心狙う恋を持って

    作者:幾夜緋琉

    ●心狙う恋を持って
     東京都は秋葉原にある、とあるメイド喫茶。
     ファンシーな店構えに、フリルのついたかわいいメイド服を着た店員達が『お帰りなさいませご主人様、お嬢様』とお出迎えしてくれるお店。
     ……そんなお店に、人気最高潮の少女が一人。
    『いらっしゃいませぇ、ご主人様ぁ♪」
     何処かあどけなさの残る彼女にすっかりメロメロになった男達が……連日通い詰める。
     そんな男達に色々と勧めて、売り上げを着々と伸ばしていく彼女。
     ……その心には、次第に男を騙す幸福のようなものが、首をもたげ始めていたのであった。
     
    「よし、皆集まった様だな! んじゃ、俺の全能計算域から導き出した生存経路を、お前達に説明するぜ!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、集まった灼滅者達へ振り返ると共に早速の説明を始める。
    「今回の事件は、闇落ちし、淫魔になりかけてる一般人の事件が発生しようとしてる。通常であれば闇落ちしたダークネスはすぐさまダークネスとしての意識を持ち、人間の意識はかき消えてしまうのだが、彼女はまだ元の人間としての意識を遺していて、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない、という状況だ」
    「もしも彼女が灼滅者の素質を持つのであれば、闇落ちから救い出して欲しい。もし完全なダークネスになってしまうようであれば……その前に、灼滅してきて欲しい、というのが今回の事件になる訳だな」
    「今回相手にする闇落ち一般人の彼女は、所謂メイド喫茶でアルバイトしてる様でな……メイド喫茶で何か事件を起こそうとはしていない。まぁ人の目が多いからそういうのも難しいかもしれないんだがな」
    「なので今回、彼女と接触するのは彼女の帰り道、となる。帰り道に仕掛ければ、彼女を慕う取り巻きの一般人達が出て来る事も無いし、彼女のみを相手にすれば良い事になるからな」
    「接触したらば、まず彼女に一抹の理性が残っている事を信じて、説得の言葉を投げかけて欲しい。彼女は己を認めて欲しい……そんな自己顕示欲から淫魔へと落ちようとしているみたいだから、その辺りをくすぐってみるのがいいかもしれないぜ」
    「ああ、無論戦闘になれば彼女は未熟ではあるが、淫魔の力を発揮して仕掛けてくる。彼女をKOすれば、ダークネスであれば灼滅されるが……素質があれば灼滅者として生き残るハズだ!」
    「という訳で……」
     そこまで言うと、最後にヤマトは。
    「そんなに彼女の戦闘能力は高くは無いが、男をたぶらかす淫魔だ……決して油断はしないように頼むぜ!!」
     と、威勢を付けるのであった。


    参加者
    色梨・翡翠(蒼蓮アンサイズニア・d00817)
    エステル・アスピヴァーラ(紅雪舞のピエニアールヴ・d00821)
    蓮華・優希(かなでるもの・d01003)
    高梁・和海(歌詠の音色・d01432)
    緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)
    沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    望月・結衣(ローズクォーツ・d09877)

    ■リプレイ

    ●闇に潜む心
     メイドカフェの少女を救い出して欲しい、という、ヤマトから受けた事件。
     8人の灼滅者達は彼女を助ける為に……聞いておいた、彼女の帰り道へと先回りしていた。
    「しかしメイドさん……かぁ」
     望月・結衣(ローズクォーツ・d09877)がぽつりと呟いた一言。
     その言葉に蓮華・優希(かなでるもの・d01003)が。
    「ん……どうしたの?」
    「いや……なんだか、他人事には思えなくって、ね……」
     結衣はそう答えるので精一杯……彼女も過去、淫魔の奴隷としてメイド服を着て奉仕していた経験がある。
     だからこそ、今回の闇落ちしかけている彼女の心を結衣は凄く理解出来る。
    「メイドカフェでもかなりの人気を持ってるらしいし……だからこそ己を認めて欲しい、って事か……身につまされるわね、わたしが彼女になってたかもしれないくらいに」
     と、城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)も、そんな言葉を紡ぐと。
    「そうだよね。実際、どんな相手にも笑顔で奉仕ってのは、ストレス溜まりそうだもんなぁ……なのに通り越して闇落ちとは、いやはやって感じだよね」
    「うん。闇落ち仕掛けのメイドさんかぁ……それなりに人気があるからちやほやされるんだろうね」
    「うにゅ。でもわかって欲しいのは皆おんなじだもんね。でもおちっちゃったらもどれないの」
     高梁・和海(歌詠の音色・d01432)、沖田・直司(叢雲を裂く天魔の斬撃・d03436)、そしてエステル・アスピヴァーラ(紅雪舞のピエニアールヴ・d00821)が次々と口にした言葉へ。
    「……でも、何でしょうか。実際誰かに認められて自分を実感出来る……とは思います……けれど、ご自分を一番認められないのは、彼女本人なのではないでしょうか……?」
     色梨・翡翠(蒼蓮アンサイズニア・d00817)が小首を傾げる。更に続けて彼女は……目を瞑りながら。
    「現状の自分に不満があるから……認められたいと思う。ありのままの貴方で良いと……その上で一緒にこれからを代えていきたい旨を……伝えたいですね……」
    「ええ。闇落ちしかけの少女の救出……通りすがりの神父として、迷える子羊を救うのはやぶさかではありません。出来うる限りの言葉を使い、拾える心を持って差し上げましょう」
     翡翠の言葉に、緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)が、強い意志で告げると。
    「きっと寂しいんだろうね……だから何としてでも、彼女を救ってあげたいよね」
    「うん。完全に落ちる前に彼女を止めましょう!」
     結衣と千波耶も強い意志で告げる。
     そして。
    「それじゃボクらがその幻想をぶちこわしてあげるんだよ」
    「むい、なおといっしょ、がんばる~♪ それじゃぁがんばってとめるのです~」
     直司とエステルも頷き合って……そして灼滅者達は周囲を見渡しつつ。
    「それじゃここら辺で待ち構えておくとしようね。一応……バイトも終わる時間だし、もう少しでここを通るはずだしさ」
     千波耶に頷き、みんなその場に身を隠す。
     ……すっかり秋めいてきた風に。
    「にゅぅ……夜はさむさむなの」
    「ん、ホント寒いよね。とりあえずこのコート着てて」
    「うにゅ、ありがと、なお~♪」
     直司はエステルに上着を渡す……そんな彼の服装は、何故かうさみみのメイド服。
     整った顔立ちと、細身の身体は……何故かそのウサミミメイド服がとても似合っている訳で。
    「……まぁ、こういう服が似合うのもある意味才能だよなぁ……」
     和海がぼんやり紡いだ一言に、他の仲間達も頷くのであった。

    ●解らない心
     そして灼滅者達が待ち伏せて半刻程度が経過。
    『~♪ ~~♪』
     鼻歌交じりに帰路を歩く少女の姿……そんな彼女の顔を見て、ターゲットの彼女である事を認識するまでさほど時間は掛からなかった。
    「それじゃ早速だけど……行くよ」
    「ええ……お願いします」
     和海に頷く結衣。
     優希が殺界形成をその場に展開し、一般人を近づけさせない様な場を作り上げる。
     勿論その様な事をすれば、彼女が状況認識するのに時間は掛からない。
    『あらぁ……何かしらぁ……?』
     とは言えダークネスと、闇落ちの狭間……何故自分がこの様な空間に居るのかは理解出来ていない様である。
     そんな彼女に対し、最初に姿を現し声を掛けるのは和海。
    「ねぇねぇ、そこのおねぇさん。笑顔がかわいいね」
    『ふふふ……そうかしら?』
     笑う彼女……その笑顔は、心の底から見せている様には見えない……所謂営業スマイルという所だろう。
    「んー……でもなんだかさ、本気で笑っていないみたいなんだけど、どうしてなの?」
    『フフフ、そんな事は無いわよぉ?』
     そんな彼女の言葉……とは言え声の端端に、刺々しさが表れる。
    「ねぇねぇ、おねーさんは人気のメイドさんだって話を聞いたんだけど、なんかさぁ……普通だよね? ちょっとちやほやされたからって調子に乗ったらいけないんだよ。だって、おねーさんはあくまでメイド喫茶のバイトで、本当のメイドさんじゃないんだし。ぶっちゃけボクの方がかわいいでしょ♪」
    『かわいいなんてねぇ、人に寄りけりよぉ……まぁ貴方もかわいいみたいだけど、私のほうだってかわいいわよぉ? だって、私に会うために沢山の男達が着てくれるんだものねぇ♪』
    「そうですか……貴女は何の為にメイドという仕事を選択したのでしょうか。そこに通う男性達にちやほやされたいからですか? あるいは自分自身の魅力を誇示する為に、その店のナンバーワンを目指していたのでしょうか?」
    『くすくす……そうねぇ……どっちも、かしらねぇ♪』
    「……そうですか。仕事である以上、多少の演技も必要でしょう。しかし、今の貴方は男性を騙す事に喜びを感じている。思い出して下さい……今の姿は、本当にあなたが望んだ姿なんですか?」
     直司、討真の問いかけ……そして優希も。
    「……何故、男性を騙そうとするのですか? 確かに貴女はメイドカフェに居て、そんな貴女を好きで着てるのかもしれないのに……そんな人達を騙して楽しいの?」
    『うーん……そうねえ……楽しいわよねぇ? だって、私の為に尽してくれるんだもの♪』
    「……そうですか。なら、自分がその立場に置かれたらどう思います? 嫌ではありませんか?」
    『別に……ねぇ……?』
     優希の問いに肩を竦める彼女。
    「……貴女、男の人を意のままに手玉にとって楽しい? でも……全然満たされていないみたいだけど? 甘い水ばかり飲んで、余計に喉が渇いてまた甘い水を飲む……貴女のしている事はそういう事なのよ? どんどん乾いていくばっかり! だから自分の心も相手の心も薄っぺらに扱って、そんな自分を貴女自身が好きになれるの?」
    「そう……あなたの気持ちはよくわかるよ。でも、誰かに認めて貰うよりも先に、まずあなたが自分自身を褒めてあげなきゃいけないと思うの。だから自分の事、もっと愛してあげて? でないとあなたは、本当に幸せになんてなれないよ。だからお願い、まやかしなんかに負けないで! 自分を見失ったらダメだよ……!!」
     そして彼女に対し、千波耶と結衣が強い口調で訴える。そして翡翠とエステルも。
    「認めて貰いたいと思ったのでしょう……? 何が、悲しかったのでしょうか……貴女はたった一人しかいないのです。ご自身を許して、認めてあげて欲しいです……私達では、悲しみは消せないです……けれど、一緒に悩んで……考える事は出来るのですよ……」
    「むい、そうなのですよ。なんでも自分の思い通りに行ったらきっとつまらなくなるのです、わかって欲しいの~」
     そんな灼滅者達の問いと、説得。
     ……ほんの数秒の逡巡の後、彼女は。
    『もう……ごっちゃごっちゃウルサイわねぇ……いいでしょ、アタシの勝手にさせてよ!』
     懐から取り出すは解体ナイフ……構え、睨み付ける彼女に。
    「むぅ……ならしょうがないけど、きっちりたたきなおしてあげるのですー。にゅ、なお、一緒に行くですよ~」
    「うん。天然理心流土方道場一番隊組長、沖田直司、推して参る……!」
     エステルと頷き合う直司。
    「そうだな……俺の歌って力があるんだぜ。じゃあ、始めようか」
     と和海もスレイヤーカードを使用し、戦闘態勢を整える。
     そしてエステルがヴァンパイアミストで攻撃力を引き上げると、翡翠も同じくヴァンパイアミストで壊アップ。
     クラッシャーの二人の行動に続け、討真も。
    「俺が立っている以上、一撃たりとも通しはしない……」
     と言いながら、直司と共にディフェンダーに立ち、防御態勢。
     前衛四人……ディフェンダーの二人が庇うが如く前に立つと、対し中衛のジャマーに立つ和海、後衛スナイパーの結衣が。
    「まずはゆっくり眠りな」
     と、二人合わせてディーヴァズメロディを使い、先ずは彼女の催眠を狙う。
     だが彼女は、催眠効果に対して惑わされる事は無く……対してこちらもディーヴァズメロディで反撃と攻撃。
    「……やはり同じ力を使う相手……厄介だね」
    「そうだね。でも……だからこそ対処手段も心得てるよね」
    「うん」
     千波耶と優希はエンジェリックボイスと清めの風を組み合わせ、バッドステータスの回復と、ダメージ回復を並行して行う。
    「ありがとうございます……」
     翡翠が軽く頭を下げる。
     そして次のターン。
    「……みんな、殺さない様に頼むな」
    「了解……」
     討真に頷く翡翠……紅蓮斬を使い斬りかかる翡翠の一方、討真は。
    「……解ってもらえませんか? 私達は、貴女を傷つけたくは無い……今の貴女の姿は、本当にあなたが望んだ姿なのですか?」
    『ウルサイわねぇ、そうよ、望んだ姿よ!!』
     説得の言葉を続ける討真に、怒りを孕んだ声で返す彼女。そして。
    「なお~、いっしょにいくの~」
    「うん。エステル。とーまが抑えてくれてる間に、一気に決めるよ」
    「うん。すこしいたいけど、がまんしてなの」
     直司の雲櫂剣に、エステルがチェーンソー斬りで斬りかかり、ダメージを叩き込む。
     そして翡翠も紅蓮斬で、ドレインを図りながら攻撃を行う。
     無論、彼女も反撃の狼煙を上げて。
    『死になさい!!』
     一戦を仕掛けるは翡翠…………しかしその攻撃は、討真がしっかりとカバーリング。
    「……大丈夫ですか?」
     討真がそう翡翠に微笑むと……翡翠は。
    「……要らない事しないでよ!! 私の身は……私で守れるわ!!」
     怒りの声を上げる翡翠、討真は易しげな笑みを浮かべ、すみませんと謝る。
     とは言えカバーリングの結果、ダメージは基本的に一極集中する訳で、優希と千波耶は。
    「わたしが回復するから、優希ちゃんは仕掛けて!」
    「解ったよ、回復は頼むね」
     と、状況を相談し合いながら攻撃の手数を増やしていく。
     そして和海と結衣も。
    「俺は歌以外でも戦えるんだぜ? お姉さんには悪いけど、少し痛い目にあってもらおうかな」
    「……そうね。ダークネスに落ちる前に、倒す事で食い止めるわよ!」
     と言いながら、轟雷とリングスラッシャー射出で攻撃。
     ……ダークネスの力を使う彼女。
     しかし闇落ちしかけた心と……灼滅者達から掛けられた暖かい言葉に、ほんの僅かではあるが、その心は不安定に揺れ動き続け、戸惑う様な行動も少しは見られる。
     そして、五ターン経過し。
    『くっ……』
     唇を噛みしめ、苦悶の表情と共に睨み付ける彼女に。
    「……もう後少し……彼女を苦しませない為にも、一気に畳みかけるよ!」
     千波の号令一下、灼滅者達が一斉なる猛攻。
    「……愛の心にて、悪しき心を切り捨てる!」
    「バイバイ、なの~」
     直司とエステルの連携した黒死斬と騒音刃が、彼女の両脇を撃ち貫き……彼女は一瞬の驚愕と共に。
    『く……ぅぅ……』
     がくり、と膝から崩れ落ち、そのまま意識を失ったのである。

    ●解放と共に
    「にゃ……みんな、だいじょーぶ?」
     エステルがみんなの状態を確認。
     多少の怪我はあるものの、ダメージはそこまで大きくはない。
     そして……闇落ちしかけた彼女も、軽い気絶はしているものの、生死には影響は無い様である。
     そんな彼女に、すっと自分の着ている神父服を毛布代わりに包みこみ、抱き上げる。
     ……そして、その表情を見て、和海は。
    「……うん、やっぱり素の顔の方が素敵だよなぁ」
     とぽつり。
     そして数分後。
    『う……うぅ……ん…………ぅ?』
     意識を取り戻した彼女……周りを見て、きょとんとしている。
    「あ……よかった、おかえりなさい」
     そんな彼女に、屈託の無い笑顔を見せる結衣。
    『え、えっと……その、あの……貴方達は……だれ?』
    「ああ、ごめんなさい。私は結衣……さっきまでの事、覚えていないのかな?」
    『……えっと……覚えている様な、覚えていない様な……』
     複雑な表情をする彼女。
     ……淫魔であった時のことは、覚えているものの……なんだか信じられない事にも思えている様だ。
    「大丈夫そうですね……手荒な事をしてすみませんでした。でも貴方が無事で良かったです」
     と討真が握手を求めつつ。
    「うん……でも本当、すっぴんでも綺麗だよね? その綺麗さ、メイドカフェだけで活かすなんてもったいなく無いかなぁ?」
    「そうだよ。きっとまだまだ貴女はもっと魅力的になれる素質はあるのだから、自分を磨くと良いよ。手助け程度ならば、出来るけれどね?」
    「そうだよ。自分に自信が無いのは貴女だけではないわ。でも、自分から逃げないで欲しい……少なくともここに、貴女を認めて貴方の為に戦った仲間がこれだけいるんだもの……捨てたものじゃないでしょ? 『貴女』もね」
     和海、優希、千波耶の三人の言葉に、更に直司とエステルも。
    「そうだよ。人を騙すとかさ、損な気持ちは捨てちゃって、ただ純粋に自分のやりたい事をやってみればいいんだよ。ボクみたいに天空の星だって、手に入れられるかもしれないんだしさ?」
    「そうなのですよー。ちゃんと心があれば、きっといい人が見つかるですよ。わたしもそうだもん♪」
     とニコニコ微笑む二人。
     そんな灼滅者達の言葉を聞いて……次第に自分のしていた事、あの時の事が真実であった事を理解する。
     ……そして討真が最後に。
    「……もし宜しければ、私達の学園に着ませんか? きっと……貴女を受け入れてくれる筈ですから」
     微笑みながらの一言に……彼女はおずおずながらも、その手を取るのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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