暗殺武闘大会最終戦~62位の資格

    作者:カンナミユ


    「ふふふんふーん。いいなー、いいなー♪ 62位、いいなー☆」
     陽気な鼻歌と共に、それは目前にあるもの全てを潰し、整地していった。
     ベンチを潰し、噴水を潰し、木々を潰し。
     ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(愛夢・d36355)は全力で駆ける中、その声を聞く。
    「暗殺武闘大会の効果が切れるまでに闇堕ちしないと、折角のハンドレッドナンバーになれるチャンスがふいになっちゃうよ♪ モッタイナイ☆」
     その声に思い出すのは、暗殺武闘大会決戦の戦いだ。
     あの、復活した金髪のサムライにとどめを刺したのはロードゼンヘンドである。
    「ハンドレッドナンバーになる資格があるのに、ならないなんてナンセンスだよね♪」
     ロードローラーの言からすれば、どうやら自分にはハンドレッドナンバーになる資格があるようだが――。
    (「駄目だ。闇堕ちすれば、多分……いや、もう戻れない」)
     灼滅者としての本能が、ロードゼンヘンドにそう告げる。
     暗殺武闘大会決戦にて闇堕ちし、ハンドレッドナンバーを倒した――自分を追うロードローラーと同じように。
    「ふふんふーん。ミスター宍戸に頼まれてきてあげたんだからネ♪ やさしーと思わない?」
     鼻歌交じりにロードローラーのブロックが、がしゃがしゃ動くのを前にロードゼンヘンドは睨みつけるが、
    「戦う?戦う? 戦うなんてムダ無駄♪ この体は分体だからー、灼滅しても意味ないしー。し・か・も☆本体はハンドレッドナンバーになったからネ、六六六人衆を遥かに越える整地力を持っているんだYO♪ スゴーイ!」
    「くっ……」
    「灼滅者はダークネスと違って、戦闘不能にしても死なないからネ。無理矢理連れて行くのに最適で・す・よ・ねー♪」
     様々なものを潰し整地し、ロードローラーは追い迫る。
    「YOU☆闇堕ちしてハンドレッドナンバーになっちゃいなYO♪ あ、捕まえてお持ち帰りでもミッションコンプリートだから安心してね☆」
     闇堕ちすれば、ハンドレッドナンバーになってしまう。灼滅者として武蔵坂に戻る事は二度とないだろう。
     それならば――。
    「…………」
     必死に攻撃をかいくぐりながら、ふと、ほんの一瞬だけ脳裏に過る、その考えにロードゼンヘンドは服ごしに胸を――心臓をぎゅっと掴んだ。


    「緊急事態だ」
     資料を手に結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)は、足早に教室へ入って来た。
    「暗殺武闘大会の決戦にて、ハンドレッドナンバーに止めを与えた灼滅者が、ハンドレッドナンバー・ロードローラーに襲撃される事件が発生した」
     それは本当に緊急事態であった。
     だが、黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)達がこの事態を予期し、警戒にあたっていた。それが功を奏し、なんとか救援に間に合わせる事ができそうだと相馬は話す。
     襲撃される灼滅者の一人が、序列62位であったヒトキリザムライ・ケンゴーにとどめを刺したロードゼンヘンドである。
    「ロードゼンヘンドが闇堕ちしてしまうか、或いは、連れ去られてしまえば、新たなハンドレッドナンバーが生まれる事となり、今回の作戦は失敗となってしまう。これ以上、新たなハンドレッドナンバーを生まれさせない為にも、必ず救援を成功させて欲しい」
     その為にも、ロードゼンヘンドが襲撃されている所に向かうよう言い、相馬は灼滅者達へ説明をはじめた。
    「彼がかつて分裂し、全国で事件を起こした序列288位のダークネスであった事は覚えているか?」
     その言葉に彼を思い出す灼滅者も少なくはないだろう。
     多彩な色と共に各地で事件をおこした、ロードローラー。
    「ロードローラーの一つ、ブロックで作られたようなボディのロードローラー――ロードローラーブロック。ロードゼンヘンドを襲撃するのは彼だ」
     ブロックで構成されたような姿のダークネスはそれを活かした攻撃をしてくるだろうと相馬は話す。
    「ロードゼンヘンドを闇堕ちさせるか、連れ去るかがロードローラーブロックの目的だ。その為か攻撃手段の中には手加減で攻撃してくる事や、捕らえる攻撃があると考えられる。分体の一体である為、本体程の戦闘力はないが、本体は序列63位となったハンドレッドナンバーだ。充分に強敵と思っていい」
     以前に戦ったロードローラーは序列288位だった。それに比べても戦闘力が大幅に上昇しているので、注意が必要だとも灼滅者達へと告げられた。
    「暗殺武闘大会の結果、多数のハンドレッドナンバーが活動を開始している。これ以上、六六六人衆の勢力が大きくなるのを見過ごすことはできない」
     相馬は言い、灼滅者達へと視線を向けるが、その瞳には複雑な色が混ざっている。
     多数のハンドレッドナンバーに含まれているのは、灼滅者であった者が含まれているからだ。
    「ハンドレッドナンバー・ロードローラー……。もう、彼を救出する事はできないだろう。我々ができるのは、彼がこれ以上悪事を重ねるのを阻止する事だけだ」
     それは、ハンドレッドナンバーとなった存在、かつての灼滅者を灼滅する事を意味している。
     瞳は伏せられ、しばしエクスブレインの言葉が途切れ。
    「ロードゼンヘンドを救出して欲しい、頼んだぞ」
     真摯な瞳と真摯な声が、灼滅者へと向けられた。


    参加者
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    ロイド・テスタメント(無に帰す元暗殺者・d09213)
    イヴ・ハウディーン(うららか春火・d30488)
    カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)
    貴夏・葉月(紫縁は希望と勝利の月華のイヴ・d34472)
    三崎・真月(炎乳天使・d36777)

    ■リプレイ


     奇抜なダークネスは標的を追いかけていた。
    「えー、そこの灼滅者、止まりなさい。えー、止まりなさ-い」
     違反車を取り締まりるかの如くの声が、夜の公園に響き渡る中、
    「見つけた!」
     神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)の声に、標的であるはロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(散華・d36355)は自分の状況を知り、救援の為に仲間達が駆けつけてきた事を悟った様だ。
    「来てくれたのか」
     余裕のない声に頷く貴夏・葉月(紫縁は希望と勝利の月華のイヴ・d34472)だが、ブロックでできたロードローラー――ロードローラーブロックはその体をがしゃがしゃと動かし積み重む音に気が付いた。
    「止まってくれないんですかー? じゃあ実力行使タイムですYO☆」
    「菫、貴様は盾だ」
    「お願い、リンフォース!」
     ビハインド・菫とウイングキャット・リンフォースは呼応し、動く。
    「ブロックマシンガン発射☆」
     前衛に向けて飛ばされるそれは弾丸の如く襲い掛かるが、サーヴァントが防ぎ、各々も得物で弾き、また受ける。
    「アタシ達もいくわよ!」
    「うわあ、チョーいたーい」
     後ろから狙い定めレイザースラストを放つ明日等だが、難なく避ける声は棒読みだ。リンフォースの動きも読まれる中、葉月は金のリングを用いて自らを強化させる。
     分体だろうと容赦なく破壊して舗装作業が出来ないようにしなければ。
     明日等がちらりと視線を向けるのは、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)。
     その胸中には様々な思いがあるに違いない。だが、それは表面上からは何一つ伺えない。
     いつも着物姿にいつもの得物。光源にと用意したLEDライトの光の中で人払いのESPを展開させる。
    「間に合ってよかったよ」
     ほっとしながらいろはは言い、ロードゼンヘンドが前衛からへと移動する。
    「あのロードローラー、どうやらブロックを変形させて攻撃してくるみたいだ」
    「面白い攻撃だね!」
     情報を聞いたカーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)がヴァンパイアミストを展開していると、ロイド・テスタメント(無に帰す元暗殺者・d09213)はぎゃりぎゃり動く、かつて灼滅者であったモノへと瞳を向けた。
    「まさか、ウツロギさん……いえ、今はロードローラーのブロックでしたね。見知った方を手に掛けるのは気が引けますが……私は、私の役目を果たすだけ」
     急いで駆けつけ、倒さねばならぬという状況だが、致し方ない。
    「666人衆の全てを無へ……」
     スレイヤーカードを解放させると、ロイドはダイダロスベルトを構え『Omnes una manet nox』とラテン語を口にし放つ。
     ロードローラーはきゅきゅっと鋭角に曲がると恐ろしい勢いでひらっと飛んだ。ロードローラーが。
    「最近の敵は奇抜と言うか……超ヤバくねぇ的な」
    「……超ヤバいな、ブロックのロードローラー」
     すごい光景を目撃してしまったと三崎・真月(炎乳天使・d36777)はイヴ・ハウディーン(うららか春火・d30488)は顔を見合わせ言葉を交わすが、今は時がない。
    「ロード先輩、ここなら万が一でも逃げられるよ」
    「最悪の場合はアンタだけでも……」
     攻撃しながら言う二人に無言でロードゼンヘンドは頷いた。
    「灼滅者きちゃった? きちゃった?」
     目前でコミカルに言うあのロードローラーは、後ろに下がったロードゼンヘンドを狙っている。
     暗殺武闘大会決戦にてハンドレッドナンバーを倒し、資格を持つ者を。
    「仕方がないですネー、邪魔する灼滅者はまとめてキルユー☆しちゃうゾ~♪」
     ブロックでできたロードローラーブロックは、コミカルな声でコミカルに動きだした。


     ぎゃりぎゃりぎゃぎゃり!
    「ヘーイヘーイ、ロードローラーただイマ戦闘チュー☆」
     スピードで勢いをつけたロードローラーの車体が大きく跳ね上がり、標的目指して急降下。
    「ワオ! エキサイティン!」
    「ロード先輩!」
     カラフルポップなダークネスはロードゼンヘンドめがけて落ちていく。その前に立ちふさがった真月が盾と体で受け止めるが、その一撃は重かった。
    「くっ……!」
     ぎりぎりで踏みとどまり耐え、明日等と葉月の攻撃を仕掛ける。
    「ロードゼンヘンドさんは渡さないわ!」
    「菫、我に続け」
     妖冷弾と鬼神変を変形させたブロックが弾き、金属製の白鞘に収めたままのいろはは駆け、そして、そのまま抉る。
    「いったーい♪」
    「…………」
     ぼろりとブロックが少し崩れ、いろはは金の双眸で睨みつけるが、ロードローラーは反応すら示さない。
     ポジション変更を済ませたロードゼンヘンドは標識を構えイエローサインを展開させ、ロイドは攻撃に出る。
    「余所見してたら、背後を取ってしまうぞ?」
     纏う炎と共に動くが、ブロックでできた頭がきゅっとまうしろ、ロイドへと向いた。
     ブロックにプリントされたような顔は余裕がうかがえた。だが、攻撃せねば。
    「背後? 背後取るのん?」
     にやりと笑いダークネスはそれをかいくぐる。
    「じゃあこれならどうだ!」
     機敏に動くロードローラーめがけてイヴはレイザースラストを放ち、ひゅんと避けた所へ真月の影が襲い掛かる。
    「ちょっともー、やめてくださいよネー」
     受けた攻撃に顔をしかめるロードローラーだが、十分余裕のようだ。
    「超ウルトラスーパーデラックス以下省略整地あたーっく☆」
    「なにあの超ヤバい攻撃!」
     目前のものを全て整地し、襲い掛かる攻撃に守る真月は思わずぽかんとしてしまう。
     デタラメなように見えて、すべてまっさらに整地される攻撃。
    (「ままならぬのは世の常なれば……此処から如何に対処するか、か」)
     整地攻撃の痛みの中で葉月は考えていると、ふと、守りがふわりと降り注ぐ。ロードゼンヘンドからだ。
    「ありがとうございます」
     傷は癒え痛みも消えた。得物を手に礼を言い、ビハインドと共にダークネスへと駆けた。


     夜の公園に戦いの音が響く。
    「もー、いい加減に諦めてほしいですよネー。怖くなーい、怖くなーい♪ YOU一緒に来ちゃいなYO☆」
     カーリーが放つ影に足、いや車輪を取られつつもロードローラーはやにやと顔と声を向けた。
     葉月からの黙示録砲によって受けたダメージか、車体からぼろりとブロックが零れ落ちる。まるで血を流すかのようにそれはぼろぼろと零れ落ち、消えた。
    「今は無理だよ。後で行くから場所を教えておくれ」
    「ええーそれ絶対に来ないフラグじゃないですかやだー」
     回復に徹するロードゼンヘンドは何か情報は得られないかとしゃべり続けるが、ロードローラーの口から重要な情報が出る気配はない。
     ハンドレッドナンバーの資格を有した者を拉致したとして、どうやって闇堕ちをさせるのだろう。まさか、闇堕ちさせる能力を持つ者がいるとでもいうのだろうか。
     情報が欲しい。一つでも。だが、相手はそれを口にしない。
    「ねえねえ、後で行くっていつイツいつ? 10分後? 1時間後? それとも1日後? NO,NO! ミーは待てマセーン!」
    「燃え尽きろ!」
    「Oh,熱いデース♪」
     ケラケラ笑ってロイドの炎を受けるロードローラーはイヴの炎も気にもしない。
     ケラケラ、ケラケラ。
     灼滅者達の攻撃を受け、捌くロードローラーはブロックを零す。
     そして回復を図るといつの間にか欠けていたブロックが修復されている。
    「後じゃ遅いんですYO! 資格がなくなっちゃいますからー♪ モッタイナイ」
     ばら撒かれるブロック攻撃をディフェンダー陣が防ぎ、更に戦いは続く。
    「来るならイツ? そりゃー今でショ!」
     ブロックはがしゃんと積み重なると、巨大鈍器が誕生した。
     まずい。血を拭い真月は悟った。
     ロードゼンヘンドを守るべく、身を挺したサーヴァント達は既に倒れている。そして今、自身はメディックの回復では追いつかないダメージ負っていた。
     先輩を連れ去られる訳にはいかない。守らねば。
    「ロード先輩!」
     ばっと飛び出し攻撃を防いだが、そのダメージは大きかった。
    「ワォ、ホームラーン♪」
     ぐらつく隙をついた2撃目で、吹っ飛ばされた体はアスファルトに叩きつけられ。
    「う、っ……!」
    「三崎姉ちゃん!」
    「真月さん!」
     イヴと明日等の声を聞き、拳を握り締め立ち上がろうとするが、それも叶わない。
    「大丈夫?」
     額から流れた血がぽたりと落ち、カーリーの声も聞こえなくなると意識は途切れ。
     真月は崩れ落ちた。
    「今まで何の為に戦ってきたのよあんたは!」
     鋭くにらみつける明日等の攻撃は叫びと共に叩きつけられる。
     ビハインドの分も戦い抜く為、影の狼と不死鳥を放つ葉月の姿に続くいろはの金の瞳は軽く伏せられ。
     仲間達の攻撃を捌くダークネスへと向けるいろはの内に抱えるものを表現するのは難しい。華麗な筈の剣技は荒い太刀となり、心は今にも破裂しそうな水風船の如く。
    「ウツロギさん……」
     それはロイドも――いや、ここで戦うすべての仲間達が内に思っているだろう。
     武蔵坂で共に学園生活を送った者と、こうして戦わなければならない複雑な心。
    「わあっ!?」
    「カーリー!」
     ロードゼンヘンドの声にはいつもの余裕はまったくなかった。
     仲間への回復とヴァンパイアミストで強化し、攻撃していたカーリーだが、ダークネスの集中攻撃を受け遂に倒れてしまう。
     攻撃をしながらちらりとロイドは見るが、真月と同じように戦闘不能に陥っただけで済んだように見えた。
    「やっぱアレですよねー、アレ。ミッションコンプリートにはー、先に沢山いる灼滅者達をキルしないとネ♪ あったまイィ!」
     くるくと頭を回すロードローラーは声を弾ませ、更に言う。
    「確実にー、灼滅者のー、数を減らすにはー? どーしたらいいでしょーかっ♪」
     頭をくるくる回し攻撃を捌くロードローラーはまるでクイズの出題者のよう。
    「ブッブー、ハイ時間切れ―♪ 正解はー……コチラ!」
    「させねえよ!」
     が、ん!
     巨大鈍器がロイドに襲い掛かる。避けきれない事を悟り身構えたが、それを防いだのはポジションを変えていたイヴだ。
    「ありがとう」
    「オレが三崎姉ちゃんにかわって守る!」
     押される体を踏みとどまらせ、叫ぶ。
     受けたダメージに顔をしかめるが、ロードゼンヘンドからの癒しによってその痛みもふわりと軽くなる。
     そして戦いの中、灼滅者達は気が付いた。
     ロードローラーは確かに強い。だが、ダメージを受けてもその傷を癒そうとしなかった。
     体力が高いのか、それとも死ぬ事を恐れていないのか。
     ――どちらであれ、灼滅者達が成す事は一つ。
    「武蔵坂の生徒であっても、それはもう過去のもの。ここで倒れて頂きます」
     すうっと流れる冷たい風に髪が揺れ、葉月は動く。
     そう、ここで倒さねば。
    「あと少し、もう少しだ」
     傷を癒しながらロードゼンヘンドは仲間達へと声を張る。
     蓄積されたダメージはかなりのようだ。動きや言動はまったく変わらないが、車体のあちこちが欠け、ぼろぼろと崩れはじめている。
    「業ごと焼き尽くしてやろう!」
    「よくも三崎姉ちゃんを!」
     声に頷きロイドは黙示録砲を放ち、よろめくところへイヴのダイダロスベルトが車体をえぐる。
    「ったくもー痛いなあー」
    「本当に……本当にあんたって人は!」
     飛んでくるブロックマシンガンを避けた明日等の声と共にレイザースラストが襲い掛かり、
    「これで最後……!」
     葉月の攻撃に続く、殺戮帯がいろはから放たれロードローラーへ一撃を与えた。
     畳みかける攻撃と共に様々な思いが乗せられ。
    「チョー無理なんですけどー……」
     ごろん。
     前輪のブロックが崩れ、走行不能となったロードローラーはそのまま前のめりに倒れた。


    「ちぇー、ざんねーん」
     ぼろぼろとブロックは崩れていく。
    「貴方の最後を見届けるのも……旧き知り合いとしての勤めでもあります」
     ロイドは頬を伝う血を拭い、戦いで傷ついた腕を庇いながらかろうじて立ち上がる。
     かつて灼滅者であったモノは命のともしびが消えようとしているのに、その声は何一つ変わらない。まるで己の死など気にしていかのように。
     ……いや、気にしていないのだろう。
    「自分、分体ですからー。倒されちゃっても、大丈V(ブイ)♪」
     ぼろぼろ、ぼろぼろ。
     ブロックは崩れ、ロードローラーとしてのカタチも崩れていく。
     もう戦う力も残っていない。灼滅者達は得物を手に、その光景を見守っていた。
    「色々と愚痴りたい事はあるけど……本体に会わないと駄目だよね?」
     崩れゆく姿にいろはは言うが、名状しがたき、あの伴侶――いや、ロードローラーはにいっと不敵に口を歪めるだけで。
    「じゃーねー。SEE YOU☆」
     ぼんっ。
     最後のブロックの塊がはじけるように崩れ、灰となった。
     公園に残されるのは、灼滅者のみ。
    「みんなありがとう、本当に」
     ダークネスは消え、安全が確認できたロードゼンヘンドは汗で張り付く髪を払ってから感謝の言葉を仲間達へと向けた。
     助けがなければ、今こうして礼を言う機会は永遠になかっただろう。
     感謝の言葉と瞳は8人へ、一人ひとりへ。
    「アンタを助ける為に来たんだから、当然の事をしたまでよ」
    「そうそう」
     明日等は言い、イブは仲間を守り抜き戦った真月の血を拭いながら共に戦った仲間達へと視線を巡らせる。
     分体との闘いといえど、厳しい戦いだった。無傷なものは誰一人としていない。
     戦いは終わり得物を収めた葉月が歩き出すと仲間達もそれに続き、ふと、いろは足を止めると空を見つめた。
     本体とはいずれ――。

     こうして決戦の一幕は閉じ、灼滅者達は夜の中に消えていく。
     闇落ちし、戻る事のないあの男――ロードローラーとは再び刃を交える事となるだろう。
     その時こそが、本当の決戦なのかもしれない。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月14日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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