初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)の招集を受け、教室を訪れた灼滅者に語られたのは、あるダークネスからの連絡についてだった。
「武蔵坂学園に、ナミダ姫から協力を願う連絡が来た。と言っても、『もし可能なら』程度で、断っても何かデメリットがあるわけではない」
しかし、ここで協力しておけば、ノーライフキングとの戦争時に、スサノオ達がノーライフキング側の援軍として現れるのを阻止できると思う、と杏は言った。
「スサノオは、多くのダークネス組織と協力関係にある。ノーライフキングもその1つだな。一方、武蔵坂学園とは前回の援軍で貸し借りは無い状態。つまり、今ノーライフキングと武蔵坂学園が戦争状態になれば、スサノオが手を貸すのはおそらくノーライフキングの方だ」
それを阻止できるというのは、実際のところ、かなりのメリットと言えるだろう。
「ガイオウガが灼滅された事でスサノオ大神の力を喰らえるようになって以来、ナミダ姫とスサノオ達は、日本各地に封じられていたスサノオ大神の力を喰らう旅を続けていたと聞く」
これに対しスサノオ大神の力は、『強いスサノオの力を持つ者の侵入を阻止する結界』を編み出した。
この結界がある限り、スサノオ達が、スサノオ大神の力を攻撃する事はできない。その為、武蔵坂学園に協力を求めてきたというわけである。
「今回依頼があったスサノオ大神が封じられているのは、東北にある鍾乳洞の1つだ。そこで待っているスサノオの戦士3名と合流して、共にスサノオ大神の所へ向かってくれ」
先行するのは灼滅者だ。灼滅者がスサノオ大神の力にある程度ダメージを与えることで結界が破壊され、結界の外で待機していたスサノオの戦士達が戦闘に参加できるようになる。
「その後は、彼らに任せて撤退しても問題ないし、協力してスサノオ大神の力と戦っても構わない」
ただ、灼滅者がスサノオ大神の力にとどめを刺してしまうと、スサノオ達がそれを喰らう事ができなくなり、目的を果たせなくなってしまう。その点には注意してほしい。
「スサノオ大神の力……と繰り返すのも大変なので、この個体をとりあえず『雪狼(せつろう)』と呼ばせてもらう。『雪狼』は、雪の如く白い炎によって体を構成する、体長7mほどの狼だ。人狼とほぼ同じサイキックを使用するが、複数を焼き払う火炎を放射するとも聞いている」
能力に関する情報の提供元はナミダ姫であるため、正確なものと考えていいだろう。
スサノオ大神の力は強力だ。しかし、体力を半減させれば結界は消え、スサノオ達の援軍を得られる。そこまでが勝負だ。
「スサノオともいずれ戦うかもしれないとすれば、若干思うところもあるだろうが、今はノーライフキングとの決戦を優先させたいところだ」
できれば力を貸してくれ、と杏は訴えたのだった。
参加者 | |
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ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
片倉・光影(風刃義侠・d11798) |
夏目・凛音(皆の優しい吸血お姉さん・d22051) |
ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671) |
十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806) |
●バランサー
スサノオ達との合流地点への道すがら、夏目・凛音(皆の優しい吸血お姉さん・d22051)が皆に確認する。
「今回の方針は、『スサノオ達に協力する姿勢を見せつつ、偶然を装って自分達の手でスサノオ大神の力を灼滅する』事、でいいわよね?」
一斉に頷く仲間達。
「ノーライフキングという眼前の脅威のためには、スサノオに手を貸すのが道理なんだろうが……そういうのは他の灼滅者に任せるさ。ここは確実に敵の力を削ぐ」
「ああ、全てスサノオの都合のよい通りに進める訳にもいかないし」
ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)の意見に、同意する片倉・光影(風刃義侠・d11798)。
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)も異論はない。だが、『雪狼』を灼滅するチャンスを自分達が得られるかどうかは、一種の賭けでもある。今回はスサノオの戦士達の存在も考慮しなければならないからだ。
「でも、凛音さんが来てくれて心強いです」
「朋萌ちゃんも、よろしく頼むわね」
十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806)に、凛音が微笑みで応える。姉と慕う相手が傍にいるだけで、百人力だ。
何より、全員の意志が一致している事は、この作戦にとってプラスに働くはずだ。
中性的な面立ちのうちに想いを秘め、進むヴォルフ。やがてその双眸が、行く手に幾つかのシルエットを捉える。
「あれが、そうかな?」
鍾乳洞の入り口に立っていたのは、人狼めいた姿のスサノオの戦士、3人だった。もし、スサノオ壬生狼組を見た事がある灼滅者なら、衣装こそ違えど、近しい雰囲気を感じたかもしれない。
「結果を見届けるためにも、最後まで共に戦わせてもらうつもりだ。だが、こちらも手が足りない。援護にはあまり期待しないでくれ」
そんなルフィアに応じたのは、戦士達のリーダー格らしきスサノオ。
「お前達は『雪狼』を弱らせ、結界を解除するだけでいい。それ以上は望まない」
あまり感情のこもらぬ口調でそう告げると、きびすを返し、鍾乳洞内部へと入っていく。
「まあ、互いに生きては帰ろうか」
そっけない対応に、ルフィアが肩をすくめた。
そして灼滅者達も、『雪狼』のこもる場所へと足を踏み入れるのだった。
●アンチスサノオバリア
スサノオの戦士達が先行し、洞穴の中を進む。
観光用に整備された場所ではないため、道ならぬ道が続く。自然に出来た石柱も、目を楽しませるというより、障害物としての意味合いが強く感じられるほどだ。
すると唐突に、戦士達が歩みを止めた。手を掲げ、
「ここにある結界が、我等の侵入を阻んでいる。後は、お前達灼滅者に任せる」
戦士達に促され、灼滅者達は自分達だけで先を急ぐ。
既に結界内のはずだが、人狼であるヴォルフや朋萌には、何の影響もない。これも灼滅者とダークネスの差……存在の仕方、あるいは単純な実力の違い……であろうか。
つららの如くぶら下がった鍾乳石が、行く手を阻む。7メートルもの巨体が棲んでいるとはとても思えぬ狭苦しさである。
だが。
唐突に一行の視界が開けた。ほとんど穴というべき場所から灼滅者達が飛び出すと、そこにはまるでホール、いやドームのような広大な空間が広がっていた。
その広さを確認するより早く、視界にあるものが飛び込んでくる。
白く、高貴さ漂う光沢を秘めた毛並み。全身で揺らめくのは、大地より溢れし畏れが炎の形をとったものか。ただし、その瞳に宿るのは、禍々しき殺意。
「これが『雪狼』……狂ったスサノオか。私はお前より知略に長けたナミダの方が怖いよ」
思わずつぶやくルフィア。
「私達だけで倒すのは難しそうですけど、後でスサノオの戦士も加勢にくるなら、なんとかなるはずです。頑張りましょう」
朋萌が、仲間を、そして自分自身を鼓舞する。
「そうだな。今はやるべき事をやるだけだ……真風招来!」
『雪狼』の不可視の圧を跳ね除けるように、光影がその力を解放した。
顕現せし愛刀と相棒と……そして仲間と共に、巨獣に挑む。
●スノーウルフ
「……!」
『雪狼』が、揺らめく朋萌の身に眼差しを注いだ。
『雪狼』とは似て非なる性質の白炎が、皆に加護として宿る。
白き炎の尾を引いて前に出たのは、ルフィアとヴォルフ。スサノオの戦士達が介入するまでは、ただ全力で『雪狼』に攻撃を通す事だけを考えればよい。ゆえに、ヴォルフも、アタッカーとしての役目を果たすのみ。
都合の良い的にならぬよう、『雪狼』の周囲を駆け回るルフィア。手にした槍から氷結の魔力がほとばしり、『雪狼』の足元に着弾。
瞬時に成長する氷塊から逃れんとする『雪狼』を、自らも狼の脚力を発揮して追うヴォルフ。
大地に眠る畏れは、スサノオだけに従うものにあらず。人狼の血にて操られしその力は、ヴォルフの身に、そしてガンナイフに宿る。『雪狼』の肉が裂かれ、力の粒子が、血の如く舞った。
しかし、そのような傷など意に介さぬ『雪狼』を、鋼の馬が追走する。ライドキャリバー・神風にまたがる光影の放った神薙刃は、しかし、『雪狼』の尻尾の一部を切り裂いたにすぎず。
そして、『雪狼』が音もなく降り立ったのは、凛音の眼前。
『雪狼』の爪が、振り下ろされる。凛音は両腕に付けたシールドでそれを受け止めるものの、衝撃までは相殺しきれない。
「っ!」
たまらず、凛音の唇から、呼気がこぼれる。だが、相手がこちらの間合いに入った事と同義でもある。
「!?」
凛音の影業に四肢を絡めとられ、身悶えする『雪狼』を、ルフィアが狙う。ダイダロスベルトを払いのけようと振るった尾を、容赦なく切り裂く。
「ガアアアアッ!」
影を引きちぎり、再動する『雪狼』へと、荒々しく、地を踏み砕いて接敵するヴォルフ。敵の威圧を浴びながらも、喉笛をかき斬る。
しかし、受けた『雪狼』の畏れが、重圧としてのしかかる。だが、光影のオーラに触れた途端、体が軽くなる。
「助かるよ」
「まだ戦いはこれからだからな」
無数の念を鎧の如くまとった『雪狼』が、神風と交錯する。競り負けたのは、後者。機体が横転し、鋼のパーツが破片となって宙を舞う。
しかし、更なる破壊をもたらそうとした『雪狼』の動きが止まる。朋萌の五芒星結界が、その足を止めたのだ。結界を駆使するのは、スサノオ大神の専売特許ではない、という事。
『雪狼』が結界を構築する符を食いちぎろうとする間に、凛音のシールドが神風に装着された。単に元通りにするだけでなく、同じ傷を負わぬよう、より硬く、より強く修復する。
神風自身もエンジンを駆動させ、自らのボディを修復、アジャストする。
時間の経過と共に、傷を負い、疲労を蓄積しながらも、『雪狼』を追い詰めていく灼滅者達。しかし、相手の体力は底知れない。
皆の盾となり傷ついていく凛音の元に、駆け寄る朋萌。背中合わせで互いを守るようにしながら、
「凛音さん、お怪我が……!」
「ウフフ、これくらい大丈夫よ」
自分を気遣う朋萌に、クールに引き締められていた凛音の表情が、一瞬だけ平時のように優しく緩む。
しかし、それも刹那の事。あらゆる加護を剥ぎ取らんとする荒ぶる波動が、灼滅者達の体を、魂を揺さぶる。
こらえきれず、壁面に叩きつけられる前衛陣。その救援に向かう光影や朋萌。
だが、落下していくヴォルフへと、『雪狼』が飛びかかった。ガードも間に合わない。
その時、駆け抜ける一陣の風。『雪狼』とぶつかり、その巨体を地面へと叩き伏せる。
「お前達の仕事は終わりだ」
灼滅者達の前に現れた、頼もしくすらある3つの背中。
スサノオ大神の結界は、無事解除されたのだ。
●ラストアタック
「行くぞ」
「あの力を喰らうのだ」
灼滅者の横を駆け抜け、『雪狼』に襲い掛かるスサノオの戦士達。『雪狼』を爪で引き裂き、時に相手の体に直接牙を立てる。
「体勢を立て直したら、私達も援護します」
朋萌の提案は、スサノオの戦士達の耳に届いたであろうか。
戦況を注視しながら、ヴォルフが自身に、契約の指輪の魔力を叩き込む。皆もこれまでのダメージを回復しつつ、機をうかがう。ラストアタックを奪う、千載一遇のチャンスを。
やがて、灼滅者達によるダメージもあり、『雪狼』は追い詰められていく。
今か。いや、まだだ。アイコンタクトを送りあう灼滅者達。あくまでも成り行きで『雪狼』を討ち取ったと装う必要がある。加勢するタイミングを見極めなければ。
そうこうする間にも、『雪狼』の動きは緩慢さを増していく。だが、このまま喰われる事をよしとするはずもない。
渾身の一撃が、戦士の1人の胸を深々と切り裂くと、そのまま地面へと叩きつけた。
「危ない!」
「よし、加勢するぞ!」
光影や、ルフィアが声を上げた。仲間はもちろん、戦士達の耳にも届くように。
「私達が敵の足を止めます!」
朋萌が掲げた大鎌が、虚空の扉を切り開く。『雪狼』に刃が降る。たとえ1つをかわしても、次々と斬首の刃が振り下ろされていく。
続いて、ルフィアの魔力撃が、ヴォルフや光影の斬撃が。
そして凛音の緋色の一撃が。傷ついた戦士から引き離す様に、『雪狼』を追い込み、そして……。
「な……ッ」
その身を消滅させていく『雪狼』を見て、戦士のリーダーが目を見開いた。とっさに他の2人が『雪狼』に飛びかかったが、既に力を回収できるような状態ではなかった。
目的を果たし損ねた戦士達の視線は、『雪狼』を灼滅した、灼滅者達へと注がれた。
「少しでも力になれば、って、必死に戦っていたつもりが、勢い余ってしまったみたい」
「すまんな、配慮が足りなかった」
弁解する凛音やルフィア。
悪意はなかった、と説明するものの、戦士達は不機嫌さを隠さない。まさか、ここでやりあうことにならないだろうか……光影達に緊張が走る。
スサノオが力を付けすぎるのは阻止したいが、彼らとの関係を必要以上に悪化させるのは、光影達の本意ではない。
(「虫のいい話かもしれないが……」)
「私達は……」
なおも言いつのろうとする朋萌を、リーダーが遮った。何か言いたげにしていた戦士2人を制すると、
「時には『こういう事』もあるだろう。……無論、そう何度も起きる事ではないが」
灼滅者達を鋭い眼光で射抜くと、3戦士は姿を消した。
それは、「今回はお前達の主張を受け入れるが、もしこのような事が続くようなら、ナミダ姫も黙ってはいないぞ」……と、言外に警告しているようにも見えたのである。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年3月27日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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