駐屯地のアンデッド~前のめり4人組

    作者:東加佳鈴己

    「みんな集まってくれてありがとう!あのね、日本各地の日本各地の自衛隊基地で、アンデッドが自衛官に成り代わってることが分かったの!」

     灼滅者達を招集した須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)は、手元の資料からわたわたと一つの依頼書を差し出した。
    「みんなにお願いしたいのはその一つだよ。中部地方のある駐屯地に潜入して、成り代わっているアンデッドを灼滅してほしいの」
    「サイキック・リベレイターを使用していたのでは?」
     灼滅者の一人が疑問を口にする。意を得たり、とまりんは頷いた。
    「サイキック・リベレイターを使う前からすでに成り代わっていたみたいなの。だから今まで察知できなかったんだけど、今回、彼らが何か作戦を行おうとしたから、予知ができたみたい」
     どんな作戦をするのか、目的は何かまでは予知されていないようだ。
    「でも、悪事であることは間違いないから、アンデッドたちが動く前に、灼滅してきてください!」
     灼滅者達が力強く頷くのを確認して、まりんは説明をつづける。

    「じゃあ、詳しい内容とか、注意を説明するね。まずは潜入だけど、できるだけ穏便な方法で潜入してくれるとうれしいな」
     当然ながら、自衛隊駐屯地は関係者以外立ち入り禁止になっている。灼滅者の力をもってすれば無理矢理押し入ることもできるが、ESPを活用して、先に潜入した灼滅者が監視を切るなど、うまく立ち回ってほしいとのことだ。
    「作戦時間は夜、自衛隊のひとたちが寮に戻ってからだよ。アンデッドたちは、まるで生きている人間みたいに自衛隊員として行動しているから、夜は就寝するふりをするために、寮に戻るの。そこを狙ってね。目的の部屋までの地図はここに用意してあるよ」
     つまり、就寝時間の深夜に寮に侵入、アンデッドを撃破後、夜のうちに撤退してくればよいらしい。なるべく、穏便に。
     自衛隊員室は一室全てがアンデッドになりかわっているという。今回潜入する先では一室に4名、つまり4体のアンデッドがいる。
    「アンデッドは全員若い男性型だよ。それほど強くないけど……人間だったころから自衛隊員だった戦闘力が高い肉体だし、戦闘で協力する訓練を受けている自衛隊員だから、それなりに強敵だと思うから、気を付けて」
     4体の内訳は、バスターライフル相当を装備したクラッシャー、WOKシールド装備のディフェンダー、ガンナイフ装備のジャマ―、ガトリングガン装備のスナイパー。就寝時間だが、全員ミリタリー服を装備しているそうだ。
    「回復行動は殆ど行わないはずだよ。ジャマー以外は全員の攻撃が届く範囲で弱っている相手から狙ってくるから気を付けてね」
     そう言いながら、4体のアンデッドたちの資料を灼滅者達に差し出した。顔写真付きのプロフィール資料に、アンデッドの戦闘能力が添付された書類。
     資料に視線を落として、まりんは少し悲しそうに微笑む。
    「全員同期で、もともとすごく仲良しだったんだって。だからいつもべったりで行動してても疑われてなかったみたいなんだ……やりきれないよね。彼らのためにも、頑張って事件を無事に解決しよ!」


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    鴻上・巧(氷焔相剋のフェネクス・d02823)
    病葉・眠兎(奏愁想月・d03104)
    ヴォルフ・アイオンハート(蒼き紫苑の涙・d27817)
    三和・透歌(自己世界・d30585)
    篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)
    ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)

    ■リプレイ

    ●闇に潜みて
     駐屯地に到着した灼滅者たちは、先行して監視機器を無力化する4名と、建物外で待機し連絡を待つ4名の二手に分かれて行動を開始した。連絡先はすでに交換済みだ。後発組の鴻上・巧(氷焔相剋のフェネクス・d02823)たちは、駐屯地から離れた場所で、先行組からの連絡を静かに待っていた。
    「自衛隊駐屯地にアンデッドが潜んでいるだなんて……」
     信じられない、といった表情でソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)は駐屯地の高い壁をみつめた。ノーライフキングの動きが活発になっている事は、エクソシストの彼女には看過しがたいことだ。
    「上層部にノーライフキングが潜んでいるのでしょうか」
    「全貌は分かりませんが……随分と、回りくどい策は動いていそうですね」
     素っ気ない口調で、サウンドシャッターを展開した三和・透歌(自己世界・d30585)が答えた。策略自体に感慨はない――退屈でなければ良い、それだけだ。
     二人の会話を遮るように、暗がりに黙って潜んでいた影道・惡人(シャドウアクト・d00898)が姿を現した。手には彼愛用の耐戦闘用スマートフォン。メールの着信示す小さな光が明滅している。待機場所から300メートル以内に一般人がいないことを確認した、という連絡だ。
    「では、殺界形成を使いますね」
     巧の確認に惡人が静かに頷いた。人から見つかりにくい待機場所を選んではいるが、一般人を遠ざけておくのに越したことはないのだ。

    (「嫌な予感のする依頼だな」)
     ヴォルフ・アイオンハート(蒼き紫苑の涙・d27817)はメールを打ち終えたスマートフォンのライトを落とし、溜息をついた。ここ最近のダークネスの動きを考えると、今回の入れ替わり事件は方向性の違う嫌な依頼だと思う。
     とはいえ、今は推測よりも役目を果たすのが先決だ。闇纏いを使い、ルート上の一般人の偵察を行うのが今回の役目。夜間ゆえ見回り程度で一般人は少ないが、身を隠す術のない後発組のルートを確保しておく必要がある。脳内で地図を描きながら、ヴォルフは次の目標地点を目指した。

     ヘッドセットから流れてくるメールの読み上げ音声を確認して、病葉・眠兎(奏愁想月・d03104)は『進め』のハンドサインを行動を共にする二人に示した。漆黒の蛇の姿に変化しているロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(赤紅・d36355)と、猫に変化している篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)が後に続く。ロードゼンヘンドはその体を生かして狭い場所へ入り込み、監視機器の配線を落としていく。高所にある配線は、眠兎の指示をうけて零花が処理をする。
    「……戦闘が苦手な分、潜入は頑張らせていただきませんと、ね」
     テキパキとした行動、的確な推測で目的の部屋に至るルート上の監視機器をあらかた無効化し終え、眠兎は再びヘッドセット越しにスマートフォンの通話機能を起動した。
    「待機組、応答願います。潜入の準備は整いました……ルートを指示致します」

    ●潜入VS突撃!
     後発組の4名は、先発組の働きとサウンドシャッターの展開で大きなトラブルもなく寮の部屋へとたどり着いた。各々戦闘態勢を構え、頷き合う。透歌のウェッジ、眠兎のテッケンラビット号もスレイヤーカードから召喚済みだ。
    「いきます」
     ディフェンダーを務める透歌が手短に宣言し、素早くドアを開ける。開放と共に、ライトを全開に照らしたテッケンラビット号が突撃していく!
    「なんだ……うおっ!?」
     扉の先には、予知通り、まるで人間そのものの若い自衛隊員の4人組がいた。テッケンラビット号に続いて突撃した眠兎の姿を確認して、リーダーらしき男が悔しそうに舌打ちをした。
    「侵入者か!」
     ──旅人の外套を見破ったということは、まるで人間にみえても一般人ではない。
     敵であることを確信した灼滅者たちは、狭い寮の部屋へ次々と飛び込んでいく。最後に入ったヴォルフがすかさず扉を閉める。
     呼応して、アンデッドたちも素早く陣形を整え、WOKシールドを展開した男が勇ましく声をあげた。
    「排除するぞ!突撃!」
     その洗練された動きは、素体のものか、アンデッドのものか。どちらかは分からないが──黒蛇から姿を戻したロードゼンヘンドは、蛇のように笑みを深めた。
    「『駒』は楽にしてあげないとねー。なるべく穏便、に」
     言葉とは裏腹に、強烈な黒死斬をディフェンダーに放つ。
     重い一撃に人と変わらぬうめき声が敵から上がるが、続けて攻撃する惡人の勢いに変化はない。
    (「感情なんざ今は欠片もいらねえ。敵の時点で、ただの『物』だ……たまったもん出すだけ、だっ」)
     狙いすましたブレイジングバーストがスナイパーのアンデッドに着弾する。続く眠兎の緋牡丹灯籠がさらに炎を強めた。
    「好きにはさせんぞ……!」
     敵も一方的にやられはしなかった。前衛はワイドガードと高速演算モードで能力を高め、ジャマ―とスナイパーが、眠兎たち前衛を足止めすべく援護射撃とバレットストームを重ねてくる。
    (「ちゃんとした連携……何を企んでいるのか知らないけれど、仲のよい四人組を手駒にするなんて非道ね」)
     そっと瞑目しながら、零花は予言者の瞳を使った。
     ヴォルフは逃走を警戒して、敵と仲間の動きを見ながら白炎蜃気楼で後衛に支援をかける。
     巧、透歌、ソラリスの最初の狙いはディフェンダーだ。オーラを纏った巧のトラウナックルがシールドをかいくぐって打ち込まれ、透歌のブレイジングバーストと、セイクリッドクロスがディフェンダーを弱らせた。
     双方前衛に傷を負いながら、戦いの火蓋は落とされた。

    ●密室の戦い
    「我らは作戦を遂行するのみ、邪魔をするなら殺すまで!」
     アンデッドたちが一斉に、HPの低い零花に狙いを定めるが、透歌とウェッジが射線を遮る。ジャマ―が庇いを掻い潜り、零距離格闘を零花に仕掛けた。
    「ん、回復のないディフェンダーは脆いねえ。最初に倒しちゃおう」
     ロードゼンヘンドがニコニコと笑いながら、軽い口調で集中攻撃を仲間たちに呼びかける。
    「いわれるまでもねぇな、一番軽く吹き飛びそうだぜ!」
     惡人が悪態をつきながらディフェンダーに向けてホーミングバレットを打ち出す。
    「惡人さん、部屋は吹き飛ばさないでください……ねっ」
     バトルオーラを纏った巧の拳の連打がシールドにヒビを入れる。
    「んなことすっかよ!」
    「……元気ね。でもソラ、回復してあげて」
     零花は、バッドステータスを負った透歌に対して回復の指示をソラに出しながら、指示通りにアンチサイキックレイをディフェンダーに打った。ソラリスの彗星打ちも重なり、ディフェンダーの僅かな強化はあっという間に無効化される。眠兎とテッケンラビット号も的確にディフェンダーへとダメージを重ねていく。
     ヴォルフは初手でダメージを負った前衛全体を白炎蜃気楼で癒すが、範囲回復では僅かにヒール量が追い付いていなかった。状況を見て祭霊祭も混ぜていったほうがよさそうだ、と冷静に判断を下す。回復に専念すれば支えきれるダメージ量だった。

     連携に優れた戦闘力の高い個体とはいえ、所詮は4体のアンデッドに過ぎない。集中砲火を浴びた零花、零花を重点的に庇う透歌が深い傷を負っていた。しかし、灼滅者たちも命中重視の集中砲火作戦だ。敵もディフェンダー、体力の低いジャマ―、と一人一人脱落していく。
     最後にのこったスナイパーが、自暴自棄気味のガトリング連射を、元々体力の低いソラリスへ放った。だが、殆ど攻撃を受けていなかった彼女には焼け石に水だ。攻撃を耐えたソラリスが天星弓を引き絞る。
    「摂理を歪めし存在に、今こそ終末を!」
     高らかな声と共に放たれた彗星撃ちがスナイパーの胸を打ち抜き、最後の一体が崩れ落ちた。

    ●痕跡は闇に沈み
    「……皆、お疲れ様ね」
     零花は小さく息をついた。灼滅されたアンデッドたちは遺体を残さなかった。
     ミリタリー服と、人間のような生活感のある寮の一室だけが目の前に残っている。
    (「……ノーライフキング達が何を企んでいるのか、情報不足だけれど……彼らのためにも、彼ら以外の犠牲者のためにも……灼滅してこれ以上被害がでないように頑張りたいわね……」)
     部屋から消えた4人を想い、人知れず決意を新たにする零花に、その気持ちに答えるようにソラが頬を寄せた。
    「さて、怪しいものがないか調べなければなあ」
     ロードゼンヘンドは侵入中も名簿などがないか注意はしていたが、目立った収穫は得ることができずにいた。
     さっと見渡した限りでは、この部屋にも書類らしきものはないようではある、が。
    「念のため、私は服の部隊章をカメラに収めておきます」
    「じゃ、俺が不審な持ち物がないか確認するよ」
    「……問題のない範囲で、回収もしておくわ」
     ソラリスとヴォルフ、零花が答える。頷くと、ロードゼンヘンドは自らは黒蛇に再び姿を変えた。、
     眠兎はすでに脱出経路上の証拠隠滅の算段を立て始めていた。
    「んなもんほっとけっ……じゃ行くぜ」
    「惡人君待って!」
     気怠そうに退出しようとした惡人をヴォルフが慌てて呼び止める。
    「俺も一緒にいくよ。後発組の脱出は俺が先導する」
    「証拠隠滅は、私たちに任せてください」
     眠兎が自信ありげに言う。この手のことに慣れているのはあまり嬉しいことではないが、慣れているのは事実なのだ。
    「僕は手早く脱出した方がいいと思う。すぐに撤収しよう」
     監視機器の映っていない時間が長引くと、不審さが増す。巧の言葉には一理あった。
     灼滅者たちは、侵入時のチーム分けに、ヴォルフだけ変更を加えて、速やかに脱出を試みることにした。

    「侵入時より、慎重にいきましょう」
     小声で提案する巧に、惡人が無言で頷いた。戦いが終われば惡人は無口だ。
     先に脱出するメンバーの中には、一般人に見とがめられないESPを使えるのはヴォルフしかいない。
     物影のある場所では、闇纏いを使ったヴォルフの偵察で巡回を潜り抜けることができた、が。
     建物の間の開けた場所を通る際、監視機器の遮断を不振がった中年隊員と鉢合わせをしてしまった。
     すかさずソラリスが王者の風を発動すると、びくり、と中年隊員は体を正した。
    「あなた」
     その小さな体からは想像をできないような威圧感のある声で、ソラリスは言う。
    「今みたことは、大人しく忘れて立ち去ってください」
     慌てたようにこくこくと頷くと、隊員は逃げるように立ち去っていった。
    「別の人に見つかる前に、脱出しましょう」
     透歌の言葉に5人は頷き、最初の待機場所を目指して歩を速めた。

     眠兎、零花、ロードゼンヘンドは、先に戻った巧からの情報を元に巡回を避けながら、各自配線を戻しながら無事に帰還した。
     作戦前の待機場所で再び合流した灼滅者たちは、潜入ミッションを終え、速やかに夜の闇の中へと消えていった。

    作者:東加佳鈴己 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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