駐屯地のアンデッド~危殆はそこに

    作者:ねこあじ


     灼滅者たちが教室に入ると、そこには説明資料を手にした遥神・鳴歌(高校生エクスブレイン・dn0221が待っていた。
     挨拶を終えたのちに鳴歌は説明を始める。
    「日本各地の自衛隊基地にて、アンデッドが自衛官に成り代わっていることが判明したの」
    「……!」
    「成り代わったアンデッド達は、まるで生きている人間のように振る舞って、自衛隊で生活し続けていたみたい。
     これまで察知できなかったということは、サイキック・リベレイターを使用する前から既に成り代わっていたんだと思う。
     だけど今、サイキックアブソーバーの予知が得られた。その意、彼らが何らかの作戦を行うために動き出そうとしているのではないか――そう想定したわ」
     静かに、密やかに、防衛の要へと伸びた魔の手。
     日常という名の盤。水面下での工作が十全であれば、盤面は一気にひっくり返る。
     ――そうなる前に、
    「アンデッドの目的は不明だけれど、悪事であることは間違いなし。アンデッドが動き出す前に、自衛隊基地に潜入して、灼滅をお願いしたいの」
     と言ったのち、鳴歌はこの教室に集まった灼滅者たちが向かう自衛隊基地を地図上で示した。


    「自衛隊駐屯地は、当然、関係者以外立ち入り禁止となっているわ。
     皆さんの力があれば、無理矢理押し入るのも簡単だと思うけれど、できるだけ穏便な方法で潜入するのをお勧めしたいかな」
     騒ぎになると何が起こるか分からない、と鳴歌。なるべく避けたい事態だ。
     と、なると。
     灼滅者たちは潜入に最適なESPを挙げ始めた。
     見張りも監視装置もすり抜けられるのは、旅人の外套や闇纏い。一般人や光学機器に認識も記録もされない。
     鳴歌は頷く。
    「それを利用すれば、誰かがまず潜入し、監視装置などを切ったあとに、他の灼滅者が潜入するという方法もとれるわね」
     どういった作戦をとるにしろ、慎重さが大事となるだろう。
    「アンデッドは、自衛隊員として行動しているから、夜は駐屯地内の寮内で就寝しているふりをするために、寮の一室に戻っているみたい。
     同室に一般人――普通の自衛隊員さんね――がいると、誤魔化すのが難しいと考えたのか、アンデッドがいる寮の一室の入寮者は全てアンデッドに成り代わっているわ」
     この一室、いわゆる営内班アンデッドは五体。
     鳴歌は用意していた地図をひろげた。
    「アンデッドのいる寮の部屋への地図は、これ。深夜に寮に踏みこんでアンデッドを撃破したあとは、速やかに撤退してね」
    『駐屯地への潜入』『一般人への対応』『撤退時の方針』など、想定しておいたほうがいいことは色々ありそうだ。
     次にアンデッド五体の戦闘能力の説明を始める鳴歌。
     敵構成は、ジャマー三体、クラッシャーが二体。
     五体とも、ガンナイフと鋼糸を使い攻撃してくる。
     人であった頃に備えた基礎戦闘力、そして恐らく協力しあって戦うということに慣れている。
    「普通のアンデッドよりは強く、連携もしてくるけれど、油断しなければ大丈夫」
     灼滅者に向かって力強く鳴歌は頷いた。
     今回のアンデッドは、何らかの作戦を行うために動き出そうとしているのではないか、ということを踏まえれば、あまり目立たないようにしているのではないかと想定される。
    『逃走』することはなく、かつ周囲の人間を人質にするような行動は起こさないだろう。
    「アンデッドたちは、いわば今は待機の状態ね。
     自衛隊の武器は、灼滅者にもダークネスにも効果はないけれど、ノーライフキングは人間社会を裏から操るのを得意としているみたいだから、何らかの作戦に使用するつもりなのかしら……」
     首を傾げたのち、鳴歌は灼滅者一人一人へと目を向けた。
    「考えることは色々あるけれど、まずは彼らをどうにかしなきゃ。
     どうか皆さん、気を付けてね」


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)

    ■リプレイ


     夜の自衛隊基地は、冷ややかな堅牢といった印象に近い。
     とはいえ日中は前の通りを行き交う車、予定していた見学ツアーの人など、それなりに人の通りがある。
     それらに紛れ、外側から潜入地点の選定を行った灼滅者たちは今再びその場所へと戻ってきた。
     警衛のいない位置。鉄柵が夜間照明に照らされ、より強固な印象をもたらす。
     先に潜入するのは気流を纏う鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)と、闇を纏う木元・明莉(楽天日和・d14267)だ。
     彼らの起こす現象は、その力故に一般人や光学機器に認識も記録もされなくなる。
     事前に調べた駐屯地内地図を思い描き、監視用装置のある建物を目指す。
     消灯時間が過ぎ、今は当直の者らがいることだろう。
     基地業務群の一帯は他より明るめだが、節電のためか、外に配置された照明はやや暗い。
     建物に入り、監視室らしき場所を特定したのち中を窺う。幸い扉は開け放たれており、煌々とした室内を十分に観察できた。
     机に座る当直の自衛官は書類のファイリングをしていて、手元の作業に集中しているようだ。
     モニターに映る営内を見て、脇差と明莉が頷き合う。
     必要時は気絶させる手もあったが、自衛官は監視装置に張り付いているわけではなく、別の仕事をしながらのシフトであるようだ。
     静かに入室し、切り替え式の監視モニターと、並ぶ装置を調べる。
     見たところ、監視カメラは二人の通ってきたルートには七つ。仲間が隊舎付近に辿り着くまでに三つ。
     加えて外部からの潜入の一歩目である柵付近には配置されたカメラが当然あり、そして監視用警報装置がある。慎重に確認していった明莉が電源を切った。
     素早くモニターを全く違う場所の監視画面へと切り替え、軽く偽装をする。
     これで、当直がちらりと画面を目にしても不審に思うことはないはずだ。
     ルート確認をしながらここまで来た脇差は、携帯を弄る微かな音すら自衛官に聞かせまいと念のために入り口付近まで移動し、駐屯地外で待つ仲間へ監視装置をオフにしたことをメールで知らせる。
     その間、周辺を探る明莉は一週間分の警備のタイムスケジュールを見つけた。
     タイムカード本体に近くに差し込まれたクリアファイル。この駐屯地では一週間、巡回は規則正しく場所場所で、タイムカードを押すようだ。
     明莉に促され、それらを見て即座に二通目のメールを打ちながら脇差は考える。
    (「実際自衛隊組織のどこまで食い込んでいるのやら。
     もしかすると人間の協力者も居るのかもしれないな……全く厄介な話だぜ」)


     隣人が、同じ釜の飯を食う仲間が、突然死をもたらす敵対行動を取る。
     そこに躊躇しない『人』はいるだろうか。
    (「いないわけがないですの」)
     鉄柵に手をかける黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)は、平和に暮らす一般人のことを想った。
     躊躇した一瞬が、自衛隊の混乱を招き大きな事態を呼ぶ。
     死線を潜り抜けてきた灼滅者たちは、駐屯地の柵を越える時、どこか俯瞰する目で営内を見た。
    (「何を企んでいるかはさて置き、これ以上世を不条理にて乱させる訳には行かない」)
     駐屯地内にニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)が降り立つ。
     アンデッドたちがどんな作戦をとろうとしているのか、それは今は分からないが、未然に防ぐために灼滅者がここにいる。
     ミリタリー風の服装のニコと同じく、神凪・燐(伊邪那美・d06868)の身もその柄に包まれている。
     先行班からのメール内容を思い出し、慎重に歩を進めた。
     一通目は監視装置をオフに切り替えたこと・ルートを確認し問題はないこと、二通目は巡回の時間だ。
     巡回の者だけではなく、もしかしたら、夜中に起きてしまった自衛官の窓からの目撃あるいは警衛の交代に向かう者と鉢合わせしてしまうかもしれない。
     極力見つからないように進みたいところだが『偶然』は常に起こり得るものだ。見つかってしまった場合の対応は念のために用意してある。
     ミリタリー服に身を包んだ灼滅者と、千布里・采(夜藍空・d00110)の一見階級が上位と見て取れる服装。
     プラチナチケットを使い彼らが連れ立って歩くと、目撃した者は何らかの任務遂行に赴くところ――と感じるだろう。最近は何かと不穏な動きが多く、なおさらそういった考えになる。
     その上で見つからない確率をあげたのは、ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)の先導・偵察だった。
     闇を纏った状態で、五人より少し先行して進んでいたミカエラは、すぐに戻って五人の視界に現れる。
     大きく手を振ったのち、両腕で大きな丸を描く。
     誰かが視認したことを確認すると、軽やかにターンし、再び先を行くのだ。
     よく跳ねるポニーテールは、いつもの赤いリボンではなく黒いシュシュ。
     合図を目にした今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)が迅速に移動する。
     紅葉たち灼滅者は油断することなく、常に耳を澄ませて近くに人がいないかの確認を怠らない。
     その時、気配に気付き紅葉は止まった。
     警戒の目を向ければ、現れたのは先に潜入していた二人だった。合流した灼滅者たちは生活隊舎内へと足を踏み入れ、アンデッドのいる部屋を目指す。


     駐屯地内は、少し古い学校のような雰囲気があった。
     それが寮内に入ってますます増した。
     扉の前で灼滅者たちは視線を交わす。
     静かに開けて室内へと入ったニコは、まず確認した。カーテンは閉まっている、一番最後に紅葉が入り、扉を閉め施錠したところで電気を点け――気配に気付く。
     就寝しているふりをするアンデッドたちは、眠っているわけではない。
     窺う気配が変化したのを感じ、ニコはサウンドシャッターを展開、すでに室内で武器を手にした灼滅者の攻撃が初手となる。
     牽制に明莉が激震を横薙げば、アンデッドたちは素早く寝台から跳躍した。
     振られた大刀が即座に上へと持ち上がり、振り下ろす超弩級の一撃。
    「先手必勝、させてもらいましょか」
     よろめくアンデッドめがけ言う采。
     先の攻撃に追随し軽く跳躍した采が蹴りを放つ。流星の煌きに比例した鋭さ、重力を宿したそれは重い一撃となり、アンデッドを蹴り飛ばした。
    「なんとなく、嫌な感じやねぇ」
     びりりと脚に伝わるのは、ただのアンデッドではない、鍛え上げられた身体の厚さに采が呟いた。
     生者であった頃の肉体がそのまま利用されていて、地力があるのが分かる。
     燐のすらりとした指には真っ赤な石の指輪。かつては人であった敵の身へ石化をもたらす呪いが、曼珠沙華から放たれた。
    (「一族と同じく、防衛を担う者たち――」)
     彼女の凛とした佇まいは護る者としての意志が、魂にあるから。
     だからこそ、今回の事を起こした黒幕に憤りを感じて燐は誓う。
    「それ以上の過ちを犯す前に、止めさせていただきます」
    「スレイヤー……!」
    「任務ノ遂行ニ、差シ障ルト、判断」
     アンデッドの動きが戦闘態勢へと入った。
     三体のアンデッドが飛び退き、三方向から鋼糸が繰り出されるなか、違う二体へと迫った脇差がエネルギー障壁を展開し殴りつける。
     脇差と並ぶようにとびこんだのは采の霊犬とミカエラだ。
     二方から軌道がぶれず身を斬り裂く鋼糸を受けた霊犬とミカエラ――ハッと気付く――、一体から放たれた結界のようにピンと張り巡る糸。咄嗟に橙色のローラースケートで糸を遠ざければ、擦れる金属音。
     タイトな黒スーツに結界糸を触れさせることなく回避するミカエラ。脇差は明莉にも向けられた結界糸へと割り込んだ。
     月夜蛍火に阻まれた鋼糸がキリリと音を立て、作られた道を明莉が駆けた。
     紅葉が人差し指に嵌めた指輪に口付けると、周囲の空気が意を持ち、柔らかな金の髪がふわりと動く。
    「いま、回復するね」
     敵ジャマーの三体同時の攻撃を受けた前衛に向かって、風に変換された祝福の言葉が解放された。
    「あたいも!」
     紅葉に続き、ミカエラからも浄化の風。
     広いわけではない部屋に張られた糸は、動きを抑制してくる。
     思わず舌打ちしたニコがPrismaを繰れば軽やかな金属音とともに鋼糸が切れ、腕を振る領域が広くなった。
    「このまま全てを断ち切らせて貰う」
     言った彼の蛇腹剣が加速し、敵群を斬り裂く。アンデッドの体をざりりと裂く刃が伝えるは、死した者なるどこか鈍く重い肉。だが、透き通る刀身は保たれ、振るう度に反射する光は鈍ることなく。
     剣を受けるアンデッドたちに向けて、白雛が聖碑文の詠唱とともに十字架の全砲門を開放した。その勢いに熱気が吐き出されたのは白雛が纏わせる炎故か。
    「さぁ……罪に裁きを、魂に救済を。断罪の時間ですの!」
     白雛の高らかな言葉とともに罪を灼く光が敵群を薙ぎ払った。


     敵中衛の結界糸が今度は後衛に向けて張られ、敵前衛一体の銃口が紅葉に照準をあてた。
     だが、その照準がぶれ、目前に迫る脇差に向かう。
    「いいぜ、こっちだ!」
     エネルギー障壁を展開した脇差に敵意が向けられるのは当然のことともいえた。
     自動的に狙う特殊な弾丸をぎりぎりまで引きつけた脇差はそれを回避したのち、振り向き様に刀を振るう。既に喰らいついてくるもう一体へと向き合った。
     自衛隊仕込み、正中線が見て取れるほどに確りとした格闘術を零距離で受け、いなし振った刃の軌道付近から敵を喰らう影を放つ。
     間髪入れずに続く霊犬の斬魔刀。
     その間、囲う糸は灼滅者の斬撃によって解かれ、敵の連携は意味をなさない体たらく。かわりに残った敵中衛が動こうとしても、六人による牽制攻撃が仕掛けられ、どうしても二拍三拍と遅れた。
     これを好機とし、灼滅者側は連携を重ねる。
     既に敵中衛の一体は倒され、残り二体、そこに灼滅を見た燐が魔法発動域を指定した。
     体温低きアンデッドの凝固した血が凍りつくほどの、灼滅を促す魔法。
    「ウ、オオオオォォ……!!」
     アンデッドの最期の叫びに、冷気に、燐の護衣・伊邪那美が煽られ翻る。
     残った中衛一体に灼滅者の攻撃が次々と放たれた。
    「灼滅者、障礙、障礙」
     敵は銃身に取り付けられたナイフを翻し、明莉へと斬りつける。
     その斬線を擦る軌道で明莉はオーラを集束させた拳を繰り出した。腕に切り傷が走るも、拳は敵頭を捉え、その死肉を潰す。
     アンデッドの生前は、どんな人間だったのか。
    (「楽しかった事、悲しかった事、嬉しい事。全てもう憶えていないのか」)
    「……そんな「箱」だけの存在なら、消えてしまえ」
     呟く。勢いにのり遠心力をきかせた最後の一打が敵の頭蓋を砕き、千鳥足が如くの後退をみせたのちにアンデッドは倒れた。

     コン、コン。
     ノックは、何故か室内によく響いた。
     びくりと止まったのは、残った二体のアンデッド。その隙を灼滅者は逃さない。
     確かめるようにガチャリとドアノブが回り、鍵を出す微かな音が紅葉の耳に入った。少女は踵を返した。
     開けられる前に、開ける。
    「! 何をしている、消灯時間はとっくに――」
     微かに開いた扉から室内の光が廊下へと差し込むと同時に、自衛官の声。
    「お前何も見てない、自分の部屋に戻れ」
     自衛官の声を遮るように威圧の言葉。紅葉は、扉を開いた僅かな隙間から王者の風を吹かせた。
     息をのむ気配、力なく去っていく足音。
     この間にも戦いは続いていて、中衛を失った敵は変わらず脇差へと敵意を向けているのだが、その攻撃は灼滅者たちの攻撃によって阻まれる状況にある。
     床を這うように放たれた牽制の糸を跳んで避けたミカエラが滞空した刹那、大地に眠る有形無形の畏れを纏った。
     緩やかな曲線を描く畏れの先は、鋭く振り下ろす斬撃。
     しなやかに身を屈めた着地――低頭し、間合いから離脱するミカエラの頭上で一閃したそれは、殺戮経路を辿るニコの蛇腹剣だ。
     肉薄する彼が横一文字に薙げば、柄に近い刃から剣先までの斬撃は高速のなか、より引き延ばされた。
     Prismaを振り抜き、広がった袖を翻すニコ。
     その時、指輪から離れる唇で紅葉が言う。
    「アンデッドが生きてる人のふりをするなんてありえないの。
     ――アンを削って本物のデッドにしてあげよう」
     瞬間、紅葉は集中させたオーラを放ち、敵を灼滅へと導いた。
     残るは一体。
     完全な攻勢に出た灼滅者の勢いに為すすべもなく翻弄されるアンデッドへ、白雛が言った。
    「そろそろ終わりにしますの!」
     黒炎、白炎。
     白雛から噴出した炎が戦闘用碑文に宿っている。
     盾のように構え、跳躍しその身ごと体当たりした白雛はアンデッドの胴半身を潰し、更に叩き飛ばした。
     その勢いに散っていくは焔の残滓。
    「アアアァァ!」
     延焼し続け、灼ける死肉は呆気なく使いものにならなくなっていく。
     されど痛み感じぬその体は、残る胴半身片腕となっても鋼糸を振るった。
     大きく広く放たれたは糸は渾身のものであったが、迫るそれを采は槍を捌き相殺する。
     間合い大きく二歩。
     繰る穂先をアンデッドが銃身で弾くも、動きを重ねる采は、反動を利用し槍柄で敵を打ち払った。
     逆手から順手へと持ち直す槍は、軽やかな空を切る音とともに冷気を生み出す。
    「ちゃんと無事に眠ってもらいましょ」
     撃ち出した冷気のつららが敵を穿ち、延焼に灼けた体を砕いていく。
    「アア……ァァ」
     ぼろりと死肉は屑となり、力なく崩れ落ちていくアンデッドは呻いた。
    「待つ人がいはったやろに。
     ――おやすみなさい」
     物言わぬ躯となったそれに、采は柔らかな声色で言うのだった。

     明かりを点けた以上、再び誰かに見咎められてしまうかもしれない。
     室内を手早く片付ける灼滅者たち。
     だが暗い中での戦闘は、不自然な光を放っただろう。きっと巡回または目撃した自衛官は不審に思い、騒ぎとなったはずだ。
     再び明かりを消し、部屋を後にする。
     闇を纏うミカエラが先を行き、来た時と同じように偵察と先導を行う。
     六人が外へ出ると、潜入時は先行班だった二人が、監視用装置を元の状態に戻した。
     室内は変わらず同じ当直がいて、注意を払ってそっと建物を出た。

     春の盛りを過ぎつつある夜の空気は、どこか生温い。
     それは死の領域に踏みこみながらも動き続けるアンデッドのような、生と死の境界、そんな空気だった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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