるようにって願掛けです」
     交換する落ち葉は同じ思い出。ふわふわした気分。
    「そろそろ公園が見えてきたな。狂夜もお腹が空いてきたようだし、休憩して腹ごしらえしようか」
    「……お腹すいた」
     枷織の言葉に同調するように狂夜が呟く。すると陸は何処からともなくバナナジュースを取り出して。
    「クルヤ大丈夫か? 今はこれで我慢してくれ。はちみつたっぷりバナナジュースだ」
    「くるちゃんはお腹が空いちゃったのかな? えっと、飴とチョコならあるけど食べる?」
     黒雛の差し出したチョコと陸にもらったバナナジュースを、狂夜は満足そうに頬張って。はぐれるといけないので、公園で少し休憩。
    「あ……」
     立ち止まったことで疲れが一気にきたのか、黒雛はその場でばたんきゅー。ついていけるか心配だったけれど、やっぱりダメだったみたい。そっと、陸が冷えないように黒雛に上着をかけて。
    「黒雛、疲れてるなら手を引いてあげるよ。あと一息一緒に頑張ろう」
     優しく声を掛けたのは枷織。黒雛はこくんと頷いて、横になったまま流空を見やる。
    「るーちゃんは大丈夫? 水分補給はちゃんとしようね」
    「はい、るーくん。くくく、この俺のダークインフェルノに焼かれてしまった哀れな鳥を食すがいい」
     いつの間にかお弁当を確保していた狂夜にも唐揚げを差し出されて、流空はぼそり、呟いた。
    「いつものことだけど、うちの兄姉すごく互いに甘いよね……」
     自分はいつも走り込んでいるから心配いらないのだけど。でも、ここは甘えておこうと思い直して。
    「ありがとう、兄さん姉さん」
     先輩達に遅れないようにと頑張って走るのは【bonheur*】の火蜜。
    「ん……待っていて下さいセンパイ、すぐに、追いつきます……!」
     宣言通り懸命に走って公園入口で合流して。そっと隣に近づいた柚姫は優しく声をかける。
    「木も色付いてきましたね」
    「実物を見るのは初めてなんです」
     見入るようにゆっくりとした歩調になった火蜜に、皆合わせて。
    「あ、あそこの池に水鳥さんの姿が……! ふふ、和みますね~」
    「本当ね、たまにはこういうのも良いわね」
     柚姫の指した先を見て、エリスティアは微笑んで。ゆったりと、景色を眺めながら進んでいく。
    「そろそろ行きましょうか? 怒られない程度に」
     皆がゆっくりと歩いていた間、辺りを気にしていた染が切り出す。ペースを合わせながら一緒に走りだそう。
    「いのりも、日曜日には早起きしてテレビをみるのよ!」
    「妾もじゃ」
     日曜朝のテレビ番組の話に花を咲かせる【リトル・プリンセス】の祈とイルル。少し年長である揺は若干生ぬるい目でそれを見つめて。
    「紅葉綺麗なのー!」
     と、話題は紅葉へと移ったようで。
    「銀杏はくっさーいから見えたら避けるの!」
    「うむ、そうじゃの!」
     銀杏を避けて、綺麗な落ち葉を拾って。それぞれポケットに入れてお土産兼今日の思い出に。この先も、無理せずマイペースで行きましょう!
    「待つアル!」
     ちょっと置いてかれそうになって、慌てて先に行く二人を追いかけたのは狐面をかぶった【散策同好会】の亮(06168)。追いついた先は何故か駄菓子屋で。カミラとサシャは思い思いに駄菓子を手に取っている。
    「お面、暑くないのー?」
    「大丈夫アル! それ、食べるアルか?」
     サシャの手にはにんじんポンポン。カミラの手にはふ菓子と笛ラムネ。分けあって食べれば、いつもの何倍も美味しくて。
    「ふがしあまいおいしいー! 笛ラムネはぴーぴー吹きながら走るとちょっと疲れちゃうねー……」
     公園で一休みして、また走りだそう。
    「あ、見えてきたね」
     【爪紅庵】の朝乃が公園に駆け寄る。少し休憩ね、と雪凪は冷たいお茶を皆に配って。
    「水分補給はしっかりしましょうね」
     お茶をいただきながら、自然を眺めて目にも足にも癒しを。
    「うーん……コセイも一緒に走れたら楽しかったのに……」
     悠花は霊犬と共に走れなかったのが残念で仕方ないようだが、学校行事だし仕方ないと思い直して景色を楽しむことにする。サーヴァントと走れなくて寂しいのは、仲間達も同じようだ。
     辺りにある商店街やコンビニすら珍しくてキョロキョロしていた薫は、公園内の人通りの多さにも驚いて。
    「にぎやかなのが一番ですね」
     紅葉の盛りではないのが残念だけれど、こうして仲間と共に過ごす時間を持てるのが幸せ。
    「手、出して」
     朝乃の声にそれぞれ反応すれば、コロンと乗せられたのはチョコ。
    「えへへ、糖分補給も大事だもんね」
     皆で同じ味を共有だ。
    「2人とも大丈夫? 少し休憩しましょうか?」
     公園に着くまでに既にバテバテの小1二人を見て、【彩結び】の春香は休憩を提案する。彼女たちのペースに合わせて走っていた織緒は、それを快諾して。
    「こんなに走ったのははじめてだからちょっとつかれたのね」
    「さすがに休憩しないと持たないのです」
     立ち止まって、座り込んだ姫璃と愛姫。ほら、と織緒はスポーツ飲料を手渡して。
    「用意がいいのね」
     春香も差し出されたスポーツ飲料を口に含んで、みんなでちょっと休憩。まだまだゴールまで長い道のりが残っているけれど、もう一度頑張ろうという気になってくる。
     いつの間にかイガ栗戦争が始まっていた。【HEROES】のガムが特訓という名目で投げ始めたのだ。だが仲間達もただ投げつけられるばかりではない。星空は隠し持っていたバットで栗を打ち返し、あきらは「秋ならではデスねー」と飛来する栗を構えて秋を『楽しんで』いる。
    「お返しです」
     怪我をさせないように配慮して迷子はちょんと栗を投げ返し、貫(d02062)は誰も怪我をしないようにと目を光らせながら呆れたように呟く。
    「僕らは楽しみに来たのであって。……栗投げ合いに来たんじゃないんだけど」
     いつもならヒョコも栗の投げ合いに参加するところだが、今は流石にバテバテでそんな余裕はなくて。さくらえも同じくへろへろだ。
    「……モルダバイトさんも皆も、みんな……どれだけ体力あるのさ……」
     ご当地愛故にタタライガーとして鎧のフル装備で走る小鳩の体力も底知れない。意気込みだけは「がんばるにゃ~」という夜兎は、体力はあるが根性が足りないらしい。
     他の人に迷惑をかけないように気を使いつつも、一同からは楽しそうな笑い声が聞こえていた。
    (「ベンチの下で動く毛玉……?」)
     守貴が見つけたのは子猫。首輪もないし野良のようだ。思わず抱き上げると、背後から聞き覚えのある声が聞こえて。
    「お前、何サボってんだよ」
    「みゃあ」
     守貴に近寄った尋は、彼女の腕の中から顔を出した子猫に驚いて、一瞬思考が停止してしまった。マラソン途中で猫拾うとかありえねぇと思いつつ問う。
    「どうするんだ、それ?」
    「別におまえには関係ないことだ」
     決して仲がいいとはいえない二人。いつもながらの態度で走って行ってしまった守貴を追いかけて、尋は呟く。
    「ったく、どうする気なんだか……」
     公園に入ったところで希紗は水筒を取り出した。バテバテなのだ。
    「少し休もうよ~!」
    「分かったよ! 先は長いからね~」
     結衣奈も足を止めて水分補給だ。と思ったら、希紗の興味は別の所に行っていて。
    「あ! 結衣奈ちゃん、鳩がいるよ! 鳩!」
    「鳩さんいっぱいいるね~、ってぇ! ま、待ってぇ!」
     さっきまで疲れてぐったりしていたのを忘れて鳩を追い掛け回す希紗に、結衣奈は目を丸くした。
    (「目が合った気がす、る?」)
     誰と? 前方から歩いてくる散歩中の犬と。英太は駆け寄ってきた犬に足を止めて。カヤもしゃがみ込んで犬をわしわし。
    「オマエ人懐っこいなー」
    「かわいいわんちゃんですね」
     飼い主に声を駆けて英太も毛並みを撫でて。動物と触れ合っていると、時間を忘れそうになる。
    「ちょ! 英太くんやばい! 英太くん時間やばい!」
    「……わ、本当だ。怒られないうちに、急ごうか」
     思いのほか長く遊びすぎていた。飼い主にお礼を言って、二人は再び走りだす。
     お揃いのリストバンドをしているのは【6年薔薇組】。散歩道で少しペースを落として。
    「秋らしい季節になったものだな。この景色も、眺めながら走ると楽しいものだ」
    「ええ、街路樹の葉っぱが色付いていてとても綺麗」
     デルタと栞那が木々を見上げている。アルヴァレスもつられるようにして見上げる。
    「木々も色が変わり始めて冬支度を始めたみたいですね」
     ついつい足を止めて景色に見入ってしまったメルヴィは、仲間と距離があいてしまったことに気がついて。走り寄った。
    「……あ、待ってください今行くのです!」
     落ち葉と団栗拾いを楽しんでいるのは【井の頭小5蓮組】。持って帰るなら綺麗なのがいいから、一生懸命物色して。
    「銀杏の身には気をつけてくださいね。葉っぱは綺麗なのになー」
     さすがにあの匂いは勘弁願いたいとディートリヒは注意深く。
    「銀杏は匂いがアレだけど食べると美味いんだよなー。あ、綺麗なのあったぞ!」
     健は落ちていた綺麗な団栗を沢山拾って。月夜もユナも拾った落ち葉を持ち寄って、見せっこだ。
    「この落ち葉は小さくて可愛い♪ こっちのは形が綺麗♪」
    「これ、あとで栞にしよっと」
     これも今日の大切な思い出。
    「暦の上じゃもう秋も終わりですよ。寒くなるなぁ……」
     【吉祥寺3年D組】の沖経は自分から会話に入ることは無いが、呟いて皆の会話を笑みを浮かべながら聞いていて。
    「木々の色も変え始めているな。ここら辺もすっかり秋になったな。あ、紅葉発見」
     沖経と狐影の言葉から、話題が日本の四季についてとなった。
    「本当に、日本の四季ってのは最高だな。故郷のドイツはそんなのあまり関係ないし、第一、家庭事情でそんな暇はなかった」
    「日本という国の四季はとても美しいですね~。私はこの国に来て、もっと日本が好きになれました♪ 皆さんとの出会いと、この巡り合わせを神に感謝します」
     ケーニッヒとリアノアに誉められると、何となく日本人としては誇らしいようなくすぐったいような不思議な気持ちになる。
    「そうだ! なんか、面白い話しながら走ろうよ。そうすれば残りもあっという間だよ」
     そろそろ行こうかという時になって、幸が提案をする。提案者の幸に、面白い話を期待する一同だった。
     秋を見つけ出した嬉しさに、自然と笑みが零れる【Teamタイラント】の羽翠。
    「お腹すいてない?」
     ポケットからチョコやキャンディを出したはなに羽翠も絢雨も一瞬目を丸くしたが、笑ってお裾分けを受け取って。
    「記念撮影しようか?」
     絢雨の取り出したカメラにもっと笑顔の溢れる二人だった。
     並んで走るのは微妙に恥ずかしいかも……でも病み上がりの彼女のことは心配で。御凪はゆのかの様子を常に気にかけて走っていた。
    「一度、一息しません?」
     我儘も聞いちゃうかもと思っていた御凪は仕方ないなぁという風を装いつつも、公園で休憩を受け入れて。病み上がりの彼女だから、少し休んでくれたほうが安心でもある。ゆのかの方も正直いつもより身体が持たなくて。だから歩きながら紅葉を眺めるくらいが丁度良かった。二人にとって楽しい時間になれば、と。
    「お二人とも、辛くないですか?」
    「大丈夫です~」
    「有難う、大丈夫なのですよ」
     ペースを合わせて問いかける棗にベアトリーチェとフィオレンツァは笑顔で答えて、頭上の木々を見上げた。まだ完全に色は変わっていないが、その気配はある。
    「そろそろ紅葉ですね。、綺麗になったらお弁当を持ってピクニックも良さそうです」
    「わわ、本当ですね~。木々が色付いたら、ピクニックに行ければ楽しいかも。大きいお弁当を作ってね」
    「ピクニックですか? 楽しそうですね~。今度、一緒に参りましょう!」
     紅葉の下、楽しそうにお弁当を食べる三人が見られるのも近いだろう。
    (「きちんと走っているようですわね」)
     最終的にちゃんと参加するならお説教は勘弁してあげようとマーテルーニェは執事の花之介を見やる。するとすっと目の前に差し出されたのはドリンクボトル。
    「お嬢様、お飲み物です」
    「ありがとう」
     二人の関係から言えば当然のことであるが、それに対する感謝を忘れてはいけないと、マーテルーニェは思っている。
    「あーっ! お家に忘れてきちゃったーーっ!?」
    「もう、いつもあわてんぼうさんね、はい、穂乃香ちゃんの分だよ」
     静歌は飲み物を忘れた穂乃香に手渡して。ありがとうと返ってくればどういたしましてと微笑む。さあ、もうひと頑張りしよう。
     一際賑やかな一団がいる。【武蔵坂軽音部】だ。到着時はぜーぜーしていた千波耶が錠に仕掛けたのは膝カックン!
    「決まったー! チハヤのアネゴの鮮やかな膝かっくん!」
    「うぉっ! 膝カックンとか一瞬ガチで視界下がってビビったじゃねーか!」
    「部員からの愛だろ? 全力で受け止めてこそ、軽音部の部長だぜ。でかいやつはかっくんし甲斐あるンだよ。悔しかったら、あと10cm縮め」
     ウルスラの実況が響き、錠が声を上げる。助けようとはせず笑って見ている葉の本音は、恐らく一番最後の一言である。
    「狗川、八重樫ー! マンジ取り押さえろ、戦争や!」
    「羨ましいんだよその長い脚ぃー!」
     鈴に言われるがまま錠に襲いかかった貫(d01100)の口から思わず漏れたのは本音。
    「鈴ちゃん、部長攻撃支援するよー!」
    「如何にガタイ良くてもこれはかわせまい! 食らえ必殺クロスチョップ!」
     ゆうの支援も加わって、鈴の必殺技が錠を襲う。
    「あっ、ジョーさんがなんか技喰らっ……へ、平気? 痛くない?」
    「ああ。心配アリガトな」
     結理の言葉にニヤッと笑って、錠は立ち上がる。
    「オイコラ待てテメェらァ!」
     楽しそうな追いかけっこ。笑い声と悲鳴、ウルスラの実況が公園内に響きわたっていた。
    「あ、みて? 池があるわよ」
    「本当です。鳥、可愛い……!」
     【雨宿り】のアイリッシュが示した先に視線を動かして、涼菜が声を上げた。
    「……水鳥、可愛いわね」
     シェリーも同じように池へと目をやって。それまで木々を見上げていた灯夜は、心配そうに女子三人を見やる。
    「よそ見……あまりしてると危ないぞ……?」
     女性に怪我をさせる訳にはいかないから、と転ぶ者が出ないよう注意を払って。
    「……そうね、転ばない、ように、ね」
    「大丈夫、です。ありがとうございます」
    「大丈夫、転んだりなんかしないわよ」
     シェリーの気遣いに大丈夫だと答えた涼菜はすぐに余所見をしてしまって危なっかしいが、笑顔のアイリッシュは余裕があって大丈夫そうだ。
     競い合うのもいいけれど、ゆっくり出来るのも悪くはない、灯夜はそう心の中で思った。
     ハンバーガーやアイス、クレープを買い込んで公園で一休みしているのは【木漏れ日の社】の一同。もはや小休止というよりがっつり休憩である。
    「こうしてっとマラソンつーか……遠足みてーだな……悪かねーけど」
     チョコバナナクレープを手にはにかみながら呟いたイングリットの言葉に、場がさらに和んで。
    「普通が一番だ普通が……」
     陽が自分のクレープを見て呟く。店頭にゴーヤクレープなるものを見つけた時に即無理と回避したことを思い出してしまった。
    「ふう……久々に食べたけど、美味しかったな。どうだった?」
     一刀はハンバーガーやクレープなどをあまり食べない、食べたことがないと言っていた緑と水菜に感想を尋ねる。
    「久しぶりに食べてみましたけど、とっても美味しいですね。えへへ、また皆さんと食べに行きたいです」
    「ん……初めて食べるものばかりですけど……どれも、美味しいですね……少し、驚きました」
     美味しいと答えが返ってくれば、また何時か皆で食べに来ようと約束を交わして。
    「あ、白鳥さんなのです~」
    「ハッハッ……はぅ、鳥さん可愛いのです!」
    「羽坂さん天城さん駄目ですよ、余所見して走ると転びますよ。白鳥が気になるのでしたら、ここで少し休憩していきますか?」
     余所見をしている智恵美と優希那にヴァンはやんわりと声をかけて、【LABO】の皆はここで小休止。早速池に近寄る智恵美と優希那。
    「白鳥は、案外気が強いから近寄っちゃダメだよ」
     マッキの注意に二人は、白鳥から少し距離をとって眺めることにして。はっと思い出したように智恵美は振り向いた。
    「そういえばお勧めのお店があるんです。今度是非皆さんでご一緒しましょう」
     提案すれば、次の楽しみを思い描いて皆の顔が一気に明るくなった。
     ゆっくり走りながら顔を上げれば、仲間が見えて安心したような気持ちになる。【*Vo*】の面々は互いがいることを心の支えにしながら走る。公園が少し苦手なまりも、リヒトとせららの姿を認めれば、今日は大丈夫と思えて。
    「私……色んなことに、余裕……なかったのかもしれません」
     改めてゆっくりと景色を見れば、とても綺麗で。
    「一休みしながら景色を楽しむのも、大事な時間ですよね」
     この景色は、今限りのものだから。
    「移り変わる……木々の色が、綺麗ですね」
    「うん。ちょっとずつ木の葉の色が変わり始めているね」
     景色を見ながら散歩道を行くスピンとましろ。まだ紅葉は始まったばかりだが、程なく見頃となるだろう。
    「紅葉の頃になったら、お弁当持ってピクニックにこようか」
    「ピクニック? ……それは、大変たのしそう……です。ふふ、楽しみに……してる、ね」
     ここでもまたひとつ、約束が結ばれた。
     手をつないで走ってる紗椰と遊。通りかかった公園の池でふと目に入ったのは水鳥達。
    「あー……、鳥見てると腹減るなぁ。いいなぁ、鳥……鶏」
     紗椰の呟きに応えるように遊の腹の虫が鳴り響いて。
    「同感。あとで奢ってよ、セーンパイ☆」
     バサバサバサバサッ……何か本能的危機を感じた水鳥達が、岸辺から一斉に離れていった。
    「ほらっ、ナギ! 鳥だ鳥! 良いよな~」
    「わぁっ、鳥さんっ! わー!」
     鈴之介に指さしで教えられ、渚沙は思わずはしゃいで。今度はピクニックで来たいな、と。
    「秋は運動ではなく芸術の秋だと私は、思う、の、ですが……誰です、東京にこんな地獄を、作り、出したの、は」
    「とりあえず、喋るか飲むか、どっちかにした方が……」
     手渡した水を飲みながら喋ろうとする静香に由希奈は苦笑して、その背中をさする。
    「墨沢さん、このマラソンはダークネスの仕組んだ罠ですっ。私はもう無理ですから、先にゴールを!」
    「うんうん、ダークネスの罠なら、尚更ここから離れないとね。さ、走ろ?」
     静香の妄言をバッサリ。首根っこ捕まえるようにして由希奈は静香を連れて行く。
     鼻歌交じりに楽しく歌いながら走る栞。ふと水鳥に目を向けて。
    (「ここで冬まで休むのか、それともここからもうひとがん張りするのか、どっちだろ」)
     行く末を心の中で問うて。
    「何がいい?」
     一応部長なのだし皆の分の飲み物くらいは、と【路地裏迷宮管理部】の空人は自販機を見上げている夜月に尋ねる。
    「イチゴオレが好きなんだけど、自販機じゃちょっと見かけないよね。炭酸はつらいからすっきりとオレンジジュースにするんだよ!」
    「ん」
     夜月の希望通りにオレンジジュースを買って。他にも人数分買い求める。それぞれ好きなものを取ってもらい、散策するつもりで池や木々を見ながら歩き出す。
    「一口ちょーだい、こっちもあげるから!」
    「普通のお茶だけどいいの?」
     夜月と樹は飲み物をちょっとずつ交換。そして樹の買ったフライドポテトを仲良く摘んだ。と、一足早く飲み物を飲みきった千季が興味津々の体で池を覗き込んでいる。どうやら大きな鯉がいるようだ。
    「絶対に、押すなよ」
     半眼で念を押してから、池に手を伸ばす千季。その背中にそっと忍び寄ったのは、レイだ。鯉の大きさに驚きつつもそっと千季の背中へと手を伸ばす。
    「レイ?」
    「……冗談ですよ?」
     悪戯っぽい笑みはきっと仲良しの仲間だから向けられるもの。別に落とされても怒りはしないけどな、千季は笑ったが、落ちないに越したことはない。
    「……あっ、あそこ鳥いるよ!」
     休憩中もいつもの癖でカメラを構えて撮影するのは【写真部】のこより。
    「鳥にお化粧始めの葉っぱ、いいよね。きれい」
    「本当だ。風も冷たくなってきたし、もうすっかり秋なんですね」
     隣に座る龍之介と今まで撮った写真を見せ合いっこすれば、元気も帰ってきたみたい。

    (「エデさんは前からハロウィン楽しみにしていたから残念がっていないかな……?」)
     修が視線を向けると……エデは街の飾りにハロウィンらしさを見つけてはしゃいでいるようだった。
    「よかった、大丈夫みたい」
     ほっと胸をなでおろして。弥彦はそんなエデを横目で捉えて釘を刺す。
    「今からはしゃいでると、後で疲れがどっと出るぞ」
    「えへへ」
     ペロッと舌を出してスキップしていたのを走りに直すエデ。相当ハロウィンが楽しみなようだ。
    「秋の街並みも趣があっていいものだね、楽しんで走ればゴールはそう遠くない」
     修に話しかける士騎をチラッと見て、弥彦はぽそりと呟いた。
    「最近顔見てなかったが……ま、元気そうだな」
     いやいや、別に気にしていたわけじゃないし。さっきのも、気遣いとか心配とかそういうのじゃないし、と心の中で自分で否定して。
     オレンジ地にジャックランタンの顔の黒刺繍が入ったTシャツをお揃いで着ているのは【しんぷる。】の皆。お揃いのTシャツは団結力を深めてくれる、そんな気がする。今日の記念にと記念撮影をお願いしたのは古本屋の店長さん。
    「写真は苦手なんだよな」
     と照れているのは紫臣。端の方で皆とポーズを合わせているのは影華。ゆうひは疲れていても元気な笑顔で。
    「丁度良かった。写真撮って貰うんだよ」
    「よかった、合流できて……ってえっ!? 写真!? ちょっと待って!」
     途中合流の葵咲は火乃に引っ張られて驚いた顔で。立ち止まったことで眠気に耐えられなくなった雲英はゆうひに寄りかかるようにして写真に移る。
    「皆さんとお揃いの服で写真が撮れて嬉しいです。現像できたら、早速スクラップ帳に追加ですね」
     由乃は嬉しそうに笑んだ。
    「みったん、見やがって! あのコンビニの前の女子大生二人組ナイスおぱい! 顔は童顔系の左のおねーさんが好み!!」
    「夏の半袖も美しいが、この時期の薄いニットも良いものだな。円熟した女性らしい丸みが強調されている」
     一緒に走っているはずの清純と光明だが、全く会話が噛み合っていない。それもそのはず、見ている女性の年代が全く違うのだから。
    「みったん、たまには同年代というかせめて10代に目を向けろよ、輝いてるだろ!! 若さがッ!」
    「何を言う。果物でも完熟の方が美味いだろう。熟した女性は未熟な俺たちの年代にこそふさわしい」
     だらだらダベりながら。これも楽しみ方のひとつかもしれない。すれ違う女性達が奇異の目でこちらを見ているが……。
     こちらも針のような視線を浴びている。【武蔵境1-7】のエトロは心に余裕を持たせるためにスパッツを履いている女の子を見ていた! ……チラ見以上はさすがに危険だ。その横ではスタートダッシュし過ぎた葵がヘロヘロになっている。
    「だっ……れか……助けて……一緒にゴールしようって言ったじゃないっ? って……お?」
     エトロに支えられ、二人が見たのは誓夜が悠悟にお姫様抱っこされる姿。
    「……オネガイシマス」
     恥ずかしくて逃げたい。逃げられないけど。誓夜が顔を赤くするものだから、恥を忍んでの決行である悠悟も声を上げて。
    「バーロー、ここまで来たからにゃキッチリ揃ってゴールすんぞ」
     一人だけ置いて行く事なんて、できやしないから。
    「大丈夫? 疲れていない?」
    「うん。ゴールまで頑張るよ」
     華月は姉らしく沙月を気遣って。今まであまり一緒にいられなかった分、共に過ごす何でもない日常を楽しく感じる。色々な行事をこうやって一緒にしていけば、もっと楽しいのかと考えて。
     沙月はさり気なく姉のペースを気遣いながら、お互い励まし合えば、きっとゴールまで走りきれると信じている。
    「でもって、ココが商店街。この近くにオレのクラブがあるから、詳しく案内できるぜ?」
    「まぁ、お店がたくさんあって素敵ですね!」
     キラキラ目を輝かせる李に問われれば、一つ一つ丁寧に何のお店か説明する九十三。一人だと辛いマラソンも、二人でなら。
     木々や水鳥を撮影した翠は、商店街で見つけた美味しそうなものも許可を得て撮影して。同じ腕章をつけた蝸牛はすべてをカメラに収めようと、撮影とツイートをしながら走り回っている。
     その横でぱたーんと突然倒れたのは周。疲労を無視した結果だが、そのまま数分休めば走れるまで復活して。ヒーロー志願が倒れている暇はない!
     喫茶店、特に季節限定メニューのある店を念入りにメモする心。マラソンが終わってからまた来ようと思うが問題は。
    「今月のお小遣いがピンチだ……どうしようかな」

    ●ゴール目指して
    「大丈夫?」
    「もうちょっとでゴール、一緒にゴール」
     シェリーに問えば繰り返すような呟きが返ってきて、シオンは笑みを浮かべて。
    「頑張って、もう少しだよ」
     ゴール前で掲げられているのは【りらくぜ~しょんぷらざ・びゃくりん】のバナー。真琴(d00740)がナップザックに入れてきたそれを皆で掲げる。
    「疲労回復には、りらくぜ~しょんぷらざ・びゃくりんのご用命を!」
    「みんなー、りらくぜ~しょんぷらざ・びゃくりんよろしくねー♪ あたし頑張ってマッサージするよー♪」
     真琴(d00740)の宣伝に、向日葵もマラソン後の疲労回復にと精一杯宣伝をして。
    「あなたの学校の癒し所『りらくぜ~しょんぷらざ・びゃくりん』をよろしく」
     後半は疲労で口数が減ってしまっていた陵華も声を振り絞って。
    「わたくし達の疲労もしっかり取らないといけませんよね」
     セカイが「はちみつレモンを用意してあります」と告げれば、歓声が上がった。
    「……あのね、もしつらかったら……私を置いて行っちゃっていいからね?」
     そんな事をだいぶ前に言ったけれど、大樹は菜月を置いて行く事はなかった。油断してペースが上がってしまっても、すぐに菜月に合わせてくれた。
    「ほら」
    「えっ……」
     差し出された手に驚きつつも、その意図を悟って菜月は疲労の色が濃い顔に笑顔を浮かべて大樹の手を取る。
    「よく頑張ったな」
     手をつないでゴールをすれば、そこでも彼は菜月を気遣ってくれて。
    「私に合わせてくれてありがとうっ。すっごく楽しかったんだよ~ほんとにありがと、大好きっ」
     幸せそうに菜月は大樹の腕に自分の腕を絡めた。
    「えーくん、どっちが先にゴール出来るか勝負っ!」
    「ひよりのくせに生意気っ……!」
     ひより(d06624)と叡智はゴール直前で勝負! これも仲良し故の勝負。だからといって手は抜かない。二人共本気で走って。
    「えーくん楽しかったね」
    「……お疲れ様」
     微笑むひより(d06624)に叡智はタオルを被せて、ぶっきらぼうに労うのだった。
    「勿論、まだ行けるでしょ?」
     ここまで名前の通り笑顔で走ってきた【笑顔部】。ゴールが近くなってきたところでイッセイが悠(d00756)にふっかける。
    「おぅ! まだまだ余裕! 行こうぜ、ダチ公!」
    「知ってる! 行こう!」
     二人が先導するように走る背中を、他のメンバーは目標のようにしっかりと捉えて。
    「ひより(d00252)、後少しだ」
    「わたし、もうダメかも……」
    「後少しだから頑張りましょう」
     ヘトヘトで涙目になっているひより(d00252)に合わせてペースを落とし、実とレインが声をかける。ペース配分を考えていなかったたたりもバテバテの様子。
    「もうちょっとで栄光のゴールだよ! 頑張ろっ?」
     二人の背中を勇が押して、ゆっくりゆっくり足を進める。一度止まってしまったら、もう動きたくなくなるから。
    「おーい!」
     ゴールの前ではイッセイと悠(d00756)が手を振っている。皆でゴールをする為に待っててくれているのだ。
    「ほら、行くぞ……どうせなら、皆と笑ってゴールしたいし……」
     勇はバテてる二人の手を引いて。照れくさそうにごにょごにょ。途中で悠(d00756)も手を引くのに加わって、みんなで助け合い。
    「さあ、皆でゴールしましょう」
     坂を先行した二人と合流できたのを確認して、レインは皆を促す。せーの、でゴールへと足を踏み出し、そして。
    「やったね! 全員で走り抜けたんだよ!」
     イッセイの言葉で皆に実感が生まれる。自然、ハイタッチする顔には笑顔が生まれて。
    「お疲れ様」
    「お疲れ!」
    「みんなと一緒だから、最後まで走れたんだよ」
    「たたりも、疲れたけど楽しかった……!」
     その笑顔が、いつまでも輝いていられますように。
    「出来れば皆でゴールしたか……った……」
    「諦めちゃだめだよ。ひきずってでも全員ゴールを目指すからね!」
     ヘトヘトなのは【COFFEE BREAK】のオロカと真琴(d03339)。メガホン片手に修李がそれを励ます。
    「ほら、後少しよ」
    「頑張ろう」
     紗耶菜と竜生が励まし、二人の手を引いて。湊は脱落しかけている仲間に必死に声をかける。全員でゴールしようと約束したのだから。
    「ヒトの波に飲まれようが、構わず先に行けって云われようが、見捨てるもんか……!」
    「そうだよ、後少しでゴールなんだから!」
     修李はオロカと真琴(d03339)の背後に周り、その背中を押す。
    「もうすぐだね」
    「行きましょう」
    「えと、えーと……ぜ、全員ゴールできたら、奢るから!」
     竜生と紗耶菜が手を引く前を行っていた湊が振り返り、太っ腹な宣言をすると、仲間達からは「おー!」と歓声が上がった。一同は助けあいながらなんとかゴールラインを超えて。
    「ありが……とう、ござい……ます……」
     即へたり込んだオロカが何とか感謝を口にして。一人じゃ絶対に完走できなかったから。
    「まことさんは……もうダメ……でも……走りきれて……嬉しかったよ……」
     声を絞り出した真琴(d03339)ががくっと力尽きて、皆は心配したが彼女は眠ってしまっただけで、一安心。
    「きゃっ……!」
    「あ、大丈夫紅葉先輩!?」
     それまで一緒に走っていた【喫茶四季】の三人だが、先輩の威厳を保つために先にゴールしようとした紅葉がゴール近くで転んでしまった。慌てて夏樹と春奈が駆け寄る。
    「ごめんなさい……私達が秋風先輩の事を考えずハイペースで走ってしまったから……」
    「ごめんね……私変な意地張ってた……」
     ポロポロと紅葉の瞳から涙がこぼれ出る。二人は紅葉を笑顔で見つめて。
    「あとちょっとだし、私がおぶっていってあげるね☆ みんなで一緒にゴールしよー☆」
    「それじゃいきましょう、ゴールまで後少しよ」
     夏樹におぶさった紅葉の背を春奈が支える。三人で一緒にゴールするのだ。
     友人との約束のために途中から全力モードになって一度ゴールしたライラは途中で無事に千尋とエーミィと合流を果たした。何故か体操服にエプロン姿の千尋は疲れ果てていたが、なんとかゴールが見えてきた。
    「このままならゴールできそうだね!」
     元気なエーミィの笑顔が眩しい。何とか三人揃ってゴールまで辿り着く。
    「お……、終わった~、み……水~!」
    「お疲れ様」
    「お疲れ様だよ」
     ぺたんと座り込んだ千尋に飲み物を差し出して、三人はゴールしたことを喜び合った。
     体操服姿を恥ずかしがる蓮華と恥ずかしがる姿を可愛いと言って写メった暁。手を繋ぎなら声をかけながら、二人は何とかゴール付近まで到着。
    「もうちょっとだよー、頑張らないとお姫様抱っこでゴールしちゃうからね!」
     なんて明るく声を掛けられて。それもいいかもと思いつつ、二人は無事にゴール。
    「暁ありがとう。一緒に走ってくれたからゴールできたよ」
     一緒に眺めた紅葉を思い出して、蓮華は微笑んだ。
     ゴールしたらとっておきのパフェの店を案内すると約束して、断は千明と走っていた。
    「うー……断、先行って、いいよー……」
    「……ん……ゴールまで一緒……頑張る千明……」
     断のペースについていけずお腹が痛くなった千明はゆっくり歩き出したが、断には彼女を置いていくつもりなど毛頭ない。ペースを合わせて、時間を駆けてもゴールまで辿り着く。
    「やったー! 10キロ、走りきったよー!」
    「……うん! ……千明すごい! ……」
     二人でハイタッチして健闘を称え合う。さあ、パフェが待っている。
    「マラソンって手をつないだりしたらダメだっけ?」
     突然首を傾げて尋ねた紫呉の言葉と仕草が不意打ちで、ミューは赤面して目を合わせずに右手を差し出した。紫呉はその手をしっかり握って、手をつないで二人共ゴール。息は切れているけれど、すぐに伝えたくて。
    「体的には疲れたけど、でもミューちゃんと一緒だから疲労は軽いね」
    「何を言ってますの? ……当たり前ですわ。だって私もそう思いますもの」
     呼吸を整える間も、繋いだ手は離さない。
     突然へたり込んだ詩織に、慌ててしまう深景。頑張っている様子を微笑ましく見ていたけれど、体がついて行かないようだ。
    「大丈夫!? ごめん、気づかなくて……。これ以上は走れなさそうだよね」
    「大丈夫……」
     けれども詩織の足はついてこない。走りたい気持ちはあるのに。折角ここまで来たのに。
    「こんなところで終われないでしょ? 俺が詩織の足になるから、一緒にゴールしよう」
     彼は詩織の気持ちをわかってくれる。恥ずかしいのと嬉しい気持ち両方で。そっとその背に乗って。
    「有難う、深影。大好き」
     ゴールする瞬間、小さな声で告げた。
     手を繋いでゴールした朱璃と詩廼は共に水飲み場へ赴いて、水分補給。
    「ただの水なのにどうしてこんなに美味しいんでしょう、やっぱり朱璃君がよく言う空腹は最高の調味料というものでしょうか♪」
    「水を飲むのもうまいが、この季節なのに水浴びが気持ちいいな」
     髪を洗う朱璃。キラキラ雫が飛んできてなんだか見とれてしまった。
     目標は揃ってゴールすること。けれども早々にひなたが「……ここで私が倒れても、第二第三の私が……」と限界を迎えた【黒猫座談会】。だが亜門が風よけになって、武がおぶって、何とかゴール直前まで来れた。小学生の咲桜だって、諦めないで頑張ったのだ。
    「ゴールイン! 最後までおつかれさまだよ!」
     やり遂げた咲桜の笑顔が眩しい。ひなたはぺたりと座り込んだが、亜門は気を利かせて二人にスポーツドリンクを配って。
    「皆で走るというのも、なかなか良いものじゃな」
     皆のちょっと後ろからその光景を眺めていた武。可愛い女の子や子供が和気藹々としているところをその目にしっかりと焼き付けた。
    「……負けませんよ! 罰ゲームも嫌ですし!」
     一緒にゴールしようねは裏切りフラグだと言ったのは誰だったか。湊介と鳳臣が息を整えて全力で走りだしたのを見て、月瑠も全力で追いかける。
     一番にゴールしたのは、湊介。少しの差で鳳臣と月瑠が続く。持久力があっても瞬発力に自信がなく、一人だけ女子である月瑠は頑張った方だろう。果たして罰ゲームとは?
    「ん、お疲れ様」
     途中で体調が悪くなった句穏と手をつないでゴールした文織。そっと彼女を抱きしめてキスを落とす。
    「はぁはぁ。このくらい、平気だから」
     彼に身体を寄せて、句穏もキスを返した。

     誰かと一緒に走れば、辛さも緩和されて。
     完走!

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月31日
    難度:簡単
    参加:280人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 37/キャラが大事にされていた 54
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