スサノオのナミダ姫から、武蔵坂学園に協力を願う連絡が来た。
断ったとしても、デメリットは無いものだ。
その内容は、一言でいえば以下のようなものだった。
「『スサノオ大神の張った結界の破壊』だよ!」
天野川・カノン(高校生エクスブレイン・dn0180)の説明によると、ナミダ姫とスサノオ達はガイオウガの灼滅後、日本全国に封じられていたスサノオ大神の力を喰らう旅を続けていたらしい。
一方で、ナミダ姫達の攻撃を受けたスサノオ大神の力は『強いスサノオの力を持つ者の侵入を阻止する結界』を編み出し、自分達の身を守り始めた。
この結界により、スサノオ達が直接、スサノオ大神の力を攻撃する事ができなくなってしまった為、武蔵坂学園の灼滅者に協力を願ってきたということだった。
「スサノオは、たくさんのダークネス組織と協力関係にあるから、ノーライフキングとももちろん友好関係にあるよ」
武蔵坂学園とは前回の援軍で貸し借りなしの状態となっているので、現状でノーライフキングと争うことになれば、スサノオはノーライフキングに味方するだろう。
「今回の協力で、それを阻止できるかもしれないね」
今回依頼があったスサノオ大神は、中国地方のとある鍾乳洞に封じられている。
「現地でスサノオの戦士が二人待っているから、合流してスサノオ大神の所へ向かってね」
スサノオ大神の力の姿は体長7mくらいの、白い炎でできた巨大な狼だ。見た目や能力は狼型のスサノオに酷似している。
スサノオ大神の力にある程度ダメージを与えれば結界は破壊されるので、外で待機しているスサノオ達が戦闘に加われるようになる。
スサノオ達が合流した後は、彼らに任せて撤退しても問題ないが、一緒に肩を並べて戦ってもよいだろう。
「あ、でもスサノオ大神の力を灼滅しちゃったら、協力としては失敗となるから気をつけてね」
鍾乳洞はかなり広く、人も来ない場所なので戦闘は行いやすい。また、このスサノオ大神の力は周囲に光を発しているようなので、戦闘場所での光源も必要ない。
以上はナミダ姫からの情報によるもので、信頼性は高いだろう。
「スサノオ達がノーライフキングの援軍にならないってこと自体も大きいけれど……もしかしたらナミダ姫も、武蔵坂学園と戦わなくて済む理由が欲しかったのかもしれないね」
参加者 | |
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江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437) |
近江谷・由衛(貝砂の器・d02564) |
槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877) |
吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361) |
白金・ジュン(魔法少女少年・d11361) |
月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030) |
雨宮・夜彦(ヴコドラク・d28380) |
陽乃下・鳳花(流れ者・d33801) |
●
それからややして、灼滅者たちの姿は東北の山中にあった。
ナミダ姫からの情報を元に移動するにつれ、人里から離れ道は険しくなっていく。
深い森の、さらに奥深くにある洞穴。やがて見えてきたのはその入り口だった。
「さて、どうなるか」
江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437)の呟きは、傍らで同行する二体のスサノオを見てのものだ。
(「美人の頼みは受けた方がいいと思うんだけどねぇ……」)
――この場に赴いている八人で話し合った結果、スサノオ大神の力は灼滅する方針となっている。
龍一郎としては彼らを騙す行為のようで気乗りしない面もあったが、一方で「スサノオ勢力が過剰な力を手にする」ことの懸念も理解していた。
明確な指揮系統化にある組織と違い、多様な意見を善しとするのが武蔵坂学園の持ち味なのだ。
(「最悪、連戦も覚悟しておくか」)
スサノオの戦士たちから感じる力強さに、龍一郎は拳を握る。
『我らはここまでだ』
スサノオは灼滅者が入口に着いたところで、歩みを止めた。
『大神の力はこのすぐ先。もはや道に迷うことはあるまい』
『我らは結界が消えたと同時に踏み込む』
「そか。案内サンキュー」
雨宮・夜彦(ヴコドラク・d28380)は軽くそう返したが、人狼として心中は複雑だ。
(「やっぱ、どうしても警戒しちゃうよな」)
スサノオには里を滅ぼされた。いつか狙われるかもという思いは消えない。
洞窟に入った夜彦の顔には、スサノオといたことによる緊張の影があった。
「ありがとースサノオくん達」
その一方で、月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は朗らかに手を振って洞穴に入っていった。陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)が小柄な身体を軽やかにひるがえして、最後尾につく。
「結界がなければ、あの二人だけで大神の力を倒せるってコトかな」
奥に向かう道中、まだ入り口の光がかすかに届くというところで、鳳花が呟いた。ほんの少し口角があがっている。
「戦うことになったら覚悟しないとね」
「うーん、騙すようで気が引けるなぁ」
鳳花の言葉に、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が小さな嘆息をこぼす。
「二人とも、発言には気をつけて」
暗にスサノオたちからそれほど離れていないことを示して、吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361)は軽く釘を差した。
「向こうがこちらを信用しているとは限らないからな」
昴は内心、交渉の上手いナミダ姫は警戒が必要と感じている。
「そういう意味ではやりづらい相手だね、スサノオのお姫様は」
玲が相槌を打つ。まだ倒してしまえば良い分、スサノオ大神のほうが分かりやすく、気持ち的には楽に感じる。
「ま、利用しあえばいいよね……お互いに、さ」
「ついた」
先を進んでいた近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)が、気怠げに簡潔な言葉を口にした。
彼女の言った通り、そこから少し進めば道は突然大きく広がる。
そして広々とした空間には、眩いほどに白く燃え盛る炎の塊があった。
スサノオ大神の力だ。灼滅者たちに気付いたのか、七メートルはある巨体を起こし、こちらを睨みつけてくる。
「話の通り、強そうじゃん」
圧してくるような気配に、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)は笑みをもって応じた。すでにその手は内なる力に半獣化し、鋭い銀爪を形作ろうとしている。
スサノオを喰らいたい。
そうした内なる衝動を、康也は自らの戦闘意志を融け合わせていく。
オオオオオオォォォォン――……。
大神の力が咆哮した。巨体を俊敏に動かして接近すると、前足を灼滅者に振り下ろす。轟音と共に飛び散った石塊が回避する灼滅者たちを襲った。
「とにかく、てめーはぶっ飛ばす!」
康也もまた咆哮した。飛んできた岩を蹴り飛ばすと、巨大な足に爪の一撃を叩きこんだ。
●
「マジピュア・ウェイクアップ!」
煌びやかな光に彩られ、ジュンの衣装が魔法少女的なものに変化する。
「希望の戦士、ピュアホワイト! 仲間とともに戦うのみです」
決めポーズをビシッと言い放つジュンに、スサノオ大神の腕が今度は真横に振るわれる。
地面を削りながら迫る大爪に、ピュアホワイトとなったジュンは軽やかに地面を蹴った。
「マジピュア・シューティングスターキック!」
重力を宿した蹴りは腕の上部を直撃し、スサノオ大神の攻撃がその瞬間中断される。
「もう一つ、喰らえ!」
夜彦がすかさず、スターゲイザーを反対側の足に叩きこんだ。苦鳴を漏らして後退するスサノオに、さらに加速して追いついたのは昴だ。
『!!』
すぐさま大神が迎撃の爪を振るうも、昴の歩法は幻惑するように変化し、直撃するはずだった一撃を軽傷にせしめる。
「こちらの番だ」
昴の腰元からほとばしった煌めきは、振るわれた爪と同等の鋭さをたたえている。
刀は死角から大神の後ろ脚を刺し貫き、素早く引き抜きざまの袈裟斬りを放っていった。
「さてゲーム開始だ。遊ぼうか」
体勢の崩れたダークネスに、今度は龍一郎が黒死斬で斬り込む。その背に由衛が矢を放った。癒しの力を宿した矢が龍一郎の感覚を鋭敏化させる。
斬!
一閃が大神の足を切り裂いた。明らかに移動に支障をきたした様子で、スサノオは大きく飛び退る。
オオオオオオォォォォン――……。
その次の咆哮は、大地への怒りの呼びかけだった。
いきなり、地面に亀裂が走った。大地に眠る有形無形の『畏れ』が白き炎となって吹き出すと、次の瞬間には縦横無尽に洞穴内を駆け抜けていく。
「流石にこれはちょっと、いたいかなー……」
畏れの炎は斬撃だった。狙われた玲とライドキャリバーはそのいくつかをサイキックで相殺するが、対応しきれなかったものは容赦なく身体を斬り裂き、傷を焼いていった。口調は軽くとも、玲の顔は苦痛に歪む。
「回復するよ先輩。痛いのは少し我慢だね」
「ありがと」
鳳花のダイダロスベルトが伸び、玲の傷を塞いでいった。全ては癒せないが、それでも和らぐ痛みに玲は残る傷口から炎を噴出させた。エアシューズを始め、彼女の武器が炎を纏う。
「直撃に注意、だな」
範囲は狭いが重い攻撃を行うスサノオに対し、夜彦は遠間からの強襲を仕掛けた。クロスグレイブを用いた戦闘術で相手の機動力を更に削ぐよう、スサノオの傷口の上から攻撃を加える。
命のやり取りは弱肉強食。そこに情けはない。十全に攻撃したのち、夜彦は反撃を喰らわぬよう後退し、ヒット&アウェイを繰り返していく。
ほかの灼滅者たちも強敵相手に大ダメージを受けぬよう注意しつつ、受けそうならば玲や由衛が肩代わりし、負傷が重なれば鳳花やそのウイングキャットが回復役を担っていく。
そして。
「これでどうだ」
龍一郎の日本刀がスサノオの身体に食い込んだ瞬間、ふと何かが変わった気がした。
(「今のは、結界が……?」)
何か力場のようなものが砕けた感触。スサノオ大神に弾き飛ばされた龍一郎は起き上がると、視線を元来た道へと向けた。
案の定、待機していたスサノオの戦士たちがそこに姿を現す。
『結界の破壊、ご苦労だった』
『我らも加勢しよう』
スサノオの戦士たちからサイキックエナジーが漂い出す。
それまで灼滅者たちに猛威を奮っていたスサノオ大神がその瞬間、怯んだように後退った。
●
「俺の役目はここまでだ」
自らにヒールサイキックを施しつつ、龍一郎は壁際に後退していく。
「俺はアイツらみたくお人好しじゃないんでね」
そういって指差した先では、いまだにスサノオ大神と戦う灼滅者の姿があった。
『うむ。結界破壊は果たされた』
『是非もなし』
二体のスサノオは短く肯定すると、我先にと前線に加わる。
『他の者も離脱して結構。あとは我らが引き受けよう』
「ああ、気にしないでいいよ。こっちも役目をきっちり果たすつもりだから」
鳳花が返す。それは「灼滅者としての」という意味だったが、スサノオたちはそれ以後何も言わずに戦いを続ける。
スサノオ戦士の攻撃に合わせ、由衛は縛霊手を振るった。身体を回転させ、慣性を利用した重い一撃がスサノオ大神に突き刺さり、よろめく大神に仲間の攻撃が加えられていく。
(「……楽になってきたわね」)
由衛は言葉に出さぬまま、予想通りとなった戦況を推し量った。灼滅者だけでは難敵だったスサノオ大神も、戦士たちが合流したことで負担が軽くなっている。戦闘開始から重ねていた行動・回避阻害もここにきてスサノオ大神の劣勢に貢献してきている。
あとは、事が為されるまで微調整を行うだけだ。
なんといっても戦士たちの攻撃力は灼滅者よりも数段上で、その攻撃ペースを見誤っては意味がない。
由衛は状況に応じて、回復と攻撃を織り交ぜつつその時を狙う。
(「慎重に、冷静に」)
一度決めたことは成し遂げる。昴もダイダロスベルトによる攻撃と回復を都度選択しながら立ち回り――ほどなく、その機を迎えた。
スサノオ戦士たちの爪が乱舞し、激しく傷ついた大神が彼のいる方へ倒れてくる。
――機。
「今だ!」
短く叫んで、昴は懐からガンナイフを取り出した。先ほどまでの惑わす歩法とは違った、無拍子とでも言うべき移動で肉薄するや、零距離で得物を振るっていく。
『……!?』
戦士たちがその動きを胡乱に感じた時には、玲の足が炎を宿し、大神の身体に蹴撃を叩きこんでいる。
『待て、そのままでは――』
(「それが狙いだ!」)
夜彦は全力のグラインドファイアを、さらに叩きこんだ。強烈な手応えに大神の身体が跳ね上がった。
「さて、美味しいところを頂きに行こうか」
縛霊撃を大神に叩きこんだ鳳花は、もはや戦士たちにも聞こえる声で言った。
「キミたちに力を渡すわけにはいかないからさ、ちょっと邪魔させてもらうよ」
『なに!? まさか最初から……』
「マジピュア・ハートブレイク!」
「ぶっ飛べ!!」
ジュンと康也のフォースブレイクが、同時に大神の胸元で炸裂した。のけぞった大神は地響きのような方向を轟かせながら、白い炎の残滓となって消えていく。
連携を密にしたうえでチャンスで一気に叩く……作戦通りに大神の力は灼滅された。
●
当然ながら、それはスサノオの戦士たちが求める結果ではない。
『……どういうつもりだ』
静かに問いかけるその声には怒りの感情がにじんでいて、灼滅者たちは傷ついた身体を休めることなく二体のダークネスと対峙した。
『ナミダ姫から話は通っているはずだ』
「スサノオの大地の力、危険すぎます」
ジュンがきっぱりと言った。そこに先ほどまでの後ろめたい表情はない。
「申し訳ありませんがあなた方には協力できません」
「勢い余って……と言いたいけど、正直に言うと利を得続けさせようと思えるほど信頼をしていないわ」
由衛は言いつつ、戦士たちとの間合いを計った。連戦は覚悟していたが……実現すればかなり厳しいのは明白だった。
「ま、これはちょっとした反逆。納得いかない協力提案の……ね」
「ボク達の意思であって、皆の意思じゃないけどね」
玲と鳳花の言葉に、スサノオはようやく沈黙を破った。
『そんな言い分がまかり通るものか』
戦士たちから怒気と殺気が溢れる。昴と夜彦は無言のまま警戒を続け、康也も得物を手にしたままダークネスたちを睨み続けた。
やがて、ピリピリしたその雰囲気が霧散した。スサノオの戦士たちが後退していく。
『判断はナミダ姫が下す。自らの言をゆめ忘れるな』
「……去ったか。正直助かったぜ」
昴が肩の力を抜いた。万一戦いになっていれば、厳しい決断を迫られていただろう。
「さて、これがどう転ぶか、だな」
合流した龍一郎が、スサノオたちの去った方を見て呟く。
「ま、俺は強いヤツと戦えれば満足なんだが……ナミダ姫はさてどう出るか」
撤収を始める灼滅者たちにとって、その疑問は当然のものであった。
作者:叶エイジャ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年4月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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