アルパカぱかぱか

    作者:夕狩こあら

    「ラジオウェーブのラジオ放送がまた確認されたんス!」
     教室に飛び込んできた日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)の緊張した面持ちに、灼滅者達の視線が集まる。
    「このままだと、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまうッス!」
     ノビルは弾む息を整えた後、自身が聞いた放送内容を語り出した――。

    「アルパカ可愛ぇなぁ」
    「ふわっふわやん」
     とある牧場で放牧されているアルパカを撫で撫で、その温もりに目を細めていた二人の女性が、ふと……飼育員の目を盗んで噂話を始める。
    「なぁ此処、アルパカの毛でセーター作ってるって言うやん?」
    「看板見たで。めっちゃ品質ええて」
    「でもな、アルパカ的には直ぐに刈って欲しいんやって」
    「まぁ……こんだけ着込んでたら、そろそろ気温も上がるし暑いやろな」
    「それを人間さんの都合でな、モコモコなるまで待ってんねん」
    「なにそれ、虐待やん! 動物虐待!」
     不意に大きくなる声を「しっ」と制した女は声を鋭く、
    「だから、今こんだけモコモコしとるの居ったら、しんどいのが積もって」
    「積もって?」
    「……そのうち人間襲うで」
     そこまで話した二人組は、晴天の筈が雨雲の如く覆い尽くす黒影に気付き、見上げれば――モコモコし尽くした巨大なアルパカが、大きな蹄を持ち上げていた――。

    「……つまり。とある牧場で巨大化したアルパカが女性を襲う、と」
    「そっす!」
     こっくりと頷いたノビルは更に説明を加え、
    「赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の兄貴の調査によって、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止める事が出来たのは、兄貴と姉御も知る所ッスよね」
    「ああ」
     その結果、ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に、その情報を得られるようになったのだ。
    「灼滅者の兄貴と姉御には、この都市伝説が放送内容の様な事件を起こす前に、件の牧場へ行って灼滅してきて欲しいんス!」
     ノビルの言を受け止めた灼滅者達は、力強い首肯を返す。
     一同の是を受け取ったノビルは、次に都市伝説の能力について語った。
    「女性の二人連れが話している『しんどいアルパカ』は、毛の暑さや重量でストレスを抱えている為、毛刈りしてやるとスッキリ消滅する一方、狩り忘れは厳禁ッス」
    「成程」
    「因みに狩り忘れたアルパカを『1パカ』とすると」
    「なにその単位」
    「2パカ、3パカ……5パカでストレスが膨張・肥大し、巨大化してしまうッス」
    「最初に全部で何頭居るか確かめないとな」
     毛刈りだけで終われば、アルパカの消失を見守るだけで事件は防げるが、戦闘も念頭に置いておいた方が良い。
     更にノビルは声色を落とし、
    「この情報は、ラジオ放送の情報から類推される能力ッス。可能性は低いとはいえ、自分の予測を上回る能力を持つ可能性があるんで……油断は禁物ッスよ」
     警告を置くエクスブレインに、灼滅者らは聢と頷いた。
    「……という事で、今から毛刈り訓練っす!」
     少しでも早く精確に刈れるようにと、ノビルは図鑑と教本、実演動画やらヌイグルミやらを山の様に積み上げた――。


    参加者
    朝山・千巻(青水晶の風花・d00396)
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    城・漣香(焔心リプルス・d03598)
    庵原・真珠(魚の夢・d19620)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    真中・翼(大学生サウンドソルジャー・d24037)
    不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)
    神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500)

    ■リプレイ


    「すみませーん! その子、今から毛刈りなんで!」
    「えー」
     アルパカの毛を撫でていた女性客が、飼育員と思しき二人組に声を掛けられる。
     その指先に牧舎を示された当初は、名残惜しそうに眉を顰めたものの、
    「あと五分でカルガモ親子のお散歩が始まりますよ」
    「えっ、そうなん?」
    「そっち行くわ!」
     溜池へと導かれた瞳はパッと華やぎ、颯と飛び立つ。
     移り気な蝶を目礼に送った二人は、再び持ち上げた顔に莞爾を湛え、
    「アルパカ広場は暫く閉鎖させて頂きまーす」
    「ご了承願いまーす」
     語尾を揃えたニライカナイ――城・漣香(焔心リプルス・d03598)と朝山・千巻(青水晶の風花・d00396)が合図を送れば、清冽たる碧落に向かって箒が飛ぶ。
     乗り手は、不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)。
    「まさかこんな噂が電波で流れるとは……ラジオウェーブも読み難い」
     彼は天つ風に艶髪を梳らせながら、先ずは高みより『目標』を確認せんと眼を凝らし、
    「大体の位置を把握したら、皆に伝えて誘導を始めようか」
     素早く略図を書き上げて降下すると、情報を共有した仲間達が広大な緑に駆け出す。
    「……まあ、アルパカじゃなくても毛が多いのは大変だろうし」
     暑くて重くて苦労もあろうと、憐憫を寄せるは神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500)。
     少女は海を映した様な青き双眸をキョロキョロと動かすと、
    「……とりあえず涼しそうな場所から……あとは餌場や水飲み場、ふれあいの場とか……」
     自由気儘に憩う彼等を、発見したその場で刈るべく、バリカンを手に走った。
     牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)も之に続くか――否、ダウナー系少女に『全力疾走』という概念はなく、
    「ここにアルパカの着ぐるみがある。お前にピッタリのサイズの」
    「にゃっ……」
     ヨタロウを小間使い代わりに、目で「着ろ」と押し付ける。
    「なんか、こう、アルパカっぽい動きをして集めてきなさいよ」
     自身はこの場で待つらしく、細腰に手を宛てた儘の主人に翼猫は弁明し、
    「にゃごにゃご」
    「……は? どんな動きか分からない?」
    「にゃふん」
    「そんなもん自分が知ってる訳ないでしょう」
    「にゃ……!」
    「やれ」
     鰾膠もない。
     蓋しこの動物的な、匂いを有するヨタロウが誘い出しに加わったのは良策で、珍しきに反応した鼻がすんすんと寄ってくる。
    「メェ~」
    「フィ~」
     好奇心の強い彼等の性質――本能的な部分から攻略を試みる羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は、あまおとの匂いを付けた着ぐるみに袖を通しつつ、
    「アルパカさんて群れるらしいですね? 一夫多妻なんですね?」
     雄パカに扮して一網打尽を図る妙計。
     案ずる勿れ、俳優の父(女性)に育てられた少女の演技力は、事前の猛勉強の甲斐あって寸分の隙もないが、
    「えと、す、すみません……イリュージョンを閉めて欲しいのです!」
    「任せて」
     お手伝いが必要なのは秘密。
     槇南・マキノ(仏像・dn0245)がジジジ、と鈍い音を上げて可憐を隠せば、そこには立派なアルパカが現れ、
    「これでもう『中の人』なんて居ないわ」(ぎゅっ)
    「陽桜ちゃんかわいー! がんばって!」(ぎゅー)
     愛らしさは千巻のお墨付き。
    「ふぃ~」
     彼女は、いや、『彼』はトコトコと歩き出した。

     さて、今は閑古とした牧舎で待つ真中・翼(大学生サウンドソルジャー・d24037)はやや緊張気味に、
    「……上手く出来るかな。やった事がないから不安だ」
    「私、生で見るのはじめてかも」
     予習をしたとはいえ、毛刈りの動作を幾度となく確認する庵原・真珠(魚の夢・d19620)と共に道具類を整える。
     一匹目は、二人の女性客が愛でていた――『飼育員』が連れ戻した純白のアルパカであったが、
    「……めっちゃ、もこもこ……たしかに、これだけもこもこだと暑いかも」
    「フーゥ」
     溜息がちな鳴声と、優しい眼差しに癒されるより早く、その質量に衝撃を隠せない。
     毛量とは即ち仕事量であり、
    「……思ってたより大きいな」
     二人の視線は自ずと時計に繋がれた。


    「可愛いアルパカは可愛いって思えるうちに解決してあげたいよねっ」
    「でかいのも気になるけど、コトは穏便に運びたいよね」
     プラチナチケットを用いて、我が身を飼育員と思わせた漣香と千巻が避難誘導し、箒に跨った九朗がアルパカの位置を確認した上で集めに掛かる――初動は優秀。
    「先ずは機嫌の良さそうな……スキップしたり、尻尾を立ててるのから連れ出すか」
    「フィ~」
     加えて、作業を振り分けた事も奏功したろう。
    「ふぃ~(こっちです!)」
    「にゃイ~」
     草原で陽桜と麻耶(実質ヨタロウ)が群れの興味を引き寄せる一方、
    「大丈夫。いま楽にしてやるからな(毛刈り的に)」
     時間のロスは極力省かんと、牧舎では翼が鋏を手にちょきちょき、じょきん。
     更に各々がESPを分担して持ち寄ったのも剴切で、
    「いつ巨大パカになっちゃうか分からないし」
    「……耳目を集めないようにしないと」
     真珠が牧場一帯を黒檻に囲い込み、榛香が一切の音を遮蔽すれば、周辺の一般人を巻き込む不安もない。
     全員が、全頭が平和を迎えられるよう――彼等の想いは言なき命にも伝わったか、灼滅者とアルパカの真剣勝負が、長閑な牧場で静かに始まっていた。

    「フィ~」
    「フゥン」
     九朗はゴキゲンな二頭に妙に懐かれてしまい、ふわふわサンドイッチ状態で移動中。
    「うんうん、分かったから」
     その痩躯を半分ほど埋もれさせた儘、左右交互に宥めつつ歩く彼は、声色こそ淡然たるものの、引き渡し時に離れてくれるか少し心配している。
     誘導に餌を使ったのは効果的で、マキノもまた彼と同じく新鮮な穀類をチラつかせつつ、
    「さぁ、ご飯の時間よ」
    「ふぃ~(美味しそうだなぁ)」
    「フィ~」
     雄パカこと陽桜との連携プレー。
     食欲旺盛でも臆病な彼等は、先陣を駆る一頭が必要か、
    「いらっしゃい。こっちよ」
    「ふぃ~(食べにいこうっと)」
    「フィ~」
     その一歩に釣られて群れがモコモコと動き出す。
     あまおとは遠巻きに退路を塞ぐよう見張っており、草原を翔ける姿は宛ら牧羊犬だ。
     小高い丘より綿雲の様な塊が見えれば、麻耶はその頭数を指差し数え、
    「一パカ、二パカ、三パカ………ねむい」
     おっと危ない、四パカで瞼が落ちる。
     彼女は睡魔と戦いながら(ほぼ負けてる)、牧舎までの残り数歩を餌箱を見せて導き、中で作業をする毛刈り班へと預けた。
    「もふもふしたい。でも動くのはメンドい――この二律背反、どうしてくれよう」
    「なぁご」
     相棒が群れを連れて戻れば、葛藤をぶつけ、
    「どうしてくれるんです? ヨタロウ」
    「にゃ……にゃご」
     鳴くにも詰まる不憫さよ――。
     斯くして集められたアルパカ達は、一匹ずつ中に迎えられ、
    「いらっしゃいませ~」
    「今日はどのような……はい、丸刈りで!」
     千巻がカウンターに頭数を刻むと同時、漣香が笑顔の接客でバリカンギュイーン。
     二人は音に怖がるアルパカをもふり抱きこみつつ、
    「痛くないですかー?」
     と、美容師気分――いや、トリマー気分でじょりじょり刈っていく。因みに刈った毛は、互いにデコッて音楽家風カツラやソフトクリーム状にする小技も忘れない。
    「鋏と櫛で整えたらオッケー、イケメン!」
     無事に終えれば勇気を讃えて撫でてやる――メンタルケアも十分。
     牧舎の奥で作業する真珠と翼はというと、重量のある躯体を抑えるにも裏返すにも一苦労と言った処か、
    「毛を刈るのってけっこう力業だよね」
    「ピーィ」
    「ご、ごめんね」
     餌をやったり撫でてやったり、気を逸らしつつの優しい作業。
    「時間との勝負だし、てきぱきやる事と……唾を吐かれないように注意しないとな」
     ストレスを解消させるつもりが、ストレスを掛けてはならぬと、慎重に進める――但し時間を掛けすぎてもいけないのが難しい所だ。
    「……本などで見た方法で優しく刈ろう」
     アルパカを見つけては刈る――謂わば遊撃隊の榛香は、その巨躯と意外な機動性に苦労しているようで、
    「フィ~」
     フリフリとお尻を振って逃げる一頭と鬼ごっこ。
     何とも微笑ましい――牧歌的な風景であった。


     但し、可愛いだけでないのが命ある獣の姿で、それは灼滅者も承知の上。
    「唇を盛り上げてるアルパカは要注意だね。唾を吐きかけて来る可能性も高――」
    「ンイー」
    「、っ」
     九朗が警戒した矢先だった。
     内向的な性格と思った瞬間、その眼鏡は強い異臭を放つ唾液に汚され、沈着たる佳顔が僅かに顰む。
    (「……怒りたいけど、ここで怒っちゃだめだよなぁ」)
     最終手段として怪力無双を持ち合わせた身だが、怯えているからこそと思い直し、慎重を期す。
     後続する個体ほど厄介なもので、
    「にゃイ!」
    「…………帰っていいですか?」
     中々牧舎に入ろうとしないアルパカの反抗に遭ったヨタロウは臭気にフラフラと、麻耶は「むり」と言ちてベットリした服の生地を摘む。
     着ぐるみを着た陽桜は無事か――、
    「ニイー」
    「ンィー」
    「ふぃぃぃー(ぎっちりなのです!)」
     あまおとの匂いがモテすぎてしまい、もう何処に居るのか分からない!
    「今、助けに行ンンンンンン!」
    「わふふんんんんん」
     マキノとあまおとが救出に向かうも、フカフカの雲海は大きくうねって気流を為し、簡単には脱出できないモフ地獄。
     そこに丁度現れた榛香はというと、
    「……いつの間にか乗ってしまった」
     小さな躯では届かぬと思ったか、刈ろう刈ろうと伸びた手は無意識に首へと回され、気付けば背に乗り……そのまま牧舎へイン。
     部分的に刈られたハゲパカを迎えた翼は「どうどう」と宥めて寝かせ、
    「ビフォーアフターの写真撮っておこう」
     真珠はカメラに記録をした上で、バリバリと刈っていく。
    「これで十二頭か……折り返したとはいえ大変だ」
    「わああどんどんもこもこが……もこもこが……す、すごい」
     既に集めた毛量も相当だが、これだけを蓄えたアルパカの、元の姿には目を瞠ろう。
    「さっぱりしてるけどちょっと寒そう……だ、大丈夫かな」
     スッキリした表情を見せるものもあれば、震える個体も居り、
    「刈り終わるとなんつうかその……随分貧相な……いやなんでもなアアアア!」
     ぶしゃあああ、と唾を被った漣香は、仲間を三歩ほど後退させてプチ殺界形成。
    「ちろるさん笑ってない? 今笑ったでしょ明らかに!」
    「ふふふううんん?」
     どっちだ、千巻。
     タオルを差し出す彼女は舎窓より美しき草原を眺め、
    「皆もちゃんとオレの目を見ようよー」
     犠牲者は汚れを拭き拭き嘆息し、その姿を見た誰もが「クリーニングがあれば良かった」と痛感した――その時であった。
    「フィー!」
    「!!」
     順番に並んでいたアルパカが、毛刈りを待てず苛立ったか――互いの身をモフモフと押し合って蠢き出す。
     モフモフ、モフモフ……愛らしい仕草なのに、何処か嫌な予感が過って……。
    「……何体待ってた?」
    「確か、……五パカ……」
    「ッ、!」
     決して刈り忘れた訳でないのに、まるで石鹸の様に膨れ上がっていくモコモコは、明らかにノビルが言っていた『膨張』であり『肥大化』であり、エクスブレインの予知ならぬ予測が、ラジオウェーブが生み出す膨大な闇に裏切られる。
     それは軈て形を成し――、

    「パカ~」

    「お、大きいです!」
    「でっけー!!」
     牧舎の屋根を突き破らんばかりの巨大アルパカが、謎の声を発して一同を見下ろした。


     一体どんなストレスを、攻撃を仕掛けてくるのか――殲術道具を解放した灼滅者は、その炯眼に驚異の景を捉える。
    「パカ~」
    「……蹄まで届く毛が重そうだな」
    「……えと、動けないみたいですね」
     もぞもぞしている。
    「パカ~」
    「……暑そう」
    「……痒いんじゃないかな」
     もぞもぞしている。
    「……」
    「……」
     暫し時を置いた灼滅者は、身重で一歩も踏み出ぬ敵パカに一方的に攻撃するのを躊躇ったか、或いは他に解決法を見出したか、少ない会話では分からない。
     然しその意図は、刻下、彼等から繰り出されたサイキックで知れよう。
    「すっきりさっぱり、快適にしてあげるから!」
    「おとなしくしてるっすよ」
     見上げる魁偉に影を隠された千巻が、地に繋がれた闇黒を辿って巨脚を縛るや、天井高く華奢を翻した麻耶が、照明を背に縛霊撃を放つ。
    「パカ~」
     天地に縛された巨体は僅かに抵抗を見せるも、鋭い軌跡を描いて飛び込んだ斬撃に身動きも出来まい。
    「このサイズだと時間が掛かるから、一気に刈ろうかって思うんだけど……駄目かな?」
     飛燕の如く疾駆した翼が、ティアーズリッパーにて服破りならぬ毛刈りを行えば、
    「いや、良いと思うよ。どんどん刈っていこう」
     九朗が操る黒鉄の蛇腹剣【Ontologie】は、肌スレスレに刃を躍らせてモコモコを裁つ。
    「パカ~、パカ~」
    「よーしよし、怖くないぞー」
     声は優しく、然しがっつり押さえ込むは安全の為。
     漣香はモフモフとした巨躯を【リィンカァネイション】に聢と抑え、かつ宥め、
    「お前も楽しそうだな……」
     魂を分つ泰流が、ふわり口角を持ち上げながら餌を与える様を見る。
     残る懸念としては、この質量から牽制の唾を吐き掛けられた時のトラウマであろうが、これにはマキノが護符を舞わせて耐性を敷き、
    「クロちゃん、ヨタロウちゃん、皆を唾から守りましょう」
    「なぁご」
    「にゃふん」
     更に双翼を翔るクロとヨタロウが輪環に光を放てば、雄渾を得た彼等は怖じぬ。
    「命を狩る訳じゃないって理解ってもらうまで……!」
    「わふっ」
     陽桜は鋏を、あまおとは刀をモコモコの中に疾走らせ、敵意のない事を懸命に伝え、
    「……涼を感じてもらうのが一番かな」
     榛香が煌矢の切先に毛を切り落とした頃には、見事なまでのスリムが現れた。
     えもいわれぬ開放感が肌に触れれば、アルパカは恍惚に吐息し、
    「アルパカの耳ってぴょこぴょこしてて……大きくなってもかわいいね」
    「パカ~」
     最早その縛霊撃は心地よいマッサージか、真珠が横臥した腹を撫でてやると、アルパカは黒目がちな瞳を細め――ゆっくり、瞼を閉じた。

    「うわあああああい!!」
    「たーのしー!!」
     レッツ、ライド。
    「パカ~!」
     すっかり毛を刈られたアルパカは、余程の上機嫌を得たか、灼滅者を背に乗せて走った。
     広い背に跨った九人は、今、爽風を感じて乗馬ならぬ乗パカを楽しんでいる。
    「もふもふ……してないけど」
    「でも、あったかいね!」
     直に感じる体温に、命の鼓動。
     ストレスより解放された魂とは、斯くも自由なのかと笑みが零れる。
     蓋し、時に翳るは寂しさか、
    「……でも、リフレッシュしたからお前は消えちゃうんだな」
    「パカ~」
     お前も。刈った毛(大量)も。
     次第に薄れ行く巨躯をそっと撫でれば、野を翔けるアルパカは空を仰いで楽しげに、
    「……そう、もっと広い所に行きたいの」
    「パカ~」
     何故だろう。
     言葉が、気持ちが理解ったような気がしたのは、沢山のアルパカと触れ合った所為だろうか――別れの辛さが幾許か和らぐ。
    「パカ~パカ~」
    「元気でね!」
    「……伸びたら僕の所に来るといい。いつでも刈ってあげるよ」
     ――約束(吸収)も交わして。
    「パカ~」
     晴朗なる蒼穹に融けゆくシルエットを最後まで見守った灼滅者は、未だ『彼』の感触の残る拳をキュッと握り込め、春の息吹を芽吹かせる牧場に、いつまでもいつまでも立っていたという――。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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