禁断の「遅刻、遅刻~!」

    作者:るう

    ●とある高校近く
     この学校にパンをくわえて登校してはいけないと、蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)は語るのだった。
    「何故なら、それは『ラブコメ時空』への入口だとこの学校では語られているからですね。パンをくわえて学校に駆け込めば、ラブコメ時空にある高校に『転校』してしまう……そして、転校生となって誰か素敵な人と衝突してしまうのだ、と聞いています」
     異空間に飛ばされた人がどうなるのかは誰も知らない。恐らく、自分以外の人が皆知らない人になった世界に、永遠に囚われてしまうのだろう。
    「けれど、灼滅者である私たちならば……都市伝説を灼滅して、脱出できるはずだと思います。誰かが実際に噂を試してしまう前に、私たちの手で『ラブコメ時空』を破壊しなければなりません」

     とはいえ、どのように破壊すればいいのだろうか?
     瑠璃は都市伝説の一部が持つ性質を思い出し、一つの仮説を立てるのだった。
    「都市伝説の中には、確か、満足させれば無害になるものがあるのでしたよね? もし、この都市伝説もそうだとすれば……私たちの手で大量のラブコメ展開を生み出すことで、灼滅が容易になるのではないでしょうか?」
     噂では、異世界の高校の3年D組には『マサチカ様』なる男子生徒がいるという。
     マサチカ様は銀糸のような美しい髪を持つ、イケメン貴公子であるようだ。文武両道で料理も上手い完璧超人……でありながら、お茶目ないたずらっ子という側面もあり、そしてもちろん、誰にでも優しい。
     盛りすぎってレベルじゃないこの男子生徒が、ラブコメ世界の中心人物であろう。ならばマサチカ様に対し、ハーレムでも作るのかって具合に積極的にラブコメ攻勢をかけたなら、都市伝説はラブコメ飽和し機能停止に陥るに違いない!
     そこまで推理した後で……瑠璃は、ふとこんな疑問を呈するのだった。
    「ところで、噂する女生徒の中には、自分ではなくクラスの男子をマサチカ様とラブコメ展開させたがっている方もいるようでした。つまりは……もしかして、そういう方向性もアリなのでしょうか?」


    参加者
    竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)
    ジュリアン・レダ(鮮血の詩人・d28156)
    蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)
    荒谷・耀(一耀・d31795)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    黒木・白哉(モノクロームデスサイズ・d34450)
    月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)
    シャオ・フィルナート(猫系おとこのこ・d36107)

    ■リプレイ

    ●朝の出逢いは突然に(1)
    「どうしよう……遅刻……」
     とっても気持ちのいい朝だったから、シャオ・フィルナート(猫系おとこのこ・d36107)はすっかりおねむ。大きな黒猫のぬいぐるみを両手に抱え、いちご味のパンを口に咥えて、ウェーブのかかった髪を揺らして校門に駆け込んで……。
    「はわぁっ……」
     ドン、という衝撃の後、アスファルトの冷たさを直接両の内腿に感じる。一体何が……と見回してみれば、銀糸のような髪の男子生徒が、大きな手をシャオへと差し出していた。
    「……大丈夫? 猫ちゃんもね」
     不意に、変わってゆく世界。これがマサチカとシャオ、二人の男女の邂逅だった……と言いたいトコなんだけど、これ、どっちも男なんだぜ?

    ●(2)
     ボク、月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)! 実は小学校に上がる時に転校して久しぶりに帰ってきたんだけど、早速遅刻しそうだから太いフランスパンを咥えてダッシュ中!
    「……って、うわぁ~!?」
     角を曲がったらすぐそこに人が!? ギリギリ正面衝突は免れたけど……ボクはそのまま植え込みにダーイブ!
    「ピンクの縞々……」
     はっ!? もしかしてスカートめくれてパンツ丸見え!? でも見られたのが前のもっこりじゃなくてお尻で良……くなーい!
     慌てて頭を茂みから抜いて、渾身のボディブローで不埒者にアターック!
     ものすごく綺麗に決まっちゃったけど……知らない人だし別に気にしなくっても大丈夫だよね!

    ●(3)
    「ち~こ~く~、ち~こ~く~」
     ジュリアン・レダ(鮮血の詩人・d28156)は不思議ちゃん。これから学校なのに制服ではなくゴスロリワンピでギターを抱え、しかも遅刻するって解っていながら、足を速める素振りもない。
     これなら誰かとの衝突はないだろう……と思いきや、真っ直ぐに前の人の背中にぶつかりにいった。咥えていたパンに塗りつけられていたラムネペーストが、しばらく拾い背中に貼りついて……直後、はらりと地面に落ちる。ペースト面を下にして。
    「おっと、だいじょ……」
    「ひっく……ラムネパン……君の事は忘れない……うわあああん……!」
     声をかけてきたマサチカに見向きもせずに、彼は(そう、またもや『彼』だ)へたり込んでガン泣きし始めた。マサチカがおろおろしていると……ふと泣き止んだと思ったら立ち上がり。
    「……貴方はラムネパンの代わりに幸せになって下さい。見守ってます」
     それだけマサチカに言い残すと……彼女もとい彼はまたふわふわとした足取りで教室へと向かっていった。

    ●(4)
    「みんなのアイドル、緋月・いなづま参上だよ! 日課の動画配信が忙しいから、今日も登校は遅刻ギリギリ!」
    「すごいです、いなづまちゃん」
     棒読みでカメラを向けるメイド(♂)、双海・忍の方へとウインクしてから、いなづまはセーラー服のリボンを揺らしながら通学路を駆け抜ける……ドン!
    「いたた……ゴメン! 大丈夫?」
    「僕は大丈夫だよ。君こそ大丈夫だったかい?」
     ぶつかった相手の顔をちらと見て、その時いなづまの全身に電撃が走る! この甘酸っぱい衝撃は……もしかして、恋?
     ぱっと顔を赤らめる自分の正体が竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)というれっきとした野郎だって事はすっかり忘れた事にして、いなづまは頭を振って込み上げてくる想いを振り払い、そのまま校舎へと駆けてゆく。
     だって、アイドルはマサチカ様だけのものじゃなくって、みんなのものなんだもん♪

    ●だから男なんだってば!
    「おっと、気をつけて?」
     そう言って伸ばされた優しい手。反射的にそれを掴んで立ち上がり……黒木・白哉(モノクロームデスサイズ・d34450)は目の前の人物の微笑みに、何とも形容しがたい違和感を感じ取る。
    「わかったかい、かわいこちゃん?」
     んん? キミは何を言っているんだ。ボクは見てのとおり男だよ?
     ……そう言おうとして気づく違和感。なんか下半身がやけにスースーする。
    (「何だろう?」)
     恐る恐る自身の姿を確認してみた結果……あれっ!? 何故か服装は女子制服に黒のガーターベルト、髪は白いリボンにポニテ! どう見ても女の子の格好になってるじゃないか!
    「いや、ボクは……」
     こんな格好だけど男です、と言おうとした瞬間……野太い声がそれを妨げた!
    「こらー☆ 不純異性交友は校則違反だよっ!」
     本人的には恐らく可愛らしく叱ったつもりなのだろうけど、如何せん、女子夏服からはみ出ているのは、肩幅に開かれ廊下を踏みしめる脚、組まれたままで微動だにしない腕。筋肉質な太い手足が見せる186cmの変態巨漢が、申し訳程度に『風紀委員』の腕章をしてみせている。
     正体は、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)である。
     蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)が本に顔を埋めて、知らない人のフリをして近くを通り過ぎた。
     白哉も部長の声を聞いた時には「誤解なんです」と女装している事を弁解しようと思ったけれど……なんかもう完全にタイミングを失っている。
     そんな環境にもかかわらず、マサチカだけ普通に会話中。
    「大丈夫だよクレンドちゃん。ちょっと慌てんぼさんを助けてただけだからね」
    「ふーん、そう……。じゃ、今回は見逃してあげる」
     何故、話が通じているのだろう?
    (「発見した私が言うのもなんですが……本当にこんな都市伝説がいるのですね……」)
     形容し難い疲労が体じゅうにのしかかってくるのを感じつつ、瑠璃はあれとどう恋すればいいのかと震えざるを得なかった。

    ●予期せぬ再会
    「よーし。今日は転校生を紹介するぞ?」
     朝のホームルーム。そんな先生の一言に、にわかに教室が騒がしくなる。
    「やっぱ可愛い子がいいよなぁマサチカくぅーん」
    「はは。そういう期待をする時に限って男に決まってるじゃないか」
     そんな遣り取りをする白鷺・鴉(大学生七不思議使い・dn0227)とマサチカを叱って黙らせた後、先生は廊下に向けて呼びかけた。
    「どうぞ、入って」
     次の瞬間……現れた木乃葉のボーイッシュな魅力や、お人形のようなシャオの可愛らしさに、一気にどよめく男子たち。同時、女子たちの冷たい眼差しが彼らを刺して、クレンドに至ってはほとんどマサチカを視線で射殺さんばかり……って、お前ホントに女子扱いだったのか!
    「えー……二人とも、席は空いてる好きな場所を使って下さい」
     先生にそう言われ、木乃葉はぺこりと頭を下げてから空席と、その隣のマサチカを見た。直後……全校に響き渡るような大声で、彼を指差し悲鳴を上げる!
    「あ~~~っ!? お前は朝の変態男!!」
     ガタッ。クレンドの風紀委員レーダーが反応。
    「ほう……詳しく聞かせて貰おうか、マサチカ様……☆」
     妬いてるアピールらしいのだけど……表情のどこにも殺意以外の感情が見つからない。けれど彼女(彼?)の発した名前を聞いて、もう一度木乃葉は素っ頓狂な声を上げた。
    「マサチカ? もしかして、幼稚園の時お隣だったマサチカ!?」
    「まさか……あの木乃葉だったのか!?」
     うん。クレンドの威圧感が増したのが判る。
    「ふーん、幼馴染だったんだ。ならば尚更、後で朝の事とやらを風紀委員室で聞かせて貰おうか☆」
    「必要ないよ、マサチカの面倒を見るのは幼馴染のボクの義務だからね!」
     そんな恋の鞘当て(?)が始まりつつも、校舎はホームルームの終わりを告げるチャイムに包まれる……。

    ●昼休みは大戦争!
     出会いこそトラブル続きではあったものの、午前の授業が終わるまでは、特に問題らしい問題は起こっていなかった……三階のはずの教室の外から人知れず、ギターを抱えたゴスロリ少女がマサチカを見つめていた事を除いては。
     ちなみにジュリアンは空飛べないので、安藤・ジェフの発明品、『スーパートール竹馬君IV世』に搭乗中です。あ、余談だけど木乃葉のスカートが綺麗にめくれたのも彼作の専用扇風機のせいだ!
     そして、授業が終わって昼休みに入った直後……その事件は起こった。

    「あの、すみません。お兄様……あ、マサチカさん、いらっしゃいますか?」
     隣のクラスからやって来た荒谷・耀(一耀・d31795)の声に、3-Dの男子たちは色めき立った。
     礼儀正しく清楚な見た目。それでいながらふくよかな胸。またマサチカか……という男子らの恨み辛みは、耀がうっかり洩らした『お兄様』という呼び名のお蔭で、ここで優しくしとけばワンチャンという期待へと取って代わる。彼女が何故マサチカを『好きな人』ではなく『義兄』と設定したのかなどつゆ知らず。
    「おう。あそこあそこ」
     アホ男子がどさくさに紛れて腰に伸ばした手から逃れるように、耀はマサチカの元へと駆け去ってゆき……。
    「お、お兄様! お忘れになっていたお弁当、お届けに参りましたっ」
     取り囲む女子(?)たちとマサチカの間に割り込んで、ぎゅっと上半身だけを出して机に包みを乗せた。『義兄』へと向ける笑顔はまるで、可憐に咲いた春の花のよう。
    「ところでお兄様……今日は一段と賑やかですけど」
    「朝、いろいろあったからね」
     その一つが自分の格好である事には触れないようにしつつ(だって、本当はジャージに着替えようとは思ったんだけど、何故か謎のパワーに妨げられたんだもん)、白哉は親切にも皆の紹介をする。
     が、やけに詳しい皆のデータを語っている最中……白哉は、物陰からマサチカを見つめる誰かの視線に気がついた。
    「君は……シャオさん? マサチカさんは優しくしてくれるから、怖がらなくても大丈夫だよ?」
     するとシャオ、恥ずかしそうにこくりと頷くとマサチカに近づいてゆく。それから意を決するとぎゅっと彼の袖を掴んで、小さな手作りぬいぐるみを差し出して。
    「あの、コレ……朝の、お詫び……」
     それから上目遣いのままで、もじもじと彼の袖を引っ張ってみた。
    「あと……よかったら、その……学校、案内、してほしいなって……」
     刹那……張り詰める空気。まさか、横から抜け駆けを狙おうとは……その時!
    「マサチカ様ー! お昼……は食べ終わったかな? じゃあ勉強教えて!」
     突撃☆いなづまチャンネルの始まりだよっ! 強引にシャオとは反対側の腕を取って、忍のカメラの前で今大人気のマサチカ様と仲間たちの中に入っちゃいました! ……カメラ、いなづま以外を映さないような角度で撮るから映像じゃよく判らないけど。
     ああ、なんだか不満そうな義妹ちゃん。義兄を皆に取られた気分になって、本物の恋人はいるから演技だけどちょっぴり悲しくて、思わず何かを吐露しようとした瞬間……。
    「RB団いる限り、この世にラブコメは栄えません!」
     現れしはRB団の正装たるサバト服! その正体は富山・良太と……彼のビハインド『中君』しかいないのが涙ちょちょ切れる。
    「みんな、ケンカはダメだよ! わたしの歌を聞けー!!」
     止めてるのか盛り上げてるのかわからないいなづまに、今だとばかりに義兄の手を引き逃がそうとする耀。だって、義妹なら義兄のためを想うのは何もおかしくないもん!
     さらに、そこにクレンドまで現れて仁王立ち。
    「待って義妹ちゃん。ここは皆でRB団を食い止めましょう!」
     半ばラリアット気味に出し抜かれ阻止! マサチカが一人で去っていったのを見送って風紀委員は吼え……。

    「く、覚えてろー!!」
     ジュリアンの奏でる謎の戦闘曲をBGMに、RB団は窓の外へと吹き飛んでいった。

    ●図書室に咲く花
    「やれやれ、大変な目に遭うところだったよ」
     3-Dでのあの大騒ぎも、閑静な図書室には全くの無縁。程なく一息ついたマサチカは、自分がここまで来たのは秋山・清美&梨乃姉妹(ここではただのクラスメイトという設定)のさり気ない誘導に引っかかっていたせいとはつゆ知らず、気づけば辿り着いていたこの憩いの場を見渡した。
     分厚い辞典。文豪の名著。ある種の神聖さすら思わせる本棚の合間から見えるのは……彼と同じ色の髪を持った女生徒の姿。
     マサチカがはっとした瞬間、机の上で丸くなる『アオ』に読み聞かせるように本を広げていた彼女――瑠璃もこちらに気がついて、優しげな、けれども珍しい宝物を見つけたような表情で会釈した。
    「貴方は……同じクラスのマサチカさんでしたよね」
     そう声をかけられたなら、マサチカも彼女の傍へゆき、隣、いいかな、と微笑む以外にはない。
    「ええ、どうぞ」
     控えめに席を一つ空け、思い思いの本を読み耽る二人。すると途中、近くの席から転がってきた消しゴムがひとつ。
     同時に伸びる手が触れて。慌てて拾いにきた清美の、何故見つめあっているのですか、という疑問を聞いて、二人は急に真っ赤になって……そこで予鈴が午後の授業を告げた。
    「また後ほど」
    「え? ああ、後ほど」
     別れて去ってゆく二人の耳には梨乃の台詞。
    「おね……清美ちゃん。マサチカ様と瑠璃ちゃんはお似合いだと思うのだ……」
     何故だか……どうしてもそれを意識せずにはいられない。

    ●アンニュイな午後
     昼下がりの授業中、マサチカはぼーっと窓の外の空を見つめていた。
     どうにも頭の中を覆う靄。それは図書室から戻ってきて何気なく机の中に手を突っ込んだ時、謎の青白いペーストの瓶がごろごろと出てきたからじゃない。
     確かにその事も、何かを期待した顔で教室の外から上目遣いで窺うゴスロリ電波も気になるけれど……今の彼の心を支配するのは図書室での出来事。なおこれだけハーレム作っておいて今更ウブすぎるとか言ってはいけない。ラブコメってのはご都合主義なのだ!

    「お兄様?」
     耀の心をざわめかせる嫌な風。授業が終わって急いで3-Dに来てみれば、いなづまがこれからやろうと持ってきた、大量のTRPGルールブックとサプリメントの山がマサチカの目の前に。
     ……けれど。
    「ごめんっ! 今日はちょっと、これから行くとこがあるんだ!」
     人気者は大変だねー、とあっけらかんとしているいなづまに引き替え、耀の心は落ち着かなかった。
    「まさか、お兄様……」
     駆け出そうとする耀の袖を、不安げな瞳で木乃葉が引いた。
    「幼馴染のボクも……知る権利はあるよね?」
    「もちろん……風紀委員も調査すべきだよね☆」
     クレンドも。シャオも白哉の後ろに隠れたままで、こくりと強く頷いて。
     そして……そこで白哉から真偽不明の新情報がもたらされる!
    「なら、行こう。相手の瑠璃さんは……実は彼の両親が勝手に決めた許婚なんだ!」
     な、なんだってー!?
     そして皆……我先に図書室へと走り出す!

    ●そして爆発オチ
     見つめあう二人。互いの好きな本について語らっている男女の姿は、皆の潜む本棚の陰からは実に仲睦まじい様子に見えた。
     二人は、一体どうなるのだろうか?
     果たして、誰がマサチカ様の恩寵を受けられるのだろう?
     ハラハラと見守る女の子(約一名除いて全部♂)たち。果たして、マサチカ様を巡る恋の鞘当ての行く末はいかに!?
     ……とその時何の脈絡もなく、ジェフの眼鏡が怪しく光った。

     ちゅっどーん!!!

    「な、何故俺がーーー!?」
     くるくると吹き飛んでゆき、空中でじたばたする鴉の唇は、何の音かとちょうど振り向いたマサチカの顔面に向けて、真っ直ぐに飛んでゆく!
    「それは……ダメだよマサチカ様!」
     飛び込んだいなづまの指先は空を切り……背景に広がるのは薔薇の花。
     思わず石化するマサチカと、魂の抜けたようになる鴉の顔が、必要以上に目に焼きつく。
     ある者はたまらず駆け出して、またある者は反射的に目を覆い、そしてジュリアンの口からは、いつまでもお幸せに、という呪いが紡がれる。
    「マサチカ様……ばかぁーっ!!!」
    「この……ばかああああああ!!!」
     涙目のシャロと震える木乃葉によるダブルパンチが、マサチカの顔面を変顔にした。
    「風紀を乱すな……!」
     さらに、殺意満々なクレンドに、せめてもの慈悲で介錯せんとする白哉。そして、最後には瑠璃と耀が……。
    「マサチカさん、酷いです……」
    「お兄様……破廉恥ですっ!」
     泣いて駆けてゆく二人の後ろで、都市伝説は無事に消滅を迎えたようだった。

    ●帰り道
     灼滅者たちの立つ校門は、夕陽に照らされて赤くなり。茜色に染まる世界は既に、あちら側ではなくこちら側の風が吹いている。
    「実に……大変な都市伝説でした」
     そんな感想を瑠璃は洩らしていたけれど、本当に大変だったのは自分たち男子なのではとジュリアンは遠い目になる。あと、小さな棘のように心に刺さる罪悪感……それを、耀も密かに感じながら。
    「でも……こういう演技も楽しかったかもしれません」
     微笑む耀。言われてみれば、確かに楽しくはあったとシャオも思うけど……ところで俺、ラブコメって何なのか実は知らないんだけど? あと白鷺さん、大丈夫?
    「言うな……噺の吸収もしたくない」
     真っ白なままの鴉の隣で、わかる……と木乃葉もがっくりと膝をついた。
     なんで、女装して男とラブコメを。そして何故登は今もこんなにノリノリで女装中……。
    「なに、無事に終わったんだからいいじゃないか」
     カッコつけながらクレンドが言った。例の世紀末女子の姿で。その事を白哉はツッコもうとして……。
    「えっ!? なんでボクの格好、戻ってないの……!?」
     うずくまる彼にかける言葉は……もう、誰にも残っていない。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
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