とりもち

    作者:聖山葵

    「もっちぃぃぴよぴょぴょぴぃぃぃ!」
     謎の奇声を発したのは誰がどう見ても真っ当な人ではなかった。鳥を模したマスクと一体型のマントを風にたなびかせ、両手に持った棒の先には粘着質の白い塊にパンツやらブラジャーがくっついている。一見すると覆面レスラーにも見えるが、こんな変態がレスラーな訳はないだろう。
    「くくく、随分下着もたまってきたぴよもちぃ。この調子で通りすがりの女性から下着を奪い取り、それをもてない男達に分配、そうやって支持を集めてなんやかんやで世界征服もちぃぴよぉぉぉ!」
     つっこみどころしかない野望をぶちまけるそれは、言い分からするとご当地怪人なのか。
    「おっと、どうやらまた獲物が来たもちぃぴよね。結構結構。では、このご当地開示鳥モッチアの鳥もち棒の餌食になっていただくもちぃぴよ!」
    「っ、いけねぇ!」
     変態的犯罪行為をやらかすべく動き出したご当地怪人を放置は出来ず我に返った神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)は慌てて追いかけるも。
    「きゃーっ」
    「ふはは下着取ったりもちぃっ!」
    「ごぶうぇぃ!」
     追いついた先で女の子が下着を取られる光景を目にしてしまい、ぶっ倒れたのだった。

    「えーと……それで、気が付いたらご当地怪人は影も形も無かったんだ?」
    「……はい」
     三成の話を聞き終えた鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は、前もこんな事なかったっけと首をかしげた。
    「ま、いいや。えーっと、何だか変態ご当地怪人がでたみたいでさ」
     このまま放置すれば人気のない夜道で下着を奪われてしまう犠牲者が出てしまうかもしないのだとか。
    「流石に放置出来ないから何とかしようって話なんだけど……」
     エクスブレインが不在の為、頼りになるのは三成の目撃情報のみ。
    「うん、下着取られた女の子見て気絶しちゃったらしいから――」
     わかるのは容姿と遭遇した場所、目的ぐらいなのだとか。
    「辻下着強奪やってるみたいだから、目撃場所近くの近くの人気のない道とかを囮の人に歩いて貰えば接触は可能だと思うけど」
     問題は人選だ。和馬も三成も性別上男である。
    「あるぇ? ひょっとして、これオイラが女装しなきゃいけないの?」
     もちろん、君が女性ならかわりに囮になっても良いし、男性でも女装すれば囮にはなれるだろう。ただ、立候補者が居なければ和馬が囮になることは充分あり得て。
    「それで、上手くおびき出して戦闘になった場合ですが……」
     和馬がフリーズしてしまう中、三成は説明を引き継ぐ。
    「手にした鳥もち棒を使って攻撃してくると思います。長モノですから妖の槍のサイキックか、鳥もち部分で影業のサイキックに似た攻撃をしてくるかも知れません」
     これに加えて、ご当地怪人ならご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃も可能と思われる。尚、戦場となるであろう人気のない路地だが、街灯によって三成が下着を奪われる光景を目撃して気絶出来るぐらいの明るさはあるらしく、明かりを持ち込む必要はない。人気もないとは思われるが、心配なら人よけのESPを用意して行けばいいだろう。
    「だいたいそんなところでしょうか」
    「って、あれ? そう言えばはるひ姉ちゃん居ないし、その変態がただのご当地怪人か闇もちぃしかけの人かわかんないけど、説得とかはいいの?」
     纏めようとしたところで、ようやく再起動した和馬が疑問を口にするも。
    「説得、要ります?」
    「あー、えっと……ごめん、堕ちかけのはずないよね」
     逆に聞かれて頭を振り、自ら否定する。
    「ともあれ、そんな変態野放しに出来ないからさ」
     力を貸して欲しいんだと和馬は君達に協力を求めたのだった。


    参加者
    高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681)
    アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)
    望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)
    真中・翼(大学生サウンドソルジャー・d24037)
    ヴォルフ・アイオンハート(蒼き紫苑の涙・d27817)
    華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)
    吾門・里緒(リンゴもっちぁ・d37124)
    柊・静夜(中学生七不思議使い・d37574)

    ■リプレイ

    ●そういうもの
    「鳥もちか、何処のモッチアなんだろうな?」
     首を傾げる望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)にさぁと応じたのは、誰だったか。葵からすれば鳥もちのご当地はノーマークだったが、そもそも食えるものなのか。
    「噂に聞くもっちあは『もち』と付けば何でも出る、のか?」
    「ん? あー、モチノキのモッチアって例もあったし、とりあえず食べ物に限らない事だけは確定してるんだぜ」
     嫌な予感がするが聞かざるを得ないと言った表情のヴォルフ・アイオンハート(蒼き紫苑の涙・d27817)に部活の先輩を思い出した葵は答えた。
    「ああ、いやそう言う事を聞いた訳じゃないんだが……モチノキ、か」
     もっとも、ヴォルフの心配を解消する答えではなかった様だがそれはそれ。
    「……切り餅の次はとり餅ですか、なんでその行動で男性からの指示を集められると思ったのでしょうか」
    「むぅ」
     両者同様にアルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)が疑問を口にすれば、憤る灼滅者が約一名。
    (「とりもちの使い方もそうですが、何と言っても女性の下着の愛で方を間違え過ぎです!」)
     きっと、高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681)にとって看過出来ないことであったのだろう。
    「久しぶりの闇もっちぃ依頼だもっちぃ。今回は……闇もちぁを救助と更生させるべく頑張るもっちぃ!」
    「っ」
     まぁ、気合い充分という意味では、誰かに向けての説明の様な独り言を漏らしつつ荒ぶる華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)も負けては居ないか。ぐっと腕を高く突き上げれば、大きな胸が弾みで揺れて耐性のない真中・翼(大学生サウンドソルジャー・d24037)が慌てて目を逸らした。
    「玲子ちゃんも凄いけど、成長期は怖いべさ」
     吾門・里緒(リンゴもっちぁ・d37124)曰く、胸とお尻の成長力が逞しすぎて着るものに困る事態だそうで、それは先輩である玲子にも言えることらしい。ぼやきつつ囮用の衣装を取り出すと、まあそれはそれとしてと話題を変え、苦笑する。
    「初めてのもっちぁ依頼だべ。えーと、相手は変態たべか?」
     間違ってはいない。極めて正しく問題のご当地怪人を指す単語に、翼は一人困惑する。
    (「ご当地怪人とは初めて戦うけど、こういう風に妙なことしでかす奴が多いのか……?」)
     声に出して言ったなら、きっと何らかの反応が見られただろう。集まった灼滅者の内、葵、玲子、里緒は三人ともご当地怪人になりかけているところを助けられたのだから。
    「辻下着泥棒なんで言葉初めて聞いたけど……もうちょっとマシな行動は思いつかなかったんだろうか?」
    「まぁ、ご当地怪人にも色々あるべさ」
     かわりに口をついて出た疑問に、ポンと翼の肩を叩いた里緒が首を左右に振ってみせる。
    「それはどう」
    「深く聞いちゃ駄目なんだぜ」
    「もっちぃ」
     闇堕ちは時として当人にとっての黒歴史となる。
    「女装で囮しなくて済んだのは俺も和馬も助かるけどアルゲーや静夜は大丈夫か?」
     だからだろうか、葵は話題を逸らそうとするかの様に歩き出したアルゲーや怪談を話して一般人除けをしてからこれに続こうとする柊・静夜(中学生七不思議使い・d37574)の方を見やり。
    「葵様ぁぁぁっ」
    「あ」
     くるりと向きを変え、大きな胸を揺れ弾ませながら駆け寄ってくる静夜を知覚した瞬間、自分の失敗を悟った。ヴォルフが念のためにとサウンドシャッターを行使していたが、このESP、戦闘中の音を遮断するモノであるので、戦闘が始まっていない時は防音効果など全くない。
    「お、落ち着んっ」
     だから、葵の言葉を遮ったのは押しつけられた柔らかな胸であった。

    ●現れるそれ
    「……今回は和馬くんを囮にしなくて済んだのは安心ですね」
     ちらりと囮とは距離を置いて居るであろう他の仲間達の方を振り返り、アルゲーは呟く。
    「おーっほっほっほ! 女性の下着を狙いそれで人気アップなんてこの柊・静夜が阻止してみせますわ!」
     思い人を押し倒し、抱擁で窒息寸前まで持っていった静夜は、今最高に気分がよろしくてよと上機嫌で高笑いをあげつつ宣言して見せ。
    「なしておらがこんな格好を……」
     静夜は逆にかなり沈んだトーンの声で過激なボディコン衣装の里緒はアスファルトに視線を落とす。玲子の用意した物で自前ではないとは、里緒当人の弁だが、下手な姿勢を取ると黒い下着がチラチラ見えてしまう過激な格好に囮組が出発するまで背中を向けっぱなしの灼滅者を作り出した程だった。
    「もっちぃぃぴよぴょぴょぴぃぃぃ!」
     ただ、組み合わせ的には最適解に近かったのだろう。謎の覆面レスラーがコーナーポストの上に立つ姿よろしく空き地を囲う色あせたロープが巻き付けられた木の杭の上で奇声を上げたそれは跳躍し、里緒の前に降り立った。
    「短いスカートとは好都合、早速一枚目を頂――」
     流れる様にピチピチのスカートの中へとりもち付きの棒をつき入れようとする姿は、完全にアウト、だが。
    「もっちぃぃ!」
    「もちゃびょっ?!」
     意識しない方向からぶつかってきた凶悪で柔らかな質量兵器による不意打ちを受けた変態はもんどり打って鳥覆面に包まれた頭から草むらに突っ込んだのだった。
    「う、うぐっ」
    「おーっほっほっほ! その鳥もちを使った悪行もそこまでですわ」
     玲子のぶちかましで吹っ飛び、身を起こそうとするご当地怪人の前へ静夜は進み出るとビシッと指を突きつけ。
    「変身! 仮面車掌電王・八高レディ、今日はプリンセスモードで参上♪」
     ESPで姿を変えた八王子が街灯で照らし出されたアスファルトの上に降り立つ。
    「其処に座るもっちぃ」
     この時、変態ご当地怪人は有無を言わさず他の灼滅者に正座させられようとしており、八王子の変身に気づいたかは定かではない。
    「お主は世の男性を救いたい鳥もち怪人なのか下着泥棒なのかどっち?」
     ただ、眼前で始まった怪人へのお説教は、八王子やヴォルフにとって好都合でもあった。
    「そうでち、なんと言ってもあなたは女性の下着の愛で方を間違え過ぎです!」
    「とりもちと言ったら狩猟道具だがそんな犯罪に使う物じゃねぇ。下着を奪い取り男に配布だ? それで被害に遭う女性の気持ちを考えた事があるか?」
     お説教に乗っかるという意味合いでは。
    「逃げようとはしないことだべ」
     もし怪人が力ずくでこの事態をどうこうしようにも影の触手をユラユラさせる里緒が捕縛のためにスタンバっており。
    「この展開何かしら懐かしいべさ」
     零れ出た呟きに納得した様な表情をしたのは、闇もちぃしかけていた里緒を救出した灼滅者の誰かか。ともあれ、囮の灼滅者達が下着を奪われる危険はかなり遠ざかり。
    「ただ、下着を奪われたショックという口実で葵様に甘える機会を逸し……何でもなくてよ」
    「何だか不穏な独り言が聞こえた気がするんだぜ。ん? アルゲーどうしたんだ?」
     静夜の独り言に顔をひきつらせた葵は急に顔を上げたクラスメイトに訝しみ。
    「……な、何でもありません」
     ぶんぶん頭を振るアルゲーの顔は真っ赤だった。
    「何にしても、お色気系な展開にならなかったのは」
    「まぁ、幸いだな」
     その一方で密かに胸をなで下ろすのは、翼とヴォルフ。
    「こそこそちまちまと鳥もちを扱い、恥ずかしくないかもっちぃか?」
     まだ説教は続いている様だったが、続いているからこそ安堵したのだろう。
    「その力、犯罪に使うのではなく道具本来の用途、『狩り』に使う物だろう。だったらその力で犯罪を行う者を狩るのが本来の使うべき力じゃないのか?」
     ヴォルフは、再び説教に加わり。
    「そ、それはもちぃぴよっ」
    「男気魅せてここにいる女性群の下着を命懸けてとる根性ないともっちぁはやれないね」
     気圧される変態怪人を前に、荒ぶる玲子は力説する。
    「「な」」
     想定外の方向に転がった話に思わず声を上げる男性二名。
    「はっ」
     弾かれた様に顔を上げた変態一名。
    「そ、そうもちぃぴよな。一、二、三、こんなに沢山の女の子がいるのに下着をとらないのはおかしいもっちぃぴょっ」
    「「ちょっと待てぇぇぇっ!」」
     感銘を受けたらしく怪人が納得すれば、不穏な流れに良しとしない灼滅者達がたまらず叫んだ。
    「と言うか、今のカウントオイラまで女の子扱いしてなかった?」
     性別和馬が何か零すも、それ以前の問題であり。
    「あなたは間違っています! 真に下着を愛で、仲間を得たいのなら、パンチラアクションこそが、唯一の選択肢であり、正義です!」
    「ぱ、パンチラ?」
     八王子の指摘が事態を更にややこしくしたのだった。

    ●下着でみんなに笑顔を
    「つまり、こういう事もちぃな? 『まず下着をチラッと露出させ、恥ずかしがっている隙をついてとりもちで下着を奪ってしまえばいい、女の子全員分奪ってミッションコンプリート』と」
     何をどうすればそうなるとツッコミを入れるのは酷か、これまでの説得を加味したならば。
    「だったら、まずはパンチラさせて貰も゛ぢゃぴょばっ」
     早速行動に移ろうとした怪人は翼が指輪から放った魔法弾を顔面に受けてひっくり返る。
    「……被害者を出しておきながら反省の色はなし、か」
     しかも更に犠牲者を出そうというのだ、翼は怒っていた。
    「ぐ、もちぃ」
    「さっさと捕まえるか。これ以上女性に被害出す訳にはいかんから、な」
     覆面を片手で押さえて身を起こそうとする変態から視線を逸らさず、ヴォルフは膝を屈める。変態行為を行おうとすれば、アスファルトを蹴って跳び蹴りを見舞い妨害するつもりであり。
    「今更だけど、名前はあんのかな?」
    「よくぞ聞いたもちぃ。ご当地怪人、マスクドとりモッチア、もっちぃぴよぉばびゃーっ?!」
     葵の言葉に名乗りを上げポーズをとった変態は重力と星の煌めきを宿した跳び蹴りを食らって、身体をくの字に折りつつ吹っ飛んだ。
    「あ」
     きっと、名乗りのポーズを作る動きを変態行為に移ろうとする前動作と間違えたのだろう。
    「天候によってダイヤが乱れることもあるように、ときとして偶然にハプニングは起こる。仕方ないことでち。まぁ、そんなことより、好機です、その性根、叩き直してやるでち♪」
    「も、もぢゃ、ちょ、止め」
     お腹を押さえつつ、制止しようと変態は手を突き出そうとするも、八王子は止まらなかった。
    「JRはち光線」
    「ぎゃーっ」
     ビームに撃たれた怪人はごろごろ転がるも、転げた先に待っていたのは里緒の足。たまたま足下に転がって行く形になってしまったのだろうが、端から見れば真下からミニスカートの中を覗き込んでいる様にしかとれず。
    「……完全に変態ですね、ご当地らしくもないですし」
     ステロとビハインドの名を呼んだアルゲーは思い人と自分の守りを任せると、ウロボロスブレイドを手に思い人の名を呼んだ。
    「あ、うん」
    「ジョン、俺達も合わせていくんだぜ!」
     頷く和馬が殲術道具を向けるのとほぼ同時に、霊犬へ呼びかけた葵が槍の妖気を氷柱に変えて飛ばす。
    「ご、誤かもじゃびょーっ」
     袋叩きだった。刺すか斬る攻撃が殆どであることを鑑みれば叩くという表現はおかしいかも知れないが、状況を端的に示せば袋叩き以外のなにものでもない。
    「ボディコンは動きづらいべよ」
     スカートの端を片手で押さえつつ、もう一方の腕を巨大化させた里緒は不満を口にしつつも、容赦なく異形化した巨腕で変態を殴りつけた。もちろん、灼滅者達の攻撃はまだ終わらない。
    「いくのよ、白餅さん」
    「ナノッ」
     腕の下敷きになった変態を狙って帯を射出する主の声に呼応したナノナノの白餅さんがたつまきを起こして支援する、春風さんの意地悪的な感じで。
    「ちょ、なんだべっ?!」
    「おお、なかなかのパンチラでち!」
    「俺は見てないぞ!」
     ちょっとだけ見えた黒い下着に八王子が感嘆の声を上げ、ヴォルフは叫び。
    「鳥もちのご当地なのにそれを貶めるとは……恥を知るのですわ!」
    「もべぴょっ」
     集中攻撃に遭うとりモッチアは静夜に槍で突かれて悲鳴をあげる。どう考えても下着を見る余裕はなかった。
    「う、も、もちぃ……おのれ、こんな所では終われるかもっちぃぴよぉぉぉ!」
     それでもズタボロになった身体に鞭打って立ち上がると、とりもち付きの棒を振るう。
    「これで――」
     一矢は報いられると思ったのだろう。
    「誰も盗んだ下着なんて欲しがらないんだぜ! まずはそこに気づくんだな!」
    「な、おも゛っ」
     だが、葵の繰り出した突きに打ち払われたことで伸びるとりもちの軌道はそれ、驚きを浮かべた怪人を霊犬のジョンが斬魔刀で斬り裂き。
    「……被害にあった女性の為にも倒しますよ」
     跳ね上がり見当違いの方向に向かうとりもちの下をくぐってアルゲーが肉迫する。
    「もちぃ、へぺっ。しま」
    「これ以上可愛い人達の下着は狙わせませんわ! 葵様とお揃いのこのサイキックで――」
     ステロの霊撃に続き、今まさに覆面へロケットハンマーが叩き込まれようとする瞬間、静夜が槍の妖気を氷柱に変えて放ち。
    「もぢゃびょっ」
    「巫山戯た所業もこれまでだ、終わらせるぞ!」
    「ああ。相手を止めることも大事だけど、こちらの被害も少ない方がいいからな」
     お色気展開を耐性的な意味でも望まぬヴォルフと翼が殴られたたらを踏む変態へと殲術道具を向けた。
    「援護は任せろ」
    「おう、ならっ」
     翼の援護射撃を受けながらヴォルフは日本刀を振りかぶる。
    「もじゃっびっ」
     早く重い斬撃は怪人の悲鳴と引き替えに傷を刻み。
    「こっちもいくもっちぃ! 吾門ちゃん」
    「わかってるべさ!」
    「ぐ、ちょ、ちょっと待つもっちぃぴよ。ま、まだ」
     傷をおさえた怪人が制止の声をかけるも元モッチアな二人は止まらない。
    「ナノーっ!」
    「え? もぢゃぶ」
     忘れては困るとばかりに白餅さんがシャボン玉を飛ばし、想定外の方向からの攻撃に注意の逸れたご当地怪人を待ち受けるのは、吾門達の攻撃から再開される集中攻撃。
    「ぐ、が……そんな、我が野望がこんな所で尽き……尽きて良いはずがないっもちぃぴよ!」
     ズタボロになりながらも尚、立ち上がって下着を奪おうとするのは変態の意地なのか。
    「一枚、せめて一枚ぐら」
    「この必殺技を胸に、来世は正しく生まれ変わるでち! プリンセスモードパンチラアクションVer、青春18キーーーック!!」
    「もごうべちっ?! む、むねん……も、ごっ」
     痛む身体に鞭打って周囲を見回そうとした変態は八王子の蹴りを胸に受けて吹っ飛ぶと下着をバラ撒きつつ人の姿に戻りながら弧を描いてアスファルトの上に落ちたのだった。

    ●おれはしょうきにもどった
    「……盗まれていたこの下着はどうしましょうか?」
     戦いも終わり、無惨な姿になった女性下着へ視線を落としながらアルゲーが疑問を口にすれば、葵が前に進み出た。
    「俺はクリーニングのESP持って来たからベタベタぐらいなら綺麗に取れるぜ、皆も取るか?」
     仲間達に振り返りつつ尋ねたのは、直接とりもちこうげきを貰わずとも殴ったりぶちかましをかけるなど至近距離でやりあった灼滅者が幾人も居たからだろう。葵の視線は何故か警戒する様に静夜へ注がれていたが、それはそれ。
    「まぁ、わたくしを気遣って頂けるなんて……べ、別に感謝なんてしてあげてもよろしくてよ?」
    「いや、そう言う意味じゃなぶっ」
     お約束と言わんがばかりに視線の意味を勘違いして抱きついてきた静夜の大きな胸に葵の口は塞がれ。
    「おーっほっほっほ! 葵様、私の活躍見てくださりましたか!」
     抱きついたまま尋ねる静夜の問いへの答えは、窒息しそうで苦しいと言う意味合いの腕へのタップだったとか。
    「えーと……助けた方が良いの、ってアルゲーさん?」
    「……え?」
     一応クラスメイトのピンチと言うことで動くべきか和馬が意見を求めようとすれば、ぼーっと葵達の方を見ていたアルゲーは真っ赤に顔を染めて俯き。
    「あっちは色々ある様だけど、何はともあれ助けられて良かったもっちぃ」
    「だべさ」
     そちらを眺めていた玲子の言葉に相づちを打つと、里緒は膝枕する少年へと視線を移した。
    「闇落ちから無事に助け出させて良かった……」
    「覆面してたからわからなかったけど、無駄にイケメンもっちぃね。体格からすると、たぶん高校生もっちぃ」
     まだ意識を取り戻さない少年を観察した玲子はそう評し。
    「気が付いたら学園に誘ってみるもっちぃ」
     と続ければ、八王子が顔をひきつらせた。
    「その人が仲間に?! ……う、うん。きっと大丈夫! ……かな?」
     きっと思うところがあったのだろう。
    「ま、まぁ、気持ちはわかるが……関わった以上、放置も出来ないだろう」
     だが、一瞬でも不安に思ったのは八王子だけではないらしい。ヴォルフも複雑そうな顔で、まだ膝枕されてる少年の方をちらりと見。
    「……俺は、なんてことを」
     数分後、意識を取り戻した少年は世界の終わりの様な顔をして両手と膝をアスファルトの上につき、凹みまくっていた。
    「とてもあの怪人だったとは思えないんだぜ」
    「本来生真面目な性格でその反動が怪人の行動パターンに出たとかそう言うことなのかもな」
     遠巻きに観察されつつ復活するのに暫くの時間を要した少年の名は竜胆寺・元親(りんどうじ・もとちか)。誘いの声をかければ、償うためにも共に行かせて欲しいと即座に言った生真面目なひとでもあった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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