●要請
「来てくれて有難う。春らしい日より肌寒い日のほうが多くて、ちょっと辛いね」
そう告げて神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)は灼滅者達を教室へと招き入れて、いつもの和綴じのノートを開いた。
「スサノオのナミダ姫から武蔵坂学園に対して、協力を願う連絡が来たんだ。協力といっても『可能であれば』程度の打診だから、断ったとしてもデメリットはないんだけどね」
が、ここで協力して恩を売る事ができれば、ノーライフキングとの戦争時にスサノオ達がノーライフキングの援軍として現れるのを阻止できると思われる。
スサノオは多くのダークネス組織と協力関係にある為、ノーライフキングとも当然友好関係にある。
逆に武蔵坂学園とは前回の援軍で貸し借りなしの状態となっているため、今の状況でノーライフキングと武蔵坂学園とが争えば、スサノオはノーライフキングに味方する事になる。
「それを阻止することができるならば、この協力には十分意味があるだろうね」
瀞真はそう告げた。
「ナミダ姫とスサノオ達は、ガイオウガが灼滅された事でスサノオ大神の力を喰らえるようになった為、日本全国に封じられていたスサノオ大神の力を喰らう旅を続けていたらしいよ」
このナミダ姫達の攻撃を受けたスサノオ大神の力は、その力を奪われない為に『強いスサノオの力を持つ者の侵入を阻止する結界』を編み出して、自分達の身を守ろうとし始めた。この結界により、スサノオ達が直接、スサノオ大神の力を攻撃する事ができなくなってしまった為、武蔵坂学園の灼滅者に協力を願ってきたという事だ。
「今回依頼があったスサノオ大神が封じられているのは、神奈川県にある山の中腹くらいにある、地面の下の洞窟だよ。その入口でスサノオの戦士数名が待っているから、合流してスサノオ大神の所へ向かって欲しい」
スサノオ大神の力は、巨大な狼のような姿を取っており、見た目や能力は狼型のスサノオに酷似しているようだ。このスサノオ大神の力に、ある程度ダメージを与えれば結界が破壊されるので、外で待機しているスサノオ達が戦闘に加われるようになる。
「スサノオ達が合流した後は彼らだけに任せて撤退しても問題ないけれど、一緒に肩を並べて戦ってもいいだろうね。ただ灼滅者が止めを刺して、スサノオ大神の力を灼滅してしまうと、スサノオ達が喰う事ができず協力としては失敗となるので注意が必要だよ」
この洞窟は奥へ進むにしたがって下るようになっており、スサノオ大神がいる場所は天上が高くなっていて、広さのある場所になっているという。
「スサノオ大神の力は、体長7mくらいの白い炎でできた狼の姿をしていて、白い炎で焼き尽くすように攻撃や、殴りつけると同時にするどい爪を刺すような攻撃、噛み付くことで体力を吸い取るような攻撃をしてくるようだね」
スサノオ大神の力は強敵だが、体力を半減させれば結界が消える為、スサノオ達が合流できるので、そのラインを目指すならばそれほど難しくないだろう。
「ダークネス同士の戦いに介入する事になるが、ノーライフキングとの戦争を考えれば止むを得ない所だろうね……」
瀞真は油断しなければ君たちならばできるよ、と告げて和綴じのノートを閉じた。
参加者 | |
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月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470) |
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718) |
志賀野・友衛(大学生人狼・d03990) |
伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267) |
リュカ・シャリエール(いばらの騎士・d11909) |
ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877) |
アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020) |
●スサノオの戦士たち
山をしばらく登っていくと、木々で隠されるようにその洞窟の入口はあった。
(「戦士に協力するのは2度目だが、今回はどんな面子やら」)
九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)の、期待と不安の入り交じったような名状しがたい心境をざわつかせるように、周囲の木の葉がざわざわと音を立てた。
(「このスサノオ大神は以前に出逢ったスサノオとは違うのだな。その行方もまた気になるところだが」)
ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)が気にかけているのは、以前何度か古の畏れを生み出している、金房のスサノオ。あれ以来姿を現したという話は聞かないが、いつか対峙する日は来るのだろうか。
(「ナミダ姫さんからの協力要請ですか。勢力のひとつと戦わずに済むなら良いことだと思います。お手伝いをするとしましょう」)
後方から小さな足で仲間たちについてきたアリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)は、ようやく見えてきた洞窟の入口に、お手伝いを頑張ろうと改めて気合を入れるのだった。
「来たな、灼滅者」
ガサガサという葉擦れの音は風だけが起こしたものではなかったようだ。洞窟の入口――灼滅者達や登山客から死角になるような場所に彼らはいた。がさりと下草を踏みしめて、数人のスサノオの戦士たちが姿を見せた。数は灼滅者たちよりは少ない。
「私は志賀野・友衛。君たちがこの洞窟内の大神への案内役で間違いないな?」
「ああ。この隊の隊長を務めるハクロだ」
志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)が自己紹介がてら名前を聞いておきたいと申し出ると、赤い襟巻をした戦士が自分が隊長であると告げ、名を名乗った。名乗ることに抵抗のない灼滅者達も倣うように名乗り、戦士たちも言葉少なにそれに応じてくれた。
「俺達の考えている流れを説明するな」
紅が自分たちが結界を壊すまでの予定を説明し、そしてそれにハクロが頷いたのを確認して続ける。
「俺達は結界が壊れた後も最後まで戦闘に参加する。ただしハクロ達が到着後は回復と支援に徹するつもりだ」
「加えて、『最後』まで見届けさせてもらうつもりだ」
月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)が紅の言葉に続けて、戦士たちの反応を見る。だが戦士たちは別段変わった反応を見せることはなかった。大神を喰らうところを見られても問題ないと思っているのか、協力してくれる灼滅者たちには見届ける権利があると思っているのか、そこまでは窺えないが。
「そろそろ案内を頼んでもいいだろうか?」
「ああ」
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)の言葉にハクロは頷き、数名の戦士と共に洞窟内へと足を踏み入れた。ヴォルフと朔耶がその後に付き、他の仲間達はそれについて足を進めた。リュカ・シャリエール(いばらの騎士・d11909)と朔耶が複数のライトを用意していたおかげで、足元が不安定でも注意して下っていけそうだ。大神に気づかれないように、結界内に入る前には消すつもりではあるが。
「なあ、少し話さないか?」
灼滅者の最後尾で近くを歩く戦士に声をかけたのは伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)だった。少し戸惑っているような戦士は助けを求めるべく最前列を行くハクロの背中へ視線を送ったが、彼が振り向くことはなかった。その様子を見て、蓮太郎は笑んで見せて。
「いずれは命の取り合いをすることになるだろう相手でも、言葉を交わしてはならんという決まりはあるまい?」
これは戦士だけではなく仲間たちにも向けた言葉でもある。実際、有効的な戦士がいれば言葉を交わしてみたいと思っている者も少なくない。
「お、おう……そう、だな」
蓮太郎に話しかけられた戦士は少し驚きつつも異論はなかったのだろう。躊躇いがちに口を開いて、蓮太郎の口から続く言葉を待っているようだった。
始まった会話は洞窟の中で響く。元より他の者達に聞かれてまずいようなことを話すつもりは互いにない。リュカと友衛はそっと後方へと下がり、さり気なく会話に加わって。
(「信じて貰いたいのなら、まずは自分が信じるべき」)
そう考えている友衛は、腹の中を探るつもりはない。展開されるのは、ただの雑談だ。
ザランと名乗ったその戦士もどうやらおしゃべり好きだったらしく、いつのまにやら後方で会話が盛り上がりすぎて、先頭を行くハクロが振り返って少し慎むようにと注意した程だった。
「我々はここから先には行けぬ」
なんとなく声の響き方が変わった、誰もがそう思ったところでハクロが足を止めた。恐らくこのまままっすぐ下れば、大神のいる、吹き抜けのように天上が高くなっている場所へと通じるのだろう。
「結界を壊したら、呼びますね」
「ああ。声は十分届くだろう」
アリスの確認にハクロは頷いて、耳を澄ませて合図を待っていると約束してくれた。
「先に渡しておく。何かあった時に役立ててくれ」
ラススヴィが差し出した拳から、ハクロは折りたたんだ紙を受け取った。それは連絡先を書いた紙。
「……」
使うときが来るかは分からないが、ハクロがそれを捨てずに仕舞ったのを見て、ラススヴィはそれだけでも満足だった。
「じゃあ、行こう」
仲間たちが頷いたのを確認して、友衛はハクロに代わって先頭を歩き始めた。
●大神の姿
「わ……」
その姿を見たとき、リュカの口から自然に声が漏れた。
戦士たちと分かれて先に進むと、開けた空間にでた。下りの道はその空間の壁に沿うように繋がっている。左手は壁、右手は柵も何もないので足を滑らせて、もしくはバランスを崩して落ちる恐怖が生まれてしまった者もいるかもしれない。
その開放的な空間に、体長7メートルほどの白い炎でできた狼がいるのだ。驚きや感嘆に似た声を漏らすのも無理はない。
「手早く済ませよう」
ヴォルフと朔耶が道を駆け下りて、高低差が1メートルほどになったら面倒だとばかりに飛び降り、大神へと向かう。他の者も彼らに続いて駆け下り、大神の前へと急いだ。
――ヴオォォォォォォォ!!
迫りくる灼滅者達を認識したのか、大神が雄叫びを上げる。だがそれに怯むものなどこの中にはいない。
ヴォルフの畏れを纏った攻撃が大神に向かうのとほぼ同時に、朔耶の帯がヴォルフを包み、守りを固める。霊犬のリキはヴォルフの援護をするように動いて。
「行くぞ」
大きな、大きな大神を見据えて、友衛は半獣化させた腕を振り下ろす。友衛を追うように動いた紅は武器に炎を纏わせ、大神に向ける。
「俺を狙えるなら狙ってみろ」
盾役である自分を狙ってくれれば、仲間たちがそれだけ楽になる――そう思っての挑発の言葉。
(「……どう動いてくるだろうか」)
ラススヴィは前衛の足元に巨大なオーラの陣を展開させ、大神の動きを窺う。と、大神が腕を振りかぶるような動作を見せた。
「何か来るようだ!」
とっさに注意喚起の声を上げた。その声に皆が反応し、身を固くする。大神は振り上げた腕を横薙ぎにするように振るった。その腕から放たれたのは白炎。前衛を、炎が襲った。すかさず蓮太郎が盾を広げ、前衛を癒やすとともに守りを固める。
「前衛を回復します」
淡々と、けれども閉じていた左目を開いたアリスは大神の動きを観察しながら最善の動きを考える。アリスが回復を施している間に、リュカが帯を放つ。このまま命中精度が上がっていけば、彼の一撃も鋭いものになるはずだ。
ヴォルフの鋭い爪、朔耶の放つ魔法弾が大神を襲う。大神はリキの攻撃を交わした。だが巨体の僅かな移動、その先にいたのは友衛だ。
「援護、感謝する」
リキの攻撃を避けたことで自分が狙っていた方向へと移動してきた大神に、畏れを纏いし一撃が入る。彼女を追って動いた紅が、魔力を込めた大量の弾丸を大神へ向けて放った。ラススヴィの急所を狙った正確な一撃が大神を蝕む。
――オォォォォォォ!
突き出された大きな腕。それは蓮太郎を狙って、彼の身体に鋭い爪を突き立てた。けれどもアリスが素早くリングを遣わせて傷を癒やし、リュカが掌からの炎の奔流で、大神の強化を打ち消した。
しっかりとした対策が練られ、各々が役割をしっかり認識している以上、余程のことがない限り戦線が崩壊することはないだろう。
●結界破壊と、戦士たちと
その時は意外に早く訪れた。もちろん、灼滅者とて無傷ではない。けれども結界を壊すこと、大神の能力を下げることを中心にしたことで、体感としては思っていたよりも早く感じた。大神の自己強化をすかさず誰かが打ち消すことができていたのも大きいだろう。強化された大神の攻撃を受けていたならば、こちらも癒し手のアリス以外が回復に回らなくてはならなくなったかもしれない。
それでも、癒やしきれぬダメージが灼滅者たちには蓄積している。今まではうまく回っていたが、今後も戦闘が続くとなると、楽観視してはいられない――そんな微妙な状況の時だった。
――オアァァァァァァ……!
色々蓄積しているのは大神も同じ。その叫びが、最初よりも弱くなったように感じて。
「ハクロ!!」
「スサノオさん達っ!!」
紅とリュカがほぼ同時に叫んだ。開かれた空間に彼らの声が響き渡る。すると。
「心得た!」
ハクロを先頭に駆けつけた戦士たちが、坂道半ばでこちらへと飛び降り、そのまま猛スピードで駆けつけて大神を攻撃し始める。
「結界さえなければこちらのもの!」
ザランも他の仲間達と息を合わせて大神へと向かっていく。
(「せっかくですから支援をしながらスサノオさんの戦闘を勉強しましょう。敵にならない保障はありませんし」)
ダークネスの陣形を間近で見る機会などめったにないから、とアリスは邪魔にならないようにじっと戦士たちの動きを観察する。時折回復支援を行いながら、じっと。
「あとは任せた!」
攻撃の手を止めて、蓮太郎は戦士たちの背中へと声をかける。万が一仲間たちへ攻撃が飛んで来るようならば、それは庇うつもりで。
「支援しよう」
声をかけ、ラススヴィは巨大な魔法陣を戦士たちの足元へと展開し、回復と戦力アップの支援をする。彼らからの返事はない。それだけ戦闘に夢中になっていることだろう。
「危ない!」
「きゃっ!?」
紅がアリスを突き飛ばした。そしてガトリングガンを盾にして、飛んできた炎を代わりに正面から受ける。後衛へと移動してきた友衛が尻もちをついたアリスを立たせ、アリスはかばって貰った礼を告げる。
「終わりました」
そうこうしている間に、いつの間にか剣戟の音は聞こえなくなっていた。リュカの声に戦場を見れば、それまで立ちはだかっていた大きな白炎の塊は小さくなっていた――そして。
ジュル……グシャァ……ガブゥ……。
戦士たちが誰一人の例外もなく、大神の力とやらを喰らっていたのである。その光景は猛獣が草食動物を喰らうようなそれに近いと言えばいいだろうか、どこかグロテスクで不気味さを感じるものだ。この光景を見れば、スサノオへの見方が変わる者もいるかもしれない。
「……」
「……」
ヴォルフと朔耶は並んでその光景を見ていた。けじめとしてきちんとこの行為を見届けねばと思っている。
ヴォルフとしてはこの共食いのような行為に対しては共感を持っている。捕らえた獲物を喰らうは自然の摂理。朔耶としては気持ち悪さも特別な感情も一切持っていない。犬の餌風景、そんな認識。こんな時でも綺麗に食うな、なんて思ったりもしている。
「スサノオさんの喰らうとは文字通り『食事』でしたか。大神は美味しいのでしょうか?」
戦士たちの姿をじっと凝視していたアリスは小さく呟いた。彼らにとっては美味しかったとしてもアリスにとってはそうとは限らない。難しい疑問だ。
「終わったみたいだな」
紅の言葉の通り、大神を喰い終わったハクロ達がこちら側へと近づいてくる。
「力添え、感謝するぞ、灼滅者」
「何かあれば、また武蔵坂に声をかけるがいい。内容と条件、見返り次第では協力できるかもしれん」
「学園は一枚岩ではありませんが、ボクらの様に友好を望む者の存在をどうか忘れないでください」
廉太郎の言葉にリュカがそう続けたかと思うと、おねだりをする可愛い子犬のような表情で「もふもふしていいですか?」と告げた。その変わりようがザランのツボに入ったようで、彼が存分にもふもふさせてくれるという。
「その力に呑まれないといいがな」
小さく呟かれたラススヴィの言葉。それを聞き取ったのだろうハクロが彼に視線を向ける。
「ナミダ姫に、どうぞよろしく、と」
「……ああ」
視線を交わして紡がれた言葉に、ハクロは頷いて。
「あなた達とも、また会えるだろうか」
「さあな」
耳と尻尾を揺らした友衛に、ハクロはそっけなく応える。彼にもきっと、わからないことなのだろう。
(「互いに頼り合う理由が、いつか利害ではなく信頼になれれば嬉しいな」)
そう思いつつ、友衛は戦士たちの背中を見送る。
「行こう」
その姿が視界から消えた時、誰かが仲間たちをそう促したのだった。
作者:篁みゆ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年4月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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