巨大生物! 下水道に潜む影

    「え……と、わたくし、こういうのは苦手なんですけど……その、見つけてしまったんです、都市伝説……」
     そう言いつつ、禰宜・汐音(小学生エクソシスト・d37029)が仲間たちを連れてきたのは、下水施設近くのマンホールだ。
    「そういえば、ずっと前に下水道の中で捨てられたワニが……なんて話がありましたっけ……今回のもそういうのと関係があるんでしょうか」
     汐音が見つけた都市伝説というのは、下水道の中で捨てられたザリガニが巨大化しているというものらしい。
     そういう都市伝説好きの若者が無断で下水道の中に侵入しては、行方不明になっているようだ。
    「多分、行方不明になった人たちは、都市伝説に……。これ以上行方不明者が増える前に、わたくしたちでなんとかして都市伝説を倒しましょう!」
     汐音が調べた結果、行方不明になった若者たちはいずれも夜10時以降にこの下水施設近くのマンホールから下水道に入っていったようだ。
    「中は暗いでしょうから光源の用意と……あと、都市伝説を戦うときには下水道の中の設備を壊してしまわないように気をつけなくては……都市伝説の攻撃はもちろん、自分たちの攻撃で誤射にも注意しなくてはいけませんね」
    「巨大ザリガニと遭遇した人たちの中には、なんとか自力で脱出した人もいるようです。そうした人たちから聞いた話だと……」
     汐音の調べでは、巨大ザリガニは体長3メートルほどもある巨体で、鋭い鋏を備えているらしい。
     この巨体で暴れられるだけで、十分な脅威といえるだろう。
     脱出に成功した人々はいずれも強力なライトを持っており、これを照射してひるませることでなんとか難を逃れたらしい。
    「強力な光が弱点ということですね……ですが、下手に刺激すると周囲の設備を壊される危険もあるでしょうし、使い所を考えなくては……。それに、今回は敵の巣にこちらから入っていく形になります。ただでさえ暗くて入り組んだ下水道ですし、敵の奇襲には十分な警戒をしておく必要がありますね」
    「下水道の中に巨大ザリガニ、ですか……。なんだか正統派な都市伝説という感じがしますね。ほ、他に何かおかしなものが潜んでいたりとか、しないですよね……?」


    参加者
    槌屋・康也(荒野は獣の内に在り・d02877)
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    皇・銀静(陰月・d03673)
    幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)
    大神・狼煙(役目を終えた捨て駒・d30469)
    煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)
    貴夏・葉月(紫縁は希望と勝利の月華のイヴ・d34472)
    禰宜・汐音(小学生エクソシスト・d37029)

    ■リプレイ

     マンホールから身を躍らせて下水道に着地した槌屋・康也(荒野は獣の内に在り・d02877)の靴音が、コォーーーン……と闇の中に不気味に反響する。
     下水道の中は、地上とはまるで別世界。
     悪臭を伴った闇が、どこまでも続いている。
    「さあ今回はザリガニ釣りだ! でかいのが見つかるといいがな」
    「こんな事もあろうかと、私は鍋とレタスなどなどを用意してきましたよ!」
    「私は遠慮しておきます。というか下水道に住んでる3m級のザリガニなんて誰も食べたくないでしょうから貴方が責任持って全部食べてください」
     なかなかの衝撃発言をする大神・狼煙(役目を終えた捨て駒・d30469)に、貴夏・葉月(紫縁は希望と勝利の月華のイヴ・d34472)が冷淡に答える。
    「フッ、いつもながらつれないですねはずにゃん」
    「その『はずにゃん』っていうのやめなさい」
    「しかし、3メートルのザリガニか……ザリガニって食用もあるみたいだけど、これは食べても不味そうだな」
     口元を押さえながら、レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)がライトで周囲を照らす。
     非常灯以外ろくな光源のない下水道の中は、水の流れる音だけが低く響いており、まだ怪しい気配はない。
    「北海道の摩周湖には1メートル程のザリガニが出るという都市伝説はあったよ。下水はどうだろう、ちょっと入った事が無いんでイマイチいそうなんだかいなそうなんだかわからないな」
     そう言いつつ、煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)は用意してきた強力ライトで排水口の辺りを注意深く照らしている。
    「ほう1メートル! それはなかなか食いでがありそうですね!」
    「そんなにお腹減ってるの狼煙は……」
     さっきから食欲全開といった感じの狼煙に、燈は思わず苦笑い。
    「ほら、汐音。足元に気をつけて」
    「は、はい、兄様……」
     マンホールのはしごを危なっかしい足取りで降りてくる禰宜・汐音(小学生エクソシスト・d37029)に手を貸してやりながら、皇・銀静(陰月・d03673)が後ろから歩いてきた。
    「確かにこの場所は足元が濡れていて、滑りやすくて危険ですね。というわけで私はいいものを用意してきました!」
    「今度は何です」
     狼煙が背中に背負った風呂敷を解くと、中には不必要に可愛らしいデザインのすべり止めつき付きの靴が。
    「これさえあれば濡れた場所でも安心! ほーらこれなんか猫の肉球のデザインになっていて、いわゆる萌え要素です」
    「却下で」
    「あふぅん」
     葉月にすげなく却下宣言されてのけぞる狼煙。
    「兄様と一緒に、下水道の地図を用意してきました。やはり、かなり入り組んでいるようですね……」
    「うへー、狭いとこばっかじゃん! でも、探検みたいでわくわくするね!」
     汐音が差し出した地図を覗き込む一行の間からぴょこんと顔を覗かせた幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)がのんきなことを言っている。
    「あはは、わくわくするのは同意かな。さて、お目当ての相手はどこかな……?」
     下水道の中は暗く、入り組んでおり、さらにそこらじゅうに排水溝や太い配管があり、隠れる場所には事欠かない。
     さらに中に流れる下水はかなり深い上に淀んでおり、上からライトで照らしても中はよく見えない。
    「これは……目だけでなく、音にも注意しておかなければ……」
     銀静が汐音の手を取って、ゆっくり一歩一歩進んでいく。
     と、手をついていた壁がかすかに振動を伝えてきた。
     はっとした銀静が仲間に目配せしたときには、振動はどんどん大きくなってきている!
    「来た来た! さぁ、どこからでもかかって……」
     かかってこい!と言いかけた桃琴の背後の下水流が、突然津波のように盛り上がった。
     汚水を割って現れたのは、赤黒い甲羅、長く伸びた触覚、そして巨大な一対のハサミ!
     都市伝説・ギガシザースの出現だ!
    「ギシャーッ!」
     軋るような声とともに、ギガシザースの巨大なハサミが桃琴の頭上に振り下ろされる!
     対する桃琴はこれをバック転で回避、さらにウォールランからのジャンプでギガシザースの頭上を取る!
    「行っくよぉ……かにみそー!!」
     天井を蹴って加速を付けたスターゲイザーが、ギガシザースの無防備な背中にダイレクトヒット!
    「ううっ!? か、かったーい!」
     しかし、ギガシザースの甲羅の硬さは予想以上だったようだ。
     身を震わせて桃琴を振り落とすと、ギガシザースは身を起こして突進してきた!
     狭い下水道の中では、その巨体による突進攻撃を避けるスペースがない!
    「逃げ場がないなら……真正面からぶっ飛ばす!」
     汚水を蹴立てて迫りくる巨体に、真正面から挑むのは康也だ。
     WOKシールド・Uneinnehmbarkeitのパワーを全開、シールドバッシュを叩き込む!
    「ギギギッ!」
    「ぬうううおりゃああああっ!!」
     身体をギガシザースの下に上手く滑り込ませた康也が、全身のバネを使ってその巨体をひっくり返した。
    「勝機! くらえっ!」
     水柱を上げて倒れたギガシザースが身を起こすよりも早く、レイが鋭い踏み込みからの抜き打ちの一閃!
     下水道の闇を裂く剣閃が、ギガシザースの触角を斬り飛ばした。
    「よし、このまま一気に畳み掛ける……!」
     鬼神変で片腕を巨大化させた葉月が、汚水の中でもがくギガシザースの腹めがけて殴り掛かる。
     と、ギガシザースの周囲の汚水に異常が発生。
     ごぼごぼとくぐもった音とともに水面に泡が立ったかと思うと、ギガシザースの口元から汚水が水鉄砲のように一直線に射出された!
    「うっ……!?」
     攻撃の体制に入っていた葉月は、とっさに巨大化させた片腕でかばう。
     飛んで来きた汚水はレーザーカッターのように葉月の手の甲を斬り裂いた。
     さらに傷口は汚水が染み込んだせいか青黒く変色している。
    「住処に似合いの攻撃、といったところか、だが……鬱陶しい、疾く消え失せよ!」
     目隠しの上からでもわかる怒りの表情を浮かべ、葉月は反撃に転じる。
     さらに襲ってきた数発の汚水攻撃をビハインド・菫さんに防御させ、クロスグレイブ・E.V.E.【YHWH】を振りかぶる。
    「はっ!」
     裂帛の気合ととともに繰り出された一撃が割ったのは、水面だけだ。手応えがない!
    「水中に隠れたな!? どこに行った……!?」
     慌ててライトを振り回す燈の言葉に答えたのは、その背後の水面から放たれた汚水攻撃だ!
     間一髪身を躱すが、汚水の当たった壁にはこぶし大の穴が開いている。
     この調子で暴れられては、周囲の設備も無事ではすまないだろう。
    「これじゃあ、避けてばっかりってわけにも行かないな……! 仕方ない!」
     水面を狙って燈が放ったバニシングフレアの炎にあぶり出されるように、ギガシザースが再び汚水の中からその巨体を現した。
    「ギオォォォォッ!」
     下水道に反響する咆哮を上げながら、ギガシザースは空中に身を躍らせる!
    「……っ!」
     空間を震わせるその咆哮に思わず怯んでしまう汐音。
     その前に、銀静が立ちはだかる。
    「汐音、恐れる必要はありません。冷徹に見据え打ち祓う術を考えなさい」
     肩越しにそう言う銀静の目前には、すでにギガシザースのハサミが迫っている!
     そのハサミを、銀静は無敵斬艦刀・魔剣「Durandal MardyLord」の腹で受け流す。
     頭上から覆いかぶさる形になったギガシザースの腹に、電光を纏った拳が叩き込まれる!
     下からの攻撃に、ギガシザースは身体をくの字に折り曲げながら天井近くまで叩き上げられた。
    「汐音!」
    「はい兄様!」
     返事とともに汐音が前方に突き出した手のひらからジャッジメントレイが炸裂!
     避けようのない空中に放り上げられたギガシザースのエラの部分がごっそりとえぐり取られる!
    「ギギギギーッ!」
     青黒い血液を撒き散らしながらも、ギガシザースは汚水の中に深く身を沈める。
    「また隠れるつもりだな! させるか!」
     レイの声にタイミングを合わせ、一行は一斉に持っていたライトの光を水面に向ける。
    「ギギッ!?」
     四方からライトの強烈な光を浴びせられたギガシザースは、触角とハサミを振り回して闇雲に暴れ始めた。
    「これ以上暴れられないうちに、懲らしめちゃうんだからねーっ!」
     振り下ろされるハサミをかいくぐり、桃琴が汚水に塗れるのも構わずスターゲイザーで飛び込む!
     そのまま背中に組み付いた桃琴をなんとか振り落とそうとするギガシザースだが、桃琴は触角にしがみついて離そうとしない。
     と、ギガシザースの口元に汚水が音を立てて吸い込まれ始めた。
     次の瞬間、立て続けにレーザーのように圧縮された汚水が放射された!
    「このっ……無差別攻撃かっ!」
     コンクリートの壁を切り刻み、パイプや配線に届こうとする汚水攻撃を、銀静が剣の腹でかろうじて防ぐ。
     しかし、ギガシザースの攻撃はまだ収まらない。
    「ぐぬぬーっ、そっちに撃っちゃダメーっ!」
     しがみついた触角を桃琴が思い切り引っ張って射線を強引にそらそうとするが、背中からは今にも振り落とされてしまいそうだ。
    「! 汐音さん、危ないっ!」
     壁を削りつつ迫る汚水攻撃が汐音に当たりそうになったところを、間一髪燈が割って入りかばう。
     ほとんど無差別に撒き散らされるレーザーのような汚水攻撃の前に、康也が果敢に前に出た。
     盾となって仲間や周囲への被害を押しとどめる気だ。
    「へへ……イキがいいのは結構だが、もういい加減大人しくなってくれよな……!」
     汚水攻撃で体の所々を切り裂かれながらもじりじりと接近する康也。
     その気迫を感じ取ったか、ギガシザースが汚水を蹴立てて後ずさる……否!
     後方に大きくジャンプしたギガシザースは、背中に組み付いた桃琴を壁に激突させた!
    「かは……っ!」
     回避の遅れた桃琴は、かすれた悲鳴をあげて落下してしまう。
    「桃琴!」
     燈が助けに入ろうとするが、振り回されるハサミの前になかなか前に出られない。
     そこへ、強烈なライトの光が浴びせられた。レイだ!
    「うおらああっ!!」
     ギガシザースが怯んだ一瞬の隙を突いて、康也がほとんど体当たり同然のシールドバッシュを敢行!
     そのまま両者はもつれ合うようにして汚水の中に倒れ込む。
     その脇をすり抜けるようにして突っ込んだ燈が、壁際に倒れていた桃琴を担いで救助、その場を離れる。
    「ギシャアアアッ!」
     汚水の中から咆哮とともに現れたのは、ギガシザースの巨大なハサミだ。
     そしてそのハサミには、康也が捕まっている!
     このままでは、迂闊に攻撃を仕掛けられない!
    「ふん、人質のつもりか? 畜生の分際で悪知恵だけは回ると見える……!」
     忌々しげに言いつつ接近を試みる葉月に向かって、ギガシザースは汚水を連射してきた。
     それを菫さんにガードさせつつ、葉月は闇雲に暴れまわるギガシザースの死角に回り込む。
     ギガシザースがその巨体を方向転換する前に、葉月の放ったペトロカースで康也を掴んだ片腕が石化する。
    「ちゃーんす! おかえしだよっ!」
     狼煙から治療を受けてすっかり元気を取り戻した桃琴が壁を蹴って飛び出したかと思うと、急降下キックで石化したギガシザースの腕を蹴り砕いた!
     破片とともに康也が脱出するのと入れ替わりに、銀静と汐音が攻撃を仕掛ける。
     ギガシザースが銀静の攻撃に気を取られている隙に死角へと回り込んだ汐音が、立て続けに神薙刃を繰り出す。
     死角からの攻撃に反応が遅れたギガシザースは、その節足を一気に斬り飛ばされる!
    「ギギッ! ギギギーッ!!」
     汚水の中でもがくギガシザースの巨体の懐に、銀静が素早く潜り込む!
    「……本来ザリガニは綺麗な場所でしか生きられません、故に……正しい場所に帰りなさい!」
     下から押し上げるような地獄投げで、両者が宙に浮く。
     宙に浮いたギガシザースの巨体が、今度は頭を下にして落下!
    「ギィィ……ッ!」
     汚水の水柱の中で、ギガシザースは頭部を砕かれる。
     その巨体が、水柱が収まるのを待たずに消滅した。
    「に、兄様! 大丈夫ですか……!?」
     思わず駆け寄ろうとする汐音を手で制する銀静。
    「あぁ、今はあまり近づかない方がいい……少しばかり泥遊びが過ぎたようです」
     そう言って苦笑する銀静だった。
     マンホールから外に出て自分たちの姿を確認した仲間たちも、思わず顔をしかめる。
    「うぁ……これはまた、みんな酷い有様だな」
    「うー、これじゃあ臭いが取れないよーっ」
    「こんな事もあろうかと、俺はクリーニングを用意してきたぜ! ほら、きれいにしてやるから順番順番!」
     服の所々に真っ黒なシミを付けたレイと桃琴に、康也がクリーニングをかけてやっている。
    「……で、吸収した都市伝説のお味はどうだった?」
    「うーむ、まったりとしてそれでいてしつこくなく……うっ、なんか後ろにぴょんぴょんジャンプしたい衝動が……」
    「吸収した都市伝説に乗っ取られそうなのですね。哀しいですが今すぐ始末してあげます」
    「冗談だから武器はしまってねはづにゃ……おっほーう紙一重!!」
     燈の問いに冗談で返した狼煙の頭上を、葉月が繰り出した一撃がかすめる。
    「………昔はこういう場所は絶対に入ってはいけませんでした。行ったら倒れると言われましたしね。確かにそうなのかもしれませんが……」
     臭いにやられてしまったのか、足取りがふらついている汐音に、銀静が肩を貸してやっている。
    「今日は早く帰りましょう……そして、まずはお風呂です」
    「しかし今回は普段あんまり行かない場所での戦いだったよな! なんだか楽しかったぜ。まあ……臭いがなけりゃもっと良かったんだが」
     康也の言葉に、仲間たちも苦笑しながら頷くのだった。

    作者:神室樹麟太郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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