暗殺武闘大会最終戦~導き手は紫色

    作者:篁みゆ

    ●紫の蹴撃
    「!」
     平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)は反射的に身構えた。けれどもすでにその時には、視界の内に奇妙な物体が映っている。
    「お前は、ロードローラーか?」
     その独特の体躯、過去に様々な色が発生したロードローラーと酷似している。ただ違うことがあるとすれば、その色、だろうか。今、和守の目の前にいるロードローラーは、紫色をしていた。
    「当たりだよ~♪ 君にはハンドレッドナンバーになる資格があるからね、ミスター宍戸に頼まれてきてあげたよ~」
    「何……?」
     ロードローラー(紫)によれば、自分は分体であるので灼滅しても意味がない。しかし本体がハンドレッドナンバーとなったことで、並の六六六人衆を遥かに超える整地力を得たのだという。確かに和守も、ロードローラー(紫)を見た瞬間、勝てないと判断することができた。
    「君の前に来たのはねー、君を闇堕ちさせるか、捕縛して持ち帰るためなんだよ。灼滅者はダークネスと違って戦闘不能にしても死なないから、無理矢理連れて行くのに最適だよね」
     なんて勝手な事を言っているが、確かに理論上はその通りで。和守に残された道は、闇堕ちするか、連れ去られるかしか残っていないのか――?
    「暗殺武闘大会の効果が切れるまでに闇堕ちしなければー、せっかくのハンドレッドナンバーになるチャンスがふいになってしまいますよ」
     いやらしい笑顔を浮かべて襲い掛かってくるロードローラー(紫)。
     和守は瞬時に武装したが、戦っても勝てないということはもうわかっていた。けれどもここで闇堕ちしてしまえば二度と灼滅者に戻れず、ロードローラーと同じ存在に成り果ててしまうと本能的に感じていた。
    (「なんとか、切り抜ける方法はないか?」)
     自身に問う。敵の示した二択以外の選択肢をひねり出すために。


    「来てくれて有難う。緊急事態だ」
     神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)は灼滅者達を教室へと招き入れると、手早く座るように命じて、和綴じのノートを開いた。
    「暗殺武闘大会の決戦にてハンドレッドナンバーに止めを与えた灼滅者が、ハンドレッドナンバー・ロードローラーに襲撃される事件が発生したよ。けれどもこの事態を予期していた、黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)君達が警戒にあたっていた事もあり、なんとか救援を間に合わせる事ができそうなんだ」
     狙われているのは平・和守。皆には彼が襲撃されているところに今すぐ向かってほしいと瀞真は言う。
    「平君が闇堕ちしてしまうか或いは連れ去られてしまえば、新たなハンドレッドナンバーが生まれることとなり、この任務は失敗となるだろう」
     瀞真は緊迫した表情で灼滅者達を見て、告げる。
    「これ以上新たなハンドレッドナンバーを生まれさせない為にも、必ず救援を成功させて欲しいんだ」
     そう告げた瀞真は、ノートのページを繰り、刺客として現れた敵の説明を始める。
    「平君の前に現れたのは、紫色をしたロードローラーだね。分体の一体だから、ハンドレットナンバー本体ほどの戦闘力はないけれど、十分に強敵だよ」
     本体がハンドレッドナンバーとなった事で、以前に戦ったロードローラーに比べても戦闘力が大幅に上昇しているので、注意が必要だろう。
    「ロードローラー(紫)はその重たい車体ごと突撃してきたり、より多くをプレスしようとしたり、わざと駆動音を上げてその音による衝撃波を放ったりするようだね。あとは手加減攻撃のようなものやシャウトも使ってくるようだよ」
     そう告げて瀞真は和綴じのノートを閉じる。
    「暗殺武闘大会の結果、多数のハンドレッドナンバーが活動を開始している。これ以上、六六六人衆の勢力が大きくなるのを見過ごすことはできない。平君を、必ず救出してあげてほしい」
     瀞真はそう言い、灼滅者達を見回した。


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)
    風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)
    高原・清音(白蓮の花に誓う娘・d31351)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)

    ■リプレイ

    ●邂逅、そして
     突然現れたロードローラーと対峙しながら、平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)は相手に悟られないよう、自然な動きにその動作を紛れ込ませた。所持していた無線機のスイッチを入れたのだ。
     和守とロードローラーの邂逅は予知されたものではない。助けが来るかどうか自体も、それまでに和守が無事でいられるかはわからない。けれどもまず第一にすべきだと感じたのは、この状況を誰かに伝えること。偶然無線機の電源を入れ、この音声を聞いてくれる者がいれば――祈るような思いで。
    (「とりあえず、一般人を人質にとるような手段を取られなかったのは幸いだな……」)
    「ヒトマル!」
     ライドキャリバーに命じ、自分を守るように布陣させた和守は、殺界形成を発動させつつ、ロードローラーから視線を離さない。
    「こんなひと気のない河川敷で堂々と、か。一般人を人質に取るとか、もっと卑怯な手を取ってくると思ったぜ」
    「そんなことしなくても、十分ってことだよ~」
     和守はロードローラーへの声かけに偽装して自分の現在置かれている状況を無線で流すべく、言葉を選んでいる。対してロードローラーは気づいていないのか気にしていないのかは分からないが、まっすぐにヒトマルへと突撃してみせる。その重い一撃は彼の実力を示すに十分であった。
     今はヒトマルが盾となってくれている。けれどもそう長くは持たないであろうことは和守も察していた。けれども下手に逃げに走ったとして、ロードローラーのことだ、逃走経路に居合わせた一般人など躊躇いもなく巻き込むだろう。それは避けたかった。

     エクスブレインから話を聞いた灼滅者達は、急いで現場へと向かっていた。『襲撃されているところに向かってほしい』ということは、襲撃自体は止められず、なおかつ襲われている和守の現状もわからないといった不安ばかりが募る現状。
    「少しでもあちらの状況がわかればいいのですが」
    「! そうだわ!」
     風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)の言葉に鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)が声を上げて自分の持ち物を探る。
    「平君なら持っているかもしれないわ!」
     取り出したのは無線機。祈る思いで電源を入れる。移動しながらできるだけ耳を澄ませ――すると。
     ――……一般……人質に取ると……もっと卑怯な……取ってくると思ったぜ。
    「……和守の声……」
     雑音の混じりがだんだんと聞き取りやすい音声になる。高原・清音(白蓮の花に誓う娘・d31351)が反応を見せた。
    「取り敢えず一般人を人質には取られていない、堂々と戦闘を挑んできている、平さんはまだ無事ということだよな」
    (「要は平さんが堕ちなきゃ良いんだ、だったら他にやり用はあるさ……」)
     情報を整理しつつ、ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)は若干の安堵をみせる。まだ、状況をひっくり返すことは可能だ。
    (「ロードローラー再び、ですか」)
     無線機から聞こえる音に耳を傾けながら、石弓・矧(狂刃・d00299)は複雑さを抱いている。襲う側も襲われる側も知った顔ゆえ。
    「……和守、聞こえる? ……絶対に助けるわ……絶対……」
    「場所はわかっているわ! 現在、指定ポイントへ急行中。あと3分、いえ2分でいいから粘って!」
    「が、頑張ってください!」
     清音と狭霧、矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)が無線機の向こうへと声をかける。その様子を気に留めながら、刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)は仲間たちを先導すべく、先頭を行く。

    ●孤軍奮闘
     無線機から聞こえてきた声は、和守の心を幾分か軽くした。
    「まだまだ倒れるわけにはいかない!」
     自分はまだ無事だ、その意図を込めて発した言葉にロードローラーが嗤う。
    「これでもそう言っていられる~?」
    「ヒトマル!」
     自己回復と和守からの回復を受けて盾として機能していたヒトマルだが、先程和守に向けられた衝撃波を庇った時の傷が深かったのか、ロードローラーの突撃によって消滅してしまった。
    「やっぱり、邪魔が入らないほうがいいよね~?」
     その口ぶりが憎らしい。和守は自身に『戦闘救急包帯セット改』を纏わせて守りを固めた。その直後、ロードローラーの巨体が容赦なく和守を襲い、弾き飛ばす。あまりの重い攻撃に、和守の鎧のパーツがいくらか吹き飛んだほどだ。
    「っ……」
     地面に落ちる前にかろうじて取った受け身。けれどもそれ以前に衝突の衝撃で頭も足もふらついてしまう。
    「悪いが、恋人がご馳走の準備して待ってるんでね……帰らせてもらうぞ!」
     あと少し耐えれば、仲間が、やって来てくれる。それだけが、闇の中の希望。体幹を意識して両足に力を入れて立ち上がる。そして再び自身に帯を纏わせる和守。
    「おや~リア充というやつなのかい? これはいいハンドレットナンバーになりそうだねー!」
     嗤うロードローラーの駆動音が上がる。衝撃波を警戒して両腕をクロスさせて少しでも身を守ろうとする和守。だが。
    「ぐっ……!」
     全身を先ほどとは違う衝撃が打つ。少しでも気を抜けば、身体ごと吹き飛ばされてしまいそうだ。どくん、なにかが身体の中で脈打つ。でも。
    「堕ちて、たまるか……幸せに、するって! 約束、したんだよぉっ!」
     心からの叫びが、彼をその場に立ったまま留めた。
    「平君!」
    「平!」
    「平さん!」
    「和守!」
     聞こえてきた声が、倒れそうになる上半身を、背中を支えてくれたように思えた。
     否。
    「よく頑張った」
     背中に添えられた手は、本当にあった。渡里は和守を労い、霊犬のサフィアに回復を命ずると、弓を構えて強力な一矢を放った。
    「お待たせ、騎兵隊の到着よ!」
     ロードローラーの背後から跳躍し、ロードローラーの上面に『Chris Reeve “Shadow MKⅥ”』の一撃を喰らわせて地面に降りた狭霧。
    「……悪いけど……和守は渡さないわ……帰りを待っている人達がいるの……」
     いつの間にかロードローラーの死角に入った清音が、鋭く深い一撃を与えて。
    「何とか間に合いましたね……」
     和守とロードローラーの間に入ったヘイズは、そのまま流れるようにロードローラーに接敵、死角へと回り込んで『妖刀「雷華禍月」』を振るう。
    「わたしたちは負けない!」
     愛梨が影の刃を放つとほぼ同時に紅詩が炎の翼を顕現させて仲間に力を与えた。ロードローラーと距離を詰めた矧は、盾を振り上げつつもロードローラーの本体となった人物の救出の可能性を考えている。
    「みんな、来てくれたんだな!」
     和守は自身の傷を癒やしつつ、駆けつけてくれた仲間たちの姿をひとりひとり確認して。
    「あらら~。お仲間到着ですか~。これは面倒なことになりましたねー」
     ロードローラーは何か言っているが、不思議と仲間と共にいると、ひとりの時に感じたあの『絶対かなわない』という思いを感じなくなっていた。

    ●反撃開始!
    「全員ぺしゃんこにしてしまいましょう~」
     ロードローラーがその本領を発揮するかのように巨体で前衛を狙う。接近してきた巨体に、渡里は上段の構えから刀を振り下ろし、サフィアは更に和守を癒やす。
    「また随分と熱烈なラブコール受けてるじゃない。モテる男はツラいわね」
    「熱烈すぎて満身創痍だ」
     狭霧は自分の軽口に、和守が応える余裕がある――否、余裕ができたことを安心して、敵の装甲を剥ぐような深い一撃を加えるべく接敵、そして距離を取る。基本的な部分がこれまでのロードローラーと変わらないのであれば、破壊力はあるが小回りがきかないと判断してのことだ。
    「久しぶりね、ロードローラー。ウチの部員をハンドレッドナンバーにスカウト? はん、そういう寝言は私達を倒してから言いなさい」
    「失礼、マネージャーさんがいらっしゃいましたかー」
     質の悪いボケのような見当違いの返答は、無視する狭霧。
    「……この攻撃は基点……貴方を倒す為の布石よ……」
     清音の『百華龍嵐』が全方位に広がってロードローラーを襲う。花の模様があしらわれたそれは、まるで戦場が花で満ちたようにも錯覚させた。
     撹乱させるように素早く動き回るヘイズ。ここだと思った死角で刃を振るえば、敵の傷は増えていく。
    「いきます!」
     愛梨の放った帯がロードローラーへと向かう。紅詩は炎纏わせた糸をロードローラーに絡め、引き抜くようにして切り裂く。
    (「ハンドレッドナンバーの序列が問題ならば序列を取り除けば、救出できるのではないでしょうか?」)
     今、目の前にしているロードローラーは分体なので無理なのは承知だが、本体を救うことを諦めきれない矧は考える。
    (「『分割』と『結合』の力を備えた『べヘリタスの秘宝』ならば、あるいは……」)
    「生きているうちは何一つ諦めるつもりはありませんよ」
     呟いた矧は白光の斬撃で敵を狙う。
    「ああ、邪魔だなー邪魔だなー」
     ロードローラーの呟き。上がる駆動音。衝撃波が、和守めがけて飛ぶ!
    「させませんよ」
     だが、素早く動いた矧がそれを全身で受け止めた。
    「感謝だ」
    「その言葉は、目の前のあれをなんとかしてからもう一度もらいますよ」
    「そうだな」
     和守は頷いて、矧へと帯の癒やしを与えた。

    ●それから
     ロードローラーと灼滅者達としてみれば、互いに負った傷はどちらもそこそこ深い。だが、一撃の重さに手数で対応できる灼滅者に比べて、ロードローラーは裂帛の気合を込めた叫びで一手消耗する。それでも時間がすぎるごとに、盾役の矧の傷が深まっていった。彼自身自分でも回復しているが、癒やしきれぬ傷が蓄積されて行くのは如何ともしがたい。
    「……ほんとにちっさい。ハンドレッドになっても、小物感すごいな」
    「なんですかー。こんなに大きな体を持っているのに小さいですかー」
    「いや、もうすこしとんでもない事をすると思っていたんだが……この程度の事しかしないとは思わなかった」
     口を開いたのは渡里。ダメージの偏りをまずいと思ったのだ。挑発になればと続ける。
    「今は、ただのお使い係だろ?」
    「分体ですからねー。お使いもやむなしですー。でも馬鹿にされるのはあまり気分よくないですねー」
     ロードローラーが渡里を狙う。だが、跳躍した渡里はロードローラーを踏み台にして後方へと着地し、すぐさま死角から斬り上げる。サフィアが矧を癒やしている間に、狭霧が駆け出す。ロードローラーに接近して、ジグザグに変形させたナイフでの一撃は、ここにきて辛いはずだ。
    「……元は灼滅者だとしても……仲間を傷つけるなら容赦はしないわ……」
     清音の影が、ロードローラーの巨体を包み込むようにして展開。
    「きっと、あと少し。みんな、諦めないでくださいね!  笑ってお家に帰ろう!」
     リングを放ちながらの愛梨の明るい声かけが、皆を奮い立たせる。彼女の言動に見える大胆さと明るさは内気さの裏返しのようだが、今はその大胆さが良い方向に働いているように思える。
    「畳み掛けましょう!」
     今度は影に炎を宿して、紅詩はロードローラーを狙う。矧の炎を纏った蹴撃が、後を追うようにして。ヘイズが零距離で繰り出した拳が、ロードローラーを穿つ。和守は回復に徹し続けた。
     ロードローラーは元より諦めるつもりはないのだろう。目的を果たすまでは。ならば、こちらが奴を灼滅するしかない。
     サフィアが回復に回る中、渡里はロードローラーに矢を放つ。
     押しつぶそうとしてくる巨体にジャンプで飛び乗った狭霧は、ロードローラーの運転席付近にナイフを突き刺した。
    「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
     初めてロードローラーが悲鳴を上げた。誰もが感じた、ここが攻めどきだと。
     清音、愛梨、紅詩、矧ができるだけタイミングを合わせるように、または追うようにして攻撃を放つ。和守もここは攻めどきだと判断し、これまでのお返しとばかりに『戦闘靴2型改二』を履いた蹴撃を喰らわせる。
     ぐらり、ロードローラーの巨体が不意に揺れたように見えた。
    「禍月、このイカれた鉄塊を両断するぞ!」
     それを見逃さなかったヘイズが彼我の距離を詰め、そして。
     ザシュッ……納刀状態からの素早い抜刀、そして斬撃。手応えは、あった。
    「分体ですからね~本体さえいれば、ロードローラーは永久に不滅です♪」
     小指の先ほども悔しがった様子がないところが少しイラつくが、そう告げて紫のロードローラーは消えていった。
    「……間に合って……よかった……」
    「改めて、皆に感謝だ」
     清音の言葉に頷き、和守は、満身創痍の仲間たち一人ひとりの顔を見て礼を述べる。
    「平君が無事ならそれでいいわ。帰りましょ」
     狭霧の提案に誰も異を唱える者はなく。
     ひとりでロードローラーに相対した者は、八人となって学園へと帰還したのだった。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月14日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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