いつか名刀に

    作者:泰月

    ●迷宮で名刀になろう
     岐阜県の山中。
    「なぁ……本当に行くのか?」
     もう何年も人の手が入っていなさそうな墓場に、不安げな声が響く。
    「ここまで来て何を言っている!」
     続いて響いたのは、それに反論する声。
     だが、月明かりに照らされたそこにいたのは、およそ人ではなかった。巨大な刀の頭部を持つ怪人である。
    「お前だって、当てのない浪人生活は疲れたと言っていたじゃないか」
    「……そうだけど、ノーライフキングの迷宮だろ?」
    「アフリカンパンサー様の召集なんだから、大丈夫だって」
    「そこも不安なんだよ。無銘の刀剣怪人の俺達で、役に立てるのか?」
    「判らないでもないが、弱気でどうする。いつか孫六様や兼定様に並ぶ名刀の怪人になって、関に戻る。その為に、三人で頑張って生き延びて来たんじゃないか」
     渋る一人の刀剣怪人を説得する、二人の刀剣怪人。
     そんな三人の刀達のすぐ横で、墓場の片隅に放置されていた古い枯れ井戸が開いて、その下に大きな穴が姿を現す。
    「良し、行くぞ」
    「ま、待った。まだ心の準備が……!」
    「良いから行くぞ! 何か凄いパワーアップとか出来るかもしれないだろ!」
     まだ渋る一人を二人が引きずる形で、三人の刀剣怪人は穴の中へ消えていくのだった。

    ●敗残の刀
    「浪人になっていた刀剣怪人が見つかったって?」
    「ええ。まだ残党がいるとは思わなかったけど。千尋さんの読み通り、アフリカンパンサーの召集を受けていたわ」
     教室に入ってきた灼滅者達の中にいた咬山・千尋(夜を征く者・d07814)の問いに、夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)は頷き返した。
     統合元老院クリスタル・ミラビリスの一員となったアフリカンパンサー。
     その召集で、各地のご当地怪人達がノーライフキングの迷宮に集まろうとしている。
     そして今回、刀剣怪人の残党に召集が掛かっていたのが判明した。
    「召集を受けた刀剣怪人は、三体。いずれも、岐阜県の関市をご当地とする刀剣怪人よ」
     岐阜県、関市。
     現代でも刃物の街として知られている。
    「三人とも、ご当地ヒーローと同じ蹴りと投げ技と、日本刀のサイキックを使うわ」
     特に銘のある刀剣怪人ではない。
     主を失うも生き延び、浪人となっていた、言わば敗残兵。
    「いつか名刀や業物並みになろうと誓っていたみたいだけど、現実は非情と言うか……当てのない浪人生活に、疲れてるみたい」
     その状況で掛かった召集。
     さぞ乗り気かと思いきや、無銘のままと言う現実に不安を感じる怪人もいると言う。
    「後は時間の問題があるけど、それも今回は対処しやすい筈よ」
     怪人達にバベルの鎖で気づかれない為には、迷宮の入り口が開く場所に怪人達が現れてからの接触になる。
     そこから迷宮の入り口が開くまでの猶予は、8分。
     8分以内に倒すか、入り口が開いても戦い続けるように仕向けなければ、怪人達は迷宮に逃げ込んでしまう。
     だが、ご当地怪人の中でも武闘派とされる刀剣怪人と言う事が、今回は幸いする。
    「好戦的なのよ、三人とも」
     たとえ自信がなくても、性質はそうそう変わらない。
     説得なり挑発なりで、戦いから撤退する意思を薄れさせる事は難しくはないだろう。
    「ただ、油断はしないでね。無銘は鈍らと同じではないから」
     だからこそ、残党とは言え刀剣怪人がノーライフキングの勢力に合流するのは、可能な限り阻止すべきだろう。
    「私からの説明は、以上よ。気をつけて行って来てね」


    参加者
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    咬山・千尋(夜を征く者・d07814)
    聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)
    舞笠・紅華(花笠剣士ヴェニヴァーナ・d19839)
    師走崎・徒(流星ランナー・d25006)
    九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)

    ■リプレイ

    ●いざ尋常に
     岐阜県の、とある墓場。
    『ここか……やっと着いた』
    『着いてしまったかー……』
    『まだ言っているのか』
     そんな会話をしながら月明かりに照らされたその場所に現れたのは、刀剣頭を持つ3人の怪人。
    「そこまでだずよ、関の刀剣怪人。ヤマガタトランス!」
     その背後から、東北訛りの声が響く。
    『誰だ!?』
    「私は山形のご当地ヒロイン、花笠剣士ヴェニヴァーナ」
     振り向いて誰何の声を上げた刀剣怪人が見たのは、変身し花笠を目深に被った舞笠・紅華(花笠剣士ヴェニヴァーナ・d19839)と、散開する灼滅者達の姿だった。
    「わたくしの山形愛と、あなた方の関を愛する心、いざ、ぶつけ合いましょう!」
     ここが山奥で、怪人に言い放った紅華の姿を一般人がいないのが惜しい。
    『ぶつけ合いだと?』
    「はい。山形の紅花も、花笠まつりも、関の刀剣より歴史は浅く、なおかつ、私が持つこの刀も無銘。ですが、わたくし、ご当地愛はあなた方に負けていないつもりです」
     紅華が語る山形愛に、しかし怪人達は困惑している様子だった。
    「俺の名は文月咲哉。俺は武人として、日本刀を使う者として、手合わせ願いたい」
     それを見た文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が名乗りを上げて、友の形見である刀を抜く。
    「ご当地怪人きっての武闘派という、あんた達と勝負したいんだ。たとえ浪人になっても、その志と剣の腕は変わらない。そうだろう?」
     それでも刀を抜かない刀剣怪人達に、咬山・千尋(夜を征く者・d07814)も勝負を望む旨を告げる。
    『……俺達にお前達の勝負を受ける利はない』
    『こちらにもこちらの都合がある』
    「刀を使う相手と聞いてきてみれば、挑まれた勝負に応じないナマクラか……」
     それでも刀を抜こうとしない怪人達に、ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)が嘲笑混じりに吐き捨てた。
    『何!?』
    『言わせておけば!』
    「悔しいか? だったらかかって来いよ流れ者。禍月の一刀にて、その得物もろとも叩き折ってやるよ」
     それで気色ばむ怪人達に、ヘイズは愛用の妖刀「雷華禍月」の血塗れた刀身を見せ付けるように抜きながら、更に挑発する。
    「マシンガンの弾すら両断する日本刀でも、そんな風に気持ちが鈍れば切れ味も悪くなってそうね。半端な矜持なら、武器ごと捨ててかかって来なよ」
    『半端だとぉぉ!』
     水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)も挑発を重ねて、怪人達の怒りを煽る。
    「利ならあるぞ?」
     そこに、聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)が口を開く。
    「ただ自分達を呼んだ者の元へ行くのも、つまらないだろ? 俺達を倒したという実績があれば、周りのお前達を見る目も変わるだろうな」
    『そ、それは……』
    『確かに、箔がつくか』
     忍魔の言葉に、刀剣怪人達が喉をごくりと鳴らす。
    『ま、孫六様や兼定様だったら、ここまで言われて抜かない筈がない!』
    『そ、そうだな!』
     口々に言って、怪人達はスラリとそれぞれの刀を鞘から抜き放つ。
     構えもそれぞれ異なる。
     先頭の怪人が下段、その後ろに正眼と、右の八相と縦に並ぶ布陣。
    「折角だ。実戦形式で剣術、教えて貰おうか。こちらは我流……というか、初心者だが、その、なんだ。頼む」
     巨大な剣を手に進み出ながら、九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536)は無表情のまま怪人達に視線を向ける。
    「俺は刀、使わないでやらせて貰うぜ。ってことで、千尋、受け取れー!」
     師走崎・徒(流星ランナー・d25006)が放った感覚を研ぎ澄ます癒しの矢が、戦いの幕開けを告げる一矢となった。

    ●無銘の想い
     ギギィンッ!
     刃と刃がぶつかる音が、墓場に響き続ける。
    『そんな大振り、捌けないと思ったか!』
     振り下ろされる斬艦刀を、怪人はその刀剣頭で受け流し、時間差で脚を狙って振るわれた刃は鞘を差し込んで食い止める。
     次の瞬間、怪人の刃が真っ直ぐ振り下ろされ、翻って切り上げる。
    「っ……この切れ味、流石は刀剣怪人だな。長旅で磨いたのか」
    『褒めても刀しか出ないぞ!』
     傷を抑えた咲哉の賞賛に、怪人は刀を手に返す。
     受け流されても切られても、九十九は表情を動かさず黙して怪人の動きをじっと見ていた。技術を盗み、戦い方を学ぶ為。
     ギィンッ!
     すぐ近くで、また響く金属音。
    『そう簡単に叩き折れる刃だと、思うな!』
     下段に構えた刀を振り上げてヘイズの妖刀を弾く。怪人のその動きは、そのまま上段の構えに繋がっていた。
    「おっと。届かせないよ!」
     距離を取ろうとしたヘイズを追った怪人の前に徒が飛び出し、振り下ろした刀を己の体を盾に阻む。
    「ヴェニヴァーナ、俺はいいから咲哉を!」
     更に3人目の三日月の斬撃の一部を食い止めながら、徒は後ろの仲間にそう告げる。
     自分で自分に意志持つ帯を巻きつけるのを見て、紅華は小さく頷くと澄み切った歌声を朗々と響かせる。唄い上げるは、花笠音頭だ。
     そのリズムに混じって、ピピピッと小さなアラーム音が響いた。
    「もうこんな時間か。切れ味も強度も流石だな。名刀になりたいと思うだけある」
     4分が過ぎた事を知らせた時計を止めると、忍魔は鋸のような刀身を持つ巨大な刀を手に、地を蹴って飛び出した。
    「だが、まだ俺達を切り伏せるには甘い!」
     それまで忍魔は拳と蹴りを主体に戦っていた。ガラリと変わった戦い方に驚く怪人に、蒼く輝く刃が叩きつけられる。
    『ぐうっ』
     その一撃に膝をついたが、怪人の刀剣頭は――刀剣頭を含めて傷だらけだったが――まだ砕けなかった。
    「関の刃物は『折れず、曲がらず、よく切れる』って聞いたよ。例え無銘であっても、名刀・業物に劣りはしないんだろ?」
     そんな怪人を見据えて、それ以上に傷だらけな徒が口を開く。
     迷宮の入り口が開くまでの、時間の半分。
     それを過ぎてもまだ3人残っている状況だ。もう一押ししておかなければ、いざ入り口が開いたら逃げられてしまうかもしれない。
    「なのに、迷宮に行くつもりなんだろ。関の職人の魂を汚す真似をしてもいいのか? 力に惑わされてその目も刀身も曇っちまったか!」
     傷の痛みを無視して、徒は声を張り上げる。
    『力を求めて何が悪い!』
    「悪いと言うか、迷宮に行けば楽にパワーアップできるって考えてない? そういう安易な発想は感心しないなっと」
     反論する怪人に、その考えを見透かしたように千尋が言い放ち、長柄の斧を刀剣頭に叩き付けた。
    「パワーアップ? 笑わせるな……努力せずして力を得て何の意味がある。貴様らは剣士としてのプライドはないのか?」
     刀剣頭で斧と切り結ぶ怪人に、ヘイズが畳み掛けるように嘲笑を浮かべて告げる。
    『貴様ら――』
    「それに浪人生活に疲れたからって他所に移るとか、ちょっとがっかりね。関の職人さん達を馬鹿にしてない?」
     2人に反論しようとした怪人達を、瑞樹の声と炎を纏った影の鎖が遮った。
    「日本の『ご当地怪人』なのに『ノーライフキング』を頼っちゃうんだ? 『日本』刀なのに『アフリカン』パンサーの召集にホイホイのっちゃうんだ?」
     音を立てない影の鎖を操り、その先にある角錐と円錐で刀剣頭を打ち据えながら、瑞樹は立て続けに挑発を重ねる。
     今日は敢えて使っていないが、瑞樹も刀剣愛好家だ。
     であるからこそ、刀剣怪人なら日本刀を心から愛して欲しいと思い、その挑発も辛辣になろうと言うものだ。
    『……パンサー様以外、誰が俺達を召集してくれると言うのだ。日本のご当地幹部に仕えられるなら、俺達もそうするさ』
     傷だらけの怪人が、搾り出すように声を上げる。
    『ノーライフキングの迷宮でどうなるのかと言う不安はある。だが、琵琶湖に名古屋と二度も死にそびれた俺達が、何を恐れる必要がある』
    『今の俺達はさ、強くなる為の手段とか、主を選べる余裕なんかないんだ』
     別の怪人が自嘲するように告げれば、仕掛ける前に不安を見せていた怪人も、何か吹っ切れたように返してくる。
    「それでも戦う相手は、目の前にいる敵と戦うかは、選べるだろう」
     寂寥感のようなものが広がった空気の中、咲哉が口を開いた。
    「お前達の生き様を、俺達の目に、俺達の身に、今こそ刻み付けるといい」
     切っ先を突きつけるように腕を伸ばし、怪人達を見据えて告げる。
    『……生き様、か』
    「刃とは、立ち向かう為に研ぎ済ますものだろう。魂と身を刃とし、かかってこい!」
     怪人達の空気が変わったのを感じ、忍魔も声を上げる。
    『言われるまでもない!』
     怪人達の刀を握る手に、再び力が篭る。
     2人の刃が三日月の軌跡を描き、斬撃が灼滅者達を襲う。
     それを追う形で飛び出した怪人の前に、九十九が立ち塞がった。
    「っ!」
     傷だらけの刀剣頭と巨大な刀がぶつかり、刀の方が弾かれる。
     ギィンッ!
     そこに振り下ろされた怪人の刀が、鈍い音を立てて止まった。
    「流石だな。そちらの勝ちだ。刀では」
     怪人の刀を阻んだのは、九十九の腕――刀を弾かれたのとは反対の――に展開された巨大な杭打ち機。
    「その、なんだ。……悪い。今はまだ、未熟な剣よりも、こっちが俺の本命だ」
     九十九がそう言うと同時に上がる、ジェット噴射。
    『がっ!?』
     至近距離で杭が叩き込まれた衝撃が、怪人を吹っ飛ばす。幾つかの墓石を砕いて、外の樹に叩き付けられた怪人の手から、刀が零れ落ちる。
     次の瞬間、その刀剣頭が砕け散り、次いで全身が爆散したのだった。

    ●無銘の願い
    『ぬぐっ』
     ギャリリリッ。
     螺旋の捻りを加えた槍の一突きが、怪人の頭と火花を散らす。
     だが、貫くには届かず。次の瞬間、鞘走った怪人の刃が徒の体を切り裂いていた。
     自慢の脚を活かし戦場を駆け、仲間を護り続けるのも限界だ。
    「あとは任せな」
     ぐらりと倒れる徒の肩を軽く叩いて、千尋が駆ける。
     その時。
     ゴゴゴゴッ!
     音を立てて墓石が動き出していた。
    「今更逃げたりしないよな?」
    『愚問だ!』
     そちらを一瞥もせず、怪人は地を蹴って跳び上がる。
    『くらえ、刀剣キック!』
     草鞋から刀が生えた怪人の蹴りを、煌きを纏った黒いブーツが迎え撃つ。
     蹴りと蹴りがぶつかり、衝撃で千尋も怪人も弾かれる。だが、地上で蹴り上げた千尋は斧を支えにその場で耐えて、空中で体勢を崩した怪人は背中から地面に落ちていた。
     構えが崩れたそこに、ヘイズが間合いを詰める。
    『くっ』
    「お前達と俺達じゃあ、斬ってきた数が違うんだよ!」
     横薙ぎの一閃で怪人の手から刃を弾き飛ばすと、返す刀を素早く鞘に納め、妖刀を鞘から一気に抜き放つ。
     バキィィィンッ!
     数々の戦いを経て血塗られた雷華禍月の刃が刀剣頭を斬り砕き、倒れた2人目の刀剣怪人が爆散する。
    『最早これまでか……だが、せめて1人は!』
    「そう言う訳にもな」
     対抗するように刀を鞘に納めて飛び出す怪人に、九十九が杭打ち機を向ける。それは寄生体の力によって、巨大な砲身に変わっていた。
    『このてい、ど……っ』
     放たれた死の光線を、怪人は鞘に納めたままの刀で受け流そうとする。
     カァンッ!
    『しまっ!?』
     光線を弾くと同時に、怪人の刀もその手を離れてくるくると宙を舞っていた。
     怪人が目にしたのは、蒼く輝く刃を振り切った忍魔の姿。
    『ちっ』
     翻った蒼い刃を跳び退って避けた怪人が手を伸ばそうとしたのは、弾かれた己の刀ではなく、先程ヘイズが弾き飛ばした別の刀剣怪人の刀。
     だが、その手が刀に届く事はなかった。
    「ヴェニヴァーナスラッシュ!」
     花笠音頭を唄い続けていた紅華の口がその言葉を発し、振り下ろされた刀が怪人の腕を切り裂く。
    『ぐぅぅぅ……だが、まだこの頭がある!』
     切られた腕を押さえて、真上に跳び上がる怪人。
    『刀剣ダイナミック!』
     前方一回転から振り下ろされる刀剣頭に、瑞樹が鬼の拳を振り上げる。
     メギッ――バキンッ!
     重たい斬撃に拳が潰れ、しかし鬼の力の篭った一撃に刃も半ばで砕け、毀れる。
     だが。刃は1つだが、拳は二つあるのだ。瑞樹は間髪入れず、オーラを纏わせたもう片方の拳を刀剣頭に叩き付ける。
    「……俺は、貴方達と真剣勝負が出来て嬉しかった。そちらはどうだ?」
     背中から墓石に落ちて、それでも立とうとする怪人に咲哉が問いかける。
    「悪くない――いや、佳い戦いだった!」
     怪人の刀剣頭には目も耳も口もないけれど。
     表情があったなら、きっと笑って答えていたのだろう。
     答えて怪人が飛び出すと同時に、咲哉も地を蹴って飛び出す。
    『――……俺達が求めていたのは、名刀になることじゃなく、名刀の様に戦って散る事だったのかもしれないな』
     夜闇を裂く月の様な剣閃が、ボロボロになった怪人の刀剣頭を斬り砕いた。

    ●月明かりの下で
    (「野心は己を滅ぼすが、コイツらはその奥に諦観があったか。気持ちは悪くはないと思っていたが」)
     戦いの中で触れた刀剣怪人達の意志を思い出し、忍魔は胸中で呟く。
    「やはり、ナマクラじゃあこの程度だったか……」
     軽く振るって刃についた血を払うと、ヘイズは雷華禍月を鞘に納める。
     その鍔鳴りの音に続いて、墓石が動く重たい音が響き出す。
    「……」
     迷宮の入り口が閉じる音を聞きながら、咲哉は目を閉じ黙祷を捧げていた。
     目の前の戦いに殉じた怪人達に、敬意と感謝を込めて。
     戦いが終わり迷宮も閉じた墓場。
     そこに、戦いの痕跡とも言える刀が三振り、残っていた。
    「あたしは女だから、サムライのことは良く判らないけど。でもなんとなく、刀の美しさってのは判る気がするよ」
     だから。千尋は土の上に残された、怪人が使っていた一振りを拾いあげる。
    「名刀になるという夢、わたくしが叶えて差し上げましょう。必ず」
     紅華は墓石に刺さったままの、少し前に怪人が手を伸ばそうとして、それを自ら阻んだ刀を引き抜く。
    「すまないな。もう少しだけ、剣術を教えてくれ」
     墓場を囲う樹に突き刺さっていた刀は、九十九の手に。
    「ああ、今夜はこんなにも、月が綺麗だ……」
     土の上に寝転んで夜空を眺める徒の視界で、真円を描く月が煌々と輝きを放つ。
     3人がそれぞれ手にした刃はこの戦いに折れもせず、その光を受けて冴え冴えと輝きを放っていた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ