「諸君、ラジオウェーブによる新たなラジオ放送があったぞ」
そう言う宮本・軍(大学生エクスブレイン・dn0176)が、きたる事件の発生を灼滅者たちに告げる。
「知っている者もいるかもしれないが、これはラジオウェーブのラジオ電波によって都市伝説が発生し、放送内容と同様の事件が起きてしまうというものだ」
そして軍は、放送された内容についての説明を始めた。
その男性は、深夜まで続いた飲み会を終え、ようやく帰路についた。繁華街の合間を縫うように進み、最寄りの駅へと向かっているのだ。
すると近くの路地で物音がしたので、何かと思い目を向ける。すると飲食店らしき建物の裏手で、三匹ほどの犬がゴミ箱に首を突っ込み中を漁っていた。放っておいてはその店の迷惑になるだろうと考え、男性は犬たちを追い払うことにした。
「こら!」
声を張り上げて威嚇すると、犬たちは驚いた様子もなく男性の方へと振り返る。――その顔は犬のものではなく、みな中年の男性のようだった。
「なんだぁ、てめぇ?」
「俺たちは腹減ってんだよ、文句あんのか?」
「なんなら代わりにてめぇを晩飯にしてもいいんだぜ?」
不機嫌そうな声音で男性に語り掛けてくる人面の犬。彼らはじりじりと男性との距離を詰めると、突如として飛び掛かってきた。男性は、逃げることもできずにただ食い殺されるのだった……。
「……というわけで今回は人面犬だ。文句を言って立ち去るだけというパターンもあるそうだが、今回の連中は襲い掛かってくるようだな」
そして軍は、依頼の概要の説明を始めた。
「この放送も、ラジオウェーブのものらしきラジオ電波によるものだ。このままでは事件が起きて、放送内容と同じく犠牲者が出てしまう。それを防ぐために諸君らの手で解決してきてほしい」
軍によると、人面犬が出没するとされる街や日時は放送で示されているので、そこへ行けば人面犬に接触できるという。
「放送された時刻にその路地を通れば、人面犬たちがゴミを漁っている現場に遭遇できる。そこでこちらから声をかければ、他の一般人よりも先に接触することができるな」
話し掛ける内容によっては、襲い掛かってこないで立ち去ってしまうことも考えられる。他所で被害を出させないためにも、できるならば挑発するような言葉をかけて、戦う方向に誘導すべきだろう、と軍は言う。
「さて、あとは敵の戦力についてだな。人面犬たちが使用するサイキックは、どうもシャドウハンターのものと同様の効果らしいので、対策を頼む」
三匹の敵はそれぞれ、大型犬・中型犬・小型犬の姿をしている。体躯に比例して戦闘力も高いようだが、『ボスと配下』というよりも『三匹で一体の都市伝説』と考えた方が適切だろう、と軍は言う。
「大型と中型の人面犬は前衛で、小型の奴は後衛で援護に回っているようだ。どのように戦うかは諸君らに任せるが、三匹の連携には注意してくれ」
また軍によると、今回の依頼は予知によるものではなく、あくまでもラジオ放送の内容から類推したものである。そのため可能性は低いが、敵が予測を上回る強さを見せてくる可能性もあるという。
行動を開始しようとする灼滅者へと、軍は激励の言葉をかける。
「所詮都市伝説とはいえ、敵は徒党を組んでいる。油断して怪我などしないよう頼むぞ」
参加者 | |
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杉下・彰(祈星・d00361) |
天羽・むい(ライフイズハッピー・d01612) |
桜之・京(花雅・d02355) |
蔵座・国臣(病院育ち・d31009) |
牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313) |
●
夜。灼滅者たちは、ラジオで放送された路地へとやってきていた。
夜とはいえ、繁華街に面した通りである。周囲には、少なくない一般人の姿がある。
「はーい、皆さんあちらですよー。この辺は昼間工事中で危険ですからねー」
プラチナチケットを発動し、関係者らしき顔でそれとなく避難誘導しているのは、天羽・むい(ライフイズハッピー・d01612)である。
「ご苦労さま、むいさん。これで一般の人たちへの被害は防げそうね」
周囲の人を粗方遠ざけたむいへと、語り掛ける桜之・京(花雅・d02355)。彼女こそが、今回の事件にむいを引き込んだ張本人である。
「まあ自分の仕事はきっちりこなすよ。でも穏便に事件を解決をしたいならさ、すっかり隠居してた僕を連れてくる時点でみやちゃん結構あれだよね、馬鹿だよね。もっと人選ぼう?」
そんなむいの皮肉に、しかし京に気にした様子はない。
「そうね、馬鹿かもしれないわ。でも私は、あなたはこうして役目を果たしてくれる人だと思ってるのよ。だから、悪い判断だとは思わないわ」
期待をしていると、言わなきゃわからない? そうむいへと目で告げる京。共に依頼をこなすのは初めてのことだが、むいのことは幼馴染として信頼している。これが、この二人にとっての親愛の形なのだ。
――そうして、人面犬が現れるはずの時刻になった。灼滅者たちは、路地裏を回りながらそれらしき姿を探す。
犬が苦手な杉下・彰(祈星・d00361)は、若干腰が引けた様子だが、それでも気丈に周囲を捜索している。
(「難しいことがたくさんですが……。悲しいことは、ない方がいい。見過ごせませんからね」)
気になることは多い事件だが、それでも犠牲者を出さないためにと、この場にやってきたのだ。
「……皆さん、あれを」
そう言って仲間たちを手で制するのは、三匹の犬らしき姿を見付けた牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)である。
「ゴミを漁る犬がいるとは、なんとも惨めな姿ですね……」
みんとはそう言って、犬たちに語り掛ける。
「あぁん、なんだぁ?」
そう言って振り返ったのは、中年男の顔をした犬――灼滅者たちの敵である都市伝説だった。
「てめぇら、俺たちに文句でもあんのか?」
「生意気言ってっと、てめぇらを今日の晩飯にしてやるぞ?」
「……武士は食わねど高楊枝、とも言います。いくら腹が減っていても、落ちるのにも限度というのがあると思いますが?」
敵が立ち去らぬようにと、みんとはさらに人面犬たちを挑発する。そんな彼女の言葉に、敵の怒気が高まるのが見て取れた。
低い視線を取りながら、犬とも人ともつかない唸り声を上げる人面犬たち。そんな敵の姿に、みんとは戦闘に備えサウンドシャッターを展開した。
「ふむ、どうやらこれ以上の問答は不要のようだな」
そう言うと蔵座・国臣(病院育ち・d31009)は、手にしたガンナイフを即座に発砲する。それと同時に、彼のライドキャリバー『鉄征』も、敵へと機銃を見舞った。
銃声が、戦闘開始の合図となった。
●
国臣に続き、みんとも攻撃を開始した。ダイダロスベルトを、日本犬のような姿をした中型の敵に放つ。そして彼女の傍らに、西洋甲冑の如き姿のビハインド『知識の鎧』が出現した。知識の鎧は隠している顔を晒すと、敵の前衛二体にダメージを与える。
「……よし、大丈夫」
癒しの矢で自らの能力を高めつつ、己を奮い立たせるように呟く彰。そんな彼女を守護するように、彼女のウイングキャット『ゆず』が、猫魔法で中型の敵を攻め立てる。
そこへすかさず、魔導書を手にしたむいが攻撃を仕掛ける。炎の魔法で、前衛の二体にまとめて爆炎を浴びせかけた。
「てめぇらみたいなクソガキに、なめられて堪るか!」
ダメージを負った中型の仲間を庇うように、ラブラドールレトリーバーに似た大型の人面犬が飛び掛かってきた。その攻撃を、ディフェンダーである知識の鎧が受け止めた。出現したトラウマによって、知識の鎧は翻弄されているようである。
「けっ! すぐにてめぇらまとめてズタズタに噛み殺してやるからな……」
その隙に、中型の敵はサイキックで自らの傷を癒す。さらに、後方にいたポメラニアンのような人面犬も、瘴気のようなもので、彰のウイングキャットを蝕む。
サーヴァント達が敵の攻撃を引き付けている間に、京が手にした交通標識を地面に突き立てる。『トラウマ・毒注意』と表示された標識が、中衛にいる灼滅者たちを援護する。
国臣は、ガンナイフを敵に突き付ける。収束させた純白のオーラを、手にしたガンナイフから弾丸のように射出し、中型の人面犬へと見舞った。さらに前衛の鉄征も、突撃によって中型に追い撃ちをかける。
国臣らの攻撃に怯んだ中型へと、みんとは素早く肉薄する。
「見方を変えればスフィンクスのように見えなくも……ごめんなさい、無理です。問いかけもしてこないですし漁ってるしで、失礼すぎますよね」
みんとは交通標識を赤色の表示に変形させると、そのまま渾身の力で殴り付けた。知識の鎧も主に続くように、瘴気を帯びたサイキックを敵に見舞う。
そして京は、先程と同じく黄色の標識のサイキックで、サーヴァントら前衛の傷を癒やした。
「……普通の動物なら、傷付けるなんて絶対にしたくない。でも今回は都市伝説だから、うん」
そう自分に言い聞かせながら、天星弓の煌めく矢を放つ彰。その呟きは、優しさからのものか、あるいは犬への恐怖を振り払うためか。
「僕なんて、最前線で頑張ってくれてる人からすれば、ぴよぴよのひよっこさん状態だしね。せめて今日くらいは張り切って、精一杯頑張ろっか」
縛霊手を展開したむいは、結界を構築して前衛の人面犬の行動を妨害する。
「へっ、まんまと寄って来やがったな!」
そこへ小型の人面犬が、漆黒の瘴気をむいに向けて放った。
「ゆずさん、お願い――!」
彰の命に従い、すかさずウイングキャットのゆずが間に入り、敵の攻撃からむいを庇った。
「――くっ! ならお前から先に死にやがれ!」
大型の人面犬も、ゆずに向けてさらに強力な瘴気を放ってくる。しかしむいの結界によって翻弄された敵は、見当違いの方向へと攻撃してしまった。
「畜生、てめぇら俺にばっかり寄ってきやがってよ!」
集中攻撃を浴びていた中型は、ひたすらサイキックで負傷を回復するしかなかった。
●
そうして灼滅者たちは、ディフェンダーに据えたサーヴァントによって敵の攻撃を阻みながら、確実に敵を減らすべく中型を集中的に攻め続けた。
「あぁもう面倒臭ぇ! てめぇら俺をなめんのもいい加減にしろよ!」
かなりのダメージを負った中型は回復を断念したのか、捨て身の様子で飛び掛かってくる。
「――鉄征、頼む」
その攻撃を、スロットルを全開にした鉄征が阻む。その隙に国臣がガンナイフを発砲し、中型へと銃弾を見舞った。
さらにみんともマテリアルロッドを振り被ると、渾身の魔力を叩き付けた。その膨大な魔力の爆発に苦しむ人面犬諸共、顔を晒して前衛を攻撃する知識の鎧。
「畜生――! 誰でもいいから道連れにしてやる!」
最後の力を振り絞ったのか、膨大な瘴気の込められた弾丸をみんとへと放つ中型の人面犬。
そこへ、同じく満身創痍のゆずが飛び込んできた。敵の弾丸を受け力尽きたゆずは、急速にその姿を薄れさせていく。
「ゆずさん、ありがとうございます。あとは私に任せて」
消えゆくサーヴァントを労いながら、彰は敵へと肉薄する。構えた槍による螺旋の一撃で、瀕死の中型を穿つのだった。
悲鳴と共に絶命し、消滅していく人面犬。その姿から、彰は思わず目を逸らした。
「人の顔をしているとか、ちょっと気が咎めるけど、でも今回は都市伝説だから……」
やはり自分に言い聞かせるように呟く彰。気が咎めると言う割に、槍を手にした手に力が籠もっていたのは、犬への恐怖からだったのだろうか。
「よし、一体撃破だね。このままちゃっちゃと終わらせちゃおうかー」
標的を大型の人面犬へと切り替えたむいは、影業で敵を締め上げる。
「こんなもんで俺を止められたと思うなよ、仲間の仇だぜ!」
しかし大型の動きを止めるには至らず、敵は眼前のむいへと噛み付いてきた。
「――うっ!」
中年顔の敵に噛み付かれたむいは、顔を歪めながら後方へと飛び退いた。
「むいさん、油断してはだめよ。一旦こっちへ」
京は天使の如き歌声でむいを癒やしながら、彼に後退するよう呼び掛ける。
●
中型の仲間を失った人面犬。しかし大型の敵は、尚も回復と攻撃を織り交ぜながら、灼滅者たちへと抵抗を続ける。
小型の人面犬も後衛から攻撃を仕掛けながら、大型を援護している。
それでも、ダメージは着実に敵へと蓄積していた。
「鬱陶しいガキどもだ、いい加減にしやがれ!」
満身創痍の大型は、手近な相手へと飛び掛かる。その先には知識の鎧がいた。知識の鎧はその姿に違わず、他の仲間を守るべく敵の牙を受け止める。自らの役目を全うしたビハインドは、主に後を託すように消えていくのだった。
そして大型は立っているのもやっとなのか、攻撃の直後に大きくよろめいた。そこへ、ガンナイフから放たれたオーラを見舞う国臣。鉄征も主に続いて、機銃の弾雨を敵へと降らせる。
「なかなかしぶとかったですが、ここまでですね。人食いの都市伝説には、速やかに消えていただきましょう」
瀕死の敵へと肉薄するみんと。赤い標識を高々と掲げると、渾身で敵へと振り降ろした。彼女の痛烈な打擲を受けた人面犬は、断末魔と共に消滅するのだった。
「な、なんだぁ、てめぇら!? 俺をどうするつもりだ!?」
残されたのは、最も非力な小型の人面犬である。攻勢に出た灼滅者に集中的に攻め立てられ、敵は為す術もなかった。
「こ、この相手は都市伝説。都市伝説だから、大丈夫……っ!」
今日何度目かという呟きを繰り返しながら、槍を手に螺旋の突きを見舞う彰。実は、犬の顔が中年男性のせいでかなり怖かったのだ。
「うぅ!! や、やめろー!」
完全に勝機を失い、逃げ腰の様子の人面犬。
「みんな頑張ってるんだし、僕も最後はいいとこ見せるよ!」
人面犬の退路を塞ぐように、むいの巨大な影が敵を一飲みにする。
「そうね、まだまだ未熟な私たちは、微力を尽くすことが今できる最善よ」
これまでひたすら仲間の回復に徹していた京も、ここぞとばかりに標識による殴打を見舞う。京の一撃を受け、残された人面犬も遂に灼滅されるのだった。
――こうして、事件を解決した灼滅者たち。しかし辺りを見回してみると、路地裏は戦闘の余波でなかなかの惨状となっていた。
「……これは、できるだけ片付けておいた方がいいですよね。お店の迷惑になってはいけませんし」
誰も犠牲になることなく事件を解決でき、若干安心した様子の彰。そんな彰の言葉を、仲間たちは快諾する。
「後片付けなら手伝うよー、力仕事は任せて任せて」
どこか張り切った様子のむいに、京は人知れず微笑を浮かべる。
「そうね、こんなに散らかっていたら、お店の品位に関わるわ」
やはりこの幼馴染をこの場に引っ張り出してきたのは正解だった――そんな表情の京。
「よし、私たちに可能な範囲での後始末は完了したな。学園へ帰ろう」
国臣の言葉に応じ、撤収を始める仲間たち。
「そうしましょう。それにしても、人面犬の都市伝説……。あまり上品な相手ではなかったですが、なかなか興味深い事件でしたね」
面白いものが見れたと思っているのか、みんとは満足そうな様子である。
こうして、事件を解決した灼滅者たちは、学園への帰路につくのだった。
作者:AtuyaN |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年3月30日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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