「だーるーまーさーんーがー………」
草木が騒めく。子供たちは、その号令に合わせて心騒めかせながらゆっくりと駆け上がった。
白い獣の腕で顔を隠し、木々に向いた少女は何処か上擦った片言で楽し気に掛け声かける。
「ころんだ!」
ぴた、と止まった動き。
参加する子供たちは、満面の笑みを浮かべた少女の動きをじっと見つめている。
楽し気な彼女は再度、くるりと背を向けて、『だるまさんがころんだ』を続けている。
その様子は何気ない昼下がりの様子だった。
自然公園にひょこりと現れた背の高い少女は何食わぬ顔をして『イッショにアソボ』と誘ったのだという。
子供たちにとってその誘いは自然なものだった。
何処か異国を感じさせる風貌の少女は楽し気にころころと笑ってだるまさんがころんだを提案した。
――そこまでなら、普通の子供だった。
「だーるーまーさーんがーーー……」
鬼役を買って出た少女の首から下げられていたのは手鏡。
太陽の光を反射して、きらりと光ったそれが映し出したのは彼女の後方。
「あ」
ぱちりと瞬いて、「ころんだ」と小さく呟いた少女が振り仰ぐ。
「アタシ、見ちゃった」
その笑みは普通の子供のようにも思えたが、それでも―――……その時間は続きはしなかった。
ひゅ、と風切り音と共に子供に向けられた『ペナルティ』
「アタシ、見ちゃった。オシオキ、大切!」
倒れる子供を気にすることもなく、彼女はもう一度「だるまさんがころんだ」と掛け声を発した。
●
「だるまさんが、ころんだ!」
顔を隠していた不破・真鶴(高校生エクスブレイン・dn0213)はぱっと顔をあげる。
その声に、資料に目を通していた海島・汐(潮騒・dn0214)がびくりと肩を揺らした。驚いたように身を竦める彼は「びっくりした」とだけ笑みを漏らす。
「それ、ファムがやってるやつ?」
「そうなの。闇堕ちしてたファムさんを発見したのだけど、なんか、その……だるまさんがころんだをしてるみたい」
ミスター宍戸による暗殺武闘大会。その中で、仲間たちを護る為にと立ち回ったファムは、ある自然公園で遊んでいるのだという。
最初から『ダークネスたちの諍い』には興味を持たず、単身で遊び回っている様子は、なるほど、彼女らしいとはいえるのだが。
「目的は、遊びたいってやつか」
汐の言う通り、ファムは闇堕ちしても変わらず『遊びたい』のだという。
その遊びの範疇を一気に飛び越えてしまうのがダークネスだ。その遊びを一般人の子供たちを相手にしているというのだから危険度は一気に上がってしまう。
「ファムさんは遊びたいだけだから……それは普通にみんなで遊んであげればいいと思うの。
けど、誰かが死んでも誰かが苦しんでも、ファムさんは遊びの中でのことだから気にしないし、『大丈夫?』と問うだけだと思うの」
そこに子供らしい無邪気さはあれど、善悪の区別はない。判断は鈍り、只、遊んでいるだけなのだと判断されてしまうだろう。
真鶴の言葉に汐の表情が僅かに曇る。
人を殺したいと願うダークネスとは違い、『遊んでるだけ』というのは中々に質が悪い。
彼女は『こども』だ。彼女が『お姉さんである』と教え、しっかりと善悪を教えることが出来ればあるいは、と考えてその難しさに彼は口を噤む。
「大人であれば、そんなことはしないの。ファムさんの一族なら、もう『おとな』と言われたりもするそうだから」
それを伝えるのもいい、だが遊びに水を差せば彼女の怒りは免れないだろう。
「なら、上手いこと遊んでやりつつ、説得ってことか……」
「ファムさんが戻ってくるなら、そうね、『武蔵坂楽しい!』とか『主人格のがたのしい!』とかなの」
ふわふわさん、と呼んでくれる彼女を思い出し表情を曇らせた真鶴はどうにか連れ戻してほしいと祈る様に言った。
「……みんな一緒で楽しいって、言って欲しいのね」
そう、『神様』のファムにも教えてやって欲しい。
彼女はこどもでありながら、自分の立場をよく理解している。
一般人と自分の違いは、ダークネスだから、灼滅者だから、というわけでもなく、神様であるからだと判断しているのだ。神様が遊びたいから遊ぶ、神様が下々に気を配る必要はない。
――カミサマは、好き勝手する、いいよね?
そう『かみさまごっこ』のファムを止めることが出来るのは灼滅者だけだ。
戦闘で彼女を物理的に戻すこともできるが、心証は悪く且つ闘争の危険性だってある。
「わたしは、遊んであげるのが一番だと思うの。
だるまさんがころんだ――……少し特殊なルールが敷かれてるけれど、それで」
特殊なルールは、ファムへの攻撃の制限だ。
だるまさんがころんだは鬼にタッチするまでが1つの括り。
鬼こと、ファムにタッチすることを『近接攻撃』と括り、一度だけ許される。しかし、連携での攻撃ならファムはそれを赦すだろう。
つまり、ルールに則ってだるまさんがころんだを行い、攻撃(タッチ)を繰り返すことが必要となる。
「ファムは? 何か攻撃は?」
「だるまさんがころんだで、動いてたら、退場とか……そういうのがペナルティになるの」
彼女が『だるまさんがころんだ』と数えている間に動く。しかし、その後ならペナルティとする。
「ペナルティが攻撃か……うん、まあ、ルールっちゃルールだな」
「そう。それで、ファムさんは……その、子供らしい『ズル』をたくさんするの」
どんなものがあるのかは状況で違うために分からないと真鶴は言う。
しかし、ズルを見破られればファムは喜ぶと同時に話を聞く気になるかもしれないとも付け加えた。
「だるまさんを転んだをするなら、ズルを見破ってファムにタッチを繰り返せばいいんだな」
「そうなの。だから、たっくさんのズルを想定して、たっくさん見破ってほしいのよ」
遊んでほしいと願うならたくさん遊んであげればいい。
彼女が満足するまで、いくつものズルを見破って――どうか、救ってあげてほしい。
参加者 | |
---|---|
長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811) |
野良・わんこ(握った拳は対話ツール・d09625) |
サンディ・グローブス(みならいサンタクロース・d11661) |
リュータ・ラットリー(おひさまわんこ・d22196) |
カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729) |
荒吹・千鳥(風立ちぬ・d29636) |
上里・桃(スサノオアルマ・d30693) |
茨木・一正(三千万と幾許のさよなら・d33875) |
●
たん、たんと地面を踏みしめる音ふたつ。木々を背にして少女は太陽の色を映した双眸を眩し気に細めた。
春の気配を盛大に孕んだ冬の日。包み込む穏やかな空気に不似合な獣の腕をだらりと垂らしてファム・フィーノは唇を弧に歪める。
「アハ――」
その笑みが悪童のものであると称するものはこの場所には誰もいなかった。
彼女の『希み』をよく理解していたからか、はたまた、本当に彼女の笑みが打算ずくのものではないと感じ取れたからかは知れない。只、灼滅者達が力づくで少女を連れ戻そうとしなかったことは少女にとって好感を覚える所だった。
「一緒、アソボウ?」
ぐん、と伸びた背丈に幼さを感じさせる笑みがアンバランスに少女を見せた。誘い文句に諸手を挙げて喜んだ野良・わんこ(握った拳は対話ツール・d09625)は結った髪を尻尾のように揺らせ拳をぎゅ、と固めた。
「やったー! ファムちゃんとガチ遊びー!」
「勿論、遊びまショウ!」
喜ぶわんこと対照的な程に不安げにサンディ・グローブス(みならいサンタクロース・d11661)は金の髪を指先で弄る。サンタクロースを思わせる衣服に身を包むサンディの視線はファムと傍らのリュータ・ラットリー(おひさまわんこ・d22196)の間をちらちらと行ったり来たりしていた。
「アソブ? アタシ、だるまさん転んだ、シタイ!」
「おー! いいな、俺もだるまさん転んだ好きだぞーっ! っつーことで、めいっぱい遊ぼうな!」
本当に遊ぶかのように――幼い少年のようにリュータはからりと笑う。彼に見える尻尾があれば盛大にぶんぶんと振っていたことだろう。兄妹のように共に存在した愛らしい存在が突如消え失せてしまったことはリュータにとっては如何ともし難いことだった。だからこそ、一緒に遊びたい、彼女が『彼女』でないとしても――どんな状態でだって。
「ファム殿、だるまさん転んだにルールは存在するのかえ?」
こてりと首傾いだカンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)は袖口で口許を隠し、ファムの様子を伺った。
事前に聞いていた『特殊ルール』を再確認するカンナの視界にはきらりと光る手鏡が見えた。
「ある程度のルールは把握してるんやけど、改めてファムちゃんから聞かせて貰えるやろか?」
穏やかに微笑んだ荒吹・千鳥(風立ちぬ・d29636)にファムは大きく頷きルールを枝を握りしめて「ヒトツ!」と大きな声でルールを発言する。
その様子は、普段の明るく活発な少女を思わせて長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)は拳をぐ、と固めた。
「成程、ルールは把握した。さーて、全力でやるぞゴルヴぁ!?」
ごふ、と血を吐いたキャプテンジンギス。まるでギャグマンガでの登場シーン。苛烈な幕開けに海島・汐(潮騒・dn0214)は目を丸くする。
「カチコミ前に血を吐いたでさァ……」
「……ああ、敵が別の所に潜んでいるかのような華麗な吐血だった」
汐の背後で周辺対応に当たる娑婆蔵と橘花が小さく呟く。箱にちょこりと入っているキハールと岬は丸い瞳にその様子を映して僅かに首を傾げた。
「どうですかな、ファムさん。ファムさん相手にしちゃ、普通の子じゃ気の毒ってもんですし――『面白い相手』を優先しませんかな」
瞳を丸くしていたファムへと茨木・一正(三千万と幾許のさよなら・d33875)はルールをしっかり把握したと頷くくしなやチアキ、鈴音を振り仰ぐ。
「脆い相手だと『満足』できないでしょう」
「ミンナ、イッパイ、アタシとアソブ?」
大きく頷く一正は木々の騒めきに僅かに目を細める。頬を擽る春のかおり、思えば今日は暖かい。
穏やかな空気を腹いっぱいに吸い込んで上里・桃(スサノオアルマ・d30693)は複雑な思いを飲み込んだ。口許に浮かびかけた複雑な思いは始まりには出さないように――「ファムちゃん」と呼ぶ声音は優しい。
「はじめましょう、キャップさんもちどりんも私も待ち草臥れちゃう前に全力の『だるまさん転んだ』を」
●
だーるーまーさーんがー。
まるで、子供のようにその声は公園内に響く。
後ろに隠れて、と笑み溢した海に頷く汐は預かった猫1匹と自身のナノナノと共に立っている。
「あ、あんなとこにUFOが!」
子供がズルなら大人だってズルしていいだろうと紫王がびしりとあらぬ方を指さした。その声に「な、なんとー!」と大袈裟なリアクションを見せたユメに振り仰いだファムは丸い瞳に嬉々と浮かべる。
「ドコ?」
「あれ、いなくなったな……」
ぴた、と指さした姿勢のままで止まった紫王。鬼が振り返れば『止まる』のが第一のルールだ。
掛け声は途切れたが、見事に止まって見せた灼滅者達にファムはもう一度と背を向ける。
(「……ものを投げたり、今のように『声』や『動き』でズルを見せるかもしれませんね?」)
神様のズルと人間のズル。比較して怒りださないかと警戒していた依子はほ、と胸を撫で下ろした。ファムはいつもの『ファム』と比べれば幾分か子供のような存在だ。
――アタシ、ミンナ、大事。
そんな彼女が誰かを傷つけることがどうしても感化で居ないとリュータは奇妙なポーズの儘考えた。
だーるーまーさーんがー……。
幾度も繰り返されるそのやり取りに。ファムがズルをするぞ、と唆す兼弘の声に神様はむ、と唇を尖らせる。
「カミサマ、ズルするの、イイ!」
早々に掛け声を切り上げて振り仰いだ彼女は子供のように拗ねている。リュータと一正の背後に隠れていたわんこはその様子に『いつも通り』を心がけると小さく頷く。
「それじゃ、次のターンです! 『俺のターン、ドロー!』 いきますよ、ファムちゃん!」
わんこに促されるように次の行動が始まった。その掛け声に合わせて、耳を劈く『ズル』の声。
(「シャウト……! 成程、ファムさんのズルはこんな感じデスカ!」)
きん、とした耳を抑えては動いたと言われてしまう。ぴたりと止まった姿勢をキープすべく壁歩きを使用するサンディは姿勢をキープし続けると固唾を飲んで彼女を見守った。
目を閉じていたリュータは自身が『引っかかりやすい』ことをよく知っている。動かない様にとぴたと止まった彼をちら、と見つめ、僅かに攻撃姿勢をとったファムがにんまりと笑う。
(「ブラフじゃよな……?」)
動く事勿れ、と己を律するカンナは彼女がルールを大事にしていることを現時点まででよく理解していた。ズルも小賢しいものが多いが、それ程までに常軌を逸していない――寧ろ、身に着けているものと己自身だけでズルを行っているようにも見受けられた。
(「身に着けているもの――まさか」)
は、とした桃は飛ぶ一撃に防御姿勢をとる。カンナが予測した『ブラフ』ではない直接的な攻撃。
如何したことかと視線のみでファムを見やった千鳥は彼女が笑っていることに気づいた。
「ウゴイタ」
きら、と首元で光った手鏡。身を木々に向けても『掛け声を言っているふりをしてみている』事に気が付く。
「これが、ズルやねんな……」
小さく息をつく彼女に一正は頷いた。鬼に見られたらそれは『アウト』だ。ファムの首から掛けられた鏡が目を晦ませる用途以外にそのように使われたのは予想外であったかもしれない。
「ファムさん、そのズルは楽しいかい?」
「カミサマトッケン、アタシ、タノシイ」
にんまりと笑った『神様』に一正はそうかと小さく頷いた。動きを止めていた御理は心と視線を交えて頷き合った。
基本的にはファムの定めたルールを厳守するという心は敵味方関係なくすべてのズルを数えた。
一方で風でスカートがめくれた作戦などの妨害策を講じるユメは前準備で芋を鱈腹食っていた。理由は割愛する。
「割愛されると意味がないのでは!」
「みて、白いだるまさん……じゃないユメさんったら美味しいものばっかり食べてこの安定感」
「ユメさん、太ると思いマス……」
士元やサンディから来たその言葉は大学2年にもなると体形の維持が徐々に難しくなるユメの心に突き刺さった。
「違う戦いが起こってるでござる……」
ズルをチェックする任を背負っていた討魔の言葉は僅かな虚しさを孕んでいた。
●
こうしてともに遊ぶのは初めてなのだと音色は心を弾ませる。
「クラスにファムさんがいないと、寂しいよ」
学園で出会って、楽しいと笑い合った友人がこうして闇に飲まれる――それが我慢ならないと音色は唇を震わせた。
だるまさん転んだの合図が続く。
じわじわと近づきながら「カチコミごっこはしないの?」と誘いをかける鈴音に地面を蹴って『タッチ』を目指す宗嗣が進む。
きら、と目晦ましを行う刃の煌めきにお思わず息を飲んだチアキは転ばぬようにと心がけた。
「光の攻撃は多そうですね」
緊張感を孕んだ一正の声に大きく頷きながら血を拭った兼弘がサイキックは無しよとファムにアピールを続ける。
「ふふ……このキャプテンジンギス、どのような状況でもだるまさんが転んだを完遂する所存。
ファム、鴉が鳴いたら帰る時間だ! それまでは全力で遊ぶぞゴラァフッ――」
またも血を吐いた彼に千鳥が肩を竦める。本日のキャプテンジンギスはそういうキャラクターなのだ。
その間にも神様に一番に近づいたのは桃。するりと滑り込んだ彼女の足元に影がずるりと伸びる。
「ッ――」
それは、予測通りだった。至近に辿り着いた桃の足元に影技が伸びる。にぃ、とファムが笑ったのがすぐに察せられた。
「ウゴイタ」
その言葉に、桃はは、とする。近づけば近づくほどにその危険性が上がることもすぐ様に理解した。
「ファムちゃん、子供のように振る舞っているけど、あなたはもう、あなたの文化の中で成人したんでしょう」
向き直る桃の言葉にファムはは、としたように影を戻す。その言葉に胸の奥まで浸食された気がして彼女は唇を噛みしめた。
――おとな。
「すてきな大人になりたいからもっと頑張るって言ってたじゃない。
……これじゃ、子供じゃない。ファムちゃんのなりたい大人ってこういうものなの?」
「アタシ、大人……オトナに――」
10歳になれば火を扱えるから。彼女の惑いの隙に、タッチとして桃が放ったのはその拳。
乾いた音が頬に触れて、はっとしたように『神様』が顔をあげる。幼さを滲ませて、その両眼に涙をためて。
「ファムさんよ、成人の儀が終わってんだ、あと数年で中学生で制服着るんだぜ。ここで終わりは無しにしてくれよ」
兼弘の言葉に少女は唇をきゅ、と噛みしめた。
だるまさんが転んだはその繰り返しだ。
ファムに一撃与えれば、全員で下がっていかなければならなくて。子供のころに聞いたルールを反芻しながら一正は彼女の動きに合わせる。
「ファムさん、きちんと聞かせてくれないかい? 今、満足できてるかな? 僕らは君が遊ぶ相手として楽しいかな?」
「……タノシイ」
何処か拗ねたように少女は言った。
その言葉に「楽しいか」と確かめる兼弘は何処か安堵を覚える。彼女が自分達と居ることを楽しいとそう、感じてくれるなら――まだ、救出の目はあった。
●
だるまさんをころんだ。
続けるうちに我先にと飛び出すわんこはタッチの代わりに指先一つ。
「タッチです!」
振り向くファムの頬にぷにりと刺さった指先。古典的な『罠』に「ひっかかった」と少女はからからと笑った。ファムが鏡で後ろを見ればわんこは積極的にリュータや一正と共にぐるりぐるりと身を回し、幾度も笑わせるぞと体を張った。
「ウーゴーイーター!」
「ハッ、まさか、このわんこを殴ろうと!? バリアー!」
罠にはまった事からか、拗ねたファムの悪戯にわんこもこれでもかと言わんばかりに返さんとする。ある意味で自業自得な『悪戯』を受け止めるのはわんこ――ではなく。
「ファム! タンマ!」
近くに立っていたリュータだった。
ぐん、と服を引かれ(物理的に)庇う事となったリュータへとたたきつけられた一撃。「ぐ、」と鈍く吐き出す彼にサンディが不安げに彼を呼ぶ。
「ファ、ファムちゃん! いけまセン!」
「だってッ!」
どさくさ紛れ大変な流れ弾を喰らう事となったリュータ。
反則だと指摘するサンディに『かみさま』もルールを順守すると渋々従った。
「それから、そのままじゃダメデス! バレンタイン楽しみにしてたじゃないデスカ!」
説得文句は楽しみを重視する神様にうってつけだとサンディは知っていた。
ぴく、と耳を揺らす神様にとって武蔵坂の重要性は徐々に上がってゆく。
タッチを繰り返すことで彼女に傷もつき負担も徐々に出てきたのだろう。丸い瞳はしっかりとサンディを捉えていた。
「…………サンディがバレンタインにどーなったカ、知りたくないんですカっ!!」
その時、神様には雷が落ちた。
自分の知らない楽しい話――それは、どうしようもなく、悔しくなってきて。
だーるーまーさーんがー。
その言葉にも滲んでいる。ファム、と呼ぶリュータは真っ赤になったサンディの頭に手をぽん、とやってから前へと飛び出した。
「でも、やっぱ、遊ぶならちゃんと目ぇ開けて笑いながら遊びたいぞ。
目つむって、ファムの声聞こえない振りすんの――俺、さびしいぞ」
「アタシも、サミシイ……」
ぐらり、と揺れた心。兄貴分と大親友。二人が待って居ることがどうしようもなく心を苛んで。
だん、と踏みしめた一撃にカンナの足元がぐらりと揺らぐ。それでも動かないと策を講じた彼女は「何くそ、今度は負けないぞ!と切磋琢磨しおうて楽しくはないかの?」と唇を歪めた。
「それは、」
「力で一方的にやり込めても何れ退屈するだけ……。
其れよりお互い同じ条件で遊ぶ方が予想外な事も多く出て楽しいぞ?」
にんまりと笑ったカンナは「ファム殿がいなくなるのが嫌なだけじゃ」と付け足した。
まだ殆ど遊んだことがないのに、そうぼやいたカンナにファムは足元の石ころを蹴り飛ばす。
「其れにファム殿のお帰りパーティーには妾が飼っておる羊を連れて来るつもりじゃが大量の羊の中に埋もれる機会はそうはないぞ?」
「ヒツジ……!」
きらりと輝く瞳。その隙を見逃さないと千鳥はファムちゃんとファムが背を向けた隙に近寄った。
「楽しいかぁファムちゃん?
せやけど学園戻ったらもっともっと楽しいこと仰山あるんやで?
これが終わったら、今度は中のファムちゃんとも遊ばせてぇな?」
「ちどりんの言う通りです。あなたも来ますか? でも、灼滅者じゃなくちゃこれない。
……神様の儘じゃだめなんだ。灼滅者に戻ってからじゃないと、だから、また灼滅者に戻って遊ぼう?」
笑み溢す桃の言葉に、千鳥の相槌が重なった。
こんなに楽しいのに、もうすぐ終わってしまう――大人なのに、こうしたいと我儘を言うなんて。
「満足いくように選択してくださいよ、ファムさん」
ゆっくりと優しく声をかける一正に兼弘も続けた。
「火を使えるようになったんだろ? ジンギスカン食べるんだろ? だからさ――みんな待ってるぞファム助」
だから、選択しよう。かみさまは、決める権利があるから。
●
「おかえりなさい、ファムちゃん」
叩いて御免なさいと頬に触れた桃の指先に擦り寄る猫のようなしぐさを見せてファムは笑みを溢す。
彼女の背を撫でた千鳥は安堵したように「ファムちゃん」と彼女を呼んだ。
「これから仰山遊ぼうなぁ」
穏やかに、安堵を滲ませる千鳥の声音にファムがこくりこくりと頷けば、兼弘が痛む体をぎしぎしと軋ませ乍らゆっくりと叢へと腰を下ろす。
おちおち座っても居られないと一人ごちた彼に千鳥と桃は笑みを溢し、一歩後ろへと引いた。
「や、お帰りなさいファムさん」
笑み溢す一正に背を押されサンディがゆっくりと歩み寄る。
「ブァムぢゃん……!」
涙交じりの声音は、震えていて。泣くまいと耐え忍んでいるせいか顔はもうくしゃりとなっていて――その表情に顔をあげたファムはぎょっと、したように「ナカナイデ」と駆け寄った。
「ザンダグローズにこごまで心配さぜるのハ、悪い子のするコトでズーっ……!!」
ぼろぼろと涙を零し、自分より背の高い大切な親友を抱きしめて。サンディは「わああ」と声をあげて涙を流す。
不安だらけでこの場所に来て、揺らぐ彼女の姿に心が痛んだ。言葉にすれば、恥ずかしいことだったかもしれないけれど、それでも彼女が「知リタイ!」と笑ってくれると思ったから。
「アタシ、バレンタイン、聞きたい」
へらりと笑ってきつく抱き着いたサンディをぎゅうと抱きしめたファムは顔を上げる。
ファムと嬉しそうに二人共を抱きしめたリュータは安心したと幾度もなく繰り返した。
「さびしかったぞー! おかえり!」
「タダイマ!」
その元気な言葉にサンディの涙は洪水の如く止まらない。ぎゅ、と抱きしめる腕に力を込めてリュータとファムは此処に居ることを分かち合った。
「ファム殿、美味しい料理と羊のモフモフは後程堪能するんじゃぞ」
「美味しい料理……そうだ、美味しい料理と言えば!」
大仰に頷くカンナの言葉にわんこが瞳を煌めかせる。その瞳の煌めきが『いい意味』であるかどうかを彼女の愛猫はよく理解していた。
「じゃあ、だるまさんがころんだして負けた人の奢りで焼肉!」
びしりと指さした彼女の言葉に笑み滲ませて――かみさまごっこはもう、おしまい。
作者:菖蒲 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年3月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 14
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