駐屯地のアンデッド~不死者は潜む

    作者:湊ゆうき

    「みんな、新学期早々集まってくれてありがとう」
     橘・創良(大学生エクスブレイン・dn0219)が教室に集まった灼滅者たちを見回し、説明を始める。
    「実は、日本各地の自衛隊基地で、アンデッドが自衛官に成り代わっていることが判明したんだ」
     アンデッドといえば、ノーライフキングが関わっているのだろうと予想できる。何か動きがあったのかと灼滅者たちは創良の話の続きを待つ。
    「成り代わったアンデッドたちは、まるで生きている人間のように振る舞っては、自衛隊で生活を続けていたようなんだ」
     その成り代わりは、どうやらサイキック・リベレイターを使用する前から行われていたようで、今まで察知することができなかった。
    「今回予知することができたのは、彼らが何らかの作戦を行うために動き出そうとしたからだと考えられるよ。目的はまだよくわからないけど、悪事であることは間違いないから。みんなには、アンデッドが動き出す前に自衛隊基地に潜入して、彼らの灼滅をお願いしたいんだ」
     今回潜入してもらうのは、関西にある自衛隊の駐屯地のひとつ。
    「どこの駐屯地でもそうだけど、当然関係者以外は立ち入り禁止になってるよね。みんなの力があれば、無理矢理に押し入ることもできるけど、できるだけ穏便な方法で潜入できるといいと思うんだ」
     例えばESPを使って……と創良は続ける。
    「旅人の外套を使って先に潜入をした仲間が監視装置とかを使えなくして、あとから他の仲間が安全に潜入する、とか」
     アイデア次第で他にも穏便に潜入することが可能だろう。
    「アンデッドは自衛隊員として行動しているから、夜は駐屯地内の寮で就寝しているふりをするために、寮の一室に戻っているよ。アンデッドがいる寮の一室の入寮者は全てアンデッドに成り代わっているみたい」
     さすがに同室に一般人がいると、誤魔化すことができないと考えたのかもしれない。
    「アンデッドが部屋にいる深夜に寮に踏み込んで、彼らを撃破した後、撤退して欲しいんだ」
     そう言って創良はアンデッドがいる寮の部屋が記された地図を手渡した。
    「寮の部屋にいるアンデッドは4体。若い男性の姿をしているよ。ものすごく強いってわけではないけど、人間だった頃から戦闘力が高くて、また協力して戦うことに慣れているから、アンデッドにしてはそれなりに強敵かもしれないね」
     アンデッドの内2体はバトルオーラに似たサイキックを、別の2体は解体ナイフに似たサイキックを使うようだ。
     また、指示があるまでできるだけ目立たないように行動するように司令されているためか、アンデッドが逃走したり、一般人を人質にとるような行動を取る心配はない。
    「今回のアンデッドたちは、指揮官ではなく下っ端の隊員みたいなんだ」
     何かの作戦の準備なのか……ただ指示に従っているだけだとすれば、情報収集などはできないだろう。
    「人間社会を裏から操ることに長けているノーライフキングが何かを行おうとしているのは確かだから。この作戦を成功させることで、それを食い止める力になると思うんだ。どうかみんなよろしく頼むね」
     そう言って創良は灼滅者を送り出した。


    参加者
    墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    詩夜・沙月(紅華護る蒼月花・d03124)
    咬山・千尋(夜を征く者・d07814)
    黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)
    緑風・玲那(疾駆朱翼の戦乙女・d17507)
    神之遊・水海(宇宙海賊うなぎパイ・d25147)
    フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)

    ■リプレイ

    ●深夜の潜入
     街も人々も眠っている深夜。
     自衛隊に潜むアンデッドの企みを潰すため、灼滅者達は駐屯地にやって来た。
    「ふぇぇ、ノーライフキングさん達の統率者さんがいない間にゾンビさん達が自衛隊に就職していたんですね」
     目深に被った大きな帽子に手を当て、フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)がおどおどした様子でそう呟く。
    「就職ってのとは、ちょっと違うと思うが」
     闇に溶け込む黒のロングコートとゴシックジャケットを身に纏った咬山・千尋(夜を征く者・d07814)が苦笑混じりに首を振ると、フリルは違うんですか?と首を傾げる。
    「相手は自衛隊に潜り込んでどうしようとしてるんだろう……」
     墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)の言う通り、何か目的があって潜入していることは間違いない。
    「自衛隊員に紛れ込んで、軍隊でも乗っ取るつもりなのかしらね」
     神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)もひとつの可能性を示唆する。
    「リアルに自衛隊の中に敵がいると想像すると怖いですわね。部隊を動かされたら手に負えなくなりそうですし、何とかしませんと」
     明日等の呟きに同意し、黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)も最悪のシナリオを想像し、緊張感を高める。幸いなのは今の内に手が打てることだ。
    「自衛隊基地に潜入するだなんて悪いことしてるみたいでドキドキしちゃうなー」
     緊張よりも好奇心が勝った神之遊・水海(宇宙海賊うなぎパイ・d25147)は、自衛隊員と戦うというシチュエーションにわくわくしてしまう、ちょっぴり脳筋な格闘少女なのだ。
    「まさか、こんな所で潜伏をしていたなんて……」
     自衛隊の中に潜入するなど予想外だったと詩夜・沙月(紅華護る蒼月花・d03124)も危機感を強める。
    「利用されているアンデッドの方々も、元は人間なのであまり傷付けたくはないのですけれど……」
     せめてもの弔いとして、悪事を止めましょうと、沙月は決意を込めて呟く。
    「何か違和感を感じる、杞憂でしょうか?」
     数々の依頼を経験してきた緑風・玲那(疾駆朱翼の戦乙女・d17507)だが、何か嫌な予感を覚える。腰程まである黒髪の毛先が紫に染まっているのは、闇堕ちの影響。そんな修羅場を経験してきた彼女の嫌な予感はよく当たるのだ。
     けれど、立ち止まってはいられない。悪事を食い止めるためにも、今できることを為さなければ未来はないのだから。

    ●静かなミッション
     自衛隊の駐屯地はもちろん関係者以外立ち入り禁止。アンデッドが成り代わっているという話をするわけにもいかないので、なるべく一般人に気付かれないように穏便に作戦を実行する必要がある。
    「気を付けてくださいね?」
     先行組として先に潜入する玲那を気遣うように見送るりんご。
     玲那と千尋は旅人の外套で、明日等は相棒のウイングキャット・リンフォースと同じ銀色の猫に変身してその身をくらませる。
     後発組に見守られながら、先行組は駐屯地の中へと消えていった。

     玲那と千尋が物音を立てないよう慎重に進んでいき、明日等は猫の姿となったその身を目立たせないよう監視カメラにも気をつけながら進む。
     警備員の巡回を確認しつつ、監視装置の電源を切るべく制御室へと向かう。巡回に出ているためか無人のその部屋でなんなく監視装置をオフにする。3人は目配せをして頷くのだった。

     一方後発組は、駐屯地近くの目立たない場所で連絡があるまで待機していた。水海はサウンドシャッターを展開し、念のために物音を消す。
     目立たないよう黒い上着を羽織った沙月は神妙な面持ちで先行組からの連絡を待つ。
    「上手くいってるといいですね……」
     フリルがぽつりと呟いた。
     由希奈は今回自衛隊に入り込んでいたアンデッドの動きについて考えることがあった。その緊張で強張った背中をふいにりんごが指先でつつーっとなぞる。
    「ひゃぁぁぁぁぁっ!?」
     あまりに突然のことに思わず変な悲鳴が由希奈の声から漏れる。
    「も、もう……何するのっ」
    「しーっ。びっくりしすぎですわよ?」
     親しい間柄の二人だからこそ、由希奈はりんごが緊張をほぐそうとしてくれたのだとわかる。
     そのとき、先行組からのメールがりんごに届く。
     監視装置を切ったことと、敷地内の警備の様子、寮までのルートなどが記されている。
    「それでは、行きましょうか」
     情報を共有し、皆が頷くと、灼滅者達は不死者が潜む自衛隊内部へと足を踏み入れるのだった。

    ●アンデッド潜む寮
     後発組が先行組の情報に従い敷地内を進んでいく。監視装置を切ったとはいえ、寮の中にはアンデッド以外の自衛隊員がたくさんいるのだ。物音を立てないよう、目立たないよう隠れて移動する。アンデッドがいる部屋に着く前に、自衛隊員と思しき青年に一度出くわしたが、すぐさま沙月が魂鎮めの風で眠らせ事なきを得る。最悪の事態にも備えていたことが功を奏した。
     アンデッドがいる部屋の前で8人が合流すると、先行組はESPを解いて戦闘準備を調えていた。目線でお互いの健闘をたたえ合いながら、いざアンデッドの元へ乗り込む。
     玲那は全員が突入したのを確認すると、扉を閉め逃走を妨害する。水海が素早くサウンドシャッターを展開し、戦場音を遮断。それを確認した明日等が先制攻撃を仕掛ける。
    「ここは国を守る人達がいる場所よ!」
     帯がベッドに横たわるアンデッドを布団ごと貫く。なり代わられ、殺された自衛官。彼らの誇りを汚したことを明日等は許すわけにはいかない。
     眠っていたわけではないのだろう。アンデッドは敵襲だと気付くと素早い身のこなしで戦闘態勢を調える。まだ若い男性達だが、瞳に生気の色がない。間違いなくアンデッドなのだ。
    「ガッチリ系男子は嫌いじゃないけど、アンデッドじゃなぁ……」
     千尋は思わずそう呟きながら、八二式殲術サーベルから破邪の光を宿した居合いを繰り出す。
    「ナイフ持ちから狙いましょう」
     敵の武器を見定め、玲那が冷静に分析し仲間に語りかける。玲那が軽やかに踊るような動きで影の触手を放つと、羽を思わせる衣装がふわりと揺れる。フリルのイカロスウィングがアンデッドたちを捕らえると、沙月の神薙刃が、水海の鬼神変が、りんごの居合斬りが間髪入れずに叩き込まれる。
    「隙を見せずに切り刻んであげましょう」
     死角を作らないように油断なくアンデッドに対するりんご。声を掛け合い、仲間との連携で隙を窺わせない。
     アンデッドたちも一筋縄ではいかない相手だと悟ったのか、連携した動きを見せる。ナイフを持ったアンデッドが二体同時に前衛に襲いかかる。ウイングキャットのリンフォースとイージアがすぐさま味方をかばうと、その隙に、ナイフ持ちを回復する別のアンデッド。
    「攻撃こそ最大の防御という言葉もあります。どうか、皆さんは攻撃に専念を」
     傷ついたサーヴァントを清めの風で癒しながら沙月。その言葉に応えるように、出来る限り攻撃に転じる仲間達。
    「アンデッドが最近騒がしいです」
     桜よりも華やかな意匠をこしらえた美しい刃を持つ日本刀を構え、りんごは美しい太刀筋で真っ直ぐに刀身を振り下ろす。息を合わせた由希奈が踏み込み、ウロボロスブレイドを高速で回転させ、威力を増した一撃をお見舞いする。
    「自衛隊の中で戦うなんて、なかなかないよね」
     珍しい機会に水海はわくわくしながらオーラをまとった拳を繰り出す。けれど、時間をかけるつもりはない。がんがん攻撃して早めに決着をつけるまでだ。
     灼滅者たちは一貫して同じ敵を狙い、傷つくと沙月を中心に声を掛け合い、回復を行い隙を作らない。アンデッドたちもアンデッドにしては連携した戦いをしている方なのだろうが、数々の戦いをくぐり抜けてきた灼滅者たちの方が何倍も上手だ。徐々に追い込まれていくのだった。

    ●真実の行方
    「お勤めご苦労様……と言いたいところだけど。おたくらのお偉いさんは、第三次世界大戦でもやらかしたいのかい?」
     アンデッドの拳を受け流し、千尋はお返しとばかりに人を喰らう鋏で衣服ごと断ち切る。
    「不死の軍団でも作るつもりなのかしら」
     妖の槍に螺旋の捻りを加えて敵を穿ちながら、明日等も呟く。だが、彼らは命令に従うだけの下っ端。もちろんその答を知るはずもない。
    「違和感はぬぐえませんね」
     ただならぬものを感じながら、玲那は除霊結界で動きを封じにかかる。
    「いつから、何の目的で自衛隊に潜入していたんでしょうか……」
     フリルも疑問を口にし、指輪から放った魔法弾で、敵の動きを制御する。
     今は目の前の敵を撃破するしかない。戦線を守りつつ、高火力で確実に一体ずつ沈め、自衛官アンデッドは動かなくなった。
    「どうか、安らかに……もう二度と、あなた方の眠りが妨げられませんように」
     沙月はそっと手を合わせ、目を閉じる。
    「みんな、無事かしら?」
     明日等が全員に声をかけ、頷いたのを見ると、今度は戦闘後の作業に入る。
     大事にならないようにと、由希奈は擬死化粧で死体を偽装する。
     あとは少しでも何かが得られればと思い部屋の中で情報収集を行う。
    「少しでも、手がかりがあればいいんだけどね」
     アンデッドの持ち物や部屋にある資料類などをカメラで撮影し、データとして持ち帰る。
     彼らは指示に従っているだけだとすれば、重要な情報は知らされていないだろう。けれど、そこから読み取れるものもきっとあるはずだ。この場ではわからなくても、全国の自衛隊駐屯地からの情報を持ち帰れば、あるいは――。
     寮の中の調査を終え、巡回警備に気を配りながら、監視装置を元に戻す。その間も何か情報になりえそうなものはカメラで撮影し、情報として持ち帰る。
    「私の嫌な予感が、杞憂であってくれればいいのですが……」
     駐屯地をあとにした玲那が振り返り、ぽつりと呟く。けれど、胸のざわつきは依頼の前よりも強くなっている気がした。
     その予感は皆同じようで。複雑な表情を浮かべたまま、それぞれ思うところがあるようだ。
     とにかく、今はこの情報を持ち帰るのみ。
     ノーライフキングの真の目的は、すぐに明らかになるだろう。

    作者:湊ゆうき 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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