駐屯地のアンデッド~兵どもの生屍の跡

    作者:長野聖夜

    ●新たなる危機
    「新学年おめでとう。今年度も良き一年を。新年度を祝した矢先ではあるんだが、日本各地にある自衛隊基地で、アンデッドが若手の自衛官に成り代わっていることが判明したよ」
     軽く祝言を述べるや否や北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が溜息を小さくつきながら告げる。
    「サイキック・リベレイターを照射する前からどうやら入れ替わっていたみたいなんだが、彼らは今までまるで生きている人間の様に振る舞い、自衛隊で生活をして潜伏を続けていたから気づくことが出来なかったらしい」
     今回、予知が得られたのは、サイキック・リベレイターの照射とアンデッドたちが何らかの作戦を行うために動きだそうとしたからの様だ。
    「具体的なアンデッドの目的は残念ながら現状では分からない。とは言え、あまり快くないものであろうとは推測がつく。だから皆には、アンデッド達が動き出す前に、自衛隊基地に潜入して、彼らの灼滅をお願いしたい。……成り代わられた彼らの供養のためにも、ね」
     沈痛な表情のまま、静かにそう告げた優希斗に灼滅者達は其々の表情で返事を返した。

    ●潜入
    「アンデッド達がいるのは自衛隊駐屯地だ。関係者以外が立ち入り禁止になっている」
     まあ、当然といえば当然だろうけれど、と続けながら呟く優希斗。
    「とは言え、自衛隊といっても基本的には一般人だ。皆の力があれば、強引に押し入ることは難しくはない。……まあ、とは言えそれはあまりにも強引過ぎる、できる限り穏便な方法で潜入できれば尚良いだろうな」
     その方が無用な騒ぎも起こさずにすむしね、と優希斗が苦笑を零す。
    「例えば、ESPの旅人の外套があれば、見張りも監視装置も無効に出来る」
     と言うことは、それを使用した灼滅者が先に潜入、監視装置などを切った後に他の灼滅者が潜入する、ということも可能だろう。
    「多分、これが一番穏便な潜入方法だろうね。因みに、基地への潜入後なんだが、アンデッドのいる寮の部屋への地図は此方で用意させてもらっているよ」
     そう言って、机の上に置いていた地図を持ち上げる、優希斗。
    「後、アンデッドのいる寮は一部屋なんだが、残念ながらその一室の入寮者は皆アンデッドに成り代わってしまっている。同室に一般人がいたら誤魔化すのは難しい、と考えたんだろうな」
     そう呟き、俯く。
    「……もっと早く予知できれば或いは、とも思うが、過ぎたことを言っても仕方ない。アンデッド達は、自衛隊員として行動しているから、夜は駐屯地内の寮で就寝している振りをしている」
     その為に、寮の一室に戻っている。
    「その時が、皆がアンデッドを灼滅する好機となる。アンデッドを灼滅したら、速やかにその場から撤退して欲しい」
     優希斗の呟きに灼滅者たちが其々の表情で頷き返した。

    ●戦闘能力
    「今回のアンデッド達なんだが、全部で4名になる。大体10代後半~20代前半の若い男性型のアンデッドだ」
     幸い、と言うべきだろう。
     この中には部隊を指揮する指揮官や班長の様な役職についている者達はいない。
    「とは言え、相手は自衛官だ。人間だった頃から戦闘力が高目だったし、協力して戦闘することに慣れていることもあるから、通常のアンデッドよりはそれなりに強敵になる」
     銃器の扱いに長けていることもあり、エクソシストのサイキックの他にガンナイフに酷似したサイキックを使用してくる。
     また、陣形もただ一列に並んでいるような、容易い構成ではない様だ。
    「この戦いの時、その騒ぎを聞きつけて別室に住む自衛隊員達が入ってくる可能性もある。目的地にたどり着いたら、速やかに人払いはしておいたほうが良いだろう。それから……恐らく無いとは思うのだが、危険を察知して撤退する可能性も否定できない。万が一に備えて、撤退対策もしておくに越したことは無いだろうね」
     優希斗の言葉に、灼滅者たちが其々の表情を浮かべて頷いた。
    「……少し、気になることがある。アンデッドではない自衛隊の武器は、皆やダークネスには全く効果が無い。けれども、ノーライフキングは人間社会を裏から操る手法に長けているということだ」
     それは即ち、もしかしたら、何らかの作戦の為にこのアンデッド達を利用する為の手段と考えている可能性があるということでもある。
    「いずれにせよ、このアンデッド達を灼滅しない限りは、成り代わられた若手の自衛官たちも浮かばれないだろう。……皆、どうかよろしく頼む」
     静かにそう告げ、目を伏せ一礼する優希斗を背に、灼滅者たちは静かにその場を後にした。


    参加者
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    サーシャ・ラスヴェート(高校生殺人鬼・d06038)
    セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)
    師走崎・徒(流星ランナー・d25006)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    荒谷・耀(一耀・d31795)
    氷上・天音(微笑みの爆弾・d37381)

    ■リプレイ


    「生きている人間の様に、か。そういや鍵島達も会社員として生活していたな」
    「4年前の鍵島コーポレーションの事ですか? 話に聞いたことはありますが……」
     まるで闇と一体化したかの様にするりと警備網を潜った文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)の呟きに、周囲の警備員達の配備や状況を確認しつつ旅人の外套を使用していた荒谷・耀(一耀・d31795)が僅かに首を傾げた。
    「ああ、そうだ」
     頷く咲哉に、軽く首を横に振る耀。
    「そちらにはあまり関わったことがありませんね。……阿佐ヶ谷にある水晶城の跡地には行ったことがありますが」
    「そうか。……まあ、その頃から既に屍王達は人間社会に潜伏していた。アブソーバー起動前はダークネスが世界を支配していたわけだし、当時からこいつらも潜伏していた可能性はあるんだろうか、と思ってな」
    「そう、ですね。……でもそうすると、もしかしたらもっと上の方の人達の中にも、成り代わったアンデッド達が……」
     そこまで呟いたところで、耀は口を噤み、俯き加減になる。
    「……もし、警備の人達が寝落ちした夜にこんな事件が起きたら、きっと大騒ぎになりますよね……それも全国で一斉にですし」
    「だな。紛争地の自衛隊員が暗躍すれば戦争を起こすのも、拡大させるのも容易いだろうな」
     表舞台には直接出ずに、人々の社会への不満を煽り。
     そうやって人間社会を操り、恐怖に落とし込んでいるのだとしたらそれは実に……。
    「屍王らしいやり方、だよな」
    「はい。……浮かばれない、ですよね。きっと、アンデッド化された人たちは、この国を護りたくて入隊した筈なのに。その想いを成し遂げることもできず、利用されるなんて……」
     耀の声が僅かに震えるのに、咲哉が小さく頷く。
    「だな」
    「こういうことが起きるなら、足元固めをしたいですけれど……情勢も目まぐるしく動いていますし、難しそうですね」
    「何れにせよ、だ。屍王が動き出すつもりだっていうなら、俺達が止めなきゃな。……そうじゃなきゃ、殺された人たちも浮かばれない」
    「はい」
     彼の言葉に、ギュッ、と胸元で手を強く握りしめて耀が頷き、基地の監視装置を切る。
     巡回している警備員は、咲哉のフォローを受けた耀が優しい風を吹かせて、静かに眠りにつかせる。
     下準備を整えると咲哉が素早く氷上・天音(微笑みの爆弾・d37381)を初めとする、後発隊へと無線機で連絡を入れた。


    「天摩、こっちは異常なしだ」
    「やっぱ頼りになるっすね、徒っちは」
     不測の事態を警戒して、物陰から周囲の様子を伺っていた師走崎・徒(流星ランナー・d25006)の言葉に、獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)が微笑む。
    「それにしても、自衛隊に潜り込んで何を企んでいるんだろうな?」
    「う~ん……屍王が何を考えているのかははっきりとは分かりませんけれど……。でも、ガイオウガの時の様なことを必要な時にわざと起こせる様に、自衛隊を押さえていた可能性はありますよね」
     サーシャ・ラスヴェート(高校生殺人鬼・d06038)が首を傾げるのに、セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)が考え込みながら返事を返した。
    (逆に言えば……)
     少し時間がかかってでも構わないから、此方で自衛隊を押さえておくことは、決して悪いことではないような気がしないでもない。
    「確かにそれならメリットもあるな。まあ、セイメイが死んだ後のノラキンが何を考えているのか、オレには正直さっぱりだけどな! 予兆で話に出ていたアッシュ・ランチャーってのは気になるけど。あれも、人類を管理することと関係あるのかな?」
    「う~ん、どうなんだろうなぁ」
     白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)の言葉にサーシャが軽く首を傾げる間に、天音が胸元のブローチに触れて祈りを捧げる。
     それは、既にアンデッド化している自衛隊員達への手向けだろうか。
    (「自分の知る人がいつの間にか他人とすり替わってるって……」)
     そこまで思考したところで全身にぞっ、と鳥肌が立った。
    「……どんな理由があれ、喪われた物は戻らないし、二度と取り戻せない」
    「そうっすね、天音っち」
     そう自分に言い聞かせる天音の呟きを受け、天摩が何かを思い出す様にその足に装着されているOath of Thronsをちらりと見つめ、それからセレスティの方を見る。
    (「それでも、助けられるものもあるのは救いっすよね」)
     天音の無線機に咲哉から連絡が入ったのは、丁度その時だった。
    「分かったよ!」
    「咲哉から?」
     徒が問いかけると、天音が首を縦に振った。
     天摩とセレスティが、天音が耀達から貰った情報と地図を照らし合わせて相談し、結論を出す。
    「1階の、窓際の真ん中の一室ってところっすね」
    「それなら、二手に分かれて行けば良いかな?」
    「そうですね。それでいきましょう」
    「よし、行こうぜ!」
     天音の問いにセレスティが頷き明日香がまとめ、サーシャ達と二手に分かれての行動を開始する。
     と、その時。
    「あの、天摩さん、明日香さん」
    「ん?」
    「どうしたっすか、セレスティ?」
     セレスティが、天摩と明日香を少しの間呼び止めた。
    「お礼はちゃんとしましたけれど、改めて! この間は助けて頂いてありがとうございました」
    「当たり前だろ。オレはもう、ルナの時みたいな想いをしたくないんだ」
    「そうっすね。きっと、荒谷っちも、同じ思いだったっすよ」
    「……はい。また、よろしくお願いしますね」
     こんな風にまた一緒に同じ作戦に参加出来た事実に気恥ずかしさとも、こそばゆさともとれる微笑みを浮かべるセレスティに明日香と天摩が其々に笑みを返す。
     セレスティ達の様子を見ながら、徒が軽く拳を握りしめた。
    (「あの時は守られた。今度は、僕が皆を守る番だ!」)
     内心で、そう決意を固めながら。


    「それにしても……」
    「どうしたんだ、師走崎?」
     耀及び咲哉と合流し、窓側から部屋に向かい、包囲網を作り上げていた徒の呟きへのサーシャの問いかけ。
    「うん。指揮権の無い一般自衛官。灼滅者には効かない武器。人間を裏から操るのに長けたノーライフキング……」
     そう言いながら、自分の喉元を指さす徒。
    「何というか、この辺りまで出かかっているというか、答えが出てきそうな感じがするのに出て来ないむず痒さを感じてさ」
    「そうだな。その気持ちはよく分かる。だから、アンデッドがどこの所属で任務が何かで何処へ行こうとしてるのか、可能なら調べてみようぜ。そうしたら、師走崎が思っているそれに対する答えも、少しは分かるかも知れないだろ?」
    「うん。そうだね。悩んでいても今は仕方ないよな」
     サーシャが殺界形成を放ちつつ告げたそれに徒が頷く間に、天音がサウンドシャッターで周囲との間に、音を断絶する結界を作る。
     これで、準備は万全。
    「天摩! アテにしているよ!」
    「徒っち、任せておくっすよ!」
     窓から飛び込んだ徒の声に応じて、正面の扉から飛び込んだ天摩が応じ、ミドガルドをスレイヤーカードから解放。
     その天摩の背後から咲哉が飛び出し【十六夜】を下段から撥ね上げる。
     敵襲に気付き陣を組んだ自衛官達の一体が、下段から撥ね上げられた咲哉の刃に斬り裂かれながらもその懐に飛び込み、その手から裁きの光条を撃ちだす。
    「回復は俺に任せておけ!」
     傷を負い、後退する咲哉にサーシャが帯を射出し、その傷を塞いでいく。
    「よし、僕達の連携、見せてやる!」
    「行きます!」
     徒の叫びと同時に、耀が彼岸花の描かれた提灯、曼殊沙華から紅の花を撃ちだし、咲哉に狙いを向けていた自衛官のアンデッドを焼く。
     続けて、徒が星々を思わせる結界を生み出し、天摩達前衛を守る。
    「サーシャっち、徒っち、回復は頼むっす!」
     光の盾による支援を受けながら、天摩が建速守剣で咲哉に斬り上げられた自衛官を斬り裂き、ミドガルドが機銃で畳みかける。
     銃弾により、動きを削がれた自衛官達へと天使の様な白翼を展開したセレスティが、漆黒の殺気を叩きつけた。
    「明日香さん!」
    「行くぜっ!」
     セレスティのアイコンタクトに合わせて明日香がその腰に帯びたベルトを射出し敵を締め上げていく。
    「あたしに出来るのは変わり果てた彼らの魂を救う事。苦しみと悲しみの枷から解き放つ事。その決意に……迷いはない!」
     明日香の帯に絡め取られた自衛官の急所に、内心の誓いを叫びながら天音が妖の槍を捻じりこむ様な鋭い突きを放ち、強烈な一打を与える。
     自衛官が彼を守ろうとするが、サーシャの帯がその足を絡め取りその行動を阻害した。
    「荒谷!」
    「はい!」
     サーシャの呼びかけに耀がメディスンバンカーを放ち、中衛で仲間達の傷を癒そうとする自衛官を貫いている。
    「ぐ……ぐぅぅ……?!」
    (「御免なさい……でも……今は……」)
     僅かに唇を噛み締める、耀。
     もしもっと早く気が付いていれば、こうなるよりも前に助けられたかもしれない。
     けれども、それは、もしも、の話。
     今出来ることは、こうやってアンデッド化した自衛官達を灼滅し、その魂がこれ以上穢れない様、浄化する事だけ。
     素早く離脱しようとする耀へと自衛官達が集中砲火を浴びせようとする。
    「耀!」
     徒がその前に立ち、星の輝きを帯びた盾で攻撃を受け止めた。
     後方の自衛官が徒の背後に空中で一回転しながら回り込み逆さになって銃弾を撃ちだそうとするが……。
    「おっと、そうはさせないっすよ!」
     天摩がその前に立ちはだかり、その攻撃を左腕で受け止めている。
    「おたくらも生前プロとして銃の腕を磨いてきたんだろうど、オレも人外との数え切れない死闘を経て実践で銃の技を鍛え上げて来たんすよ。負けるわけにはいかないっすね!」
     呟きながら、愛銃トリニティダークカスタムに、思念を流し込み一瞬で作成した漆黒の弾丸を収束させて抜き打ちと同時に銃弾を発射すると同時に左腕を上げる。
     合図を受けたセレスティが銃弾に貫かれ、辛うじて着地する自衛官に向け白い薄刃を絹の様な鋼糸で繋ぎ合わせた剣、Ailes d’un angeから天使の羽を舞い散らせながらアンデッドの脇腹から肩にかけてを斬り裂いている。
    「今だ!」
     鋭い一撃に動きを止めた自衛官に天音が銀の燭台に飾られた無垢なる白の蝋燭、Holylight-in the darkの先端からマリーゴールド型の炎を撃ちだして自衛官を焼き払っている。その花言葉と同じ悲しみをその顔に浮かべながら。
    「遅いぜ!」
     続けて明日香が不死者殺しクルースニクで、その片足を叩き切った。
    「流石だな」
     コンビネーションを称賛しつつ、サーシャがラビリンアーマーで天摩の左腕を癒す。
     その間に咲哉が前進し、【十六夜】に覆った漆黒のオーラを闘気へと変え、無数の衝撃波にして自衛官の一体に叩きつけていた。
     中衛の自衛官が回復を諦め、無数の弾丸による制圧射撃を咲哉達に行う。
     ミドガルドがスロットルを全開にして咲哉を守り、徒が明日香を守りつつ自らの周囲に霊力を集めてその傷を癒す。
     敵の連携もさることながら、徒達の連携速度はそれを明らかに上回っている。
     数多の激戦を共に潜り抜けてきた、気心の知れた仲間達であるが故であろう。
    (「でも……」)
     戦いが優勢であるのは承知していたが、徒の胸に過るは、痛み。
     それは、勝手にすり替わられた自衛官達の無念を思いやっての事。
     ――そして、それは。
    (「いつどこでこんなことが起きても不思議じゃないんだよな……」)
     その事実に思い当り、その胸に突き刺さるような戦慄を覚える徒。
     中衛の自衛官が自動追尾弾を彼に向けて発射。
    「やらせないぜ!」
     サーシャが即応して帯を放って弾丸の速度を削ぎ、徒への傷を最小限に止めた。
     後衛の火傷を負った自衛官が無数の銃弾を明日香達に叩きつけるが、明日香の前に天摩が、咲哉の前にミドガルドが立ちはだかり、攻撃による負傷を最小限に抑えている。
    「遅いんだよっ!」
     すかさず天摩の影から飛び出した明日香がダイダロスベルトを射出し、傷だらけの自衛官を締め上げ止めを刺した。


     ――戦いは終始セレスティ達に優勢だった。
     適切な回復、適切な戦い、そして適切な連携。
     中衛の自衛官が咲哉の攻撃を避けるべく全神経を回避に注ぎ込めば。
     セレスティが気が付きその足を斬り裂いて足止めし。
     その隙を見逃すことなく天音がアイスブルーの光線でその身を射抜く。
     雪の結晶の様に、キラキラと残滓が舞い踊るその姿は、まるで天音自身の屍王達への怒りと、自衛官達への弔いの涙と思いを代弁しているかの様だ。
    「耀さん!」
     天音の声に応じて、耀が曼殊沙華から、弔いの劫火とも思える炎の花を放ちその身を焼く。
    「天摩先輩、徒先輩!」
    「了解っす、荒谷っち!」
     天摩がOath of Thronsで炎を纏った回し蹴りを叩き込むと同時にミドガルドが機銃を放ち、そして流星の様な線を引いた膝蹴りを徒が叩きこんでいる。
    「そこだ!」
     徒の一撃によろけたアンデッドの足を咲哉が斬り裂き、ダメ押しとばかりに明日香が絶死槍バルドルの先端から冷気を帯びた弾丸を撃ちだしその身を射抜いて止めを刺した。
    「サーシャ!」
    「分かったぜ、白石!」
     行け、とばかりに叫ぶ明日香の言葉に押されるようにサーシャがその手を鬼の如き形へと変化させて、火傷を負ったアンデッドを殴り飛ばす。
     地面に叩きつけられるように拳を叩きこまれ倒れ込むアンデッドをセレスティが黒死斬で斬り裂いた。
    「どうか、安らかに……」
     耀が祈るように呟きながら黒死斬でその身を斬り裂き、徒が天摩と共に、左右からクルセイドスラッシュ。
     X字型に斬り裂かれた自衛官へとミドガルドが体当たりを敢行し、咲哉が【十六夜】でその全身を穿った。
     ――そして。
    「これがあたしに出来るせめてもの弔いだ……!」
     天音が少しだけその目に涙を滲ませながら、マリーゴールドの花型の炎で自衛官を焼き払った。


    「うーん。やっぱり、ダメだったか……」
    「セイメイの作った生殖型ゾンビにもダメだったって話はあったから、それと同じかも知れないな」
     走馬灯使いが効果を発揮しなかったことに軽く首を横に振るサーシャに、咲哉が静かに溜息をつく。
    「でも、このままにしてはおけませんから……」
    「うーん、まあ、そうだな」
     耀の呟きにサーシャが頷き、咲哉達と一緒に処理を行う。
     その間に徒が階級章と名札を撮影。
     スマホのメールやスケジュールを漁る時間は無さそうだったが。
    「急ぎましょう」
     セレスティの呟きに応じて、灼滅者達はその場を速やかに後にする。
    『屍王……あたしはテメェらを……許さない。絶対にな!』
     無事に基地を抜け、人のいない宵闇の中で、血が滲む程に強く拳を握りしめた天音の、怒りと悲しみ、そして屍王達への憎悪とも取れる怒りを込めた呟きが虚ろに響いた。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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