桜色アクアリウム

    作者:菖蒲

    ●aquarium
     幸福なおとぎばなしを探してふらりと出かけたくなる。
     そうやって笑う彼女と彼女とあなたは友人であるかもしれないし、他人の空似というものなのかもしれない。
     只、こうして春を迎えて桜に思いをはせられる。そんな何気ない一日が幸福と呼べるのかもしれない。

     咲き笑む花が柔らかに。出会いと別れは春風に乗せ運ばれてくる。冬の気配を忘れた様な日差しを受けて、微睡みを忘れまいとぱちくりと瞬きを繰り返した。
     春を思わす花が揃い蕾を綻ばせれば、冬将軍は踵を返し春情が広がった。そんな季節に生まれた不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)は艶やかな花のいろが何よりも好きだった。
    「毎年、同じ花を見て、違う花を見て、しあわせって思えるの」
     猫の様に目を細め、ころころと笑った仏人ハーフのエクスブレインは並ぶ桜並木を追いかける。次第に足早になるのは、鮮やかな桜に誘われたから。頬を擽る風がひらりと桜を運んでくる。
    「春なのね。お団子を食べて、お花見をして、ゆっくりと歩いて……。
     ふふ、とっても素敵なの。きっと、神様がくれた幸せないちにちなのね」
     ころりと転がった小石を蹴り飛ばし、街の有志が作ったガイドブックに視線を落とす。
     クロワッサンとメロンパンがおいしいパン屋さん。特製あんのお団子に、古書店と併設したカフェ。
     どれも素敵だけれどと真鶴が視線を止めたのは小さな水族館だった。
     写真の中の蒼。鮮やかなそれに魅せられたようにゆっくりと足はそちらへ向かう。
     学業に、依頼に――灼滅者は忙しいから。休日に長閑な街に訪れてみるのはどうだろうかと真鶴は小さく背伸びした。
    「水族館?」
    「そうなの。汐先輩はおさかなすきよね? くらげのショーがすてきらしいのよ」
     小さな水族館で行われる光とくらげのショー。薄暗い空間を利用し、幻想的な空間が味わえると笑み溢した真鶴に海島・汐(潮騒・dn0214)は小さく瞬いた。
    「公園でピクニックって気分になる陽気だよなァ。パン屋でさ、クロワッサン買ったんだ」
     かさりと紙袋を持ち上げた汐に真鶴は大きく頷いた。
     花を愛で、小さな商店で買い物をする。そんな何気ない一日を過ごせるから。
     水族館のチケットをポケットから取り出して、「楽しい一日になればうれしいの」と真鶴は笑んだ。
     沢山の幸せが、両の掌にあるから――何よりもこの日常が愛おしいのだと言葉に変えて。
     桜色の季節に、いらっしゃい。


    ■リプレイ


     暖かな陽気に揺らされて花は心地よいと微睡んだ。
     鮮やかな青の下、ベンチに深く腰掛けた保は「綺麗やねぇ……」と穏やかに息を吐く。
     尻尾をふわりと振った詠は「きれいだねー!」と楽し気に【漣波峠】の面々を振り仰いだ。
     花を見るなら食事も大事だ。縁起良さげと山の様に三食団子を購入した静が感じたのは二つの視線。
    「……うん。詠も噤も視線が分かりやすいな!」
     花より団子の双子の視線は乙彦が手にした桜あんパンにも向けられている。長閑な青空に桜色――それを見ながら楽しむあんパンの味は格別で。
    「おいしい……です……です!」
     保のお茶と桜餅とベビーカステラを見つめてどれから食べようかと迷う噤に「美味しいねぇ」と保は嗤う。
    「ところで皆、知っているだろうか。舞い落ちる桜の花びらをキャッチできたら幸せが訪れるらしい」
     乙彦の言葉に自信があると立ち上がった静。花は五人の上にひらりと落ちてくる。

     今日は花見日和。芝に腰かけた供助はこっち来いよと【刺繍倶楽部】の友人を手招いた。
    「供助兄ちゃん、『桜吹雪は日本(ご当地)の誇り』って3年前の花見で言ったの覚えてるか?」
     潮風に舞う花弁を碧の瞳で追いかけて、健はうんと一つ伸びた。
    「三年前……」
     未来は気が遠くなるほどなのに、過去はあっという間だったと香乃果は瞬く。覚えてる、と言った供助の言葉にはにかんで藤乃は小さく頷いた。
    「あっという間……少しは成長できたかな」
     幼馴染と自分。向き直る様に呟いた希沙は三年を振り返って桜を見上げる。
    「室本が青以外の色もたくさん似合うのも知ったし」
    「健くん、いつまでも元気な男の子の印象やったけどもう高校生……」
    「希沙ちゃんはとてもきれいで大人っぽくなった」
     振り返れば刺繍倶楽部で過ごした思い出が胸をよぎる。「供助さんは、精悍に、なった」と言った藤乃はゆっくりと立ち上がる。
    「三年の月日は夢のよう……このご縁は何時までも、糸の様に紡いでいけますわよね」
     彼女の自然な笑顔に安堵したと香乃果が笑み溢す。
     ひと針ずつの思い出は褪せず暖かに――これからも春の陽気の様に五人の間にあるはずだから。


     ふらりと桜並木を歩いて回る。その足取りは自然と早くなっていって。
     東北の桜とは季節が違うのだと紗夜は小さく瞬いた。
    「潮風を感じながらのお花見は初めてだ」
    「……不思議?」
     小さく首を傾げた真鶴に頷いて紗夜は「山側で育ったんだ」と付け加えた。
    「俺は海育ちだから懐かしい感じがするよ」
    「ああ、海と山では匂いが違うから新鮮な感じがするよ」
     海風の中で紗夜の言葉に汐は「お前の地元の話、聞いてみたいよ」と、新鮮だなと笑った。

     陽の当たった公園で雄哉は愛莉と二人で桜を茫と眺める。
     掌を重ね、そして離れて――只、自然に二人で共にある。ばたりと会った真鶴は「お邪魔かしら」と茶化すように笑った。
    「なんだか、印象が」
     眼の色が戻らなくなって、と告げる彼に「強く、なった証拠かしら」と真鶴は小さく笑った。
    「僕が……守ってやらないといけないんですよね」
     恥ずかしいと二人で顔を見合わせるのが何処か擽ったい。
    「あ、マナさん、お誕生日おめでとう!」
     桜色の袋の中身は銀のブレスレット――嬉しいと微笑んで、真鶴は愛莉と雄哉の手をぎゅ、と握った。

     温かな風が頬を擽る。紫闇にとって【ひだまりのある家】のメンバーと過ごす今日の日が心地よい。
     桜の季節か、と唯織はダークネスの動きが活発になっている中で、休めるときに休まなくちゃなとレジャーシートを敷いた。
     持ち上げた紙コップ。持参した重箱に並んだ料理に唾を飲み込んだ綴は「楽しみだ……」と呟いた。
    「花見って楽しいですね♪」
     にこりと笑みを漏らすノルディアが用意したカヌレ。花よりだんご、とならないようにとデジタルカメラを向ける紫闇の視界に楽し気に食事を楽しむ唯織とノルディアが映り込む。
    「折角なら食べてくか?」
     道行く人を誘う彼に散歩をしていた汐は「お邪魔するな」といそいそとレジャーシートへと座る。
     ――その刹那、
    「トゥッ!! 俺だッ!」
     登場した綴は頭からズサッと落ちたがすぐにヒーローポーズを繰り出した。春は、とても心地よい。

     初めてのお出かけ。その言葉に真琴もシャーリィも嬉しいと笑い合う。
    (「男の子と二人……でーとに、なるのかな。ちょっとどきどき」)
     緊張の中、ベンチに腰掛ければ暖かな陽気が眠気を誘ってくる。
    「もう水族館行く?」
     眠たげな彼女に優しく話せば、「まこちゃんまこちゃん、あっちの方がきれいに咲いてそうですのよ!」と立ち上がったシャーリィが手を差し伸べた。
     その手を繋げばシャーリィの頬は赤く染まる。急がなくても大丈夫だよと笑った真琴は桜の花びらを受け止めた。
     花散るよりももっと、共に入れる時間は長いから、ゆっくりと歩こう。

     触れた手、心地よいぬくもりと桜並木についつい足が進んでしまって。
    「結構歩いたから疲れたでしょ?」
     傍らを見遣ったさくらえにエリノアは「これ位で疲れてたら灼滅者は務まらないわ」と冗句めかした。
     ふ、とさくらえの目に留まったのはエリノアの金の髪に絡んだ桜色。
    「エリノア、桜に懐かれているみたいだよ?」
     首を傾げたエリノアに「桜のお姫様、だねぇ」と彼はくすくすと笑った。
     小さく笑いながら髪に触れれば、彼女は髪に花弁が絡んだことに気づく――ああ、けれども。
    「……少しだけ、このままで」
     髪を撫でられ、エリノアが目をふいと逸らす。その仕草が愛しくて額に一つ口づけた。


     彼女――ではなく、彼は舞った桜に手を伸ばす。
    「ボクたちが学生なのもあと1年かあ……」
     言葉にすると、何処か重たく感じて秋乃は小さく息をついた。
     卒業すれば遠縁の人との養子縁組が決まっていて、共にあった灯は当主としての修行に戻る。
     いつもの日常が、変わっていくのはどうしても不安で。
    「……そういえば、秋乃の御親戚って俺の実家の近く、だったか?」
     遠く離れてしまう気がして――ぎゅ、と握られた掌の心地よさに灯は目を細めた。
     甘い空気ばかりで気持ち悪い存在は、支えてくれる優しいものだと意識が変わって。
    「秋乃」と名を呼んだ。失いたくないから。待って居て欲しいと意味を込めてもう一度、彼の名を。

    「真鶴嬢、お誕生日おめでとうございます!」
     ぎゅ、と真鶴を抱きしめた心桜は行ってきますと手を振った。
     桜の並木に潮風。「実は」と差し出す手作り弁当は焦げたタコさんウィンナーと炭のような卵焼き。
    「こういうのをさ、愛妻弁当っていうんだろうなー」
     出来なんかより、その気持ちがうれしいと噛み締める明莉に「苦いから!」と心桜は慌てる。
     晴天に春一番の桜の花びら。
    「なんだか、海を泳ぐ魚みたいだな」
     明莉の肩に頭を預け、心桜は彼の夢を聞く――この先の未来、年老いても二人で桜の下に。
     その言葉に幸福と目を伏せた彼女は夢の中。桜色の髪に口づけて、愛しい桜の妖精へ「大好き」と告げた。

     日向の席でうとうととする悟の横顔を見つめながら想希は小さく笑う。
     古書店併設のカフェの日当たりは抜群だ。散る桜を眺める彼の呟きに悟は顔をあげた。
    「俺も大学生。想希と一緒やで!」
     彼の笑みに、転部したことでの難しさを想希は困った様に呟いた。
    「ほな一緒に勉強しやへんか? 一緒の教室に行くから覚悟しときや!」
     美味しい珈琲ときれいな桜、そして大好きな相手がいてとても幸せだと笑った想希の好きなものを探そうと悟は意気込んだ。
    「歴史小説とか? 探すん手伝うで!」
    「はい。あと、帰りにこのガイドブックに載っている団子屋にも……」
     行こうとはしゃいだ彼と、大学最後の1年をいつも通り彩ろう。

     満開の桜の下、大きな手をきゅっと攫んでイコは歩く。
    「ヒヒ、長閑な暖かな空気のおかげで白蛇のオブさんとオスさんも元気ですよぉ」
     円蔵の楽し気な言葉にイコは「おんなじね!」と真似るように腕へとしがみついた。
     赫星を絡み捉えた墨の蔓にひとひらを添えればイコの表情も春めいた。
    「ヒヒヒ、イコさんイコさん。これからもずっとこうして四季の彩りを贈れるよう」
     彼は春に満ちる光と同じ。暖かく包んでくれる大好きな彼との日々が眩くて愛おしい。
    「ずっと、ずっと傍に居てくださいね」
     精一杯の背伸びで届ける甘いキス――その彩をぎゅっと腕で閉じ込めて。

     ベンチに並べば璃依の脳裏に過ったのは昨年の桜のジンクス。
     ずっと共にと願ったそれが叶って嬉しいとちらりと見れば、翔琉はその景色を瞳に焼き付けようと桜を見上げていた。
    「お前と一緒に過ごした中でも、桜とは縁が多いよな」
     学園でも花見に共に――その言葉に璃依は桜は翔琉が御祖父さんを思い出せる大事なものだからと告げた。
    「カケルの大事な物だからアタシにとっても大切で特別なんだ」
     4度目の桜に璃依は沢山したいことが有るんだと指折り数え、ゆっくりと夢の中に。
     その微睡みに、髪先の花びらを取って来年もこの平穏を感じて居たいと陽に翳して見せた。


     メロンパンとクロワッサン、あんぱんとジャムパン。三食団子に苺大福と桜餅。
    「……ん、オヤツは必須」
     買い込むイチに奈那は「おいしそうだから仕方がないですもんね」ところころと笑った。
     大好きな甘未と桜。蕾交じりも可愛いと、見上げるイチに「かわいいですね」と奈那は目を細める。
     降り注ぐ日差しが、眩しくて人気ないベンチへと陽の光を浴びながらゆっくりと歩いた。
     花弁が注ぐベンチに二人と一匹。くろ丸は尻尾を振って花弁を追いかける。
    「可愛い……花似合う……」
     くろ丸の様子を眺めながら、暖かな陽気にうとうと、と二人そろって微睡みに。ストールは膝に掛けて、少し寄り添って夢の中へ。

    「夜音、サクラは好き?」
     潮風に乗る草木のにおい。春色の降る世界で問い掛けるレインに眠たげな瞳を細めた夜音は「えへへ」と笑って見せた。
    「好きだよぉ。桜も、海も、大好きさん。どっちも、大切な思い出さんな場所なの」
     ひらひら、と。潮風に踊った花弁を掴めば『願いが叶う』。言葉を思い出し、二人の掌が宙を泳ぐ。
    「わ、レインくん、お見事さんなの。お願いは?」
     奮闘する夜音に「考えてなかった」と困り顔の彼。願うなら、思い出がたくさん作れますように――なら、二人とも同じものを願ってみよう。
     潮の香、花の薫、それから混ざったおいしそうな匂い。
    「ね、買いに行かない? 人気なんだって」
     無邪気な笑顔で、思い出を増やしていこう。

    「寒い冬も終わって春爛漫!」
    『春陽』の名の通り、春の陽射しに心躍らせて春陽は月人とゆっくり歩む。
    「俺も春の日差しは好きだぜ。桜の花に透けた光なんか綺麗だよな。
     ……ま、もう少し暖かい春の陽は1年中横にいるけど」
     こつ、と手の甲が春陽の頭に触れる。その言葉にへらりと笑った彼女は行きましょうと手を差し伸べた。
     ガイドブックに載ったメロンパンとクロワッサン。公園を行く足は少し早くなって。
    「月人さんはどっち食べる?」
    「俺も花見団子買ってくるから分けようぜ。飲み物はなんにする?」
     勿論、この季節。桜の緑茶にすると微笑んだ彼女に「OK」と小さく返す。
     折角だから水族館――そう言いながらも眠気がふわりと訪れて。月人の肩で少しだけうたた寝しよう。
     暖かな日差しの中で夢でも、お花見日和。

    『高校生活』を振り返ればあっと言う間に時が過ぎて。当たり前が変わっていくことが少し寂しい。
     話す才葉の横顔を見上げ、目を細めた朱那は眩しいと小さく笑う。
    「隣同士の席は終わって、寂しいけどさ。未来に向かって進んでるシューナや自分の姿は好きだ」
    「あたしも」
     そうして語らう今も、きらきらで、眩しくて。
     降る桜が鮮やかな朱那の髪に落ちる。
    「花弁キャッチ、願いが叶うんだって! 前にもこうして桜の季節にやった遊び、もう一回やってみようよ」
    「よーし、負けないヨ!」
     空と桜の競演に、くるくると踊る朱那の隣で難なくキャッチした才葉が笑う。
    「これからもシューナと一緒に笑ってられますように!」
     ――なら、『あたし』も。効果は二倍にして、キャッチの記念に『いつも』を残そう。
     今までに沢山のありがとうと、これからもどうか、よろしくを込めて。ハイ、チーズ。

    「うっ、人、多い……」
     不安げにマサムネにしがみついた水鳥。それは、不意打ちの事で、マサムネの頬がかぁ、と熱くなる。
     人が多い場所は苦手だった、その無意識の行動に水鳥は「はぐれたら、大変ですね」と視線をうろつかせた。
     並んだパン屋や団子屋に行こうと水鳥を促すマサムネは「そこ行ったら人の少ない所にずらかるかっ」と笑った。
     花よりお団子派な彼を見上げて、食べ物にはしゃぐ姿につい、笑みが漏れる。
    「桜のケーキ、でどうでしょう……?」
    「いいな! それじゃあ、あっちに」
     桜の樹の下、人気のないベンチに座ってのんびりと二人で過ごそう。
     満開の桜がひらひら、ふわふわと舞い落ちて、春の思い出が1ページ増えた。


    「ペンギンショーをやってるんだって!」
     楽し気なアランの言葉にホテルスは「可愛らしいでしょうね」と大きく頷いた。
    「水族館に来たことはあるけど、こういうショーを見るのオレも初めてだよ」
     楽しみだと瞳を輝かせた翔へとギーゼルベルトは「彼女と一緒に」ともごもごと呟いた。
     彼女の存在はみんな知っていても、言葉にすると何処か気恥ずかしくて。
     恥ずかし気な彼に小さく笑みを溢したアランは「日本の水族館って楽しそうだよね」と頷いた。
    「ショーってことだから、売店で春限定の飲み物とか食べ物とかどうだろう?」
     統弥は売店で全員分購入すると足を進める。
     水族館によって展示方法も催事も違うためか違って見えるのはギーゼルベルトもお墨付きだ。
    「ペンギン、地上だとよちよち歩きでかわいいねー。水中だとあんなに早いのにー」
    「きちんと指示に従ってしっかり動いている。信頼関係を築いているんですね」
     その言葉を聞きながらこうして楽しく過ごせる一日はとてもうれしいと感じる。
     もう桜の季節、これからも皆揃って楽しめればと願うそれを感じ取ってか「来年も」と笑ったアランの前でペンギンがお尻をふりふりとして見せた。

     一匹だけ芸が下手なペンギンがいるのを見つけ命は小さく噴き出した。
    「頑張って!」
     そのペンギンは【刹那の幻想曲】のメンバーの前で懸命に芸を披露している。思わず応援する蛍姫に命も大きく頷く。
     上手に芸をして、安心したようにも見えたぺんぎんに蛍姫と命はほっと胸を撫で下ろした。
    「そういえば、ペンギンさんって、人間を仲間と勘違いするらしいですよね。
     こんなに可愛いなら……勘違いされたいですー! そしてぎゅーっとハグを……!」
     心が逸るゆまに乃麻も尻尾をぱたりと揺らす。ペンギンの『ぎゅー』は魅力的なのだ。
     春の限定品も購入しようと誘うゆまに続き、乃麻が目にしたのはクレープやメロンパン、そして桜ラテ。
    「そしたらわたしは、これにするわぁ!」
     みたらし団子を選択して――でも、「なぁなぁ、みんなでちょっとずつ交換せえへん?」
    「ああ、交換しよう」
     大きく頷く命はあーん、に少し頬を赤くする。爽やかな春の日差しの中、楽しい一日に心躍らせて。

     茫と輝く海月達。まるで海の桜の花びらみたい、と呟く陽桜は隣を見遣る。
     逸れないようにと袖をきゅ、と掴んでともに歩く真鶴は「きれいね」と彼女へと微笑んだ。
    「はい、とても綺麗。……真鶴さんは、この桜色の世界でも妖精さんみたいです」
    「陽桜さんだって、桜色に輝いて見えるの」
     いつも素敵と笑った彼女に真鶴は頬染め、陽桜さんもと小さく笑う。
     鮮やかなライトの中で揺れる海月達。撮影OKの看板を確認したならば、今日の記念に1枚撮ろう。
     硝子に反射した自分たちがまるで水面を漂っているみたいに見えて――とても、きれい。

    「チンアナゴも好きだけど、エイとサメが見たいわ。いいかしら?」
     手を繋いで、水族館を行く樹は愛しい人へと微笑みかける。「いいよ」と快く頷いた拓馬は久々の水族館を堪能するように周囲を見回した。
    「あの裏側を見ていると余分な力が抜けてほっとできるの」
    「エイの裏側って可愛かったり面白い顔になってるって教えてくれたんだよね?」
     拓馬が見たいと願うマンボウの生態系も二人の仲では会話の花を咲かせるもとになる。
    「卵を一億個も産んだり水上へ出て大ジャンプしたり、色々独特なんだよね」
     癒しを見つけて、二人で今日はゆっくりと過ごそう。

    「わぁ」
     瞳を輝かせた紗奈はひよりの掌をぎゅ、と握る。
     桜色に染まった海月達はランプの様にくるくると海の中を泳ぐ。時の流れが違うように感じてひよりは小さく瞬いた。
    「あ、ひよりちゃん見て。くらげの頭の上にもお花があるよ」
    「お花?」
     クラゲの花模様。おしゃれさんだ、と笑ったひよりに紗奈は楽し気にころころと笑った。
     桜色のひよりが海月達でお揃いで。ランプの様に優しく照らしてくれるのも、海月達と一緒で。
    「わたし、この色好き」
     もう春なんだね、と告げたその言葉に気づけば似た背丈が何処か切ない。
     傍に居てくれるだけでうれしくて――「わたしが守る」と笑ってくれたその気持ちと言葉が頼もしくって擽ったい。

     ふわ、と揺れた海月達。
     春の穏やかな一日はまだ、続いていく。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月6日
    難度:簡単
    参加:55人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ