●静岡県某所
自殺の名所として、知られた崖がある。
この崖は大変に見晴らしがよく、天気が良い日には富士山も見えるのため、地元で観光スポットにする計画があったのだが、自殺の名所として知られていたせいで、企画が頓挫していたらしい。
そのイメージを払拭するため、『天国に一番近い場所』と言うキャッチフレーズで売り出し始めたようである。
しかし、自殺志願者達は『ここで死ねば天国に行ける』と勘違いしてしまい、余計にここで命を落とす者が増えてしまったらしい。
その頃から『天使を見た』という者が現れ、やがて都市伝説が生まれてしまったようである。
「天国へと誘う天使……か」
複雑な気持ちになりながら、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明する。
今回、倒すべき相手は、天使の姿をした都市伝説。
分かりやすくイメージすると、小悪魔系のショタボーイって感じだ。
天使なのに、小悪魔って……というツッコミはなし。
こいつが自殺志願者の耳元で『ねえ、早く死のう。天国に行ったら、綺麗なお姉さんと、あんな事や、こんな事まで出来ちゃうよ。さぁ、パラダイスにダイブしよう』と言った感じで、悪魔の囁きをするらしい。
おそらく、お前が行く頃には斉藤さん(定年間近でリストラされ、妻のホスト通いをするために、今まで貯めた金を使い込まれていた発覚。おまけに多額の借金まで……。それに気づいた時には、妻がホストと駆け落ち)が自殺する寸前だ。
早く説得しないと、そのままダイブしてしまう。
ちなみに、斉藤さんは物凄く後ろ向きな性格で、『よし、死のう。来世で再チャレンジ!』が口癖だ。
それと都市伝説はすばしっこい上に、弓を射って攻撃してくるから、くれぐれも気を付けてくれ。
参加者 | |
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外道院・悲鳴(千紅万紫・d00007) |
王華・道家(ストレンジピエロ・d02342) |
八嶋・源一郎(春風駘蕩・d03269) |
藤堂・朱美(小学生ファイアブラッド・d03640) |
桃野・実(瀬戸の兵・d03786) |
ヴァーリ・シトゥルス(バケツの底は宇宙の真理・d04731) |
花祈・葬(終わり亡き冬花・d08275) |
嘉山・紡祇(夢の囚人・d10103) |
●天国にいちばん近い崖
「パラダイス♪ パラダイス♪ 綺麗なお姉さんとキャッキャウフフ☆」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、王華・道家(ストレンジピエロ・d02342)が都市伝説の確認された崖に向かう。
その途端、道家の視界に入ってきたのは、今にも崖下にダイブしそうな斉藤さんの姿……。
「ねえ、おじさん、どうしたの? 顔色悪いよ」
心配した様子で斉藤さんに駆け寄り、藤堂・朱美(小学生ファイアブラッド・d03640)が声をかける。
それに気づいた斉藤さんが自分の身に降りかかった不幸な出来事を事細かに説明し始めた。
おそらく、誰かに聞いてほしくて仕方がなかったのだろう。
頭の中で何度も繰り返し練習していたかのように、言葉が次から次へと溢れ出す。
それだけ、辛い思いをしていたのかも知れない。
だが、あまりにも話が長かったせいで、『これじゃあ、奥さんや子供に愛想を尽かされても無理がないかも』と思えてしまうところが、悲しいところ。
しかも、その事に本人が全く気付いていないため、色々な意味で可愛そうになってきた。
「……たくっ! 頭が痛くなる話だな。自殺で天国に行けるって宗教をやってる人が聞いたら、間違いなく怒るぞ」
呆れた様子で頭を抱え、桃野・実(瀬戸の兵・d03786)が溜息をもらす。
だが、自暴自棄になっている斉藤さんからすれば、そんな事はどうでもいいと思っているのだろう。
「人生なんてどこからでもリスタートできる。どうせ死ぬなら、やれる事を全部やってみてからでも、遅くはないと思うけど?」
斉藤さんに語りかけながら、嘉山・紡祇(夢の囚人・d10103)が少しずつ距離を縮めていく。
その途端、物陰から都市伝説が現れ、『騙されちゃダメだよ。アイツらは奥さんの依頼でここに来た小悪党。斉藤さんが自殺したら、保険金が下りなくなるから、必死に止めているだけ』と余計な事を言い始めた。
「やれやれ、庶民は色々と大変じゃのう……。じゃが、こうして行き会ったにも関わらず、死なせてしまうのも忍びない。妾達の力で助けてやるか」
生暖かい視線を斉藤さん達に送り、外道院・悲鳴(千紅万紫・d00007)が溜息をもらす。
それに気付いた斉藤さんが『それ以上近づいたら、死ぬぞ!』と騒ぐ。
「まあ、説得するのは、アレを片づけてからでも、遅くはあるまい」
含みのある笑みを浮かべ、八嶋・源一郎(春風駘蕩・d03269)が魂鎮めの風を使う。
次の瞬間、斉藤さんが深い眠りにつき、その場に崩れ落ちるようにして座り込む。
「天使なのに悪魔の囁きをするとは許しませんよー。バケツ神さまに代わってお仕置きです!!」
都市伝説をビシィッと指差し、ヴァーリ・シトゥルス(バケツの底は宇宙の真理・d04731)が叫ぶ。
一瞬、『天使なのに、小悪魔とは、これいかに……』と思ったが、きっと気にしたら負けなのだろう。
ヴァーリもよくバケツを被っている理由を聞かれるが、それと同じくらい気にしたらダメなのである、きっと……。
「天使のような悪魔の笑顔、トハよくいったものですネ。唆しテ殺す、なんてそんな都市伝説ハいりまセン。逆に帰ってもらいましょうカ。サア、冬ノ花を咲かせテ葬られまショウ」
クスクスと笑いながら、花祈・葬(終わり亡き冬花・d08275)がスレイヤーカードを解除する。
しかし、都市伝説は『やれるものならやってみな!』と葬の事を挑発し、『あっかんべー』と舌を出した。
●都市伝説
「それにしても、随分と小憎らしい面構えじゃのう。じゃが、その中に可愛らしさが見え隠れしている故に、惹かれるものがいるのかも知れん。まあ、誘う場所が天国ではなく、地獄なのじゃから容赦は出来ぬが……」
ぱちりと扇子を閉じて帯に差し、悲鳴が勢いよく神薙刃を飛ばす。
それに気づいた都市伝説が『へへん、こっちだよぉん』と言って、ピョンピョンと飛び回る。
「さぁ、キミを連れて行くYO! 天国という名の地獄へNE☆」
すぐさまライドキャリバーに飛び乗り、道家が都市伝説に突っ込んで行く。
しかし、都市伝説がいるのは、崖の上。
油断すれば、そのまま崖下に真っ逆さま。
生と死の狭間での駆け引き。
それでも、都市伝説は怯む事無く、道家を崖下に落とす勢いで飛び回る。
「すばしっこい分、まわりが見えなくなっているようじゃな」
都市伝説の死角に回り込み、源一郎が縛霊撃を炸裂させた。
次の瞬間、都市伝説が慌てた様子で攻撃を避けたが、油断していたせいで動くのが遅れ、バランスを崩して膝をつく。
「頼むぞクロ助」
霊犬のクロ助に合図を送りつつ、実が斬魔刀を都市伝説に振り下ろす。
その攻撃を避けるようにして横に跳んだが、そこに待ち構えていたクロが飛び掛かるようにして、都市伝説の喉元にガブリと喰らいつく。
「この状況で、私に出来る事は、ただ一つ。近づいて、殴る! さー、どんどんいくよー!」
都市伝説の顔面めがけて、朱美が何度も拳を放っていく。
そのため、都市伝説が『顔はやめて!』と叫んだが、朱美の耳には届いていない。
聞こえているのは、骨の砕ける音と、都市伝説の……悲鳴!
「……あれ? 何だか私達の方が悪役みたいですね。でも、バケツ神と常にある私が悪なわけありません。人を追い詰める偽天使=悪を退治してる私たちこそ正義です。これを機に、いかがですか? 今なら素敵なバケツ付きバケツ教。入信すれば隔たれた世界でニューライフ!」
霊犬ポリと一緒に攻撃しつつ、ヴァーリが都市伝説を勧誘する。
だが、都市伝説が『今はそういう状況じゃないだろ』とツッコミを入れてきたため、その言葉に甘えてフルボッコを再開した。
「フフフフ、アハハッハハハハ♪ 壊れてしまえバ、イイノデスヨ。さぁ、貴方も踊りまショウ? ワタシハ死神、デスヨ」
高笑いを響かせながら、葬が大鎌をブンブンと振り回す。
それに気づいた都市伝説が背中を向けたが、葬は気にせず大鎌を振るって肉を削ぎ落としていく。
「そろそろ、お迎えが来る頃ですよ」
都市伝説に優しく語りかけ、紡祇が制約の弾丸を撃ち込んだ。
次の瞬間、都市伝説の動きが制限され、そのまま崖から落ちて断末魔が響き渡る。
そして、都市伝説が砕け散るようにして、跡形もなく消滅した。
塵ひとつ、残さずに……。
●斉藤さん
「……」
そっと崖下を眺め、紡祇が複雑な気持ちになった。
都市伝説によって、奪われた命は数知れず。
その都市伝説身も最後は同じ場所で命を落とした。
これもある意味、運命なのかも知れない。
もちろん、都市伝説自身がそれを望んでいたのか、定かではないが……。
「それにしても……、ほんとにいい眺め。天国に近いっていうのもほんとかも。この奇麗な景色をみて思い直してくれればいいのにな」
マジマジと崖下を覗き込み、朱美が深い溜息を漏らす。
だが、ジーッと見ていると、吸い込まれてしまうような錯覚を受ける。
しかも、その横には今にも飛び降りそうな勢いの斉藤さんが……!
「……あっ! 斉藤さんの事、忘れてた!?」
ハッとした表情を浮かべ、ヴァーリが斉藤さんに駆け寄ろうとした。
だが、斉藤さんは『それ以上、近づくなァ!』と涙目になって叫ぶ。
もちろん、それは『止めてくれ!』という気持ちの裏返し。
「自殺、なんて悲しい事、しちゃダメデスヨ。人生、なにがあるかワカリマセンから」
斉藤さんに語りかけながら、葬が徐々に距離を縮めていく。
それに気づいた斉藤さんが『いいのか、落ちるぞ、おい!』と言って、自分自身を追い詰めていった。
「来世の前にまずは現世、生きて再チャレンジだYO!」
『怖くない、怖くない』とばかりに両手を開き、道家が斉藤さんの注意を引きつける。
「正直、説得とか苦手なのじゃが……」
困った様子で頬を掻き、源一郎が魂鎮めの風を使う。
つい、うっかり……。
しかし、このまま説得を続けたとしても、飛び降りる時間を長引かせる効果しかなかったのも、また事実……。
「確かに、どう説得しろって話だよな。借金は弁護士、あと役場の生活相談員に相談するくらいしか浮かばねえ……。まあ、ここで死んでも天国になんか行かねえが……。でも、そんな事をしたって、奥さんが喜ぶだけなんだがなぁ」
斉藤さんに視線を送り、実が困った様子で頭を抱える。
「まぁ、ちと考えがある。これで自殺を考える事もないじゃろ」
『すまあとほん』を手に取り、悲鳴がどこかに電話をする。
それは、斉藤さんの借金をする電話……。
実際に、それでチヤラになるか分からないが、これで少しは斉藤さんも考えを改める事だろう。
少なくとも、今よりもマシになるはずだ。
今よりも幸せな人生を斉藤さんが歩める事を祈りつつ、悲鳴達はその場を後にするのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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