駐屯地のアンデッド~成り変わった者達

    作者:彩乃鳩


    「日本各地の自衛隊基地にて、アンデッドが自衛官に成り代わっている事が判明しました」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が説明を始める。
     成り代わったアンデッド達は、まるで生きている人間のように振る舞い、自衛隊で生活し続けていたようだ。
    「サイキック・リベレイターを使用する前から既に成り代わっていたらしく、これまで察知ができませんでした。今回、サイキックアブソーバーの予知が得られたのは、彼らが何らかの作戦を行う為に動き出そうとしたからと想定されます。アンデッドの目的は不明ですが、悪事である事は間違いないので、アンデッドが動き出す前に、自衛隊基地に潜入して、灼滅をお願いします」
     自衛隊駐屯地は、当然、関係者以外立ち入り禁止となっている。
     灼滅者の力があれば、無理矢理押し入るのは簡単だが、できるだけ穏便な方法で潜入できると尚良いだろう。
    「ESPの旅人の外套があれば、見張りも監視装置もフリーパスとなるので、旅人の外套を利用した灼滅者がまず潜入、監視装置などを切った後に、他の灼滅者が潜入するという方法がよいかもしれません」
     アンデッドは、自衛隊員として行動している為、夜は駐屯地内の寮で就寝しているふりをする為に、寮の一室に戻っている。
    「同室に一般人がいる場合、誤魔化すのが難しいと考えたのか、アンデッドがいる寮の一室の入寮者は全てアンデッドに成り代わっています」
     アンデッドのいる寮の部屋への地図は用意してあるので、深夜に寮に踏み込んでアンデッドを撃破したあと、撤退することになる。
    「人間だった頃から戦闘力が高めの個体である事、協力して戦闘する事に慣れているといった特徴がある為、自衛隊員アンデッドは、アンデッドにしては、それなりに強敵となっているようです」
     敵となるアンデッドは、男性型で四体。
     逃走する事は無く、周囲の一般人を人質にするような行動も行わないらしい。
    「今回のアンデッド達は指揮官では無く、下っ端の隊員になります。指揮権が無くても、部隊での破壊工作を行うなど、自衛隊を混乱させる事は可能なので、おそらく、それが狙いなのでしょう。殺されてアンデッドに成り代わられた隊員達の為にも、この事件を無事に解決させて上げましょう。皆さん、よろしくお願いしますね」


    参加者
    夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)
    紫乃・美夜古(突っ込みなぞやってられません・d34887)
    栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)

    ■リプレイ


    「事前に寮の地図は確認したけど……出来るだけ見張りや巡回の隊員の有無を確認しないとね。後発組の皆が鉢合わせしないように」
     夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)はESPを使用して先行していた。
     一般人やカメラなどには気付かれず、自衛隊基地に侵入を果たし。監視装置やセキュリティの解除を担当する。
     それが今回の作戦である。
    「自衛隊だと戦争とかと直結しそうだけどな。上層部の方はどうなっているんだろう。いずれは上の方まで入れ換えて戦争起こして人口管理……は邪推かね」
     紫乃・美夜古(突っ込みなぞやってられません・d34887)は侵入組の仲間に止まるように合図を送った。基地内の隊員達が近付いてきて、通路を横切るのをやり過ごす。
    「ここが警備室……今のところ、こちらを追ってくる人影はありませんね」
     風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)も辺りを警戒しながら進み、目的の部屋へと辿り着く。最後まで気を抜かず、何かあればすぐに皆に知らせるつもりだ。
    「恐らく、警備システムをダウンさせる為には複雑な操作や、認識コードなんかが必要だろうけど、見てる人を無力化して、メインスイッチをオフにしちゃえば問題ないでしょ。軍事施設の警備システムなんて簡単に無力化できるもんでもないしね」
     警備システムや、監視カメラの操作方法の一通りの操作方法は一通り学習してある。
     備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)は、警備室にいる自衛隊員の首筋を軽く叩いて無力化してから、システムをダウンさせるべく室内をよく調べる。
    「目的の装置意外は触らないようにしないといけませんね」
     紅詩は暫らく機器の操作方法を確認。
     その際にテレパスも使って、出来る限り周囲の情報を読み取り。関係のありそうなものには目星をつけてあった。
     そう時間はかからないはずだ。
    「そろそろ便りがある頃合いか……」
     卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)達は、外で待機していた。
     侵入組からの連絡を待ち、いつでも動けるようにしていた面々の携帯電話が一斉に震えだす。
    「やってくれたみたいですね」
     仲間からのラインを読みながら、四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)が頷く。片手では光量を抑えたケミカルライトを弄ぶ。
     ゴーサインは出た。
     今なら、警備システムは無効化されているはずだ。全員が基地の……尞の方へと視線を移した。
    「さてはて、彼らの狙いはなんなのか。自衛隊の内部破壊工作? それとも……案外、狙いは俺らなのかもねぇ。ほら、「異能者の天敵は一般大衆」とか、よくあるでしょ?」
     これから対面する敵のことを思い。
     レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が、おどけるように肩をすくませる。
    「っと、くっちゃべっててもしゃーないか。いこうか。スニーキングミッションとか面白いだろ?」
    「自衛隊の施設に潜入するのは、なんだかワクワクしますね。この状況だと、不謹慎ですけど」
     呑気な感想を漏らしながらも、栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)はできる限り音を立てず素早く移動する。先に潜入している仲間から、内部の情報は適宜送られてきているので、安全な最短ルートをとるのは楽勝とまでは言わずとも比較的容易だった。


    「人払いと――」
    「遮音をしておきますね」
     美夜古が百物語を。
     茉莉がサウンドシャッターを発動させる。
     合流した灼滅者達が、件の尞の一室に飛び込むと――そこには臨戦態勢で構えていたアンデッド達が牙を剥く。
    「灼滅者か!」
     殺意が満ちる。
     人の振りをしていた化け物たちは正体を露わに、不気味な叫びをあげる。前もってESPを使っておいてまずは正解だったと言えた。
    「ゾンビ掃討。いやはや……隣人がゾンビに成り代わってるとかかなりホラーだわなぁ。おお、怖い怖い」
     レオンがレイザースラストで敵を迎え撃つ。
     射出された帯がアンデッドへと命中して、一体の勢いを僅かに減速させた。
    「自衛隊にゾンビ、か。命令一つで動くって所は一緒って事かなぁ?」
     鎗輔もスターゲイザーで、また一体を足止めする。
     流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、敵の機動力を奪いにかかる。
    「彼らは何の目的があって自衛隊員に成りすましているんでしょう? まさか、わたし達をおびき寄せる罠ってことはないですよね」
     首を傾げながらも、悠花はシールドバッシュ。
     最低でも1体、できれば2体は注意をひきたい――盾で敵の横っ面を派手に叩いて意気を挫くとともに、壁役を果たさんとした。
    「さて、屍王が長きに渡り潜み、備えた策略。尻尾を掴んだとは言い難いが手繰り寄せる一手とすべく、全力を尽くす所存也」
     泰孝が虚空に印を結び。
     列攻撃……ブラックウェイブを放つ。鎌に宿りし咎の力。それを黒き波動に変え、敵の群れを薙ぎ払う。
    「うおおおおお!」
    「口を閉じてもらいましょうか」
     雄叫びをあげる相手の口へと。
     紅詩はオールレンジパニッシャーを浴びせる。聖碑文の詠唱と共に十字架の全砲門を開放。罪を灼く光線の乱射が視界を覆い尽くす。
    「うーん、生殖型ゾンビと言い、今回の成り変わりゾンビと言い、意外とゾンビもバリエーション豊かなんだねー。感心するところでもないけど」
     敵の攻撃を受けた片っ端から回復する心積もりで。
     士元はメディックとして働く。シールドリング、セイクリッドウインド、予言者の瞳を使い分けて戦線を維持する。
    「自衛隊にアンデッドを送り込む理由はわかりませんけど、罪も無い自衛官の方を殺したのであれば絶対に許すことはできないですね」
     茉莉の正確無比な螺穿槍。
     仲間が攻撃を加えた個体にと、鋭い一閃を加え。サーヴァントのウイングキャットは猫魔法を繰り出した。
    「初撃は、これで」
     美夜古は闘気を雷に変換して拳に宿す。
     抗雷撃。飛びあがりながらのアッパーカットが、アンデッドの顎をとらえて。何かが折れる音がする。
    「灼滅者! 灼滅者!!」
    「殺す、コロス、ころす!!」
    「消す、消す、消す、消す!」
     アンデッド達は灼滅者達の攻撃によって、有り得ない方向に身体を捻じ曲げられながらも。壊れた操り人形のような動きで痙攣して、それでもなお襲いかかってくる。その様は妄執というべきなのか。得体の知れぬ圧がある。
    「さて、敵の連携を破壊するには――」
     レオンはそんな敵群を、戦いつつ良く観察する。
     フォースブレイクで追撃を入れるときも。よくよく見て、見て、見て、分析を欠かさない。
    「それにしても、クーデターでもおっぱじめる気かな? 自衛隊に入り込む理由がよく解らないよ。無目的って事だけじゃないみたいだけど……」
     鎗輔が龍骨斬りを炸裂させる。
     文字通り龍の骨をも叩き斬る、強烈な斧の一撃。それによって一体の右腕が、また粉々に成り果てた。
    「何にしても、国の守りの要である自衛隊をこのままにしておくわけにはいきません。迅速に事を終わらせましょう」
     悠花が手にした棒を自在に操る。
     敵の味方への攻撃を武器のリーチを生かした棒術で邪魔をして、カウンター気味に盾をぶち当てた。
    (「成り変わられた隊員の所属……陸海空、どこを警戒しているかを探り次の作戦察知の手掛かりを得たい所ながら……」)
     虚空ギロチンを決めつつ、泰孝は考える。
     この戦いは、何かの前触れなのかもしれない。備えることができるならば、この部屋の中を十二分に調べておきたいところでもあった。
    「プレッシャーをかけます」
     紅詩のバレットストームが火を吹く。
     弾丸を嵐のように撃ち出し、ばらまき。ジャマーとしてバッドステータスを付与する役割をこなす。
    「人質とか取らないのは残った矜持なのかな?」
    「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
    「まあそういう事にして置いた方がいいのよね多分」
     阿修羅のような形相で襲いかかってくるアンデッド達。
     士元はまじまじと、相手の顔を見やり。頬を少し掻いてから、また味方の手傷を癒した。


    「ケーキ、みなさんを庇える場所に位置取りして」
     茉莉は指示を出し、サーヴァントは鳴いて主人の意に応えて盾役を務める。
     攻撃では、妖冷弾と肉球パンチが合わさり。ダブルアタックが、アンデッドを大きく揺らした。
    「そこ」
     美夜古の鋼鉄拳がまともに直撃する。
     鍛えぬかれた超硬度の拳で、敵を守りごと撃ち抜き。相手のエンチャントごと打ち砕き。ブレイクする。
    「予想より時を要するもの也」
     泰孝は何度も印を結んだ。
     幾度となく相手をふき飛ばす。そして、ふき飛ばされた敵はよろよろと立ち上がり、向かってくる。この工程を何回繰り返したかわからない。
     その均衡が崩れたのは、ある一言からだった。
    「あいつだね……メディックにポジションを移している」
     よくアンデッド達を観察していたレオンが指摘する。
     その一体が、戦闘の要になりそうだと閃きに近いものが脳裏によぎり。あれをオトスべしと攻撃誘導をうながした。
    「あれ、か」
     仲間からの指示に、鎗輔が瞬時に行動に移す。
     己がサーヴァントにも言いつけ。主人のフォースブレイクと霊犬のサイキックとが、指摘された個体に注がれる。
    「ウウウウウウ!!」
    「効いてます」
    「まずは、これを叩きましょう」
     アンデッドが苦しそうに呻く。
     悠花は緋色のオーラを纏った打撃で畳み掛け、紅詩も続いて弱った相手へと一撃を与える。
    「まあ黒幕?もその内追い掛けさせるから、とりあえず先に逝っててよ」
     ここが好機と、士元は影業の先端を鋭い刃に変える。
     斬影刃の一閃が煌めき。ピンポイントで狙った意識した斬撃。味方が集中砲火を浴びせたアンデッドと交錯する。次の刹那、敵の首が落ちてそのまま一体が音もなく消滅する。
    「やっと一体……ですが、これで流れが変わります。この勢いのままいきましょう」
     茉莉の神霊剣が次の標的へと刺さる。
     彼女の言う通り、潮目は確かに変化していた。ほんの僅かな、だが……灼滅者達への確実なる追い風。
    「敵減少により、戦術を切り替える必要性あり」
     今まで列攻撃を行っていた泰孝は、攻撃を単体用のものへと変える。
     七不思議奇譚が敵を押し潰さんと発動され。各個撃破の態勢がまた一歩整えられる。他の者達も、次々に火力を集中させた。
    「順序良く落としていかないとなぁ」
     レオンの黒死斬が深々と、アンデッドの腹を薙ぐ。
     死角からの斬撃が急所を絶ち、足取りを鈍らせた。悲鳴とも、威嚇ともつかぬ敵の叫びが空気を震わせる。
    「ようやく一息つけるかね」
     美夜古は自身をシャウトで回復させる。
     常に周囲に気を配っていた立場としても、相手の手数が減ったので事実として余裕が生まれてきたのだ。
     そして。
    「止め、いくよ」
     鎗輔のご当地キック――古書キックと名付けられた回蹴りが見事に決まる。
     たまらず喰らったアンデッドの身体が、浮かび上がり壁に叩き付けられる。そのまま骸は二度と動くことなく……消滅していった。
    「あと二体ですね」
     間髪を入れず。
     紅詩のレーヴァテインの炎が燃え盛る。今まで積み重ねておいたバッドステータスによって、アンデッド達は反応が遅く。その攻撃を避ける術はない。
    「皆の怪我の具合も落ち着いてきたかな」
     それでも士元は、細めに回復を行い。
     仲間の体力をマネジメントする。最後まで気を抜かず、ヒールとキュアを施す。
    「ウガアアアアアアア!!」
    「あなたの相手は、私です」
     このまま終わってたまるかと、アンデッドがあがくように力を込めたアタックを仕掛けてくる。それを悠花は率先して受け止め、魔力をこめた突きをお返しした。
    (「引き付けてもらっているうちに――」)
     その接戦のタイミングを図り。
     横合いから茉莉がグラインドファイアで攻め込んだ。無防備なアンデッドの右半分が焼け焦げ、そのまま炎が付きまとう。
    「善哉な連携、最適解を導く」
     火に包まれたアンデッドの今度は左半分を目掛けて。
     泰孝はフォースブレイクを当てに行く。身体中に魔力を流し込み、敵は体内から大爆発を起こす。
    「いただきだ」
     爆炎を縫い。
     突撃した美夜古は閃光百裂拳のコンボを決める。オーラを拳に集束させた、凄まじい連撃。瞬きのうちに一体何度打ち付けたのか。アンデッドは身体中にラッシュを受け、粉々の消し炭と化す。
    「――このホラーも終幕だね」
     残った敵は一体。
     それも今までの戦いで、十二分以上にダメージを与えられており。レオンは此度の戦いで最も重く鋭く、クラッシャーの真髄を発揮する。
    「ッツ!!」
     アンデッドは最後に断末魔の叫びをあげようとし。
     しかし、それすらも許される間もなく。光の泡となって消え去る。人を欺き、人と成り変わり、人の脅威となる者達の、それが末路だった。
    「ご愁傷様……誰かを守るためにこの職業に就いた末路がこんな有様とはね」
     幕を引いた本人であるレオンは皮肉げに笑い。
     もう振り向くこともなかった。
     脱出は自分が先行する。速度重視でさっさと逃げるつもりだ。
     穏便に穏便に、スパッと。
    「大事になる前に帰ろう。コレ、ばれたら実刑何年食らうかなぁ。凄く怖いよ」
     息を吐き、鎗輔が早々に片付けと帰り支度を始める。
     確かに、ここはあまり長居すべき場所ではない。
    「監視装置は元の状態に戻しておかないといけませんね」
    「潜入や戦闘の痕跡を残さないようにしておかないと」
     紅詩は再び闇纏いを発動させた。士元も出来得る限りの後始末を行う。
     今回は帰るまでが作戦のうちでもある。
    「手掛かりになるものは――皆無か」
    「残念」
     室内を物色していた泰孝と美夜古は肩を竦める。
     ここにあるのは、ごくごく日常的な生活用品がほとんどだ。
    「気付かれないように速やかに撤収しましょう」
    「もし見つかったら、私が噛んで記憶をあいまいにしますね」
     茉莉が帰路につき。悠花は吸血捕食の準備をしておく。
     一人、また一人と灼滅者達は基地を後にする。追伸。幸いにもと言うべきか、この日吸血された自衛隊員はいなかった。

    作者:彩乃鳩 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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