駐屯地のアンデッド~防人侵せし闇を払え!

    作者:飛翔優

    ●教室にて
     足を運んできた灼滅者たちと挨拶を交わしていく倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)。
     メンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
    「日本各地の自衛隊基地にて、アンデッドが自衛官に成り代わっていることが判明しました」
     成り代わったアンデッドたちは、まるで生きている人間のように振る舞い自衛隊で生活し続けている様子。サイキック・リベレイターを使用する前から既に成り代わっていたらしく、今まで察知ができなかった。
    「今回、サイキックアブソーバーの予知が得られたのは、彼らが何らかの作戦を行う為に動き出そうとしたからと想定されます。アンデッドの目的は不明ですが、悪事であることに間違いはないでしょう。ですので、アンデッドが動き出す前に自衛隊基地に潜入し、灼滅をしてきて欲しいんです」
     葉月は、灼滅者たちの瞳をまっすぐに見つめながら続けていく。
    「自衛隊駐屯地は当然、関係者以外の立ち入りは禁止となっています。灼滅者の力があれば無理やり押し入るのは簡単ですが、今後のことなどを考えると可能な限り穏便な方法で潜入できると良いと思います」
     例えば、ESPの旅人の外套があれば見張りも監視装置もフリーパスになる。故に、旅人の外套を使用した者が先に潜入し、監視装置などを切った後に他の灼滅者が潜入する、といった作戦が可能となる。
     そのような方法で穏便に潜入し、駐屯地内の寮へと向かうのだ。
    「アンデッドは自衛隊員として行動しており、夜は駐屯地内の寮で就寝するふりをするために寮の一室に戻っています。また、同室に一般人がいる場合はごまかすのが難しいと考えたのか……アンデッドがいる寮の一室の入寮者は全て、アンデッドに成り代わっています」
     ですので……と、葉月は地図を取り出した。
    「アンデッドのいる寮の部屋への地図は用意しましたので、深夜に寮に踏み込んでアンデッドを撃破した後、撤退してきてください。続いて、相手取ることになるアンデッドについての説明を行います」
     個体数は五体。全て若い男性型。
     このアンデッドは人間であった頃から戦闘力が高めであった上に、協力して戦闘することにも慣れているためか、一般的な雑魚アンデッドよりは高い力量を誇る。万全を尽くしてなお苦戦するほどではないものの、油断はしないほうが良いだろう。
    「また、何らかの命令を受けているのか、このアンデッドは逃走することも周囲の一般人を人質に取ることもないようです。ですので、その辺りに気を配る必要はないかと思います」
     そして、このアンデッドたちは守りを固めながら一人を集中攻撃する……といった戦法を取ってくる。
     解体ナイフとバスターライフルを携えており、用いてくるアビリティもそれに類似している。具体的には、ジグザグスラッシュとバスタービーム、リップルバスター、といったアビリティを用いてくるだろう。
    「以上で説明を終了します」
     葉月は地図などを手渡した。
    「今回のアンデッドたちは指揮官ではなく、下っ端の隊員になります。ですが、指揮権がなくても部隊での破壊工作を行うなど、自衛隊を混乱させる事は可能……そして、おそらくそれが狙いなのでしょう」
     何よりも、と葉月は表情を引き締める。
    「殺されてアンデッドに成り代わられた隊員の方々の無念、察するにあまりあります。ですので、どうかこの事件の解決を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    天峰・結城(皆の保安官・d02939)
    斎宮・飛鳥(灰色の祓魔師・d30408)
    榎本・彗樹(自然派・d32627)
    七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)
    ニアラ・ラヴクラフト(ナイアルラトホテップ・d35780)
    篠崎・伊織(鬼太鼓・d36261)
    坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)
    神無日・隅也(多くを語らぬ異端者・d37654)

    ■リプレイ

    ●侵入作戦
     街灯を一つ、二つと越えるたび、静寂が色濃いものとなっていく郊外。静寂に沈む自衛隊基地から横断歩道一つ分ほどの距離を開け、灼滅者たちは立ち止まった。
     作戦の最終確認が行われていく中、篠崎・伊織(鬼太鼓・d36261)がコホンと咳払い。
    「おはようございまーす。寝起きドッキリの」
    「静かにしてろ」
     おどける伊織の脳天に、榎本・彗樹(自然派・d32627)が軽いチョップをかます。
     文句を言い、再び警告。
     じゃれ合いを交えながら確認を終え、人々から身を隠す術を持つ天峰・結城(皆の保安官・d02939)と七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)が行動を開始した。
     自衛隊基地のゲートへと向かっていく二人の背中を見送りながら、ニアラ・ラヴクラフト(ナイアルラトホテップ・d35780)はひとりごちていく。
    「王道だ。退屈だ。裏に潜む腐屍の群れなど既知千万だ。殺意で抱擁する事も無意味。奴等の偽生命は破壊する為に佇む。真ならば窮極的方法を執るべきだが、我等は世界の味方で在る。穏便に対処せねば。闃たる削除が義務と解く」
     静かな静かなため息と共に……。

     力を用いて身を隠し、それでいてなお息を潜めて忍び足。
     結城が紅音の前を歩き、前方への懸念を払拭する。
     後方に変わりなきことを確認した上で、紅音が背中を追いかけた。
     互いに足りない部分を補いながら道を抜け、基地内部に入り込んで数十分。セキュリティルームへと到達し……。
    「待て」
     結城が紅音を手で制し、扉の反対側にある壁に背を当てていく。
     倣う形で紅音が動く中、セキュリティルームの扉が開かれた。
     丁度交代の時刻だったのか、それとも何かの用事があったため立ち寄ったのか。一人の自衛官が部屋から出てきた。
     二人は素早く姿勢を落とし、隙間を縫うようにしてセキュリティルームの中へと侵入する。
     扉が閉ざされていく中、ざっと周囲を見回した。
     自衛隊基地の要所や出入り口を中心に、様々な映像を表示しているモニター。緊急時に用いられるだろう機器の数々。
     及び、監視の任務についている者たち。
     結城は口を結び、機器の前へ。
     モニタの操作方法を確認した上で、紅音へ合図を送った。
     連絡した後、タイミングを合わせてモニタを切る。
     復旧までにかかる短い時間で、仲間たちが侵入する。
     幸い、人非ざる何かが周囲に潜んでいる様子はない。多少不審がられたとしても、バベルの鎖の力で問題なしと判断されることだろう。

    「夜間巡回お疲れ様です」
     合図を受けた瞬間、入口近くで待機していた灼滅者たちは彗樹の力で警備員を眠らせて、基地内へと突入した。
     道中、人の気配がする度に力を用いて騒ぎにならぬよう努めつつ、寮の前で先行していた二人と合流する。
     あまり長い時間をかけているわけにもいかないと、カメラの死角を縫う形で中へと侵入。勢いのまま、アンデッドたちが潜んでいるという部屋の前へと到達する。
     改めて彗樹が力を用い、騒ぎを起こしても問題のない空間を作り上げた。
    「……」
     視線のみでタイミングを合わせ、彗樹は入り口扉を蹴り開けた。
     暗闇の中、窓から差し込む月明かりが照らす者。左側に規則正しく配置されている三つの二段ベッドに、本棚といった収納家具。
     素早く起き上がり、視線を向けて生きた五対の瞳……。
    「おはようございます、っと!」
     機先を制するとばかりに、彗樹がクワを床に叩きつける。
     震動と共に発生する衝撃はが五対の瞳を……アンデッドたちを震わせる中、神無日・隅也(多くを語らぬ異端者・d37654)は語り始める粛々と。
     アンデッドたちを蝕むためのお話を。
     部屋の隅から隅まで響くよう。
     暗闇の中、数多の力に揺さぶられながらも、アンデッドたちは枕元にでも置いていたらしいライフルを手に取り窓際へと集まった。
     背後を取られるのを嫌っただけなのか、逃げる気配はない。
     ただ、視線を交わすこともなく、アンデッドたちはゆっくりと銃を構え……。

    ●ターゲットは一人だけ
    「悪いが、自由な動きも許さん」
     結城が縛霊手をはめた拳を握りしめ、結界を起動。
     なおも動こうとしたアンデッドを中心に、紅音は空気を蹴りつける!
    「……先ずは、哀れな彼らを送ってやらないと、ね」
     発生した暴風は、アンデッドたちを結界の中へと押し込める。
     されど構えが解かれることはなく……同時にトリガーは押し込まれた。
     吐き出された五つの光が向かう先、煤色のガンナイフを構えている隅也がいた。
    「……遅いな……」
     光の集う場所を見切り、刃の腹を向けていく。
     五つの光を一度のタイミングで受け止めて、左側へと流していく。
    「……」
     ダメージの全てを殺しきれるわけではない。
     ガンナイフが手に張り付いていくのを感じながら、表情を変えることはなく静かな息を吐き出した。
    「……くらえ……」
     殺気を放出し、浴びせかける。
     同様に表情を変えることのないアンデッドたちを見つめながら、反撃に備えて身構えた。
     情報通りならば、次に狙われるのも自分なのだから。
     自分が倒れるまで、狙われ続けるのだろうから。
     守りの構えを取っていく隅也を、斎宮・飛鳥(灰色の祓魔師・d30408)の防衛領域が包み込む。
    「狙いがわかっていれば、サポートもしやすい。皆さん、隅也さんを全力で支えていきましょう」
     隅也が倒れない限り、アンデッドたちの視線は彼のもの。
     隅也が立ち続けている限り、灼滅者たちは自由に動くことができる。
     サポートを集中させられる分、いくらか効率も良くなるはず……。
    「……来た」
     読み通り、アンデッドたちは隅也へ向けてビームを放った。
     光が収まるのを待ち、飛鳥は防衛領域を広げていく。彼の守りを、更に強固なものへと高めていく。
     攻め手が緩むことはない。
     黒髪ロングな女子高生ビハインド・隣人の振り下ろす得物に呼吸を重ね、ニアラは鋏を振り下ろす。
    「屍に救済。真の死」
     二つの得物が先頭に位置するアンデッドを押さえ込む中、赤鬼のお面で素顔を隠す伊織は影の弾丸を発射した。
    「……よしっ」
     そのアンデッドが動きを止めていく。
     変わらず、他のアンデッドたちは隅也に狙いを定め続けた。
     しばしの後、放たれたのは無数に連なるリング状のエネルギー弾。
     隅也を中心に、放射状に広がる力。
     余波を受けていく前衛陣。
     素早く被害状況を把握し、坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)は隅也に帯を差し向ける。
    「他の方の治療はお願いします」
    「はい」
     飛鳥へ視線を送った後、治療を施しながら目を細めた。
     アンデッドの攻撃は、一つ一つを見てみれば軽く……仮に対象が散っていたとしたら、致命傷になることはまずなかっただろうほどに。
     されど、アンデッドたちの作戦はそれを補うように展開されている。
     受け続ければ、危うくなる可能性は高い。
    「……」
     何かを察したかのように、ビハインドの坂崎・リョウは隅也の隣へと移動した。
    「……?」
     ミサは小首を傾げながらも、首を小さく横に振る。
     不思議な安堵感を覚えながら、拳をギュッと握りしめた。
     可能な限り、支えていく。
     治療を担う者として。
     少しでも早く、アンデッドたちを眠らせてあげるため……。

     鼻、顎、頬、額。
     両肩、首、胸、腹、顔面。
     紅音の放つ無数の拳を浴びたアンデッドが二段ベッドに激突し、手すりにもたれかかるようにして沈黙した。
    「……」
     小さな息を吐き出しながら、紅音は残るアンデッドたちへと視線を移す。
     攻撃の余波を浴びていたのだろう。残るものたちも、多少の違いはあれど概ねダメージを受けていると言って良い状況。反撃の勢いが減ることも考えれば、最初の一体よりも楽に倒すことができそうだ。
     もっとも、油断できるほどの余裕があるわけでもない。
    「……よし、次は……あんたを送るよ」
     一刻も早く彼岸へ送るため、左側のアンデッドへと桜色の太刀を向けていく。
     さなかには霊犬の蒼生が隅也のもとへと駆け寄った。
     隅也は手で制し、大きな息を吐き出して……語り続けた。
     込める力を変えることはなく、ただただアンデッドたちを蝕むため。
     限界を迎え倒れ伏す、その時まで……。
    「っ!」
     彗樹は息を呑み、アンデッドたちを深く観察する。
     視線は伊織へ向けられていた。
    「次は伊織、お前だ。気張れよ」
    「分かった」
     伊織が構え直す中、アンデッドたちへと浴びせかけられていく光。
     混じるように放たれた、四条のビーム。
     一つは影で握りつぶし、一つは魔力の弾丸で叩き落とす。一つは刀で床へと受け流し、一つは左肩で受け止めた。
     立ち上る、嫌な臭い。
     伊織の動きが鈍ることはないけれど。
    「大丈夫だ、問題ない。この程度なら……我は、倒れん」
     アンデッドが数を減らし、妨害の力を重ねた。
     少しずつ、避けるに容易い力に変わっていた。
     隅也が耐えてくれていたうちに……。
    「隅也の死力、無駄にはしない」
    「……ああ」
     頷き、飛鳥は断罪の輪を握りしめる。
    「今は、治療は任せた。天魔覆滅!」
    「はい、任せて下さい」
     自らを軸に回転撃を仕掛けていく飛鳥を見送りながら、ミサは伊織の治療を開始した。
     まだまだ、一人で治療しきれるとは言い難い。けれど、戦いが続くに連れて加速度的に楽になっていく……自分が攻撃に回れるタイミングもあるだろう。
    「……」
     少しだけ生じた余裕を用いて、アンデッドたちへと視線を向ける。
     瞳を伏せ、語りかけていく。
    「この地で生き、欺くためとはいえ人を守り……何も感じなかったのですか? 人の心は完全になくなってしまったのですか?」
     返答はなく、ただただアンデッドたちは引き金を引く。
     時には解体ナイフを手に鳥伊織に切りかかった。
     最後に切りつけようとしていた一体を、闇よりも深き影が飲み込んでいく。
    「……」
     担い手たるニアラは視線を外し、そのアンデッドが沈黙したことを伝えていく。
     バベルブレイカーの杭の先で、次に狙うべき個体を指し示す。
    「最早此度の戦は最終章。真の死を以て、救いを与えん」
     言葉の通り、灼滅者たちは数の優位も活かし構成を強めていった。
     時には治療役を務めるミサも攻撃に参加し、一体、二体とアンデッドを倒していく。
     残る一体の体を、ニアラの影が飲み込んだ。
    「……」
     ニアラが瞳を閉ざす中、結城が影の内側へと入り込む。
    「これで……」
     腹部に百にも近しい拳を打ち込み、本棚へとふっ飛ばした。
     書籍に埋もれるようにして、沈黙していくアンデッド。
     静寂の訪れた部屋の中、灼滅者たちは休むことなく次の行動を始めていく……。

    ●偽りの生活に終わりを告げて
     事後処理などが行われていく中、程なくして隅也は目覚めた。
     倒れた後の事を聞き安堵の息。
     痛む体に鞭打って、手がかり捜索に参加した。
    「……何か、わかれば良いのだが……」
    「ん……そういう感じのものはないね。人の行動とか心理とか、そういうのが多いのは……多分、人の真似をするのに使ってたんだろうし……」
     ……結局、手がかりらしきものが見つかることはなかった。
     灼滅者たちは調査を打ち切り、来た時と同じような方法を用いての帰還を開始する。
     監視が解除されるのを待つ時間、飛鳥は一人思い抱いた。
     いつの間にか、ダークネスが人になり代わっていく世界。共存を望むものだっているのでしょう。
     その時、私たちはどちらに……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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