星の柩

    作者:那珂川未来

    ●禍の星が落ちた場所
     お伽噺のような噂話だった。
     其処に込められている意図は、優しさなのか、悲しみなのか、或は何かの風刺であるのかさえもわからない。
     それは、と語り始めるサフィ・パール(星のたまご・d10067)は、まるで子供を寝かしつける様に穏やかに。
    「えと……遥か銀河の真ん中、初代星、とも言われた年老いた星の神様、いたです、よ。初代星様は自分の光、力、切り分けて、柔らかな光のゆりかご作ったです……新しい時代、新しい星達に託したらよさそ、神様そう思ったようです、ね」
     ――そして。
     たくさんの赤ちゃん星は、皆きらきらと青白く美しい光を放って、暗い宇宙に輝きを満たし始めました。けれど、たった一人。光を持たぬ星の子がいました。その子は名をコラプスといい、輝く兄弟達の光を捻じ曲げ消し去ってしまう力を持っていた故に、禍を呼ぶ星として怖れられ、初代星の残した星屑を固めて作った迷路に幽閉されると、そのまま宇宙の彼方へと追放されたのです。
    「幾年も、幾年も、その迷宮は宇宙の彼方を流れ、流れ続けて。そうして――」
     今此処に繋がってしまったんだね、と一緒に来たレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)は、サフィと共に社を見あげた。
     外から見るには、何の変哲もない小さな農村の小さな神社だ。
     けれど、扉を開けたら。
     きらきらきら。
     初代星の残した星の光の欠片がふわりと霞むその向こうは、延々と続く廊下。あんな小さな社の中のどこにこんな空間があるのかと思う程。
    「……コラプスのお星さま、おじゃましても、よいでしょか?」
     サフィは、はにかむように微笑みながら、何処かに居るはずのコラプスへと挨拶する。
    『だめ……』
     近いようで遠いような、何処から響いたのかわからない少年の声が耳に届く。
    「どうしてでしょか?」
    『僕の近くに来ると消えちゃうから』
    「わたしたち、消えません。コラプスさん、助けに来たからです」
    『そんなの無理だよ……。みんな、消えちゃう……』
     ここで自分(灼滅者)とコラプス(都市伝説)の関係を言ったところで理解してくれるわけもない。ただ、サフィは、ふんわりと微笑むと。
    「わたしたち、知ってるですよ。コラプスさん、ひかり、たくさん手に入れたら、新しい星になれるです、よ。初代星さんの星屑のひかりだけだと足りないの、星の神様がおしえてくれましたから……」
     いつものようにおどおどしているサフィには珍しい、はっきりとした口調で、コラプスに訴える。
    『ひかり?』
    「……はい。ひかり、です。わたしたちの持ってるひかり……。コラプスさんの力、わたしたち死にません。耐えられるだけのちから、あるです。この星屑の迷路も、わたしたち力合わせればコラプスさんの居る場所、辿り着けるです」
     そう。この噂話。たくさんの光を身に浴びれば、コラプスは星になれるのだと――そういうお話。宇宙の星の一生に準えた、儚いお話。

     一人ぼっちの貴方。
     たくさんのひかりを持って、今其処へ行きます――。


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)
    各務・樹(カンパニュラ・d02313)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    青和・イチ(藍色夜灯・d08927)
    サフィ・パール(星のたまご・d10067)
    仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)
    フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)

    ■リプレイ

    ●Labyrinth of the star
     古めかしい、宮造りの床板が鳴らすのは奥ゆかしげな風情の音。
     仕掛けに対する好奇心は勿論、けれど仄かな隙間風の冷たさに思い出す記憶に何処か近しいものを感じて――桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)は、そっとハンチングの鍔に触れた。
    (「誰も傷付けぬ様に一人でいるなんて淋しいよな」)
     南守も物心ついた時、一人だった。その時感じた不安は、今も覚えている。
     掌に在る小さな見えない「ひかり」を思い出しながら、コラプスにもそんな温かい「ひかり」を届けてあげたいと切に思う。
     物珍しいのか、興奮気味に先走っちゃう霊犬・エルの後を、はわはわと追いかけるサフィ・パール(星のたまご・d10067)。跳ねては隠しスイッチに触れないかハラハラ、駆けては分断されないかとヒヤヒヤ。
    「あまりはしゃいで迷惑かけたら、めっ、ですよ」
     ようやく緩んだエルの速度に、やっとの思いで後ろから抱える様にしたとき、
    「ふわ……宇宙です!」
     神秘的光景にフリル・インレアン(小学生人狼・d32564)の興奮気味の声が響く。
    「素敵な所ですね」
    「夜の草原、星の海……迷宮と言っても、狭い所ばかりではないかな……とは思いましたが……」
     フリルに頷き返し、サフィもときめきをそっと滲ませて。
     各務・樹(カンパニュラ・d02313)は星の空間や星屑を細かく観察しながら。
    「透明で見にくいけれど、ちゃんと通路になっているようね。このとても薄い雲みたいな……ガス星雲、なのかしら? 見えにくいけれどこれが道のようなもので、入り組んでいるみたいね」
     構造自体分かり辛いけれど、風景があるぶん方角やゴールはわかりやすい。
     しかも。
    「大がかりな仕掛けもあるようですよ! 大きな振り子があるです!」
     星間を渡るなんてファンタジックですよねとはしゃぐ仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)に、華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)は淑やかに微笑み返しながら。
    「銀河を冒険できるなんて胸が躍りますよね、聖也さん。けれどちょっとした罠があるかもしれませんし、気をつけましょうか」
     幽閉ですから迷宮だけが拒むシステムではないかもしれませんと、紅緋が何の気なしに言ったなら。
    「……まぁ迷宮には仕掛けが付き物だよね」
    「わんっ」
     無表情ながらも、ふかーく頷く青和・イチ(藍色夜灯・d08927)と、霊犬・くろ丸。
    「……罠があるかも?」
     当り前だがシーフもいなけりゃ10フィートくらいの例の棒なんて落ちてるわけもなく。そこはかとなく感じる様式美(おやくそく)臭の中、風真・和弥(風牙・d03497)はやけにシリアスで年季の入った影のエフェクトを顔にこしらえながら笑むと、
    「――ふ。俺に任せろ」
     全力漢探知の構えを、男前に言ってのける和弥の姿がここに在った――瞬間カチッ☆
    「……あ」
     いきなりかい。
     広大な宇宙につい魅入ってしまったイチが足元のドクロスイッチぽちっとな。
    「これは、コラプス解放を阻止しようとする迷宮の罠っ!?」
     落ちる天井に大げさに慌てるレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)の真横を華麗に横切るその影は。
    「俺が!」
     くわりと目血走らせ、
    「10フィート棒に!」
     何故か全力ナナメ45度の角度で、
    「なってくれるッ!!」
     ある意味つっかえ棒的勢いの和弥さんと、
    「皆こっちに跳んで」
     的確な声掛けをする樹さん。
     そして案の定、和弥が後頭部打って床と抱き合っているものだから、
    「わうっ!」
     落下を阻止しようと、吊り天井厳つく見据えるくろ丸(女の子)!
    「は、くろ丸」
    「いや無理だって!」
     イチが、サンドイッチ状態になったくろ丸が目を回す未来を幻視した刹那、咄嗟ずさーっと滑りながらリターンして、南守は三七式歩兵銃『桜火』を差しこんでくろ丸のフォロー。
     ――ガゴン……。
    「なんとか……止まったな」
     スリスリするくろ丸に和みつつ、安堵の息をついた南守ですが、
    「……これ、どうやって外そう」
     未だ床と抱き合っている和弥と、愛銃がっちりハマっちゃってる様に苦笑い。
    「……せ、責任持って解除スイッチ、さ、探すから……」
     イチは顔を覆うしかない。

    ●Candy
     暗闇に尾を引く、幾つもの星の群れ。
    「やっと振子の傍まで近づきましたね!」
     星屑の迷宮の中間点言うべき場所までようやく辿り着いた聖也は、ゆったりと揺れる星の振子が描く彗星の様な軌跡の美しさに、感嘆の声をあげた。
     すると、何光年も向こうにある輝きの流れに突如現れる渦。七色の靡きは星が湖面に落ちた様でありながらも、広がってゆく波紋は波のように此処まで広がってくる。
    「綺麗すぎて、吸い込まれちまいそうだな」
    「星の細波、聞こえそ、ですね……」
     南守は思わず溜息。サフィも立ち止まって目を閉じ、耳を澄ませる。いつもは星の動きに読む言葉だけれど、此処では直接音に聞こえてきそうで。
     恋人の拓馬と空飛ぶ箒で並走していたが一旦止まると、彼の肩に寄り添いながら樹は星の海を見下ろす幻想に目を細めて。
    「綺麗……」
     零れる溜息が漂う星屑に触れれば、息吹に舞い、遠い恒星の光を受けて煌めく様は美しい。
    「星屑で作られた世界か……不思議でおもしろいけど、少し寂しく感じてしまうかな」
     彼女の溜息に舞い踊る星屑が、いずれは飛散してゆくのを拓馬は見送りながら呟いた。
     そんな、彼方から寄せる星の波に乗って、
    「金平糖みたいなのがいっぱい流れてきているのです!」
     しかも、地上の一部が切り離されて、宇宙まで飛んで行ってしまった名残のような森の島まで運んできて、まさにファンタジーな景色に、指差しはしゃぐ聖也を、紅緋は微笑ましげに見つめながら、
    「波を渡る振子の橋。向こうには森の島――ますます冒険らしくなってきましたね!」
    「それに綺麗なのです!」
     金平糖のキュートさに、聖也は魅入っていたのだけれど……あれあれ、視界を埋める金平糖の大きいこと!
    「わーっ!?」
     潰されるーと叫ぶ聖也!
    「あの島へ飛び移りますよ!」
    「ここは俺に任せて先へ行け……」
     咄嗟に手を引く紅緋!
     和弥はずさーっと幾つもの金平糖の前に立ちふさがると、仲間の危機に必殺の剣技を以てこの難局を乗り切るつもりの顔付き。根拠はないけどとにかくすごい自信だ――!
     からの、
     グシャッ☆
    「ご、ごめんなのですぅ!?」
    「ふ、無事で何より……」
     和弥は聖也へと、流血にプルプルしながらもサムズアップしてみせた。

    ●Space swimming
     森の迷路を彷徨った先、高い石壁の前に厳格な佇まいの石像一つ。背には扉を。
    『先行きたくば、謎に答えよ』
     物々しい声色に、フリルははぅと息を飲み、南守の顔付きは真剣になる。いかにも正解の路であろうこの場所、失敗のペナルティを考えれば当然なのだが――。
    『ホシはホシでも食せるホシは何か――』

     ………………、
     アレ?

     構えてたわりに、微妙な表情になっちゃっう程度には、フツーのなぞなぞだったわけで!
    「うめぼし!」
    「にぼしです!」
     南守とフリルがスパーンと答えるなら。
    『……行くがよい』
     ずずずと音を立て、扉の前から退いてくれる石像。とうとう振子に辿り着く。
     紅緋は大好きな人だけに見せる様な、子供っぽい笑みを向けて。聖也は紅緋と手を繋ぐと、せーので振子へと飛び乗って。
     星屑の流れに髪を靡かせながら。勢いよく対岸へとジャンプする。
     予想していないところで重力が途切れていたりしているらしく、ゆっくり落ちてゆく最中、紅緋はふんわりとひらめくスカートを押さえながら華麗に着地。
    「はは、楽しいな、これ!」
    「遊園地のバイキング気分?」
     重力にぶつかり合い、熱を帯び、成長してゆく様は美しくも厳しい宇宙の光景を、南守は振子に揺られつつ動画や写メに撮り。イチは遊園地の様な振子の揺れに合わせ、くろ丸と一緒に無重力と重力の世界を慣性のままに跳ぶ。
     ポンポン飛び移ってゆく皆さま。運動系仕掛け故に焦り始めるサフィとフリル。やんちゃなエルは先に振子に飛び移って、早くおいでよーと尻尾ふりり♪
    「わ、私も。ここは覚悟を決めて飛び移ろうと思います」
     年上らしくフリルが先にチャレンジ!
     が!
    「ふぁ?」
     華麗にタイミング外す!
    「ふ、フリルさんっ……!?」
     あせあせしながら、崖っぷちを覗きこめば。
    「……えと、なんとか大丈夫のようです」
     宇宙空間をぷかぷか浮いているフリルの姿。
     無重力ってステキ。
     もう無理する意味が感じられず、サフィは跨いだ箒に風を纏うと、フリルと一緒に対岸へ。

    ●gamma‐ray burst
     樹と拓馬が見つけた光の鍵よって、重苦しい玄室が世界との接触した瞬間――ぴりりと来る痛み。暗黒が濃い故に、光は生彩だった。
     まるで生命のひかりは流れる水のように幾つもの筋を描きながら、一点へと流れ消えている。一つ一つが輝く花の花弁にも見え。きらきらと舞う星屑は匂い立つ花の命の輝きの様に――。
     けれど、それは罪の形として追い出された力。
     光のない玄室に、フリルは不気味さや恐怖を感じずにはいられない。そして自分から絞り取られてゆくひかりという名の活力が、細く流れてゆく様を見つめながら。
    (「こんな力を持ってしまったコラプスさんは、周りから疎まれてしまったのでしょうね……」)
     かわいそうです、と。心の中で囁く。
     けれど同情は惨めにさせるだけ。今必要なものはひかりだから。誰かを癒そうとする、その気持をひかりに変えようと決意する。
    『来ちゃったんだ……』
     どうしたらいいのかわからない、そんな顔で呟くコラプスは、地に流れるほど長い黒髪を持つ幼い姿であるが、至る所に真黒な渦が巻いていて、其処から辺りに漂う星屑の輝きを吸いこんでいる。異様な重力に光は引き伸ばされ、時間すら歪んでいるように見えた。
    (「……やっぱコラプサー(ブラックホールの旧名)の事だったのか」)
     痛みを身に感じながら、イチは思った。なら「ひかり」を与える意味も、わかる。
     たくさん吸い込んだ先にどうなるのか、今ははっきり解明されていないけれど――ただ間違いなくわかることがある。コラプスにだって限界があるという事。
    「この気流は降着円盤? 気をつけてくださいね、聖也さん」
     紅緋も、相手がブラックホールという天体であると予感はしていたのだろう。超重力の余波から聖也へ気遣うように。
    『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……』
     自分を抑えられないもどかしさや傷付けて怖れられる恐怖に後ずさるコラプスへ、イチは大丈夫と傍により、同じ目線まで屈んだ。
    「暗い所に居るのは……禍なんて言われるのは……一人ぼっちは……寂しいよね」
    「誰かを傷つけてしまうことに怯えてずっとひとりでいたんでしょう? 大丈夫よ、わたしたちはあなたといても倒れはしないから、安心してあなたのことを話してちょうだい」
     笑いかける樹が胸に抱くエキザカムは、拓馬との誓い。その、とてもあたたかなひかりを手にしていれば、傷なんて気にもならない。
     はい、と。
     樹はエキザカムから炎を生みだすと、いつもなら敵に迸らせるそれを、差し出すように。
    『あ……』
     けれど、すぐに吸い込まれて消えてしまうひかり。消してしまった罪にまた顔をくしゃりと歪めるけれど。
    「大丈夫。私たちのひかりは消えない」
     愛しい人のつながりからもたらされるひかりは、永遠であるから。
    「俺達はお前の未来を変える為に来たんだ」
     南守は、いつも弟妹に見せる様な、お兄さんらしい頼もしい輝きを見せ。
    「ほら、ここまでの探検」
     一枚一枚ゆっくりスライドさせながら。きっと暗黒の中に居たコラプスには初めてだろう景色を、南守は撮りためたスマホの写真を見せてあげる。
    「ワクワクしたよ。すげー楽しかった。そんな気持ちになれたのは、お前がここに居てくれたからだよ。お前は人を傷付けるだけじゃない、こんなに輝く思い出をくれる存在なんだ」
     楽しいという気持。
     素敵な思い出。
     そして、世界という「ひかり」。
     南守の言葉に心揺さぶられる様にようやく顔をあげるコラプスは、故郷であろう世界の眩しさに、驚きと羨望を映す。
    「もちろん、俺達はお前が望んでいる事を手助けしたい。お前は光れる、輝ける。その為の希望の光を届けに来たんだ!」
    「目一杯、光を持ってきたんだ。受け取ってくれる?」
     イチはまずビー玉を一つ取り出し、
    「覗くとね、光の世界が見えるよ」
     南守の掲げる照明の光と重ねて。
    『わぁ……』
     プリズムの様に硝子の中に映る輝きに、コラプスは無意識に触れようと、手を伸ばしかけた時。その力で、ビー玉が壊れてしまう。
     泣きそうになるコラプスであったけれど。イチは何でもない様にまた、ビー玉一つ。
    「僕も暗い所に居たから分かる。とても寂しい――でも……誰かが心に居ると、光が見えるんだ」
     そう言って、ビー玉を天にかざす様にしてみせたら。
     きらきらと強い光が硝子の結晶の中を泳ぎだす。
    『――赤いひかりになった! 綺麗……』
     イチの言葉に説得力を持たせる様に、和弥が上手い具合に、レンズと懐中電灯を使ってビー玉にぴかぴかか反射する星のような輝きを作り出す。
     そんな光にしばし見入っていたコラプスは、あることに気づいて。
    『遠くに赤い何か、ある?』
    「お前が目指している星の象徴。日長石という」
     実は和弥、日長石が硝子越しに見える様な角度に仕込んでいたらしい。この光も持ってけと、輝石の輝きをコラプスの胸へと放った。
    「一番届けたいのは……心に灯る「ひかり」。僕の心の光は……仲間、友達。想うだけで、心が輝く光なんだ」
     天藍の雫、ほしあらわ、夢現――イチを想ってくれる人たちからの願いの光と同じように、届けたい何もかもの根底に心というひかりがあると。
    「例えばそれは、私が出せる『ひかり』は、赤く輝く風。いつも仲間を癒す力です」
    「これは私がみんなを護るための、夢金龍異空の杖なのです!」
     星屑が、紅緋の風に乗って舞い踊る美しさ。
     聖也のロッドが弾く光は、邪悪なものを寄せ付けぬ強さ。
     全て灼滅者であるからこそ与えられるひかり。
    「そして――」
    「ふぁむっ……?」
     紅緋が聖也との愛で輝きを灯そうと口づけを。
    『ねぇ僕、星になれる?』
     誰もが一生懸命になってくれる。その気持を感じ取ったコラプスがそう問いかけるから。サフィはふんわり笑い掛け、
    「なれるです、よ」
     サフィはそっと、コラプスの手を取った。
     吃驚したようにコラプスは声をあげ、ふるふると首を振りながら血が出ちゃうから放してと訴えるけれど。
     サフイは肌に奔る痛みを感じさせないように、ただにこにこしたまま。
    「ダディ、マミィ、グランマ。手を引かれ歩いた夜――特別な日で無かったですが、あのあたたかさ……ずっとずっと、覚えてます」
     百億の星が降る――。
     幻想の弦から放たれた数多のひかりは、サフィがずっと見つめ続けた空そのもの。
     一人で見た星も。
     誰かと見た星も。
     いつも見てる星も。
     お出かけして見た星も――。
     輝きだけでなく、こめられた祈り、託された願い、夢、悲しみ、希望、涙――楽しいことも辛いことも、分かち合ったキオクの中の色々なひかりが詰まっている。
    「大好きな人。大好きな時間。それが私のお星さま、です。ちょっとヘンな話ですが、私たち、今だけはコラプスさんの希望の星になれたらいいな、思うです」
     コラプスとサフィの手の隙間から、ぼたぼたと血が落ちてゆく。混じるように、光の雫も。
     そんな血と光の軌跡を見ながら、コラプスは言った。
    『……あったかい……ひかり、あったかいんだね』
     その痛みを乗り越えて、自分の為にくれるひかりをたくさん吸い込んだコラプスの体から落ちているものの意味をイチは予測して――そっとコラプスの耳元へ約束を囁いた後、天を仰ぐ。
     いっぱい、いっぱい、身に抱えきれないほどのひかりを貰ったコラプスは。忌まわしき暗黒という粒子と、あたたかい光という反粒子がぶつかりあった結果、対消滅を起こす。
     ブラックホールの崩壊が始まった。
    『……僕星に……なれてる……か、なぁ……?』
     重力の崩壊と共に塵に変化してゆくも、その表情はとても嬉しそうだった。
    「ああ、なっている。間違いなく」
     南守は、超重力という名の戒めから解放されたコラプスの粒子が、青い輝きを伴いながら再構築されてゆく様を見ながら、力強く頷いた。
     そう、星は。
     爆発して新しい星を生みだす。
    「今度はあなたが誰かにそのひかりを伝えてね。きっと届くから、そう信じてるわ」
    『う、ん……かな……ら、ず……!』
     樹から月閃月虹の友との絆というひかりを受け取りながら。コラプスは眩いばかりの蒼い輝きと共に上昇を始める。
    「これが最後の餞別、俺の刀は、天を貫く刀だ!」
     道を開く様に、和弥は都市伝説という名の檻の天頂へと、風牙を投げ放った――。

    ●Star blaze
     見上げれば満天のお星さま。
    「コラプスさんの事、すぐに見つけられたのです」
     サフィの目に映る蒼く美しい綺羅星。ずっと見ている空に知らぬ星が在るなら、それは間違いなく。
     ――僕、君の友達になりたい。
     空を見て、いつでも君の事思い出すよ――。
     イチは、そっと唇だけで約束を反芻する。
     その瞬きは、有難うと囁いているようだった。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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