今日からヤのつく遊技業!

    作者:夕狩こあら

    「兄貴、姉御、大変ッス! またラジオウェーブのラジオ放送が確認されたッス!」
     教室の扉を勢いよく開けて飛び込んできた日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)の緊迫した面持ちに、灼滅者達の視線が集まる。
    「このままだと、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまうッスよ……!」
     息を弾ませながらも、最後まで一気に言い切ったノビルは、暫し肩を上下させた後に、放送内容を語り出した――。

     とある地方のパチンコ店は、早朝から開店を待つ客で行列が出来ているのだが、その店の裏――従業員通用口では、同じ客と思しき男達がどっかり座り込んでいる。
    「あんな寒ィ所で立ってられっかよォ」
    「律儀に並んでバカだね。こっちは自販機もあんのに」
     缶コーヒーを手に笑い合う二人は、不良と呼ばれる年齢を過ぎてチンピラとでも言うべきか――公共のルールに従って店頭で待てば良いもの、裏口で待つ故に『裏のルール』に従わされる。
    「おっ、お前達が就職希望者か」
    「ハァ?」
     突然現れたのは、この店の従業員か……いや、違う。
     明らかに反社会的で暴力的な雰囲気を纏う大男は、二人の襟ぐりを掴んで立ち上がらせると、
    「裏に居るってンならそうだろ?」
    「何が」
    「ウチに面接に来たンだろうがァ!」
     怒声と共に自販機に叩き付ける。
    「ウチはヤのつく遊技業だ! そんで遊技ってェのは、こういう事だ!」
    「ぐあァ!」
    「うグゥ!」
     悶絶して倒れた二人は、「不採用」という言葉を浴びて、地に転がされた。

    「……つまり。とあるパチンコ店で二人の男がブチのめされる、と」
    「一方的にヤのつく業者の面接試験を受けさせられるッス!」
     こっくり頷首いたノビルは更に説明を加え、
    「赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の兄貴の調査によって、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止める事が出来たのは、兄貴と姉御も知る所ッスよね」
    「ああ」
     その結果、ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に、その情報を得られるようになったのだ。
    「灼滅者の兄貴と姉御には、この都市伝説が放送内容の様な事件を起こす前に、現地へ行って灼滅してきて欲しいんス!」
     ノビルの言を受け止めた灼滅者達は、力強い首肯を返す。
     一同の是を受け取ったノビルは、次に都市伝説の能力について語った。
    「出現する敵は3体。武力的に圧迫面接を行う面接官2体と、採用するか否かを決めるボス1体っす」
     戦闘時のポジションは、クラッシャー、ディフェンダー、キャスター。
    「全員がストリートファイターに類する攻撃技を使い、匕首に日本刀、銃といったヤがつく業者らしい武器を使用してくるッス」
    「ほう」
     相手も全力で『面接』を行う為、逃走する気配はない。
     武と武、力と力のガチンコ勝負になるだろう、というのがノビルの読みだ。
    「但しこの情報は、ラジオ放送の情報から類推される能力ッス。可能性は低いとはいえ、自分の予測を上回る能力を持つ可能性があるんで……油断は禁物ッスよ」
     警告を置くエクスブレインに、灼滅者らは聢と頷いた。
    「あと、出来れば『裏のルール』に巻き込まれてしまったチンピラズも助けてくれると……ありがたいっす」
    「承知した」
     ノビルは灼滅者の是の返事に安堵すると、ビシリと敬礼して送り出した。


    参加者
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)
    色射・緋頼(生者を護る者・d01617)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)
    風峰・静(サイトハウンド・d28020)
    荒吹・千鳥(風立ちぬ・d29636)

    ■リプレイ


     先のラジオ放送では、件のチンピラは此処で悪漢に伸される筈だった。
    「お前達が就職希望者か」
    「ハァ?」
     迫る靴音に顔を上げた二人は、漢が放つ言の意も分からぬまま座り込んでいたのだが、
    「パルドン、旦那様? 面接会場は此方で宜しかったかしら?」
    「ハァ??」
     黒いリクルートス-ツならぬ黒手袋黒タイツ――華麗なる古欧衣装に身を包んだ周防・雛(少女グランギニョル・d00356)が、靴音を重ねて現れた時には、流石に首を傾げた。
    「就職? 面接?」
    「何言って――」
     疑問符を浮かべる男達を間に、会話は更に進んで、
    「ほう。フランス人形が面接とは」
    「切り込み隊を志望致します、周防雛にございます」
     嗤笑を艶笑に躱した玲瓏がスカートを摘まんで礼をすれば、その隣、45度のお辞儀をビシリとキメた風峰・静(サイトハウンド・d28020)が、次いで自己紹介をする。
    「テッポーダマ志望の風峰です! よろしくお願いします!」
     愛嬌のある八重歯と、ピョコリ動く狼耳が印象的。
     面接は最初の挨拶が合否を分つとも言われているが――、
    「ちょ、ちょっタンマ」
    「お前ら何なの?」
     事態が飲み込めず、疎外感を苛立ちに変えたチンピラが立ち上がれば、振り向いた金瞳は冴え冴えと、
    「お兄さん達、裏には裏のルールがあるんだよ。痛い目見ない内に早く行きな」
     王の威風に蹴散らした。
    「っは……はい!」
     ぞくり後退った二人は、続く槇南・マキノ(仏像・dn0245)が引き受け、蠱惑の鎖に繋がれて去る背を見送った静が、そっと口角を持ち上げる。
    (「……決まった」)
     これは立派な自己PRになったろうが、漢は舌打ちして身を乗り出し、
    「おい、誰が帰って良いと言った!」
    「此処に居る全員に面接を受けて貰う!」
     無断退去は許さずと、その手が下襟に潜り込むや、突如吹き上げた黒風が漢のリーゼントを浮かせた。
    「、ンだ手前ェ!」
     懐を略すは撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)。
     彼は身を低く、腰を低く仁義を切り、
    「お初にお目に掛かりやす。あっしはしがねえチンピラ、シャバゾウ風情でござんす」
    「……そのシャバ僧風情が俺の手ェ止めるたァどういう料簡だ」
     漢は生地の上から拳銃を制す彼の鉤爪を睨めつつ、続く言に判断を委ねる。
    「こちら、腕ッこきを募られておいでなんだとか?」
     耳の早い奴と思ったのも束の間、彼の言に合わせて差し込んだ光影を人影と捉えた時には、傍らの部下の喉仏には【封緋殲装"月”】が突きつけられており――、
    「あ……兄ィ!」
    「喋るな」
     黙って居れば斬れぬ、と冷然を置く――御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)。
     兄と呼ばれた方とて爪先を弾く余裕もない。
    「――! いつの間に背後を……」
    「私は斥候志望です。宜しくお願い致します」
     背に冷たいものを感じたのは、色射・緋頼(生者を護る者・d01617)が解放した【白縫銀手】で、紙一重で肉を刻まぬ切先が、月白の糸を煌かせている。
     緋色の双月が時を凍らせれば、漢は嘆息を一つ、
    「……良い呼吸だ。先刻のクズ共はその腕に免じて見逃してやる」
     その奥ではボスと思しきスキンヘッドが、冴撃に挟まれ顰笑を零し、
    「安心しなせェ。わっしは『若いから』『女だから』って理由で不採用にァしねえよ」
     硝子を隔てた黒眼より【夢想橋】と【くま太郎】の出先を見る。
    「年齢不問、雇用の機会に性差なし、と――聞いて安心しました」
    「強いモンを採る、分かりやすくてええやないの」
     共にその衝撃を頬の皮ギリギリで止めてみせる――神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)と荒吹・千鳥(風立ちぬ・d29636)は、虫も殺さぬ佳顔ながら、これまでの抗争で多くの無頼を引き込んだ魔性の女(七不思議使い)達。
     卓抜の技量を器量と認めたボスが窃笑した、その時。
    「ん、まにあった! セーフ!」
     軽やかな足取りと莞爾が緊迫を殺した。
    「ゆめはでっかく、えりーとこーす採用!」
     ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)である。
     その頬に走る糊の跡は、決して図工をしてきたからではなく、事前に周辺のパチンコ店を巡り、高設定イベントを催す店の広告を、この店の出入口の両端に貼り終えてきた――謂わば『工作』をして来たからだ。
     今頃、一般人の避難誘導にあたるマキノは、客入りの少なさに驚嘆している事だろう。
     無論、その周到を認めたのは面接官も同じで、
    「……規格外が多いとはいえ、どいつも有望と見た」
    「そンならお前達の望む通り、面接開始と行こうかッ!」
     ブラックスーツを脱ぎ捨てた漢二人が、剛拳を握り込めて構えた。


    「ちょっっと待ったぁッ!」
    「!?」
     須臾。
     叫声に振り向けば、何処かで見たシルエットが瞳に飛び込む。
    「僕も居るんですけどーーーー? ボッコンボッコンにしてやるんですけどおおおお?」
     戒道・蔵乃祐(聖者の呪い・d06549)だ。
     立派な刺繍を施した虎ジャン(あっ)で威嚇ポーズをキメた彼は、向い来る閃拳に超速パンチを撃ち返し、敵の脚を止める。
    「戒道の兄さん!」
    「ピザの人!」
     頼もしい援軍に力を得た一同は、凶相を剥く面接官に雄渾と正対し、
    「採用通知勝ち取ってみせます! ――『絶対に』」
    『オイデマセ、我ガ愛シキ眷属達! サァ、アソビマショ!』
     静と雛は殲術道具を解放するや、凛冽を覚醒した。
     殺意の波動は黒檻を成して周囲を取り囲み、更に緋頼が音を遮蔽すれば、立派な軍庭――面接会場が整えられる。
    「でも、これって寧ろ実技試験よね」
     大学生として就活への関心が募りつつある彼女がふと言ちれば、白焔は声だけを置き、
    「卓で語るより早く済む」
     絶影の機動で黒刃を疾走らせ、突き出る拳に血を躍らせた。
    「ッ、!」
     所属は暗殺部かと、痛撃より適性を見るは職業病。
     続く言葉も定番といえよう、
    「一人ずつ、志望動機を言って貰うッ!」
     紫電を宿す拳は熾烈だが、其を撓やかな帯の延伸に絡め取る鈴音も見所がある。
    「御社へ応募した理由は、将来に役立つスキルを磨く為です(七不思議とりにきました)」
    「ほう……」
     ギチギチと噛む抗衡に、やや本音がチラつくが、至極丁寧な回答。
     彼女に続いた娑婆蔵は、声遣いこそ与太染みているものの、鷹眼は鋭く、
    「まともな学も無し、真っ当な仕事はとうに諦めておりやしたから、此度は渡りに船でさァ」
    「く、ぬぬぬぬぬ」
     サングラスの男に匕首を握らせ、刃と刃の角逐を見事に凌いだ。
     侠譚『カンカンファイナンス』を紡いだ千鳥は、嘗ての仲間を見せて敵を驚かせ、
    「っ、お前達は……!」
    「何事にも臆さず積極的に行きます(敵にビビらず積極的に潰します)」
     彼等に取り立て(攻撃)させるとは皮肉が利いている。
     最年少の侠客ファムは、斯くして毒された創痍に怒りを塗り込めると、
    「ここのルールを作るのはアナタ。でもシハイするの……アタシだよ」
    「グッッ!」
     人が嫌がる事を率先してやりましょう――決して学校では習わぬ狡猾を以て脅かした。
    「良かった。皆、面接官と互角に渡り合ってる」
     一般人の避難を終えてマキノが戻れば、一同は実にイキイキと面接に臨んでおり、
    「うおお嗚嗚嗚嗚っっっ!」
    「どぅりゃああああっっっ!」
     溌溂たる声が碧落を裂く。
    「頑張って内定を貰いましょう」
     彼女は組長より受け取った指示を反芻しつつ、煌矢を番えた。

     唯、敵も多くの猛者を引き込んできた矜持がある。
    「兵隊を差配する人事が、奴等より弱いと思うてかァ!」
    「、ッ」
     二丁拳銃の斉射に一同を退かせた面接官らは、爆煙を潜って吶喊すると、拳のラッシュに皆を組み伏せた。
    「もっとアピールしろ! もっとだ!」
    「ッッ!」
     其は期待であろう。
     均整の取れた布陣、全員が感情の絆を繋いで得た俊敏な立ち回り。殺伐たる戦場を作り上げた運びも申し分なく――優秀な彼等に欲が出たか、連中は物理的圧迫面接に間隙を許さない。
    「最高の逸材だと示してみろ!」
     そして、このプレッシャーに相応の武を以て応えるのが彼等であり、
    「よござんす!」
     リーゼントの抜身に光刃を合わせた娑婆蔵が、十字を結んで相克を成せば、隣ではグラサン漢の驀進を止めた静が、体張って自己PR。
    「体力は有り余ってるんで、カチコミとかできます!」
     墜下した【オトナシ】が超重力に挙措を奪えば、
    「走り手たち2000、圧し迫るものにただ突き進みなさい!」
    「ッ!」
     踏み留まった敵の右脇を風の魔弾が食い破る。
    「ひよひよ、いって!」
    「鈴音の風、追ってみせるわ」
     コクリと頷肯いた緋頼は、親友が描いた軌跡を追尾して懐に潜り、醜く屠られた深傷を業炎に灼く。
    「ぐっ、ああア!」
    「フフ、姿勢が曲がっていましてよ、操り人形さん?」
     粗相は許さぬと魁偉を正すは雛の操糸『ドールズウォー』。
     四肢に巡らせた糸は、意思をも縛って躯を差し出し、
    「和を重んじ、チームワークで事に当たります(仲間との連携で確実に叩き潰します)」
    「ガッ、ハッッ!」
     何と実のある台詞か。
     連携を繋ぐこと六連鎖目の千鳥は、その華奢には似合わぬ大槌を振り抜き、敵のサングラスごと自販機に叩きつける。
    「ッ畜生!」
     大量の缶の中から起き上がった躯は、ここぞと白焔の蹴撃に捕まり、
    「缶は後で片付ける」
     今は――と、手早く始末された。
    「サブ!!」
     兄貴分のリーゼントはギリと歯切りすると、眼を蒼鷹の如くして刀を振り被る。
     獰猛なる刃撃が鮮血を屠るかという時――!
    「顔はやめなよボディ! ボディ!」
     蔵乃祐が。
    「えいしゃッ! えいしゃッ! えいしゃオラアアア! オラアアアアンアンアンアン!」
     蔵乃祐が。
     執拗に膝蹴りを叩き込んだ。
     やんちゃなファムは之に触発されたか、【ファムのトーテムポール】を手に飛び掛かり、
    「アタシも、採用通知とタマ、もらっちゃう!」
     大人の階段の第一歩として、全身全霊全力前進のメッタ打ち。
    「い痛ががが痛がががああ嗚呼ああ痛んんんん!!!」
     マキノが二人に届けたダイダロス的バンデージにじっとりと血が滲んだ頃――、
    「――そこまでだ。ジローはもう逝っとる」
     硬い低音が凄まじき殴打を止めた。
    「んん?」
     振り向けば、遂にボス格のスキンヘッドが前に踏み出で、
    「全員採用!!」
     と、蒼穹を震わせた。


    「漢組が人を集めてるなんて、何かあると思ったけど」
     ――組を割る。
     その言葉に宿敵『漢組』の激動を感じた鈴音は、群雄割拠――ヤクザも戦国時代に突入したかと戒心を走らせた。
    「近頃、シノギが敵対組織に切り崩されていてな。内部も揺れとんのじゃ」
    「そ、そっか……それは災難やな」
     眼鏡を押し上げて言う禿頭に、千鳥(敵対組織の一員)は瞳を泳がせて労う。
    「単に組員を集め、資金を増やす訳でもなし」
    「精鋭を募るとは――戦争でも始めるつもりですか?」
     白焔が炯眼を注ぐと、言を継いだ緋頼は敵の思惑を見抜き、
    「それって、ゲコクジョー?」
    「……わっし等は次の組長にゃついていけねェ」
     小首を傾げるファムに、禿頭が吐き捨てる様に言えば、膝を真っ赤に染めた蔵乃祐が近々起きる組長の交代を読む。
     静は漸う激化する分裂と淘汰、その殺伐たる空気に触れつつ、
    (「……裏の世界に踏み込んじゃった感ある」)
     と思っていた処、
    「然し、お前達が加われば頼もしい」
     ボスは彼に力強い首肯を添え、懐から携帯を取り出した。
    「補佐ァ、此度の面接で……」
     上役に報告せんと口を開いた――その時。
     繋いだ回線が奪われる。
    「ッ! んん? もしもし!?」
    「フフ……内定は辞退致しますわ、マジェスティ!」
     見れば疾風と翔けたボンボンが端末を咥え、噛み砕き――主の雛は瑰麗の微笑。
     濃灰の舗装路に散る破片を見た一同も、相貌は泰然として、
    「貴様ら、どういう事だ!」
    「言ったじゃァありやせんか、あっしはシャバゾウだと」
     そう発する彼の代紋に気付いた時には、遅い。
    「……シャバ、ゾウ……まさか『撫桐』の……!」
     赫眼をクッと細めた男は、「応とも」と口角を持ち上げると、
    「撫桐組組長、撫桐娑婆蔵たァあっしのことでござんす!」
     覇気漲る声に続き、組員が一斉に身を翻した。

     傘下には加わらない。分裂にも手を貸さない。
     首を狙うなら己が手で――と、剣戟に示すが『撫桐組』。
     先ずは雛が切り込み、
    「数々の荒事を潜り抜けてきた身、お確かめを」
    「――ッ!」
     漆黒の道化面に白皙を隠した少女人形は、惨憺たる戦舞台を踊る踊る。
     ムーランルージュが紅く赫く血煙を上げれば、緋頼は地に氷柱を疾駆させて精彩を増し、
    「わたしのアピールポイントは、先を読んだ動きと協調性です」
     天は赤く、地は蒼白く。
     見事な呼吸力で己が才を知らしめた。
    「やらいでかァ!」
     機動の要、腱を貫こうとする氷の楔を叩き折った兇暴は、反撃に颶風を巻き起こすも、彼女の美しき雪肌を傷付けるには至らない。
    「通すものか」
    「ッッ!」
     彼女を狙うなら、先ずは白焔を超えねばならぬか――逆旋回する螺旋に相殺された風は、波動となって戦場を突き上げる。
     其が爽風と流れる前に、十字碑を構えた鈴音は終始礼儀正しく、
    「若輩者の私ですが、精一杯頑張ります(七不思議うまってないからうめたいです)」
    「ッッ、ぐッ……ッッッ!!」
     魔砲と魔弾のダブルをキメて、巨躯を弾き飛ばした。
     無骨なブロック塀に打ち付けられるか――直前で踏み止まった魁偉は拳を突き出し、
    「牙剥く犬は要らねェ! 此処で始末させて貰う!」
    「っ、さすが本職! でも僕だって負けてませんから!」
     狂邪を邀撃した静は、我が身を楯に驀進を止め、自陣の瓦解を防いだ。
     己が血が敵の血と混ざり、滴って――その視界は真紅に染まって久しい。
     敵の革靴がベタリ地についた瞬間を狙った蔵乃祐は、
    「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ……うッらあああああ!」
    「! 貴様ァ!」
    「今だぁ! 俺に構わずやれええうがあああああ!!」
     背後から羽交い絞め!
     次手のファム(ノリが良い)は之に躊躇い無く黙示録砲を放ち、
    「おんどれのオトコ、みせてもらったー!」(劇画調)
    「うがぁあ嗚呼ッ!!」
    「ぎゃあああああ!!」
     胴を貫く。
     流石に五臓を灼けば凶暴も斃れるか――否、漢もまたド根性を見せ、
    「貴様らが撫桐組と判った以上、相撃ち覚悟で殺す!」
     エクスブレインの予測を超える七不思議『広島抗争』の毒に少女を転がした。
    「そんな……アタシ、マダマダだった!」(がくり)
    「ファムのお嬢!」
    「蔵乃祐先輩も、しっかり!」
     直ぐ様マキノが回復に出るが、二人を地に沈めた代償は余りに大きい。
    「漢組だろうと他勢力を名乗ろうと、撫桐組に手ェ出したモンが通る道は同じでさァ」
    「組を割ろうって大それた野望を抱えるくらいだから、覚悟はできとるやろね」
     声が、闘志が、殺気が重なる。
     攻撃の精度を極限まで高めた娑婆蔵と千鳥は、双翼を成す飛燕の如く――右に神速の斬撃を、左に鬼神の爪撃を挟み、
    「ッッ……やっぱりお前達は不採用だ……!!!」
     哀れ面接官は、究極のカウンター『内定蹴り』に黄泉路へと送られた。


    「数は少ない分腕っ節あるようやし、男衆の上役、荒吹組幹部っちゅうのもエエかな」
     此度の始末は千鳥がつける。
     またも都市伝説を蒐集し、敵勢を切り崩すと同時に自勢力へ組み込めば、彼女達が組を割ったようなもの。
    「実際に面接していたのは、こっちだったという事になるのかしらねこれ」
     片棒を担ぐ鈴音は、抗争の度に極道の女として格を上げ、勢力図を塗り替えていく身に苦笑を零した。
    「連中の話では、『漢組』内部に離反者が居るようだったが――荒れるか」
     約束通り大量に排出された缶を片付けつつ、白焔が今回得た情報を整理すると、
    「抗争が激化すれば、まさか街の界隈で銃声が響くなんて事は……」
     桜脣に細指を宛てた緋頼が蛾眉を顰める。
     ラップ音一つで噂が立つとなれば、今後は忙しくなりそうだ。
    「どんな悪漢が来ようとも、撫桐組に敵はありませんわよ」
     雛は嫣然を零したが、己が膝で休む可憐が漸う瞼を持ち上げれば、素の心配性が現れ、
    「ファム!」
     ぱちりと開いた瞳に安堵の吐息。
     そっと身を起こした少女は逞しく、
    「うーん。ラジオウェーブ、おそるべし!」
     周到にキャスター対策をしたつもりが、敵のズルさが上回ったと悔しさを滲ませ――その花顔が一同を自ずと綻ばせた。
     さて、その少女に死の一撃を喰らった蔵乃祐はというと、
    「仏が見えるという事は……ここが浄土……」
    「現世よ」
     仏像の膝からむくり起き上がり、黄泉がえり。
    「お誕生日……おめでとう……ゲホッ」
    「まさか、それを言いに……? また仁義なき闘いに顔を出してくれて嬉しいわ」
     マキノは虎ジャンを掛け直して礼を言ったが、おかしい、刺繍が……増えている……。
    「風峰の兄さんも中々のメンチの切り様でござんした!」
    「最後は不合格になってしまったけど、圧迫面接も自信がついたよ」
     実際の就活では即落ちしそうな技術を習得した彼は、傍らの娑婆蔵につられて解顔し、
    「就活じゃ桜は開きやせんでしたが、落し所が着いたとなれば、花見でも行きやせんか?」
    「賛成!」
    「同道しよう」
    「ハナミ、行くー!」
     長~い道草に付き合い、皆々で制勝を味わったという――何とも穏やかな仕儀であった。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年3月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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