体育館裏の猫

    作者:四季乃

    ●Accident
    「ラジオウェーブによるラジオ放送が確認されました」
     集まった灼滅者達を前にした五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は、少々辛そうな面持ちで睫毛を伏せた。
     放置していればいずれ電波によって発生した都市伝説が、ラジオ放送と同様の事件を起こしてしまう。そのように前置きをして、小さな呼気と共に放送の内容を語り始める。

     生後間もない子猫だった。
     ある日、男子バスケットボール部の部員が体育館裏で見つけたのは、まだ乳飲み子の小さな黒い猫。使い古されたタオルが敷き詰められていたのは、まだ真新しいダンボールである。明らかな捨て猫だった。
     男バスの部員たちは、飼い主が見つかるまでの間、協力して体育館裏でその子猫の面倒を見ることにした。保健所に連れて行かれては処分されるかもしれない。そう思うと教員に知らせる事が出来ずにいたのだ。
     彼らは毎日子猫を世話して、引き取ってくれる者が居ないか翻弄した。そんな日々が一週間ほど経ったある日、子猫が姿を消してしまった。それ以来、二度と子猫は体育館裏に現れなかったが、しかして子猫は思いのほか早く、見つかった。
     高校からすぐそばを流れる川の岸辺に倒れ込んでいた。
     衰弱死かと思われたが、その小さく儚い体には無数の切り傷が肉を抉るように走っていたのだった。
     人に捨てられ、人に命を奪われた小さな猫は、その身に押し留めることの出来ぬ憎悪と怨嗟の慟哭を上げている。喰らい付いている間だけ、人への恐怖と憎しみがおさまる気がして、そうしなければ己を保てない。ゆえに、牙を剥く――。

    ●Caution
     その高校でも、近ごろ体育館裏に猫が居ついているらしい。
     男バスの部員や、バレーボール部の部員たちの間では密かなブームになっているほどなのだとか。だが、このままでは発生した都市伝説によって、学生たちの身に危険が降り注いでしまうことになる。そうなる前に灼滅してもらいたい。
    「高校では終業式を終え、春休みに入るそうです。体育館は使用したい部活動の生徒が居るなら、と開放はされているようですね」
     体育館は裏口のすぐ正面に当たるらしい。裏、というくらいなので敷地はそう広くはないが、作戦によっては体育館内に誘導するのも一つの手だ。中庭、という手もある。
    「待ちに待った春休みですから、そう生徒さんの数も多くないと思いますよ」
     都市伝説は黒猫の姿をしている。大きさについての言及はされていなかったが、憎悪の念を具現化して襲い掛かってくるそうだ。もちろん爪や牙も使用してくることだろう。
    「人間に対する憎悪はかなりのものです。ただ……自分を世話してくれた男バスの部員さんたちの事は、心のどこかに残っているそうなのです」
     つまり、無意識に攻撃を緩めたり、避けたりといった行動があるかもしれない。上手く利用することが出来る可能性もあるだろう。
    「これらは放送内で得た情報のため予知ではありません。可能性は低いと思われますが、万が一にも予測を上回る能力を持つ場合があるかもしれません」
     作り話とは言え、悲しい放送内容に姫子の睫毛が落ちる。
     とは言え、今回は赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査によって、都市伝説を発生させるラジオ放送を突き止めることが出来た。その情報を得る事ができるようになった事は大きい。
    「どうか皆さん、相手が小さな猫だろうと気を付けてくださいね。あ……それとその高校に居た猫は、終業式の日に一人の部員さんの元に引き取られていったそうですよ」
     けれど体育館裏は猫の集会場となってしまったそうだ。もしかすると猫が集まっているかもしれないが、無事に灼滅できたら集会を覗いてみると良いだろう。姫子はそっと微笑んだ。


    参加者
    勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)
    神無月・優(唯一願のラファエル・d36383)
    舞音・呼音(キャットソウル・d37632)

    ■リプレイ

    ●嵐の前に
     視界の端で、はらりと落ちた。
     仲間たちの背中をちょこちょことした足取りで追いかけていた舞音・呼音(キャットソウル・d37632)は、丁寧にワックスの掛けられたフローリングに視線を落とすと、淡い夕陽が描き出す影の中で、なにか微小なものがちらちらと踊るのを見た。
     振り仰げば天井近くに設けられた窓の向こう、風に煽られて梢を揺らす染井吉野が見え隠れしており、飛び立った小さな花びらが虚空を舞っている。なるほど、と一つ頷いた呼音は、体育館倉庫からビブスとボールを小脇に抱えて出てきた風宮・壱(ブザービーター・d00909)の呼びかけに気付いて、そちらへと駆け寄って行く。
    「これ、ビブスって名前なんだな……」
     壱から受け取った一枚のそれを手にした茶倉・紫月(影縫い・d35017)は、両手で摘まんで眼前に広げると、ぽつりと小さく零した。
    「そのままチーム分けの時に着るアレって呼んでた」
     こくこくこく、と同意で頷く呼音は、配られたビブスと、既に着用を終えてウィングキャットのきなこの額を撫でている勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)や、一番背の高い神無月・優(唯一願のラファエル・d36383)をちらりと横目で盗み見て、小さな嘆息を噛み殺す。
    (「……背の高い先輩たちの中で浮かないかな。男じゃないけど大丈夫だよね」)
     僅かな不安が胸の内をじわじわと責め立てる。けれど、比較的、目線の近い桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)と目が合うと、優しく微笑まれた。「大丈夫」そう言われたような気がして、強張った肩がゆるりとほどけていく。
     お揃いのビブスに身を包み、さぁまずは外に出ようか、と云った時だった。
     バインバインと床を跳ねるゴム製の音が館内に響き渡る。みなが一斉に視線を滑らせると、バスケットボールの上にムササビのように四足を広げて腹ばいに引っ付いているきなこが、出口に向かって跳ねていくのが見えた。それを目にした壱が指を差して大笑いすれば、その笑い声が伝染して、他のメンバーたちももつられて目口を綻ばせる。
     どうかこの戦いが、辛く悲しいもので終わらないと良いのだけれど。あたたかな空気に満ちるこの温度のなか、灼滅者たちはそう願わずにはいられなかった。

    ●怨みの牙
     はらはらと鼻先を掠めるように落ちてくる桜の花弁が、整えられた土の上を彩っている。念の為にと、紫月が殺界形成で人払いを施してみたものの、その心中にはある思いが燻っていた。
    「こう、な……俺らから見れば、人に危害を加える系都市伝説のラジオ放送を流している気がする」
    「全く、ひどい作り話もあったもんだね」
     独語のような彼の言葉に頷き返した夕月は、サウンドシャッターを展開し終えると傍らを歩く霊犬ティンの前にしゃがみ込み、顎の下や額を撫でながら「痛いのは、嫌だなぁ」と、表情を悲しげに曇らせた。そんな夕月の表情に睫毛を伏せながら、紫月は「だがこの猫の都市伝説は……」「そうなった理由の話が」と言葉を区切る。
    「繰り返しをさせたく無いな……」
    「作り話とは言え、痛ましい話です。此れ以上苦しまなくても好い様に終わらせましょう」
     奮い立たせるようなみをきの言葉に、彼らは視線を持ち上げる。悲しんでいるだけでは、解決出来ないことを彼らは良く知っていた。みなの様子に「よし」と意気込みを入れた壱は、口元に手を添えると、
    「クロー! 出ておいでー怖くないよー」
     と辺りに向かって声を張り上げる。
     聞き覚えのない名前に灼滅者たちが小首を傾げると、一斉に注目された壱は、虚空へ視線を持ち上げた。
    「……や、ほら真っ黒な猫らしいから、そんな名前で呼ばれてそうかなーって」
    「――……クロという名前でしたか。なるほど。確かに想定できる名前です」
     みをきが納得したように頷くと、バスケットボールに厭いたのか桜の枝の上で丸くなっていたきなこが、ふしゃしゃ、と鳴き声を立てた。笑っているらしい。ムッと唇を尖らせる壱であったが、みをきやそのビハインド、呼音たちが「クロー」「出ておいでー」と呼び掛けに続いてくれたので、肩の力をそっとほどいていく。
     きなこのむちむちの頬っぺを引っ張るのはいつでも出来るのだから。そう己に言い聞かせて、草の茂みを掻き分けた壱が、
    「どこに居るの?」
     そう、呼びかけた。
     そのとき、だった。
    「にゃぁお」
     まるで人の言葉を解したように返事を寄越す猫の鳴き声に、彼らは一斉に天を振り仰ぐ。きなことは別の、うんとまだ若い仔猫の声。
     それは桜の木の太い枝の上から、こちらを見下ろしていた。

    ●花散る黄昏
     桜が黒い靄に呑み込まれている。
     きなこの半分にも満たぬ小さな猫よりも、その背に纏った悪しき塊に灼滅者たちは息を呑んだ。ともすれば意識を喰らい付かれてしまいそうな、醜悪な念が目に見えている。視線を逸らせば、たちまち頭から齧り付かれてしまうのではないだろうかという気さえしてくるほどに。
     最も目線の近い位置にあった優の瞳に、スイと視線が寄越される。その時、彼は仔猫の右眼に大きな傷跡が走っているのを見た。瞼が閉じられているので、恐らく見えないのだろう。小さな四肢に残る傷の痛ましさに目を眇める。
    (「不幸しか知らなければそれは不幸ではなく普通なこと。幸せを知って初めて不幸が不幸になる。怨嗟の炎に焼かれて、復讐者に成るほどに」)
     そ、と呼気を吐いた。その拍子にジリ、と砂を踏み締める足音が立つ。黒い耳がピンと立つと、音のした方へと視線を走らせた仔猫は既に腰を上げている。
    「こっちだよ、おいで!」
     刹那、駆け出した壱とみをきたちに向かって一直線。ズゾゾゾゾ、と肌が粟立つような不気味さを伴って靄を引き連れ駆ける仔猫の背中を、挟み込むような形で紫月たちがあとを追いかける。
    「シャアッ」
     威嚇のような声と共に、纏う靄がぶわりと広がる。
     牙を剥き、その四足の爪が地面を強く蹴り上げると、夕暮れの中で獣が飛翔する。先頭を駆けていた壱は咄嗟にみをきの前に出ると、即座にBrave Heatのエネルギー障壁によるシールドを展開。周辺の味方への防御に走ると、ほんの僅差と云ったタイミングで靄が襲い掛かってきた。
     至近に迫るだけで、ぞわりと膚が震え上がるような凍てる冷たさにゾッと身の毛がよだつ。それが仔猫の孕む恩讐の欠片なのだろうか。身に受けた鈍い痛みに背後へ迫っていた紫月は、取り出した護符揃えの中から導眠符を抜き取ると、背中に向かってその一枚を貼り付けてみせた。
     驚いて飛び上がる仔猫が、頸だけで振り返る。グルル、と牙を剥き、その怨嗟で研ぎ澄まされた爪を灼滅者の肉に突き立てようと、飛び掛かる姿勢に入った刹那。
    「ほら、鬼ごっこはお終いですよ」
     ちらり、とビハインドの方へアイコンタクトを寄越したみをきが軽やかに地を蹴ると、流星の煌めきがちかりと瞬き、夕暮れの中に光を零す。その無数の光粒の中を泳ぐように身を滑らせ、敵の意識を翻弄するビハインドが霊撃を撃ち出すと、左に避けて躱そうとした仔猫であったが、しかしその方向へと回り込んだみをきのスターゲイザーが命中。
     避けきれず霊撃をまともに喰らった仔猫が、ズザザザッと地面の上に投げ出されたのを見て、交通標識を振り上げた優が先ほど傷を負った仲間たちにイエローサインで回復を図れば、
    「……また痛くすることになるけど、ごめんね」
     すぐさま起き上がった仔猫に対して呼音が影縛りにてその躯体を絡め取った。
    「ワンコ、霊撃お願い」
     優は後方に控えるワンコ――もといビハインドの海里に呼びかけると、海里は頭上の耳をぴこんと跳ねさせて嬉しそうに口元に笑みを浮かべ、こくこくと頷き霊撃の態勢に入る。
     すると、子猫もただ黙ってやられている訳にはいかぬとばかりに、再びその靄を激しく蠢かすと、灼滅者たちに向かって襲い掛かってくるではないか。咄嗟に庇うように前へと躍り出たティンが、その身に怨嗟の牙を喰らいながらも傷を負った壱へと浄霊眼の癒しを与えると、
    「よくできました」
     夕月がにこりと笑む。
     彼女はそのまま仔猫へと視線を戻すと、縛霊手を装備した方の腕を振り上げ一気に駆け出した。キッと鋭い視線で正視する仔猫ではなく、その後方に渦巻く靄に向かって縛霊撃を叩き込むと、後押しするかのように海里の霊撃ときなこの肉球パンチが炸裂する。
    「お前、相手が子猫だからって強気だな?」
     さては、と云った表情で目を細めた壱に対し、フフンとニヤリ顔ですれ違ったきなこ。やれやれと肩を落とした壱は、しっぽを立てている仔猫に向き合うと、眉を八の字に下げて、両手を広げて見せる。
    「怖い思いさせてゴメンな。怖いやつはもう追い払った、大丈夫だよ。飽きるまで付き合うから思いっきり遊ぼう!」
     怖いやつ、と聞いて仔猫の視線がきなこの背中を追いかけたのを、夕月は見逃さなかった。
    (「なんつーか、なんつーか。都市伝説を傷つけるのは躊躇われるから」)
     壱が手加減をした攻撃で、じゃれつくように向かっているのを眩しそうに見つめながら剣を非物質化させていた紫月は、オーラキャノンを持って靄を吹き飛ばすようにして臨んだ呼音に続き、神霊剣を繰り出した。既にボロボロの身体に、更に傷を付けることに、どうしても気が進まなかったのだ。
    (「既に傷付いているのに、更に君を殴ったり斬ったりしないといけない」)
     優はBlueRoseCrossを振り上げると鎧のように傷を負った仲間の身を覆い、ティンと共に回復に駆け回りながらもあることを思案していた。上手くいけば良いのだけれど。
     その一方で、忠実なる海里の霊障波が靄に大きな穴を開けていた。パッと夕闇の中で散り散りに分かれた怨嗟の靄に、何か予感を察知した夕月が聖歌を口ずさみながらクロスグレイブの銃口を突きつけると、集束する光の砲弾を真っ直ぐ、靄に向かって撃ち出した。
     パン、と小気味良い音を立てて靄を撃ち抜いた砲弾はそのまま天へと昇って夕空に消えていく。衝撃で煽られた桜の枝から、はらりと落ちる桜の花弁が落ちてきた。その雨を浴びながら、まるで何か天啓でも得たかのような表情で目を見開く仔猫は、そろりと灼滅者たちの胸元辺りに視線を持ち上げた。
     その瞳いっぱいには彩度の強い、ビブスが映り込んでいる。
    「人を恨む気持ちも……分からなくはありません。でも思い出して下さい、本当にそれだけですか」
     悲しい噂によって生まれてしまったとは言え、痛まし過ぎる見目。みをきが優しく語りかけると、子猫はことりと首を傾げてみせた。
    「にゃあ」
     それから鳴いたひと声は、純粋で無邪気な猫の声である。
     アッ、と短く息を呑んだ灼滅者たち。だが、猫を纏う靄が、見る間に集まり、再び一塊の巨大なものに戻っていく。それを戻してはならない。そんな焦りと決意に溢れた彼らは、一斉に駆け出した。
     みをきがまず突き出したバベルブレイカーで靄をねじ切りにかかると、
    「兄さん!」
     呼び声に反応したビハインドが、心得ているとばかりに別角度から霊障波を放って靄を削り取る。そこへ仔猫よりもずっと上の目線の位置に飛び上がったきなこが、魔法を叩き込んで更に靄を削れば、符を張り付けてくる紫月の腕に噛り付いていた仔猫はビビビと電流でも走ったかのような動きを見せて、地面にころりと落ちた。
    「うみゃみゃ……」
     大地に深く爪を突き立てる姿は恨みに満ちている。
     しかし、こちらを見上げる瞳は出現した時よりも、うんと柔らかなものになっていた。心と体がちぐはぐになっている。尚も壱へと飛び掛かろうとした仔猫であったが、その爪がビブスに引っかかると、何か悪い事をしてしまったかのように身体が大きく震え、その爪が肉に届くことはない。
    「人間への恨みで全てが染まるのは悲しい。暖かい人たちのこと、思い出して欲しい……今ここにいる人たちも優しいんだよ」
     呼音が優しく語りかけると、壱の胸にしがみ付くように圧し掛かっていた仔猫の前足が、スッと力が抜けていくのが分かった。ピンと立ったままの尻尾は下がり、耳も伏せていく。
     それは最後の足掻きだったのだろう。
     大地に降ろされた仔猫は、しかし見る間に血相を変えると再び跳ね上がった。残る靄を全身に纏い、もはや猫の輪郭すら分からぬままに。
     ――しかし。
    「大丈夫だ」
     飛び掛かってきた仔猫を、正面から抱きとめたのは優だった。彼はその身体に爪が深く喰いこんでも、喰らい付かれても動じず、前方でハラハラとした様子で見守っている海里を安心させるようにただ一度だけ頷いて。
    「大丈夫」
     そう、繰り返した。
    「痛みも苦しみも全部忘れて……倖せだけを抱いて、おやすみなさい」
     近付いてきたみをきの指先が、靄を撫でる。すると、彼らの間を吹き抜けて行った風がその靄を連れ去ってくれた。みをきの指先は、子猫の額に触れていた。仔猫はどこか疲れた様子で瞼を閉じると、ただ一度だけ。
    「にゃあ」
     そう鳴いて、優に抱かれたまま消えて行った。
    「また会ったら、その時はちゃんと遊ぼうね」
    「約束、だよ」
     夕月と呼音の声は届いただろうか。
     届いたと信じたかった。消えて行った後に残る、その黒い布がその証であると、そう思えたから。

    ●おいでませ集会所
     三毛猫、黒縁、白猫に雑種。
     様々な猫たちが人間なぞ目もくれずに勝手気ままにくつろぐ姿を前にして。
    「これ、時間を忘れ幾らでも眺めて居られますね」
    「エサはあげられないけど、ちょっと撫でるぐらいなら――って」
     にこにこした様子で、みをきが邪魔せぬよう配慮した声量で呟けば、顔で頷いていた壱が、片耳に聞こえる唸り声にシーっと指を唇に押し当てる。
    「こらきなこ、俺の肩で威嚇するなよ!」
    「フシャーー!」
    「こらこら、張り合わずとも、俺の一番はきなこですよ」
     そう言って、きなこを抱き上げ、ふかふかした毛並を優しく撫ぜる。それを見ていた夕月はうずうずした様子で「ティンも一緒に遊ぼう」と手招きして、霊犬にも動じない三毛猫に猫じゃらしをフリフリしてちょっかい掛け始めた。
    「……混ざりたいって思ってない……わけじゃない……けど」
     気づかれないようにしながら眺めるのが一番、と物陰からこそりと見ていた紫月は、混ざりたいような、でも見守りたいような気持を持て余していた。
    「人慣れしているのだろうか。しているのだろうな……」
     気が付けば傍らで丸くなって眠っている黒縁の猫を横目に、優は呟く。視線の先では「行く先々で猫の知り合いを増やしたいと思っているのです」と言っていた通り、猫たちと仲良くなっている呼音が居て、何だか彼女まで猫に見えてくるほどだ。

     そうして灼滅者たちはボス猫がやってきて、集会がお開きになるまでの間、束の間の猫タイムを楽しんだのだった。ここに可哀想な猫なんて、居なかった。

    作者:四季乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月7日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ