駐屯地のアンデッド~決戦への布石

     初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)の新たな報せは、日本各地の自衛隊基地において、アンデッドが自衛隊員に成り代わっている事が判明した、というものだった。
    「成り代わったアンデッド達は、生きている人間のように振る舞い、自衛隊内で生活し続けていたらしい。しかも、サイキック・リベレイターを使用する前から既に成り代わっていたらしく、これまで察知できなかったのだ」
     しかし今回は、アンデッド達が何らかの作戦を起こそうとしたためか、サイキックアブソーバーの予知を得る事ができたのだ。
    「アンデッドの目的は不明だが、大きな作戦の前触れかもしれない。敵が本格的に動き出す前に自衛隊基地に潜入し、灼滅を頼みたい」
     だが、当然ながら、自衛隊駐屯地に関係者以外が入る事はできない。
    「君達灼滅者の力なら、無理矢理侵入することもできなくはないが……できれば穏便に事を進めたい。ESPの1つ、旅人の外套を使えば、見張りや監視装置の類もくぐり抜ける事ができるだろう」
     杏が提案したのは、まず旅人の外套を使った灼滅者が潜入し、監視装置などを切った後に、他の灼滅者が潜入するという方法だった。
    「アンデッド達は夜になれば、駐屯地内の寮の一室に戻る。自衛隊員として行動している以上、就寝しないのは不自然だからな」
     成り代わったアンデッド達は複数おり、正体がばれにくいよう、1つの部屋にまとまっているようだ。
    「部屋までの地図はこちらで用意する。それに従って深夜に寮に入り込んでアンデッドを撃破したあと、すみやかに撤退してくれ」
     敵の数は5体。全員が、若い男性自衛隊員に偽装している。
     普通のアンデッドの戦闘能力は低いものとされるが、今回は事情が違う。人間だった頃から戦闘力が高めである事、また、協力して戦闘する事に慣れているという特徴のため、アンデッドとしては能力が高いようだ。
     5体のうち、2体がガンナイフ相当のサイキックを使うクラッシャー。
     1体が解体ナイフ相当のサイキックを使用するディフェンダー。
     そして残る2体が、バスターライフル相当のサイキックを使うスナイパーだという。
    「ノーライフキング達は、アンデッドを自衛隊に潜り込ませて一体何を企んでいるのか……。アンデッドからその手がかりは得られないかもしれないが、見過ごす事はできない。よろしく頼む」


    参加者
    タシュラフェル・メーベルナッハ(白茉莉昇華セリ・d00216)
    風間・海砂斗(おさかなうぃざーど・d00581)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)
    ルイセ・オヴェリス(白銀のトルバドール・d35246)

    ■リプレイ

    ●潜入
     深い夜。
     自衛隊駐屯地の内部を行く4つの影は、しかし、誰の目にも映らない。
     ESPである闇纏いが、その存在を人間の、そして機械の視覚から覆い隠しているからだ。
    (「自衛隊の基地に侵入することになろうとは……思わなかったわな」)
     森田・供助(月桂杖・d03292)の抱く感想は、同行する先発隊、そして敷地の外で待つ仲間達も同じだろう。
     だが、この件の黒幕が『奴ら』ならば頷けるかもしれない。人間社会に入りこむ事に長けた、ノーライフキングならば。
    (「日本の防衛機構に潜り込んでたとは、どうも臭うな……」)
     これが敵の本命の作戦か否か。情報不足の現状では、ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)にも判断がつかない。だとしても、足を止める理由にはならぬ。
    (「でも、一緒にいる仲間が、知らないうちにアンデッド……こわいよねー」)
     風間・海砂斗(おさかなうぃざーど・d00581)が、傍らの仲間をちらりと見遣り、ぶるりと身震いした。
     やがて、事前にもらった地図に従い、神凪・朔夜(月読・d02935)らが監視部屋にたどり着くと、監視役が詰めていた。
    (「これは、姿を隠しただけじゃどうにもならないよね」)
     仲間とうなずき合った後、朔夜は供助と共に力を行使する。
     監視役を、眠気が襲う。魂鎮めの風の前に、全員が眠りに就いたのを確認し、監視カメラなどセキュリティ関係の無力化に着手する。
     次々と操作していくヘイズ。敵地ならばいざ知らず、ここは自衛隊の駐屯地。物理的な破壊を行うわけにはいかない。アンデッド灼滅後、現状を回復するためにも。
     先発班の任務を果たした事を確認し、供助が後発班へと連絡する。
     作戦の第一段階成功の報せを受け、待機していたタシュラフェル・メーベルナッハ(白茉莉昇華セリ・d00216)、ルイセ・オヴェリス(白銀のトルバドール・d35246)らが行動を開始する。
     ESPによる遮蔽のない壱越・双調(倭建命・d14063)などは、ミリタリー服に身を包むなどして、偽装としている。
    「ところで、それは何?」
    「まあ、あれだ。潜入任務のお約束アイテム、というか、な」
     小首をかしげるルイセに、風真・和弥(風牙・d03497)はそれまで身を隠していたダンボールをささっ、と片づけると、後に続いた。

    ●突入
     迎えに来た朔夜達の導きで、後続班は先発班の元へ。
     合流した二班は、一路、寮を目指す。
     見回り等の隊員の気配に神経をとがらせつつも、皆の心中には様々な思いが渦巻いていた。
    (「隣にいる奴がもう生きてない……ちょっと所じゃないホラーだよ、其れって」)
    (「ホラーが極まる前に片付けちゃいましょ。……にしても。国家機関に敵の手駒が入り込んでる、ってなかなか厄介な事態よね」)
     思考しつつも、供助やタシュラフェルの足は静かにして迅速だ。
     時間の事もあり、タシュラフェルには若干の眠気もあるが、気力でカバーしている。この件の先行きに関する興味が原動力のようだ。
     闇纏いを使った仲間が先に進路を確認しつつ、ルイセ達が進行。持ち場を離れる事の無い相手に対しては、魂鎮めの風を使い、突破していく。
    (「自衛隊に紛れてるってことは、有事に一斉蜂起したりもできるよね」)
    (「……そういえば、随分前にノーライフキング達に命じられた眷属が、新たな眷属にする為に優秀な人間を殺して連れ去ろうとするという事件があったな……」)
     見回りをやり過ごす間、ルイセや和弥が、敵の目的に考えを巡らせる。穏便に済ませたいという思いがあるため、隊員に直接干渉せずに済むのなら、それに越したことはない。
     やがて、目的地である寮が見えてくる。海砂斗が想像するのは、そこに住む……あるいは『住んでいた』人の事。
    (「たぶんアンデッドに成り代わられた元の人たちは殺されちゃったんだよね……気の毒だな……。うん、弔い合戦だ!」)
     そんな気持ちを抱くのは、双調も同じ。自身も津軽を護る任を担い、国の魔を祓う役目を持つ神凪の一員。自衛隊の護りの理念に関しては、双調も共感するところ。
     果たして一行は、目的の部屋へとたどり着く。全員でアイコンタクト。
     そしてヘイズが、扉を開け放った。
    「はいはい、お勤めご苦労様……突然ですが貴様らは此処で2階級特進して消えろ……」
     返って来たのは、言葉ではなく、砲火だった。
     隊員の装備などでは決してない光線が、そして追尾弾が、容赦なく灼滅者へと注がれる。警戒は怠っていなかったという事か。
     しかし戦闘音は、和弥のサウンドシャッターによって遮断される。
    「起動(イグニッション)!」
     和弥もスレイヤーカードを解き放ち、抗戦状態に入る。
     こうなれば、もう遠慮する必要はない。海砂斗がそれまで閉じていた口を開いた。
    「人間ぶりっこももう終わりだかんな!」
     攻撃の第一波をやり過ごすと、ディフェンダー陣を先頭に、室内へとなだれ込む灼滅者達。
    「国を護る役目を担った皆様がこんな姿にされて……さぞかし無念でしょう」
     双調が注ぐ視線の意味を、アンデッド達は理解していまい。その悲しみを帯びたまなざしと言葉が、既に死せる者の魂へと向けられた事など。

    ●交戦
     まずは、敵の守りを打ち崩す。
     ディフェンダー担当のアンデッドへと、朔夜が飛びかかった。敵が大振りのナイフを得物とするのに対し、朔夜の武器は神なる力降ろせし剛腕。
     打撃を受け止めた敵の反対側から、間髪を入れず、和弥の蹴撃が来る。
     手応え……この場合、足応えと言うべきか……に、和弥は違和感を覚えた。威力に影響があったわけではないが、その体さばきに普通のアンデッドにないものを感じたのだ。
    「これが、能力が高めって意味か……!」
     灼滅者の集中攻撃を、敵も指をくわえて見ているわけではない。
     ディフェンダーの背後から、スナイパー役の2体が、光線を飛ばして援護。
     灼滅者達が怯んだ隙に、ディフェンダーも毒の嵐を巻き起こす。その一方で、攻撃役の1体が、銃剣のトリガーを引いた。光の尾を引いて、後方の供助を狙撃する。
    「双調兄さん!」
     同じ防衛の任に就く家の物として、そして守り手として。義兄と朔夜は、文字通り双璧となり、敵の攻撃をしのぐ。
     敵も連携においては通常のアンデッド以上かもしれないが、義兄弟の間で培われたものには及ばないはず。
     すると、もう1体のクラッシャーが、朔夜へと貼り付いた。自衛隊仕込みの技術を合わせた零距離での格闘術は、ただのアンデッドの使うものではない。
     しかし、灼滅者側、ヘイズとて殺人術の使い手だ。
    「アンデッドを殺すには、頭を潰すのが手っ取り早いってな!」
     ヘイズの繰り出した剣が、隊服ごとディフェンダーを切り裂いた。刃に与えられた名の通り、雷の如く。
     が、頭を狙った本命の斬撃は、相手の振り上げたナイフによって逸らされる。
    「ちっ、死人は大人しく死んでなッ!」
     舌打ち1つ、ヘイズがバックステップ。
     反撃に出ようとするアンデッド達の足並みを、タシュラフェルが乱した。温度低下術式によって、敵の肉体から熱エネルギーを奪取。まともな生命活動とは縁を切った身といえど、氷結は制約となる。
     アンデッド達に押し出されるようにして、廊下に飛び出す灼滅者達。傷ついた灼滅者達は、突如響いたメロディを耳にした途端、気力がわき上がってくるのを感じた。タイミングを見計らっていた海砂斗が、今だとばかり、回復の旋律を奏でたのだ。
     しかし、海砂斗が回復の要と見抜いたアンデッド達は、そちらへと攻撃を集中させようとする。
     だが、それを遮るように、ルイセのダイダロスベルトが飛来した。自在に弧を描いて巧みにアンデッド達に巻き付くと、その足を、腕を、捕縛する。
     更なる制約を与えるため、魔弾を放つ双調。その形相は、怒りに満ちていた。それは現在対峙するアンデッド達ではなく、自衛隊の高潔な志を汚した黒幕へと向けられたものか。
     集中砲火を浴び満身創痍になりながらも、一矢報いようとしたディフェンダーが、不意に動きを止めた。
     供助のダイダロスベルトが、その背中をえぐっていたのだ。
    「国を護ろうと鍛錬する人達がいる場所を、人じゃないものに壊されちゃ困るよ」
     どう、と倒れるディフェンダー。
     敵の牽制射撃を刀で弾きつつ、次の標的に向かう供助。残る敵は、4体。

    ●撤収
     守り手を失った穴を埋めるように、クラッシャーの1体が援護の射撃を行う。
     だが、直後に供助の刀を胸に受け、姿勢を崩したところに、タシュラフェルからとどめの一撃が来る。
     援護役のスナイパーが自己強化で態勢を立て直す中、もう1体のスナイパーの砲口には光が宿る。
     朔夜がその光状をかいくぐり、残るクラッシャーへとクルセイドソード『可惜夜』を一閃させる。
     双調は、ダイダロスベルトを撃つ一方、清めの風で味方の傷を癒すことも忘れない。
     敵が減った事で死角がとらえやすくなったのは、和弥にとっても好都合だった。仲間と共にクラッシャーに狙いを定め、敵の腱を断つ和弥。
    「貴様らに守りの要は崩させたりしねぇ!」
     荒々しさもあらわに、憤りをぶつける朔夜。物質の枷を外された刃が、アンデッドの空虚な魂を貫く。
     クラッシャーを狙う仲間の邪魔はさせまいと、タシュラフェルが射手の射線に割り込む。真紅の十字架を刻み込まれ、その思考回路をかき乱す。
    「ふふ……乱れちゃいなさい♪」
     そんな妖艶なタシュラフェルの微笑も、認識できているかどうか。
     そして、海砂斗がダイダロスベルトで仲間の傷を塞ぐ頃には、クラッシャーも倒れていた。
     いよいよ射手2体のみとなった戦場において、海砂斗同様メロディを奏でるのは、ルイセである。
     敵の射撃武器が自衛隊のそれに偽装された現実的なものであるのに対し、ルイセのそれは、メロンの意匠のギターだ。自衛隊仕込みの知識でも、そうした攻撃への対処法は知るまい。
    「後ろだ!」
     供助の声に振り返り、テンション高めでギターをかき鳴らすと、ルイセが音波を叩き込む。悲鳴も上げず、倒れるスナイパー。
     残るは1人。だが、その行動選択に、撤退の2文字はないようだった。
     ヘイズが一旦刀を収めると、迅雷の動作で抜き放った。
    「これで決める、禍津一閃!」
     その剣閃を捉える事もかなわず、射手の首は、体に別れを告げていた。
    「ふむ、流石に戦闘力は高かったな。意外と楽しめた……」
     刀の血を払い、納刀するヘイズ。全てのアンデッドが灼滅され、サウンドシャッターが防ぐべき音もやむ。
     仇は討った、と落命した隊員達に黙祷を捧げる海砂斗のかたわら、双調が決意を新たにする。
    「皆様の志は、私達が受け継ぎます」
     それから、手短に周囲の片付けを行う和弥。
    「さあ、長居は無用だ、急ごう」
    「うん、わかった。今行くよ」
     供助が、隊員の服装などの情報をチェックしていたルイセを促し、寮を後にする。潜入時とは反対に、後発組の和弥達が先行だ。
     監視システムを復旧させ、朔夜達も速やかに施設を出る。
    「それにしてもノーライフキングたち、一体何する気だったんだろー、ね……」
     無事脱出を終えたことで、緊張が解けたせいか、海砂斗を眠気が襲う。
    「もう中2なんだから、夜更かしくらいなんともない、んだけどさ……」
     だが、見ればタシュラフェルも、気だるげを越えてもはや眠たげである。
     いずれにせよ、ノーライフキングの策の1つを潰す事はできた。
     しかし、気を抜く事はできぬ。敵の策略が、これだけで終わるはずはないのだ……。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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