暗殺武闘大会最終戦~いざなう灰色

    ●蒼と灰と
     ――またも、悪臭だ。
     その夜、唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)の身に宿る『蒼』が再び業を嗅ぎつけた。
     あれから未だ戦いを欲しているのか。段々と業の香りが強くなるにつれ、『蒼』が愉快げに蠢くのを彼女は肌で感じ取る。
    (「然れど、違う。あの日の薫りとは……此れは、まさか――――」)
     はたと気付き、契りを結びし赤衣の娘を傍らへと呼ぶ。音もなく顕れて寄り添うゐづみと共に、薫りの根源を待ち構えて。
     ゴトゴト、ガタン。断続的な重低音が、こちらへと静かに近づいてくる。そして夜闇からゆっくりと姿を見せたその存在は。
    「見つけたよ、唐都万・蓮爾」
     その身を再び闇へと投じた、外法院・ウツロギ――ロードローラーだった。
     灰色ボディの重機に顔だけを残す変わり果てた姿となったハンドレッドナンバーは、ニカッと歯を見せて飄々と嗤う。
    「おめでとう! 君にはハンドレッドナンバーになる資格があるのさ」
    「……如何して、此処に」
    「ミスター宍戸に頼まれてねー。ああ、灼滅しようたって無駄無駄ァ! って奴さ。これは分体でしかないからね。でも、本体がめでたくハンドレッドナンバーになったことで、並の六六六人衆をはるかに越える整地力を獲得したんだ。『あのとき』以上の整地力を――ね」
     蓮爾を護るようにして身構えるゐづみの隣で、蓮爾はふたたび「貴方の目的は?」と静かに問う。
    「目的? 君たち灼滅者の闇堕ち、あるいはテイクアウトさ。ダークネスと違ってKOしても死なないんだから、灼滅者なんて無理やり攫うのに最適だよね?」
     嘲笑うかようなロードローラーの声が夜闇に響く。
     蓮爾は、本能的に察知した。奴には勝てないことを。闇堕ちを選べば最後、灼滅者へ戻ることもなく、ロードローラーと同様の存在へと成り果ててしまうことも。
     どく、どく、と蓮爾の『蒼』が激しく脈を打つ。己の中に潜む化物は戦いを欲しがれど、此処はなんとか切り抜けねばなるまい。
    「さあ、さあさあさあさあさあどうする? どうする? 暗殺武闘大会の効力が切れる前に闇堕ちを選ばなきゃ、折角の美味しいチャンスは水の泡だよ?」
     選択を迫るロードローラー。けたけたと怪しい笑みは一つも変えず、唐突に一言浴びせる。
    「まあ、君に選択肢はないけどね」
     ガタガタ、と再び響く機械音。灰色の重機はそのまま前進してゆく。
     死を宣告するが如く、灰色の重機は蓮爾たちへと押し迫ったのだ。


    「お前さん達、皆集まったな? 緊急だ。心して聞いてくれ」
     急遽、教室へと招集された灼滅者達へ話を切り出したのは白椛・花深(大学生エクスブレイン・dn0173)だ。
     何事かと問う一人に対し、エクスブレインは神妙な面持ちで「暗殺武闘大会決戦のことだ」と告げる。
    「あの日、ハンドレッドナンバーにトドメを刺した灼滅者が襲撃されている。ハンドレッドナンバー・外法院・ウツロギ……いや、ロードローラーにな」
     幸いにも、黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)を始めとした灼滅者達が警戒していた事もあり、今からでも救援は間に合うと言う。
     そして現在襲撃されている8名の内の一人が、唐都万・蓮爾であることを告げて。
    「蓮爾が闇堕ちを選んでしまうか、連れ去られてしまえば俺達の敗北だ。お前さん達にゃあ現場へ急行して、ロードローラーと対峙している唐都万を助けて欲しい……これ以上、お前さん達の中からハンドレッドナンバーが生まれない為にも」
     花深は灼滅者達を見渡し、願うようにそう伝えた。瞳の奥に滲むは、何処へもぶつけられないやるせなさ。それを隠すように目蓋を降ろし、静かに資料を捲る。
    「蓮爾を襲撃しているロードローラーは灰色だ。本体じゃない。奴は分体の一つ……それでも、本体がハンドレッドナンバーになったんだ。以前に事件を引き起こしていた分体以上に、強い」
     灰色のロードローラーは以前、整地作業を目的として出現していた分体だ。駆使する技はその姿に違わず、重機の用途に合うものから常識外れなものまで様々。『手加減攻撃』と酷似した技も有していながら、攻撃を重点において戦いを挑むという。
    「それで、な。お前さん達も察しては居ると思うんだけどさ」
     一旦、エクスブレインは資料を教卓へ置いて。すう、と一呼吸。
     重々しく開いた言葉は、可能ならば告げたくない程の、もどかしい真実。
    「ちゃんと言っておくな。……ウツロギの救出は、絶望的だ。けど、止めなきゃならねぇ。其処はしっかりと、心に留めて置いて欲しい」
     例の暗殺武闘大会決勝が終わったのち、多くのハンドレッドナンバーが暗躍している。六六六人衆の勢力が拡大するのを、許すわけにはいかないからこそ。
    「――どうか蓮爾も連れてさ、無事に戻ってきてくれな。お前さん達みなで、一緒に」
     くしゃ、と笑みを崩して。自分のできる精一杯の言葉を送りながら、花深は灼滅者達の背を見送った。


    参加者
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    花藤・焔(戦神斬姫・d01510)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)
    渡来・桃夜(いつでも通常運行・d17562)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)

    ■リプレイ


     ――『蒼』が、蠢く。
     夜闇に響く、ロードローラーの嗤い。けれどそれ以上に、己の耳朶で笑い、嗤い、哂い続ける、蒼い声。
     逆流し、悦びに嘔吐く。まるで海嘯のような感覚を憶える。
     唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)は心に纏わりつく蒼きその衝動を振り払いながら、押し迫る灰色の重機へ得物を構える。
     此処は、耐えねばなるまい。けれど、何処まで凌げる? そう思考を巡らせる間にも、『殺戮第一』の文字が迫る。
     赤衣を翻し、ゐづみが前へと躍り出る。蓮爾が改めて覚悟を決めた、そのとき。
    「――お前をここで『殺す』」
     静かに、されど明瞭に夜を通り抜ける宣告。
     声の主たる花藤・焔(戦神斬姫・d01510)は、けたたましく刃が回転するヴェイル・アーヴェントをロードローラーめがけて振り落とした。
     焔だけではない。続々と、廃駐車場へと辿り着く7名の灼滅者たち。その中には、蓮爾もよく知る後輩の姿が。
    「間に合ってよかったよ。蓮爾先輩の一大事だからね、放っておけない」
     先輩を庇うように立つ、渡来・桃夜(いつでも通常運行・d17562)。唇には道化じみた軽い微笑みのせて。それでも桃夜の奥底に抱く決意は揺るぎなく、強固。
     次々に立ちはだかる灼滅者たちを見やり、ロードローラーは「おやおや」と笑みを更に深めた。
     ふわり、春の兆しを帯びる夜風が羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)の甘やかな色した髪をさらう。かつての外法院・ウツロギ――変わり果てたその姿を目の当たりにし、改めて絶句するも。
    (「ウツロギさん……ううん。まだ、諦めるのは早いの」)
     希望は棄てない。
     喩え、いまこの場で救うことが絶望的であったとしても。
     両手を組んだ陽桜の祈りに呼応するかのように、帯は鎧の役割を為す。霊犬のあまおとも、決意を示すように勇ましく一吠え。
    「外法院さん……今はロードローラー、でしたか」
     土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)は灼滅者としての奴の名を呼びかけたが、すぐさま首を横に振る。
     ――そう、違うのだ。今はもう命を、凶悪な存在でしかない。
     だからこそ、皆を支える為にも。
     筆一はくるり、とペンを滑らすようにナイフを翳す。溢れる守護の夜霧は筆一ごと、後方の灼滅者達を覆い尽くした。
    「いやー楽しい楽しい。やっぱ灼滅者はこうでなくっちゃね」
     相も変わらず愉快げな態度を崩さぬロードローラー。
     茫、と。影の如き黒の瞳でロードローラーを見据え、黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)は冷淡に言い返す。
    「ポンコツな締固め用機械の癖によく喋りますね。黙々と道を均してれば良いものを。どうせ、闇堕ち前に免許や資格は取ってないでしょう」
     ちなみに締固め用機械とは、官公庁での呼名である。
     対するロードローラーは「整地力は大幅にアップしたんだけどねぇ♪」とドヤ顔を決める。璃羽はただ静かに、返事代わりにと黒の一撃を見舞った。
     黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)が身につけるハンズフリーのライトが、灰色の重機を照らし出す。
    (「灰色のとは三年前の時にも戦ったけど――……」)
     ふと思い出すのは、本来の用途として道の塗装を行っていたロードローラーとの戦い。あのときは二八八位の分体であったが、いま奴はハンドレッドナンバー。
     たとえ目の前の存在がまたも分体であろうと、以前よりも強力で、油断できないのは明白だ。
     重ねて柘榴が振るう、死角からの斬撃。洗練された魔法剣士に相応しき柘榴の一閃は、的確にロードローラーへ傷をつける。
     そして大胆不敵に、まっすぐ飛び込むのは伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)。
    (「ミスター宍戸が何を考えているか知らんが、むざむざ好きにさせてやる義理はないな」)
     暗殺武闘大会の大詰めも近いと、蓮太郎は予感する。ハンドレッドナンバーを、そして灼滅者を。盤上へと駒として置き、何を企んでいるというのか。
     ――また新たに駒が進む、そんな予感がしながらも。拳に篭めた雷を迸らせる。
     蓮太郎が突き上げた拳をモロに受け、ロードローラーは吹き飛ばされた。


     大きく撥ね飛び、ガシャンと激しく音立てて。アスファルトの破片が飛び散り、道路が隆起する。
     それでも尚、ロードローラーは止まらない。廻る鉄輪は、ゴゴゴゴと轟音唸らせ灼滅者達へと黒の煙を放射する。
     短いスカートに、長い髪をおどらせて煙を抜け出して。
     赤と黒の魔導の蝶たる柘榴が新たに剣を振るう――が、
    (「……やっぱり」)
     頑丈な灰色の身体――と表現するのが妥当か――はゴン、と鈍く音を弾いて手応えが掴みづらい。
    「轢き潰させは、しません」
     眼鏡の奥に隠された、筆一の目に宿るは、信念。かつて闇に堕ち、救い出されたあの日から鋭さを増した眼差しで。
     蝕む黒煙にじっと耐えながらも、筆一は仲間を支えるべく治癒の一矢を放つ。
     癒しを受けた焔が、再び刃を構えた。
     光を遮る無機質な瞳を向けたまま、焔は赤いリボンを揺らして肉薄する。
    (「(この一戦は負けるわけにはいきませんね」)
     射出される帯は何処までも伸び、一直線にロードローラーを貫く。そして更に璃羽が瞬く間に斬り裂き、幾重もの傷を刻んだ。
    「楽しい楽しい、カーニバルみたいだね。でもね……」
     にた、とロードローラーが意味深に唇を歪めた。もっと面白い祭りが起こることを、識っているかのように。
     かつて武蔵坂と幾度も戦ってきたロードローラー。
     初めての対峙であれど、桃夜は決して怯むことなく。寧ろ、それよりも――。
    (「大事な人が待ってるから、絶対に帰るよ」)
     想うは運命共同体たる、誰よりも愛しい存在。必ず「ただいま」を、告げる為に。
     それ故に最初から、全力を。桃夜が喚ぶ聖なる風は、仲間達へと癒しを運ぶ。
     しかしロードローラーは爆走する。灼滅者の陣形を乱すように、踏み潰すように。奴の狙いは案の定、ターゲットたる唐都万・蓮爾だ。
     だが、その轢き裂く重い一撃をかばったのは、あまおとだった。くぅん、と力なく鳴いたと同時、ふわりと消えてゆく。
     写し身たる霊犬の想いも背負い、陽桜は黒き炎を蝋燭へ灯す。
    「あたしは諦めません。『ひと』であることも、命そのものも――堕ちた人達を助ける道も、全部」
     陽桜が解き放つ想いは、未来への願い。どれほどセカイが苦しくたって、信じる力は常に胸に。
     ロードローラーの一撃は非常に手痛い。
     守護の担い手もまたじわじわと体力を削られてゆくが、灼滅者達の中でも回復手が充実していたことにより、苦戦を強いる状況には陥っていなかった。
     だが、やはりロードローラーの狙いはハンドレッドナンバーを倒した者。重点的に攻められてゆく蓮爾は、そのたびに仲間からの優先的なフォローを受けた。
    「随分と楽しそうだが、今この場で真っ平にされるのはお前の方だ」
     ――無論、覚悟はできていような?
     無表情のまま、冷徹に告げる蓮太郎。
     だが、答えは要らない。
     見舞うは鋼の如き、拳の一撃。灰色ボディごと、奴の能力を増長させる恩恵を蓮太郎は見事砕き落とす。
     だが蓮太郎の強烈な拳を受けてもなお、白い歯をニッカリ見せびらかせて嗤うロードローラー。
    「大型特殊免許と締固め用機械運転者資格がないと道路交通法違反です。知ってましたか?」
     煽るように淡々と語る璃羽。奴へのこうした挑発も、彼女の戦法のひとつだ。
     普段ならば自己犠牲を好まぬ璃羽だが、これもまた奴の目論見を阻む為。
     八咫烏の名を冠すナイフの刃を変形させ、そのまま斬り裂く。金属を穿つ、鈍い音。幾度も、璃羽が刃を振るうたび、幾度も幾度もこだまする。
     そうして後方から蓮爾が放つ、『業』凍てつく砲弾。さらに柘榴が撃ち出した、妖気の氷柱が降り注ぐ。
     灼滅者達の度重なる攻撃は少しずつ、ロードローラーを追い込んでいるか――に見えた。
     ちか、ちか、と。
     ロードローラーのヘッドライトが明滅する。まるで二つの眼にも視える、それ。
     そうしてそのまま鉄輪の廻転が急速になり、轢き潰すべく後方へと突撃する。
     対象は無論、奴が連れ去るべき灼滅者一人。だが再びそれを制したのは。
    「――ゐづみ」
     嘗ての幼馴染。共に壇上に立ち、舞い続けた舞台仲間たる彼女の写しの名を呼ぶ。
     彼岸の華咲く袂が散り、最後に可憐な唇の微笑みを遺して。
     愚か。
     愚か。
     ――なんとも愚かだ。
     この誘いに身も心も委ねたなら、何も考えず悦びのままに屠る獣となる。
     其れはどんなに楽で、心地よいことだろう。
     それでも、それでも……だ。


    「ここで刈り取る!」
     焔が振るうエクスキュショナーズソードが、寸での所で躱される。
     爆走を止めない、止まらないロードローラーは廃駐車場をぐるぐると廻りながら灼滅者達へ容赦なく火種を浴びせる。
     そのまま轢き潰す攻撃を仕掛けたなら、守護を担い庇い続けてきた焔が遂に倒れ伏した。
     だが、勝機はある。撒き散らす黒煙は只の攻撃だけでなく、奴自身のボディの損傷としても吹き出ているのだ。
     蓮太郎はアスファルトを蹴り、高く跳躍。損傷した箇所へ向けて星まとう蹴撃を繰り出したなら、さらに奴の煙は深く深く増してゆく。
     そして璃羽も連撃としてリングを飛ばす。攻撃の要たる璃羽たちが倒れることなく攻め続けることで、次第にロードローラーにも隙が生まれてきたのだ。
     だが此処で、ふたたび鉄輪が激しく廻る。
     蓮爾先輩、と桃夜が呼ぶ。そのまま身を呈して庇い、鉄輪の重圧を彼女の代わりに受けた。
     辛うじて昏倒は免れたものの、身体を濡らす血は溢れるばかり。それでも桃夜は先輩の無事を確認したなら、安堵の息を吐きながら笑み湛えて。
    「女性を守るのは男の役目♪ ……だから、帰ろうよ。蓮爾先輩だって、待っている子が居るんだから」
     向けられたその言葉に、蓮爾は眸を伏せる。
     思い起こすは、誓い。置いてゆけぬ人がいる。
     柔らかな眼差しを向けてくれる、愛しき花が。
     僕は生きてゆける。生きねばならぬ。

    (「――『蒼』。お前には、渡さぬよ」)

     すっと、開かれたその眼差しに迷いはなく。ひとたび、振るった十字架は的確に奴の傷を深めた。
    「そうですよ! 今は皆でこの場を乗り切りましょう……!」
     笑顔の花咲かせ、陽桜は黄色標識を掲げる。
     ロードローラーに狙われた彼女を護るのは勿論――だけれどいま最も大事なのは皆全員で無事に学園へ帰ること。
     そう、きっと。また新たな希望が生まれることを、陽桜は信じていたいから。
    「大丈夫です。僕は皆さんを、全力で支えます……!」
     願いと共に、筆一が手繰るように伸ばした帯の鎧が桃夜を包む。
     今もなお、忘れやしない。この手に遺る、大きな罪を。
     ――それを背負うのは、自分だけで充分だ。
     闇に堕ち、罪を越えてもなお、筆一の想いは変わることはない。
     柘榴もまた、影を這わせて灰色重機を斬り裂きながら。
    (「……あの時ボクは、敵として参加していたんだから」)
     魔術を深淵を求め、探究し続けた凶蝶としての姿。かつて背負った、黒き蝶の翅。
     暗殺武闘大会を最期まで見届け、ダークネスの思惑を潰したい。それが、柘榴の秘めし願いだ。
     度重なる連撃は着々と、ロードローラーを破壊しつつある。
     それでも唯一残された顔だけは、常にニタニタと。灼滅者達を嘲笑うかのように不気味な三日月をかたどるのみ。
     小さく、呆れたような息を吐いた璃羽が容赦なく、一閃。
    「いずれ本体も罰して解体してあげますから、覚悟して下さい」
     分体へ捧ぐ宣告は、極めて冷淡で。幾度も挑発を受けてもなおペースに飲まれることのなかった分体は、心底愉しげに嗤ってみせた。
    「本体も……ねぇ? ロードローラーはね、永久に不滅だから♪」
     最期にニカッとキメ顔を果たしたのち、花火のごとき爆発とともに灰色重機は跡形もなく消えた。
     愉快な愉快な笑い声が、荒れ果てた廃駐車場に響き渡った――。
     今頃、他の救援に向かった灼滅者達も戦いを終えている頃だろうか。勝利の余韻に浸るには、まだ早いかもしれない。だが、誰も闇に身を投じることなく、分体を灼滅できた。
     ――先ずはそう、帰ろう。それぞれが、戻るべき場所へ。
    「諦めなければ、必ず道はあります。……あたしは、歩いていきたい」
     そっと毀れた、陽桜の願いは闇夜に溶けて消えて。

    作者:貴志まほろば 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月14日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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