こんな静かな早春の夜は、冷たくもほのかに香る夜風を感じたいのに……。
背後から響くけたたましいエンジン音に、夜の散歩に出ていたニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は眉を顰めた。
「まったく、暴走行為とは……」
珍走団にも困ったものだと息を吐く。
だが、近づいてくる音はエンジン音だけではなかった。重低音を響かせて地面を揺らす振動。
――そして自分に向けられている殺気。
背筋を凍らせたニコは、咄嗟に三角帽子を押さえて踵を返す。
猛スピードで迫ってきていたのは、あろうことかロードローラー。自分を轢き殺そうと向かってくる。
「っ!」
息を吞み咄嗟に跳んでよけたニコ。受け流したオレンジ色のその重機は、重機にあるまじき機敏性で再びこちらを向き直った。
「なに避けてんだよゴルァァ!」
派手なオレンジにかなり刺々しくカスタマイズされたロードローラー。モヒカンヘッドはヤンキー口調で、膝をついて地面に着地したニコをギロリとにらむ。
「……お前……」
立ち上がり顔を上げたニコ。鋭い目で見据えたそれとは以前、色は違えど戦ったことがある。
外法院・ウツロギの闇堕ちした姿だ。
その姿にいろいろツッコんでやりたいことはあったが、服の埃を払い落し、もう一度向き直る。
「……何故俺を襲う。誰の指示だ」
尋ねて答えは返ってくるか。ニコは一か八か、得物を構えて問う。
「アァ? ミスター宍戸に頼まれて来てやったんだよゴルァ」
「宍戸に?」
「ニコ・ベルクシュタイン、お前はハンドレッドナンバーになる資格があるからだよゴルァ。ロードローラーはな、お前を闇堕ちさせるか、捕縛して持ち帰るん使命があんだよゴルァ」
訝し気に自分を見据えるニコを尻目に、彼は続ける。
「灼滅者はダークネスと違い、戦闘不能にしても死なねぇ。だから無理矢理連れて行くのに一番だヒャッハー!」
奇声を上げると舌なめずりをして見せ。
「暗殺武闘大会の効果が切れるまでに闇堕ちしなければ、折角のハンドレッドナンバーとなるチャンスがふいになるぞゴルァ」
ベロベロと舌舐めずりで挑発するロードローラーを見据えたニコ。
自分が序列六十、立壁・剣治郎――『ウォール』に止めを刺した。この事実だけで、ミスター宍戸に狙われる理由は十分であろうと察する。
「……戯けたことを。俺は宍戸の元へ行くことも闇堕ちすることも、これっぽっちも考えてなどいないぞ」
高らかに言ってやるも、相手は序列六三の六六六人衆。到底一人で戦って勝てる相手などではないと、ニコは痛感していた。
そしてもう一つ、本能的に解ることと言えば。
ここで闇に心を傾けたら自分は二度と灼滅者には戻れず、目前のダークネスと同じ存在になり果ててしまうということ。
これは自分を守る戦い。自分が歩んだ過去と今、そして歩む未来を守る戦い。
得物を慣れた所作で捌き、構え直すニコ。
「あ、ロードローラーは分体なので、灼滅しても意味が無いぜゴルァ」
夜の静寂を斬り裂く爆音と振動。奴を見据えて、ひとつ、生唾を飲み込む。
「斯くなる上は、仕方がない……相手になってやろう」
三角帽子の七つの花が、まだ早い春の夜風に揺れる――。
「皆、集まってくれてありがとう」
急遽、灼滅者を教室に呼び出した浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)は、頭を下げるのもそこそこに、教室を見渡して説明に入った。
「暗殺武闘大会の決戦でハンドレッドナンバーに止めを刺した灼滅者が、ハンドレッドナンバー・ロードローラーに襲撃されているんだ」
この襲撃は数名の灼滅者によって警戒されていた。そのため、何とか救援を間に合わせることができるという。
もし、誰も警戒する者がいなかったら……。
千星も、教室内の灼滅者も最悪の事態を免れたことに小さく安堵しつつも、表情は硬い。
「私の脳内に引っかかったのは、ニコ・ベルクシュタイン君の襲撃だ。皆は彼が襲撃されているところに今すぐ向かって、彼の救援に当たってほしい」
仲間のため。決意を固めた灼滅者に千星はさらに、告げる。
「もしニコ君が闇堕ちしてしまうか連れ去られてしまえば、新たなハンドレッドナンバーが生まれることとなる」
そうなれば――。千星は脳内をかすめた悪い未来を振り払い。
「これ以上、新たなハンドレッドナンバーを生まれさせない為にも、そしてニコ君を助けるためにも、必ず救援を成功させて欲しい」
ニコを襲うのは、かつて灼滅者であった外法院・ウツロギ。いや、ロードローラーオレンジ『世紀末覇車』。派手なオレンジ色の個体で、禍々しい装飾の『労奴楼羅亜』。
「三段シート、直管マフラー三本出し。いわゆる『族車』というやつだ。この族車は本体ではない。分体の一体だ」
本体がハンドレッドナンバーとなったことで、以前に戦ったロードローラーとは戦闘力が大幅に上昇している。分体なのでハンドレッドナンバーほどの戦闘力はないが。
「かなり侮れない相手だ。十分、十二分に注意してくれ」
と、千星はウサギのパペットをぱくりと操る。
「攻撃方法だが――」
猛スピードで突進してダメージを与える『走死走愛』、前面の突起を突き立て穿つ『仏恥義理』、車体に付いた全突起を飛ばして動きを封じる『愛羅武勇』、爆音を上げて威嚇すると同時に自分の傷を回復させる『喧嘩上等』。それと手加減攻撃の5種類。
「どの攻撃も荒々しく激しい。十分注意してくれ」
と、千星は忠告した。
――暗殺武闘大会の結果をうけて多数のハンドレッドナンバーが活動を開始している事だろう。
ハンドレッドナンバー・ロードローラーもその一人。
「もう、彼を救出する事はできないだろう。彼がこれ以上悪事を重ねるのを阻止しなくては……」
千星は彼を想い呟いた。
そしてこれ以上、六六六人衆の勢力が大きくなるのを見過ごすことはできない。
そして何より――。
「皆の星の輝きで、ニコ君を必ず救出してくれ」
よろしく頼むぞ。と、千星はいつものように、仲間を信じる自信満々の笑みで皆を送り出した。
参加者 | |
---|---|
望月・心桜(桜舞・d02434) |
聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654) |
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078) |
真咲・りね(花簪・d14861) |
鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382) |
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809) |
月影・黒(暁黒の復讐者・d33567) |
篠崎・零花(白の魔法使い・d37155) |
●
「オルァオルァオルァァァァ! 降りてこいやぁぁニコォォォ!!」
縁石も標識もガードレールも押しつぶしながら爆走蛇行整地しつつ、車体の突起物を標的目がけて飛ばすロードローラーオレンジ『世紀末覇車』。
「この状況で降りる馬鹿が何処にいる」
箒に跨り背後をちらと伺ったニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は華麗なさばきで跳んでくる突起物を避けていく。
……相手になってやろう。
――とは言ったものの、真面に遣り合ってはこの身が幾つあっても足りない。やられっぱなしは性に合わない。だけど――。
ニコは戦闘開始と同時に愛用の箒に乗った。速度には自信はないが、高さを利用すれば、攻撃の大半は回避できると読んだ。
現に、この5分間で相手の攻撃が当たったのは最初の3回。後は攻撃を見切れるようにはなっていた。
その間も常に回復に徹してはいたが疲労は徐々に嵩むばかり。このままでは、せっかく命中率の下がった相手の攻撃をもろに食らってしまう時が来るだろうだろう。
「……」
握り込んだ箒の柄が汗で鳴る。ニコは眉間の皺を濃く刻み、舌打ちを鳴らした。
その時――。
ニコの背後で、何かと何かが激しくぶつかり合た衝撃音が響く。
「ロードローラーオレンジ・世紀末覇車。世紀末廃車に変えてやろうか?」
真っ赤な十字架『暴婦』でロードローラーオレンジ・世紀末覇車を殴りつけ、聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)はニヤリと笑む。
殴られて軌道が変わったロードローラーオレンジ・世紀末覇車は、乱暴かつ豪快な足さばきで振り返る。そして豪快に舌を打った。
「援軍かよゴルァ!」
「デカい癖に、動きは速いな」
感心する凛凛虎。対するロードローラーオレンジ・世紀末覇車は世紀末漫画の悪者よろしく顔を歪ませた。その目線の先には、7人の灼滅者。もうすでに防音や人祓いの技も施されている。
「ニコおにいさん、お待たせしました」
「真咲、待ってたぞ」
無事でいてくれた。
兄のように慕うニコのことが心配で心配で押しつぶされそうな心は、その姿と声を確認したことでほぐれた。
真咲・りね(花簪・d14861)はロードローラーオレンジ・世紀末覇車に向き直る。
「これは殴り甲斐のある敵さんですね」
可憐な姿とは裏腹に巨大化させた腕を大きく振りかぶり、その横っ面に掴みかかった。
「ニコおにいさんは私たちが絶対守ります」
横倒しに転げるロードローラーオレンジ・世紀末覇車の裏に回ったのは鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)。
「全く、闇へ道連れなんて冗談じゃないぜ。序列の継承? これだから六六六人衆って奴は……!」
得物の日本刀『月夜蛍火』を振りぬくと、ロードローラーオレンジ・世紀末覇車の後輪に大きな傷が入る。
「俺は、俺らは仲間が戻れなくなると分かってて黙って見過ごせる程お人好しじゃないんでな。そんな下らない思惑、全力で阻止してやる!」
大切でかけがえのない仲間を、必ず助ける。
脇差の誓いは堅い。
「へぶっ!」
如何にもワルモノ風のヤラレ声を上げると、エンジン音も激しく鳴く。
「ニコ先輩、お助けに来たのじゃ!」
いつでも庇えるように、背中で先輩に呼びかけたのは望月・心桜(桜舞・d02434)。
「ここあ、ニコ先輩を癒すのじゃ」
相棒のここあに指示を出すと、
「ナノーっ」
ここあからのハートが、箒から降り立ったニコを包みこむと、
「……ソラも、お願い」
「にゃっ」
篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)の命を受けたウイングキャットのソラも、尻尾のリングをキラキラ光らせる。
「アァん、助けられるものなら助けてみやがれゴルァ!」
ドスンと体勢を立て直し空ぶかしの爆音が響かせると、前面の大きな突起物がギュンギュンと唸りを上げる。
直管マフラーからの爆音の直後、地面を踏みしめ突進してくる。
「通すか!」
敵前に躍り出た月影・黒(暁黒の復讐者・d33567)の肩口にその突起が突き刺さる。
「っ……、ニコは絶対に堕とさせない!」
ロードローラーオレンジ・世紀末覇車が離れたタイミングで黒の足元から伸びる影『幻影・闇夜』は、頑丈な檻となり。
「ぎゃばしっ!」
またヤられ声が響く中、間髪開けず心桜は巨大な猫の手『猫神』の肉球から、浄化の霊力を黒に打ち出す。
「貴方たちの思い通りになると思ったら大間違いでしてよ……ハンドレッドナンバー、ロードローラー!!」
そのためにはまず、自分たちの守りを固めるところから。
白と黒の大きな炎の翼を羽ばたかせた黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)は、狙撃手と回復手についたニコに破魔の力を与えると。
その恩恵を受けた零花はダイタロスベルトを噴射しロードローラーオレンジ・世紀末覇車を翻弄する。
「ハンドレッドナンバー……これ以上同じ灼滅者から出させないわ」
「ったく、もったいねぇなぁ」
体勢を立て直したロードローラーオレンジ・世紀末覇車はペッと血反吐を吐き捨て。
「今堕ちれば圧倒的な力が手に入るってのによぉ」
ロードローラーオレンジ・世紀末覇車――いや、外法院・ウツロギはその力を以て、ハンドレットナンバーの力が宿る灼滅者に襲い掛かっているのか。
もう戻れないと知っていながら――。
「――外法院、お前が堕ちた事でどれだけの人が嘆いていると思っている……俺とて、そうだ」
得物を構えたニコはかつての仲間を見据え、顔を顰めた。
(「外法院……本当にもう、戻れないのか?」)
脇差も敵として彼を見据えながらも、まだ一縷の望みがどこかにあることを小さく期待していた。そんな脇差の表情を読んでか、はたまた偶然か。
「……ロードローラーさんを助けられる術は、もうないのじゃろうか」
ぽつりと心桜が呟いた。
「それにしても以前見た時よりも変ですよね、ロードローラー」
新しいカラーバリエーションのオレンジである。そして何よりも、ヤン車である……。
「日本ならまだしも、外国で道路舗装していたら、きっとすごいような怖いような」
想像してりねは小さく頭を振った。
ウツロギ、いや、ロードローラーはモヒカン頭を揺らして奇妙な笑い声をあげる。
「ハンドレットナンバーの力をそう簡単に手放せるかってんだ」
そして、『虚』の文字の向こうからニコを見据え。
「ニコよぉ、宍戸の元で楽しく殺戮しようや。ホラ、俺の座席乗れよ。連れてってやるぜ?」
硬派ヤンキー風に誘ってみた。
が、ニコの答えはただ一つ。
「お前達にくれてやるものは何も無い。俺自身も、此処に居る皆もだ!」
宣言したニコの服のベルスリーブが翻れば、赤い瞳に宿る意思は絶対的なもの。
ロードローラーオレンジ・世紀末覇車の表情が少しだけ傷ついた風だったのは、見間違いだろうか。
「そうかよ……! だったら、マジでカチコミじゃゴルァァァーー!」
頭部と同時に直管マフラーも爆音を上げて吠える。
「力づく、力づくじゃワレェーー!! 力づくでもピリオドの向こう側に連れてってやるぜゴルァーー!!」
●
ハンドレットナンバー、序列六三位。
高い攻撃力と、要所要所で挟んでくる回復。そして自身に付与する破魔と耐性の力。
だが、灼滅者とて負けてはいない。
いや、負けられない。
守り手の気合は凄まじく、だーげっとになっているニコに攻撃を通さない。攻撃手と狙撃手はロードローラーオレンジ・世紀末覇車の暴走を食い止めるため尽力し、癒し手は自身の役割を全うする。
中には万が一のために覚悟を決めている者もいたが。
「皆、闇堕ちだけはしてくれるなよ」
自分が助かったとしても仲間が代わりに堕ちてしまうなんて、耐えられそうにない。自分を助けるために駆けつけてくれた仲間の背に、願いを込めてつぶやくニコ。
闇に囚われている間はずっとひとりで寂しく、大切な人を傷つけてしまう悲しみも背負う。
自身も闇に堕ち親友もまだ見つかってはいない心桜は、ぎゅっと胸元を握り。
「……闇堕ちは苦しいのじゃよ……だからわらわも、誰一人そんなことにはしとうない」
「茶番は終わりだ! 誰が堕ちようが関係ねぇ。俺が狙ってるのは、ニコだけだ! 邪魔だどけどけぇゴラァー!!」
車体の突起が煙を上げ、やがて後衛に向かって突っ込んでくる。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
「通さないのじゃっ!」
強い意志は、動きとなる。
凛凛虎と心桜が飛び出して攻撃のすべて肩代わりする。ニコを、仲間を守る。
が、蓄積する疲労に思わず膝をつく。鮮血が地面にぱたたと花を咲かせた。
「望月、聖刀っ」
ニコが叫ぶ。
「ナノーっ」
ココアがありったけのハートを飛ばし主人の心桜を癒すと、ソラも尻尾のリングを光らせて凛凛虎の傷を回復する。
直後に前衛の足元に現れたオーラの方陣は、ニコの断罪輪『Wheel of Fortune』によるものだ。
「……あの破魔の力は危ないわ」
白い魔導書を開く零花は何か小さく呪文を唱えた。現れ、ロードローラーオレンジ・世紀末覇車を貫いたのは魔力の光線。
「さぁ……その魂に救いと断罪を!」
白雛がエアシューズを唸らせれば、白黒の炎は標的目がけて真っ直ぐ燃えていく。
「あぎゃぎゃ!」
燃え盛る炎を必死で振り払うロードローラーオレンジ・世紀末覇車を、次に襲うのは。
「ニコを襲ってくれた落とし前は、必ず付けさせる」
ライバルに闇堕ちを唆し、それが叶わないとなれば奪取しようとする汚い手口に怒りを禁じ得ない。
飛び上がる黒はロードローラーオレンジ・世紀末覇車の顔面に飛び出した。その表情は恐ろしく静かであったが、狂人そのもの。
上段から振り下ろす日本刀は『血獄刀・暁黒』。赤紫の刀身は冴え冴えとした軌跡を描いて、ロードローラーオレンジ・世紀末覇車の頭部に振り下ろされる。
「はぎゃっ!」
仲間が攻撃の豪雨を降らせている隙を見て、心桜は攻撃手と守り手の元に、優しく温かな風をもたらす。
その風を纏い、飛び出したのは凛凛虎。
「おい、まだへばるなよ? 本体に届かない分、お前には恐怖をみっちり教えてやるからよ」
チェーンソー剣を唸らせて縦横無尽に斬り刻み、車体の傷をさらに抉り出す。
世紀末覇車を見据える脇差は、かつての仲間がここまで堕ちてしまったこと、そしてもう救出してやれないことをまだ割り切れずにいた。
だからこそ、全力で。
「お前に、ニコを渡して堪るかよ!」
黒い刀身を持ったサイキックソード『黙』を以て、一気に斬り裂いていく。
「私には、ニコおにいさんを庇えるだけの頑丈さはないけど……!」
その分全力で……!
バベルブレイカーを構えたりねは、杭を一気に世紀末覇車に突き立てた。高速回転した杭は鉄の肉体をガリガリと嫌な音を立ててねじ斬っていく。
「へぶあぁぁぁ!」
奇声を上げて後進するロードローラーオレンジ・世紀末覇車。
今まで喰らったダメージにより、車体の塗装は地の色が見え隠れし、『労奴楼羅亜』や『六六六建設』の文字も掠れている。
「クソヤローどもめ。パーリィーはまだまだこれからだぜぇ! ヒャッハー!」
と、声を上げたロードローラーオレンジ・世紀末覇車はエンジンをふかし両ローラーを空転させる。
まだまだ殺る気満々ということか。
「……覚悟を決めておいた方が、いいかもな」
呟く脇差。
ニコが連れ去られてハンドレットナンバーになるくらいなら、自分が堕ちてでも――。
同じような思いの灼滅者は数人。最悪の事態に備え――。
仲間の様子に反応した心桜がはっと息を呑む。
「闇堕ちなんて、わらわ、許さな――」
ゴトリ、パァン!
彼女の叫びを掻き消したものは、何か重い物が離脱する鈍い響きと、硬質の物が弾けた激しい音。灼滅者たちはいっせいにそちらに目を向ける。
それはロードローラーオレンジ・世紀末覇車の後輪が離脱した音だった。
後輪を失ったことで態勢を保てなくなったロードローラーオレンジ・世紀末覇車は、後ろに傾いていく。
「アァん、限界が来てたみたいだぜワレェー。命拾いしたなゴルァ!」
頭をくねくね回すロードローラーオレンジ・世紀末覇車。下になった車体の後ろから灰色の煙が朦々と立ち込め始め、オレンジ色の機体もガラガラと音を立てて崩れていく。
「まっ、本体さえいれば、ロードローラーは永久に不滅です! あべしっ」
激しい音と炎を上げるロードローラーオレンジ・世紀末覇車の部品を被らないよう、灼滅者は咄嗟に防御態勢をとった。
濛々と燃える炎に目を凝らす八人。
炎の中に、あの族車の姿はなかった。
後に残ったものは、鼻をつく油の焦げた匂いと鉄が摩耗した何とも言えない匂い。
そしてそのにおいを掻き消すように香るのは、春の柔らかな夜風だった。
●
静寂を斬り裂いたのは零花のため息だった。
「……本当、宍戸って奴は……」
武装を解いて、仲間たちの無事を確認し。
「……まぁ成功できてよかったわ……お疲れ様ね」
各々安全を確認し、武装を解いていく灼滅者たち。
ニコは最後に武装を解き、三角帽子を押さえながら皆に頭を下げた。
「有難う。俺が今、こうして此処に居られるのも皆のおかげだ」
「ったく水くせぇ。仲間を助けて当然だろ」
呆れたように凛凛虎が笑むと、ポニーテールを揺らして白雛もにこりと。
「ベルクシュタイン様が攫われずにご無事で、よかったですわ」
「相手はハンドレットナンバーだし、どうなるかとは思ったけど、本当に」
黒も深く安堵の息を吐いた。
一方で脇差はぷいっとそっぽを向いて、
「べっ別に、そこまで頭下げられるようなこと、してねぇよ」
いつもの憎まれ口。
その様子に心桜は小さく噴き出して。
「本当に素直じゃないんじゃから。でも、本当によかったのじゃ。ニコ先輩があっちに行かんで」
春のような笑顔をニコに向けた。
「一旦、学園に行きましょう。ニコおにいさん」
それはニコの無事の周知と、依頼成功報告のため。
ふわりと笑んだりねにそっと手を取られて、ニコは静かに頷いた。
「あぁ、行くとしよう」
これで、灼滅者をハンドレットナンバーにするというミスター宍戸の目論みは潰れただろうか。
ロードローラーに襲われた他の仲間は大丈夫だろうか。
星空を見上げる灼滅者の心配が晴れるのは、あともう少し先のこと。
作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年3月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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