暗殺武闘大会最終戦~青天の霹靂

    作者:六堂ぱるな

    ●決定的齟齬案件
     それはいつもと変わりない一日になるはずだった、午後のこと。
    「ていやー☆」
     陽気な声と共に辺りが翳って、東雲・悠(龍魂天志・d10024)は全身総毛立った。
     渡りかけの横断歩道から跳び退ると、ずしんと地響きをたてて巨大な車体が着地する。路面を盛大に陥没させた青い車体を見上げると、『殺戮第一』という標語の上に目隠しをした顔がついていた。
     学園でも半ば伝説と化したダークネスを前に唖然とする悠に、朗らかに話しかける。
    「やあ、東雲・悠。チミは今闇堕ちするとハンドレッドナンバーになれる素敵なボーナスタイム中なんだ☆ ミスター宍戸くんのお願いで迎えにきてあげたよ♪」
     なんだそれは。
    「はあ?! それのどこが素敵なんだよ!」
    「もしかしてイヤなのかな? じゃあ親切なロードローラーがお手伝いしてあげよう! ボーナスタイムが切れちゃったら、せっかくのチャンスもふいになっちゃうもんね♪」
     ごるごるごるとローラーの音を響かせ、巨大な青い車体が近づく。
     どうやらこちらの意向は丸ごと無視らしい。
    「お断りだ! お前を倒せばボーナスとやらをキャンセルできそうだな?」
    「分体だけどこう見えて整地力はスゴいんだよ。闇堕ちする気になるか、動かなくなるまで整地しちゃおうかな☆」
     封印を解いて愛用の槍を手に構え、悠は乾いた笑みを浮かべた。整地力だか何だか知らないが、勝負にならないことは悲鳴をあげる本能でわかる。
     どうあがいてもこれは勝てない。
     だが闇堕ちしたら――こいつと同じだ。間違いなく、もう戻ることはできない。
     切り抜ける術を必死で模索する悠を追い、青いロードローラーが愉しげな笑い声と地響きをあげて肉迫した。
    「灼滅者って多少戦闘不能にしても死なないから、拉致るにはスゴく都合がいいよねー♪」

    ●緊急救出作戦
     ハンドレッドナンバーに止めを刺した灼滅者への、ハンドレッドナンバー・ロードローラーによる襲撃事件。それは黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)をはじめとする灼滅者たちに予測されていた。
    「黒岩先輩たちの警戒のおかげで何とか救援を間に合わせられそうだ。今すぐに東雲先輩のところへ向かって貰いたい」
     強張った顔で埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)が告げる。
     東雲・悠が闇堕ちしたら、あるいは連れ去られてしまえば、新たなハンドレッドナンバーが誕生することになる。何としても救援を成功させなくてはならない。

     問題は戦闘力だ。本体がハンドレッドナンバーとなった為、分体のロードローラーの力も以前と比較すれば格段に上がっている。油断すれば蹴散らされるのはこちらだ。
    「分体を灼滅しても本体に影響はないが、しないと東雲先輩が救出できん」
     青いロードローラーは殺人鬼のサイキックの他にダイダロスベルトに似たサイキックも使い、目標である悠を連れ去る為に手加減攻撃もしてくるらしい。いずれにせよ、力を最大限に発揮するためにポジションはクラッシャーでくる。
     場所は一般道だが、幸い襲撃時から数分は人が通りかかることもない。人払いをすれば安心して戦えるだろう。
     東雲・悠のもとに救援部隊が駆け付けるまでに3分かかり、その間彼は一人で青いロードローラーと戦うことになる。致命的な攻撃を受けないよう時間を稼ぎ、なんとか凌いでくれと祈るばかりだ。
     手にした資料から顔をあげ、玄乃は一度唇を噛んで、語を継いだ。
    「残念ながらもう、外法院先輩……ハンドレッドナンバーとなったロードローラーを救出することはできないだろう。彼を止めなければならない」
     学園生であったものと敵対するのは心理的負担が大きい。
     しかし既に暗殺武闘大会の結果、多数のハンドレッドナンバーが活動を開始している。六六六人衆の勢力拡大阻止は必要なのだ。
    「急行し、東雲先輩を助けてくれ」
     東雲・悠が襲撃される場所を記した地図が配られた。
     説明できる限りのことを全て伝えた玄乃が深く一礼する。
    「誰一人欠けることなく、全員で帰ってきて欲しい。よろしく頼む」


    参加者
    万事・錠(ハートロッカー・d01615)
    蒼月・碧(碧星の残光・d01734)
    黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    東雲・悠(龍魂天志・d10024)
    雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)
    木津・実季(狩狼・d31826)
    赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)

    ■リプレイ

    ●青い死を追って
     何とか間に合うと聞いてはいても、三分遅れ。ハンドレッドナンバーを相手にもたせるにはあまりにも長い。不安が蒼月・碧(碧星の残光・d01734)の胸を塞ぐ。
    「悠先輩、きっと大丈夫ですよね……」
    「大丈夫、頑張ってくれるわ。それにしても顔のついたローラーに背後から狙われるイケメン大学生! ……どういうマッチメイクかしらねー」
     碧を励まし、あえて軽い口調の赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)とて、自身の不安ごと笑い飛ばそうとしていた。重量級のものがぶつかる激しい物音と震動がする。
    「……戻れなくなっちまいましたか」
     それがハンドレッドナンバーと殺り合うリスクだと、頭ではわかっている。それでも簡単に飲み込めない黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)の呟きが遠い。
     暗殺武闘大会決戦。あの紙一重の死地を共にした結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)もこの危急を聞いて駆けつけた。
    (「悠さん、碧さんとは必死で戦い抜いた戦友。堕としたりなんてさせませんよ」)
     駆ける道の先で回転する青い車体が見えてくる。あれが襲撃してきたというロードローラーだろう。それに追われている青年が見えた。東雲・悠(龍魂天志・d10024)だ。
    「いよッし、東雲先輩もたせてくれたぜ!」
     万事・錠(ハートロッカー・d01615)が快哉を叫ぶ。ざっくりと大きな切り傷を負いながらも、今のところ逃げ足には支障がなさそうだ。それどころか轢き潰そうと迫る車体を蹴って宙を舞うと、破邪の光とともに真上からロードローラーに切りつけた。
    「やられっ放しなのも性に合わなくてな!」
     車体から飛び下りる瞬間に突っかかられ、咄嗟に跳び退いて息をつく。その前でアイドリングをしながら、青いロードローラーが陽気な声をあげた。
    「元気なのは嬉しいよ☆ でも遠足に来てくれないなら、ぺちゃんこにして連れてっちゃおうかな♪」
     一気に距離を詰めながらも、雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)が思わずため息をついた。以前のように浜松餃子怪人を相手にするとかならともかくとして。
    「ノーライフキングの迷宮を整地でもしてくれたら、まだらしいことだと言えるんですが……今回は完全阻止しませんとねぇ」
    「連れ攫われる前に潰しちゃいましょうか」
     敵するものは今回は、もともと学園にいた仲間。それを思えばちょっと悲しいけれど、木津・実季(狩狼・d31826)とて退くわけにはいかない。
     皆で帰れるように。
     そのために来たのだから。

    ●死を遮る手
     普通ではありえない停止状態からの急加速。ロードローラーが悠を轢き潰そうと仕掛けた瞬間。
    「闇堕ちする事を強制的にするのはだめですっ!!」
     斜め後ろからの碧渾身の飛び蹴りがまともに入って、勢いで車体が浮き上がった。車体の上についた頭が疑問の声をあげる。
    「おやあ?」
     追い討ちに死角へ入った蓮司の斬撃が車体を深々と切り裂いた。その蓮司へダイダロスベルトで盾の加護をかけつつ、滑りこんだ錠が悠とロードローラーの間に立ち塞がる。
     急ブレーキをかける青い車体の前に静菜が舞うように回り込んだ。細腕は鬼のもののように異形化し、鋭い爪と見かけによらぬ膂力の一撃がロードローラーを抉る。
    「オラッ! 離れろですよ!」
     横転するロードローラーの車底に念押しの蹴りを入れながら、実季も菖蒲の身を守るためのダイダロスベルトを放つ。ごろんごろんとロードローラーが転がっていく隙に、あずさも悠の傍へ駆けつけた。
    「悠さん、傷を診せて。バッドボーイ、手伝って!」
     この3分で生命力が半減一歩手前のかなりの怪我だ。光の輪を沿わせて傷を癒しながら盾の加護を重ねる。さしもの悠も荒い息をついていた。
    「皆、来てくれたのか」
     四回転ほどしたロードローラーがもう一回転して正しい上下を取り戻すと、アスファルトをぎゃりぎゃり削りながら一行へ向き直った。
    「増えちゃった。まあ全部轢き潰すだけだけどね♪」
    「貴方が整地のロードローラーですか、迷惑行為は辞めて欲しいんですがねぇ。言っても聞いてくれないなら、遠慮なく倒れて貰いますよ!」
     悠を中心にダメ押しの治療と異状への抵抗値を底上げしながら、菖蒲が最後通牒を突きつける。しかしロードローラーは一向に恐れ入らなかった。
    「えー、迷惑なの? でも儀式のボーナスタイム中の今なら灼滅者だって資格アリさ! 宍戸くんのお願いでヘッドハンティングに来てあげたんだ☆」
    「こちらの意向を無視している時点でとても迷惑です」
     丁寧かつ尤もな静菜の応答を聞きながら、この争いに人が巻きこまれぬよう錠は殺気を放ち、碧は物音が人の耳に入らぬよう音を断つ。
    「油断も隙もないですねぇ……本当に普通の人間なのか怪しいですね、宍戸は。なんだか校長とダブります」
     およそ普通の人間の所業とは思えない数々の実績を思い、菖蒲が唸った。どうあれ悠としては勧誘されてもお断り一択だ。
    「灼滅者ならセーフだと思ってたんだが、そうきたか……まぁ、思惑通りになってやる気は更々無いぜ!」
    「とっとと帰って下さらないとその車体をベコベコになるまで悪戯しますから。修理費用が嵩んでも知りませんよーだ!」
     実季がのんびりと威嚇する。車体に刃物が効くか疑問だったが、見たところ傷はきっちり入っている。ダメージが嵩めば切り刻めそうだ。
    「このクールなボディをベコベコに出来るものならやってみてよ☆」
     次の瞬間、視界を遮るほどの殺気が渦をまいて灼滅者たちを飲み込む。
    「レッツ、轢殺♪」

    ●死の賽の目
     目標はあくまで悠であることを実感する。
     ロードローラーの殺気は前衛たちではなく、悠を狙いに収めて後列の間に充満した。菖蒲と蓮司は素早く殺気の霧を抜け、悠はあずさが庇い、バッドボーイは錠が抱えてダメージを引き受ける。
    「抜かせない! バッドボーイ! 今日は私達の全てで守るわ!」
     あずさの叫びにうにゃんとバッドボーイが応えた。
    「反撃だ、行くぜ!」
     ひび割れたアスファルトに落ちる悠の影が殺気を貫きロードローラーに絡みつく。みしりと音をたてて軋む車体へ蓮司が襲いかかった。
    「……させやしません。せめてこれ以上は、絶対にさせねぇっすよ!」
     手にしたガンナイフはロードローラーの装甲を貫けそうにない。しかし正確に繰り出した斬撃は車体の継ぎ目から電気系統に届き、激しいショートを引き起こした。気配を断つ加護、悠を追い詰めた命中修正を打ち消す。
    「あつい、いや、痛い?」
     首を傾げるロードローラーの損害はまだ軽微。
     その正面から仕掛けながら、碧は必死に自分を落ちつけていた。いつもは先輩達が立っている位置だ。自分にできることを、やるだけ。
    「落ち着いて……大丈夫!」
     クルセイドソードが破邪の光を放ち、袈裟掛けに車体を抉り傷つける。
    (「もし引いて頂ければ追いませんけれど、分体という事は捨て身で来るでしょうか」)
     揺れる車体の横を抜けながら考える静菜の手で、月貫の紅緋布がふわりとなびいた。穂先に宿る凍気は空気を凍らせながら疾り、車体を揺らす勢いで着弾。氷の呪いとなって表面をびきびきと覆っていく。
     浅からぬ傷を負ったあずさへ菖蒲が逆巻く羽衣を疾らせた。まさに羽衣のようにふわりとあずさを包み、蝕まれた傷を塞ぎ癒す。
    「お手並み拝見と行かせてもらうぜェ!」
     大型車両とは思えない反射で灼滅者を蹴散らそうとするロードローラーから身を躱し、錠のNotenschriftが軍旗のように翻った。記された五線譜がいまだ残る殺気を裂いて車体に突き立つ。
    「帰ってもらえませんかねえ」
     吐息まじりの実季の言葉が聞こえた時には、後部ローラーの軸めがけた斬撃が入っていた。歪な音を立てて軋み、なおもロードローラーは素早く距離をとる。
    「悠さんもホント色々大変な目に合うのよね。でもまー、絶対に守り抜くわ」
     明るく言いきったあずさはギターを力強く爪弾いた。悠を蝕む呪いを打ち消し癒しの力を響かせる。相棒のバッドボーイも尻尾のリングを光らせて仲間の傷を塞ぐ。
     ……田子の浦の二の舞には、ならない。
     あの戦いで昏倒し悠を闇堕ちさせたことは繰り返してはならないのだ。
    「なかなかやるね♪」
     愉しげな声が響いた――次の瞬間。
     視野に収めていたはずのロードローラーが消失する。
     風切り音が聞こえて、考えるより早く身体は反応していて。視界の端で青いものを捉えた錠は、悠の前へ飛び込んでいた。
     開いたボンネットが胸を抉る。ばしゃりと音をたてて、血がぶちまけられた。
    「ほら、穴があいちゃった♪」
    「なァ外法院。例え俺の四肢が折れようが通さねェ!」
     血にまみれて笑う錠の槍が、鈍い音をたてて前部ローラーを貫いて抉る。

    ●行きして戻らず
     ロードローラーが規格外の速さを見せるのは四度に一度。しかしその一度のダメージの重さは、想定した防具を身に着けていた錠のダメージをみても相当に重い。回復重視の戦術は堅実であると同時に、敵の撃破に時間がかかる。
    「回復は任せて下さいね……しかし、予想以上に厄介ですな威力ですね。東雲さんは渡しませんよ!」
     傷を癒し精神集中を補う矢を静菜に放ち、菖蒲が士気を奮い立たせる。たび重なるロードローラーの攻撃は庇い手たちを一通り轢いて、かなりの怪我を与えていた。
    「じゃあ一人ずつ轢いてくだけだもんね♪」
     回転のかかったロードローラーが後衛を襲う。悠の前に滑りこんだ静菜がなんとか一撃を受け止めたが、遂にバッドボーイが消し飛んだ。癒し手はこれで菖蒲一人。
    「やっぱ強ェわ」
     血を拭う錠はあくまで無邪気に、死線の上でまみえた敵を見据えて笑う。誰かがそろそろ倒れかねず、ロードローラーも車体は歪み穴があき、いつ吹っ飛んでも不思議はない。
     そろりと後ろへ下がって、実季は悠に囁いた。
    「もしもの場合はなんとしてでも逃がしますよ」
     それは仲間たちが引いた絶対のライン。誰もがたとえ体を張ってでも悠だけは逃がすつもりでいた。けれどそれだけでは彼には不十分で。
    「堕ちる気は無いけど、来てくれた皆にも堕ちて欲しくは無いんだ」
     全員で戻れなくては意味がない。
    「だから俺に出来る精一杯をやるだけだ!」
     ドリフトすらこなして迫るロードローラーのボンネットを蹴り、悠の長身が空を舞う。愛用の槍を握って、彼は晴天の雷のように落ちかかった。槍の穂先が螺旋を描いてボンネットを貫き通す。煙を噴き上げながら嘲り声が響いた。
    「ロードローラー一体にガッタガタだよね。弱弱しいよね♪」
    「それでも、堕ちはしませんっ!! ボク達は、人として闇との狭間で抗いながら、でも生きているんですからっ!!」
     動きの止まったロードローラーの顔面に、碧の降魔の光刃が叩きつけられた。闇に差しこむ光のようなサイキックの輝きが深い傷を刻みつける。
     その言葉は半ば覚悟しかけていた実季にも笑みを取り戻した。
    「……そうですね。さっさと終らせて、さっさと帰りますよ!」
     疲れた足に力を込めてナイフを握り直す。
     異様な小回りをみせるロードローラーに肉迫すると、幾つも開いた車体の傷にナイフを捻じ込んだ。車体の金属を引き裂いてざっくりと傷を広げ、駆動部分を殺しにかかる。
    「そろそろいけそうですね」
     見るからに動きが鈍った疾走を躱し、菖蒲もロードローラーへ逆巻く羽衣を滑らせた。ささくれた金属に触れれば裂けてしまいそうな羽衣が、ふわりとうねると車底に緩やかに巻き付く。途端にぎしりと絞め上げられたシャーシが折れた。
    「あれ、痛いよ? なんだか遅いよ?」
     車体が左右にぶれているが、あの様子ではすぐに勘を取り戻すだろう。二度と見失わないよう集中していた錠は、ふと、蓮司に声をかけた。
    「顔色良くねェな。もしかして外法院の知り合いだったか?」
     蓮司は首を横に振った。
     知り合いではない、けれど同じ学園の仲間だったものを、もう戻れない者をいつか始末しなければならないという事実はわかっている。
    「容赦しねぇっつーか……しちゃいけねーんです。……あの人はもう戻ってこれねぇんですから。せめて早いトコ探し出して、殺る。……それが手向けってヤツです」
     千鳥足のロードローラーを避けて首を振る蓮司に、反対へ逃れながら錠はSt.PETERを抜いた。黄金の逆十字のような剣が紅の閃光を帯びて前部ローラーに亀裂を入れる。
    「救出を諦めるのは最期まで足掻いてからだろ?」
     出来る限りを尽くさなくては諦められない、最後のNOを見るまでは諦めない、そう思えるものなら蓮司もそう考えたい。
     けれど彼の、灼滅者の魂は失われたのだという話を聞いた。
     応えず、蓮司は飛びかかるロードローラーを掻い潜った。低く腰を落としながらのスピンが火の粉を散らし、振り返りざまの蹴撃は炎の尾を引いて後部ボディを叩き潰す。更なる炎が車体を這い、立体交差の道路の橋脚に横ざまにぶつかった。
    「分体でも伝言は届くでしょうか」
     静菜の足元から湧き出た影が、青い車体を橋脚から引き剥がして突き飛ばした。
    「次助けに行くのは貴方なので待っていて下さい」
     彼女もまた、救出を諦めていない一人で。
     どん。
     弾き飛ばされたロードローラーがアスファルトに落ちるより早く、疾った影が車体を左右に断ちきり影に消える。軋む音がして、青い車体にまっすぐな亀裂が走った。ロードローラーが満面の笑顔になる。
    「あ、限界なんだね☆」
     かっと熱と炎が迸る。
     青いロードローラーは唐突に爆発した。立体交差の道路をかすめて高く立ち上る煙はほんのひととき。やがて路面や路肩の激しい損傷だけを残して嘘のように消えうせた。
     緊張が解けたあずさが長い、長い息をつく。その目がわずかに潤んでいた。
    「……よかった……守れたわ」
    「おう、守ってもらったな」
     にかりと笑って悠があずさに応え、碧が彼女を支えに駆けよってくる。
    「大丈夫……じゃないっ。ひどい怪我……!」
     そう言う碧も結構な傷で、大きな怪我をせずに済んだのはほぼ実季だけだった。とはいえ意識不明者がいないのは上々で、錠に肩を貸しながら悠が仲間に笑いかける。
    「皆のおかげで助かったぜ。ざっと傷を塞いだらすぐに学園へ撤退した方がいいよな」
    「ええ。他の増殖体が追撃してくるかもしれないので、のんびりもしていられませんね」
     辺りを油断なく警戒しながら菖蒲が首肯した。分裂体を何体も繰り出して来られたら身がもたない。

     青き災禍はかくて潰えた。
     怪我を負いながらも仲間を守り、守られ、灼滅者のうちに闇へ堕ちたものはなく。
     次なる一手の定かならぬ敵は、再び沈黙する。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月14日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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