爆破の煙はホワイトで

     初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)からの新たな依頼。その内容は……。
    「今回、私の方で、ラジオウェーブのラジオ放送を確認した。近々、ラジオウェーブのラジオ電波を受けて生まれた都市伝説が、放送内容と同様の事件を起こすだろう。困ったことにな」
     それから杏は、放送内容を語り始める。
     とある海の見える公園は、ホワイトデーの聖地として知られている。その公園でバレンタインデーのお返しをもらう事は、永遠の幸福の確約を意味する。
     しかし、そうした男女の思いの成就を妬み、阻む者がいる。白いサバト服を着た謎の人物だ。そいつは、ホワイトデーのプレゼントの受け渡しをしている男女の前に現れ、2人を爆破してしまう……。
     という噂話が、今回の放送内容である。
    「なんというわかりやすいRB行為」
     しみじみと言う杏。
    「まあ、こうして被害者が出る前に対処できるようになったのも、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)が、都市伝説の発生源となるラジオ放送を突き止めてくれたお陰だな」
     と、いう訳で、灼滅者達は、ラジオ放送にあった海の見える公園に赴き、カップルのふりをしてホワイトデーのプレゼントの受け渡しを行って欲しい。
     そうして現れた都市伝説を、灼滅者達で一斉に攻撃する、というのが今回の作戦である。
    「できれば、囮役が爆破される前、都市伝説が現れた直後に攻撃を仕掛けたいところだ。しかし、囮役の爆破を成し遂げ、油断した都市伝説を、他の仲間達で襲撃する、という手もある」
     もちろん、囮役が同意してくれればだが。
    「あえて爆破されるのも、ある意味、お約束というか様式美という気もするしな……ゲフンゲフン」
     いやなんでもないこっちの話だ、と杏は誤魔化した。
    「ホワイトRB都市伝説の武器は、爆破スイッチ。無論、攻撃方法は爆破一択。もっとも、遠近両用なので、後衛だからと言って油断しないでくれよ」
     狙いも正確である。きっとポジションはスナイパーなのだろう。
    「この都市伝説は、3人のRB団を連れている。これは都市伝説の一部で、大して強くはない。だが、こいつらも全員灼滅しなければ都市伝説を根絶できないので、全滅を頼む」
     ちなみに、戦闘力に関する説明は、あくまで放送内容からの推測なので、予測以上の力を発揮する可能性もある。
    「まあこれも一種の恒例行事として、灼滅をよろしく頼むぞ」
     ホワイトデーを爆破の煙で白く染めることだけは、阻止しなければなるまい。


    参加者
    月村・アヅマ(風刃・d13869)
    ルティカ・パーキャット(黒い羊・d23647)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    ヴォルフ・アイオンハート(蒼き紫苑の涙・d27817)
    川崎・榛名(勝手は榛名が許しません・d31309)
    栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)

    ■リプレイ

    ●誘き出せ、RB団!
    「天気も良く穏やかで実に良き日和じゃ」
     ルティカ・パーキャット(黒い羊・d23647)が、うーん、と伸びをした。
     空が、青い。春の訪れを象徴しているかのような晴天が、灼滅者の頭上に広がっている。
    「にも関わらず、暗い都市伝説であるのう」
    「全く。一応リア充と言える身としては、こういうRB系都市伝説は勘弁して欲しいんだけど」
     月村・アヅマ(風刃・d13869)が困った風に、頬をかく。
     奴らは決まって(偽)カップルを要求してくるので、実際に彼女がいる身としては、ちょっと複雑な心境なのだ。
    「ええと、その【あーるびー団】? というのは存じ上げてませんが、善からぬ事を考えているのでしたら、キツイお灸が必要ですね」
    「ふざけたような相手とはいえ、被害がでるというのなら見逃すわけにはいきませんの!」
     川崎・榛名(勝手は榛名が許しません・d31309)や黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)もやる気は十分。爆破するならこちらも爆破し返してやる、といわんばかりである。
    「まぁ何にせよ、一般人に被害が出るのなら止めるだけだ」
     ヴォルフ・アイオンハート(蒼き紫苑の涙・d27817)は、相手役を務めるルティカに、よろしく、と告げる。
    「では、皆さん、頑張りましょう」
     栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)が、改めて確認する。
    「今回の依頼は、RBな都市伝説さん達と一緒にリア充のカップルを爆破……」
    「にゃー」
    「あう」
     ウイングキャットのケーキが、肉球で突っ込んだ。ぷにっと。
    「あ、いつもの事ですのでお気遣いなく」
     ならそういうことで。特にお気遣いもなく、それぞれが持ち場につく。
    「では」
     七不思議の力で、女子風紀委員的な姿になると、茉莉は眼鏡を光らせた。その名も、ランチタイムブレイカー。
    「この世のリア充ランチを取り締まる! それが私の役目なのですッ!」
     RB的な内容の百物語で、罪なき一般の人々を遠ざけたところで、共に身を隠す白雛。
     後は、囮のカップル2組にお任せである。
    「川崎先輩、いい天気ですね」
    「ええ本当に。お花見が楽しみです」
    (「なんでこうなったかなぁ……」)
     落ち着かない様子で、帽子に触れるアヅマ。
     カップルらしく距離を詰める榛名と並んで歩くことに、良心の呵責が無きにしも非ず。
     ゆえに若干動作のぎこちないアヅマだが、事情を知らない者には、緊張している感じとして伝わるはずだ……多分。
     一方、学園での日常を語らいながら、公園を散策するもう一方のカップルは。
    「今年度最後のテストも終わって、気が楽になったのう」
    「そうだな。出来はどうだった?」
    「それは聞かない約束じゃよ」
    「そうだな……」
    「しかしヴォルフ殿はもう卒業じゃし、こういう話も簡単には出来ぬようになるかのう……」
    「大学と言っても同じ学園内だから、何時でも会えるさ」
     しんみりした様子を見せるルティカを、ヴォルフが慰める。
     2組とも、まるで本物のカップルのようである。羨ま……ゲフンゲフン。

    ●呼ばれてなくても出てきます
    「あー……」
     そろそろ頃合いかな。
     そう感じたアヅマが、足を止める。取り出された小さな包みに、榛名の視線が注がれる。
    「先輩。ホワイトデーってことで、一応こんなの用意したんですけど。受け取ってもらえますかね?」
    「これってもしかして、バレンタインデーのお返し、ですか?」
     瞳を見開く榛名。わずかに逡巡した後、そっ、と両手を差し出す。
    「いい調子ですの」
     白雛と茉莉が見守る中、もう一方のカップルもプレゼントタイムに突入。
    「バレンタインデーのチョコレート、ありがとう。貰った時とても嬉しかった。俺からも、これを」
     ヴォルフが差し出したのは、青リボンで丁寧に梱包された、クッキーの詰め合わせ。
    「これはその……先月の返事、という事で良かろうか」
     思わず、ルティカも目をぱちくり。
    「菓子作りの得意な友人に聞いて、手作りしてみたんだ。口に合うかどうかわからないけど」
    「手作りとな」
    「手作りだ」
     こくん、頷くヴォルフ。
     上目遣いで、おずおずと手を差し出しながら、ルティカは悩んだ。果たしてこういう時、どのような心持で受け取るものか。
    (「誘き出しのためとはいえ、手作りクッキーとは何たる女子力の高さ……!」)
     ……いや違うか。ならば、
    (「渡しておらぬのに貰うのも悪いのう」)
     ……でも無く。
    「そろそろでしょうか」
    「そろそろですの」
     高まるリア充パワーに、茉莉と白雛が構える。
     すると、突然空が曇った。カップルの上空にだけ現れた暗雲に、切れ間が生じ、光と共に何かが降りてくる。
     それは真白きサバト服に身を包んだ、爆破の使者。
     すかさず、ルティカをかばうヴォルフ。
    「滅ぼせリア充、我等RB団の名のもとに……!」
     額に刻まれた、RBの2文字。右手には爆破スイッチ、左手にも爆破スイッチ。
     RB都市伝説は地上に降り立つと、早速スイッチに手をかけた。
    「飛び散れ青春!」
    「そうはさせませんの!」
     白雛の声と共に、サバト服が蹴り飛ばされた。

    ●登場! RB団バスターズ
    「こういうのを馬に蹴られてなんとやらと申すのでしょう?」
    「ちょ、こういうのは嘘でも1回爆破されるもんじゃね?」
     一仕事やり終えた感じの白雛に、都市伝説が抗議した。
    「ま、まあ、爆破失敗も想定のうち。出てこい、我が同志達!」
     リーダーたる都市伝説の招集に答え、4人の配下がはせ参じた。
    「……4人?」
    「……茉莉ちゃん?」
     榛名が気付く。配下に茉莉が混じっていることに。
    「あ、つい」
     RB団としては、一緒にリア充を爆破したい気持ちが抑えきれず……などと証言した茉莉、ささっ、と灼滅者サイドに移動。何事もなかったかのように。
     では、気を取り直して。
    「さぁ……断罪の時間ですの!」
     手にした武器に黒白の炎を纏わせ、高らかに宣言する白雛。
    「おのれリア充の手先め。リア充は滅ぶべし」
    「リア充の居場所のない世界に作り替えてやる」
    「RB団のRは、レボリューションのRでもある」
    「えっ、マジ? 俺初耳。じゃあBは?」
    「うーん」
     元々この4体は一心同体。1体が頭悪ければ、残りももれなく同レベル。
     だらだらと続くトークがご近所迷惑にならないよう、アヅマがサウンドシャッターで遮断した。
     ヴォルフ達が殲術道具を解放しているので、もはや今は戦闘状態である。
    「ええい、まとめて爆破せよ!」
    「おう!」
     リーダーにけしかけられ、配下が散開する。
    「我等、リーダーの盾とならん!」
    「我等のフォーメーションの前には」
    「攻めなど無力!」
     言った傍から、アヅマやルティカが除霊結界で、RB団4人をまとめて痺れの刑に処した。
    「あばばばば」
     一番弱そうな配下Aへと狙いを定めると、茉莉やケーキが集中攻撃。びしばしと。
    「あいつさっき自分もRB団とか言ってた奴だぞ!」
    「裏切り者は万死に値する! 同志を救え!」
     ぽちぽちぽち。
     配下達が一斉に爆破スイッチを押すと、爆破の華が咲いた。
     ……咲いただけである。
    「なぜ当たらん!?」
     まあ雑魚だからね。
    「おのれ……あ、ちょっと待った」
     白雛が炎を纏ったハンマーを掲げているのを見て、配下Aの腰が引けた。
     こりゃヤバいと、ビビって逃げる配下A。……しかし回り込まれてしまった!
     どごぉん! 漢字の『出』にも似た奇妙なポーズで地面に沈む配下A。
    「うぬう、お前の犠牲は無駄にはせんぞ!」
     リーダーが、自分のスイッチを押した。
     今度こそ、爆破の花が灼滅者達を巻き込んだ。
    「見たか! これがRB団の本当の力だ!」
    「攻撃失敗した我等の事、さりげなくディスってませんかリーダー」
    「あ、いや、それは」
    「『でぃすって』とは、どういう意味なんでしょうか?」
    「そこ? そこ食いつく?」
     RB団が榛名に説明している間に、ヴォルフの白炎がみるみる灼滅者の傷を癒してしまう。
     加えて、公園に響く榛名の美声。疑問も解消されて、すっきり爽やか。RB団の濁った声で汚れた耳まで、浄化されていくよう。
    「おのれ、説明した恩をあだで返すとは!」
     逆ギレした配下達が襲い掛かった……!

    ●RB団、フォーエバー!
     しかし口ほどもなかった。
     なんやかんやで、1人、また1人と倒れていく配下達。
    「おのれ、たとえ最後の1人となろうとも、RBの志は消えぬ!」
     残ったリーダーに、次々と爆破される灼滅者達。
     だが、自ら盾となったヴォルフの陰から、アヅマが飛び出した。
    「騎士は護るのが仕事だから、な……」
     天高く打ち上げられていくヴォルフをバックに、リーダー目がけ、ロッドを突き出すアヅマ。爆発した魔力が、リーダーをこれまた高々と舞い上げた。
    「こ、この私が爆破されるだと……!? もしやこれで私もリア充の仲間入り?」
    「違います」
     茉莉がグラインドファイアを繰り出し、現実を見せつけた。
    「だいたい、爆破はRB団の専売特許なのだ! でないと我らのアイデンティティが……」
    「ええい、そのスイッチを離さぬか」
    「あっ」
     ルティカに蹴り飛ばされた反動で、リーダーの手からスイッチが零れ落ちた。
    「ここまでくれば、もう一気に倒すだけだな」
     無事帰還したヴォルフ、その剣から伸びた影にす巻きにされ、身動きとれぬ都市伝説に、榛名が槍を向けた。
    「榛名、参ります!」
    「来なくていい!」
    「心配していただかなくても、榛名は大丈夫です!」
    「いやそういう問題じゃなくて」
     かちーん。氷弾が、都市伝説を黙らせた。またしても無様に転がる人型の氷塊に、跳び上がった白雛の勇姿が映り込む。
     白と黒の焔が、螺旋を描くようにたなびく。そして。
    「ストライクゥ……ヴォルケーノォ!!」
     炎を纏いし必殺めいたキックが、都市伝説をまことの伝説へと変えた。
    「こ、これで終わりと思うなよ……いずれ必ず第2第3のRB」
     ぼちゃん。
     海中に没したリーダーは、それから数秒後、盛大な水柱を立てて爆散した。
     同時に空の暗雲は消え、かくして平和は守られた。しかし、いずれ第2第3の……。
    「これを受け取るわけにはいきません」
     あ、話が進んでた。
    「アヅマくんの大切な方にお渡しください」
    「ああ、いいんです、それなら」
     先ほどのクッキーを返そうとする榛名に、アヅマが、そこに添えられた『あるもの』を示した。
    「あら、このメッセージカードは……」
     目を細める榛名。そこにはアヅマの字で「依頼お疲れ様でした」と書かれていたのである。
    「粋な事をするのう。折角じゃし、打ち上げも兼ねて、この手作りクッキー、皆で食べても良いかの?」
     ヴォルフをちら、と見つつ、ルティカが問う。
    「それは、パーキャットさんにあげたものだから」
     それなら、と後片づけを済ませた茉莉らとともに、美味しくいただいたのだった。
     割とめでたし。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月19日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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