老紳士は捲らない

    作者:聖山葵

    「なっ」
     少年は瞠目した。早い、何てモノではなかった。ただ、すれ違っただけにしか見えなかったのだ。なのに、何故頭が生暖かい。震える手を頭にもっていけば、そこには布の間食。
    「嘘、だろ……地区予選決勝二年連続出場のこの俺が……一瞬で、パンツをかぶせられた?」
     愕然とする少年にかぶせられたパンツの持ち主こと東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)がうみゃぁぁぁぁといつものように悲鳴をあげている中。
    「やれやれ、この程度で満足してはいけませんな」
     スカートを捲らず桜花のパンツだけを脱がしたシルクハットをかぶり燕尾服を身につけた変態という名の老紳士は片眼鏡の位置を調整すると、どこかに歩み去ったのだった。

    「それは大変でしたね」
     話を聞いた倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)は何故か水着姿の桜花の話に真顔で同情を寄せると、話の先を促した。
    「うん。それでね、あたしが遭遇したのは都市伝説『スカートを捲らずにパンツだけを脱がす老紳士』だと思うんだ」
     何でもそれはスカートを捲らずにパンツだけを脱がす事に固執しその技術を高める為にスカートをはいたと人と出くわすとスカートを捲らずにパンツだけを脱がすことを繰り返しているのだとか。尚、たまたま居合わせた少年がなんかパンツをかぶせられてた理由は不明。何地区予選決勝に二年連続出現していたのかも不明なんだとか。
    「後者はさておき、前者についてはたまたま目撃者が居たからでしょうか?」
     緋那は首をかしげるが、そもそも相手は変態都市伝説だ。行動理由を真面目に考えても時間の無駄だろう。
    「わかんないけど、一度やらかした訳だし、もし今度遭遇した時に場に二人以上の人が居たら――」
     脱がせたパンツを二人目にかぶせてくるということは充分に考えられる。きっと、どこかの自称ごく普通の少年ではなく緋那に桜花が話を持っていった理由の一つがそこにあるのかもしれない。そう言う意味でも現場での人避け用ESPは用意していった方が良いと思われる。
    「とにかく、このままにはしておけないし」
     第二第三の犠牲者が出る前に討伐すべきと君達を呼び集めた桜花の判断はたぶん正しい。出没する場所は元となる噂からだいたい絞り込めるそうで、誰か一人がスカートとパンツをはいて出没予想地点をうろつけば、変態都市伝説はおそらく姿を見せるだろう。上手くおびき出せたなら、後は皆でよってたかってボコボコにしてやればいい。
    「それで、戦いになった時どのようなことをしてくるかはわかるのですか?」
    「あー、うん。袖口から一瞬だけ、影みたいなモノが覗いてるのは見えたから」
     推定、影業のサイキックを使ってくるのではないかとのこと。どうやら何も出来ずパンツを脱がされた訳ではなかったらしい。
    「夜、暗くなってたけど明かりはあったし」
     もっとも、女性が暗い夜道を歩けないと言う状況はいただけない。
    「あたしはたまたま水着を持ってたからこの程度で済んだけど」
     世の女性が全員たまたま水着を持っていると限らない。
    「……一応、ツッコんでおいた方が良かったのでしょうか?」
     だから協力して欲しいという桜花を眺めつつ、緋那は首をかしげた。


    参加者
    深杜・ビアンカ(虹色ラプソディア・d01188)
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    秋風・紅葉(女子大生は大人の魅力・d03937)
    綾瀬・一美(蒼翼の歌い手・d04463)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    二階堂・薫子(揺蕩う純真・d14471)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    東雲・蓮華(ホワイトドロップ・d20909)

    ■リプレイ

    ●悲しみの先に
    「なーんか最近、この手の事件に巻き込まれること多い気がするのよね……」
     星空を仰ぎ、深杜・ビアンカ(虹色ラプソディア・d01188)は呟いた。
    「何で毎回こういった都市伝説生まれるんでしょうか……今回こそ被害にあわなければいいのですが……」
     フラグにしか聞こえない独り言に今度こそと言う単語がかいま見える辺り、その手の事件に巻き込まれることにおいて東雲・蓮華(ホワイトドロップ・d20909)も似通った状況にあるのだろう。ただ、今回変態都市伝説の話を持ってきたのは二人のどちらでもなく。
    (「桜花さんはこういうのに会う宿命でも背負ってらっしゃるんですの……?」)
     二階堂・薫子(揺蕩う純真・d14471)の目は無言のままに情報提供者である東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)に向けられていた。
    「あたしのぱんつ……持ってかれたまま……」
     その桜花は、悲しみを言葉の形で漏らしながら一同の先頭を行く。
    「……でも一度とられたから、もうとられないと思う、多分っ」
     さぞやショックだったのかと思いきや、顔を上げてフラグ構築に抜かりのない辺り、桜花は桜花であった。
    「下着を盗られるのは桜花ちゃんだから仕方ないよねー」
     と、生温かい目を秋風・紅葉(女子大生は大人の魅力・d03937)が注いでいたかは定かでないが。
    「はわ、桜花さんのぱんつを取り戻しませんとですね」
    「そ、そうね。なにはともあれ、桜花ちゃんのおぱんつ、取り返さないとねっ!」
     そして、綾瀬・一美(蒼翼の歌い手・d04463)とビアンカが目的の一致を見る中。
    (「まさか闇堕ちからの復帰戦がこのような依頼になろうとは」)
     姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)は色々と気をつけねばなりませんねと言いつつも、どことなく心ここにあらずという態で嘆息し。
    「え? スカートなので私も狙われます? まさか……?」
     桜花と張り合う様な勢いでフラグを押っ立てる黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)はビハインドのアリカに大丈夫ですよとかぶりを振る。まぁ、被害者になることを競い合う様にフラグを立てている他の面々を見たのだ、気が緩んでしまうのは無類も無いことなのかも知れないが。
    「何にしても、現地に赴かねばどうしようもありませんね。問題の場所は近いのでしょうか?」
    「えっ? あ、うん。思い出したくもないけど、見覚えのある道だし、このまままっすぐ」
     務めて平静な様子で倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)に尋ねられた桜花は我に返るとちょっと苦みのある笑みを顔に貼り付けて道の先を示し。
    「……蔓お姉ちゃんが、蓮華お姉ちゃんから、離れた場所で待機って……言ってた、けど……なんでだろう……?」
     ブツブツ呟き首を傾げてついてくるのは、応援の灼滅者の一人か。
    「薫子お姉ちゃんの手伝いに来たよ」
     と現れた悠樹と姫条先輩が心配で来たよと参加理由を明かす義人を含めれば灼滅者だけで総勢十二名。もちろん、それは油断して良い理由にはならない。
    (「ゆーき君もいることですしちゃんとした物を履いてきてはいるんですけど、できれば履いたままで済みたいですの……」)
     むしろ、懸念への憂いを胸中に隠し、薫子はちらりと後方を振り返る。惨事を避けたいという気持ちは、おそらく全員が共通だろう。
    「そろそろなの?」
    「えっと、そう。みんな気をつけておいてね」
     誰かの漏らした問いに発された警告の声は、幾人かの表情を引き締めさせ。
    「ほっほっほっほっほ……」
     そは、灼滅者達の行く手に現れた。

    ●たたかい
    「はわっ! あなたが例の紳士さんですの!」
     薫子が視線と声をぶつけても、何ら反応を返さず老紳士の都市伝説はただ笑って佇んでいた。
    「こらあぁぁぁぁ! この変態紳士、桜花ちゃんのおぱんつを返しなさーい!」
    「ごきげんよう、月の綺麗な夜ですな」
     その上で、向けられたビアンカの言葉を無視する様にしてシルクハットをとり、優雅に一礼さえしてみせる。
    「こう、典型的な人の話を聞かないタイプだよねー」
     それが噂由来のモノなのか、どうかは定かでない。紅葉の視界の中で、老紳士はシルクハットを被り直し。
    「この都市伝説は下着脱がしのプロだとか……、えーと何がしたいんですか?」
     一美の問いにも全く反応がないかと思いきや。
    「おぱんつを脱がしたいのです」
     そは答えた。直球で酷い答えだった。
    「っ」
     もうこの時点で人払いは済まされていたが、犯行予告とも取れる願望のカミングアウトを変態がした時点で灼滅者達の警戒は嫌が応にも高められ。
    「やあっ」
     先陣を切ったのは、誰だったか。だが何人かは理解する。もはや、老紳士が都市伝説なのは明らか、脱がされる前に倒してしまえばいいのだと。
    「ミニスカで戦うのは慣れてるけど、いつもより気にしちゃうよね」
     ちらっと視線を下にやった紅葉はすぐに視線を前に戻す。
    「そげぶっ」
     丁度流星の煌めきを宿した跳び蹴りがめり込んだ都市伝説が身体をくの字に折ったところであり。
    「蓮華」
    「はいっ」
    「があっ」
     桜花の声に応じた蓮華の放つ鋭い裁きの光条が貫く。親友同士らしい息のあったコンビネーションであった、が。
    「嘘……桜花ちゃんがまともに戦っててとらぶるもないなんて!」
    「ちょっと、紅葉ぃ?!」
     信じられないモノを見たと言った表情の紅葉に思わず桜花は叫んだ。まぁ、ある意味仕方ない。
    「それはそれとして、追撃のチャンスですの! ちょっと頑張っちゃいますの!」
     ただ、標的が連続攻撃を喰らった直後が好機なのは確かであり、可愛い弟分の前であることも相まって薫子はダイダロスベルトを広がる翼の如く全方位に放ち。
    「ってあっ……」
     気づく、下半身の涼しさに。
    「都市伝説からお姉ちゃんを守らなきゃ!」
     と、戦いが始まったことを知覚し、その弟分が前に出ようとしたのも災いしたのか。
    「何か頭に……?」
     庇う様に前に出ながらも全く攻撃が来なかったことに訝しむ暇など無かっただろう。被せられたモノが視界にかかっていたのだから。
    「え、と……これ……お姉ちゃんのぱんつ……?」
    「ゆーきくん……流石にそうまじまじ見られると照れちゃうですの……」
    「あ、ご、ごめんなさい」
     被せられた側の犠牲者が持ち主のスカートと現物とを見比べて顔を真っ赤にしてあたふたする中、灼滅者達に戦慄が走る。
    「今の、見えた?」
    「い、いえ……」
     恐ろしい早さと技巧である。
    「っ、いかな達人であろうと、刹那の隙も見せなければ……」
     ここに来て、流石に心ここに在らずであることは拙いと察したか、険しい表情をしてセカイは身構えるも、遅かった。
    「先輩、危ない!」
    「えっ」
     おそらく、気づいたのは、他の応援の灼滅者同様セカイ自身を庇おうと進み出た誰かの頭に見覚えのあるモノを見つけたからだろう。
    「あら? 心なしか腰の辺りがスースーと。何だか胸の方も開放感が……!!??」
     感覚が追いつく様に目の前の光景を裏付ける。
    「今、何が……?」
     遅れて気づいたセカイの後輩は視界を何かに塞がれたまま何か頭にほかほかとしたものがと手をやるところであり。
    「まさか……先輩の……」
     手に触れたものの感触に顔をひきつらせ、もう一度頭に手をやる。
    「ぱんつ?! ていうか何でブラまで?!今俺どんな格好になってたの?!」
    「良く触っただけでわかりますね」
     硬直赤面するその人には感心した様子の緋那の言葉もおそらくは届いていないだろう。その言動が大好きな先輩の恥ずかしいゲージを猛烈に上昇させていることも。セカイのブラジャーがアイマスクの様に装着されてることを加味すれば少々仕方ないかも知れないが。
    「かっ、返し」
     取り乱し後輩へ詰め寄ろうとする様は、物静かなセカイにしては珍しいものだった。しかし、それが不幸を招き。
    「あ、きゃああっ」
     焦って何かに躓いたセカイは目隠し状態でふらつく後輩を押し倒した。
    「お姉ちゃん、今返すね……」
     一方で、落ち着きを取り戻した悠樹は外したぱんつを薫子へ手渡そうとし。
    「ありがとうです……のっ!?」
     新たな事件はこの時起きた。少し照れつつも近寄って下着を受け取ろうとした薫子が足を取られて盛大にすっころんだのだ。
    「あうぅ……」
     呻きつつ身を起こすも、現実は非情。
    「見ちゃった……」
    「もうだめですの……お嫁に行けませんの……」
     膝たけのスカートがひっくり返り、丸出しの下半身を目撃したことを雄弁に物語る弟分の赤い顔にトドメを刺されてショックでぶっ倒れ。
    「はわ?! みなさ、ひゃうっ」
     油断していた一美が惨劇に気付き声を発した時には、もう遅い。青い下着が宙に舞っていたのだ。

    ●まともな戦闘なんて諦めた
    「はわわ~らめぇ~」
     懇願も虚しく、宙に奪われたおぱんつは一美が手を伸ばす前にかき消え。
    「え? あ、下半身が寒い! って、ことは――」
     一瞬呆然としてから顔をひきつらせ、紅葉は視線を下げてゆき。
    「ふふん、私から奪ったぱんつはフェイクよ。ほら、このとおり」
     その一方で下着の感触が感じられなくなったビアンカは得意げにスカートをまくり、水着姿を晒す。
    「ほう、ですがならばこれは……」
    「……って、それはパパのぱんつ!?」
     もっとも、ビアンカの余裕が健在だったのは都市伝説がマジマジと手の中のそれを見るまでだったが。
    「なっ」
    「え、ち、違うの! 間違えたの!」
     慌て出すビアンカの前で変態老紳士は驚愕に目を見開き。
    「……あの変態、心なしかショック受けてる?」
    「あなたのお父上はこんなぱんつをはかれるのですか、何という上級的な」
     恐る恐る見やったのは、紅葉の大人っぽいおぱんつだった。
    「それは下着違いじゃな、っ?! スカートの中がすーすーします……」
     勘違いを指摘しようとしたいちごは違和感を覚えて動きを止め。
    「って、なんか頭が生暖かいと思ったら……これ誰のぱんつ!?」
     誤解されたビアンカはいつの間にか頭に被せられたモノに気をとられ。
    「私のパンツはどこに……ビアンカさんが被ってます?! かえしてくださっああっ!!」
     じぶんのおぱんつを見つけたいちごは手を伸ばし、ビアンカへ駆け寄ろうとして石に躓く。いつもの展開であった。
    「わ、いちごセンパイ押し倒さないで! っ、服が、はだけちゃう!」
     人は重力に逆らえない。結局いちごと倒れ込む形になったビアンカは下が見えない様に抑えつつも引っ張られる服の感覚に顔を歪め。
    「あいたたた……ん? 胸、しかも生?!」
     身を起こそうとしたいちごは手の中の柔らかな感触の元を確認したとたん顔色を変える。
    「ご、ごめんなざっ」
     謝罪の言葉は最後まで言えなかった。胸を露出させるどころか揉まれたビアンカが突き飛ばしたのだ、一美の方へ。
    「わぁっ」
    「はわわっ、ちょっ、いちごさんっ、はうんっ」
     ぶつかり、縺れ合う様にしながら転がった二人は一美がいちごの顔を胸に埋める形で止まり。いちごの手は一美のスカートの中へ。
    「これはちょっと想定外ですな。このおぱんつは……まあいい、こうするとしましょう」
     いちごのイツモノは変態老紳士も想定外だったらしく、嘆息すると見えない程の早さで手を動かす。
    「はわ、この……ぱんつ??」
    「あれ? これは……」
     変態におぱんつを被せられた二人は一瞬視線を交差させて固まり。
    「はわ、いちごさん私の~返して~」
    「あ、はい……すみま、あれ? ……まだ頭に被ってる……?」
    「か、返してー!」
     一美の要求に頷いたいちごの頭を見て顔色を変えた紅葉が突撃し、悲劇は再び起きる。
    「はわ、ちょ、はわぁっ」
     勢い余って突撃した紅葉が幾人か巻き込んで派手に転んだのだ。
    「う、これ以上……の」
     トラブルは避けたいと、痛む身体に鞭打って起きあがろうとしたいちごの視界に飛び込んできたのは、脚を広げた誰かの股間が上下に二つ。当然下着は着けていない。
    「はわっ、紅葉さんっ!」
    「痛たた……もうこんなことばっかし! 女の子同士でもちょっとは恥ずかしいんだからね!」
    「はわ~、ごめんなさいっ」
     上擦った一美も声と不満げな紅葉の声で犠牲者が明らかになる中、一美は自分への非難と思ったのか紅葉のましゅまろから手を離し謝罪する。
    「まさに阿鼻叫喚ですね」
     割と冷静な声で現状を現して見せたのは、一美といちごが倒れ込んだ時に実は巻き込まれていた緋那。きっと、いちごにお仕置きを敢行するよと言わんがばかりのアリカも視界に収めての発言なのだろう。
    「転びやすい場所だから……離れた場所で待機って……言ってたのかな?」
     ウサギのぬいぐるみを片手に遠目に灼滅者達が転ぶ様を見ていた梔子は首を傾げる。
    「え?」
     ただ、一連の悲劇に巻き込まれることなく、呆然とするご当地ヒーローも一人居て。
    「どうかされましたかな? 私の望みはおぱんつを脱がせること、水着は専門外ですぞ?」
    「嘘、こんな状況なのに桜花ちゃんが無事なんて! 世界は今日終わるの?!」
    「紅葉ぃぃ?!」
     首を傾げた都市伝説の尤もであり衝撃的な発言に愕然とする仲間の顔を見て、桜花は叫んだ。
    「困りますなぁ、脱がせて欲しいならおぱんつを用意して頂かないと。それとも水着を脱がせて欲しかったのですか? とんだ変態さんですな」
    「何それ、なんであたしが悪いみたいなことにって言うか、こんな都市伝説にドン引きされてるの?!」
     いつもとは経路の違う扱いの酷さに桜花は叫び。
    「はぁ、しかたありませんな……」
    「仕方なくないよ? 嫌ならやら……」
     嘆息する変態に、桜花は最後まで言い切ることは出来なかった。
    「ちょ、お、桜花さんなんで私のパンツ被っているんですか返してくださ……あ、あれ? 私の頭にも違和感が……?」
    「え? 気付いたら、あたしのビキニ、蓮華が被ってるんだけど?! って、あたしも頭に何か生暖かい……これ蓮華の?!」
     言葉の途中で自分に襲いかかる異変に気づいた蓮華の声で変態の所業に気づいた桜花は、一体いつの間にと零す。
    「また今回も全く気付かなかった……」
    「こ、これ桜花さんのビキニですか!? 何でこんな……私変態じゃないのに!?」
     それぞれ異なる理由で憮然とし二人が立ちつくしたのは数秒程。
    「そうですな、変態はどちらかというと水着のお嬢さんの――」
    「とりあえず蓮華、それ返してっ……あ、あにゃぁぁぁ?!」
     頷く変態をスルーして蓮華の元へ行こうとした桜花がつんのめり。
    「って、桜花さんが倒れて……!?」
    「蓮華?! あ、脚が滑ってっ?!」
     助けようとした蓮華は足下の小石を踏んづけ、何とか堪えようとした桜花も踏ん張りが聞かず、両者は縺れ合う様にして転倒した。
    「あいたたた……」
    「いたたたた……あ、アレ……? 手に何か持ってい……お、桜花さん?」
    「って……なんか手が柔らか、い」
     呻きつつ身を起こそうとした二人は、お互いをもっちあ(動詞)するような格好のまま硬直した。赤く染まった互いの顔が近い。ただ、その時間は長く続かなかった。
    「あのー、桜花さんと蓮華さん、下半身丸見えなんですが……」
     恐る恐るといった態でいちごが指摘をしたから。
    「……え? 下……? きゃ、きゃあぁ!? スカート脱げてます!?」
    「え?! にゃあああ?! あたしのスカートも脱げてるぅぅぅ?!」
     下半身すっぽんぽんの二人は仲良く揃って混乱しつつ叫ぶ。
    「お、お姉ちゃん! 僕がお姉ちゃんをお嫁さんに貰うからっ! だ、だからダメとか言わないでっ」
    「はわっ! ゆーきくんが貰ってくれるですの!?」
     もっとも、目撃者はそれ程多くなかったらしい。薫子は弟分と二人の世界に突入していたし。
    「っ、直接はかせようとしなくても、渡してくれれば」
    「せ、先輩、違っ、わぶっ」
     セカイへスカートの中に頭を突っ込んできた意図を勘違いされた義人は誤解を解くべく起きあがろうとし、スカートの布地で支える手を滑らせ、そのままセカイの股間へダイレクトに顔を埋めていたのだから、他者のことを気にするどころではなかったのだ。
    「恥ずかしいことしてくれるんじゃないの! こんの変態くそじじい! あんたも脱がせてやるー!」
     人事どころでなかったのは、都市伝説にも同様。相手にされず呆然としていたところへ急襲し馬乗りなったビアンカへ、襟元と髪を掴まれていたのだから。まさに残酷シーン五秒前である。
    「ひぃぃ、暴力反」
    「もうっ、さっさと灼滅されちゃってください」
     助けを求めようにもこの状況で救いの手など在るはずがない。涙目で咎人の大鎌を担いだ一美は逆にそれを振り下ろし。
    「ふげばっ」
    「おじいちゃんが飛んできた!?」
     始まった制裁の末、吹っ飛んだ変態はもはやパンツを奪う余力もなく梔子に吸収されたのだった。

    ●真実
    「酷い事件でしたね……男の人に、その……」
    「あれ? いちごさんって女性ですよね?」
     老紳士が消え、漸くおぱんつの危機が去り、語尾を濁しつつ漏らした誰かの言葉に紅葉はきょとんとするも、先程のビアンカの凶行を見ていたからか、ガタガタ震えながらアリカにバシバシ叩かれるいちごの紙の様に白い顔は全てを白状していた。
    「さっきの出来事は全て忘れないと酷いからね!」
    「忘れます、忘れますからっ」
     睨み付けて絶叫する紅葉と土下座するいちご。
    「……あたしのぱんつ」
     結局下着を取り戻せなかった桜花は、泣きながら夜空を仰いだ。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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